大判例

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鳥取地方裁判所 昭和41年(わ)47号・昭41年(わ)58号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕被告人両名に対する銃砲刀剣類等所持取締法違反の公訴事実の要旨は、

「被告人両名は、法令の除外事由がないのに、第一、被告人村田は昭和三九年二月初め頃から同年四月下旬頃までの間、鳥取市今町二丁目二八五番地矢谷竜興方の当時の被告人居室などにおいて、回転弾倉式拳銃一挺を隠匿所持し、第二、被告人小原は、同月下旬頃から昭和四〇年二月二日頃まで、倉吉市上井町三三五番地八伊藤アパート内の当時の被告人居室において、右回転弾倉式拳銃一挺を隠匿所持したものである」というのである。

被告人両名の弁護人は、右の公訴事実に対し、本件拳銃(昭和四〇年押第一八号の一)は破損して使用不能であり、鉄屑と同様であるから、銃砲刀剣類等所持取締法にいう銃砲に当るものでないと主張したので、検察官の申請により、本件拳銃が(1)現状において発射機能を有するか、(2)発射機能を有しないとすれば、その機能回復には通常の容易な修理で足りるか異常な修理を要するかについて、二度にわたりいずれも検察官の指定した鑑定人松本弘之および同伊藤?吉による鑑定を実施し(伊藤鑑定人については、本件拳銃を修理加工すれば撃針が雷管の中心部を打撃するか、が鑑定事項として付加された)、かつ松本鑑定人の鑑定にもとづき本件拳銃による弾丸発射が可能かどうかについての検証を実施した。

ところで、鑑定の結果によると、本件拳銃はアイバー・ジョンソン口径〇・三インチ六連発回転式拳銃であるが、相当期間火中にあつたものと認められ、全体に焼損が著しく、撃鉄バネを失つているため、現状において本件拳銃が弾丸発射の機能を有しないことは、両鑑定人とも明らかに認めるところである。そこで、本件拳銃が「通常の手入れまたは修理」により弾丸発射の機能を回復しうるものであるかどうかの点について考えねばならないが、この点について、松本鑑定人は、本件拳銃は撃鉄バネの補充だけで十分に発射機能を回復することができ、撃鉄バネには正規のもののほか、それと同じ働きをする手廻し蓄音器または大型掛時計のゼンマイ等簡単に入手可能なバネ鋼で足り、バネの大きさは本件拳銃のグリップの板をはずすとたやすく測定することができ、その工作にはヤスリ、万力、鋏等を要するのみで、工作機械をいじつたことのある人、自動車の修理をある程度できる人、模型類の組立てに興味のある人であれば、一般的にいつてそんなにむつかしい部類に属するものでないと考えられるが、右のような撃鉄バネの補充によらないでも、輪ゴムを用心鉄前部の銃床との結合部分と撃鉄の指かけの三角の部分にかけて撃鉄を引くことによつても撃鉄が前に動くことに変りはないから、この方法によつても容易に発射機能を回復することができると鑑定し、この鑑定にもとづいて直径四・五糎、幅約〇・二糎の輪ゴム一本を三回巻きにして右の部分にかけ、同鑑定人の持参した弾丸を装填して発射実験を行なつたところ、二回とも不発に終り、ついで右の輪ゴム二本を三回巻きにし右同様とりつけて行なつた発射実験も三回とも不発に終つたことは、当裁判所の検証の結果によつて明らかである。同鑑定人は、右の実験に使用した輪ゴム一本の力は撃鉄を動かし弾丸を発射させるに足るものであり、輪ゴム二本の力は、通常撃針を動かす力より強力であるが、五回の実験がいずれも不発に終つたのは、使用した弾丸の雷管に存する打撃痕からみて、本件拳銃の撃針の位置が少し下つているからであり、従つて撃針の下側の胴を叩き生じている隙間を埋めねばならないと述べた。(なお、同鑑定人は、撃針が雷管の中心より〇・二粍以内を叩けば発射できると鑑定するのに対し、伊藤鑑定人は雷管の中心より一粍位離れていても十分に発射可能であるとしているのである。)

伊藤鑑定人の鑑定も、要するに本件拳銃の発射機能の回復には、撃鉄バネの補充が必要であり、撃針は現状のままで十分であるというのであるが、同鑑定人は、松本鑑定人が行なつた輪ゴムによる発射実験は、ゴムと鉄のエネルギー、弾性係数、履歴性等の差異から見て拙劣な方法であると述べているのである。

右のように、伊藤鑑定人は、松本鑑定人の輪ゴム使用による発射実験に対し異論を示してはいるが、いうまでもなく松本鑑定人は検察官が第一次に鑑定人として推薦した銃器の専門家であつて、弾丸発射のため撃鉄が撃針に与えるべき力量についても説明しており、同鑑定人が自信をもつて行なつたと認めるべき輪ゴム使用による発射実験を検察官のいうように一概に排斥することはできないし、また同鑑定人が発射実験の準備として持参した弾丸が五発とも不発の可能性あるものであつたとすることも相当でないだろう。

両鑑定人とも、その鑑定では、撃針部分の欠陥を指摘しておらず(伊藤鑑定人は、前示のように撃針は現状のままで十分であるとする)、本件拳銃は撃鉄バネの補充だけで十分に発射機能を回復できるとしながら、松本鑑定人が撃鉄バネの補充による場合とその力において変りがないとして行なつた輪ゴム使用による発射実験によつて、はじめて撃針部分に欠陥の存することが発見されるにいたつたのである。「手入れまたは修理」のためには、もとよりそれを必要とする個所の発見が先決問題であることはいうまでもないが、松本鑑定人のような専門家であつても、撃針部分の欠陥の発見には前示のような経過(発射実験)を必要としたのである。鑑定人のいうように、かりに撃鉄バネの補充が容易に行なわれるものとしても、右のように本件拳銃にはその撃針部分にも欠陥があると認めるべき以上、その欠陥の発見、補修の程度およびその方法(それは、松本鑑定人のいうような方法で可能であるとしても、雷管の打撃痕との関連において、かなり精密な作業を要するというべきである)等について、それらが一般通常人に容易に行なわれうるものであるか、きわめて疑わしいところとしなければならないのである。(もちろん、これらの修理とても、銃砲専門店等においては、あるいは技術的には可能であるかもしれないが、そのことが明らかでないうえに、もともと拳銃は禁制品であつて、その修理も合法的には行なわれうるものでなく、もしかりに何か特別な関係によつてそれが可能になる場合があるとしても、それはもはや「通常の手入れまたは修理」の範囲に属すものでないと考えられる。)

以上のように、当裁判所は、本件拳銃は現に発射機能を有せず、また「通常の手入れまたは修理」によりその発射機能を回復できるものとも認めることができないので、結局銃砲刀剣類等所持取締法にいう「銃砲」には当らないものと判定し、被告人両名を無罪としたのである。(児島武雄)

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