大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和39年(ワ)256号 判決 1971年10月18日

原告 上山巌

被告 船越作十郎 外三名

主文

被告船越作十郎、同安藤寿行、同北村輝雄は原告に対し、連帯して金二二二万〇、六三二円およびこれに対する昭和三八年一〇月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の右被告らに対するその余の請求を棄却する。

原告の被告八田常次郎に対する請求はいずれも棄却する。

訴訟費用中、原告と被告船越作十郎、同安藤寿行、同北村輝雄との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を右被告らの連帯負担とし、原告と被告八田常次郎との間に生じたものは全部原告の負担とする

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

「被告らは原告に対し、連帯して二四三万円およびこれに対する昭和三八年九月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決。

(被告ら)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、鳥取市湖山町字二本松西方二九五五番二所在畑一反三畝二八歩の土地(以下、本件分筆前の土地という。)は被告船越作十郎の先代訴外船越作太郎の所有であつたが、同訴外人は昭和一九年初めごろ右土地を工場用地として訴外日産軽飛行機株式会社(昭和三一年一〇月八日商号変更により勧業建設株式会社となる。以下、訴外会社という。)に売渡し、その所有権移転登記はなされていなかつた。

二、訴外会社は右土地のほかにもその付近に多数の土地を買入れていたが、終戦になつたので同社の代表者訴外田所稔および同尾崎康一がその整理に当り、昭和三一年ごろ訴外上山雄次郎に対し

(イ) 鳥取市湖山町一一九四番一一所在の土地約一万六、〇〇〇坪

(ロ) 同町二九五五番一ないし三所在の土地のうち二、〇〇〇坪

(ハ) 同町一三〇七番および同一三〇七番一所在の土地のうち約四〇〇坪

を売渡したが、右(ロ)のうちの本件分筆前の土地については、そのうち国道敷地として国に買収される部分を除いた残地五畝一二歩(のち分筆され同所二九五五番二二となつた部分。以下、本件土地という。)を売渡し、その所有権移転登記手続には分筆を要するため、鳥取市内の訴外蔵密司法書士が訴外会社の依頼でその分筆手続を準備し、そのころ、本件土地は同所二九五五番一〇の地番となるべく予定されていたので、右売買契約の書類には本件土地を右予定地番にて表示していた。

三、その後、昭和三二年六月ごろに原告は右上山雄次郎から本件土地を買受け、その所有権を取得したが、本件土地には従前から訴外上山昇に対する抵当権設定登記がなされていて、同訴外人が既に死亡し、その相続関係が複雑である等して、右抵当権の登記抹消手続が容易にできないため、原告に対する所有権移転登記も履行されない状態にあつたが、訴外会社の代表者である前記尾崎がその手続の履行責任者として、右抵当権の登記抹消手続完了次第に同社から中間省略の方法により原告にその所有権移転登記をなす旨約していた。

四、ところが、前記二の訴外会社による分筆手続が実行されないうちに、昭和三七年ごろから鳥取市によつて本件土地付近の土地の分筆がなされ、その際、訴外会社が本件土地に予定していた二九五五番一〇の地番は他の土地の地番表示に使用されるに至つた。

五、訴外会社は営業不振のため、昭和三三年一一月一日ごろ、その既存債権、債務は前記田所稔の責任に帰属する条件で、その株式を被告八田常次郎が代表取締役をしていた訴外三和建設株式会社(以下、訴外三和建設という。)に譲渡し、その際同被告が訴外会社の代表取締役になつたが、昭和三八年九月一六日ごろ、本件土地付近の休閑地に着眼し近時の土地の値上りによる利益を得んとした被告安藤、同北村の両名が訴外会社に本件土地の購入方を申入れた際、同会社において被告八田らの役員が集合し右申入についての協議がなされた席で、前記尾崎から、本件土地を含む湖山付近の訴外会社の土地は全部処分済であつて、本件土地は原告に売渡しているばかりか、被告八田と前記田所との前記約定により訴外会社の旧債務は右田所の処理すべきものであつて、被告八田らが処理する権限はない旨の説明を受けた結果、訴外会社としては被告安藤らの前記申入れを拒否したのにもかかわらず、被告八田は訴外会社の代表資格を悪用し、独断で被告安藤、同北村とともに、訴外会社の原告に対する本件土地の売渡証書に記載された予定地番が既に別個の土地の地番となつていることを利用して、本件土地を不法に取得しようと企てた。

六、被告安藤、同北村は、昭和三八年九月ごろ、鳥取市役所において、同所係員から本件土地の地番が既に前記の予定地番二九五五番一〇とは相違する旨の説明を受け、さらにそのころ、被告船越からも本件土地は同被告の先代が訴外会社に売渡し、同社より前記上山雄次郎を経て原告に譲渡されている旨を説明されたのにもかかわらず、同被告船越に対し、前記の地番の相違を利用すれば合法的な二重売買にて利益を得ることができると極力説得し、さらにそのことは訴外会社も承知であると称して、被告八田の作成した委任状を示す等して、本件土地が原告の買受けにかかるものであることを知る被告船越をして本件土地の二重売買を決意させ、同被告らは本件土地を他に転売して利益を得ることを協議した。

七、その結果、被告船越は昭和三八年九月二五日に本件土地を被告安藤および同北村に売渡し、同年一〇月二二日付をもつて本件土地を本件分筆前の土地の地番二九五五番二から分筆し、同所二九五五番二二として被告船越作十郎名義に相続登記後、同月二四日に被告安藤および同北村にその所有権移転登記をなしたが、同被告両名はさらに昭和三九年一月七日に訴外山根豊および同森田増江に対し本件土地の所有権移転登記をなして終局的に原告の本件土地に対する所有権を喪失させた。当時の本件土地の価格は一坪当り約一万五、〇〇〇円で、合計二四三万円の価値があつたが、右被告両名は昭和三八年九月ごろから昭和三九年一月七日ごろまでの間に本件土地をさらに他に合計二二二万〇、六三二円で転売しているので、少なくとも同金額以上の価格があつたものである。

八、なお、前記五記載のように被告八田が訴外会社の代表者となつた昭和三三年一一月一日当時は、同社の資産としては東京の事務所の賃借権位しかなく、本件土地の登記手続を含む従前の債権、債務の処理は前記田所から一任された前記尾崎がなしていたので、右日時以後の訴外会社は従前の同社とは実体的に異なつた存在であつて、何ら事業活動は行なつていない名義的存在にすぎず、被告八田と訴外会社とは同一人格と同視してよい関係にあり、被告安藤、同北村は本件土地の前記二重売買当時被告八田から訴外会社の株式の一部を譲受け、その後同社の取締役に就任しているのであつて、同社と密接な関係を持つところから、右被告ら三名は訴外会社とは純然たる第三者の関係にあるものではなく、同社そのものか、または同社名を自由に使用し得る立場のものとみなされるべきである。

九、以上により、被告船越は、その先代の売主としての地位を承継しているにもかかわらず、原告が未だその所有権移転登記を経ていないことから、故意に本件土地を他に二重に売却して、原告所有の本件土地を横領し、その所有権を喪失させたものであると同時に、原告の訴外会社に対する本件土地の所有権移転登記請求権を侵害したものであつて、いずれにしても民事上の不法行為責任による損害賠償義務を負わねばならず、その余の被告三名は、共謀して右被告船越の横領行為を教唆した共同不法行為者であると同時に、訴外会社と同一もしくは密接な関係の立場にあつたものとして、同社が原告に負つている本件土地の中間省略の方法による所有権移転登記手続義務の履行を不能ならしめたことにより、原告のその権利行使を侵害した不法行為責任による損害賠償義務を負うとともに、原告の訴外会社に対する右履行に代る損害賠償請求権について同社と連帯して責任を負いその損害を賠償する義務があり、原告は被告らの右各不法行為または訴外会社の右債務不履行により本件土地の価格金二四三万円と同額の損害を蒙つた。

一〇、よつて、原告は被告らに対し、連帯して右損害金二四三万円およびこれに対する不法行為後または履行不能後の昭和三八年九月二六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する被告らの認否と主張)

一、認否

(一) 請求原因一の事実は認める。

(二) その余の請求原因事実は、同五の被告八田が訴外会社の代表取締役(ただし、昭和三四年一月一四日以降)であること、同七の本件土地が本件分筆前の土地から分筆され、被告船越に相続登記がなされ、同被告から被告安藤および同北村に売渡され、ついで同被告両名からその一部を訴外山根および同増田に譲渡され、原告主張のころ本件土地を他に合計金二二二万〇、六三二円で転売していることおよび右各所有権移転登記手続を経ていることを認めるほかは、すべて争う。

二、主張

(一) 原告が訴外上山雄次郎から買受けたとする土地は本件土地ではない。すなわち、本件分筆前の土地は昭和三七年四月二六日に

(A) 同所二九五五番二所在一反二畝一三歩

(B) 同所二九五五番一〇所在一畝一五歩

の二筆に分筆され、さらに右(A)の土地は昭和三八年一〇月二二日に

(C) 同所二九五五番二所在七畝一歩

(D) 同所二九五五番二二所在五畝一二歩

の二筆に分筆登記され、右(C)の土地は昭和三五年一一月三〇日付贈与を原因として昭和三八年一二月一九日に建設省に所有権移転登記がなされ、同土地は以後国道の敷地となつているが、右(D)の土地(本件土地)は昭和二〇年一〇月四日家督相続を原因として昭和三八年一〇月二二日に被告船越に所有権移転登記がなされたもので、本件土地は右のように昭和三八年一〇月二二日に分筆されて生じたものであるから、それより以前の昭和三二年ごろに原告が買受けたということはあり得ない。

(二) 仮に、本件土地を訴外上山雄次郎が訴外会社から買受けて原告に転売したものであるとしても、被告安藤および同北村は、昭和三八年九月二五日に本件土地の実体上の所有者である訴外会社の同意を得たうえ、当事者全員が合意して同年一〇月二四日付で登記名義人の被告船越から中間省略の方法にてその所有権移転登記を経由しているものであつて、本件土地の所有登記を有しない原告はその所有権をもつて右被告らに対抗し得ないものといわねばならない。

(三) また、原告は本件土地の所有権を訴外上山雄次郎から取得したというのであるから、原告は同訴外人に対し登記請求権を有するにすぎず、被告船越および訴外会社は原告とは直接の売買当事者ではなく、中間省略登記の合意も与えていないので、原告に対して登記義務者とはならないから、その不履行による損害賠償責任は生じない。

(被告らの右二の(二)の主張に対する原告の反ばく)

被告安藤および同北村はいわゆる悪意の背信的第三者というべきであつて、原告に対し本件土地についてその登記の欠缺を主張し得べき正当な第三者ではない。また、同被告らが訴外会社から中間省略登記の合意を得たとの主張は争う。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件土地の所属と登記関係について検討する。

成立に争いのない甲第一号証の一、二、同第二、第三、第九、第一一(一部)、第一三、第一四、第一六、第二〇号証、証人上山雄次郎と同尾崎康一の各証言によつて真正に成立したものと認められる甲第四号証、右尾崎の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし三および同第七号証並びに証人上山雄次郎、同尾崎康一、同上山静子の各証言および原告本人尋問の結果を総合すると、次のような事実が認められる。

(一)  訴外上山雄次郎は昭和三二年五月ごろ訴外会社の業務代行会社である訴外山陰工業株式会社を通じ訴外会社から、本件土地を含む請求原因二記載の(イ)(ロ)(ハ)の土地を代金合計八五万円で買受け、そのころ同代金を完済したが、同月ごろ、原告は弟の右訴外人から右(ハ)の土地と本件土地とを代金合計一七万円で買受け、そのうち一五万円を同年六月一二日ごろ、残二万円を同年九月二〇日ごろに支払つたこと。

(二)  そのころ、本件分筆前の土地の中を東西に国道九号線が通ることになり、同土地は右国道用地七畝一歩分をはさんで北側と南側に分断されることになつていて、右南側部分が本件土地であるが、原告は当初本件土地の東側の前記(ハ)の一三〇七番の土地の購入方を訴外会社に申入れていたところ、同会社から付近の土地の整理上その西側の本件土地も含めて一括購入を要望されたので、原告は弟の前記上山雄次郎に依頼して、同人を通じ右各土地を購入するに至つたものであるが、その購入に際し、右雄次郎は前記山陰工業株式会社の係員とともに現地に赴いて、本件土地を測量するとともにその周囲に杭を打つてその引渡しを受けたものであること。

(三)  原告はその買受けた前記(ハ)の土地についてはその後間もなくその所有権移転登記を得たが、本件土地については、本件分筆前の土地のうち前記国道用地の北側部分一畝一五歩は昭和三二年二月一二日に訴外会社から鳥取市に譲渡されていたので、訴外会社は、それらの分筆手続(右国道用地は昭和三五年一一月三〇日建設省に贈与)と、同土地には被告船越の先代作太郎所有当時に設定した訴外上山昇に対する抵当権設定登記がなされたままであつたので、これを抹消したうえ、本件土地を中間の訴外会社と前記上山雄次郎の所有登記を省略する方法で原告に対しその所有権移転登記手続をなすことを訴外蔵密司法書士に依頼していたが、そのころ訴外会社が他に譲渡した同所付近の土地の分筆等登記手続一切を受任していた同司法書士は、右各手続の完了には未だ日時を要することから、本件土地の分筆後の地番を同所二九五五番一〇と予定していたので、訴外会社は本件土地の地番を右予定地番で表示した土地売渡証書(甲第七号証)を前記上山雄次郎を通じ原告に交付していたこと。

(四)  ところが、鳥取市が訴外会社から譲渡を受けた前記国道の北側部分一畝一五歩を昭和三七年四月二六日に分筆した際、その地番を前記のように本件土地に予定されていた二九五五番一〇の地番で分筆するに至つたが、その間、原告の催促にかかわらず、前記蔵密司法書士が昭和三五年春ごろに死亡し、さらに前記上山昇が昭和三二年二月一二日に死亡していたのでその相続人五名と前記抵当権設定登記の抹消手続を交渉する要があるなどして、本件土地の分筆手続と原告に対する所有権移転登記手続が遅延していたこと。

(五)  しかるに、原告不知の間に、本件土地は昭和三八年一〇月二二日に本件分筆前の土地から同所二九五五番二二として分筆され、同日受付にて被告船越の家督相続による所有権移転の登記、ついで同月二四日受付にて被告安藤および同北村に対し各二分の一の持分の所有権移転登記、さらに昭和三九年一月七日受付にて訴外山根豊および同森田増江に対し各二分の一の持分の所有権移転登記の経由がなされている(これらの登記名義の順転については当事者間に争いがない。)こと。

以上の事実が認められ、甲第一一号証(池田朗の検察官に対する供述調書)のうち右認定に反する部分はその他の前掲証拠に対比して措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定事実によれば、原告は本件土地の所有権を売買により取得したものであるが、その所有権移転登記を経由しないうちに、同土地は元の所有者から他に所有権移転登記がなされていることが認められ、右の点につき、被告らは本件土地の前記分筆前に原告が売買によりその所有権を取得することはあり得ないと主張するが、前認定のように原告の弟上山雄次郎は本件分筆前の土地から本件土地部分を測量立杭して訴外会社から買受けているのであつて、一筆のうちの特定部分の売買は可能であるから、右主張は当を得ない。

三、ついで、まず原告の主張する横領事実について考えてみる。

成立に争いのない甲第八ないし第一〇、第一六、第一九、第二〇号証のほか、同じく甲第二一ないし第二九号証の各一部と被告八田の本人尋問の結果真正に成立したものと認められる乙第五号証、被告船越の本人尋問の結果真正に成立したものと認められる乙第六号証並びに証人尾崎康一、同峯沢鑒治、同上山静子の各証言および原告、被告安藤(一部)、同八田(一部)の各本人尋問の結果を総合すると、次のような事実が認められる。

(一)  被告船越は、本件分筆前の土地をその父作太郎が訴外会社に売却したことを熟知し、前認定のように鳥取市が訴外会社から譲受けた同土地のうち北側部分を昭和三七年四月二六日に分筆して鳥取市に所有権移転登記するにつき、その登記手続に協力して、同被告が家督相続登記し直接鳥取市に登記手続をしたものであるが、その際本件土地部分を原告が買受けていることを噂で聞き知つていたので、昭和三八年八月ごろ、同被告に対し被告安藤および同北村が本件土地を譲受けたいと申出た際、右事実を告げて一旦これを拒絶したが、その後も同被告両名が再三、本件土地の登記上の所有者は被告船越であるからとその売却方の交渉に訪れたので、同被告は同年九月一八日ごろ念のため原告方に赴き、原告と訴外会社間の前記土地売渡証書(甲第七号証)を写しとつたが、その際、原告から本件土地と隣接する鳥取市所有地との境界線上に生えている松の木二本が元々被告船越家のものであり、その木を原告が本件土地とともに買受けたものであることを鳥取市に対し証明してほしいと依頼されて、これを承諾したことがあり、同被告は本件土地が原告所有のものであることを承知していたものであるが、同月二五日に、同被告方を訪れた被告安藤および同北村から、原告の所持する右土地売渡証書には二九五五番一〇の地番表示がなされているから本件土地とは地番が異なり、本件土地を売買しても問題にはならない、もし紛争が生じた場合は同被告両名において責任を負う、同被告両名が本件土地を他に転売して得た利益の半分を分け前として渡すからなどと執拗に説得された結果、同日、被告船越は本件土地を被告安藤および同北村に対し、一応一坪当りの価額金五、〇〇〇円と定め、実際は転売利益の二分の一を受取る約定にて売却する旨の契約をなし、その不動産売渡証書(甲第五号証)を作成するとともに、その所有権移転登記手続に要する書類として被告船越の右登記手続に関する委任状並びに印鑑証明書交付申請書とその委任状を被告安藤および同北村に交付したこと。

(二)  被告安藤、同北村は、本件土地のある鳥取市湖山付近が将来発展性のあることに着眼し、昭和三八年七月ごろ同所に土地の物色に赴いた際、国道に面した空地の本件土地を発見し、周辺の噂を聞き込んで原告所有のものと知り、原告方を訪れて本件土地の買取方を申入れ、これを拒否されたが、同土地を被告船越のものとする噂もあつたことから、ついで同被告に会い右同様に買取方を申出たところ、同被告から「同土地は戦時中に訴外会社に売却して未だ登記はしていないが、その後原告が訴外会社から買取つたものと聞いているので売却することはできない。」と告げられて断わられた。その際同被告から、本件土地付近の土地は訴外会社が戦時中に大量に買入れ戦後に他に売却した土地であるが、未だその所有権移転登記を経ていない土地が残つているとか、鳥取市が農地解放後に訴外会社から農地を買受けている等の話を聞いたことから、被告安藤および同北村は、訴外会社が売り残した土地があれば買取るか、または訴外会社の株式を取得したうえ右農地の売買無効を主張してその返還を受ける等して利殖を得ようと企て、本件土地周辺の地番、面積、登記関係や訴外会社の役員等の調査を司法書士に依頼するほか、同被告両名においても自ら鳥取市役所等関係官庁において調査した挙句、同年九月中旬ごろ、同被告両名同道して訴外会社の代表取締役であつた訴外田所稔に会うべく横浜市に赴いたところ、同人は既に死亡しており、同人の息子から訴外会社のことは同社の役員の訴外尾崎康一が詳しいと聞かされ、東京都内在住の同人に面会し、鳥取市湖山付近の土地の譲受方を申入れたが、同人からは「鳥取市にあつた訴外会社所有の土地はすべて処分済であり、所有権移転登記手続が未済のはあつても譲渡し得る土地は全然ない。」と断わられた。しかし、同被告両名はさらに調査して訴外会社の現代表取締役が岡崎市に居住する被告八田であることを知り、そのころ同被告を訪れ、訴外会社の株式全部の譲受方を申入れたところ、同被告から「訴外会社は法人格として残つているだけで何ら営業活動はしておらず、解散すべきものだから譲つてよいが、その理由は何か」と言われ、右被告両名が鳥取市湖山周辺に訴外会社所有の土地で売り残した土地があると説明したところ、被告八田は、そういうことであれば親会社の訴外三和建設の訴外峯沢社長に相談しなければならないと言つて、右被告両名を同市内の訴外三和建設に同行し、右峯沢社長と会談したが、同社長からは「信じられない話であり、そのことは従前から訴外会社の仕事をしている前記尾崎に確かめなければ返事ができない。」と言われ確答は得られなかつたものの、その会談の後、被告八田からは調査の続行を依頼され、同被告の好意的な態度に力を得た被告安藤および同北村は、さらに鳥取市役所、同地方法務局等で調査を続けた結果、原告が所持している土地売渡証書に記載された本件土地の地番表示が二九五五番一〇であることを知り、同地番は既に鳥取市が分筆登記した別個の土地の地番として用いられ、本件土地は未だ登記上は本件分筆前の土地の地番である二九五五番二に含まれていることを口実に、前記のように二重売買になるからと躊躇する被告船越を説得して、同被告をして本件土地を自己らに売却させるに至つたこと。

(三)  右のように被告船越と被告安藤および同北村との間に本件土地の売買契約がなされた前後ごろ、被告安藤および同北村は、鳥取市役所の財政課管理係員の訴外田中正巳に対し、同市が前記二九五五番一〇として分筆登記した土地の件につき、同市は旧地主の被告船越に無断で所有権移転登記を得ているので、その関係書類を見せてほしいと申入れた際、同係員から、原告が訴外会社から二九五五番一〇の予定地番にて買入れた本件土地は、同地番で登記する前に鳥取市が訴外会社から譲受けた前記土地に同地番でもつて分筆登記してしまつており、既に右地番と本件土地とは関係がなく、原告が買受けている本件土地は二九五五番二の土地のうち国道九号線の南側部分である旨の説明を受けたことがあり、また、同係員は同年一〇月四日ごろ同市役所を訪れた被告船越に対しても、右同様の説明をし、本件土地を他に売却すると二重売買になる旨同被告に注意したこと。

(四)  前記訴外三和建設は昭和三三年一〇月に訴外会社の株式全部(当時二万株)を取得し、訴外会社のいわゆる親会社の立場にあつたが、同年九月二五日ごろ、訴外三和建設において、右両社の役員である前記峯沢、同尾崎と被告八田らを交えた会合の席で、右尾崎よりの訴外会社には鳥取市湖山付近に移転登記未済のものはあつても全部処分済で、もはや同社所有の土地はないとの説明により、訴外会社としては被告安藤および同北村からの前記申出を拒否することに決定し、直ちに訴外三和建設の峯沢社長名によるその旨の文書を右被告両名に発送した。同被告両名は同年一〇月一日ごろ同文書を受領したが、なおも被告八田と交渉すべく同月六日ごろ同被告を訪づれ、被告船越と本件土地の売買契約を締結したことを告げるとともに訴外会社の株式の譲受方を交渉した結果、被告八田から訴外会社の当時の発行済株式総数の三分の一である二万株(額面一株五〇円)を譲受けるとともに、そのころ、同被告八田から被告船越名義の本訴土地等の所有権移転登記手続に関する一切の件を被告安藤および同北村に委任する旨の訴外会社代表取締役としての被告八田作成名義の委任状の交付を受けたこと。

(五)  被告安藤および同北村は、同年一〇月二四日に、被告八田から交付を受けた前記委任状を使用することもなく、さきに被告船越から交付を受けていた前記登記申請手続の書類に基づいて、本件土地の所有登記を前認定のように同被告名義から直接自己ら名義に移転登記し、ついで、昭和三九年一月七日に、被告安藤は甥である訴外山根豊から名義を借用してその持分を同訴外人名義に、被告北村は妹である訴外森田増江に無断でその持分を同訴外人名義にそれぞれ移転登記し、さらに、右被告両名において同月一七日本件土地を五筆に分筆してそれぞれ他に売却し、その各所有権移転登記を経由したが(この転売の事実については当事者間に争いがない。)、右のように同被告両名が本件土地を一旦訴外山根および同森田の所有登記名義にしたうえ他に転売したのは、原告からの本件土地取戻しの追及を免がれるためにした工作と推定されること。

(六)  なお、被告船越は被告安藤および同北村と本件土地の売買契約締結後、未だその移転登記がなされる前に、一応右売買契約の破棄を申入れたことがあるが、その際被告安藤から訴外会社の委任状があればよいかと言われて、これを了承し、その後同被告船越が交付していた前記登記申請手続書類に基づく本件土地の被告安藤および同北村への所有権移転登記を積極的に阻止しなかつたこと。

以上の事実が認められ、甲第二一および第二二号証(いずれも被告船越の検察官に対する供述調書)、同第二三ないし第二五号証(同じく被告安藤の調書)、同第二六および第二七号証(同じく被告北村の調書)、同第二八および第二九号証(同じく被告八田の調書)並びに被告安藤、同北村および同八田の各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に対比して措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、被告船越は、その先代作太郎の家督相続人として原告所有の本件土地を原告のために登記上占有していた立場にあり、かつ、その事実を熟知しながら、同土地を故意に被告安藤および同北村に二重に売却し、その所有権移転登記を経由した結果、原告の本件土地に対する所有権を喪失させたものとして、横領の不法行為責任を免れず、被告安藤および同北村は、右事実を知悉しながら共謀して、被告船越とともに不当の転売利益を得べく、同被告をして本件土地の右売却を決意させその横領行為を教唆したものとして、同被告と共同して右不法行為責任を負わねばならず、これが不法行為時は、損害の発生に関しては(原告は右売買契約が締結された日と主張するが)、その売買契約に基づき所有権移転登記のなされた昭和三八年一〇月二四日と認めるのが相当である。

なお、被告安藤および同北村は本件土地につき原告の登記の欠缺を主張するが、同被告らは単に原告が本件土地を買受けていた事実を知つていた点に悪意が存したのみではなく、積極的に被告船越の前記横領行為を教唆した共同不法行為者であり、同被告らがいわゆる二重売買における第二の買受人としてその所有権移転登記を了しているとしても、その売買の効力の有無にかかわらず右不法行為責任を免れないと解するのが相当であるばかりか、前認定のような事情のもとでは、いわゆる背信的悪意者として登記の対抗面で正当な保護を受けるに価しないものともいわねばならず、民法一七七条に規定する第三者に該当しないものと解すべきであるから、右被告らの主張は採用するに由ない。

四、次に、被告八田の責任について考えてみる。

(一)  被告八田は、前認定の事実によれば、訴外三和建設での会合における訴外尾崎康一の説明により、訴外会社は本件土地を既に処分済であることを知りながら、あえて被告安藤および同北村に対し訴外会社の委任状を交付するなどし、同被告らの前記不法行為に加担しようとしたものではあるが、そのとき既に同被告両名において被告船越を教唆して同被告と本件土地の売買契約を締結していたのであつて、その横領行為について被告八田が他の被告らと事前に共謀したものとは認められず、また、その事後においても被告八田の行為が右横領の結果なされるに至つた所有権移転登記の完了に直接的な格別の効果をもたらしたものとも認められず、同被告が被告船越の右横領行為に組したとする原告の主張事実はその他本件全証拠によるもこれを認めることができないので、原告の被告八田に対する横領の共同不法行為者としての損害賠償請求は理由がなく、棄却を免れない。

(二)  また、原告の被告八田に対する債権侵害による損害賠償の請求については、その侵害があつたとする昭和三八年当時、同被告は原告に対する本件土地の売買当事者すなわち債務者である訴外会社の代表取締役であり、本件においては同被告はその代表取締役としての立場で行動しているものであることは前認定のとおりであつて、債務者による債権侵害は債務不履行の問題であるから、右被告に対しては取締役としての責任を追及するならば格別であるが(本件においてはその主張はない。)、第三者ではない同被告による債権侵害の主張はその主張自体失当として、右請求はこれを認めることができない。

(三)  さらに、原告の被告八田に対する訴外会社との連帯責任による債務不履行に基づく損害賠償請求についても、訴外会社の履行不能による賠償責任につき、同社の代表者である被告八田においてその連帯責任を負うべき事由として、原告は同被告と訴外会社とは同一もしくは密接な関係にあり同視すべきものである旨主張するが、前掲各証拠によれば、訴外会社の内部事情としては、昭和三三年一〇月以前に処分した本件土地の事後処理は従来の役員であつた訴外田所稔らにおいてなすべく定められ、右時期以後に役員となつた被告八田らにはその権限のないことが認められるのみならず、前認定のように訴外会社には親会社として訴外三和建設が存在することを考え合わせば、訴外会社がその履行不能当時何ら営業活動をなさず、被告八田が同社の株式の大半を所有し(成立に争いのない乙第四号証および甲第二八号証によれば、同被告は訴外会社の代表取締役となつた昭和三四年一月以後において、同社の発行済株式六万株のうち四万株を取得していたことが認められる。)、長期間その代表取締役の地位にあつたとしても、未だ同被告を訴外会社そのものと同視してその責任を負わしめるのは困難というべく、これが主張は採用するに由なく、その他同被告に訴外会社と連帯して責任を負うべき事由の主張、立証もないので、その余について判断するまでもなく、原告のこの点の請求も棄却を免れない。

五、そこで、被告船越、同安藤、同北村の前記共同不法行為によつて原告の蒙つた損害額について判断する。

本件土地の所有名義を被告船越から被告安藤および同北村に移転登記した直後ごろ、同被告両名が本件土地を他に合計金二二二万〇、六三二円で転売した事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、同被告らの不法行為当時の本件土地の価格は右金額を下らないものと認められる。原告は本件土地の右当時の価格は金二四三万円であると主張するが、右認定価額をこえる額については何ら立証がないので、原告が請求し得べき損害額は右金二二二万〇、六三二円の限度で正当と認められ、同金額をこえる請求額は失当として棄却を免れない。

六、そうすると、被告船越、同安藤、同北村は共同不法行為者として、原告に対し、本件土地横領による損害賠償金二二二万〇、六三二円とこれに対する前判示の不法行為時である昭和三八年一〇月二四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、連帯して支払う義務があるといわねばならない。

七、よつて、原告の本訴請求は、被告船越、同安藤、同北村に対しては、その余について判断するまでもなく、右金員を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は棄却すべく、被告八田に対する請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 土井仁臣)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例