鳥取地方裁判所 平成14年(行ウ)9号 判決 2004年3月30日
主文
1 平成14年(行ウ)第9号事件(鳥取県郡家土木事務所長が原告に対して平成14年3月16日付けでなした土砂の撤去及び監視・連絡の措置を命ずる処分の取消請求)に係る訴えを却下する。
2 平成14年(行ウ)第10号事件(被告鳥取県知事が原告に対して平成14年9月10日付けでなした採取計画の認可取消処分の取消請求)に係る訴えを却下する。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 平成14年(行ウ)第9号事件
鳥取県郡家土木事務所長が原告に対して平成14年2月16日付けでなした土砂の撤去及び監視・連絡の措置を命ずる処分を取り消す。
(2) 平成14年(行ウ)第10号事件
被告鳥取県知事が原告に対して平成14年9月10日付けでなした採取計画の認可取消処分を取り消す。
(3) 平成14年(行ウ)第11号事件
被告鳥取県知事が原告に対して平成14年11月15日付けでなした採石業者の登録取消処分を取り消す。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁
原告の請求をいずれも却下する。
(2) 本案の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,砕石業等を営む株式会社であり,昭和49年6月25日付けで被告鳥取県知事により採石法32条に基づく採石業者としての登録を受け,また,以降,同法33条に基づく岩石採取計画の認可を受け,鳥取県八頭郡a町bc番dほかの土地の採石場(以下「本件採石場」という。)において,継続して認可の更新を受けて岩石の採取を行っていた(土地の地番については,乙1,2)。
イ 被告鳥取県知事は,採石法上,採石業者の登録についての登録行政庁(同法32条),採取計画についての認可行政庁(同法33条)である。
ウ 鳥取県郡家土木事務所長(以下「土木事務所長」という。)は,採石法上の被告鳥取県知事の権限を分掌し,被告鳥取県八頭地方県土整備局長(以下「被告県土整備局長」という。)は,土木事務所長の権限を承継した。
(2) 災害防止命令の発令等
ア 本件採石場において,平成8年9月27日に崩落事故が発生した際,本件採石場の上部に滑落崖(以下「本件滑落崖」という。)が確認されたため,土木事務所長は,久本砕石に対し,平成8年11月13日付けで採石法33条の13第1項に基づく緊急措置命令を行い,岩石採取の停止及び本件滑落崖の土砂撤去等を命じた(甲11,弁論の全趣旨)。
イ その後,土木事務所長は,久本砕石に対し,平成10年4月14日付けで採石法33条の17に基づく災害防止命令(以下「本件災害防止命令」という。)を発令した(乙3)。
同命令は,久本砕石に対し,本件滑落崖の土砂を撤去し,土砂の崩落等の災害を防止するため「必要な設備」を施すこと(① ボーリング調査を実施し,② ①の調査の結果を踏まえて必要な設備案を提出し,③ ②の設備案をもとに土木事務所長が通知するところに従って「必要な設備」を施すこと),及び通報連絡体制の整備等を命じている。
ウ 久本砕石は,本件災害防止命令を受けて,平成10年7月13日付けで土木事務所長に対し,「設備案施工計画書」等を提出した(乙5)。
そして,土木事務所長は,久本砕石に対し,同月14日付けで,本件災害防止命令に基づく「必要な設備」については,概ね久本砕石が同月13日付けで提出した「設備案施工計画書」等の内容とする旨の,「災害防止命令に基づく必要な設備について」との通知をした(乙4,以下「本件設備通知」という。)。
(3) 岩石採取計画の認可
被告鳥取県知事は,久本砕石に対し,平成10年7月31日付けで採石法33条に基づく岩石採取計画の認可(乙11,以下「第1次認可」という。)を行い,その後,平成11年9月30日付け(甲10,以下「第2次認可」という。)及び平成12年9月29日付け(乙2,平成14年9月30日期限のもの。以下「本件認可」という。)で更新の認可を行った。
(4) 崩落事故の発生等
久本砕石は,本件各認可に基づく岩石採取の過程で生じた廃土等(残廃土)を,本件採石場の残廃土たい積処理区域(以下「本件たい積場」という。)にたい積していたが,平成14年1月24日午後9時過ぎころから同月25日未明ころまでの間に,本件たい積場において崩落事故が発生し(以下「本件崩落事故」という。),千代川に約14万立方メートルの崩落土砂が流入して同河川を閉塞した(乙14,50,弁論の全趣旨)。
(5) 緊急措置命令
ア 本件崩落事故を受けて,土木事務所長は,岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があるとして,原告に対し,平成14年1月29日付けで採石法33条の13第1項に基づく緊急措置命令を発令し(以下「先行緊急措置命令」という。),同日から別途指定する日まで,本件採石場内における岩石の採取の停止を命じる処分をした(甲a5)。
イ 平成14年2月15日,本件採石場内において新たな土砂崩落が発生した(乙18,弁論の全趣旨)。
そこで,土木事務所長は,採石場内における新たな土砂崩落に伴う災害の防止のための緊急措置として,同月16日付けで前同項に基づく緊急措置命令をし(以下「本件緊急措置命令」という。),別紙1の「土砂止めスペース」(以下「本件ポケット」という。)内に限り先行緊急措置命令を解除して,次のとおり措置することを命じた(甲a1)。
(ア) 土砂の撤去
① 本件ポケット内にすでにたい積している崩落土砂の搬出について,平成14年2月19日までに着手し,同年3月8日までに本件採石場外に搬出すること。
② ポケット内に今後たい積する崩落土砂については,直ちに土木事務所長に報告の上,その指示に従って本件採石場外に搬出すること。
③ ①及び②により搬出する土砂は,災害が起こらないよう適正に管理すること。
なお,当該土砂については,本件採石場内において加工してはならない。
(イ) 監視・連絡
休日・夜間も含め常時本件採石場内を監視し,異常を発見したときは,直ちに関係機関に連絡すること。
ウ しかしながら,原告は,本件緊急措置命令で命じられた土砂の撤去等を履行しなかった。
エ 本件緊急措置命令を受け,原告は,被告鳥取県知事に対し,平成14年4月12日付け審査請求を行ったが,同知事は,同年8月12日付けで同審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲a2)。
(6) 本件認可の取消処分
被告鳥取県知事は,以下の理由により,平成14年9月10日付けで採石法33条の12に基づき,本件認可を取り消す処分をした(以下「本件認可取消処分」という。甲1)。
ア 本件認可に係る採取計画に定められた残廃土のたい積方法に従わなかった(盛土する改良土の強度確保及びサンドイッチ工法を実施しなかった)こと(採石法33条の12第2号,33条の8)。
イ 本件緊急措置命令によって命じられた崩落土砂の撤去を履行しなかったこと(採石法33条の12第3号,33条の13第1項)。
(7) 採石業者の登録処分の取消処分
被告鳥取県知事は,本件認可が取り消されたことを理由として,原告に対し,平成14年11月5日付けで採石法32条の10第1項5号に基づき,採石業者の登録を取り消す処分をした(以下「本件登録取消処分」といい,本件緊急措置命令及び本件認可取消処分とを併せて,以下「本件各処分」ということがある。)。
(8) 本件採石場の位置関係等
本件採石場,本件滑落崖(上部滑落崖)及び本件たい積場(残廃土堆積処理区域)の位置関係は,別紙1のとおりである(甲11の5頁)。
2 原告の請求
原告は本件各処分がいずれも違法であると主張して,本件各処分の取消しを求めた。
3 本案前の争点
本件緊急措置命令及び本件認可取消処分の取消請求に係る各訴えについて,訴えの利益があるか。
4 本案の争点
前記前提事実(第2の1)のとおり,本件登録取消処分が理由とするところは,本件認可取消処分がなされたことであり,本件認可取消処分が理由とするところは,① 原告が,本件認可に係る採取計画に定められた残廃土のたい積方法に従わなかったこと,及び,② 原告の本件緊急措置命令違反である。
したがって,本案の争点は,次のとおりである。
(1) 本件認可取消処分の適法性
ア 原告が本件認可の採取計画に定められた方法に従わずに残廃土をたい積したか(争点(1)ア)
イ アが認められた場合,これと本件崩落事故との間に因果関係があるか(アを理由とする本件認可取消処分に裁量権の逸脱,濫用がないことを基礎付ける事実)(争点(1)イ)
(2) 本件緊急措置命令の適法性(争点(2))
本件緊急措置命令の目的の正当性,緊急性,履行可能性の有無
第3争点に関する当事者の主張
1 本案前の争点(本件緊急措置命令及び本件認可取消処分の取消請求に係る各訴えについて,訴えの利益があるか)について
(1) 本件緊急措置命令について
【被告県土整備局長の主張】
ア 本件緊急措置命令は,採石法33条の13第1項に基づくものであり,処分の客体足りうるのは,「採取計画についてその認可を受けた砕石業者」であるが,被告は,平成14年9月10日,本件認可取消処分をした。
したがって,原告はもはや「採取計画についてその認可を受けた砕石業者」に当たらないから,本件緊急措置命令は当然に失効しており,原告には本件緊急措置命令の取消によって回復すべき法律上の利益が存在しない。
イ また,同月30日,原告に対する本件認可の期間が経過し,採取計画認可の効力自体が再び生じる余地はない。
したがって,採取計画認可の効力が生じない以上,本件緊急措置命令の効力が再び生じることはないから,原告には同命令の取消によって回復すべき法律上の利益が存在しない。
ウ よって,本件緊急措置命令の取消請求に係る訴えは不適法である。
【原告の主張】
ア 原告は,本件認可取消処分の違法性についても争っているのであるから,本件認可が取り消されたことを理由に,本件緊急措置命令の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在しないとはいえない。
イ 本件緊急措置命令違反に対しては,採石法上刑事罰に問われる可能性もあるから,同命令の取消しによって回復すべき法律上の利益がある。
(2) 本件認可取消処分について
【被告鳥取県知事の主張】
ア 採石法33条に基づく採取計画の認可は,採石業者の登録取消があった場合は,失効する(同法33条の11)。
原告の採石業者の登録は本件登録取消処分によって既に取り消されているから,もはや採取計画認可の効力が生じる余地はなく,原告には,同命令の取消によって回復すべき法律上の利益が存在しない。
イ 本件認可の対象期間の終期は平成14年9月30日であり,同日は既に経過しているから,本件認可取消処分により取り消された本件認可の効果が再び生じる余地はなく,原告には,本件認可取消処分の取消によって回復すべき法律上の利益が存在しない。
ウ よって,本件認可取消処分の取消請求に係る訴えは不適法である。
【原告の主張】
ア 原告には,本件認可取消処分の取消請求によって被告の処分の違法・不当性を明らかにして,原告の権利を回復する法律上の利益がある。
イ また,原告には,本件認可取消処分の取消請求を経て,新たな採取計画の認可を申請する権利がある。
(3) 原告代理人の訴訟代理権について
なお,被告らは,第9号事件,第11号事件において,原告代理人であるA(以下「A」という。)の訴訟代理権を争っているが,原告の商業登記簿上,支配人として登記されていることが認められ,同人は訴訟代理権を有している。
2 本案の争点(1)ア(原告が本件認可の採取計画に定められた方法に従わずに残廃土をたい積したか)について
【被告鳥取県知事の主張】
(1) 一般的に,サンドイッチ工法は,盛土材と排水層を交互に盛り立て,圧密促進及び強度増加を図り盛土構造物として早期に有効利用する方法であり,盛土内の間隙水は,盛土の自重圧密によって排水層に集められ,端部より外部に排水されるというものである。この工法により,盛土の強度を保持するとともに,盛土全体の重量を軽減する効用がある。
本件認可に係る採取計画においては,採石法33条の2,同法施行規則8条の14第3号所定の「廃土または廃石のたい積の方法」として,① 採取した岩石を砕石化する際に発生する脱水ケーキについて,25tf/m2の強度(粘着力)を有する第3種改良土に改良すること,及び,② 残廃土を本件たい積場にたい積するに際し,第3種改良土4メートル,砕石の材料にできない表土1メートルを交互に堆積するサンドイッチ工法を施工すること(以下,①及び②を合わせて,「サンドイッチ工法等」という。)が定められた。
(2) なお,第1次認可は,同認可申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄記載のたい積方法について認可しているが,同欄にはサンドイッチ工法等を示す「別紙,斜面の安定計算書を参照」との記載があり,第1次認可に係る採取計画において,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められたことは明らかである。
これに対し,本件認可に係る認可申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄には,「別紙,斜面の安定計算書を参照」との記載がない。
しかしながら,① 本件認可における認可書には,認可条件のほか「(認可)申請書のとおり」と記載され,② 認可申請書においては,「(本件)災害防止命令により決定された土砂崩落等の災害を防止するために必要な設備を履行するため」等の記載がされているところ,③ 「必要な設備」とは,本件設備通知によって承認された「設備案施工計画書」等の内容を指し,かつ,④ サンドイッチ工法等は「設備案施工計画書」等に含まれているのであるから,本件認可においても,「廃土または廃石のたい積の方法」としてサンドイッチ工法等が採用されたことは明らかである。
(3) このように,本件認可に係る採取計画においてサンドイッチ工法等が定められていたにもかかわらず,実際にはサンドイッチ工法は施工されず,また,本件崩落事故後に実施された土質試験結果によれば,第3種改良土の強度(粘着力)も1.5~5tf/m2に過ぎないのであって,原告は,本件認可に係る採取計画によって定められた方法によらずに残廃土をたい積したものである(以上の点は,第2次認可においても同様である。)。
【原告の主張】
(1) サンドイッチ工法を施行することは,本件災害防止命令の「必要な設備」に含まれない。
ア 本件災害防止命令には,「採石場上部滑落崖の土砂を撤去し,土砂崩落等の災害を防止するため必要な設備を施すこと」との記載があるのみで,残廃土たい積に関する事項はない。
また,同命令は,「採石場上部滑落崖」について添付の別紙平面図のとおりとすると限定しているが,同別紙平面図には本件たい積場は含まれていない。
イ 「設備案施工計画書」は,設備案と施工計画(採取計画)案を区分して検討されたものであり,必要な設備を承認した被告土木事務所長には,採取計画の必須要件である残廃土のたい積方法を認可する権限はなかった。
ウ 残廃土のたい積方法(サンドイッチ工法)については,平成10年7月23日付けの汚泥再利用計画書の承認によって決定されたものであり,それに先立つ本件設備通知で決定されたと考えることはできない。
エ 災害防止命令は,「岩石の採取を廃止した者」に対してのみ行えるが,採石行為を廃止した者が,採石行為に伴う残廃土を発生させることはあり得ず,残廃土のたい積方法(サンドイッチ工法)が,同命令に基づく「必要な設備」に定められるいわれはない。
オ 鳥取県は,その後も,本件災害防止命令に従った防災対策の内容を,① 採石場上部の崩落の危険のある土砂の撤去,② 土砂止めスペースの確保,の2つであると明確に公表しているが,いずれにも残廃土のたい積方法に関わる内容はない。
(2) 仮に,サンドイッチ工法を施行することが「必要な設備」に含まれるとしても,第2次認可以降は,採取計画の認可によって,「必要な設備」は変更されたものである。
ア 岩石採取場の残廃土のたい積方法は,採取計画の認可により定まるものであり,仮に「必要な設備」の中に「廃土または廃石のたい積の方法」が含まれるとしても,採取計画の認可の内容に変更されるものである。
イ この点,第1次認可においては,認可申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄に,サンドイッチ工法を示す「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載をしているから,同認可に係る採取計画においてサンドイッチ工法を施工することが定められ,原告も同工法の施工によって残廃土をたい積してきたが,その後に発生した災害により残廃土のたい積を中断することとなった。
そして,第2次認可以降,原告は,申請書において,「必要な設備」の内容を作業工程表及び土砂採取(排土)量集計表に明確に区別して表示し,「廃土又は廃石の堆積方法」欄においては,災害の教訓を踏まえ,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載を削除してサンドイッチ工法を採用しないこととした。
ウ 鳥取県は,綿密に現地を確認し,事前審査を行って,本件認可をしたものであるから,本件認可において,残廃土をサンドイッチ工法で堆積させることは採取計画の内容になっていない。
3 本案の争点(1)イ(アが認められた場合,これと本件崩落事故との間に因果関係があるか)について
【被告鳥取県知事の主張】
(1) 本件のサンドイッチ工法においては,第1次認可以降にたい積する残廃土の層(以下「新たい積層」という。)について,第3種改良土4メートルと表土1メートルを交互にたい積させて,盛土内の間隙水を表土層に集めて盛土の端部から排水し,もって盛土の強度を保持するとともに,盛土全体の重量を軽減して,第1次認可以前にたい積した残廃土の層(以下「旧たい積層」という。)を含め,盛土全体の安定を図ることを目的としていた。
しかし,原告は,サンドイッチ工法を施工せず,漫然と20メートル以上残廃土をたい積し,その結果,本件たい積場内の盛土については排水性が悪く,雨水の浸透や周辺からの地下水の流入によって地下水位が上昇しやすい状況にあり,新たい積層のみならず旧たい積層の土中にも雨水等が浸透し,地下水位が上昇した。
そして,盛土内の間隙水圧が上昇し,盛土の先端部分にある土堤にかかる圧力が増大した。
(2) また,新たい積層の第3種改良土の強度(粘着力)が不足したことにより,旧たい積層にかかる圧力が増大するなどし,その結果,土堤にかかる圧力が増大した。
(3) これらの原因により,盛土の法先が崩壊し,本件崩落事故が発生したものである。
【原告の主張】
被告鳥取県知事の主張は否認ないし争う。本件崩落事故は,自然現象によって生じたものである。
4 本案の争点(2)(本件緊急措置命令の適法性)について
【被告らの主張】
(1) 緊急措置命令の要件は,① 目的「災害の防止」,② 緊急性,③ 客体「採取計画についてその認可を受けた採石業者」,④ 手段「災害の防止の必要な措置又は岩石の採取の停止を命じること」であるところ,本件では,③の客体については争いがない。
(2) 目的(①)について
本件崩落事故により,千代川に約14万立方メートルの残廃土が流入した。その後,本件採石場から千代川に土砂が崩落することを防止するため設けられていた本件ポケット内に,推定7000ないし8000立方メートルの土砂が堆積し,事故後もポケット上部の地盤は不安定な状態であったため,それを放置すれば,上記の事故態様,結果,季節(雪解け水等で地盤が軟弱化している。)に照らし,たい積土砂がポケットのたい積容量を超え,千代川に流入する危険性があった。
このような状況のもと,本件ポケット内の新たな土砂たい積により土砂が千代川に流入することを防止する必要があった。
(3) 緊急性(②)について
本件緊急措置命令の時点では,本件崩落事故の原因は十分解明されていないなど,本件たい積場内の全体の地盤が不安定な状態であった。
また,本件採石場は,本件崩落事故以前,4度にわたり大規模な崩落事故を繰り返しており,その後,本件災害防止命令を発していたにもかかわらず,原告は,5度目の崩落事故を発生させた。
したがって,その後も崩落事故が発生する危険性があり,本件ポケット内から緊急に土砂を撤去する必要があった。
(4) 手段の必要性・相当性(④)について
本件緊急措置命令は,「災害の防止の必要な措置」として,本件ポケット内の土砂撤去と採石場の常時監視・連絡を命じているが,これは手段としての必要性・相当性を有している。
ア 本件緊急措置命令は,本件ポケットのたい積容量を十分確保し,新たなたい積土砂の千代川への流入を防止するためのものであるが,いつ新たな崩落事故が発生しても不思議でない状況下において,少しでも多くのポケットたい積容量を確保しておく必要性がある。
イ 原告は登録を受けた採石業者であって,現地において採石業に不可欠な人的・物的設備を有しているから,原告において本件緊急措置命令を履行することは十分可能である。
(5) したがって,本件緊急措置命令は適法である。
【原告の主張】
以下のとおり,本件緊急措置命令は,目的が不当であり,緊急性がなく,現実的に履行不可能なものであって,さらに,原告が土砂を撤去すべき事情もなく,不適法である。
(1) 目的の不当性
緊急措置命令は岩石の採取に伴う災害防止を目的とするものである。
しかし,本件緊急措置命令は,原告に対し,撤去した土砂を本件採石場外に搬出することを命じているが,原告は本件採石場外に砕石の加工施設を有していないのであるから,上記土砂の搬出は,採石業者の営業上の岩石の採取に該当せず,本件緊急措置命令は,もっぱら河川の管理を目的としており,岩石の採取に伴う災害防止を目的としていない。
なお,本件ポケット内にたい積した土砂は本件崩落事故によって崩落した土砂ではなく,本件ポケットからたい積土砂を搬出することは,岩石の採取に伴う災害防止の目的とは関係がない。
(2) 緊急性の欠如
ア 本件ポケットについては,3万立方メートル程度のたい積容量があるところ,本件緊急措置命令の契機となった土砂の崩落量は5000立方メートルであり,これが自発的に流出して災害を発生させることはあり得ない。
本件緊急措置命令は,不可抗力的に発生する不特定な災害を想定したものであり,緊急性の要件を欠いている。
イ 平成11年から平成13年にかけて,本件ポケットの背後地の山腹から発生した不可抗力による崩落は十数回に及んでおり,その都度1万立方メートルないし3万立方メートルの土砂が本件ポケット内に流入してたい積したが,一度も緊急措置命令が発令されたことはない。
鳥取県が行政代執行により土砂約1万立方メートルを撤去したというのであれば,換言すれば,その程度の土砂撤去により危険性を除去できたということである。
本件ポケット内にたい積した土砂は,過去の実績と比較して最低量の部類であるのだから,本件緊急措置命令には緊急性がない。
(3) 手段の不当性
ア 原告は,先行緊急措置命令によって本件採石場における岩石採取の停止を命じたにもかかわらず,本件緊急措置命令によって先行緊急措置命令を一部解除して,本件ポケット内にたい積した土砂の撤去を命じたのであり,本件緊急措置命令は,先行の処分に矛盾した不当な処分である。
イ 先行緊急措置命令は,本件採石場における原告の既存の設備・施設の使用を不可能にするものであるから,原告は,本件緊急措置命令によって命じられた本件ポケット内の土砂を採取して撤去することができなかった。
ウ 本件緊急措置命令は,本件ポケット内にたい積した土砂についてのみ先行緊急措置命令を解除するものであり,崩落の原因になっているポケット背後地の崩落対策を無視しているが,ポケット内のたい積土砂を撤去しても,背後地から土砂が繰り返したい積することになり,無意味である。
エ このように,背後地から土砂の流入が予想される状態において,本件ポケット内での土砂の撤去作業は,人の生命・身体に重大な危険を及ぼすものである。
オ 本件ポケット内にたい積した土砂は,液状化した不安定な状態で,水分が抜け安定した状態になるまで相当期間を置かなければ,撤去することはできない。
そして,本件緊急措置命令は,撤去期間を処分を命じた日のわずか3日後に着手して18日以内に完了するよう命じるなど,事実上履行不可能なものであり,このことは,鳥取県の行政代執行による撤去に85日を要したことからも明らかである。
カ 対して,本件災害防止命令に際し,崩落土砂及び撤去土砂を製品化することが,工期及び施工上の安全性などから最善策であると決定したのは鳥取県であるが,先行緊急措置命令を解除することにより,本件ポケット内からの土砂撤去については,十分に対処できたものである。
キ 被告は,本件緊急措置命令後に行政代執行により撤去した土砂約3000立方メートルを本件採石場内に放置したままであり,これは,本件緊急措置命令の履行が不可能であった事実を表している。
ク 本件ポケット内にたい積している土砂は産業廃棄物(建設汚泥)であり,土砂の採石場内保管を禁止し製品化を認めない本件緊急措置命令は,履行不能である。
ケ 自然現象としての土砂の崩落は本件緊急措置命令以降も日々継続して発生しているのであるから,すでにたい積している崩落土砂と当該処分時以降のそれとの識別は不可能であるし,原告は半永久的にたい積土砂の搬出・監視・連絡を要求されることとなり,不当である。
コ 本件緊急措置命令は,「常時監視」と「異常」を発見した場合の関係機関への連絡を命じているが,「異常」とはいかなる事象をいうのか明確性を欠き,命令としての具体性がなく,「常時監視」についても過酷である。
(4) 原告が土砂を撤去すべき事情がないこと
ア 本件ポケット内への土砂の自然崩落は,採石条件を遵守していた原告にとって予見不可能な事柄であって不可抗力によるものである。
当該処分がもっぱら河川管理の観点からなされるものである以上,ポケット内の土砂の搬出は河川管理者の負担と責任でなされるべき筋合いであり,原告が土砂の撤去の責を負う理由はない。
イ 本件ポケット内にたい積した土砂の撤去は,本件災害防止命令に基づいて平成19年8月30日までに履行するよう命じられた「必要な設備」の一内容であるが,崩落災害に迅速に対処するためには,継続した厳重なポケットの維持管理と適切な土砂撤去が必要である。
それにもかかわらず,被告鳥取県知事はこれらを停止させたものであり,本件ポケット内に土砂がたい積して累増するのは,無謀な先行緊急措置命令による人災であるから,新たに災害を防止するための必要な措置を執るのであれば,鳥取県の責任と負担で実施すべきである。
ウ 行政代執行は,本件緊急措置命令の内容にとどめるべきであるが,鳥取県は,当初の堆積量約5000立方メートルを上回る約1万立方メートルの土砂を撤去するなどしている。
第4証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
第5当裁判所の判断
1 本案前の争点(本件緊急措置命令及び本件認可取消処分の取消請求に係る各訴えについて,訴えの利益があるか)について
(1) 本件緊急措置命令について
採石法33条の13第1項所定の緊急措置命令は,「採取計画についてその認可を受けた採石業者」に対して発せられるものであるが,前記前提事実(第2の1)によれば,本件認可の期間の終期である平成14年9月30日はすでに経過しており,かつ,原告については,以降,採取計画の認可はなされていない。
したがって,原告については,もはや「採取計画についてその認可を受けた採石業者」に当たる余地はなく,本件緊急措置命令は当然に失効しているというべきであるから,同命令の取消しを求める法律上の利益はないというべきである(本件緊急措置命令違反によって,原告らが採石法上刑事罰に問われる可能性のある状態にあるとしても,このような状態は,同命令の直接の効果としてもたらされたものではなく,しかもそれ自体事実上の不利益にすぎないから,これをもって本件緊急措置命令の取消しを求める法律上の利益があるとはいえない。)。
よって,本件緊急措置命令の取消請求に係る訴えは不適法である。
(2) 本件認可取消処分について
上記のように,本件認可の期間の終期である平成14年9月30日はすでに経過しているから,本件認可の効力が再び生じる余地はない。そして,後の行政処分等において,認可取消処分を受けたこと自体を不利益に取り扱われる旨の規定はないから,本件認可取消処分の取消しを求める法律上の利益はないというべきである(原告が,処分の違法・不当性を明らかにしたいとの意思を有していることをもって,法律上の利益があるということはできない。)。
よって,本件認可取消処分の取消請求に係る訴えは不適法である。
2 本案の争点(1)(原告が本件認可の採取計画に定められた方法に従わずに残廃土をたい積したか。これが認められた場合,これと本件崩落事故との間に因果関係があるか)について
(1) 本件崩落事故までの経緯等について
前記前提事実(第2の1)に証拠(甲4~12,21~23,乙1~8,11~21,乙22の1~4,乙31,32,乙33の1,2,乙34,39,41,46~50)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件崩落事故までの経緯等について,以下の事実が認められる。
ア 本件滑落崖の確認等
(ア) 原告は,昭和49年6月25日付けで被告鳥取県知事により採石法32条に基づく採石業者としての登録を受け,また,以降,同法33条に基づく岩石採取計画の認可を受け,本件採石場において継続して岩石の採取を行っていた。
(イ) 平成8年9月27日,本件採石場において崩落事故が発生したが,その際,同採石場の上部に滑落崖(本件滑落崖)が確認されたため,土木事務所長は,久本砕石に対し,同年11月13日付けで,同法33条の13第1項に基づき緊急措置命令を発令して,本件採石場における岩石採取の停止及び本件滑落崖の土砂撤去を命じ,以降,防災対策の実施を指導してきた。
(ウ) 平成9年3月31日,久本砕石に対する平成7年3月31日付け岩石採取計画の認可による採取期間が満了した。
イ 本件滑落崖からの土砂撤去の検討等
(ア) 平成10年3月末ころ,鳥取県の当時土木部河川課の担当者であったB(以下「B」という。)らは,原告の当時の代表取締役であるAに対し,本件滑落崖から土砂を撤去する方法として,岩石採取計画の認可によって行う方法を打診した(甲22の305項,甲23)。
すなわち,本件滑落崖における土砂は,雨等によって水分を含んでいる状態であるから,これを撤去するに当たっては,乾燥させて土砂のまま場外搬出するのではなく,土砂を砕石として製品化する方法による方が,撤去した土砂をより多く場外に搬出することができ,便宜である(甲11の10頁)。
具体的には,概ね,① 撤去した土砂を水洗いして土と石を選別し,② 石についてはクラッシャー(砕石機)にかけて規格品の大きさに砕石して(製品化して)場外に搬出し,③ この過程で生じた廃土(水と土の混ざったもの)については脱水して粘土状にするなどした上(この粘土状のものを「脱水ケーキ」という。),残廃土たい積場にたい積する方法による。
そして,撤去した土砂を砕石として製品化する場合は,岩石採取計画の認可が必要となる(甲11の9頁)。
(イ) Aは,岩石採取計画を作成して防災措置を行う意思がある旨即答した。
(ウ) ところで,脱水ケーキは産業廃棄物であるため,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に抵触しないように適正な処分あるいは再利用を図らない限り,採石法上,岩石採取計画を認可することはできない。
そこで,平成10年4月6日以降,A及び原告の役員であったC(以下「C」という。)に対し,本件滑落崖に関する防災対策の指導と並行して,脱水ケーキの処理方法に関する具体的な指導が行われた。
ウ 本件災害防止命令等
(ア) 他方,河川課の担当者は,① 防災対策の実施が本件採石場の全体に及び,また,防災対策の工法検討のためにボーリング調査等の実施が必要であると判断し(甲11の3頁),さらに,② 前記のように,原告の岩石採取計画の認可による採取期間が平成9年3月31日に満了していることから,原告について,本件採石場における岩石の採取を廃止したものに当たると判断した。
そこで,平成10年4月14日,土木事務所長は,原告(代表者・A)に対し,採石法33条の17に基づき,本件災害防止命令を発令して防災計画を検討させることとした。
(イ) 本件災害防止命令の内容は,概ね,以下のとおりである(乙3)。
a 崩落防止のための設備
本件滑落崖の土砂を撤去し,土砂の崩落等の災害を防止するための「必要な設備」を施すこと。
なお,「必要な設備」を施すことについては,次のとおりとする。
① ボーリング調査の実施
② 必要な設備案の提出
①のボーリング調査の結果を踏まえ,土砂の崩落のメカニズムを解明,危険度を明らかにした上で,必要な設備案を郡家土木事務所へ提出すること。
③ 必要な設備
②により提出された必要な設備案をもとに,施すべき「必要な設備」を土木事務所長が通知する。
b 「必要な設備」を通知するまでの防災対策
① 作業道の整備の促進
② 崩落土砂の撤去
③ 採石場上部滑落崖の土砂の撤去
④ その他の防災対策
c その他通報連絡体制の整備
(ウ) そして,前記イの経緯により,本件災害防止命令については,当初から岩石採取計画を認可し,これを実施することによって,命令を履行することが前提とされていた(甲22の243項)。
(エ) 原告(代表者・A)は,(イ)の「必要な設備」を通知するまでの防災対策を履行するため,鳥取県知事に対し,平成10年4月16日付けで岩石採取計画認可の申請をし(甲4),これに対し,鳥取県知事は,同月20日付けで,岩石採取の期間を同日から同年7月21日までとして,認可した(甲5)。
この時の認可においては,採取計画中の「廃土又は廃石のたい積の方法」について,水平層状堆積法を実施することとされ,また,岩石採取の過程で発生する脱水ケーキについては,具体的な処理方法が確定するまでの間,本件採石場内に仮置きし,処理方法が確定した段階で順次処理することとされた。
エ 残廃土のたい積方法についての指導内容等
(ア) 脱水ケーキの処理方法についての指導を受け,A及びCは,廃棄物処理法によって要請される脱水ケーキの処分あるいは再利用について,脱水ケーキを土質改良した後再利用して本件たい積場に盛土した上で植林し,岩石採取残壁を林地に復元するとの構想を示した。
(イ) この構想をもとに,さらにAとCに対し,具体的な汚泥再利用計画を策定するよう指導が始められ,Bが作成した「採石場汚泥再利用技術マニュアル(案)」(乙47)に基づき,特に,① 具体的な造成計画の樹立,② 当該造成計画に合致した強度にするための土質改良方法の検討,③ サンドイッチ工法などの施工上の工夫の明示,の3点を中心として指導がされた。
なお,サンドイッチ工法とは,脱水ケーキの土質を改良したもの(改良土)を盛土材として適用し,表土等による排水層と交互に盛り立てることにより,地下水や雨水によって盛土内に生じる過剰な水分(間隙水)を盛土の自重圧密によって排水層に集め,これを盛土の端部から外部に排水して地下水位の低下を促進し,もって盛土の重量を軽減すること,及び,土の強度(粘着力)を高めることを目的にするものである(乙19,20,乙32の28項以下)。
(ウ) また,本件たい積場においては,最終的に30メートル以上の盛土が予想されていた(甲22の64項及び添付の縦断面図,乙32の15項,乙33の1)が,採石技術指導基準により,地盤面からその直上のたい積面までのたい積物の鉛直高の最大値が10メートルを超える場合については,たい積場の安定計算等をすることとされている(乙48)。
そして,土質力学上,安定計算における最小安全率(Fs)は,地震時で1.0以上,通常時で1.2以上であることが要請され(乙21の6丁,乙32の43項),これを下回るような場合は盛土の法先が円弧状に地滑りを起こして崩壊する(乙21の3丁)危険性があるため,認可行政上も上記の数値を満足することを要求している。
そこで,Bらは,A及びCに対し,盛土の安定計算を行うよう指導した(乙32の14項以下)が,具体的には,最低限の目標値である上記の数値を達成するため,① サンドイッチ工法の施工による間隙水圧の消滅,及び,② 地滑りが想定される面に沿って土同士の抵抗力を維持するため,脱水ケーキの土質を改良した第3種改良土の強度(粘着力)を25tf/m2とすることの指導がされた(乙32の28項以下,43項以下,52項)。
オ 「設備案施工計画書」等の提出等
(ア)原告(代表者・A)は,平成10年7月13日,① 本件採石場内に土質改良機械を設置し,セメント系固化材ジオライトを脱水ケーキに対して1パーセント混合して,第3種改良土を目標強度である25tf/m2に土質改良すること,② 採石場内で発生する砕石の材料にできない表土を利用し,第3種改良土4メートルに対して表土1メートルの高さの排水層を造成するサンドイッチ工法を内容とした,汚泥再利用計画書を原告に提出した。なお,盛土の法面の安定計算については,最小安全率(Fs)が常時1.41,地震時1.15と計算されていた(甲7)。
同月23日,鳥取県土木部長は,汚泥再利用計画書のとおり承認した(甲8)。
(イ)他方,原告(代表者・A)は,本件災害防止命令に基づき,ボーリング調査を実施した上,平成10年7月13日,土木事務所長に対し,「災害防止命令に基づく必要な設備案について(提出)」との書面(乙5)を,以下の各文書を添付して提出した。
a 設備案施工計画書(乙6)
(a) 同文書には,「1 岩石採取場の区域」,「2 採取をする岩石の種類及び数量」,「3 採取の期間」,「4 岩石の採取の方法及び岩石の採取のための設備等に関する事項」,「5 岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項」,「6 岩石の賦存の状況」,「7 採取をする岩石の用途」,「8 廃土又は廃石の堆積方法」との欄,及びそれぞれの内容についての記載がある。
このうち,「3 採取の期間」には,平成20年末までの予定と記載されている。
また,「8 廃土又は廃石の堆積方法」には,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。別紙,斜面の安定計算書を参照。」とされているが,この,「斜面の安定計算書」は,後記cの「残廃土堆積のり面の検討」中の「残廃土堆積安定計算(常時)」等を指している(甲22の237項)。
(b) この「設備案施工計画書」には,「岩石採取場の管理,監督計画書」,「採取した岩石の搬出方法及び搬出経路等」,「基本的事項」等の書面が添付されている。
このうち,「基本的事項」には本件採石場の範囲,本件滑落崖からの土砂撤去の作業行程等が記載されている。
b 土工検討書(乙7)
同文書には,改良土4メートルと表土1メートルを交互に積み重ねるサンドイッチ工法を内容とする,残廃土のたい積処理方法等が記載されている。
c 残廃土堆積のり面の検討(乙8)
(a) 同文書は,「残廃土堆積安定計算(常時)」や「残廃土堆積安定計算(地震時)」等からなるが,これらには,残廃土のたい積方法について,改良土の強度(粘着力)を25tf/m2とした上,サンドイッチ工法を施工して盛土中の間隙水を排水して消滅させることにより(それゆえ,同書面においては地下水位はないものとして計算されている。),盛土の法先の最小安全率について,通常時を1.34,地震時を1.04と計算したの安定計算が記載されている。
そして,サンドイッチ工法の具体的な施工方法については,旧たい積層の上にまず改良土2メートルをたい積し,その後,表土1メートル,改良土4メートルの順に順次たい積することとして,新たい積層のみならず,旧たい積層とを合わせて,全体としての盛土の安定を図っている。
(b) なお,上記の各安定計算書においては盛土の法面の先まで排水層が達していないが(乙8の2丁),法面の前面は礫質土を使用して間隙水を排水しやすくする予定であった(甲22の108項,乙32の170項以下)。
d 排水計算(乙8の29丁以下)
(ウ)鳥取大学副学長らで構成される原告の安全対策検討委員会は,久本砕石が提出した(イ)の各文書を検討した結果,原告のボーリング調査結果等を基に委員会が独自に検討していた防災対策と相違がないことから,これを採用することとした(甲11の3頁)。
そこで,土木事務所長は,原告(代表者・A)に対し,平成10年7月14日付けで,要旨「本件災害防止命令第1項の『必要な設備』は,平成10年7月13日付けで久本砕石より提出のあった内容とする。」との本件設備通知をした(乙4)。
なお,「必要な設備」等について,今後計画変更の必要が生じた場合は,速やかに協議することとされた。
カ 第1次認可
(ア)原告(代表者・A)は,平成10年7月15付けで,本件災害防止命令に基づく必要な設備を履行するため,岩石採取計画の認可申請(以下「第1次認可申請」という。)をした。
(イ)同認可申請に係る申請書の記載内容等は,以下のとおりである(乙11)。
a 同申請書には,「(本件)災害防止命令により決定された土砂の崩落等の災害を防止するための必要な設備を履行するため。採石法第33条の規定に基づき,次のとおり採取計画の認可を申請します。」との記載がある。
b また,同申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載内容は前記オの「設備案施工計画書」の記載内容と同一であり,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。別紙,斜面の安定計算書を参照。」と記載されている。
そして,この「斜面の安定計算書」とは,サンドイッチ工法等を採用した前記オの「残廃土堆積安定計算(常時)」等を指す。
c なお,同申請書には,「岩石採取場の管理,監督計画書」等の書面が添付されている。
(ウ)被告鳥取県知事は,上記認可申請を受けて,また,前記汚泥再利用計画が承認されたことも踏まえ,平成10年7月31日付けで,採取の期間を平成10年8月1日から平成11年7月31日までなどとし,いくつかの認可条件を付すなどしたほかは,上記申請書のとおりに岩石採取計画の認可をした(第1次認可・乙11)。なお,第1次認可における採取の期間については,後に平成11年9月30日までと変更された(甲9の34丁)。
キ 第2次認可等
(ア)第1次認可後,脱水ケーキに石灰1パーセントを加えて第3種改良土にした上(甲22の145項以下,乙41),本件採石場の現場監督者であるCの指示により,サンドイッチ工法における改良土の最初の2メートルの部分を本件たい積場にたい積していったが,その途上の平成10年9月25日及び同年10月17日,本件採石場において崩落事故が発生した。
この事故により,第3種改良土を製産する砕石プラントが被災し,サンドイッチ工法の施工は一時実施できなくなったが,平成11年4月,上記砕石プラントは復旧し,遅くとも同年6月以降,改良土のたい積が再開されるようになった。もっとも,本件第2次認可までは,改良土の最初の2メートルの部分以内のたい積に止まり,排水層(表土層)のたい積には至らなかった。
(イ)上記崩落事故を受け,土木事務所長とAとの間で本件災害防止命令に基づく「必要な設備」の見直しについて検討され,その中で,「廃土または廃石のたい積の方法」である「表土及び脱水ケーキ処理計画」についても検討された(甲9の13丁,乙32の185項)。
そして,「表土及び脱水ケーキ処理計画」については「基本的には提出内容のとおり」とされ,サンドイッチ工法を施工することがそのまま確認された(甲22の318項以下,乙32の186項)。
(ウ)原告(代表者・A)は,平成11年9月22日付けで,本件災害防止命令に基づく「必要な設備」を履行するため,岩石採取計画の認可申請をした(以下「第2次認可申請」という。)。
同認可申請に係る申請書の記載内容等は,以下のとおりである(甲9)。
a 同申請書には,「(本件)災害防止命令により決定された土砂の崩落等の災害を防止するための必要な設備を履行するため。採石法第33条の規定に基づき,次のとおり採取計画の認可を申請します。」との記載がある。
そして,同申請書には本件設備通知(乙4)の写しが添付されている。
b 同申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載については,「脱水ケーキを第3種改良度に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。」とのみ記載されており,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載はない。
c 同申請書に添付されている「岩石採取場の管理,監督計画書」中の「業務管理者の現場監督計画」欄には,本件第1次認可申請に係る申請書にはなかった,「災害防止命令に基づく必要な設備の項目を厳守する。」との記載が追加されている。
d また,同申請書には,必要な設備の見直しについての検討結果(上記(イ))を記載した,「災害防止命令に基づく必要な設備の見直しについて(解答)」が添付されている。
(エ)被告鳥取県知事は,上記認可申請を受けて,平成11年9月30日付けで,採取の期間を平成11年10月1日から平成12年9月30日までなどとし,いくつかの認可条件を付すなどしたほかは,申請書のとおりに岩石採取計画の認可をした(第2次認可・甲10)。
(オ)第2次認可後,Cは,① 申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」の欄において,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされていないことを理由として,サンドイッチ工法を施工しなくてもよくなったものとし(甲21の80項),また,② 改良土の強度(粘着力)と表土の強度(粘着力)の数字を比較するなどして,そのままでたい積しても構わないと考えたことから,鳥取県(の担当者)やAらの指示を得ることもないまま,特段の工法を採ることなく,第3種改良土と表土をたい積していった(甲21の77項,甲22の191項以下)。
ク 本件認可
(ア)原告(代表者・A)は,平成12年7月27日付けで,本件災害防止命令に基づく「必要な設備」を履行するため,岩石採取計画の認可申請をした(以下「本件認可申請」という。)。
(イ)同認可申請に係る申請書の記載内容等は,以下のとおりである(乙2)。
a 同申請書には,「(本件)災害防止命令により決定された土砂の崩落等の災害を防止するための必要な設備を履行するため。採石法第33条の規定に基づき,次のとおり採取計画の認可を申請します。」との記載がある。
そして,同申請書には,本件設備通知(乙4)の写しが添付されている。
b 同申請書の「廃土又は廃石の堆積方法」欄の記載については,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土処理地へ盛り土を行い処理する。」との記載のみがあり,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載はない。
c 同申請書に添付されている「岩石採取場の管理,監督計画書」中の「業務管理者の現場監督計画」欄には,本件第2次認可申請に係る申請書と同じく,「災害防止命令に基づく必要な設備の項目を厳守する。」との記載がある。
(ウ)被告鳥取県知事は,上記認可申請を受けて,平成12年9月29日付けで,採取の期間を同年10月1日から平成14年9月30日までなどとし,いくつかの認可条件を付すなどしたほかは,申請書のとおりに認可をした(本件認可・乙1)。
ケ 本件崩落事故の発生及びその状況等
(ア)平成13年7月6日,本件たい積場に亀裂等の変状があることが確認され,以後,原告は,同たい積場にほとんど残廃土をたい積していない(甲22添付の縦断面図,乙33の1,2,乙39)。
(イ)平成14年1月24日午後9時過ぎころから同月25日午前2時ころまでの間に,本件崩落事故が発生した。
(ウ)平成10年7月ころの時点における盛土の形状は,別紙2の青色の線であり,盛土の天端の高さは,標高約190メートルであった(別紙2の「DL」は標高を示す。),また,本件崩落事故以前の地形は,別紙2の「崩壊前地形」のとおりであり,平成10年7月ころの時点より,最大で約20メートルの盛土が施工されていた(乙14の1頁,乙18,乙34の138項)。
そして,本件崩落事故後の地形は,別紙2の「崩壊後地形」のとおりである(乙18)。すなわち,本件崩落事故前,別紙2の「泥質片岩(基盤岩)」上には礫質土がたい積していたものであるが,本件では,盛土とともに,この礫質土部分が崩落したものである(甲22の244項,乙32の178項,乙49。なお,この泥質片岩と礫質土では,強度に大きな違いがある(乙34の144項)。)。
コ 本件たい積場にたい積された第3種改良土の強度(粘着力)
本件崩落事故後に実施された土質試験結果等によれば,本件たい積場にたい積された第3種改良土の強度(粘着力)について,1.5~5tf/m2の範囲内であった(乙13,14)。
(2) 以上の認定事実をもとに,まず,争点(1)アについて検討する。
ア 採石業者が岩石の採取を行おうとするときは,当該岩石の採取を行う場所(以下「岩石採取場」という。)ごとに採取計画を定め,当該岩石採取場の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受けなければならない(採石法33条)。
そして,採取計画に定めるべき事項は,① 岩石採取場の区域,② 採取をする岩石の種類及び数量並びにその採取の期間,③ 岩石の採取の方法及び岩石の採取のための設備その他の施設に関する事項,④ 岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項,⑤ 岩石の賦存の状況,⑥ 採取をする岩石の用途,⑦ 廃土または廃石のたい積の方法である(採石法33条の2第5号,同法施行規則8条の14)。
なお,採石法33条の認可を受けた砕石業者は,当該認可に係る採取計画に従って岩石の採取を行わなければならない(採石法33条の8)。
イ 本件では,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められていたかが問題となるが,まず,第1次認可の採取計画において,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法が定められたことについては当事者間に争いがない。
そして,上記認可申請に係る申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄記載の「斜面の安定計算書」については,前記認定((1)カ(イ)b)のとおり,「残廃土堆積のり面の検討」中の「残廃土堆積安定計算(常時)」等を指すものであるが,これには,サンドイッチ工法を施工することのほか,第3種改良土の強度を25tf/m2とすることが定められている。
したがって,第3種改良土の強度を25tf/m2とすることについても,第1次認可の採取計画として定められたことが認められる。
ウ 次に,本件認可に係る「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められていたかについて検討する。
(ア)この点,本件認可申請(及びこれに先立つ第2次認可申請)に係る申請書の本体部分の「廃土又は廃石の堆積方法」欄には,「脱水ケーキを第3種改良土に安定処理した後,残廃土とともに残廃土堆積処理地へ盛り土を行い処理する。」との記載があるが,第1次認可申請に係る申請書とは異なり,サンドイッチ工法等の具体的内容を示す「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされていない。
a しかしながら,本件認可申請(及びこれに先立つ第2次認可申請)の前後の経緯を見ても,サンドイッチ工法等と異なるたい積方法が定められた形跡は窺えず,上記の記載がないことのみによって,サンドイッチ工法等とは別個の具体的なたい積方法が定められたと解することはできない。
なお,Aは,盛土の勾配について,第1次認可においては1:1.2としていたのに対し,第2次認可においては1:1.8とより安全に計画して施工したなどと供述する(甲23の3頁)が,同人の指摘する縦断面図上(乙2の4,乙12の3,証人A調書2項)このことは窺われず,また,盛土勾配の比率を変えるなどのみによって,サンドイッチ工法等に代わる具体的なたい積方法が示されたとも解しがたい。
b また,本件認可(及びこれに先立つ第2次認可)において,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がないことのみをもって「廃土または廃石のたい積の方法」について,何ら具体的に定められないまま認可がされたと解することもできない。
すなわち,本件認可(及びこれに先立つ第2次認可)において認可された申請書には,① (本件災害防止命令に基づく)「必要な設備」を履行するため採取計画の認可を申請する旨の記載があり,また,② 「必要な設備」については原告が平成10年7月13日付けで提出した「設備案施工計画書」等の内容とする旨の本件設備通知が添付されている。そして,③ 原告が同日付けで提出した「設備案施工計画書」等は,まさに岩石採取計画の認可に際して要求される事項等を内容としており(前記(1)オ(イ)),その中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄には,サンドイッチ工法等を表す「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載がされているのである。
そうすると,本件認可申請(及び第2次認可申請)に関しては,申請書,申請書の添付書類である本件設備通知,そして,本件設備通知が引用している「設備案施工計画書」等とを一体としてみる必要があるというべきであり,これにより,「廃土または廃石のたい積の方法」として,サンドイッチ工法等が定められたと合理的に解することができる。
しかも,前記認定((1)キ(ウ)c等)のとおり,第2次認可申請以降は,申請書の本体部分添付の「岩石採取場の管理,監督計画書」において,「災害防止命令に基づく必要な設備を厳守する。」との文言が追加して記載されるようになっており,「必要な設備」を遵守する姿勢がより明らかになっているともいえる。
(イ)このように,本件認可(及びこれに先立つ第2次認可)に係る採取計画の内容についてもサンドイッチ工法等が定められたと認められ,これに反する原告の主張は,以下のとおり採用できない。
a 「廃土または廃石のたい積方法」は「必要な設備」に含まれないとの点について
(a) 原告は,① 本件災害防止命令には,「採石場上部滑落崖の土砂を撤去し,土砂崩落等の災害を防止するため必要な設備を施すこと」との記載があるのみで,残廃土たい積に関する事項はない,② 同命令は,「採石場上部滑落崖」について添付の別紙平面図のとおりとすると限定しているが,同別紙平面図には本件たい積場は含まれていないと主張する。
しかしながら,同命令の記載上,「必要な設備」を「土砂の撤去」に限定しているとは解されないし,また,「必要な設備」から残廃土たい積に関する事項を除外しているとも解されない(上記①の点)。
また,同命令の記載上,「必要な設備」の施工箇所について「採石場上部滑落崖」に限定しているとは窺えず,上記平面図に本件たい積場が明示されていないとしても,「必要な設備」の施工箇所から残廃土たい積場を除外する趣旨とは解されない(上記②の点。なお,同平面図には本件たい積場も含まれている(同平面図と甲11の5頁等を対照)。)。
(b) 原告は,① 「設備案施工計画書」は,設備案と施工計画(採取計画)案を区分して検討されたものであり,また,② 必要な設備を承認した土木事務所長には,採取計画の必須要件である残廃土のたい積方法を認可する権限はなかったと主張する。
しかしながら,「設備案施工計画書」(乙6)の記載上,原告主張のように截然と区別して考えることは困難である(上記①の点)。
また,土木事務所長は,残廃土のたい積方法を認可したものではなく,被告鳥取県知事による採取計画の認可を前提として,残廃土のたい積方法についても「必要な設備」の一内容としたに過ぎず,このことは特段不合理ではない(上記②の点)。
(c) 原告は,残廃土のたい積方法(サンドイッチ工法)については,平成10年7月23日付けの汚泥再利用計画の承認によって決定されたものであり,それに先立つ本件設備通知で決定されたと考えることはできないと主張する。
しかしながら,サンドイッチ工法の施工について汚泥再利用計画の承認及び岩石採取計画の認可で実現されることを前提として,予め本件設備通知によって「必要な設備」の一内容としておくことは特段不合理ではない。
(d) 原告は,災害防止命令は,「岩石の採取を廃止した者」に対してのみ発動できる命令であるが,採石行為を廃止した者が,採石行為に伴う残廃土を発生させることはあり得ず,残廃土のたい積方法が,同命令に基づく「必要な設備」に定められるいわれはないと主張する。
しかしながら,岩石の採取を廃止した者に対して災害防止命令を発令した上,必要があれば改めて岩石採取計画の認可をすることを禁止する理由はなく,災害防止命令を発令して必要な設備案の提出を求めた上,岩石採取計画の認可を前提とした記載のある必要な設備案について,「必要な設備」として採用することも許される。
(e) 原告は,鳥取県はその後も,本件災害防止命令に従った防災対策の内容について,① 採石場上部の崩落の危険のある土砂の撤去,② 土砂止めスペースの確保,の2つであると明確に公表しているが,いずれにも残廃土のたい積方法に関わる内容はないと主張する。
しかしながら,原告が指摘する,鳥取県土木部河川課作成の「a町市瀬採石場の防災対策の概要」(甲11)は,あくまで「防災計画の概要」として,上記①,②を挙げたにとどまり,撤去した土砂のたい積方法について防災対策に含まれないとしているとは解されない。
(f) そもそも,前記認定((1)キ(イ))のように,第2次認可に先立って,Aと被告土木事務所長は「必要な設備」の見直しの検討の中で,表土及び脱水ケーキ処理計画すなわち「廃土または廃石のたい積方法」についても検討しており,Aにおいても,「廃土または廃石のたい積の方法」が「必要な設備」に含まれるとの認識を有していたことは明らかである(Aは,当時は全体の防災計画を指す際に「必要な設備」と誤用していた旨供述するが(甲22の310項),本件災害防止命令は本件採石場全体の防災計画に関するものであるから,防災計画を指す際に「必要な設備」と称することが,必ずしも誤用とはいえない。)。
(g) したがって,「廃土または廃石のたい積の方法」が「必要な設備」に含まれないとの原告の主張は採用できない。
b 第2次認可以降は,採取計画の認可によって,「必要な設備」は変更されたなどの点について
(a) 原告は,第2次認可以降,認可申請書において,① 「必要な設備」の内容を作業工程表及び土砂採取(排土)量集計表に明確に区別して表示し,② 「廃土又は廃石の堆積方法」欄においては,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載を削除してサンドイッチ工法を採用しないこととしたと主張する。
しかしながら,第2次認可申請等に係る申請書の記載上(甲9),「必要な設備」の内容が原告主張のものに限定されているとは解されない(上記①の点)。
また,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載をしなかったことによって,サンドイッチ工法とは別の具体的なたい積方法が示されたと解することができないのは前記のとおりであり,これをもって「必要な設備」が変更されたなどとはいえない。
(b) 原告は,鳥取県は,綿密に事前審査するなどして,本件認可をしたものであるから,本件認可において,残廃土をサンドイッチ工法で堆積させることは採取計画の内容になっていないと主張する。
しかしながら,まず,第2次認可については,申請書中の「廃土又は廃石の堆積方法」欄において,「別紙,斜面の安定計算書参照」との記載はされていないが,前記認定((1)キ(イ)~(エ))のとおり,第2次認可申請に先立って,A及び土木事務所長との間で「廃土または廃石のたい積の方法」について見直しが検討された際,サンドイッチ工法等を施工することがそのまま確認されているのである。
したがって,第2次認可については,鳥取県がサンドイッチ工法等を採取計画の内容としていることは明らかである(この点,Aは,上記「必要な設備」の見直しは,本件第1次認可の期間を平成11年9月まで延長したのに伴い,この期間内に実施すべき事項についてなされたものであると供述する(甲22の319項)が,同検討結果を記載した書面上(甲9の12丁),そのように限定して解することはできない。)。
そして,第2次認可以降,本件認可までに,「廃土または廃石のたい積方法」について,異なった事前審査がされたことを窺わせる証拠はないから,本件認可においても,鳥取県側はサンドイッチ工法等を採取計画の内容としていたものというべきである。
(c) Cは,本件認可後の平成12年12月27日付けで,土木事務所長に対し,本件認可の認可条件に基づく施工計画書を提出している(甲13の1,2)が,改良土のたい積方法については,「脱水処理された廃土については,土改良プラントで第3種改良土に改良し,ダンプトラックにより改良土堆積場に運搬し,ブルドーザーにより1層50cm以内の厚さで敷均し締め固める。」とのみ記載し,必ずしもサンドイッチ工法の施工を明示していない。
しかし,上記記載については,サンドイッチ工法の改良土層部分のたい積方法を具体的に述べたものとも読むことができるから,必ずしも土木事務所長がサンドイッチ工法を施工しないことを承認していたことを示すものではないというべきである。
したがって,上記記載は,本件認可に係る採取計画においてサンドイッチ工法が定められなかったことを根拠づけるものとはいえない。
(d) 以上に加え,本件崩落事故後に開催された,久本砕石に対する採取計画の遵守義務違反(サンドイッチ工法等の不施工)等に基づく本件認可取消処分に係る聴聞会において,当時の代表取締役社長であるD(以下「D」という。)は,処分理由自体は特に争っていないのである(乙46の6頁。なお,Aは,Dはサンドイッチ工法について分かっていない旨供述するが(甲22の89項),上記聴聞会において,Dは,自らサンドイッチ工法の経験があることについて述べており(乙46の3頁),被告Aの供述は採用できない。)。
(e) よって,第2次認可以降は,採取計画の認可によって,「必要な設備」は変更されたなどとの原告の主張は採用できない。
エ 以上によれば,サンドイッチ工法等については本件認可に係る採取計画においても定められていたと認められるところ,原告は,前記認定((1)キ(オ),コ)のように,(少なくとも第2次認可以降)採取計画に定められたサンドイッチ工法等に従わずに残廃土をたい積したものと認められる(なお,第2次認可までは,前記認定のように,改良土の最初の2メートルの部分以内のたい積に止まり,そもそも表土層のたい積までには至らなかったものである。)。
(3) 次に,争点(1)イについて検討する。
ア 市瀬採石場土砂崩落事故調査委員会は,本件崩落事故前における本件たい積場の盛土について,① 地表面まで地下水が上昇した状態にあり,② その強度(粘着力)が3.5tf/m2であることを前提として,法先のすべり面の安全率(Fs)を0.95であると判定したが(乙14の19頁),その内容に特段不合理な点は存在しない。
そして,この安全率については,盛土の法先について通常時要求される最小安全率1.2のみならず,地震時の最小安全率1.0をも下回るものであって,盛土の法先が円弧状に崩壊する状態であったと認められる(乙14の19頁参照)。
なお,本件たい積場の盛土について地下水が上昇した状態であった原因は,久本砕石がサンドイッチ工法を施工せずに約20メートルも盛土をした結果,盛土の排水性が悪い状態にあったことによるものと考えられる(乙14の19頁,乙33,34)。
イ また,本件たい積場の崩落形態を見ると,千代川に崩落した土砂は,幾重にも重なるように堆積しており,非常に軟質な粘性土が,段波のように押し寄せた形状が確認できる(乙14の2頁)。
ウ 以上によれば,本件崩落事故については,① 第3種改良土の強度(粘着力)不足と,サンドイッチ工法を施工しなかったことで盛土内の地下水位が地表付近まで上昇したこととが相俟って,盛土の法先の安全率が崩落発生の程度にまで低下するなどし,② 盛土の斜面端部の土堤にかかる圧力が増大するなどして,③ その結果,土堤の礫質土部分を含む盛土の法先が崩壊し,④ その背後の土塊が不安定化し,順次崩壊が波及したものと認められる(乙13,14,18。別紙2参照)。
したがって,原告が少なくとも第2次認可以降,採取計画に定められたサンドイッチ工法等に従わずに残廃土をたい積したことと本件崩落事故との間には因果関係があると認められる(原告は,本件崩落事故は自然現象によって生じたものであるとするが,採用できない。)。
3 本案の争点(2)(本件緊急措置命令の適法性)について
(1) 採石法33条の13第1項は,都道府県知事は,① 岩石の採取に伴う災害の防止のため,② 緊急の必要があると認めるときは,③ 採取計画についてその認可を受けた採石業者に対し,岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきこと又は岩石の採取を停止すべきことを命ずることができると規定する。
(2) この点,前記前提事実(第2の1)並びに証拠(甲14,15,19,20,23,乙12,24~27,38,証人A,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,本件緊急措置命令に至る経緯等について,以下の事実が認められる。
ア 本件崩落事故を受けて,土木事務所長は,岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があるとして,原告に対し,平成14年1月29日付けで先行緊急措置命令を発令し,同日から別途指定する日まで,本件採石場内における岩石の採取の停止を命じた。
先行緊急措置命令は,原告が岩石を採取して製品化する過程で,新たな残廃土を再び採石場内にたい積することによる災害の発生を防止することが目的であった。
イ 平成14年2月15日,鳥取県土木部(現県土整備部)河川課の管理係長であったE(以下「E」という。)は,郡家土木事務所から,本件採石場内において新たな土砂崩落が発生したという報告を受けた。
その内容は,① 同日午後3時ころ,本件採石場北側斜面の地滑り土塊から約5000立方メートルの土砂が崩落し,そのうち約2000立方メートルが本件ポケットの上流側(別紙1の下側)部分に流入し,残りの約3000立方メートルが本件ポケット上部の斜面に滞留している,② 本件ポケットの上流側部分のたい積量は,すでにたい積していた土砂と合わせて約4000立方メートルであり,本件ポケットの下流側部分には,今回崩落した土砂は流入していないものの,すでに約3000立方メートルの土砂がたい積しているというものであった(乙27)。
ウ ポケットとは,採石場斜面下部に掘られた大きな穴のことで,本件ポケットについては,上下流側部分ともそれぞれ約1万立方メートル(合計約2万立方メートル)の容量があり,主として,土砂崩落が起こった際に,崩落土砂が千代川に一気に流入しないようにその土砂を受け止めるためのものであり,原告が設置したものである。
鳥取県としても,本件ポケットの維持管理については特に重要視しており,たい積した土砂は撤去して常時ポケットを空にしておくよう原告を指導していた。
そして,上記の土砂崩落に起因して,斜面に未だ約3000立方メートルの土砂が滞留しており,今後の降雨等の状況によっては,斜面に滞留した土砂が泥流化することが考えられ,また,新たな土砂崩落が起こる可能性もあることから,鳥取県側は,河川への土砂流入による災害を防止するため,早急に本件ポケット内の土砂を撤去する必要があると判断した。
エ ところで,土砂の撤去の方法について,従前は,原告が採取計画の認可に基づいて,土砂を砕石として製品化した上で搬出していたが,先行緊急措置命令によって本件採石場内における岩石の採取の停止が命じられていたため,製品化せずに採石場外に搬出する方法を採ることが必要であった。そして,鳥取県は,採取計画の認可に関する従前の経緯等から,原告の土砂撤去能力について,大体,土砂を製品化して搬出する場合は1日2000立方メートル,土砂のまま搬出する場合は1日1000立方メートル程度との認識であった(乙24,証人E調書64項)。
なお,土砂の採石場外への搬出に当たっては,本件ポケット内の土砂が泥流状であるため,いったん本件採石場内に仮置きして水を切ることが必要であるが,Cは,鳥取県の担当者に対し,土砂の仮置場所を確保するためには,既存の砕石製品を本件採石場外に搬出する必要があると述べた。
オ 鳥取県の担当者は,上記の撤去方法について協議した結果,土砂の仮置きのために砕石製品を本件採石場外に搬出する必要があるかどうかは,鳥取県の命令に対して原告が判断すべきことであり,撤去命令が優先であるとの結論になり,同月16日付けで原告に対し,本件緊急措置命令が発令され,命令書が交付された。
本件緊急措置命令においては,土砂の撤去期間を平成14年2月19日から3月8日までとし,他方,本件ポケットからの土砂の撤去も岩石の採取に当たることから,本件ポケットに係る部分については先行緊急措置命令が解除された。
カ Aは,本件緊急措置命令を受けたが,同命令は,必然性,緊急性がなく,先行緊急措置命令と矛盾する内容であり,ポケット内の土砂の撤去のためには,採取計画の変更認可を行うか,採石法の定める変更命令の規定を適用させるべきであると考え,Cに対し,慎重に対処するよう伝えた。
そのためもあってか,原告は本件緊急措置命令によって命じられた土砂の撤去に着手することなく経過した。
キ 他方において,鳥取県側は,行政代執行法に基づく戒告処分等の事務についても並行して進めていたが,原告が土砂の撤去に着手しようとしないことから,同月22日付けで代執行通知を行った上で,同月25日に行政代執行に着手し,同年6月17日に終了した。
この行政代執行に当たっては,土砂撤去作業を行う業者が採石業者でない建設業者であったことから,安全性を確保するため,機械による無人化施工で行われた。
なお,本件ポケットから撤去した土砂は,いったん本件採石場内に仮置きした上で採石場外に搬出したが,その際,予め砕石製品を搬出しなければならないといったことはなかった。また,採石場外に搬出した土砂の量は,約1万立方メートルであった。
結局,原告は,本件緊急措置命令によって命じられた土砂の撤去を,全く履行しなかった。
ク 本件緊急措置命令の後も,本件ポケット内には,土砂が引き続いて崩落していた(証人E調書78項)。
(2) 以上の認定事実をもとに,本件緊急措置命令の適法性について検討する。
ア 目的について
(ア)本件緊急措置命令は,本件採石場において,崩落土砂が千代川に流入しないよう設けられた本件ポケットの容量を確保することを目的としており,岩石の採取に伴う災害の防止を目的としたものといえる。
(イ)これに対し,原告は,本件採石場外に砕石の加工施設を有していないから,本件緊急措置命令で命じられた土砂を本件採石場外に搬出することは,砕石業者の営業上の岩石の採取に該当せず,本件緊急措置命令は,もっぱら河川の管理を目的としており,岩石の採取に伴う災害防止を目的としていないと主張する。
しかしながら,本件緊急措置命令の必要な措置として命じられた土砂の搬出が,営業上の岩石の採取に該当しないとしても,これをもって本件緊急措置命令が岩石の採取に伴う災害の防止を目的としたものではないとはいえない(前記2(1)記載のとおり,本件災害防止命令の履行のためではあるが,3次にわたる岩石採取計画が認可されており,その採取の過程に発生した残廃土のたい積場の崩落による土砂が千代川に流入することを防止するために,本件ポケットの容量を確保しておくものであるから,岩石の採取に伴う災害の防止を目的としていることは明らかである。)。また,土砂の河川流入を防ぐことが災害防止の目的に含まれないとは解されない。
なお,本件ポケット内の土砂は本件崩落事故によってたい積したものではないが,このことは,本件緊急措置命令の目的が災害防止の目的にないことを基礎付けるものではない。
したがって,原告の主張は採用できない。
イ 緊急性について
(ア)本件ポケットのたい積容量は合計約2万立方メートルであるが,① 本件緊急措置命令当時,本件ポケット内には相当量(約7000立方メートル)の土砂がたい積し,ポケット上部の斜面には約3000立方メートルの土砂が滞留していたこと,② 本件緊急措置命令に先立って,本件ポケットに隣接する本件たい積場において,約14万立方メートルの崩落土砂が千代川に流入する本件崩落事故が発生したこと(なお,本件ポケットは本件たい積場の下流側の,一番低い位置に存在しているから(証人A調書8項,41項),本件たい積場から本件ポケットに土砂が崩落する危険性も否定できない。),③ 本件緊急措置命令当時,雪解け等によって地盤が軟弱化しやすい状態であったこと(弁論の全趣旨)によれば,本件ポケットのたい積容量を超えるような崩落事故の発生に備えて,本件ポケットの容量を可能な限り確保しておく緊急の必要性があったといえる(なお,前記認定のように,本件緊急措置命令後も,本件ポケット内には,土砂が引き続いて崩落していた。)。
(イ)これに反する原告の主張は,以下のとおり採用できない。
a 原告は,本件ポケットについては優に3万立方メートル程度のたい積容量があるところ,本件処分の契機となった土砂の崩落量は5000立方メートルであり,これが自発的に流出して災害を発生させることはあり得ず,本件緊急措置命令は,不可抗力的に発生する不特定な災害を想定したものであり,緊急性の要件を欠くと主張する。
しかしながら,(本件ポケットのたい積容量については,前記のとおり約2万立方メートルと認められるが)土砂の崩落量等についての原告の主張を前提としても,本件ポケットのたい積容量を超えるような崩落事故が発生する具体的危険性のあることは,前記のとおりであり,緊急性を否定することはできない。
b 原告は,平成11年から13年にかけて,ポケットの背後地の山腹から発生した不可抗力による崩落は十数回に及んでおり,その都度1万立方メートルないし3万立方メートルの土砂がポケット内に流入してたい積したが,一度も緊急措置命令が発令されたことはなく,本件ポケット内にたい積した土砂は,過去の実績と比較して最低量の部類であるのだから,本件緊急措置命令には緊急性がないと主張する。
しかしながら,本件緊急措置命令は,過去の崩落の規模を大きく超える本件崩落事故のあった1か月以内に新たに発生した土砂崩落を理由としてなされていることを考えると,単純に過去の崩落量や本件ポケット内の土砂のたい積量を比較して,緊急性を否定することはできない。
なお,鳥取県が行政代執行により土砂約1万立方メートルを撤去したことで,危険性が除去できたなどとはいえない。
ウ 手段の必要性・相当性について
(ア)本件緊急措置命令は,原告に対し,災害の防止のための必要な措置として,① 発令後3日目から18日間での本件ポケット内の土砂撤去,② 本件採石場の常時監視・連絡を命じているが,これらの措置が上記の緊急状況化において災害防止の目的を達成するための必要な手段であることは明らかである。
そして,原告は,本件採石場において採石業に従事しており,土砂撤去の能力を有すること,及び,平成10年10月の時点での千代川流入土砂撤去実績によれば,製品化せずに土砂のまま場外搬出する場合でも,1日当たり約1000立方メートル搬出できていたこと(乙24の10頁)によれば,上記①の措置について相当性を欠くとはいえない。
また,原告は,岩石採取の際には,従前から本件採石場に監視人を常駐させ,緊急時に備える態勢を執ってきたのであるから(甲4の2丁表,証人E調書80項以下),上記②の措置についても相当性を欠くとはいえない。
(イ)これに反する原告の主張は,以下のとおり採用できない。
a 原告は,先行緊急措置命令によって本件採石場における岩石採取の停止を命じたにもかかわらず,本件緊急措置命令によって先行緊急措置命令を一部解除して,本件ポケット内にたい積した土砂の撤去を命じたのであり,本件緊急措置命令は,先行の処分に矛盾した不当な処分であると主張する。
しかしながら,先行緊急停止命令による岩石の採取の停止は,岩石の採取後,製品加工する際に本件採石場内にたい積される残廃土が崩落し,崩落土砂が千代川へ流入することを防ぐことものであり,他方,本件緊急措置命令によるたい積土砂の搬出は,本件ポケット内のたい積容量を確保し,新たなたい積土砂が千代川へ流入することを防ぐものであって,両者が矛盾するものではない。
b 原告は,先行緊急措置命令は,本件採石場における原告の既存の設備・施設の使用を不可能にするものであるから,本件緊急措置命令で命じられた本件ポケットからのたい積土砂の撤去も不可能であると主張する。
しかしながら,先行緊急措置命令で停止したのは「岩石の採取」であり,原告の既存の設備・施設の使用までを停止したものとは解されず,また,本件緊急措置命令によって,本件ポケットにおける岩石の採取については一部解除しているから,少なくとも本件ポケットからの土砂の撤去のために既存の設備・施設を使用することは,何ら禁止されていないと解される。
c 原告は,本件ポケット内の一部のたい積土砂を撤去しても,撤去跡には背後地からの流入土砂が繰り返したい積することになり,無意味であると主張する。
しかしながら,土砂の流入が予測されるからこそ,本件ポケット内から一部でもたい積土砂を撤去することにより,その分災害の危険性はより少なくなるのであるから,本件ポケットからのたい積土砂の撤去が無意味であるなどとはいえない。
d 原告は,背後地からの土砂流入が予想されるようなポケット内での土砂の撤去作業は,人の生命・身体に重大な危険を及ぼすものであるから,実行不可能であると主張する。
たしかに,ポケット内における作業に危険の存することは否定できないが,緊急措置命令は,そもそも災害の防止のため緊急の必要がある場合に発令されるものであり,その履行の必要性は高く,一方,原告が主張するように実行不可能であるほどの危険性が存すると認めるに足りる証拠はない。
e 原告は,本件ポケット内のたい積土砂は,液状化した泥土であり,本件緊急措置措置命令のわずか3日後に撤去に着手して,18日以内に完了することは不可能であると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は泥土を1か月かけて自然乾燥させて撤去することを前提としていると考えられるが(甲23の5頁),完全に乾燥させる必要性があるとまでは考えられない(証人E調書177項)。
また,Aは,泥土については,1日当たり300立方メートルしか水切りをする場まで運ぶことができないと供述する(証人A調書8項)が,仮にこの供述を前提としても,順次水切りをした後に本件採石場外に搬出する方法により,本件ポケットに当初たい積していた土砂の大半を撤去することも可能であったと考えられるから,本件緊急措置命令が相当性を欠くものであったとはいえない。
なお,鳥取県側の行政代執行に85日間を要しているとしても,証拠(乙38,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,代執行時に費やした日数は40日程度であること,採石業者ではない建設業者によって撤去したこと,機械による無人化施工で行ったことなどが認められるから,上記の期間をもって,本件緊急措置命令が当初から履行不可能であったとはいえない。
f 原告は,本件ポケットにたい積した土砂は,液状化した不安定な状態で,水分が抜け安定した状態になるまで相当期間を置いた方が撤去に際しても現実的であり,先行緊急措置命令を解除することによって,十分に対応可能であったと主張する。
しかしながら,前記の緊急状況下において,撤去に相当期間を置くことはできないし,また,先行緊急措置命令を解除することによって,本件たい積場への残廃土のたい積が再開されることになり,本件たい積場からの崩落の危険性が高くなるから,そのような方法を採ることはできないというべきである。
g 原告は,鳥取県側が行政代執行により撤去した土砂約3000立方メートルを本件採石場内に放置したままであり,このことは本件緊急措置命令の履行が不可能であった事実を表していると主張する。
しかしながら,上記土砂について,本件ポケット内から撤去した土砂であることを認めるに足りる証拠はなく,また,原告の主張を前提にしても,前記認定のとおり,鳥取県側は,約1万立方メートルの土砂を採石場外に撤去しているのであるから,上記の土砂が置いてあることが,本件緊急措置命令が履行不可能であったことを示すものとはいえない。
h 原告は,撤去する土砂は産業廃棄物(建設汚泥)であり,土砂の採石場内保管を禁止し製品加工を認めない本件緊急措置命令は履行不能であると主張する。
しかしながら,崩落によってたい積した単なる土砂については,産業廃棄物には当たらないと解される(証人E調書140項)。
i 原告は,自然現象としての土砂の崩落は本件緊急措置命令以降も日々継続して発生しているのであるから,すでにたい積している崩落土砂と同命令以降の崩落土砂との識別は不可能であるし,原告は半永久的にたい積土砂の搬出・監視・連絡を要求されることとなり,不当であると主張する。
しかしながら,本件緊急措置命令の履行の過程で,原告主張のように崩落土砂を識別する必要があるとは解されないし(本件ポケットからの崩落土砂の搬出は,本件ポケットの容量を確保することが目的であることは明らかであるし,本件緊急措置命令の記載上からも,自然崩落による土砂を除外する趣旨であるとは解されない。),また,本件緊急措置命令は,採取計画の認可を受けた採石業者に対して発令されるものであるから,本件認可の終期である平成14年9月30日が一つの区切りとなるし,本件緊急措置命令が,過去の崩落の規模を大きく超える本件崩落事故のあった1か月以内に新たに発生した土砂崩落を理由としてなされていることを考えると,本件崩落事故についての処理が終了する時期が別の区切りとなると考えられ,命令の記載上も,搬出後崩落した土砂については,土木事務所長の指示に従うとあり,必ずしも半永久的な義務を課せられるものではない。
j 原告は,本件緊急措置命令は,「常時監視」と「異常」を発見した場合の関係機関への連絡を命じているが,「異常」とはいかなる事象をいうのか明確性を欠き,命令としての具体性がなく,「常時監視」は過酷であると主張する。
しかしながら,本件緊急措置命令が,本件採石場内における崩落の危険性を前提に発令されたものであることに照らせば,いかなる事態が「異常」に当たるかについて明確性を欠くなどとはいえない。
また,前記のとおり,原告は,岩石採取の際には,従前から本件採石場に監視人を常駐させるなどしてきたのであるから,「常時監視」が過酷とはいえない。
ウ なお,原告が,本件ポケット内のたい積土砂の撤去の責を負わない理由としてさらに主張するところについても,以下のとおり採用できない。
(ア)原告は,本件ポケット内への土砂の崩落は,原告にとって予見不可能な不可抗力によるものであり,当該処分がもっぱら河川管理の観点からなされるものである以上,本件ポケット内の土砂の搬出は河川管理者の負担と責任でなされるべきであると主張する。
しかしながら,本件緊急措置命令が災害の防止を目的としていることは前記のとおりであり,そうである以上,本件ポケットを管理している原告は,不可抗力によるものであってもたい積土砂を撤去する義務があると解すべきである。
(イ)原告は,本件ポケット内のたい積土砂の撤去は,本来であれば本件災害防止命令に基づいて履行されるべきものであるが,被告鳥取県知事は,無謀な先行緊急措置命令によってこれを停止させ,その結果,本件ポケット内に土砂がたい積したのであるから,鳥取県の責任と負担においてたい積土砂を撤去すべきであると主張する。
しかしながら,先行緊急措置命令は,原告が管理していた本件たい積場における崩落事故を受けて,同たい積場にさらに残廃土がたい積されて,これが崩落することを防止するためになされた必要的なものであり,同命令が不当だったとはいえない(しかも,前記のとおり,本件崩落事故は,原告が採取計画に従わなかったために発生したものである。)。
そうである以上,仮に,本件ポケット内のたい積土砂が先行緊急措置命令を契機としてたい積したものであるとしても,これについて鳥取県の責任と負担において撤去すべきであるとはいえない。
(ウ)原告は,行政代執行は,本件緊急措置命令の内容にとどめるべきであるにもかかわらず,鳥取県は,当初の堆積量約5000立方メートルを上回る約1万立方メートルの土砂を撤去するなどしていると主張するが,これによって,本件緊急措置命令が違法とされるものではない。
エ 以上によれば,本件緊急措置命令は,適法と認められる。
4 まとめ
以上のとおり,原告は,① 本件認可に係る採取計画に定められたサンドイッチ工法等を施工せず,かつ特段の工法で施工することもなく残廃土をたい積させて,本件崩落事故を起こしたものであり,また,② 適法な本件緊急措置命令に違反して本件ポケット内のたい積土砂を全く撤去しなかったものである。
したがって,本件認可取消処分は,原告が本件認可に係る採取計画に定められた残廃土のたい積方法に従わなかったこと(採石法33条の12第2号,33条の8),及び,本件緊急措置命令に違反したこと(同法33条の12第3号,33条の13第1項)による認可取消事由が存し,被告鳥取県知事の裁量権の逸脱・濫用も認められず,適法である。
そして,本件登録取消処分についても,本件認可が採石法33条の12の規定により取り消されたことによる登録取消事由が存し(採石法32条の10第1項5号),被告鳥取県知事の裁量権の逸脱・濫用を窺わせる事情もなく,適法である。
第6結論
以上の次第で,本件緊急措置命令の取消請求に係る訴え及び本件認可取消処分の取消請求に係る訴えは,不適法であるからいずれも却下し,原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 山本和人 裁判官 小野寺明)