鳥取地方裁判所 昭和52年(行ウ)5号 判決 1978年1月26日
原告 松浦雄治
被告 米子税務署長
訴訟代理人 一志泰滋 森田忠昭 石金三佳 山口光男 ほか二名
主文
本件訴を却下する、
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一 本案前の抗弁について、
1 本件訴は、税務署長が国税に関する法律に基づいてした処分の取消を求めるものであるから、行政事件訴訟法八条一項但書、国税通則法一一五条一項本文、七五条により、異議申立についての決定および審査請求についての裁決を経た後でなければこれを提起することができないものであり、右の決定および裁決を経たというためには、異議申立および審査請求が適法になされていることを要するものと解すべきである。
<証拠省略>ならびに弁論の全趣旨によれば、本件各課税処分の通知書が原告に送達されたのは昭和五一年七月九日であることが認められるところ、原告が、同年九月一〇日被告に対し右各課税処分につき異議申立をし、右申立を棄却する決定に対してさらに国税不服審判所長に審査請求をしたが、同所長は右異議申立が法定の申立期間を一日徒過してなされた不適法なものであるから、審査請求も不適法であるとして、これを却下する裁決をしたことは、当事者間に争いがなく、右異議申立が国税通則法七七条一項所定の不服申立期間を一日徒過したことにつき天災その他やむを得ない理由があつたとは認められないから、右裁決の判断のとおり、右異議申立は、不適法なものであつたことが明らかである。
原告は、右異議申立につき被告が実体審理をし、本案につき申立を棄却する旨の決定をしたこと、あるいは、さらに裁決庁も途中まで本案についての審理を進めたことによつて、不服申立期間徒過の瑕疵は治癒された旨主張するが、旧訴願法八条三項のごとき期間経過後の不服申立の受理につき行政庁の裁量の余地を認める規定が存在しない現行法のもとにおいては、期間の経過によつて不服申立権は絶対に消滅するのであり、実的にも原告主張のような意味での法的安定の要請を顧慮する必要があるとは考えられないから、行政庁が誤つて期間徒過後の不服申立について実体的な審理・判断をしたことによつて、期間徒過の瑕疵が治癒され適法な不服申立となつたと解する余地はないものというべきである。
従つて、原告主張の事由があつても、本件の異議申立が不適法なものであつたことに変わりはなく、ひいては審査請求も不適法であつて、国税不服審判所長が本案の判断をしないで審査請求を却下する裁決をした措置は正当であつて、結局本件は適法な審査請求についての裁決を経た場合に当たらないものというほかはない。
2 次に、原告は、右のような場合は、行政事件訴訟法八条二項三号所定の裁決を経ないことにつき正当な理由があるときに該当する旨主張するが、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき<証拠省略>によれば、被告は、原告に対する本件各課税処分の通知にあたり、これに対する不服申立の期間および相手方について誤りなく教示していることが認められ、そのほか、原告が法定の期間内に異議申立をすることにつき格別の障害があつたものとは認められない。仮に前記のように、異議申立および審査請求に対して実体的な審理ないし判断がなされたため、原告が異議申立および審査請求を適法なものであると信じたとしてもそのために原告を救済すべき格別の必要を生じたものと認めることもできない。原告の援用する裁判例は、誤つた方法による不服申立が受理され、実体的審理がなされていたために、適法な不服申立をする機会を失した事案に関するものであつて、何ら不服申立の手段をとらない間に期間を徒過した本件の事案に類推することができるものではない。したがつて、本件において、裁決を経ないことにつき正当な理由があるものと認めることはできない。
二 以上の次第で、本件訴は不適法であるから、本案の当否につき判断することなく、これを却下すべく、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 野田宏 菅納一郎 梶陽子)
別表<省略>