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鳥取地方裁判所 平成16年(行ウ)5号 判決 2007年1月23日

主文

1  被告が株式会社aに対し平成16年3月11日付けでした別紙物件目録1及び2記載の各建物の固定資産課税台帳に登録された平成15年度の価格についての審査の申出に対する決定のうち、同目録1記載の建物につき6億5694万2875円、同目録2記載の建物につき1億1157万2987円の各価格を超える部分を取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(平成15年度基準の一般的合理性)について

(1)  平成15年度基準による非木造家屋の価格の評価方法は、前記第2の1(2)のとおりであるところ、この方法は、家屋の再調達原価に相当するものとして再建築費評点数を算定し、これに経過年数及び需給事情による各減点補正をした上で、評点1点当たりの価額を乗じて評価するというものであって、不動産鑑定の評価基準における原価方式に由来する方法であり、また、評価者の主観的判断に基づく格差を排除して適正な時価を算定できることからも、一般的な合理性を有することが認められる。

そして、平成15年7月判決は、平成10年自治省告示第87号による改正前の固定資産税評価基準のうち、非木造家屋を構造等により区分した上で、その区分ごとに選定された標準家屋の再建築費評点数に比準して当該家屋の再建築費評点数を付設するという総合比準評価の方法が適用された事案において、その評価基準の一般的合理性を肯定している。本件各建物については、これと異なり、前年度の再建築費評点数に再建築費評点補正率を乗じて基準年度の再建築費評点数を付設するという方法が採用されているが、平成15年7月判決は、固定資産評価基準においては、不動産鑑定の評価基準が定める原価方式、比較方式及び収益方式を併用する等の方法を用いた不動産鑑定士等の鑑定評価を行わなくとも、一般的な合理性を肯定することができるとの趣旨を示したものと理解することができ、これは、本件にも妥当するというべきである。

(2)  これに対し、原告は、平成15年基準による評価方法の個別項目について次のとおり主張するが、いずれも理由がない。

ア  再建築費評点数について

(ア) 原告は、前年度における再建築費評点数が適切に算定されるとは限らないと主張するが、これは、抽象的に算定の過誤が生ずるおそれをいうにすぎず、平成15年度基準が合理性を有していることを否定するものではない。また、本件各建物については、新築された昭和58年9月30日に直近した昭和59年基準年度において部分別による再建築費評点数の算出方法に基づき再建築費評点数が付設されており、平成9年度の評価替えで構造の誤りによる算定の過誤があり、平成13年度に修正されたことがうかがわれるものの、これ以外に算定の過誤があったことをうかがわせる具体的事情はない(〔証拠省略〕)。

(イ) 原告は、再建築費評点補正率が全国一律に0.96とされており、家屋の種類等や所在地域による格差を考慮していないと主張する。しかし、再建築費評点補正率は、東京都特別区の区域における基準年度の賦課期日の属する年の2年前の1月現在とその前年の1月現在との物価水準を基礎に算定されたものであり、全国的な統計資料と対比してもさほど差異がないこと(〔証拠省略〕)からすると、これを全国一律に0.96と定めても、合理性を欠くとはいえない。

(ウ) 原告は、基準年度の前年度における再建築費評点数に再建築費評点補正率を乗じて算出する方法によることが適当でない場合に該当するかどうかの判断がされず、上記方法が漫然と用いられていると主張するが、これは、平成15年度基準自体の合理性を否定するものではなく、また、本件各建物について、この基準によることが適当でない場合に該当することをうかがわせる具体的事情はない。

イ  経過年数による減点補正について

(ア) 原告は、①家屋の維持管理や取壊し費用の負担があって市場価値がゼロ又はマイナスとなる建物についても、最終的な残価率を20%と高く定めて減点補正率を設定している上、②一般に鉄筋鉄骨コンクリート造及び鉄筋コンクリート造による店舗用家屋の耐用年数は、躯体が35~40年程度、設備が15年程度であるにもかかわらず、平成15年度基準は、躯体と設備を区別することなく、これを50年として減点補正率を設定し、過大な評価を行っていると主張する。しかし、経過年数による減点補正は、家屋に対し通常の維持管理を行うものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として減点補正を行おうとするものであり、家屋が現存することを前提とすれば、建築から長期間が経過しても当該家屋の残存価値を肯定することが可能である。そうすると、上記補正において、最終的な補正率が0.2とされていること、及び鉄筋鉄骨コンクリート造等の店舗用家屋につき、経過年数50年以上の補正率が0.2とされていることのいずれについても、合理性を欠くものとはいえない。なお、平成15年7月判決は、鉄骨造(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの)の店舗及び病院用家屋に関する事案であるが、最終的な残価率を20%とする減点補正率を定めた評価方法の合理性を肯定しており、この趣旨は本件にも妥当するものである。

(イ) 原告は、損耗の状況による減点補正率の適用範囲が不明確であり、また、観察減価が実施されず、当該家屋の実際の損傷、老朽化状況等が反映されないと主張する。しかし、これは、平成15年度基準(観察減価を行うことを否定しているわけではない。)自体の合理性を否定するものではない。

ウ  需給事情による減点補正について

原告は、需給事情による減点補正について、その適用範囲が限定されていると主張するが、これは、平成15年度基準自体の合理性を否定するものではない。

エ  評点1点当たりの価額について

原告は、物価水準による補正率は、全国一律に1.00とされており、所在地域による実際の格差が考慮されておらず、また、設計管理費等による補正率は、全国一律に1.10とされており、家屋の種類や所在地域等による実際の格差が考慮されていないのであって、その数値の根拠も不明であると主張する。しかし、物価水準による補正率は、工事原価に相当する費用等に係る東京都特別区の区域と指定市との地域格差を考慮して定められたものであり、非木造家屋について全国一律に1.00とされたことが、直ちに合理性を欠く結果となるとはいえず、また、設計管理費等による補正率は、工事原価に含まれない設計管理費、一般管理費等の費用を基礎として定められたものであり、全国一律に1.10とされたことにも合理性が欠けるとはいえない。なお、平成15年7月判決も、非木造家屋の物価水準による補正率を全国一律に1.00、設計管理費等による補正率を全国一律に1.10と定めた評価方法の一般的な合理性を肯定しており、本件について、これと結論を異にすべき事情の変化は、認められない。

2  争点(2)(需給事情による減点補正の要否)について

(1)  認定事実

〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、本件各建物の需給事情に関して、次の各事実が認められる。

ア  本件各建物の概要

(ア) 本件各建物は、前記第2・2(1)のとおり、倉吉市大正町に所在する地上7階建て(一棟の建物)の駐車場併設型の大型商業施設であり、その区分所有建物である本件建物1(西側部分の地上6階建ての店舗建物)及び本件建物2(東側部分の地上7階建ての駐車場建物)は、相互にエクスパンションで接続されている。本件建物1は、地上1階~4階が店舗、6階を設けていない5階部分の屋上が駐車場として使用され、本件建物2は、地上1階~6階が駐車場として使用されており、両建物の合計延べ床面積は、約2万3939m2(うち店舗面積4895m2)である。

その敷地は、面積6839.04m2のほぼ整形の宅地で、北側及び西側が県道倉吉江北線、南側が歩行者専用道に面しており、また、近隣商業地域内にある。

(イ) 本件各建物は、昭和58年9月30日に地元開発業者であるb社によって建築され、それ以来、商業施設として使用されてきた。原告は、c社から営業譲渡を受け、平成7年11月、本件各建物において、原告の直営店及びテナント店約15店から成るd店を開業し、平成17年10月31日に閉店するまで、本件各建物を使用していた。

d店は、その近隣ないし周辺の居住者(徒歩客)を主な顧客としていたが、倉吉市全域及び周辺市町村の居住者(自動車利用客)をも集めていた。

(ウ) 本件各建物の最有効使用は、平成15年1月1日当時、現状の店舗・駐車場であった。

イ  近隣地域等の市況

(ア) 倉吉市は、鳥取県中部の中心都市として古くから商業、産業が集積しており、その主要な市街地は、打吹山の麓に広がる打吹地区(成徳・明倫地区)とJR倉吉駅を中心とする上井地区に分かれている。

打吹地区は、昭和60年までは上井駅(現・倉吉駅)から打吹駅(旧・倉吉駅)を通る旧国鉄倉吉線があり、行政機能や文化機能を備えた伝統的市街地が形成され、本町通り商店街や倉吉銀座商店街等の商店街が集積する商業地域が形成されてきた。

上井地区は、倉吉市の玄関口として、宿泊、物販機能を備えた商業地域が形成されてきた。

(イ) 鳥取県内の景気は、国内景気の動向と比べても厳しい状況にあり、平成14年度の国内総生産の成長率が名目1.1%(実質3.2%)であるのに対し、同年度の県内総生産の成長率が名目-4.0%であった。

また、倉吉市は、人口が昭和60年には5万2638人であったが、平成15年には4万9863人に減少(-5.3%)しており、昭和57年~平成14年の期間において、年間商品販売額が-4.5%、売り場面積当たりの販売額が-32.1%等となっていて、鳥取県内の市町村の中でも低迷しており、昭和58年~平成15年の期間において、商業地域の地価も下落傾向(-39.5%)にある。

さらに、打吹地区は、旧国鉄倉吉線の廃止やバス便等の減少、大規模小売店舗の撤退等によって産業空洞化が進み、上井地区を含む新市街地や周辺地区に人口が流出する等した結果、その人口は、昭和60年に1万2262人であったものが、平成15年には8565人にまで減少(-30.2%)しており、住民の高齢化も進んでいて、公共施設等も閉鎖、縮小されている。

(ウ) 倉吉市では、上井地区等の新市街地では、消費者のニーズの多様化や交通の自動車化の進展に伴って、幹線国道沿いに大型店舗が進出し、倉吉市における中心的な商業地域に発展したが、その一方で、打吹地区は、顧客吸引力が低下して、商業地域が衰退している。

打吹地区では、商店街の空き店舗が増加し、平成3年には主要商店街の一つである本町通り商店街の組合が解散しており、また、平成13年4月には、d店及びe店と並ぶ同地区の大型核店舗であった「e店」(鉄骨コンクリート造陸屋根5階建、延べ床面積約9000m2)が閉店した。

d店は、近年は営業利益の赤字が続いており、平成14年には-6200万円、15年では-5200万円の赤字を計上していた。

ウ  本件各建物等の買受け希望の状況

本件各建物は、平成17年10月31日にd店が閉鎖された後、使用されないままであり、最低売却価格を設定せずに実施された入札においても、買受け希望者がなかった。

なお、旧fの敷地建物についても、売却が試みられたが購入者がなく、平成15年7月に倉吉市に対し無償で贈与された。

(2)  需給事情による減点補正の要否及びその減点補正率の検討

ア  平成15年度基準は、需給事情による減点補正につき、①「建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋」、②「所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等」について、その減少する価額の範囲において求めると定めているところ、本件各建物が上記①に該当するとは認められない。

そこで、本件各建物が上記②に該当するか否かについて検討する。

イ  前記(1)の認定事実によれば、倉吉市の市況は、昭和60年ころ以降低迷しており、その中でも特に、本件各建物が所在し、d店の主な顧客の居住している打吹地区は、旧国鉄倉吉線の廃止以降、人口の減少及び高齢化が進んでおり、また、上井地区を含む新市街地や周辺地区に人口が流出し、これらの地区の幹線国道沿いに消費者の需要に適合した大型店舗が進出する等していて、これらの要因により商業地域が縮小傾向にあったことが認められる。そして、本件各建物は、新築後約20年を経過した地上7階建て、合計延べ床面積が約2万3939m2の大型商業施設であり、一般の非木造家屋の中では特殊性が強く、他の用途への転用可能性は乏しいものとみられ、上記のような所在地域の商況の著しい減退傾向により、交換価値に大きな影響を受けていたものと認められる。加えて、近隣地域の大型核店舗であった旧たからやも閉店を余儀なくされていることにかんがみれば、本件各建物は、賦課期日である平成15年1月1日当時、非木造家屋としての市場価値が相当に低下していたものといわなければならない。現に、同日以後の事情ではあるが、平成17年10月31日にd店が閉店し、その後に実施された本件各建物の入札でも買受け希望者がなかったこと、本件各建物と同様に大型商業施設として使用された旧たからやの敷地・建物についても購入者がなかったことは、上記の市場価値の低下を裏付けるものである。

ウ  このような事情を総合すると、大型商業施設である本件各建物については、所在地域である打吹地区の経済的状況に基づき、その価額が相当に減少していることが認められる。そうすると、本件各建物について適正な時価を算定するためには、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋に該当するとして、需給事情による減点補正を行う必要がある。

これに対し、被告は、需給事情による減点補正について、前記第2の4(2)(被告の主張)に掲げた具体的基準に即して行うべきところ、本件各建物については、この基準に該当するような事情はないと主張する。しかし、被告の主張する基準は、平成15年度基準に明示されたものではなく、減点補正を必要とする場合をこれに限定すべき理由はないから失当である。

エ  そして、鑑定の結果によれば、人口、小売販売業及び商業地の地価等の各種指標を参照した上、本件各建物の所在地域等における経済的状況について、上記イとほぼ同様の具体的事情を踏まえると、本件各建物の減点補正率は、30%と算定すべきであるとされているところ、これは、合理性を有すると認められる。

これに対し、〔証拠省略〕(Aの不動産鑑定評価書)は、原価法における市場性修正率を65%と算定しているが、鑑定の結果と比較すると、その数値を導き出した具体的な根拠が乏しく、採用できない。また、被告は、①打吹地区を含む旧市街地全体でみれば商業地域の衰退はみられず、②打吹地区についてみても、観光施設等の整備により、かえって観光地として活性化していると主張している。しかし、上記①については、これを裏付ける具体的な証拠がなく、上記②についても、観光施設等の整備により近隣地域の経済的状況が好転したことを示す証拠がないから、いずれも採用できない。

3  争点(3)(平成15年度基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存否)について

(1)  原告は、前記2で検討した事情に加え、減点補正を超える減価を要する特別の事情として、①本件各建物の躯体部分と設備部分を区別して評価していないこと、②大規模店舗用家屋の経済的耐用年数が短いこと、③残価率の設定が合理的でないこと、④観察減価を実施していないこと等を指摘するが、これらは、平成15年度基準の一般的な合理性を否定しようとするか、前記2で認定判断した減点補正率を超える減価を要する特別の事情に該当するとは認めがたい事由を主張するものであって、いずれも採用できない。

(2)  また、原告は、本件各建物について、平成15年度基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定できない特別の事情(平成17年5月判決参照)、平成15年度基準が定める評価の方法によっては適正な時価を適切に算定できない特別の事情(東京高等裁判所平成16年1月22日判決・判例時報1851号113頁参照)があると主張する。

しかし、本件各建物は、上記のように、需給事情による減点補正を行い、平成15年度基準が定める評価方法を適切に実施すれば、これにより適正な時価を算定することが可能であるから、上記主張は、理由がない。

4  まとめ

以上の認定判断を前提とし、本件各建物の価格について、30%の需給事情による減点補正を行って算定すると、次のとおりになる。

(1)  本件建物1 6億5694万2875円

(評価方式)

ア 家屋の価格 656,942,875円

評点数597,220,796点×評点1点当たりの価額1.1円

イ 評点数 597,220,796点

再建築費評点数1,254,665,538点(=平成14年度における再建築費評点数1,306,943,269点×再建築費評点補正率0.96)×経過年数に応ずる減点補正率0.6800×需給事情による減点補正率0.70

ウ 評点1点当たりの価額 1.1円

1円×物価水準による補正率1.00×設計管理費等による補正率1.10

(2)  本件建物2 1億1157万2987円

(評価方式)

ア 家屋の価格 111,572,987円

評点数101,429,989点×評点1点当たりの価額1.1円

イ 評点数 101,429,989点

再建築費評点数266,899,953点(=平成14年度における再建築費評点数278,020,785点×再建築費評点補正率0.96)×経過年数に応ずる減点補正率0.5429×需給事情による減点補正率0.70

ウ 評点1点当たりの価額 1.1円

1円×物価水準による補正率1.00×設計管理費等による補正率1.10

第4結論

以上によれば、本件決定のうち、本件建物1につき6億5694万2875円、本件建物2につき1億1157万2987円の各価格を超える部分は、法349条1項、341条5号に定める適正な時価を超えて価格を決定した違法があるから、取り消されるべきである。原告の請求は、上記の限度では理由があるから、その部分を認容し、その余の部分は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古賀輝郎 裁判官 亀井宏寿 片山健)

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