鳥取地方裁判所 昭和55年(ワ)180号 判決 1981年5月18日
原告
長谷川陽子
被告
中川酒造合名会社
ほか一名
主文
一 被告らは原告に対し各自金一一〇万八六六二円及びこのうち一〇〇万八六六二円に対する昭和五四年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し各自三九七万〇〇六〇円及びこのうち三六七万〇〇六〇円に対する昭和五四年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 右1につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 鳥取市桜谷三九八番地付近で、南北に通ずる市道(以下甲道路という)と東西に通ずる市道(以下乙道路という)とが十字に交差する交差点となつていた。原告は昭和五四年六月五日午後六時三〇分ころ普通乗用自動車(軽四輪乗用自動車、以下原告車という)を運転して甲道路を南方から北方に向けて進行し、地方被告雅恵は普通乗用自動車(以下被告車という)を運転して、乙道路を東方から西方に向けて進行し、右交差点内に差しかかつたとき、原告車の右側面と被告車の前面とが衝突した。
2 右衝突事故により原告は頭部打撲、頸椎捻挫、頭頂部切創、両膝打撲の傷害を受けた。
3(一)(1) 被告会社は被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。
(2) 被告雅恵は被告会社の代表社員であり、その職務の執行中に本件事故を発生させた。
(二) 本件交差点では交通整理が行われておらず、かつ左右の見通しが困難であつたから、被告雅恵は交差点に入ろうとするときは、徐行し、かつ左方道路の交通の安全を確認すべき注意義務があつたのに、これを怠つて進行した点に過失がある。
4 損害
(一) 治療費 八一万八五一〇円
原告は昭和五四年六月五日から同年七月二六日までの五二日間、鳥取生協病院に入院し、その翌日から昭和五五年三月一四日まで通院(実日数四三日)した。
(二) 付添看護費 二万二四〇〇円
右入院期間中の昭和五四年六月五日から同月一二日までの間、原告の叔母三上やすゑが付添看護した。
(三) 入院雑費 三万一二〇〇円(一日六〇〇円)
(四) 通院交通費 九九〇〇円
(1) 右(一)の通院のためのバスの乗車料金七七四〇円(一往復一八〇円、四三回分)
(2) そのほかに、原告は治療のため、昭和五五年三月一四日から同年八月七日まで橋本外科医院に通院(実日数一八日)し、そのバスの乗車料金二一六〇円(一往復一二〇円、一八回分)を要した。
(五) 休業損害 四三万二五八〇円
(1) 給料分 三二万七七〇〇円
原告は昭和五二年九月から鳥取市桜谷所在の学校法人東部学園さくら幼稚園に教諭として勤務していたが、昭和五四年六月六日から同年八月三一日まで欠勤したため、その間の給料三二万七七〇〇円を得ることができなかつた。
(2) 賞与分 一〇万四八八〇円
原告は欠勤したため、昭和五四年度夏期賞与中二万四二八〇円を、同年度末賞与中八万〇六〇〇円をそれぞれ減額された。
(六) 逸失利益 八九万三八〇〇円
原告は本件事故直前三〇歳の健康な女子であつたが、本件事故により、頸肩痛、頭痛、右上肢痛が後遺障害として残り(後遺障害等級一二級)、このため労働能力を一四パーセント喪失し、昭和五四年九月一日から五年間、給料年額一四六万三〇〇〇円のうち一四パーセントをうることができず、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して、その現価を算出すると、八九万三八〇〇円となる。
(七) 慰藉料 二五〇万円
原告は現在も治療のため通院し、後遺障害による苦痛を忍んで幼稚園に勤務している。しかしその職務内容と現在の勤務状態からしていつ退職を余儀なくされるか計り知れず、退職しないにしても、昇給を延伸され、将来退職後に支給される退職金、共済年金も減額されるおそれもある。原告の精神上の苦痛は筆舌に尽し難い。
(八) 自動車修理費等 三五万四六六〇円
原告は、本件事故により破損した原告車の修理代、部品代として、山陰自動車板金塗装工業有限会社に対し右金員を支払つた。
(九) 弁護士費用 三〇万円
原告は弁護士神谷義二に本件訴訟の追行を委任し、弁護士費用として三〇万円を支払うことを約束した。なお同弁護士は昭和五六年三月二五日死亡した。
5 損害の填補
原告は自賠責保険金一一九万二八八八円を受領した。
6 よつて原告は被告らに対し損害金四一七万〇一六二円(内訳・右4の(一)ないし(七)の合計金額四六八万四一一〇円から右5の一一九万二八八八円を控除した残額三五一万五五〇二円、右4の(八)の三五万四六六〇円、右4の(九)の弁護士費用相当分三〇万円の総合計金額)のうち三九七万〇〇六〇円及びこのうち右三〇万円を除くその余の三六七万〇〇六〇円に対する本件事故後の日である昭和五四年六月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3(一)(1) 同3(一)(1)の事実は認める。
(2) 同3(一)(2)は争う。
(二) 同3(二)の事実は否認する。
4(一) 同4(一)ないし(八)の事実は不知。
(二) 同4の(九)の事実中弁護士費用の金額は不知、その余の事実は認める。
5 同5の事実は認める。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 請求原因1の事実(衝突事故の発生)は当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二、第一三号証、第一七号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件衝突事故により、頭部打撲、頸椎捻挫、頭頂部切創、両膝打撲の傷害を負つたこと、その治療のため、昭和五四年六月五日から同年七月二六日までの五二日間、鳥取生協病院に入院し、その翌日から昭和五五年三月一四日まで同病院に通院(実日数四三日間)し、さらに同日から同年八月七日までの間に橋本外科医院に通院(実日数一八日)し、その後も現在まで月一、二回通院していること、現在も頭痛、頸肩背部痛の後遺障害があり、一か月間に二回位、その症状が増悪することが認められる。
三1 被告会社が被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第一一、一二号証、弁論の全趣旨によると、被告雅恵は被告会社の代表社員であり、本件事故はその職務の執行に関して発生したものであることが認められる。
3(一) 成立に争いのない甲第九、一〇号証、前掲の甲第一一ないし第一三号証、原告本人尋問の結果によると、本件交差点付近では、甲道路の幅員は六メートル、乙道路の幅員は九メートルであり、交差点の南東角辺りに建物と樹木があつたため、交差点の南方の甲道路上と交差点の東方の乙道路上との相互の見通しが悪かつたこと、本件交差点では交通整理が行われていなかつたこと、本件事故当時、交差点付近の甲乙道路の交通量は少なかつたこと、被告雅恵は時速約四五キロメートルで交差点に向つて乙道路の左側を進行していたところ、左斜前方に、左方の甲道路から交差点に進入しようとしていた原告車を発見し、急停止の措置をとつたが、間に合わず、右発見地点から交差点内に一四・一メートル進入した地点で被告車を原告車に衝突させたこと、地方、原告は時速約二〇キロメートルで交差点南方の甲道路から交差点内に進入し、右方の乙道路から進行してきた被告車に気付いたと同時に、衝突事故が発生したこと、乙道路の最高制限速度は毎時四〇キロメートルと規制されていたこと、以上の事実が認められる。
(二) 以上の事実によると、本件交差点では交通整理が行われておらず、また乙道路が広路であり、甲道路が狭路であつたが、交差点の南方の甲道路と東方の乙道路との相互の見通しが困難であつたから、被告雅恵は減速し、左方の甲道路からの交通の安全を確認し、交差点内での衝突事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、同被告はこれを怠り、時速約四五キロメートルのままで交差点を通過しようとした点に過失があつたものということができる。なお原告は減速して本件交差点内に進入しようとしたものの、交差点の直前で右方の乙道路上の交通の安全を確認すべき注意義務があつたのに、これを怠り、衝突時まで、被告車が交差点に向けて接近してくるのに気付かなかつた点に過失があつたものということができる。
4 右認定によると、被告らは原告の被つた損害を賠償する責任があるものといわなければならない。
四 原告の損害
1 治療費 八一万八五一〇円
調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が鳥取生協病院に右治療費の支払を余儀なくされたことが認められる。
2 付添看護費 二万二四〇〇円
原告本人尋問の結果、これにより真正に成立したものと認められる甲第四号証、調査嘱託の結果によると、入院期間中の昭和五四年六月五日から同月一二日まで三上やすゑが付添看護にあたり、原告は付添看護料二万二四〇〇円の支払を余儀なくされたことが認められる。
3 入院雑費 三万一二〇〇円
弁論の全趣旨によれば、入院期間中の雑費として三万一二〇〇円が相当であると認める。
4 通院交通費 九九〇〇円
原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証によると、鳥取生協病院への通院に要するバスの乗車料金は往復一八〇円、橋本外科医院へのそれは往復一二〇円であつたことが認められ、前記二認定のとおり、前者の回数が四三回、後者の回数が一八回であるから、交通費の合計は九九〇〇円となる。
5 休業損害 四三万二五八〇円
成立に争いのない甲第一五、一六号証、調査嘱託の結果、原告本人尋問の結果によると、請求原因4(五)の事実が認められる。
6 逸失利益について
前掲の甲第一六号証、証人森一夫の証言、原告本人尋問の結果によると、原告は昭和二三年六月二四日生の女子であり、本件事故前は健康であつたこと、本件事故直前学校法人東部学園さくら幼稚園の教諭として一か月一一万三〇〇〇円の給料を受けていたこと、退院後の昭和五四年九月一日から出勤したこと、しかし同月中に四日間、同年一〇、一一月中に一日間ずつそれぞれ欠勤したこと、同年九、一〇月中に各六回、同年一一月中に四回、同年一二月中に一回、昭和五五年一月中に二回、同年二月中に三回、同年三月中に五回、同年四ないし七月中に各三回、同年九月中に一回、同年一一月中に二回、同年一二月中に一回、昭和五六年二、三月中に各二回早退したこと、原告には前記の後遺障害があるが、それによる苦痛に堪えて勤務していることが認められる。しかし右欠勤、早退による給料、賞与の減額分を認めるにたりる証拠はなく、また右認定によれば原告には後遺障害があつたにもかかわらず、原告は、その努力により、右の欠勤、早退を除き、通常どおり勤務に服していたことがうかがわれる。このように原告に後遺障害はあるが、これに基づく給料、賞与の減少額を認めることはできない。原告が後遺障害を克服して勤務していることについては、後記の慰藉料の算定にあたつて斟酌するのが相当である。したがつて逸失利益の主張は理由がない。
7 慰藉料
原告本人尋問の結果によると、原告は昭和四九年夫と死別し、二人の子を養育していることが認められ、これに前記認定の傷害の程度、入通院、後遺障害の程度とこれを克服して勤務していること、原告と被告雅恵の後記9の(一)の過失割合その他の諸般の事情を斟酌すると、原告の精神的苦痛は一二〇万円をもつて慰藉するのを相当と認める。
8 自動車修理費等 三五万四六六〇円
原告主張とおりの写真であることについて争いのない甲第八号証の一、二、原告本人尋問の結果、これにより真正に成立したものと認められる甲第七号証の一、二によると、本件衝突事故により原告車が破損し、この修理費、部品代として右金員の支払を余儀なくされたことが認められる。
9 過失相殺
(一) 前記三の3の認定事実によると、原告と被告雅恵の過失割合は四対六と認定するのが相当である。
(二) 右1ないし5の損害金合計一三一万四五九〇円については、右過失割合を考慮すると、被告らが賠償する責任のある損害金は七八万八七五四円であると認める。
(三) 右8の損害金三五万四六六〇円については、右過失割合を考慮すると、二一万二七九六円であると認める。
10 損害の填補
原告が自賠責保険金一一九万二八八八円を受領したことは当事者間に争いがなく、前記7、9の(二)の合計金額一九八万八七五四円から受領金一一九万二八八八円を控除すると、残額は七九万五八六六円となる。
11 弁護士費用
原告が弁護士神谷義二に本件訴訟の追行を委任したこと、同弁護士が昭和五六年三月二五日死亡したことは当事者間に争いがなく、本件訴訟については、五回にわたり口頭弁論期日が開かれ、同弁護士が第四回口頭弁論期日まで関与していたことは記録上明らかである。これらの事実に前記認定の諸事情を考慮すると、同弁護士の手数料、報酬は一〇万円が相当であると認める。
五 してみると、被告らは原告に対し連帯して前記四の9の(三)の二一万二七九六円、四の10の七九万五八六六円、四の11の一〇万円合計一一〇万八六六二円及びこのうち一〇〇万八六六二円(四の11の金員を除いたもの)につき本件事故後の日である昭和五四年六月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものといわなければならない。
よつて原告の本訴請求は右認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鹿山春男)