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鳥取地方裁判所 昭和23年(行)15号 判決

原告 森田万喜太郎 外一名

被告 鳥取県知事

一、主  文

被告が昭和二十三年七月二日原告等が各所有する別紙第一、第二目録記載の土地建物に対してなしたる各買収処分はいずれも之を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として原告森田万喜太郎は別紙第一目録記載の土地建物を所有して、右建物を訴外山本俊一に賃貸し、原告中沢邦夫は同第二目録記載の土地建物を所有してその建物を訴外祖田正元に賃貸していた。而して自作農創設特別措置法により、訴外山本俊一は、米子市灘町三丁目一三八番畑六畝、米子市花園町一〇一番畑六畝、同所一〇二番畑六畝の売渡を受け訴外祖田正元の妻絹子は、米子市灘町三丁目一三九番畑六畝、同所一四〇番畑六畝、同所一四一番畑五畝十三歩、米子市花園町九六番の一畑五畝二十六歩の売渡を受けた。被告は昭和二十三年七月二日右第一、第二目録記載の各土地建物を右山本俊一、祖田正元の買収申請に基き改正前の昭和二十一年法第四三号自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号によつて買収したが該買収手続には次の違法があつて取消さるべきものである。

一、米子市農地委員会は、本件各買収計画を定めたとき同法第十五条第二項、第六条第五項による公告縦覧の手続をしなかつた。

二、仮に右手続がなされたとしても、鳥取県農地部農地課の第二次農地制度改革農地の買収及売渡事務処理要領に定めてある、不在地主には「所有者居住の市町村農地委員会を経て買収計画書の抜萃を所有者に交付すべき」手続を履んでいない。

三、訴外祖田正元は、同法第十五条第一項にいわゆる「第三条の規定により買収する農地につき所有権その他の権利を有する」買収申請適格者でないのにも拘わらず、同人の申請によつて同第二目録記載の土地建物を買収した。

四、本件各土地建物は次の各理由から同法第十五条にいわゆる附帯買収として相当と認められないものである。即ち、

(1)  本件土地建物の買収の申請をなした訴外山本俊一同祖田正元は当時それぞれ自己所有の四棟の家屋を所有していたこと。

(2)  訴外山本俊一は、米子市農地委員会の書記として勤務し片手間に畑二反九畝二十一歩を耕作しているにすぎず、又仮に訴外祖田正元が右買収申請適格者であつて且つ絹子に同第二目録記載の土地建物が売渡されたことに何等瑕疵がないとしても、右訴外人等の世帯は主として訴外祖田正元が日曹米子工場に勤務して、その給料によつて維持せられており、絹子は家計をたすけるために畑二反二畝三十九歩を耕作しているにすぎない。

(3)  本件各建物は、全く農業に利用できない構造であり土地も農業に利用する余地はなく訴外山本俊一同絹子はいずれも単なる住居のみに使用している、

と陳述した(立証省略)。

被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告等主張事実中原告森田万喜太郎が別紙第一目録記載の土地建物を所有し、右建物を訴外山本俊一に賃貸していたこと、原告中沢邦夫が同第二目録記載の土地建物を所有し、その建物を訴外祖田正元に賃貸していたこと、自作農創設特別措置法により訴外山本俊一同祖田絹子がその主張の如き農地の売渡を受けたこと、訴外祖田絹子が訴外祖田正元の妻であつて同一世帯にあること訴外山本俊一、同祖田正元の各申請により、被告が右第一、第二目録記載の各土地建物をそれぞれ買収したこと、被告が右山本俊一に第一目録記載の土地建物を祖田絹子に同第二目録記載の土地建物を夫々売渡したこと、米子市農地委員会が右農地の買収及売渡事務処理要領にしたがつて買収計画書の当該抜萃を原告等に交付していないこと、山本俊一及び絹子がその主張の如き面積の畑をそれぞれ耕作していることは認めるがその余の点はすべて争う。

一、農地の買収及び売渡事務処理要領は鳥取県下の事務取扱上の内規であるからこれに従わなくとも違法ではない。

二、訴外山本俊一の所有家屋中三棟の家屋は当時既に他に売却済であり、只代金未了のため登記がおくれているに過ぎず、又残りの一棟は公簿上の錯誤により同人の名義であるが他人の所有である。訴外祖田正元の所有家屋中一棟は売却済みであり、残りの三棟は現に他人に賃貸中で、住宅不足の際之が明渡を求めることは困難であり、右賃貸家屋は各賃借人等に売却する考えをもつている。

三、本件各土地家屋は、農業用として建築せられたものではないから甚だ不便であるが、畑作の収穫調整に利用しており、且つその位置が同地方唯一の自給肥料たる海藻の採取に適当な位置にある。

四、仮に本件土地家屋が営農上利用されないとしても、自作農創設特別措置法第十五条第一項の規定は自作農となるべき者の賃借せる家屋を買収するという意味で必ずしもこれに適するや否やを問題としているものではないから、買収処分の違法を争うことはできない、と述べた(立証省略)。

三、理  由

原告森田万喜太郎が別紙第一目録記載の土地建物を所有し、右建物を訴外山本俊一に賃貸し、原告中沢邦夫が同第二目録記載の土地建物を所有しその建物を訴外祖田正元に賃貸していたこと、自作農創設特別措置法(以下自農法と略称する)により右山本俊一訴外祖田絹子(正元の妻)が原告主張の如き農地の売渡を受けたこと被告が右山本俊一、祖田正元の申請により原告等の所有する別紙目録第一第二記載の各土地建物を昭和二十三年七月二日改正前の昭和二十一年法第四三号自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号によつて買収したことはいずれも当事者間に争がない。

原告等は右買収に際して、米子市農地委員会が自農法第十五条第二項、第六条第五項による公告縦覧の手続をしなかつたと主張するけれども、証人松田宜之、同山本俊一(第一回)同宮本元之(第一回)の証言を総合すると、右公告縦覧は適法になされたことが認めることができ、右認定に反する証人谷島範次の証言は信用できないし、その他これを覆えすに足る証拠もない。よつてこの点に関する原告等の主張は理由がない。

次に原告等は農地の買収及売渡事務処理要領にしたがつて本件買収計画書の抜萃を原告等に交付しなかつた違法があると主張し右の事実は被告の認めるところであるが、右処理要領は行政処分を合目的的に遂行するために鳥取県農地部農地課が定めた訓令の一種であつて、原告等の主張する不在地主には「所有者居住の市町村農地委員会を経て買収計画書の抜萃を所有者に送付する」という条項は、全く行政庁の自由裁量処分の範囲に属する規準を定めたものにすぎないと解すべきである。したがつて右条項の違反は、単に不当行為と評価されるに止り違法の問題は生じないから、行政訴訟の対象とはならず主張自体理由がない。

更に原告等は、訴外祖田正元は自農法第十五条第一項の買収申請適格者でないのにもかかわらず、同人の申請によつて同第二目録記載の土地建物を買収した違法があるというから此の点について考えてみる。

自農法第十五条第一項第二号による買収の対象たる宅地建物は、「第三条の規定により買収する農地につき自作農となるべき者が賃借権を有する宅地又は建物」であるが、同法が農地の経営主体を、純粋な意味での個人私有財産制として把握せず、いわゆる家産的に世帯単位として考えているところからみれば、この場合の自作農となるべき者は、農地の売渡を受けた耕作者個人のみを意味するものではなく、その者を含んだ自作農家、農業世帯の中心となるべき者も入ると解するを相当とする。よつて本件をみると、前記認定の如く訴外祖田正元の妻絹子が原告等主張の如き農地の売渡をうけたものであつても、正元と絹子とが同一世帯(この点は当事者間に争がない)にあつて営農する限り、正元はその申請をする適格があるというべきである。よつて原告等の右主張も採用できない。

更に進んで、原告等は、本件の各土地建物はいわゆる附帯買収をするのに相当と認められないものであると主張するから此の点について判断する。

(1)  原告等はその理由の一つとして、訴外山本俊一同祖田正元は当時それぞれ自己所有の四棟の建物を所有していたと主張するけれども、成立に争いのない甲第一号証の一乃至八、証人山本俊一(第一、二回)同祖田正元の証言を総合すると、訴外山本俊一が当時所有していた米子市灘町二丁目三二番地家屋番号一四五住家建坪一六坪六合二勺、同所家屋番号一四五の二住家建坪一六坪六合二勺、同所家屋番号一四五の三住家建坪一六坪六合二勺の三棟は昭和二十二年十一月頃訴外神庭助四郎外二名に売却しており、代金未払のため台帳面の記載のみが残つて居たものであり、同所家屋番号一四五の四住家建坪四四坪二合五勺は台帳面では番地の間違から同人名義になつているにすぎず、実質は他人の所有でありしたがつて同人は買収計画樹立の当時自己所有の家屋はすでに他に処分してしまつていたこと、祖田正元は同人が所有していた米子市灘町二丁目三〇番地家屋番号一五三住家建坪五六坪五合二勺は他人に売却済で台帳面の記載のみのこつて居り、他の三棟はすべて他人に賃貸して居てこれが明渡を求めることは困難な状況にあるので、それぞれ各賃借人に売却する意思をもつていることが窺われ、右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると山本俊一には所有家屋なく、祖田正元には所有家屋が三棟存在するも将来長期に亘つて使用できない状態にあるというべきであるから同法第十五条の規定に依る附帯買収の申請者が他に自己の所有家屋を有する事実のみを捉えて附帯買収計画が違法であるとの原告等の右主張は採用できない。

(2)  検証の結果並に証人山本俊一(第一、二回)同佐藤熊蔵同祖田正元の各証言を総合すると山本俊一居住の第一目録記載の家屋は米子市灘町二丁目の市道に面し、階下は間口二間奥行九間で四畳半二間六畳一間あり階上は六畳二間のある住宅向の構造で、他に浴場、便所、物置、炊事場、鶏舎があるけれども、敷地の余裕は殆んどなく、物置には不用の家財道具がしまつてあつて農具はなく、山本は平素畑地で脱穀し、収穫物や農具は山本所有の米子市灘町三丁目百三十六番の畑地に建てられてある間口二間奥行二間の小屋に保管し本件宅地建物は農業の経営に適さず現にその目的に殆んど使用していないこと、又祖田所有の第二目録記載の家屋は山本の右家屋の隣りにあつて、その構造は山本の家屋のそれと殆んど同一で、農具等は家においてなく、祖田は山本同様畑地で脱穀しその収穫物農具等は祖田所有の米子市灘町三丁目百四十番の畑地に建てられてある二間と一間半の小屋に保管し、本件宅地建物は農業経営に適さず現にその目的に殆んど使用していないこと、なお本件買収当時山本は農地委員会書記、長男長女は共に他に勤め、家計は主にこれ等の俸給によつて維持せられ、営農はただ家計を補助するため片手間になされているに過ぎないこと、又祖田正元は日本曹達株式会社米子工場に勤務し、生活は主としてその給料によつて支えられ、妻絹子が家計を補うために営農しているに過ぎないことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

凡そ自作農創設特別措置法第十五条の法意は土地物件権利等についていわゆる附帯買収することが同法第一条に規定する耕作者の地位の安定、自作農の創設、土地の農業上の利用増進、農業生産力の発展等同法の目的達成上必要な場合があるからである。それゆえ附帯買収の対象となる宅地建物は必ずしも買収農地に従属している必要はないが、少くとも農業経営に使用され必要なものであることを要すると解するを相当とすべく、したがつてその宅地建物が農業経営に使用されず、必要のない場合とか或は農地の解放を受けてもその者の農業経営の主眼が消費者大衆のための食料生産のためではなく、主として当該個人の家計を補うに過ぎないような場合(農業経営の規模が零細でしかも一家のうち稼働能力高きものが他の業務について相当収入を得、実際農業に当る者が高齢者、婦女子、一時失業したものであるようないわゆる飯米農家の場合)には同法の予定している農業生産の増強とは縁のうすいものであるから、その所有者の犠牲において強制的に宅地建物を買収することは許されないと解すべきである。

今本件につきこれを観るに、前記認定の如く本件宅地建物は買収農地の経営に適さず必要でないのみならず右山本俊一、祖田正元はいずれもいわゆる飯米農家であるから、村農地委員会が本件宅地建物を附帯買収する計画を樹てたのは前記説示に照し違法といわねばならない。

被告は本件宅地建物は自給肥料たる海藻の採取に便宜な位置にあると主張するけれども海藻の採取は本件宅地建物の所有権を取得しなくとも賃借権が強力に保護されているので可能であるのみならず、右の如き事情のみでは、本件宅地建物の買収を相当とは認められないので右主張は採用できない。なお自農法第十五条第一項の規定は自作農となるべき者の賃借せる家屋という意味で必ずしも農業経営に適するや否を問わないとの被告の主張は当裁判所の右見解と異るもので採用の限ではない。

そうすると被告が違法な買収計画に基いて原告等所有の本件宅地建物に対してなした買収処分は違法で取消さるべきものといわねばならない。よつて、被告が原告等の所有する前記各宅地建物に対してなした買収処分の取消を求める本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 和田邦康 高橋文恵 石藤太郎)

(目録省略)

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