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鳥取地方裁判所 昭和26年(行)39号 判決

原告 森彌三郎

被告 倉吉労働基準監督署長

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十六年一月八日原告に対して為した訴外故谷本重郎(以下重郎と略称する)の死亡による労働基準法に基く遺族補償並に葬祭料として合計金十四万七千百八十一円を訴外谷本いとに支払わねばならない旨の決定は之を取消す、訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求めその請求原因として、重郎は昭和二十五年十一月二十二日鳥取県東伯郡以西村大字山川別原山林に於て原告所有の山林立木伐採の作業中誤つて立木に頭を打たれて死亡した。被告は重郎の親族である訴外谷本次郎から同年十二月五日労働基準法第八十五条による審査決定の申立をうけ、重郎を原告山林立木伐採の業務に従事する労働者と認定し、昭和二十六年一月八日原告に対し遺族補償並に葬祭料として合計金十四万七千百八十一円を重郎の妻である訴外谷本いとに支払うべき旨の決定をなした。而して原告は同月十日頃その通知を受けたので同月十八日鳥取県労働者災害補償審査会に対し審査請求の申立をなしたところ、同年三月三十日原告の申立を認めない旨の決定をなし同年四月十日頃にその通知を受領した。然しながら原告は昭和二十五年十一月中旬重郎に対し前記原告所有の山林につき一歳につき三十銭の割合で立木伐採を請負わしめたものであつて、原告と重郎との間にはいわゆる使用者労働者の雇傭関係はないのであるから、重郎がその請負事業中に死去したものであつても原告は重郎の死亡に対して補償の責任を負う理由がない。又仮に原告と重郎との間に右雇傭関係があつたとしても、原告は同月十六日重郎に対し右立木伐採業務の中止を命じているのであるから、原告の意思に反して伐採を継続し事故を起して死亡したことについては補償の責に任ずることは出来ない。従つて被告が原告に対し昭和二十六年一月八日になした遺族補償並に葬祭料の支払決定は不法に原告に対して支払義務を課し、法的にこれを拘束するものであるから、前記の如く鳥取県労働者災害補償審査会の審査決定を経て本訴請求に及んだものであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中その主張の日時場所に於て重郎が死亡したこと、被告が訴外谷本次郎から昭和二十五年十二月五日労働基準法第八十五条第一項による審査申立を受けたので、原告主張の如き日時にその主張の如き決定をなしその通知をなしたこと、原告が鳥取県労働者災害補償審査会に対して審査申立をなしその申立を却下された事実は之を認めるが、爾余の点についてはすべて否認する。およそ行政訴訟は行政庁によつて法律上権利義務の効果を発生する行政行為がなされて始めて提起できるものであつて、本件被告のなした決定の如く一種の勧告的性質をもつものは国民の権利義務に法律上の効果を及ぼすものでないから、これが取消を求めるため訴訟を提起する必要もなく、又その利益もないから本訴請求は失当として棄却さるべきであると述べた。(立証省略)

三、理  由

被告が昭和二十六年一月八日原告に対して労働基準法第七十九条第八十条第八十五条第百条に基き、遺族補償並に葬祭料として合計金十四万七千百八十一円を重郎の妻訴外谷本いとに支払うべき決定をしたこと、及び原告が右決定を不服として、鳥取県労働者災害補償審査会に対し審査請求の申立をしたところ、その請求は理由がないとして却下されたことは孰れも当事者間に争のないところである。

よつて先ず、原告が行政訴訟を提起して被告のなした本件決定の取消を求めることができるかどうかについて判断するに、労働基準法第八十五条第一、二項第八十六条第一項には行政官庁(労働基準監督署長)は業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議ある者の請求に依り又は職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。右の審査及び仲裁の結果に不服のある者は労働者災害補償審査会の審査又は仲裁を請求することができる旨規定してあり、更に同法第八十六条第二項にはこの法律による災害補償に関する事項について民事訴訟を提起するには、労働者災害補償審査会の審査又は仲裁を経なければならないと規定してある点を綜合すると、右の規定は行政庁の有する専門的知識と経験とに基いて災害補償に関する紛争をできるだけ簡易にしかも迅速適正に解決するために設けられたものであることは明らかであり、右労働基準監督署長又は労働者災害補償審査会の審査及び仲裁は一種の勧告的のもので関係当事者に直接権利を与え或は義務を負わすような特別の法律上の効力を有するものでないと解するを相当とする。

もつとも、同法第七十九条第八十条の規定に違反した者に対しては、同法第百十九条に罰則が定められているが、右は遺族等の生活の保護が迅速に行われることを必要とするため監督機関が罰則の睨みをきかせて災害補償の履行を監督視し促がすことによつてその実施を確保せんとするにあることが窺われるのみならず、たとい使用者が起訴せられても刑事訴訟手続中においてこれを争えるから右罰則規定の存するゆえをもつて前記審査が法的拘束力を有すると断ずることはできない。しかしておよそ行政訴訟を提起し得るためには行政庁によつて法律上の権利義務に関する効果の発生する行政行為がなされることを要し、たとい行政庁による処分がなされてもそれが権利義務についての法的効果を発生しないときはいわゆる行政訴訟の対象とならないものと解すべきところ、被告のなした本件補償金額の決定は、原告に災害補償をすべき法律上の義務を課したものでないことは前段説示に依り明らかであるのでいわゆる行政訴訟の対象とならないものといわねばならない。

そうすると、原告の本訴請求は主張自体失当であるから爾余の点につき判断を俟つまでもなく、これを棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 和田邦康 藤田哲夫 石藤太郎)

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