鳥取地方裁判所 昭和55年(ワ)204号 判決 1983年6月07日
原告
川下美雪
被告
新福勉
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告に対し金一一四一万五九四二円及びこれに対する昭和五一年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し金三四五五万九三九三円及びこれに対する昭和五一年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告有限会社山本おたふく堂(以下、被告会社という。)は饅頭の製造販売を目的とする会社で、鳥四〇あ三〇〇七号軽四輪貨物自動車(以下、本件車両という。)を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。
2 被告新福勉(以下、被告という。)は、被告会社の従業員であり、昭和五一年一二月八日、(本件車両を運転し、東伯町八橋の同社駐車場において後進した際、後方確認を怠つた過失により、折から観光バスで買物のため同社に赴いていた原告に、同車両を衝突させ、転倒した原告の両膝を轢き、これにより左膝后十字靱帯、側致靱帯断裂、右太腿打撲の傷害を与えた。)
3 原告は、右傷害治療のため
(一) 入院治療合計三九三日(三病院)
(二) 通院期間合計七九三日(五病院)を要した。
4 原告は、右治療にも拘らず、左動揺膝外傷性膝関節炎、頭痛、めまい、肩こり、四肢のしびれ、頸部痛の後遺症(八級七号)を残した。但し昭和五五年三月八日症状固定。
5 本件事故により原告に生じた損害は以下のとおりである。
(一) 後遺症状固定まで
(1) 原告は五病院に治療費の一部二万〇一四九円を支払つたので同額の損害を受けた。
(2) 原告は、入院中、附添看護料のうち九万七六五〇円、家族附添日当合計八四日分一六万八〇〇〇円、附添人寝具料一八七〇円、附添人食事代合計八四日分九万九一二〇円、以上合計三六万六六四〇円を要した。
(3) 原告は、入院中、一日五〇〇円、日数三九三日、合計一九万六五〇〇円の雑費を要した。
(4) 原告は、入通院を証明するための文書料合計四万九〇〇〇円を要した。
(5) 原告は、入通院につき交通費合計六二万五八五〇円を要した。
(6) 原告は、鳥取市農業協同組合に勤務していたが、本件事故のため、休業及び早期退職を余儀なくされ、このため、昭和五二年一月から同五五年三月までの給与五〇〇万四四七三円とその間及び同年七月の賞与二三五万五一二九円計七三五万九六〇二円相当の損害を受けた。
(7) 原告に対する慰藉料は、入院中一か月三〇万円とし一三か月で三九〇万円、通院中一か月一五万円とし二六か月で三九〇万円、総計七八〇万円とするのが相当である。
(8) 以上により原告の後遺症状固定までの未填補損害の合計は、一六四一万七七四一円であるところ、これに対し、自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険という。)より二〇万六九三〇円、被告会社より四一九万二九六〇円、合計四三九万九八九〇円の支払を受けたので、損害残額は一二〇一万七八五一円となる。
(二) 後遺症によるもの
(1) 原告は、後遺症固定時五四歳であつたので、障害等級八級七号、労働能力喪失率四五パーセント、就労可能年数八年であるから、昭和五四年の年間推定所得(給与一七四万二五二〇円、賞与八三万五二六〇円)合計二五七万七七八〇円の四五パーセントにホフマン係数六・五八八六を乗じた七六四万二七八二円が後遺症による原告の逸失利益である。
(2) 原告の余命二六・九五年、この間なお一か月七回以上の通院を要し、交通費月七〇〇〇円以上を必要とする。よつて、年間合計八万四〇〇〇円にホフマン係数一六・三七八九を乗じた一四一万八七六〇円もまた原告に生じた損害である。
(3) 後遺症による原告の慰藉料は月一五万円、年一八〇万円が相当であるので、ホフマン係数一六・三七八九を乗じた二九四八万二〇二〇円が相当慰藉料というべきであるが、原告はこのうち一五〇〇万円を請求する。
(4) 以上により原告の後遺症損害は合計二四〇六万一五四二円であるところ、自賠責保険により五〇四万円の支払を受けたので、損害残額は一九〇二万一五四二円である。
6 以上、原告の請求総額は三一〇三万九三九三円であるところ、弁護士費用として着手金一七六万円、報酬一七六万円合計三五二万円を要した。
7 よつて、原告は、被告らに対し、連帯して金三四五五万九三九三円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五一年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第一、第二項の事実は認める。
2 同第三項中、原告が三六三日入院し、一六〇日通院をしたことは認めるが、その余は知らない。
3 同第四項中原告の後遺症が八級七号に相当することは認めるが、その余は知らない。
4 同第五項中、原告が後遺症状固定時五四歳であつたこと及び右固定時までの損害につき自賠責保険及び被告会社より少なくとも合計金四三九万九八九〇円の支払を受け、かつ後遺症自体の損害につき自賠責保険より五〇四万円の支払を受けたことは認めるが、その余は知らない(但し、同(二)(3)は争う。)。
5 同第六、第七項は争う。
三 抗弁
1 原告は後遺症状固定時までの損害につき二の4以外に自賠責保険で七九万三〇七〇円、被告会社より八九万五八六一円、鳥取社会保険事務所より一七六万三二八〇円の各支払を受けている。
2 原告は、事故時、グループ旅行の一員として現場駐車場にいたのであるが、駐車場は自動車及び一般交通の用に供される場所であつて、道路交通法上道路とされ、しかも本件現場は、幹線道路に該当すると思料されるので、同所に佇立していた原告にも、本件事故の一因というべき過失があるから、原告の損害を算定するに当つては四割を減額するのが相当である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実のうち、自賠責保険による七九万三〇七〇円の支払は、いずれも原告が本訴で損害賠償請求をしていない治療費の支払に当てられたものであるから、本訴とは無関係である、その余は事実は知らない。
2 同2の事実は争う。原告は、当日同駐車場に止つた観光バスから降りて同所の便所に入つたあと、そこを出て被告会社の経営する売店に向かう途中、建物の内部から後進して来た本件車両によつて事故に遭遇したのであるから、原告に非難すべき点はない。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因第一、第二項の事実及び原告が本件事故により三六三日間入院し一六〇日間通院をしたこと、後遺症状固定時五四歳であつたこと、後遺症が八級七号に相当すること、右固定時までの損害につき少なくとも四三九万九八九〇円の、後遺症損害につき五〇四万円の各支払を受けたことについてはいずれも当事者間に争いがない。
二 右事実によれば、被告は民法七〇九条により、被告会社は自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
三 抗弁について
1 抗弁1の事実は、本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。
2 抗弁2につき
成立に争いのない乙第一ないし第一四号証、原告及び被告新福勉各本人尋問の結果を総合すると、本件事故は、被告の後方確認を怠つた過失に起因するものではあるが、原告は、本件車両がエンジンを始動させた状態で停車しているのを現認していたので、同車の傍らを通行する際、その動静に注意を払うべく、原告がこれを怠つた点に若干の過失があつたものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右事実によれば、原告に生じた損害の三割を過失相殺により減額するのが相当である。
四 そこで損害について判断する。
(後遺症状固定まで)
1 成立に争いのない乙第六、第七号証、原告本人尋問の結果と前示争いのない事実を総合すると、原告は本件事故によつて生じた傷害の治療のため、昭和五一年一二月八日から同五四年九月三〇日までの間に清水整形外科等三病院に延べ三九三日入院し、かつ昭和五二年四月三日から同五五年三月八日までの間に鳥取市立病院等五病院に延べ七九三日通院したこと、右治療にも拘らず、左動揺膝外傷性膝関節炎、頭痛、めまい、肩こり、四肢のしびれ、頸部痛を伴う労働基準法施行規則別表障害等級八級七号に該当する後遺症が残り同症状は昭和五五年三月八日固定したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 成立に争いのない甲第二号証の一、二、七ないし九、一一、一五、一六及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前示治療のため、五病院に治療費の一部合計一万五〇四九円を支払い、同額の損害を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 成立に争いのない甲第三号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前示入院中、附添看護料のうち九万七六五〇円及び家族附添日当合計八四日分一六万八〇〇〇円、附添人寝具料一八七〇円、附添人食事代合計八四日分九万九一二〇円、以上合計三六万六六四〇円を要し、同額の損害を蒙つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
4 原告本人尋問の結果によると、原告は、入院中一日五〇〇円、日数三九三日、合計一九万六五〇〇円の雑費を要し、同額の損害を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
5 成立に争いのない甲第四号証の一ないし一七及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前示入通院を証明するための文書料合計四万九〇〇〇円を要し、同額の損害を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
6 成立に争いのない甲第五号証の一ないし四及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、前示入通院につき交通費として合計六二万五八五〇円を要し、同額の損害を蒙つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
7 成立に争いのない甲第六号証の一ないし三及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、鳥取市農業協同組合に勤務していたが、本件事故のため、休業及び早期退職を余儀なくされ、このため、昭和五二年一月から同五五年三月までの給与五〇〇万四四七三円とその間及び同年七月の賞与二三五万五一二九円合計七三五万九六〇二円相当の損害を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
8 前認定の傷害の部位・程度、入通院期間その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告が後遺症状個定までに受けた精神的苦痛に対する慰藉料は二五〇万円が相当である。
9 よつて2ないし8の損害の合計額は一一一一万二六四一円となり前示過失相殺によりその三割を減額すると七七七万八八四八円であるところ、これに対し、自賠責保険から二〇万六九三〇円の支払を受け、これと被告会社からの支払分四一九万二九六〇円を加え合計四三九万九八九〇円の損害の填補を受けたことは、原告の自認するところであるから、右金額を前記損害額から控除すると、三三七万八九五八円となる。
(後遺症によるもの)
10 前認定の事実及び成立に争いのない甲第六号証の三並びに原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、後遺症固定時五四歳であつたので、後遺障害等級八級七号、労働能力喪失率四五パーセント、就労可能年数一三年であるから、昭和五四年の年間推定所得(給与一七四万二五二〇円、賞与八三万五二六〇円)合計二五七万七七八〇円の四五パーセントにホフマン係数九・八二一を乗じた一一三九万二三六九円が後遺症によつて原告に生じた逸失利益であるものと認められ、右認定を左右する証拠はない。
11 前認定の事実及び成立に争いのない甲第五号証の一ないし四並びに原告本人尋問の結果を総合すると、原告の余命は二三・一六年であるところ、後遺症治療のためこの間なお一か月七回以上の通院を要し交通費月三五〇〇円以上を必要とするので、年間四万二〇〇〇円であり、これにホフマン係数一五・〇四五一を乗じた六三万一八九四円が更に原告に生じた損害であるものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
12 前認定の後遺症の部位・程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故の後遺症によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は五〇〇万円が相当である。
13 よつて10ないし12の損害の合計額は一七〇二万四二六三円となら前示過失相殺によりその三割を減額すると一一九一万六九八四円であるところ、これに対し自賠責保険から五〇四万円の支払を受け損害を填補されたことは原告の自認するところであるから、同金額を右損害額から控除すると六八七万六九八四円となる。
五 原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を余儀なくされたものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一一六万円を下らないと認める。
六 そうすると、被告らは各自原告に対し一一四一万五九四二円及びこれに対する昭和五一年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 豊永格)