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鳥取地方裁判所 平成21年(行ウ)5号 判決 2012年6月22日

主文

1  鳥取税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした原告の平成16年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1507万2608円,還付金の額に相当する税額271万3190円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち7万円を超える部分を取り消す。

2  鳥取税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした原告の平成17年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1680万0235円,還付金の額に相当する税額240万7856円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち4万8000円を超える部分を取り消す。

3  鳥取税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした原告の平成18年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1570万1362円,還付金の額に相当する税額234万4388円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち6万9900円を超える部分を取り消す。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,これを10分し,その7を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  鳥取税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした原告の平成16年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1272万1014円,還付金の額に相当する税額341万3690円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  鳥取税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした原告の平成17年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1520万0391円,還付金の額に相当する税額288万7856円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3  鳥取税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした原告の平成18年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1336万8936円,還付金の額に相当する税額304万3988円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,税理士業を営む原告が,その妻Aを青色事業専従者として,平成16年分から平成18年分までの各年分(以下「本件各年分」という。)に係る各給与(以下「本件各専従者給与」という。)について,事業所得の金額の計算上必要経費に算入してした各確定申告に対し,鳥取税務署長(以下「処分行政庁」という。)が,Aの労務の対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額は必要経費に算入できないとして本件各年分に係る所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。また,本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)を行ったことから,本件各専従者給与の金額はAの労務の対価として相当であり,本件各処分のうち本件各更正処分の一部及び本件各賦課決定処分は違法であると主張して,当該部分の取消しを求めた事案である。

2  前提事実(争いのない事実,証拠<省略>により容易に認定できる事実)

⑴  原告は,昭和58年4月に税理士登録を受けて事務所(以下「原告事務所」という。)を開設し,同事務所において税理士業を営む税理士である。なお,原告は,昭和59年2月,処分行政庁に対し,所得税の青色申告承認申請をするとともに,Aを青色事業専従者とする届出をし,同年以後の所得税の青色申告承認を受けた。(証拠<省略>)

⑵  Aは,昭和54年4月に原告と結婚し,昭和58年4月の原告事務所開設当初から同事務所で勤務していた者であり,税理士資格は有していないものの,本件各年分において,いずれも年間を通じて原告事務所の事業に従事していた(証拠<省略>)。

⑶  原告は,本件各年分において,Aが原告の事業に従事したことの対価として,平成16年分については1240万円,平成17年分及び平成18年分について各1280万円の青色事業専従者給与を支払った(本件各専従者給与)。なお,原告が,本件各年分において,原告事務所に勤務していた他の従業員(以下「本件各使用人」という。)に対して支払った給与額は,別表2<省略>のとおりであり,年間を通じて事業に従事した使用人の1人あたりの給与額を平均すると,平成16年分については357万9167円,平成17年分については384万2250円,平成18年分については360万8375円であった。(証拠<省略>)

⑷  原告は,本件各専従者給与について,それぞれ全額を本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入し,処分行政庁に対し,平成17年1月26日に平成16年分,平成18年1月24日に平成17年分,平成19年1月29日に平成18年分の各確定申告書を提出した。なお,原告が前記各確定申告書に記載した事業所得,不動産所得等の内訳及び総所得金額,納付すべき税額等の計算方法は,別表3ないし5<省略>の各A欄に記載のとおりである。(証拠<省略>)

⑸  処分行政庁は,平成19年4月から原告の本件各年分の所得税について税務調査を実施し,平成20年3月14日付けで本件各処分を行った。なお,処分行政庁は,本件各処分にあたり,原告と業種,業態及び事業規模が類似する同業者を選定し,その青色事業専従者のうち,①事業主の妻であること,②税理士資格を有していないこと,③税理士の補助事務に12か月従事していたことの条件を満たす者7名を抽出したが,その給与の額は,平成16年分については285万4490円から663万円まで(平均額は465万9213円),平成17年分については296万4160円から663万円まで(平均額は473万6309円),平成18年分については301万7320円から663万円まで(平均額は476万3903円)であった。本件各処分に係る各通知書には,Aの労務の性質は,同人が税理士資格を有していないから,税理士の補助事務の域を出るものではなく,本件各使用人及び類似同業者の専従者の労務の性質と同様なものと認められること,Aの労務提供の程度も,同人が事業に従事した時間を正確に記録したものはないから,本件各使用人及び類似同業者の専従者と比較して大きな差異がなかったと認めるのが相当であること,そうすると,本件各専従者給与は,Aの労務の性質及び労務提供の程度が本件各使用人及び類似同業者の専従者と大きな差異がないにもかかわらず,類似同業者の専従者給与の最高額663万円の2倍を超える著しく高額なものであるから,労務の対価として不相当であること等が処分理由として記載されている。また,本件各更正処分による更正後の青色事業専従者給与及び総所得金額,納付すべき税額等の計算方法は,別表3ないし5<省略>の各B欄に記載のとおりである。(証拠<省略>)

⑹  原告は,処分行政庁に対し,平成20年5月12日付けで本件各処分の取消しを求めて異議申立てを行い,処分行政庁は,同年8月8日付けでこれを棄却する旨の決定をした。そこで,原告は,国税不服審判所長に対し,審査請求を行ったが,国税不服審判所長は,平成21年6月3日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。(証拠<省略>)

⑺  原告は,平成21年12月1日,本件訴えを提起した。

3  争点

原告の事業所得から控除されるべき青色事業専従者給与の額(本件各専従者給与は,その全額がAの労務の対価として相当であると認められるか否か。)

4  当事者の主張

⑴  被告

ア 本件各専従者給与は,Aの労務実態,類似同業者事業専従者給与等に照らすと,所得税法57条1項及び同法施行令164条1項所定の相当な労務の対価の額として著しく高額すぎ,必要経費として控除できるのは,類似同業者事業専従者給与平均額に従って平成16年分について668万3644円,平成17年分について734万9538円,平成18年分について754万4085円を限度とすべきであり,それを超える金額について必要経費として計上することはできない。以下に,敷衍して論じる。

イ(ア) Aの労働実態をみるに,Aは税理士資格を有していないから,同人の労務の性質は,税理士の補助事務の域を出るものではなく,本件各使用人の労務の性質と同様である。また,Aの勤務時間を正確に記録した客観的証拠はなく,労務提供の程度も本件各使用人と比較して大きな差異はなかったとみるべきである。さらに,税理士又は税理士法人でない者は,原則として税理士業務を行うことはできないから,税理士資格を有しないAが行う労務を事業者ないし共同経営者に相当するものと評価することはできない。原告は会計事務所を有していなかったものであり,あたかも税理事務所と会計事務所が分離され,税理士の配偶者(税理士資格なし)が会計事務所の代表者であったかのごとき原告の主張は,採用できない。

(イ) 加えて,同種の事業でその規模が類似する同業者の青色事業専従者が支払を受ける給与の状況と比較する方法(以下「類似同業者給与比準方式」という。)及びその事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況と比較する方法(以下「使用人給与比準方式」という。)によると,本件各専従者給与は,次のとおり,これらの方式から算出される金額と大きな開きがあり,著しく高額で是認できない。

a 類似同業者給与比準方式

本件各専従者給与は,前記前提事実⑶のとおり,平成16年分が1240万円,平成17年分及び平成18年分が各1280万円であるところ,類似同業者の配偶者に係る青色事業専従者給与の平均額は,別表1<省略>のとおり,平成16年分が571万6356円,平成17年分が545万0462円,平成18年分が525万5915円であり,本件各専従者給与は,いずれも平均額の2倍を上回る金額となる。

なお,原告は,類似同業者の抽出過程が恣意的であるとか,前提となる資料が不正確であったり信用性に欠けると主張するが,本件における類似同業者の抽出は,鳥取県下及び鳥取税務署近隣の各税務署長に対し,広島国税局長が,「「同業者調査票」の作成及び提出について(指示)」(証拠<省略>。以下「本件通達」という。)を発遣する方法により,本件通達における抽出基準は別紙1<省略>抽出基準のとおり合理的な内容であり,本件通達により抽出された同業者は,本件通達における抽出基準を全て満たす者を機械的に抽出したもので,抽出過程に恣意性はないし,前提とした資料に問題はない。

b 使用人給与比準方式

本件専従者給与は,本件各使用人の給与(別表2<省略>参照。前記前提事実⑶のとおり平成16年分が平均額357万9167円,平成17年分が平均額384万2250円,平成18年分が平均額360万8375円)と比較して3倍以上と高額であり,労務の対価として相当でない。

ウ そこで,Aの相当な労務の対価の額であるが,処分行政庁はAの労務実態について調査したものの,勤務時間等についてAの労務の状況を明らかにする資料はなく,その点について解明することはできなかった。

そこで,このような場合,Aの相当な労務の対価の額を算出するには,所得税法57条1項及び同法施行令164条1項の規定文言に照らし,類似同業者における専従給与者の金額や使用人の給与と比較して判断することが基本となる。そして,類似同業者比準方式と使用人給与比準方式により算出した前記の各金額を比較すると,類似同業者比準方式によって算出した金額が高額となることから,Aの労務の対価として相当であると認められる給与の金額は,平成16年分について668万3644円,平成17年分について734万9538円,平成18年分について754万4085円と認めるのが相当である。

⑵  原告

本件各専従者給与は,以下のとおり,Aの労務の性質及びその提供の程度に照らし,その全額が相当な労務の対価として認められるべきである。

ア 労務の性質

Aは,昭和52年から他の税理士事務所で勤務し,昭和58年以降,原告事務所においても,一貫して,税理士業務に付随して,財務書類の作成,会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務(税理士法2条2項に規定されている事務。以下「会計業務」という。)に従事し,平成16年の時点で経験年数が27年になる熟練の会計業務者である。Aは,このようなキャリアを見込まれ,専門的な知識を要する医療法人及び学校法人等の会計業務を任されてきた。なお,原告事務所では,これらの業務を担当できるのはAのみであった。

また,Aは,原告事務所の会計業務の統括責任者として,本件各使用人が作成した会計帳簿の内容を最終的に検討して完成させ,会計・税務書類の作成に関する事務を主に行うとともに,原告の事業所得の申告のための会計帳簿の作成及び決算手続に関する事務,本件各使用人に対する給与の支払及び社会保険手続等の労務管理一切を行う等,被用者というより,むしろ,事業者ないし共同経営者として原告の業務に従事してきた。

なお,税理士事務所を,税理士業務を行う税理事務所と会計業務を行う会計事務所に分離する場合,税理士事務所が顧客から受注した業務のうち会計業務を会計事務所に外注委託することになるが,その際税務事務所が会計事務所に対して支払う対価は受注額の約80%に及び,このことは,税理士事務所の業務における会計業務の重要性を物語っており,税理士事務所の売上高の約80%は会計業務のための経費というべきである。また,会計業務(税理士法2条2項参照)は税理士業務ではなく,税理士資格がなくても独立した地位で行うことが可能である。

イ 労務提供の程度

Aの一日の勤務時間をみても,本件各使用人の比較にならないほど長時間であり,労務の程度も全く異なる。すなわち,Aは,原告事務所の定時時間と比べて1.357倍長く勤務しており,パソコンを稼働させていた時間も,本件各使用人よりも1.28倍から1.3倍長い。さらに,繁忙期には資料を自宅に持ち帰るなどして,深夜,休日を問わず仕事をしていた。

ウ 同種同規模事業者における支給給与,事業の種類・規模・収益状況

一般的な税理士事務所の売上高の約80%は会計業務のための経費というべきであることは前記のとおりであり,本件各年分の原告事務所の事業収入(平成16年分が5528万2640円,平成17年分が5791万19700円,平成18年分が5888万5555円)からすれば,本件各専従者給与の金額は低額なくらいである。

エ 被告の主張に対する反論

被告が主張する類似同業者給与比準方式は,同業者抽出基準として,本来重視すべき重要な基準を採用せず,また,重要でないことを重視している点で不合理,恣意的であり,同方式を用いた判断の違法は免れないし,そもそも前提となる資料が不正確であったり信用性に欠ける。

また,被告は,使用人給与比準方式についても主張するが,Aの労務の前記性質からすれば,同人の給与が,本件各使用人の給与額と比べて高額となるのは当然であり,本件各使用人の給与額は比較の対象にならない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実並びに証拠<省略>によれば,以下の事実を認めることができ,この認定を左右するに足りる証拠はない。

⑴  Aの経歴等

ア Aは,高校卒業後,昭和52年2月から約6年2か月にわたって大阪の税理士事務所で勤務し,その間の昭和54年4月に原告と結婚し,その後,昭和58年4月から原告事務所で勤務していた者であり,税理士資格を有していないものの,平成16年の時点で,通算すると約27年にわたって税理士事務所において会計業務及び税理士補助業務に従事した経歴を有していた。なお,平成16年から平成18年までの間に原告事務所で勤務した本件各使用人の中には,平成16年の時点で,原告事務所で10年以上勤務していた者はおらず,他の事務所での勤務歴と併せても約14年勤務した者が最長であった。(証拠<省略>)

イ Aは,平成16年3月にファイナンシャルプランナー3級,同年10月に同2級の国家資格を取得した(証拠<省略>)。

ウ 原告は,昭和59年2月9日,同年1月以後のAの青色事業専従者給与の支給に関して,Aの仕事の内容を「事務」,給料月額7万円,賞与を年2回(6月給につき月給の1~2か月分,12月給につき月給の3か月分)として届出を行い,その後,平成5年2月1日,同年1月以後の青色事業専従者給与の支給に関して,Aの仕事の内容を「税理士業務補助」,給料月額50万円,賞与を年3回(各回月給の2~3か月分),変更理由を,仕事量,業務時間の増大として変更届出をし,さらに,平成9年9月8日,同年8月以後の青色事業専従者給与の支給に関して,Aの仕事の内容を「毎日10~12時間」,「税理士業務の補助」,給料月額80万円,賞与を年2回(7月給につき月給の1~2か月,12月給につき1~3か月)として変更届出をした。(証拠<省略>)

⑵  平成16年から平成18年の間のAの勤務時間等

原告事務所の勤務時間は,午前9時から午後5時までであったものの,原告及びAは,通常,午前7時半ころに出勤し,早くても午後6時ころまで勤務していた。また,Aは,税務申告期日前の繁忙期には,休日や深夜に仕事をしたり,自宅に仕事を持ち帰ることもあった。なお,Aには残業手当が支給されたことはなかった。(証拠<省略>)

⑶  平成16年から平成18年の間のAの業務内容等

ア 原告事務所の関与先の件数は,法人が約130件,個人が約120件あり,このうち約5分の2はAが単独で会計業務を担当した。残りの約5分の3は,原告が直接担当し,この原告の担当分については,本件各使用人に会計帳簿作成等の業務を下請けさせていたものの,Aが,その本件各使用人の分担も決め,また,本件各使用人の作成する会計帳簿を全て確認した。そして,Aは,会計業務に係る事務について,本件各使用人を指導,管理していた。(証拠<省略>)

イ 原告事務所の関与先のうち,学校法人(幼稚園2件)の会計業務については,予算制があり,それに対応しての各種書面作成が求められ,補助金申請手続において,短期間のうちに大量の事務処理が求められる等の特徴があるため,Aが担当し,学校法人の専用ソフト等を用いて処理していた。なお,原告事務所では,補助金申請に係る書式等が頻繁に変わること,補助金申請期間が非常に短期間であること等から,前記専用ソフトを用いたとしても,学校法人の会計業務を担当できるのは,Aだけの状況にあった。(証拠<省略>)

ウ また,原告事務所は,当時,医療法人2件について会計業務を引き受けており(証拠<省略>),この医療法人の会計業務については,病院会計準則に則した決算書作成が要求されること,保険収入に合わせて事業税の非課税部分があること,鳥取県等への提出書面があること等の特徴があるため,Aが担当していた。そして,原告事務所では,医療法人の会計業務についても,担当できるのはAだけである状況にあった。さらに,3件程あった医療法人の税務申告についても,Aが主体的に調査して下書きする等の作業を行い,他に,Aは,1件の医療法人設立の手続きも引き受け,書類作成を担当した。(証拠<省略>)

エ Aは,原告事務所において,その他,本件各使用人の勤務実績等を考慮して,原告と相談の上,本件各使用人の昇給を決定する等の給与の管理,原告事務所の会計帳簿の作成,原告事務所の備品の管理(会計ソフトの選択等の事務を含む)等,本件各使用人が担当していない事務を担当していた(証拠<省略>)。

オ 他方,原告は,税務業務については,Aや本件各使用人がパソコンで作成した決算書類,税務申告書について,自らの税法の知識に基づき内容を確認し,特に税務申告書の計算箇所については手計算で税法に則った正確な計算がなされているかを確認し,税務書類の作成,税務代理の業務を行い,また,会計業務については,Aや本件各使用人が作業に問題が生じたり窮すると,相談に応じて各人の仕事,作業を助け,本件各使用人ばかりか,Aも指導され,成果について監督を受けた。また,原告は,適宜,顧客先に出向いて顧客の相談を受け,それは税務相談にとどまらなかった。なお,原告事務所において,顧客から相談を受け,直接対応するのは原告だけだった。(証拠<省略>)

⑷  その後の経過

Aは,平成23年2月15日,原告事務所から会計部門を独立させる形でa社を設立して,原告とともに代表取締役に就任し,本件各使用人を同社に移籍させた(証拠<省略>)。

2  検討

所得税法57条1項及び同法施行令164条1項は,青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族で専らその居住者の営む事業に従事するもの(青色事業専従者)が当該事業から給与の支払を受けた場合に,「①その給与の金額でその労務に従事した期間,②労務の性質,③その提供の程度,④その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況,⑤その事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況,⑥その事業の種類及び規模並びにその収益の状況」に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは,その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入する旨規定しており,当該規定を前提にすれば,前記前提事実及び認定事実に基づき,本件各専従者給与がAの労務の性質及び提供の程度に照らし,不相当と評価せざるを得ないかどうかについて,不相当であれば相当な金額は如何なる額かを検討する必要がある。

⑴ア  まず,Aの労務の性質についてみるに,前記認定事実⑴アのとおり,Aは,税理士資格を有していないものの,平成16年の時点で,通算すると約27年にわたって税理士事務所に勤務し,会計業務及び税理士補助業務に従事した経歴を有し,同⑶イ,ウのとおり,原告事務所においては,学校法人や医療法人といった特徴のある会計業務を処理する専門的知識及び経験を有する唯一の人物であった。また,Aは,その経歴及び専門性を生かして,同⑶アのとおり,会計業務に関しては,本件各使用人の指導や本件各使用人が作成する会計帳簿を確認し,これを完成させる業務等を担当していただけでなく,本件各使用人の能力や関与先の規模等を考慮して会計業務の担当者を決定するなど,事務所内での業務配分を采配する役割を果たしていた。さらに,Aは,同⑶エのとおり,本件各使用人の昇給を決定する等の給与の管理,原告事務所の会計帳簿の作成,原告事務所の備品の管理等,本件各使用人が担当していない事務を担当していた。これらの諸点を併せ考慮すれば,Aの労務の性質は,会計業務及び税理士補助業務における経歴ないし専門性を遺憾なく発揮して,原告事務所の経営に深く関わるものであったということができ,この点で,本件各使用人とは質的に異なるものであったと評価することができる。

また,労務提供の程度についても,Aの勤務時間が本件各使用人よりも長時間に及ぶものであったことは前記認定事実⑵のとおりであり,Aの繁忙期における勤務状況をみても,本件各使用人より量的にも多いものであったことが認められる(被告は,Aの勤務時間について,客観的証拠がない旨主張している。しかし,前記認定に係るAの勤務時間は,パソコンログ記録[証拠<省略>]によって認められるAのパソコンの起動時間やAが記載した税務日誌[証拠<省略>]の内容によって裏付けられており,自宅で資料作成等の作業に従事した点に関する証人Aの証言は,前記のAの担当事務の内容や,Aが当時自宅において持ち帰り仕事ができないような育児等の家事の負担を負っていたことを認めるに足りる証拠がないことに照らせば,あながち信用できないとはいえない。)。

イ  そこで,Aのこのような労務の質,量に照らせば,本件各専従者給与は相当な金額のようでもある。

しかしながら,本件各専従者給与の金額(平成16年分について1240万円,平成17年分及び平成18年分について各1280万円)は本件各年分の原告事務所,すなわち別表3ないし5<省略>記載の原告の事業所得の金額(平成16年分について1272万1014円,平成17年分について1520万0391円,平成18年分について1336万8936円)とほぼ等しいか,それに近いものになっており,この観点から不相応でないか疑義が生じる。すなわち,税理士法においては,税理士は,同法2条1項に規定する税理士業務のほか,税理士の名称を用いて,他人の求めに応じ,税理士業務に付随して,財務書類の作成,会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる旨規定され(同条2項),また,税理士でない者については,税理士業務を行ってはならないこと(同法52条),税理士若しくは税理士事務所又はこれに類似する名称を用いてはならないこと(同法53条)が規定されている。これらの規定からすれば,同法は,税理士の名称を用いて業務を行う限り,税理士が,税理士でない者に同法2条2項の業務を担当させる場合についても,最終的には税理士による監督を予定しているとみるべきである(そして,税理士は,本来自由業務である会計業務であっても,自己の名称を使うことで顧客から信用を得ることができ,営業上もそれが有利に働くことは容易に推認できる)。実際にも,前記認定事実⑶オのとおり,Aは税務業務はもちろんのこと会計業務についても,原告から指導監督を受けていた。そして,こうしたことが,賃金水準を査定するにあたっては(特に,有資格者とそうでない者の業務及びそれに対する評価の分配),前記の顧客からの信頼を含む,職能給的な要素や職責級的な要素及び資格の有無も含めた専門性を考慮するのが通常であることに照らし,作業量や作業時間が断然違うほど資格のない者が働かない限り,資格を有する税理士が支払を受けるべき対価は資格を有しない者が支払を受けるべき対価より多くなるのが一般である。ところが,本件においては,前記のとおり,本件各専従者給与の金額と原告事務所の事業所得の金額は,ほぼ等しいか,それに近く,前記の労務の性質やその対価としての給与のあり方という側面から見て,不相当なものと評価せざるを得ない。

ウ  さらに,税理士が,税務に関する専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえるべき立場(税理士法1条参照)にあることを考慮すると,自らの確定申告をするにあたっても,第三者の目から見て,担税力に見合った納税義務の適正な履行(所得税法1条参照)が行われていると評価されるような申告がされているかどうかが問われるものというべきであり,類似同規模同種事業者における支給給与と乖離した給与の支払がされたことを前提とした(事業)所得税の申告がされることによって,全体として,高額な所得税の納税を回避するような目的があったと窺われるような事情が認められる場合は,申告上の専従者給与の一部について必要経費への算入が否定されることにならざるを得ないと解するのが相当である。

そこで,本件各年分における確定申告の内容に照らし,本件各専従者給与の金額を前提とした場合に,原告夫婦が負担した所得税額の合計金額を試算すると,別紙2ないし4<省略>の各年分の「:申告額をもとに計算」のとおりとなり(社会保険料控除及び生命保険料控除については,証拠<省略>によれば,Aに係る社会保険料のうち,国民年金保険料及び国民年金基金保険料については,原告が支出し,そのため原告の社会保険料として控除されていると推定されることから,A自身は,原告に係る国民健康保険料と同額の国民健康保険料のみを負担していると判断し,生命保険料については,原告に係る生命保険料額を上回る生命保険料の支払をしていることはないものと想定して,それぞれ同一金額が控除されるものとして計算した。),Aに係る定率減税額が上限(平成17年分までは25万円,平成18年分は12万5000円)に達する分岐点を試算した結果は,別紙2ないし4<省略>の各年分の「:定率減税頭打ち額を基準に修正して計算」のとおりとなる。これらの試算結果に照らすと,原告及びAは,税務の基礎知識を活用して,当時実施されていた定率減税が,減税額が平成17年分までは25万円,平成18年分は12万5000円で頭打ちになっていることを考慮し,一定の所得をAに多めに配分することにして,Aの所得税に係る定率減税を受ける形式を取ることによって,総体として,夫婦が共同経営している事業から得られる収入に見合った担税力に釣り合うような所得税の納付を回避する観点から,専従者給与額を調整して確定申告をしたことが推認できる。

エ  そうすると,本件各専従者給与の金額は,相当なものとはいえない。

⑵  ところで,原告は,前記第2の4⑵アのとおり,税理士が会計事務所に会計業務を外注した場合に,売上の80パーセント相当額を支払うのが通常であり,Aの仕事に対応する売上は原告事務所の売上総額の80%に相当するかの主張をするが,前記のとおり,原告事務所の売上は,会計業務に相当する部分を含めて,あくまで税理士である原告の名称及び資格を用いて経営したことによるところが大きいというべきであり,この点の原告の主張は採用できない。もっとも,前記認定事実⑶アのとおり,原告事務所の関与先の会計業務の担当件数をみると,原告が全体の約5分の3,Aが約5分の2であったことが認められ,加えて,Aが,前記の経歴及び専門性を前提として,原告担当分についても本件各使用人を指導し,同人ら作成に係る会計帳簿等の確認を行っていたこと,Aが,自らの判断で関与先の会計業務の担当者を最終的に決定したり,本件各使用人の人事管理を行っていたこと,特に業務が困難な医療法人等の会計業務等を一人で行ってきたこと等も併せ考慮すれば,Aの労務の対価として相当と認められる金額は,原告の営業活動等を踏まえても,原告事務所の事業所得の金額の5分の2,すなわち,原告の事業所得金額とAの専従者給与額が3対2の割合になるものと評価することに合理性を有するものと認められる。なお,当裁判所としては,一般的な税埋土事務所における会計業務の比重がどの程度のものであるかについては,不明なところもあり,Aの担当件数の割合を基本に認定することに疑問を感じないではない上,税理士事務所における会計業務を含む売上げを考えた場合,これまでにも述べたとおり,税理士資格を有しない事業専従者や使用人が如何に働こうとも,税理士がその名称及び資格をもって集客し,仕事を受注し,受注後も事業従事者や使用人の作業を監督しなければ売上げを上げることができないのだから,鳥取県民の平均給与も認められないなら格別,それ以上の額が事業従事者の労働の対価として問題となる場合には,その観点が重視されるべきであり,しかも,本件においては,前記のとおり,原告が積極的に顧客と会い,営業活動をしてさらにはAに対する監督もしているようであり,その点を踏まえれば,原告の事業所得とAの専従者給与額の割合は,前者が3対2より多くなるようにすべきかもしれない。しかしながら,本件においては,被告が,普遍性や合理性が担保される方法で,原告の主張や証人Aの証言の弾劾に成功していないことを考慮すると,前記のとおり,原告の所得金額とAの専従者給与額が3対2の割合になるものとして課税標準を認定することがそれ程社会常識に反するともいえないと解する。

⑶  これに対し,被告は,本件各専従者給与は,類似同業者給与比準方式に基づき把握できた金額を上回るものではない旨主張する。

しかしながら,被告の主張する類似同業者比準方式についても,本件通達における類似同業者の抽出基準が,Aのような経歴及び専門性,経営への深い関与を前提とするものとなっていない以上,採用することができない。そもそも,所得税法57条1項及び同法施行令164条1項は,事業者側だけでなく,事業専従者側の労務についての個性を十分に配慮すべきことを念頭に置いた規定であり,その配慮なく類似同業者を抽出して,その抽出同業者と原告を比較するだけでAの相当な労務の対価を決めることは許されないと解すべきである。特に,本件では,原告における税務日誌の記載が不十分なものであるとか,労働時間の管理が不十分であった事情はあるものの,原告が処分行政庁の税務調査を拒絶したり,非協力だった事情は窺えない。そうだとすれば,処分行政庁は,Aの労働実態を綿密に調査,分析した上,Aの労働実態に沿った認定ができたはずであり,にもかかわらず,処分行政庁が主張するような抽出基準で類似同業者を抽出し,それに基づきAの相当な労務の対価の額を判断し,被告も当審において,それに沿って主張したことは何らの合理性もなく,排斥されねばならないと解する。

また,前記のとおり認められるAの労務の性質及び労務提供の程度等を考慮すれば,Aの給与額が本件各使用人よりも高額となるのは当然であり,本件各専従者給与を,本件各使用人の給与と比較する被告の主張も採用することはできない。

⑷  そうすると,Aの労務の対価として相当と認められる金額は,原告の所得金額とAの専従者給与額の合計額(本件各年分における事業所得金額に本件各専従者給与を加えた金額)に5分の2を掛けた金額となり,別紙2ないし4<省略>の各年分の「:認容金額」の「㈪A所得税額」,「専従者給与」欄のとおり,平成16年分が,1004万8406円,平成17年分が1120万0156円,平成18年分が1046万7574円となる。これらを前提に,本件各年分の事業所得金額を計算すると,前記の各別紙<省略>の各年分の「:認容金額」の「①原告の所得税額」,「事業所得」欄とおり,平成16年分が1507万2608円,平成17年分が1680万0235円,平成18年分が1570万1362円となり,また,還付金の額に相当する税額は,前記の各別紙<省略>の各年分の「:認容金額」の「①原告の所得税額」,「還付金額」欄のとおり,平成16年分が271万3190円,平成17年分が240万7856円,平成18年分が234万4388円となる。

さらに,以上の計算を前提に,本件各年分における過少申告加算税の額を計算すると,前記の各別紙<省略>の各年分の「:認容金額」の「過少申告加算税額」のとおり,平成16年分が7万円,平成17年分が4万8000円,平成18年分が6万9900円となる。

第4結論

よって,原告の請求は,原告の平成16年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1507万2608円,還付金の額に相当する税額271万3190円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち7万円を超える部分,原告の平成17年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1680万0235円,還付金の額に相当する税額240万7856円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち4万8000円を超える部分及び原告の平成18年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1570万1362円,還付金の額に相当する税額234万4388円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち6万9900円を超える部分の取消しを求める限度で理由があり,その余の請求は理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官 和久田斉 遠藤浩太郎 西山芳樹)

別表1から5<省略>

別紙1から5<省略>

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