大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 平成14年(ワ)182号 判決 2004年3月30日

主文

1  被告A,同B及び同Cは,原告に対し,各自1億円及びこれに対する平成14年11月6日から(ただし,被告Cについては同月3日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,原告に生じた費用の5分の4と被告A,同B及び同Cに生じた費用を同被告らの負担とし,その余を原告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告らは,原告に対し,各自1億円及びこれに対する平成14年11月6日から(ただし,被告C及び同Dについては同月3日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2事案の概要

1  前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告

原告は,地方公共団体であり,河川法9条2項及び10条に基づき県内の河川を管理している。

イ 被告ら

(ア) 被告らは,平成14年1月25日当時いずれも,砕石業,土木建築資材の製造及び販売並びにこれらに附帯する一切の業務を営業の目的とする訴外久本砕石株式会社(以下「久本砕石」という。)の取締役であった。

久本砕石は,昭和49年6月7日に設立され,同月25日付けで鳥取県知事により採石法32条に基づく採石業者としての登録を受け,また,同年7月24日付けで同法33条に基づく岩石採取計画の認可を受け,以降,鳥取県八頭郡a大字bc番地dほかの土地の採石場(以下「本件採石場」という。)において,継続して認可の更新を受けて岩石の採取を行っていた。

久本砕石は,被告らによる同族会社である。

(イ) 被告A(以下「被告A」という。)は,久本砕石の初代代表取締役であり,昭和56年5月以降は取締役となり,平成5年の智頭町長選に当選したため取締役を辞任した。その後,平成9年11月に同町長選に落選したため,再び取締役に就任した。

同被告は久本砕石の最大株主であり,少なくとも智頭町長時代以外の間は同社の実質的経営者である。

(ウ) 被告B(以下「被告B」という。)は,被告Aの長男で,平成3年11月5日から久本砕石の取締役,平成12年11月10日から平成14年1月26日まで同社の代表取締役社長,同月27日からは代表取締役専務である。

(エ) 被告E(以下「被告E」という。)は,被告Aの妻であり,昭和56年8月25日から平成5年8月31日まで久本砕石の代表取締役社長,平成12年11月9日まで代表取締役であり,その後,現在まで取締役である。

(オ) 被告C(以下「被告C」という。)は,昭和60年ころ久本砕石の常務取締役に就任し,平成3年11月5日から平成12年11月9日まで同社の代表取締役社長,同月10日から平成13年8月8日まで代表取締役会長,同月9日から平成14年10月16日まで取締役,同年11月1日から支配人である(弁論の全趣旨)。

(カ) 被告D(以下「被告D」という。)は,被告Aの二男であり,久本砕石の業務管理者であって,平成8年8月2日から同社の取締役である。

(2)  災害防止命令の発令等

ア 本件採石場において,① 昭和60年3月23日,② 平成8年9月27日に大規模な崩落事故が発生し,崩落土砂が一級河川千代川水系千代川(以下「千代川」という。)に流入した。

そして,②の崩落事故に伴い,本件採石場の上部に大規模な滑落崖(以下「本件滑落崖」という。)が確認されたため,鳥取県郡家土木事務所長(以下「土木事務所長」という。)は,久本砕石に対し,平成8年11月13日付けで採石法33条の13第1項に基づく緊急措置命令を行い,岩石採取の停止及び本件滑落崖の土砂撤去を命じた。もっとも,同命令は履行されなかった(弁論の全趣旨)。

イ 平成9年3月31日,久本砕石に対する平成7年3月31日付け岩石採取計画の認可による採取期間が満了したが,久本砕石は,新たな認可を受けないまま,本件採石場における岩石の採取を継続した。

ウ このような状況において,土木事務所長は,久本砕石に対し,平成10年4月14日付けで採石法33条の17に基づく災害防止命令(以下「本件災害防止命令」という。)を発令した。

同命令は,久本砕石に対し,本件滑落崖の土砂を撤去し,土砂の崩落等の災害を防止するため「必要な設備」を施すこと(① ボーリング調査を実施し,② ①の調査の結果を踏まえて必要な設備案を提出し,③ ②の設備案をもとに土木事務所長が通知するところに従って「必要な設備」を施すこと),及び通報連絡体制の整備等を命じている。

エ 久本砕石は,本件災害防止命令を受けて,平成10年7月13日付けで土木事務所長に対し,「設備案施工計画書」等を提出した。

そして,同所長は,久本砕石に対し,同月14日付けで,本件災害防止命令に基づく「必要な設備」については,概ね久本砕石が同月13日付けで提出した「設備案施工計画書」等の内容とする旨の,「災害防止命令に基づく必要な設備について」との通知をした(以下「本件設備通知」という。)。

(3)  岩石採取計画の認可

鳥取県知事は,久本砕石に対し,平成10年7月31日付けで採石法33条に基づく岩石採取計画の認可(以下「本件第1次認可」という。)を行い,その後,平成11年9月30日付け(以下「本件第2次認可」という。)及び平成12年9月29日付け(平成14年9月30日期限のもの。以下「本件第3次認可」といい,本件第1次認可及び本件第2次認可と併せて,以下「本件各認可」ということがある。)で更新の認可を行った。

(4)  崩落事故の発生等

久本砕石は,本件各認可に基づく岩石採取の過程で生じた廃土等(残廃土)を,本件採石場の残廃土たい積処理区域(以下「本件たい積場」という。)にたい積していたが,平成14年1月24日午後9時過ぎころから同月25日午前2時ころまでの間に,本件たい積場において崩落事故が発生し(以下「本件崩落事故」という。),ab地区と同d地区との間で,千代川に崩落土砂が流入して同河川を閉塞した。

そして,同河川の水位は警戒水位を上回り,原告は河川管理者として,河川に流入した崩落土砂を緊急に取り除かなければならなくなった。

(5)  本件崩落事故に対する応急工事等

ア 原告は,上流集落の浸水被害を防ぐための仮応急対策工事として,平成14年1月25日から,仮排水路設置のための崩落土砂掘削並びに仮配水管の設置及び水中ポンプによる排水対策等を実施した。

イ 原告は,復旧対策工事として,平成14年2月末までに,雪解け期に対応した河川断面を確保するための掘削工事を施工した。

ウ 原告は,恒久対策工事として,崩落土砂の撤去及び護岸工事を施工した。

エ 原告は,上記各工事のうち,河川機能の原状を超えて整備,強化する工事,もっぱら将来における河川災害の予防を目的とする工事を除いたものについて,原因者である久本砕石が行うべきであったが,緊急措置として河川管理者である原告が行ったものであるとして,河川法67条に基づき,久本砕石に対し,崩落土砂撤去費用として最終的に合計9億1179万4940円の費用負担を命じた。

(6)  本件採石場の位置関係等

本件採石場,本件滑落崖(上部滑落崖)及び本件たい積場(残廃土堆積処理区域)の位置関係は,別紙1のとおりである(乙9の5頁)。

2  原告の請求

原告は,本件崩落事故の原因は,久本砕石が本件各認可に係る採取計画によって定められた方法によらずに残廃土をたい積したことにあるところ,被告らにはこの点について悪意または重過失による任務懈怠があると主張して,商法266条の3第1項の損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,各自上記崩落土砂撤去費用9億1179万4940円のうち1億円及びこれに対する本訴状送達日の翌日(被告A,同B及び同Eについては平成14年11月6日,同C及び同Dについては同月3日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

3  争点

(1)  久本砕石は,本件各認可に係る採取計画に定められた方法に従わずに残廃土をたい積したか(争点(1))

(2)  (1)が認められた場合,これと本件崩落事故との間に因果関係があるか(争点(2))

(3)  本件崩落事故によって原告に損害が生じたか(争点(3))

(4)  被告らは商法266条の3第1項の損害賠償義務を負うか(争点(4))

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(久本砕石は,本件各認可に係る採取計画に定められた方法に従わずに残廃土をたい積したか)について

【原告の主張】

ア 一般的に,サンドイッチ工法は,盛土材と排水層を交互に盛り立て,圧密促進及び強度増加を図り盛土構造物として早期に有効利用する方法であり,盛土内の間隙水は,盛土の自重圧密によって排水層に集められ,端部より外部に排水されるというものである。この工法により,盛土の強度を保持するとともに,盛土全体の重量を軽減する効用がある。

本件各認可に係る採取計画においては,採石法33条の2,同法施行規則8条の14第3号所定の「廃土または廃石のたい積の方法」として,① 採取した岩石を砕石化する際に発生する脱水ケーキについて,25tf/m2の強度(粘着力)を有する第3種改良土に改良すること,及び,② 残廃土を本件たい積場にたい積するに際し,第3種改良土(盛土材)4メートル,砕石の材料にできない表土(排水層)1メートルを交互に堆積するサンドイッチ工法を施工すること(以下,①及び②を合わせて,「サンドイッチ工法等」という。)が定められた。

イ 被告らは,平成10年9月25日及び10月18日に本件採石場において発生した土砂崩落事故により,① 本件採石場の設備が被災して第3種改良土の生産が客観的に不可能となったこと,② 崩落土砂による災害復旧と二次災害の防止が最優先課題となったこと等により,本件第2次認可以降,採取計画においてサンドイッチ工法は採用されないこととなったと主張する。

しかしながら,① 遅くとも平成11年4月には第3種改良土の生産は可能になったものであり,また,② 崩落土砂による災害復旧と二次災害の防止とはサンドイッチ工法を施工することとは矛盾しないのであるから,被告の主張は失当である。

ウ なお,本件第1次認可は,同認可申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄記載のたい積方法について認可しているが,同欄にはサンドイッチ工法等を示す「別紙,斜面の安定計算書を参照」との記載があり,本件第1次認可に係る採取計画において,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められたことは明らかである。

これに対し,本件第2次認可及び第3次認可に係る各認可申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄には,「別紙,斜面の安定計算書を参照」との記載がない。

しかしながら,① 両認可における各認可書には,認可条件のほか「(認可)申請書のとおり」と記載され,② 各認可申請書においては,「(本件)災害防止命令により決定された土砂崩落等の災害を防止するために必要な設備を履行するため」等の記載がされているところ,③ 「必要な設備」とは,本件設備通知によって承認された「設備案施工計画書」等の内容を指し,かつ,④ サンドイッチ工法等は「設備案施工計画書」等に含まれているのであるから,本件第2次認可及び本件第3次認可においても,「廃土または廃石のたい積の方法」としてサンドイッチ工法等が採用されたことは明らかである。

エ このように,本件各認可に係る採取計画においてサンドイッチ工法等が定められていたにもかかわらず,実際にはサンドイッチ工法は施工されず,また,本件崩落事故後に実施された土質試験結果によれば,第3種改良土の強度(粘着力)も1.5~5tf/m2に過ぎないのであって,久本砕石は,本件各認可に係る採取計画に定められた方法によらずに残廃土をたい積したものである。

【被告らの主張】

ア 本件第1次認可に係る採取計画においては,「廃土または廃石のたい積の方法」としてサンドイッチ工法が定められたことは認めるが,原告のその余の主張は否認ないし争う。

(ア) たしかに,本件第1次認可に係る認可申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」の欄には,サンドイッチ工法を示す「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされており,採取計画においてサンドイッチ工法が定められていた。そこで,久本砕石は,本件第1次認可の後,サンドイッチ工法の遵守に努めていたものである。

(イ) しかしながら,平成10年9月25日及び10月18日の台風(不可抗力)による土砂崩落事故によって,① 本件採石場の設備が被災して第3種改良土の生産が客観的に不可能となり,また,② 約3万立方メートルの土砂が本件たい積場の最奥部の区域に堆積して,これを撤去して災害復旧すること(なお,仮に第3種改良土の生産が可能であったとしても,この撤去土砂(表土)の量は莫大であるため,サンドイッチ工法における1対4のたい積比率は損なわれることになる。),及び,本件たい積場の上部から引き続き土砂崩落することによる二次災害を防止すること(そのためには臨機応変の処置が必要となり,サンドイッチ工法は極めて非現実的である。)が最優先課題となった。

(ウ) このような状況において,久本砕石側と県側の綿密な検討及び指導により,本件第2次認可以降,サンドイッチ工法は採用されないこととなった。

そこで,久本砕石は,本件第2次認可に係る認可申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄において,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載を意識的に削除し(もとより,同認可申請書に斜面の安定計算書は添付されていない。)原告もこのとおりに採取計画を認可したものである。

したがって,本件第2次認可及び第3次認可に係る採取計画においてサンドイッチ工法は定められていないのであり,本件第2次認可以降,久本砕石がサンドイッチ工法を施工していないことについては,原告も月1回程度の事実上の立入検査(調査)で認識していたものである。

なお,発生土利用基準によれば,第3種改良土の土地造成における〔評価〕は「そのままで使用可能なもの」,〔付帯条件〕は「十分な施工を行えば,そのままで使用できるもの」となっており,また,本件滑落崖の土砂(表土)は第3a種発生土として,第3種改良土に優るとも劣らない強度を有するものであるから,もともとサンドイッチ工法は不必要な工法であった。

(エ) この点,原告は,サンドイッチ工法を施工することは本件災害防止命令において実施すべき「必要な設備」に含まれ,かつ,本件各認可は「必要な設備」を履行するためのものであるなどとして,本件第2次認可及び第3次認可に係る採取計画においても,サンドイッチ工法を施工することが定められたと主張する。

しかしながら,そもそも,本件災害防止命令は,本件滑落崖の土砂を撤去し,同土砂の崩落等の災害を防止することのみを目的としているものであるから,本件たい積場における「廃土または廃石のたい積の方法」は同目的以外の事項であって,「必要な設備」に包含されるべき事項ではない(すなわち,本件必要な設備案の「廃土又は廃石の堆積方法」に関する記載はいわゆる余事記載である。)。したがって,原告はこのような事項に関する記載に拘束されるものではない。

また,認可の内容が従来の対策・設備と齟齬するときは,本件災害防止命令の内容は,当然に新たな認可の内容に変更されるものであるから,本件第2次認可申請に係る申請書において「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載を削除したことにより,従前の「必要な設備」の内容は変更されたと解すべきである。

イ このように,本件第2次認可及び第3次認可においては,そもそもサンドイッチ工法を施工することは採取計画で定められていないのであるから,本件第2次認可以降,久本砕石がサンドイッチ工法を施工しなかったことをもって,採取計画によって定められた方法によらずに残廃土をたい積したことにはならない。

また,原告は,本件崩落後に実施された土質試験結果によれば第3種改良土の強度(粘着力)は1.5~5tf/m2に過ぎないと主張するが,同試験は,本件第1次認可がされた平成10年7月以前の残廃土のたい積層(以下「旧たい積層」という。),及び,本件崩落事故後の乱された現場から採取した土砂に対する成分分析,石灰含有試験及び土質調査結果に基づき推定されたものであり,平成10年7月以降の残廃土のたい積層(以下「新たい積層」という。)の強度を判定する方法としては不適切である。

なお,盛土の強度(粘着力)については,年3回以上ポーターブルコーン貫入試験を実施して確認していた。

(2)  争点(2)((1)が認められた場合,これと本件崩落事故との間に因果関係があるか)について

【原告の主張】

ア 本件のサンドイッチ工法においては,新たい積層について,第3種改良土4メートルと表土1メートルを交互にたい積させて,盛土内の間隙水を表土層に集めて盛土の端部から排水し,もって盛土の強度を保持するとともに,盛土全体の重量を軽減して,本件第1次認可以前の旧たい積層を含め,盛土全体の安定を図ることを目的としていた。

しかし,久本砕石は,サンドイッチ工法を施工せず,漫然と20メートル以上残廃土をたい積し,その結果,本件たい積場内の盛土については排水性が悪く,雨水の浸透や周辺からの地下水の流入によって地下水位が上昇しやすい状況にあり,新たい積層のみならず旧たい積層の土中にも雨水等が浸透し,地下水位が上昇した。

そして,盛土内の間隙水圧が上昇し,盛土の先端部分にある土堤にかかる圧力が増大した。

イ また,新たい積層の第3種改良土の強度(粘着力)が不足したことにより,旧たい積層にかかる圧力が増大するなどし,その結果,土堤にかかる圧力が増大した。

ウ これらの原因により,盛土の法先が崩壊し,本件崩落事故が発生したものである。

【被告らの主張】

ア 本件崩落事故は,新たい積層が表面から順次崩落してそれが旧たい積層に移行したものではなく,① 旧たい積層に接していた土堤が,盛土の重量を支えきることができなくなったために崩壊し,その結果,② 土堤に支えられていた旧たい積層,③ 旧たい積層に支えられていた新たい積層の順に瞬時に崩壊した,いわゆる底抜け事故である。

このように,先に旧たい積層が崩壊した結果として新たい積層が崩壊したものであるから,新たい積層においてサンドイッチ工法を施工していたかどうかと本件崩落事故とは無関係であり,また,盛土の強度(粘着力)はその重量に何ら影響するものではないから,サンドイッチ工法の不施工及び盛土の強度不足が本件崩落事故と因果関係があるとの原告の主張は失当である。

イ 本件たい積場における本件崩落事故時の残廃土たい積量は,本件第2次認可時の計画の69パーセントであり,計画どおりに残廃土をたい積すれば,早晩崩落事故が発生することは必至だったのであるから,サンドイッチ工法の不施工と本件崩落事故との間に因果関係はない。

ウ 本件崩落事故は,当初の計画で崩落が想定されていた方向とは別の方向に生じたものであり,本件で崩落が生じた方向については,土堤による盛土を支える能力が十分であることを当然の前提として本件各認可をしたものであるから,本件の崩落事故については予見可能性がなく,久本砕石による残廃土のたい積と本件崩落事故との間には因果関係がない。

エ また,地下水位の上昇に伴う間隙水圧は,地盤の低い排水方向に作用するのが自然であり,本件の崩落方向に作用することは物理的にも考えられないから,サンドイッチ工法の不施工と本件崩落事故との間に因果関係はない。

オ 千代川の河川管理者側である原告は,河川への隣接地からの土砂の流入とこれによる溢水を防止する義務を負うのであるから,久本砕石側の土堤の崩壊の危険性等に常時注意し,いささかでも崩壊の危険性が予見できるのであれば,治水の専門的見地から必要にして十分な対策を講じるべきであったにもかかわらず,なんら危険はないものとして漫然現状を放置していたものである。

このように,管理者側ですら予見できなかった結果を河川隣接地の所有者である久本砕石側に帰責させるべきではない。

(3)  争点(3)(本件崩落事故によって原告に損害が生じたか)について

【原告の主張】

前記前提事実(第2の1)のとおり,原告がこれまでに崩落土砂撤去等のために要した費用は9億1179万4940円であり,これには,本件事故により損傷された河川機能を現状を越えて整備強化するもの,及び,専ら将来における河川災害の予防を目的とするものは含まれていない。

そして,久本砕石がこれを負担しない場合,原告は同費用の最終的な負担者であるから,原告は,本件崩落事故によって同額の損害を受けたといえる。

【被告らの主張】

原告が,本件崩落事故による崩落土砂撤去費用として1億円以上の費用を支出したことは認めるが,原告は同費用の最終的な負担者ではなく,これを原告の損害とすることについては争う。

(4)  争点(4)(被告らは商法266条の3第1項の損害賠償義務を負うか)について

【原告の主張】

ア サンドイッチ工法に関する悪意・重過失に基づく任務懈怠等

(ア) ① 被告Cは,昭和60年ころから現在に至るまで,久本砕石の取締役であり,うち平成3年11月5日以降同14年1月26日までは代表取締役であり,自らサンドイッチ工法を内容とする「設備案施工計画書」等を提出するなどした者,② 被告Bは,本件採石場において,実際に久本砕石の採石業務を担当していた者であり,また,平成3年11月5日以降現在に至るまで久本砕石の取締役であり,平成12年11月10日から本件崩落事故を通じ,代表取締役として,本件採石場の管理に当たっていた者,③ 被告Aは,久本砕石の初代代表取締役等を務め,同社の最大株主で実質的経営者であり,平成9年11月以降本件崩落事故を通じ,取締役であった者,④ 被告Eは,昭和56年から平成12年11月まで久本砕石の代表取締役として砕石業に関与した者,⑤ 被告Dは,平成8年8月2日から久本砕石の取締役であり,業務管理者及び工場長として実際の業務に携わっていた者である。

(イ) このように,被告らは,本件設備通知を当然に知った上で,サンドイッチ工法を施工し,または同工法が施工されるよう監視すべき義務にあったにもかかわらずこれを怠り,漫然と残廃土をたい積し,あるいはたい積するにまかせたものであって,これは被告らの悪意または重過失に基づく任務懈怠というべきである。

(ウ) そして,この任務懈怠と本件崩落事故との間には因果関係がある。

イ 崩落の防止措置に関する悪意・重過失に基づく任務懈怠

(ア) 平成13年7月6日,本件たい積場に亀裂等の変状が確認され,盛土内部に軟弱な部分があることが想定された。

本件たい積場については将来盛土をさらに高く盛る計画であったことから,原告は,久本砕石に対し,① 書面で修復計画を提出すること,② 当面,安全が確認されるまでこの区域には残廃土をたい積しないこと,③ 将来的な安定性の確保・検証のためのボーリング調査の早期実施,④ 残廃土の場外処分地の早期選定,⑤ 残廃土を有価物として場外に搬出する方法を検討するよう再三指導した。

(イ) しかしながら,被告C及び同Bは,上記の指導内容に対して「検討している。」などと述べるだけで,実施時期を先延ばしにした。

そして,上記①については,久本砕石が平成13年11月30日になってようやく提出した書面では,実施方法は当初伝えたもの(ジオテキスタイルを敷設するもの)とは異なっており,上記②については,久本砕石は,平成14年1月には確認を受けないまま残廃土をたい積しており,上記③ないし⑤については,結局実施されなかった。

なお,その他,本件たい積場における品質管理として,盛土高2メートルごとに1回ポータブルコーン貫入試験を実施しコーン指数を確認することとしていたが,実際には実施した記録がない。

(ウ) これらは,被告らの悪意または重過失に基づく任務懈怠というべきである。

(エ) そして,被告らが適切な措置を執っていれば,本件崩落事故を防止できた可能性がある。

ウ したがって,被告らは,原告に対し,各自商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負う。

【被告らの主張】

原告の主張はいずれも否認ないし争う。

ア サンドイッチ工法の施工は,少なくとも本件第2次認可以降は採取計画に定められておらず,被告らにこの点に関する悪意・重過失はあり得ない。

イ 本件たい積場の亀裂については適切に対処し,崩落の危険性は除去するなどしているから,被告らにこの点に関する悪意・重過失はない。

なお,被告Cは,当時採石場管理を辞して,砕石センター業務に常駐して専従しており,原告主張の指導を受けたことはない。

第3証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第4当裁判所の判断

1  本件崩落事故までの経緯等について

前記前提事実(第2の1)に証拠(甲1,2,甲3の1~3,甲4~15,甲16の1~4,甲18,甲19の1,2,甲20,22,28~31,乙2~11,乙14の2,乙16,証人F,証人G,被告B,被告C)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件崩落事故までの経緯等について,以下の事実が認められる。

(1)  本件滑落崖の確認等

ア 久本砕石は,昭和49年7月24日付けで採石法33条の規定に基づく岩石採取計画の認可を受け,以後,認可の更新を受けて,本件採石場において継続して岩石の採取を行っていた。

イ 平成8年9月27日,本件採石場において崩落事故が発生したが,その際,同採石場の上部に大規模な滑落崖(本件滑落崖)が確認されたため,土木事務所長は,久本砕石に対し,同年11月13日付けで,同法33条の13第1項に基づき緊急措置命令を発令して,本件採石場における岩石採取の停止及び本件滑落崖の土砂撤去を命じ,以降,防災対策の実施を指導してきた。

しかしながら,本件滑落崖からの土砂撤去は履行されなかった。

ウ 他方,平成9年3月31日,久本砕石に対する平成7年3月31日付け岩石採取計画の認可による採取期間が満了したが,久本砕石は,同法33条に基づく新たな岩石採取計画の認可の申請をしないまま,本件採石場における岩石の採取を継続した。

(2)  本件滑落崖からの土砂撤去の検討等

ア 平成10年3月31日ころ,原告の当時土木部河川課の担当者であったF(以下「F」という。)らは,久本砕石に対し,本件滑落崖から土砂を撤去する方法として,岩石採取計画の認可によって行う方法を打診した(被告C調書305項)。

すなわち,本件滑落崖における土砂は,雨等によって水分を含んでいる状態であるから,これを撤去するに当たっては,乾燥させて土砂のまま場外搬出するのではなく,土砂を砕石として製品化する方法による方が,撤去した土砂をより多く場外に搬出することができ,便宜である(乙9の10頁)。

具体的には,概ね,① 撤去した土砂を水洗いして土と石を選別し,② 石についてはクラッシャー(砕石機)にかけて規格品の大きさに砕石して(製品化して)場外に搬出し,③ この過程で生じた廃土(水と土の混ざったもの)については脱水して粘土状にするなどした上(この粘土状のものを「脱水ケーキ」という。),残廃土たい積場にたい積する方法による。

そして,撤去した土砂を砕石として製品化する場合は,岩石採取計画の認可が必要となる(乙9の9頁)。

イ ところで,脱水ケーキは産業廃棄物であるため,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に抵触しないように適正な処分あるいは再利用を図らない限り,採石法上,岩石採取計画を認可することはできない。

そこで,平成10年4月6日以降,被告C及び同Bに対し,本件滑落崖に関する防災対策の指導と並行して,脱水ケーキの処理方法に関する具体的な指導が行われた。

(3)  本件災害防止命令等

ア 他方,河川課の担当者は,① 防災対策の実施が本件採石場の全体に及び,また,防災対策の工法検討のためにボーリング調査等の実施が必要であると判断し(乙9の3頁),さらに,② 前記のように,久本砕石の岩石採取計画の認可による採取期間が平成9年3月31日に満了していることから,久本砕石について,本件採石場における岩石の採取を廃止したものに当たると判断した。

そこで,平成10年4月14日,土木事務所長は,久本砕石(代表者・被告C)に対し,採石法33条の17に基づき,本件災害防止命令を発令して防災計画を検討させることとした。

イ 本件災害防止命令の内容は,概ね,以下のとおりである(甲6)。

(ア) 崩落防止のための設備

本件滑落崖の土砂を撤去し,土砂の崩落等の災害を防止するための「必要な設備」を施すこと。

なお,「必要な設備」を施すことについては,次のとおりとする。

① ボーリング調査の実施

② 必要な設備案の提出

①のボーリング調査の結果を踏まえ,土砂の崩落のメカニズムを解明,危険度を明らかにした上で,必要な設備案を郡家土木事務所へ提出すること。

③ 必要な設備

②により提出された必要な設備案をもとに,施すべき「必要な設備」を土木事務所長が通知する。

(イ) 「必要な設備」を通知するまでの防災対策

① 作業道の整備の促進

② 崩落土砂の撤去

③ 採石場上部滑落崖の土砂の撤去

④ その他の防災対策

(ウ) その他通報連絡体制の整備

ウ そして,前記(2)の経緯により,本件災害防止命令については,当初から岩石採取計画を認可し,これを実施することによって,命令を履行することが前提とされていた(被告C調書243項)。

エ 久本砕石(代表者・C)は,イの「必要な設備」を通知するまでの防災対策を履行するため,鳥取県知事に対し,平成10年4月16日付けで岩石採取計画認可の申請をし(乙2),これに対し,鳥取県知事は,同月20日付けで,岩石採取の期間を同日から同年7月21日までとして,認可した(乙3)。

この時の認可においては,採取計画中の「廃土又は廃石のたい積の方法」について,水平層状堆積法を実施することとされ,また,岩石採取の過程で発生する脱水ケーキについては,具体的な処理方法が確定するまでの間,本件採石場内に仮置きし,処理方法が確定した段階で順次処理することとされた。

(4)  残廃土のたい積方法についての指導内容等

ア 脱水ケーキの処理方法についての指導を受け,被告C及び同Bは,廃棄物処理法によって要請される脱水ケーキの処分あるいは再利用について,脱水ケーキを土質改良した後再利用して本件たい積場に盛土した上で植林し,岩石採取残壁を林地に復元するとの構想を示した。

イ この構想をもとに,さらに被告Cと同Bに対し,具体的な汚泥再利用計画を策定するよう指導が始められ,Fが作成した「採石場汚泥再利用技術マニュアル(案)」(甲28)に基づき,特に,① 具体的な造成計画の樹立,② 当該造成計画に合致した強度にするための土質改良方法の検討,③ サンドイッチ工法などの施工上の工夫の明示,の3点を中心として指導がされた。

なお,サンドイッチ工法とは,脱水ケーキの土質を改良したもの(改良土)を盛土材として適用し,表土等による排水層と交互に盛り立てることにより,地下水や雨水によって盛土内に生じる過剰な水分(間隙水)を盛土の自重圧密によって排水層に集め,これを盛土の端部から外部に排水して地下水位の低下を促進し,もって盛土の重量を軽減すること,及び,土の強度(粘着力)を高めることを目的にするものである(甲13,14,証人F調書28項以下)。

ウ また,本件たい積場においては,最終的に30メートル以上の盛土が予想されていた(甲19の1,乙14の2,証人F調書15項,被告C調書64項)が,採石技術指導基準により,地盤面からその直上のたい積面までのたい積物の鉛直高の最大値が10メートルを超える場合については,たい積場の安定計算等をすることとされている(甲29)。

そして,土質力学上,安定計算における最小安全率(Fs)は,地震時で1.0以上,通常時で1.2以上であることが要請され(甲15の6丁,証人F調書43項),これを下回るような場合は盛土の法先が円弧状に地滑りを起こして崩壊する(甲15の3丁)危険性があるため,認可行政上も上記の数値を満足することを要求している。

そこで,Fらは,被告C及び同Bに対し,盛土の安定計算を行うよう指導した(証人F調書14項以下)が,具体的には,最低限の目標値である上記の数値を達成するため,① サンドイッチ工法の施工による間隙水圧の消滅,及び,② 地滑りが想定される面に沿って土同士の抵抗力を維持するため,脱水ケーキの土質を改良した第3種改良土の強度(粘着力)を25tf/m2とすることの指導がされた(証人F調書28項以下,43項以下,52項)。

(5)  「設備案施工計画書」等の提出等

ア 久本砕石(代表者・被告C)は,平成10年7月13日,① 本件採石場内に土質改良機械を設置し,セメント系固化材ジオライトを脱水ケーキに対して1パーセント混合して,第3種改良土を目標強度である25tf/m2に土質改良すること,② 採石場内で発生する砕石の材料にできない表土を利用し,第3種改良土4メートルに対して表土1メートルの高さの排水層を造成するサンドイッチ工法を内容とした,汚泥再利用実施計画書を原告に提出した。なお,盛土の法面の安定計算については,最小安全率(Fs)が常時1.41,地震時1.15と計算されていた(乙10)。

同月23日,鳥取県土木部長は,汚泥再利用実施計画書のとおり承認した(乙5)。

イ 他方,久本砕石(代表者・被告C)は,本件災害防止命令に基づき,ボーリング調査を実施した上,平成10年7月13日,土木事務所長に対し,「災害防止命令に基づく必要な設備案について(提出)」との書面(甲8)を,以下の各文書を添付して提出した。

(ア) 設備案施工計画書(甲9)

a 同文書には,「1 岩石採取場の区域」,「2 採取をする岩石の種類及び数量」,「3 採取の期間」,「4 岩石の採取の方法及び岩石の採取のための設備等に関する事項」,「5 岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項」,「6 岩石の賦存の状況」,「7 採取をする岩石の用途」,「8 廃土又は廃石の堆積方法」との欄,及びそれぞれの内容についての記載がある。

このうち,「3 採取の期間」には,平成20年末までの予定と記載されている。

また,「8 廃土又は廃石の堆積方法」には,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。別紙,斜面の安定計算書を参照。」とされているが,この,「斜面の安定計算書」は,後記(ウ)の「残廃土堆積のり面の検討」中の「残廃土堆積安定計算(常時)」等を指している(被告C調書237項)。

b この「設備案施工計画書」には,「岩石採取場の管理,監督計画書」,「採取した岩石の搬出方法及び搬出経路等」,「基本的事項」等の書面が添付されている。

このうち,「基本的事項」には本件採石場の範囲,本件滑落崖からの土砂撤去の作業行程等が記載されている。

(イ) 土工検討書(甲10)

同文書には,改良土4メートルと表土1メートルを交互に積み重ねるサンドイッチ工法を内容とする,残廃土のたい積処理方法等が記載されている。

(ウ) 残廃土堆積のり面の検討(甲11)

a 同文書は,「残廃土堆積安定計算(常時)」や「残廃土堆積安定計算(地震時)」等からなるが,これらには,残廃土のたい積方法について,改良土の強度(粘着力)を25tf/m2とした上,サンドイッチ工法を施工して盛土中の間隙水を排水して消滅させることにより(それゆえ,同書面においては地下水位はないものとして計算されている。),盛土の法先の最小安全率について,通常時を1.34,地震時を1.04と計算したの安定計算が記載されている。

そして,サンドイッチ工法の具体的な施工方法については,旧たい積層の上にまず改良土2メートルをたい積し,その後,表土1メートル,改良土4メートルの順に順次たい積することとして,新たい積層のみならず,旧たい積層とを合わせて,全体としての盛土の安定を図っている。

b なお,上記の各安定計算書においては盛土の法面の先まで排水層が達していないが(甲11の2丁),法面の前面は礫質土を使用して間隙水を排水しやすくする予定であった(証人F調書170項以下,被告C調書108項)。

(エ) 排水計算(甲11の29丁以下)

ウ 鳥取大学副学長らで構成される原告の安全対策検討委員会は,久本砕石が提出したイの各文書を検討した結果,久本砕石のボーリング調査結果等を基に委員会が独自に検討していた防災対策と相違がないことから,これを採用することとした(乙9の3頁)。

そこで,土木事務所長は,久本砕石(代表者・被告C)に対し,平成10年7月14日付けで,要旨「本件災害防止命令第1項の『必要な設備』は,平成10年7月13日付けで久本砕石より提出のあった内容とする。」との本件設備通知をした(甲7)。

なお,「必要な設備」等について,今後計画変更の必要が生じた場合は,速やかに協議することとされた。

(6)  本件第1次認可

ア 久本砕石(代表者・被告C)は,平成10年7月15日付けで,本件災害防止命令に基づく必要な設備を履行するため,岩石採取計画の認可申請(以下「本件第1次認可申請」という。)をした。

イ 同認可申請に係る申請書の記載内容等は,以下のとおりである(乙4)。

(ア) 同申請書には,「(本件)災害防止命令により決定された土砂の崩落等の災害を防止するための必要な設備を履行するため。採石法第33条の規定に基づき,次のとおり採取計画の認可を申請します。」との記載がある。

(イ) また,同申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載内容は前記(5)の「設備案施工計画書」の記載内容と同一であり,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。別紙,斜面の安定計算書を参照。」と記載されている。

そして,この「斜面の安定計算書」とは,サンドイッチ工法等を採用した前記(5)の「残廃土堆積安定計算(常時)」等を指す。

(ウ) なお,同申請書には,「岩石採取場の管理,監督計画書」等の書面が添付されている。

ウ 鳥取県知事は,上記認可申請を受けて,また,前記汚泥再利用計画が承認されたことも踏まえ,平成10年7月31日付けで,採取の期間を同年8月1日から平成11年7月31日までなどとし,いくつかの認可条件を付すなどしたほかは,上記申請書のとおりに岩石採取計画の認可をした(本件第1次認可・乙6)。

なお,本件第1次認可における採取の期間については,後に平成11年9月30日までと変更された(乙7の34丁)。

(7)  本件第2次認可等

ア 本件第1次認可後,脱水ケーキに石灰1パーセントを加えて第3種改良土にした上(甲22,被告C調書145項以下),本件採石場の現場監督者である被告Bの指示により,サンドイッチ工法における改良土の最初の2メートルの部分を本件たい積場にたい積していったが,その途上の平成10年9月25日及び同年10月17日,秋雨前線の降雨によって本件採石場において崩落事故が発生した。

この事故により,第3種改良土を製産する砕石プラントが被災し,サンドイッチ工法の施工は一時実施できなくなったが,平成11年4月,上記砕石プラントは復旧し,遅くとも同年6月以降,改良土のたい積が再開されるようになった。もっとも,本件第2次認可までは,改良土の最初の2メートルの部分以内のたい積に止まり,排水層(表土層)のたい積には至らなかった。

イ 上記崩落事故を受け,土木事務所長と被告Cとの間で本件災害防止命令に基づく「必要な設備」の見直しについて検討され,その中で,「廃土または廃石のたい積の方法」である「表土及び脱水ケーキ処理計画」についても検討された(乙7の13丁,証人F調書185項)。

そして,「表土及び脱水ケーキ処理計画」については「基本的には提出内容のとおり」とされ,サンドイッチ工法を施工することがそのまま確認された(証人F調書186項,被告C調書318項以下)。

ウ 久本砕石(代表者・被告C)は,平成11年9月22日付けで,本件災害防止命令に基づく「必要な設備」を履行するため,岩石採取計画の認可申請をした(以下「本件第2次認可申請」という。)。

同認可申請に係る申請書の記載内容等は,以下のとおりである(乙7)。

(ア) 同申請書には,「(本件)災害防止命令により決定された土砂の崩落等の災害を防止するための必要な設備を履行するため。採石法第33条の規定に基づき,次のとおり採取計画の認可を申請します。」との記載がある。

そして,同申請書には本件設備通知(甲7)の写しが添付されている。

(イ) 同申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載については,「脱水ケーキを第3種改良度に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。」とのみ記載されており,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載はない。

(ウ) 同申請書に添付されている「岩石採取場の管理,監督計画書」中の「業務管理者の現場監督計画」欄には,本件第1次認可申請に係る申請書にはなかった,「災害防止命令に基づく必要な設備の項目を厳守する。」との記載が追加されている。

(エ) また,同申請書には,必要な設備の見直しについての検討結果(上記イ)を記載した,「災害防止命令に基づく必要な設備の見直しについて(解答)」が添付されている。

エ 鳥取県知事は,上記認可申請を受けて,平成11年9月30日付けで,採取の期間を同年10月1日から平成12年9月30日までなどとし,いくつかの認可条件を付すなどしたほかは,申請書のとおりに岩石採取計画の認可をした(本件第2次認可・乙8)。

オ 本件第2次認可後,被告Bは,① 申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」の欄において,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされていないことを理由として,サンドイッチ工法を施工しなくてもよくなったものとし(被告B調書80項),また,② 改良土の強度(粘着力)と表土の強度(粘着力)の数字を比較するなどして,そのままでたい積しても構わないと考えたことから,原告や被告Cらの指示を得ることもないまま,特段の工法を採ることなく,第3種改良土と表土をたい積していった(被告C調書191項以下,被告B調書77項)。

(8)  本件第3次認可

ア 久本砕石(代表者・被告C)は,平成12年7月27日付けで,本件災害防止命令に基づく「必要な設備」を履行するため,岩石採取計画の認可申請をした(以下「本件第3次認可申請」という。)。

イ 同認可申請に係る申請書の記載内容等は,以下のとおりである(甲5)。

(ア) 同申請書には,「(本件)災害防止命令により決定された土砂の崩落等の災害を防止するための必要な設備を履行するため。採石法第33条の規定に基づき,次のとおり採取計画の認可を申請します。」との記載がある。

そして,同申請書には,本件設備通知(甲7)の写しが添付されている。

(イ) 同申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載については,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土処理地へ盛り土を行い処理する。」との記載のみがあり,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載はない。

(ウ) 同申請書に添付されている「岩石採取場の管理,監督計画書」中の「業務管理者の現場監督計画」欄には,本件第2次認可申請に係る申請書と同じく,「災害防止命令に基づく必要な設備の項目を厳守する。」との記載がある。

ウ 鳥取県知事は,上記認可申請を受けて,平成12年9月29日付けで,採取の期間を同年10月1日から平成14年9月30日までなどとし,いくつかの認可条件を付すなどしたほかは,申請書のとおりに認可をした(本件第3次認可・甲4)。

(9)  本件崩落事故の発生及びその状況等

ア 平成13年7月6日,本件たい積場に亀裂等の変状があることが確認され,以後,久本砕石は同たい積場にほとんど残廃土をたい積していない(甲19の1,2,甲20,弁論の全趣旨)。

イ 平成14年1月24日午後9時過ぎころから同月25日午前2時ころまでの間に,本件崩落事故が発生した。

ウ 平成10年7月ころの時点における盛土の形状は,別紙2の青色の線であり,盛土の天端の高さは,標高約190メートルであった(別紙2の「DL]は標高を示す。),また,本件崩落事故以前の地形は,別紙2の「崩壊前地形」のとおりであり,平成10年7月ころの時点より,最大で約20メートルの盛土が施工されていた(甲2の1頁,甲12,証人G調書138項)。

そして,本件崩落事故後の地形は,別紙2の「崩壊後地形」のとおりである(甲12)。すなわち,本件崩落事故前,別紙2の「泥質片岩(基盤岩)」上には礫質土がたい積していたものであるが,本件では,盛土とともに,この礫質土部分が崩落したものである(甲30,証人F調書178項,被告C調書244項。なお,この泥質片岩と礫質土では,強度に大きな違いがある(証人G調書144項)。)。

2  本件たい積場にたい積された第3種改良土の強度(粘着力)について

(1)  福山大学工学部教授Hらで構成される原告のb採石場土砂崩落事故調査委員会は,本件崩落事故後に行った調査により,本件たい積場の盛土の一軸圧縮強さ(qu)が30~100kN/m2であったことから,本件たい積場にたい積された第3種改良土の強度(粘着力・c)について,1.5~5tf/m2と判定した(甲1,甲2の11頁,20頁)。

〔c=qu/2=15~50kN/m2=1.5~5tf/m2〕

この数値については,脱水ケーキを改良するために生石灰1パーセントを加えるという方法では,1.4tf/m2の強度(粘着力)しか得られないという室内配合試験の結果(甲2の17頁)に照らしても妥当である。

(2)  この判定に対し,被告らは,上記調査は,本件第1次認可前である旧たい積層及び崩落事故後の乱された現場から採取した土砂を用いてされたものであり,本件第1次認可後にたい積された新たい積層についての第3種改良土の強度(粘着力)の判定方法としては不適切であると主張するが,上記判定が被告ら主張のような方法によってなされたことを認めるに足りる証拠はない。

なお,本件たい積場において本件崩落事故後に実施されたボーリング調査(別紙2の「B-1」ないし「B-4」)によれば,盛土内の粘性土の強度等から,崩壊後の地表面から深さ5ないし10メートルの間の面(別紙2の赤線「想定すべり面」)上において,土砂の滑落が生じたと認められる(甲2の8頁,11頁,19頁,22~24頁参照。)。

そうすると,別紙2の赤線より下であり,かつ青線より上の中間の部分は,新たい積層の部分であり,かつ,想定すべり面より下位の本件崩落事故により乱されていない部分であるといえる。

そして,B-4のボーリングの深さは37メートルであるから(甲2の24頁),少なくともB-4の深度約10メートル及び約15メートルの地点は上記中間の部分に含まれるところ,これらの地点の盛土の一軸圧縮強さ(qu)は約40~90kN/m2であると認められ(甲2の11頁),その強度(粘着力・c)は,qu/2=20~45kN/m2=2~4.5tf/m2となる。

したがって,この数値に照らしても,上記判定の結果が不正確であるとはいえない。

(3)  なお,被告らは,盛土の強度(粘着力)については,年3回以上ポータブルコーン貫入試験を実施して確認していたと主張するが,これを認めるに足る証拠はない。

(4)  以上によれば,本件たい積場にたい積された第3種改良土の強度(粘着力)については,1.5~5tf/m2の範囲内であったと認めるのが相当である。

3  争点(1)(久本砕石は,本件各認可に係る採取計画に定められた方法に従わずに残廃土をたい積したか)について

(1)  採石業者が岩石の採取を行おうとするときは,当該岩石の採取を行う場所(以下「岩石採取場」という。)ごとに採取計画を定め,当該岩石採取場の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受けなければならない(採石法33条)。

そして,採取計画に定めるべき事項は,① 岩石採取場の区域,② 採取をする岩石の種類及び数量並びにその採取の期間,③ 岩石の採取の方法及び岩石の採取のための設備その他の施設に関する事項,④ 岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項,⑤ 岩石の賦存の状況,⑥ 採取をする岩石の用途,⑦ 廃土または廃石のたい積の方法である(採石法33条の2第5号,同法施行規則8条の14)。

なお,採石法33条の認可を受けた砕石業者は,当該認可に係る採取計画に従って岩石の採取を行わなければならない(採石法33条の8)。

(2)  本件では,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められていたかが問題となるが,まず,本件第1次認可の採取計画において,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法が定められたことについては当事者間に争いがない。

そして,上記認可申請に係る申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄記載の「斜面の安定計算書」については,前記認定(1(6)イ(イ))のとおり,「残廃土堆積のり面の検討」中の「残廃土堆積安定計算(常時)」等を指すものであるが,これには,サンドイッチ工法を施工することのほか,第3種改良土の強度を25tf/m2とすることが定められている。

この点,被告らは,「残廃土堆積のり面の検討」は,盛土構造を決めるための標準的な参照資料であって,認可行政上要求される「廃土または廃石のたい積の方法」を記載したものではないと主張するが,上記申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載上,被告ら主張のように解することはできない。

したがって,第3種改良土の強度を25tf/m2とすることについても,本件第1次認可の採取計画として定められたことが認められる。

(3)  次に,本件第2次認可及び第3次認可に係る「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められていたかについて検討する。

ア この点,本件第2次認可申請及び第3次認可申請に係る各申請書の本体部分の「廃土又は廃石の堆積方法」欄には,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。」との記載があるが,本件第1次認可申請に係る申請書とは異なり,サンドイッチ工法等の具体的内容を示す「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされていない。

(ア) しかしながら,本件第2次認可申請及び第3次認可申請の前後の経緯を見ても,サンドイッチ工法等と異なるたい積方法が定められた形跡は窺えず,上記の記載がないことのみによって,サンドイッチ工法等とは別個の具体的なたい積方法が定められたと解することはできない。

被告らは,本件第2次認可以降は,採石技術指導基準に準拠して堆積したと主張するが,これを認めるに足りる証拠はないし,同基準に準拠しさえすれば,認可の対象となる「廃土または廃石のたい積の方法」について定めなくてもよいということにはならない。

(イ) また,本件第2次認可及び第3次認可において,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がないことのみをもって「廃土または廃石のたい積の方法」について,何ら具体的に定められないまま認可がされたと解することもできない。

すなわち,本件第2次認可及び第3次認可において認可された各申請書には,① (本件災害防止命令に基づく)「必要な設備」を履行するため採取計画の認可を申請する旨の記載があり,また,② 「必要な設備」については久本砕石が平成10年7月13日付けで提出した「設備案施工計画書」等の内容とする旨の本件設備通知が添付されている。そして,③ 久本砕石が同日付けで提出した「設備案施工計画書」等は,まさに岩石採取計画の認可に際して要求される事項等を内容としており(前記1(5)イ),その中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄には,サンドイッチ工法等を表す「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされているのである。

そうすると,両認可申請に関しては,各申請書,申請書の添付書類である本件設備通知,そして,本件設備通知が引用している「設備案施工計画書」等とを一体としてみる必要があるというべきであり,これにより,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められたと合理的に解することができる。

しかも,前記認定(1(7)ウ(ウ)等)のとおり,本件第2次認可申請以降は,申請書の本体部分添付の「岩石採取場の管理,監督計画書」において,「災害防止命令に基づく必要な設備を厳守する。」との文言が追加して記載されるようになっており,「必要な設備」を遵守する姿勢がより明らかになっているともいえる。

イ このように,本件第2次認可及び第3次認可に係る採取計画の内容についてもサンドイッチ工法等が定められたと認められ,これに反する被告らの主張は,以下のとおり採用できない。

(ア) 被告らは,本件災害防止命令は,本件滑落崖の土砂を撤去し,同土砂の崩落等の災害を防止することのみを目的としているものであるから,本件堆積場における「廃土または廃石のたい積の方法」は同目的以外の事項であって,もともと本件「必要な設備」に包含される事項ではない(したがって,「設備案施工計画書」における「廃土又は廃石の堆積方法」に関する記載は,余事記載であり,久本砕石によるたい積方法を拘束・規制する法的効力を有するものではない。)と主張し,被告Cは,「設備案施工計画書」中の添付書面である「基本的事項」のみが「必要な設備」に該当すると供述する(被告C調書232項)。

しかしながら,久本砕石は,「災害防止命令に基づく必要な設備案について(提出)」との書面に添付して,「設備案施工計画書」等を提出したものであるから,「設備案施工計画書」等の全体が「必要な設備」に該当すると考えるのが自然である。

また,前記認定(1(3)ア,ウ)のように,本件災害防止命令は本件採石場全体の防災計画に関するのであり,さらに,同命令については,当初から岩石採取計画の認可を手段として履行することが前提とされていたのであるから,岩石採取の過程で不可避的に生ずる廃土等を,本件採石場内の残廃土たい積場にどのようにたい積するかについても,本件「必要な設備」に包含されると解することは何ら不合理ではない。

のみならず,前記認定(1(7)イ)のように,本件第2次認可に先立って,被告Cと土木事務所長は「必要な設備」の見直しの検討の中で,表土及び脱水ケーキ処理計画すなわち「廃土または廃石のたい積方法」についても検討しており,両者ともに「廃土または廃石のたい積の方法」が「必要な設備」に含まれるとの認識を有していたことは明らかである(被告Cは,当時は全体の防災計画を指す際に「必要な設備」と誤用していた旨供述するが(被告C調書310項),本件災害防止命令は本件採石場全体の防災計画に関するものであるから,防災計画を指す際に「必要な設備」と称することが,必ずしも誤用とはいえない。)。

したがって,被告らの主張は採用できない。

なお,被告らは,本件各認可は,本件災害防止命令の履行も含めた一般的認可であるから,本件災害防止命令と本件各認可とは必ずしも結びつくものではない旨の主張もするが(平成15年2月14日付準備書面2頁),本件各認可申請に係る申請書自体に「(本件)災害防止命令に基づく必要な設備を履行するため」と記載されていることからして,採用できない。

(イ) 被告らは,① 平成10年9月25日及び同年10月18日の崩落事故によって,第3種改良土の生産が不可能となったことや,災害の復旧と二次災害の防止が優先されることになどにより,サンドイッチ工法が不可能になったことを受けて,② 原告との間の事前検討及び指導によって,本件第2次認可以降サンドイッチ工法は採用されないこととなり,それゆえ,③ 本件第2次認可申請に係る認可申請書においては「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載を意識的に削除し,このとおり認可されたのであるから,サンドイッチ工法は採取計画の内容にはなっていないし,④ 本件第2次認可後にサンドイッチ工法を施工していないことは,原告側も本件採石場の監視をしており,当然のこととしてこれを知悉していたものであるなどと主張する。

しかしながら,

a 前記認定(1(7)ア)によれば,第3種改良土はあくまで一時的に生産できなくなったに過ぎないというべきであるし,そもそも,前記認定(1(7)イ,ウ)のとおり,本件第2次認可に先立ち,「必要な設備」の見直しの中で「廃土または廃石のたい積の方法」について検討された際,サンドイッチ工法を施工することがそのまま確認されており,その検討結果を記載した書面が第2次認可申請に係る申請書に添付されているのであるから,被告らの主張のうち,上記①及び②の点については,いずれも採用できない。

この点,被告Cは,上記「必要な設備」の見直しは,本件第1次認可の期間を平成11年9月まで延長したのに伴い,この期間内に実施すべき事項についてなされたものであると供述する(被告C調書319項)が,同検討結果を記載した書面上(乙7の13丁),そのように限定して解することはできない。

b また,前記アのとおり,たい積方法が変更されたことを窺わせる事情は見あたらず,上記申請書の記載上「別紙,斜面の安定計算書参照」部分の削除を理由として,サンドイッチ工法等とは別の具体的なたい積方法が定められたとは解されず,これにより本件災害防止命令の内容が変更されたと解することもできないというべきであり,被告ら主張のうち上記③の点は採用できない(また,被告らは,上記削除をもって,本件災害防止命令の内容が変更されたとも主張するが,同様の理由で採用できない。)。

c さらに,残廃土のたい積状況について,原告の職員は常時現場に居て確認しているものではなく,実際の施工状況についてはボーリング調査以外の方法では正確な確認が困難であるから(乙9の4頁,証人F調書196項以下),原告側において久本砕石がサンドイッチ工法を施工していないことを当然に知悉していたとまでいうことはできず,被告ら主張のうち上記④の点についても採用できない。

d 以上に加え,本件崩落事故後に開催された,久本砕石に対する採取計画の遵守義務違反(サンドイッチ工法等の不施工)等に基づく本件第3次認可取消処分に係る聴聞会において,当時の代表取締役社長である被告Aは,処分理由自体は特に争っていないのである(甲27の6頁。なお,被告Cは,被告Aはサンドイッチ工法について分かっていない旨供述するが(被告C調書89項),上記聴聞会において,被告Aは,自らサンドイッチ工法の経験があることについて述べており(甲27の3頁),被告Cの供述は採用できない。)。

したがって,被告らの主張は採用できない。

(ウ) 被告らは,第3種改良土等の強度等からして,そもそもサンドイッチ工法は不必要であったと主張する。

しかしながら,サンドイッチ工法には,盛土中の間隙水を排水層を通じて排水し,もって,盛土全体の安定を図る等の効果があるのであるから,本件でサンドイッチ工法が不必要であったとはいえず,被告らの主張は採用できない。

(4)  以上によれば,サンドイッチ工法等については本件各認可に係る採取計画において定められていたと認められるところ,久本砕石は,前記認定(1(7)オ,2)のように,少なくとも本件第2次認可以降,採取計画に定められたサンドイッチ工法等に従わずに残廃土をたい積したものと認められる(なお,本件第2次認可までは,前記認定のように,改良土の最初の2メートルの部分以内のたい積に止まり,そもそも表土層のたい積までには至らなかったものである。)。

4  争点(2)((1)が認められた場合,これと本件崩落事故との間に因果関係があるか)について

(1)  b採石場土砂崩落事故調査委員会は,本件崩落事故前における本件たい積場の盛土について,① 地表面まで地下水が上昇した状態にあり,② その強度(粘着力)が3.5tf/m2であることを前提として,法先のすべり面の安全率(Fs)を0.95であると判定したが(甲2の19頁),その内容に特段不合理な点は存在しない。

すなわち

ア 証拠(甲2,12,証人G)によれば,本件崩落事故後のボーリング調査に基づく水圧の分布の状況(甲2の12頁)から,別紙2の「静水圧分布を示す底面深度」以上の部分はほぼ静水圧の部分であり,崩落事故後の盛土の地下水位もほぼ地表付近にあることが認められる(水圧がゼロの地点が地表であり,ボーリングの深度に比例して水圧が高くなっていることから,地下水位が地表付近まであったといえる(証人G調書37項)。)。

また,本件崩落事故後の地表部分からは湧き水がみられ,常に地下水位が高い状況であったと考えられる(甲2の4頁,甲12。別紙2参照)。

したがって,本件たい積場の盛土は,本件崩落事故前も水位が高く,土塊はほぼ地下水で満たされた状態であったと推認できる(甲2の12頁,甲12)。

なお,このように,本件たい積場の盛土について地下水位が高い状態であった原因は,久本砕石がサンドイッチ工法を施工せずに約20メートルも盛土をした結果,盛土の排水性が悪い状態にあったことによるものと考えられる(甲2の19頁,甲19,証人G)。

イ そして,想定すべり面より下位の乱されていない層のコーン指数(qc)の強度分布によれば,qc=350kN/m2と推定されるところ,この場合の盛土の強度(粘着力)は,qc/10=35kN/m2=3.5tf/m2となり(甲2の19頁),この数値は,前記認定(2(4))にかかる第3種改良土の強度に照らしても妥当である。

(2)  よって,本件崩落事故前の盛土の法先の安全率(Fs)について,0.95であったと認められ,これは,盛土の法先について通常時要求される最小安全率1.2のみならず,地震時の最小安全率1.0をも下回るものであって,盛土の法先が円弧状に崩壊する状態であったと認められる(甲2の19頁参照)。

(3)  また,本件たい積場の崩落形態を見ると,千代川に崩落した土砂は,幾重にも重なるように堆積しており,非常に軟質な粘性土が,段波のように押し寄せた形状が確認できる(甲2の2頁)。

(4)  以上によれば,本件崩落事故については,① 第3種改良土の強度(粘着力)不足と,サンドイッチ工法を施工しなかったことで盛土内の地下水位が地表付近まで上昇したこととが相俟って,盛土の法先の安全率が崩落発生の程度にまで低下するなどし,② 盛土の斜面端部の土堤にかかる圧力が増大するなどして,③ その結果,土堤の礫質土部分を含む盛土の法先が崩壊し,④ その背後の土塊が不安定化し,順次崩壊が波及したものと認められる(甲1,2,12。別紙2参照)。

したがって,久本砕石が少なくとも本件第2次認可以降,採取計画に定められたサンドイッチ工法等に従わずに残廃土をたい積したことと本件崩落事故との間には因果関係が認められ,これに反する被告らの主張は,以下のとおりいずれも採用できない。

ア 被告らは,本件崩落事故は,新たい積層が表面から順次崩落してそれが旧たい積層に波及したものではなく,① 旧たい積層に接していた土堤が,盛土の重量を支えきることができなくなったために崩壊し,その結果,② 土堤に支えられていた旧たい積層,③ 旧たい積層に支えられていた新たい積層の順に瞬時に崩壊した,いわゆる底抜け事故であるから,新たい積層におけるサンドイッチ工法の不施行は崩落と無関係であり,また,盛土の強度(粘着力)は,盛土の重量とは何ら関係がないと主張する。

しかしながら,

(ア) サンドイッチ工法を施工していれば,少なくとも盛土の新たい積層部分から間隙水が排水され,その結果,旧たい積層に接している土堤部分に掛かる水圧等も軽減することになるから,サンドイッチ工法の不施工が崩落と無関係であるとはいえない(もとより,間隙水の排水により,盛土全体の重量が軽減されることは明らかである。)。

この点に関して,① 被告らは,盛土の現実の重量が,サンドイッチ工法を施工した場合の重量に比しどの程度増加したのかが立証されていない旨主張するが,盛土が間隙水で満たされている状態とそうでない状態とでは,重量が大きく異なることは明らかである。また,② 被告らは表土の土質は多種多様であり,地下水を透しやすい性状を有すると考えることには無理があると主張するが,この主張は,久本砕石自らが提出した安定計算書(甲11)において,サンドイッチ工法を採用することにより地下水位がないものとして計算されていること(前記1(5)イ(ウ))自体に反しており,採用できない。さらに,③ 被告Cは,サンドイッチ工法を施工しても,短期間で盛土の重量が変わるものではないと供述する(被告C調書97項)が,新たい積層のたい積が本格的に開始された本件第2次認可から本件崩落事故までは,1年半が経過しているのであるから,本件において,サンドイッチ工法を施工しても盛土の重量が変わらなかったとはいえない。

(イ) そして,盛土の強度(粘着力)については,前記認定(1(4)ウ)のように,地滑りが想定される面に沿って土同士の抵抗力を維持するという意味があるから,本件崩落事故と盛土の強度(粘着力)が関係がないとはいえない。

イ 被告らは,本件たい積場における本件崩落事故時の残廃土たい積量は,本件第2次認可時の計画の69パーセントであり,計画どおりに残廃土をたい積すれば,早晩崩落事故が発生することは必至だったのであるから,サンドイッチ工法の不施工と本件崩落事故との間に因果関係はないと主張する。

しかしながら,盛土が地下水で満たされている状態とそうでない状態では,土堤に掛かる圧力や盛土の強度等に大きな差があることは明らかであるから,サンドイッチ工法を施工して残廃土をたい積した場合でも崩落事故が生じたなどとはいえない。

ウ 被告らは,本件崩落事故は,当初の計画で崩落が想定されていた方向とは別の方向に生じたものであり,計画の段階では本件で崩落した土堤の強度等はなんら問題にされなかったのであるから,本件崩落事故は予見不可能なものであってサンドイッチ工法等の不施工とは因果関係がないと主張する。

しかしながら,弁論の全趣旨によれば,崩落の危険性が最も高いと考えられる方向が別にあったことから,本件で崩落が生じた方向を前提とした計画が立てられなかったに過ぎず,その方向について崩落の危険性がないとされていたとまでは認められない。

また,久本砕石は,本件第2次認可以降,採取計画に定められた方法(サンドイッチ工法等)に従わず,しかも特段のたい積方法を施工することなく残廃土をたい積していたのであるから,当初崩落の危険性が最も高いとされていた方向とは別の方向に崩落したとしても,それについて予見不可能であったとはいえず,被告らの主張は採用できない。

エ 被告らは,地下水位の上昇に伴う間隙水圧は,地盤の低い排水方向に作用するのが自然であり,本件の崩落方向に作用することは物理的にも考えられないと主張する。

しかしながら,本件崩落事故の状況は,別紙2のとおりであるところ,前記認定のように,本件崩落事故前,盛土中はほぼ地下水で満たされていた状態と考えられ,この水圧が盛土の斜面端部の方向に作用することは明らかであるから,被告らの主張は採用できない。

オ 被告らは,河川管理者である原告自身,本件たい積場について何ら危険がないものとして漫然現状を放置してきたものであり,原告すら予見できなかった事実上の自然的堤防である土堤の崩壊という結果について,河川隣接地の所有者である久本砕石に帰責させるべきではないと主張する。

しかしながら,土堤が自然的堤防の役割を果たしていたとしても,本件崩落事故で崩壊したのはあくまで強度の弱い礫質土部分であり(前記1(9)イ),本件崩落事故が予見不可能であったとはいえないことは上記ウのとおりである。

また,証拠(甲20~25,甲26の1,2,証人G調書45項以下,被告C調書262項以下)によれば,原告は,本件崩落事故の前から久本砕石に対して,本件たい積場の盛土の強度等に関するボーリング調査や,監視カメラによる本件採石場の監視等,本件たい積場における崩落の危険性を前提にした指示をしてきたことが認められ,漫然現状を放置してきたなどとはいえない。

したがって,被告らの主張はその前提を欠き,採用できない。

5  争点(3)(本件崩落事故によって原告に損害が生じたか)について

(1)  以上のように,本件崩落事故は久本砕石がサンドイッチ工法等を実施しなかったことによって発生したものと認められ,原告が,本件崩落事故による崩落土砂撤去費用として1億円以上の費用を支出したことについては当事者間に争いがない。

(2)  次に,弁論の全趣旨によれば,本件の河川の区間は,河川法9条2項の規定に基づき,国土交通大臣が,県が管理するものとして指定した区間であることが認められる。

そして,本件崩落事故は,久本砕石の行為(残廃土のたい積)によって生じたものであるから,原告は,崩落土砂撤去費用については久本砕石に負担させることとなる(同法67条,18条)が,久本砕石が当該費用を支払わない場合,同法60条2項により,国ではなく原告が最終的に負担することとなる(本件の崩落土砂撤去費用は,同項後段に規定する緊急河川事業に係る河川の改良工事等に要する費用には当たらない。)。

(3)  したがって,1億円以上の崩落土砂撤去費用の支出については,本件崩落事故に基づく原告の損害と認められる。

6  争点(4)(被告らは商法266条の3第1項の損害賠償義務を負うか)について

(1)  サンドイッチ工法に関する悪意・重過失に基づく任務懈怠等

ア 被告Bについて

(ア) 前記前提事実(第2の1)及び前記認定のとおり,被告Bは,平成3年11月5日から久本砕石の取締役,平成12年11月10日から平成14年1月26日まで久本砕石の代表取締役であって,本件採石場の現場監督者であり,自らの指示によって,本件たい積場に残廃土をたい積していたものであるが,本件第2次認可以降はサンドイッチ工法の施工を指示していない。

(イ) この点,被告Bは,本件第1次認可後,排水層に用いるための適切な表土が確保できないと判断して,被告Cに対してサンドイッチ工法を施工することはできない旨進言し,その後,本件第2次認可申請に係る申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」の欄において「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされていないことから,サンドイッチ工法を施工しなくてもよくなったものと判断したという(被告B調書53項以下,80項以下)。

しかしながら,排水層に用いるための適切な表土が確保できないとの判断については,被告B独自の判断であって(被告B調書56項以下,115項),十分な理由があってのものとは認められず,また,上記の記載がされていないことによって,サンドイッチ工法等とは別の具体的なたい積方法が定められたと解されるものでもないことは前述したとおりである。

そして,被告Bは,本件第1次認可前,原告による盛土の安定計算の指導等を通じて,サンドイッチ工法の重要性を十分認識することができたのであるから,上記の経緯のみによってサンドイッチ工法を施工しなくてもよくなったと判断し,本件第2次認可以降サンドイッチ工法の施工を指示していないことは,被告Bの重過失に基づく任務懈怠であるというべきである。

(ウ) そして,前記4で認定した事実に照らすと,この任務懈怠と原告の損害との間に因果関係があることは明らかである。

イ 被告Cについて

(ア) 前記前提事実(第2の1)及び前記認定のとおり,被告Cは,平成3年11月5日から平成12年11月9日まで久本砕石の代表取締役社長,同月10日から平成13年8月8日まで代表取締役会長,同月9日から平成14年10月16日まで取締役であり,少なくとも本件たい積場に残廃土がたい積されていた平成13年7月ころまでの間,久本砕石の業務全般にわたって意を用いるべき義務を負っていたものである。

(イ) 被告Cは,自ら同社を代表して認可申請を行うなどしていたが,前記のように,本件第2次認可に先立ち,土木事務所長との間で,「必要な設備」の見直しの一内容として「廃土または廃石のたい積の方法」についても検討し,その際,サンドイッチ工法を施工することを確認し,その検討結果を記載した書面を添付した上で本件第2次認可申請をしているのであるから,被告C自身,本件第2次認可以降もサンドイッチ工法等によって残廃土をたい積しなければならないことを十分認識していたといえる。

そして,前述した被告Cの地位や活動状況に照らすと,被告Cは,被告Bがサンドイッチ工法を施工していないことを当然に認識していたはずであるから,被告Cにおいて被告Bによるサンドイッチ工法の不施工を監視し,これを防止等しなかったことについては,被告Cの悪意または少なくとも重過失に基づく任務懈怠であると認められる(なお,証拠(甲27)によれば,被告Cは,結局,資金上の問題から,サンドイッチ工法の施工を指示しなかったことが窺われる。)。

(ウ) そして,前記4で認定した事実に照らすと,この任務懈怠と原告の損害との間に因果関係があることは明らかである。

ウ 被告Aについて

(ア) 前記前提事実(第2の1)のとおり,被告Aは,平成9年11月以降久本砕石の取締役であり,被告Bが,岩石採取計画を遵守しているか否か(サンドイッチ工法を施工しているか否か等)について,監視等する義務があったものである。

また,前記前提事実(第2の1)のとおり,被告Aは,久本砕石の初代代表取締役であり,智頭町長時代を除くと,同社の実質的経営者であり,その経営内容や代表取締役らの業務執行一般について,特に重大な関心を有しており,その発言力は大きかったことが容易に想像できる。

(イ) ところで,前記1のとおり,久本砕石に関しては,平成8年9月27日の大規模な崩落事故後,同9年3月31日経過後は,岩石採取計画の認可による採取期間が満了したところ,本件災害防止命令による必要な設備を履行する形式をとりながら,岩石採取計画の認可がなされるに至った。そして,これらの措置は,周辺住民や関係者の重大な関心事であり,原告は「ab採石場の防災対策の概要」という冊子を作成して,その説明を行っていた(乙9)。このように,久本砕石が,本件各認可にかかる岩石採取を継続するためには,上記災害防止命令による必要な設備を履行するためのたい積方法を忠実に守ることが絶対必要ともいえる状況にあり,久本砕石の実質的経営者である被告Aにとっても最大の関心事ともいえる状況にあったというべきである。

たしかに,本件第2次認可申請及び第3次認可申請に係る申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄自体にはサンドイッチ工法の具体的記載はなかったものの,前記3のとおり,当時の状況において,本件第2次認可以降,たい積方法が変更されたことを窺わせる事情は見あたらない(前記3(3)ア)。

しかも,被告Aは,本件崩落事故後,久本砕石の代表取締役社長となったが,前記のとおり,同被告は,同事故後に開催された,久本砕石に対する採取計画の遵守義務違反(サンドイッチ工法等の不施工)等に基づく本件第3次認可取消処分に係る聴聞会において,久本砕石がサンドイッチ工法を施工していなかったことを認め,サンドイッチ工法の不施工という処分理由自体は特に争っていないのであるから,被告Aにおいては,サンドイッチ工法の施工が採取計画の内容になっていたことを認識していたものと認められ,これを覆すに足る証拠はない。

また,被告Aが,従前,自らサンドイッチ工法を施工してきた経験を有することについても前記のとおりである。

(ウ) そうすると,被告Aにおいて,被告Bがサンドイッチ工法を施工しているか否かについて適切に監視した場合,サンドイッチ工法が施工されていないことを発見した上,これを是正することは容易であったというべきであるが,証拠上,被告Aがこの点について意を用いたことは何ら窺われないのである。

したがって,被告Bがサンドイッチ工法を施工しなかったことについては,被告Aの少なくとも重過失に基づく任務懈怠にもよるものというべきであり,また,前記4で認定した事実に照らすと,この任務懈怠と原告の損害との間には因果関係があるというべきである。

エ 被告Eについて

(ア) 前記前提事実(第2の1)によれば,被告Eは,平成12年11月9日まで久本砕石の代表取締役,その後,現在まで同社の取締役であり,少なくとも平成12年11月9日までの間は,久本砕石の業務全般にわたって意を用いるべき義務を負い,それ以降も,代表取締役らの業務執行一般につき,これを監視し,必要があれば,取締役会を招集するなどして,業務執行が適正になされるようにすべき職責を有していたものである。

そして,被告Eは,終始他の代表取締役らに久本砕石の業務を一任し(被告B調書122項),取締役会にもほとんど出席せず(被告C調書336項),その間に被告Bの上記任務懈怠行為がなされているのであるから,被告Eは,代表取締役及び取締役としての任務を懈怠していたものというべきである。

(イ) しかしながら,久本砕石は同族会社であり,被告Bや同C,同Aがその中心となって業務執行が行われていたことが推認されるものの,被告Eの業務内容を明らかにするものはなく,むしろ,前述したところによると,久本砕石内における地位は名目的であったことが窺える。

しかも,本件第2次認可申請及び第3次認可申請に係る申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄自体にはサンドイッチ工法の具体的記載はなかった。

これらの事情を総合すると,被告Eが自らの注意義務を尽くしたとしても,被告Bがサンドイッチ工法を施工すべきであるのにこれを怠っていることを発見し,さらにこれを是正することができたとまで認めることができるかについては疑問が残る。

そうすると,被告Eの上記任務懈怠行為を重大な過失ということは困難であるし,また,原告の損害との間に因果関係を認めることも困難というべきである。

オ 被告Dについて

(ア) 前記前提事実(第2の1)によれば,被告Dは,平成8年8月2日から久本砕石の取締役であり,被告Bらの業務執行一般につき,これを監視し,必要があれば取締役会を自ら招集するなどして,業務執行が適正になされるようにすべき職責を有するものである。

(イ) しかしながら,本件第2次認可申請及び第3次認可申請に係る申請書本体部分の「廃土又は廃石の堆積方法」欄自体にはサンドイッチ工法の具体的記載はなく,また,被告Dの久本砕石における職務内容は,被告Bの指示の下,重機管理を中心に行っていたものであって(被告B調書126項以下),本件災害防止命令と本件各認可との関係等についての認識の程度を認める証拠はない。

そうすると,被告Dにおいて,本件第2次認可以降,被告Bがサンドイッチ工法を施工するように是正する措置を執らなかったとしても,被告Dについて重過失に基づく任務懈怠があったとはいえない。

(2)  崩落の防止措置に関する悪意・重過失に基づく任務懈怠等

ア 証拠(甲17の1,2,甲19の1,2,甲20,21,23~25,証人G,被告C)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 平成13年7月6日午前10時ころ,当時の土木事務所の担当者の1人であるG(以下「G」という。)は,被告Bから本件たい積場に亀裂が生じているとの連絡を受け,同被告の案内により,本件たい積場の北側(別紙1の「土砂止めスペース」側)に亀裂等の変状があることを確認した。

なお,この亀裂が存在する箇所は,本件崩落事故で崩落した法先とは別の箇所である。

(イ) Gが被告Bに対し亀裂に関する処理を尋ねたところ,同被告は,水平排水材やジオテキスタイルの敷設を検討しているなどと回答した。

ここに,水平排水材とは,化学繊維で作った布状のものであり,土中に埋めるとその布を通って水分が盛土の外に排出され,土同士の粘着力や摩擦力を高める効果がある。また,ジオテキスタイルも同様である。

(ウ) Gは,被告Bの回答した方法が妥当であると考え,同被告に対し,① 敷設する材料の幅,長さ,水平方向の間隔,鉛直方向の間隔等検討すべきことがあるので,早急に修復計画を書面で提出すること,そして,② 盛土の強度や水位の調査のため,ボーリング調査を行うこと,③ 当面,安全が確認されるまで本件たい積場に残廃土をたい積しないこと,④ 残廃土の場外処分地の早期選定,⑤ 残廃土を有価物として場外に搬出する方法の検討の実施について指示した。

(エ) しかしながら,久本砕石は,残廃土のたい積については以後停止したものの,被告Bから修復計画が提出されたのは同年11月末になってからであり,その内容も,当初,被告BがGに伝えていたものとは異なり,本件たい積場の表面土砂の部分的な改良や,土堤の土砂が水分を含まないように排水用のパイプを設置するというものであった。

また,残廃土の場外処分地については,被告Bや被告Cは,保安林がある,コストがかかる,地権者の了解が得られないなどとして,展開が見られず,ボーリング調査については,平成14年1月23日まで行われた指導にもかかわらず,実施されなかった。

(オ) なお,上記亀裂の入った部分に関しては,平成13年7月中旬ころから(甲25添付の写真の日付参照)同年中にかけて,排水用のパイプの設置が実施され,その部分については崩落が生じていない(被告C調書260項)。

イ 以上の認定事実によれば,少なくとも被告Bや同Cは,上記亀裂に関して,必ずしも原告の指示に従った措置を執ってこなかったことが認められる。

しかしながら,本件において,このような不作為と本件崩落事故との因果関係は必ずしも明らかでないというべきである。すなわち,

(ア) 本件崩落事故は,サンドイッチ工法の不施工により盛土内の地下水位が地表近くまで上昇したことを要因の1つとするところ,残廃土のたい積がすでに為されてしまっている状況において,久本砕石が,どの時点で,いかなる措置を執っていれば,特に本件で崩壊した法先における盛土内の地下水位の上昇を防止することができたか,また,久本砕石が現実にそのような措置を執ることが可能であったかは,必ずしも明らかではない(なお,上記ア(オ)のとおり,久本砕石は亀裂の入った部分に関しては排水用のパイプの設置を実施し,同部分については崩落が生じていないが,同パイプを設置したことにより盛土内の間隙水がどの程度排水されたか,また,それによって同部分が崩落しなかったのかについては不明である。)。

(イ) また,本件崩落事故のもう1つの要因である第3種改良土の強度不足については,これを改善するための特段の執り得る措置は示されていない。

(ウ) さらに,平成13年7月以降残廃土を適宜場外に搬出したとしても,地下水位の上昇や第3種改良土の強度不足を直ちに補うものとも考え難い。

(エ) このように,本件において,平成13年7月以降,久本砕石が盛土の安定性についていかなる措置を執ることができ,当該措置を執ることによって本件崩落事故を防止することができたかが必ずしも明らかでない以上,仮に,被告らにおいて崩落の防止措置に関して悪意または重過失による任務懈怠があったとしても,これと本件崩落事故との間の因果関係は未だ立証されていないといわざるを得ず,この点に関して,被告らが商法266条の3第1項に基づく損害賠償義務を負うこともない。

(3)  したがって,被告A,同B及び同Cは,原告の被った損害について,原告に対して各自商法266条の3第1項に基づく損害賠償義務を負うが,他の被告らは同様の義務を負わないというべきである。

第5結論

以上の次第で,原告の被告A,同B及び同Cに対する請求は理由があるからいずれもこれを認容し,その余の被告らに対する請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条を,仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 山本和人 裁判官 小野寺明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例