鳥取地方裁判所 平成21年(む)87号 決定 2009年7月06日
主文
本件請求を棄却する。
理由
第1本件請求の趣旨及び理由
本件請求の趣旨及び理由は弁護人作成の証拠開示命令裁定請求書2及び同補充書記載のとおりである。要するに,弁護人が,検察官に対し,刑事訴訟法(以下「法」という。)316条の15に基づいて,被告人の供述録取書等のすべてにつき証拠の開示を請求したところ,被告人の平成20年7月3日付け供述調書(検察官A作成)(以下「本件証拠」という。)が開示されなかったが,その後開示を受けた取調べ状況等報告書により,同日の検察官取調べにおいて供述調書が作成されたことが判明したにもかかわらず,検察官は,取調べ状況等報告書の記載は誤記であるとして開示に応じないので,本件裁定を求めたというものである。
第2当裁判所の判断
1 本件証拠が存在するのであれば,法316条の15第1項7号の類型証拠に当たることは明らかであって,その存否が本件裁定請求における争点であるところ,弁護人が本件証拠が存在することの根拠として指摘する検察事務官B作成の平成20年7月3日付け取調べ状況等報告書の「逮捕・勾留事実に係る被疑者供述調書等作成の事実」欄においては,「有」に丸が付された上で,「1通」と記載されている。
検察において作成される取調べ状況等報告書は,司法制度改革審議会の意見書において,被疑者の取調べの適正さを確保する措置として,被疑者の取調べ過程・状況について,取調べの都度,書面による記録を義務付ける制度を導入すべきとされたこと(記録の正確性,客観性を担保するために必要な措置を講じることも求められている)などを受け,法務大臣訓令により取調べを行った日ごとに作成されることとされ,また,身柄拘束中の被疑者の取調べ状況に関する客観的証拠として法316条の15の類型証拠開示の対象となったものであって,その記載内容には,高度の信用性があることが期待されている。
したがって,取調べ状況等報告書に供述調書が作成された旨が記載されているにもかかわらず,検察官においてその不存在を主張するのであれば,その理由について具体的に明らかにする必要がある。
このような観点から,裁判所は,裁定請求についての求意見に対する検察官の意見のみでは十分ではないものと考え,さらに第2回公判前整理手続期日において検察官に対し釈明を求め,平成21年7月3日に回答を得た。これらの意見及び回答によると,検察官においては,前記B検察事務官や取調べを担当した検察官Aに本件証拠の存否について聴取したほか,鳥取地方検察庁庁舎内のA検察官が使用していた執務室内,鳥取地方検察庁米子支部の記録保管場所等及びA検察官が本件の捜査と同時期に捜査した他の事件の記録等を確認したというのである。
そして,検察庁が意図的に本件証拠を隠匿しようとまでしているのであれば,むしろ,弁護人に取調べ状況等報告書を開示する際に,同報告書自体を訂正するか差し替えれば足りたものであって,組織的,意図的な隠匿は考え難いところ,A検察官が平成20年7月3日の取調べにおいて供述調書を作成しなかった理由や状況については前記の検察官の回答において具体的に明らかにされており,また,本件の一件記録以外の場所に本件証拠が混入している可能性についても,必要な調査を尽くした上でその不存在を確認している。その他,第2回公判前整理手続期日における弁護人の釈明によると,被告人においても,本件証拠の存在を積極的に記憶しているものではないということなどにも照らすと,本件証拠は存在しないものと判断するのが相当である。
なお,前記B検察事務官からの聴取結果は,具体的な記憶がないものの,調書作成の有無及び通数については取調べ前に検察官から予定を聞いてあらかじめ記入しておくことがあったが,本件時においては取調べ終了時の確認を怠ったのではないかと思うというものであり,取調べ状況等報告書の前記の趣旨からすると相当性を欠く作成状況であったというほかないが,前記のA検察官からの聴取結果や本件証拠の調査結果等に照らすと,前記判断を左右するものとまではいえない。
2 結論
よって,本件請求は理由がないから,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小倉哲浩 裁判官 空閑直樹 裁判官 野口登貴子)