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鳥取地方裁判所 昭和55年(ワ)28号 判決 1983年3月30日

原告

米子市

右代表者市長

河合弘道

右訴訟代理人

直野喜光

被告

井田照夫

外六名

被告ら訴訟代理人

君野駿平

松本光寿

高橋敬幸

主文

一  原告に対し、被告井田照夫は金八〇三〇円、被告岩本光弌は金五万八七〇〇円、被告山崎ハツコは金二万一二四〇円、被告吉川美伎彦は金二万八三〇〇円、被告松本登志枝は金二万〇四五〇円、被告田中冨士子は金二万三三四〇円、被告田中静香は金三万四一〇五円をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一1  請求原因1、2、3(一)、(二)(2)、4、5(一)ないし(三)、6、7の各事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によると、請求原因3(二)(1)、8の事実が認められる。

2(一)  前記事実によれば、本件処理場は、地方公共団体である原告において設置した公の施設であること、旧条例六条、旧条例施行規則三条の規定により、使用を開始しようとする者は、原告の市長に対し、処理場使用許可申請書を提出し、原告の市長は、処理場使用許可証を交付することになつていたこと、しかし被告岩本、同吉川、同田中静香は右使用許可申請書を提出したが、これを撤回し、その余の被告らは右申請書を提出せず、かつ使用許可証の交付を受けずに、それぞれ本件処理場の使用を開始したということである。

(二)  そして<証拠>によると、昭和四九年一二月ころ本件公営住宅内のくみ取式便所が水洗式便所に改造されたことが認められ、これに前記1の事実を併せると、右改造工事完成前は、し尿以外の汚水が、その工事完成後は全部の汚水が排水管を通じて本件処理場に流入したこと、右以外の汚水排除方法をとることは事実上不可能な状態にあつたことが認められる。

(三)  以上の事実関係のもとでは、本件公営住宅の入居者である被告らは、通常の用法に従つて、本件処理場を使用する権利があるものというべきである。しかし地方自治法二四四条の規定により、原告は正当な理由があれば、使用者の使用を拒否することができ、かつ旧条例六条、七条の規定により使用料を徴収できるものというべきである。ところで同六条には「許可を受けた者」から使用料を徴収すると規定されているが、これは、本件処理場の使用者が多数に達することが予定されていたので、画一的定型的に、かつ正確、迅速に事務処理をする便宜上、使用者からの使用許可申請書の提出及び原告の市長からの使用許可証の交付の手続を定めたものということができる。同六条の規定は、使用者が、その手続の履行後に、使用を開始することを前提としたことから、かかる表現をとつたものであり、使用許可証の交付を受けずに使用を開始した者に対しても、事後的にその使用を許可して、使用料を徴収することができると解する方が、かえつて使用者の本件処理場の利用権を保護することになり、ひいては、使用前に許可を受けた者と受けなかつた者とを差別なく取り扱うことにもなるものということができる。

(四)  <証拠>に、前記1の事実を併せると、原告は、被告らに対し、別紙第一表(一)ないし(七)記載の各二か月分の使用後に、納入通知書をもつて各使用料の納入を請求したことが認められ、右各使用の当初ころから、原告の市長は被告らの使用につき黙示的に許可を与えていたものということができる。したがつて、被告らは本件処理場の使用につき「許可を受けた者」に該当するということができる。

二被告らは本件処理場の使用料の金額及び徴収を定めた旧条例六条、七条の各規定及び新条例七条、八条の各規定は憲法その他の法令に違反して無効であると主張しているので、以下順次判断する。

1 (抗弁1について―旧条例六条、新条例七条の各規定が憲法一三条、二五条、二九条一項、九二条、九三条、地方自治法二条一三項、公営住宅法一条、一四条の各規定に違反するとの主張について―)

(一) 原告主張のとおり、公営住宅は、地方公共団体が国の補助を受けて、住宅に困窮する低額所得者である住民に対し、低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として建設されるものであり(公営住宅法一条、二条)、原則として一団の土地に集団的に建設され、この団地には、雨水及び汚水を有効に排出し、又は処理するために必要な施設を設けなければならないこと(公営住宅建設基準三条、八条)、汚水処理施設を設置し、汚水を適正に処理し、生活環境を清潔にすることは、生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与するものであること、その施設の設置により、入居者は健康で文化的な生活を営むことができるようになること(廃棄物の処理及び清掃に関する法律一条、公営住宅法一条)は明らかである。

(二) 公営住宅の家賃は、住宅及びその附帯施設の工事費の償却額、修繕費その他を要素として算出された金額を限度額として決定され(公営住宅法一二条)、事業主体に修繕義務のある附帯施設には、排水施設(汚物処理槽を含む。)も入つている(同法一五条、同法施行規則四条の二)。したがつて附帯施設の修繕費については、家賃の構成要素に含まれているから、家賃とは別個に、右修繕費を構成要素とする附帯施設の使用料を、事業主体は徴収できないものと解すべきである。

(三) ところで被告井田の居住する本件県営住宅の事業主体は鳥取県であつて、本件処理場の事業主体とは異なるので、本件処理場は本件県営住宅の附帯施設ということはできない。

その余の被告らが居住する本件市営住宅と本件処理場との事業主体は同一人の原告であるから、本件処理場が本件市営住宅の附帯施設であるか否かについて検討する。

(1)  <証拠>によると次の事実が認められる。

(イ)  本件処理場は長時間ばつ気方式によるし尿浄化槽であり、各住宅内の汚水桝から下水管を伝わつて流れ込んだ炊事、風呂、水洗便所等のし尿、雑排水(雨水を除く)を同方式により浄化し、これを中海に放流させる仕組みとなつている。

本件処理場の処理対象人員は三〇〇〇人であり、日量の処理水量は六〇〇立方メートルである。本件処理場の構造は、スクリーン一基、沈砂槽一槽、流量調整槽一槽、ばつ気槽二槽、沈澱槽二槽、減菌槽一槽、汚泥貯留槽一槽等を備えている。

(ロ)  本件処理場の処理区域は、米子市河崎の本件県営住宅、本件市営住宅、私人の所有する住宅が存在する河崎団地全部、この周辺にある米子市彦名町字角盤通二全部、同市河崎字長谷川西、島新田悪水西、源助西、惣次郎西、源六西、粟島境の各一部、同市彦名町字新堀頭、富士見山の各一部である。

(ハ)  本件処理場の使用世帯数は別紙第四表記載のとおりであつた。

(2)  右(1)の認定事実と前記一1の本件処理場の設置の手続等とを総合すると、本件処理場は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律八条に規定する一般廃棄物処理施設(し尿処理施設)として設置されたものであり、この施設を使用できる者は、本件市営住宅の入居者に限定されず、前記区域内の使用者全員であると認めることができるので、本件処理場は本件市営住宅の附帯施設ということはできない。

(3)  したがつて被告らの主張のうち、本件処理場が本件公営住宅の附帯施設であることを前提とする部分は、その余の点の判断をまつまでもなく失当といわざるをえない。

(四) 前記のとおり本件処理場は地方自治法二四四条にいう公の施設であり、同法二二五条の規定により、地方公共団体は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる。

ところで家賃等以外の金品徴収等の禁止を規定する公営住宅法一四条は、公営住宅の入居者が通常の日常生活を維持するために使用するし尿処理施設の使用の対価として、家賃以外の使用料を支払うことを禁止している規定ではないと解すべきである。また一般的に、特定の施設を利用して、利益を得ている者は、特段の事由のない限り、それに応じた義務を負うのは当然であるというべきである。

(五) 以上の認定によれば、使用者から使用料を徴収することを規定する旧条例六条、新条例七条の規定は前掲の憲法その他の法令の各規定に違反しているということはできない。

2 (抗弁2について―旧条例七条、新条例八条の各規定が前記1の憲法その他の法令の規定に違反するとの主張について―)

(一) <証拠>によると、原告の議会が旧条例案の審議の過程で、別紙第五表を、使用料の算出方法についての資料としたこと、同表記載の各費用は、経常的な費用だけであること、その金額は、処理対象人員一〇〇〇人を前提として予測される支出分だけであつて、三〇〇〇人を前提として予測される支出分ではないことが認められる。しかし同表記載の各費用及びその金額を使用料算出の構成要素として考慮することが著しく不合理であることを認めるに足りる的確な資料はない。

(二) <証拠>によると、別紙第六表記載のとおり、昭和四九年七月から昭和五四年三月三一日までの間における経常費用は一五四二万五九二〇円、使用料は一五〇四万二八八一円であることが認められ、使用料全部が徴収できたとしても、赤字となることがわかる。

(三) <証拠>によると、昭和四八年四月一日から昭和五四年三月三一日までの間における米子市内のくみ取式便所のくみ取料は別紙第七表記載のとおりであり、標準的な一世帯の一か月のくみ取料は同表記載のとおりであると推認できる。

また<証拠>によると、被告田中静香、同松本の水洗式便所に改造した昭和五〇年二、三月分以降につき、実際の使用料と水道料の合計額と、くみ取式便所を使用し、かつ本件処理場を全く使用しなかつたものと仮定した場合における水道料とくみ取料の合計額との差額は別紙第八表(三)、第九表(三)記載のとおりであり(その算出方法は第八表(一)(二)、第九表(一)(二)記載のとおりである。)、昭和四九年一二月、昭和五〇年一月分以前(くみ取式便所の設備されていた当時)に本件処理場を使用したことにより、右被告両名が新たに負担した費用は本件の使用料請求金額相当額であることが認められる。

ところで前記認定の右被告両名の住戸の便所がくみ取式から水洗式に改造された後における費用の増加等の諸事情を考察すると、水道料の増加分と本件使用料との合計額の方がくみ取料よりも多額であるといえるが、くみ取式便所と水洗式便所の構造と使用方法等の差異からくる衛生上の快適性、便利性等を考慮すれば、右金額に多寡があることについては、合理的な根拠があるものというべく、しかも本件使用料の算出方法に著しく不合理な点があるということもできない。

(四) <証拠>によると、仙台市、横浜市、姫路市における各下水道料金と本件使用料とは別紙第一〇表記載のとおりであることが認められるが、右三都市の下水道料金の基本料、超過料金を決定するにあたつて考慮された構成要素等を認めるに足りる証拠はなく、本件使用料が、右各下水道料金よりも多額であることから、著しく不当な料金であると判定することはできない。

(五) 本件処理場の使用料の算出の構成要素として、旧排水施設の維持管理に要した費用及び要すべき費用が加えられていることを認めるに足りる的確な証拠はない。

(六) 以上の認定によれば、本件公営住宅の入居者である被告らは、本件処理場の使用料を支払うべき義務があり、右使用料の基本使用料及び超過使用料の各金額が著しく不当に高額であるということはできず、その他に、旧条例七条、新条例八条の規定に、憲法その他の法令に違反するような明白かつ重大な瑕疵があることを認めるに足りる的確な資料はない。

したがつて旧条例七条、新条例八条の各規定が前掲の憲法その他の法令に違反しているということはできず、右各規定に基づいて算出された使用料を、原告が被告らに対し請求することが、権利の濫用にあたるということもできない。

三被告らは、原告が新旧の各条例を制定するに際し、本件公営住宅の入居者に対し、事前の手続を履行していないから、旧条例六条、七条、新条例七条、八条の各規定は憲法一三条、三一条の規定に違反して無効であると主張している。

ところが憲法の右各規定は、地方公共団体の議会の条例を設ける手続について、右主張のような事前の手続を要請しているものと解することはできない。条例の制定にあたつては、住民を代表する議員が右議会で審議に関与するので、住民の意見を反映できるものである。したがつて、右各条例の規定が、憲法一三条、三一条の各規定に違反しているということはできない。

四被告らは、本件処理場は本件公営住宅の附帯施設であるから、本件処理場の機械消耗品費、修繕費を使用料の算定の要素にできないと主張しているが、前記二1の認定のとおり、本件処理場は本件公営住宅の附帯施設と認めることができないので、右主張は失当といわざるを得ない。

五そうすると、被告らはそれぞれ原告に対し第一表(一)ないし(七)記載のとおりの使用料、督促手数料を支払うべき義務があるものといわなければならない。

よつて原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(鹿山春男 大戸英樹 香山忠志)

条例(一) 米子市汚水処理場条例

<省略>

規則(一) 米子市汚水処理場条例施行規則<省略>

条例(二) 米子市汚水処理場条例

<省略>

規則(二) 米子市汚水処理場条例施行規則<省略>

第一表ないし第一〇表<省略>

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