鳥取地方裁判所 平成21年(む)60号 決定 2009年6月19日
主文
本件請求を棄却する。
理由
第1本件請求の趣旨及び理由
本件請求の趣旨及び理由は弁護人作成の証拠開示命令裁定請求書記載のとおりであるが,要するに,弁護人が検察官に対し,刑事訴訟法(以下「法」という。)316条の20に基づいて,別紙証拠目録記載の各証拠につき主張関連証拠の開示を請求したところ,検察官が,法316条の17第1項で求められる主張の明示を欠くから開示請求には応じられないとした上で,任意にいずれの証拠も存在しないとの回答がなされた。これに対し,検察官の回答は事実に反するなどとして,弁護人が裁定を求めたというものである。
第2当裁判所の判断
1 法316条の26第1項の証拠開示命令が認められるためには,開示を求められた証拠が存在することがその前提となる。そして,当裁判所は,検察官に対して求意見を行ったところ,検察官は,いずれの証拠も存在しないとした上で,別紙証拠目録(略)1のうち検察官がA教授から鑑定結果を電話聴取した際のメモと,同6のうち実況見分に際して警察官(B,C,D)が作成したメモはかつて存在したが,その後に供述調書や実況見分調書が作成されたことで不要となって廃棄されたので存在しない,その余の証拠はそもそも作成されておらず,存在しないとの回答がなされた。開示を求められている証拠の性質等に照らすと,弁護人の意見を踏まえ検察官の回答内容を検討しても,その信用性に疑問を抱かせるような事情までは見受けられない。なお,弁護人は,検察官の意見書において,捜査機関がA教授の鑑定結果を知ったのは平成20年7月9日の実況見分の後である旨が主張されているが,これは第1回公判前整理手続期日における検察官の発言と矛盾するなどとして,検察官の意見は虚偽であると主張している。しかしながら,検察官の意見書においては,捜査機関が,死体検案書等により同年6月25日の時点で被害者の死因が頭蓋骨閉鎖骨折による脳クモ膜下出血であることを認識していたとの記載もあり(前記期日における検察官の発言もその趣旨を超えるものでないことは裁判所に顕著な事実である。),弁護人が指摘する捜査機関がA教授の鑑定結果を認識する経緯についての主張が,被害者の死因についての捜査機関における認識時期を前記実況見分時以降であるとするものでないことは明らかであって(平成21年6月3日付けの弁護人らの意見書を踏まえ,同日に行った求釈明に対する同月19日の検察官による回答においても,鑑定書に関する意見書の記載は,検察官及び警察官が死体検案書の交付を受けた時点でその記載内容を認識したことを前提とする趣旨であるとしている。),弁護人の主張はその前提を欠く。
よって,現時点において,別紙証拠目録記載の証拠はいずれも存在しないと判断すべきである。
なお,捜査機関によるメモ類の保管,廃棄にかかる前記事情が事実認定に与える影響の有無ないし内容については,公判廷における事実調べの内容に照らし,事案に応じて判断されることになる。
2 結論
以上によれば,本件請求は理由がないから,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小倉哲浩 裁判官 空閑直樹 裁判官 野口登貴子)