鳥取地方裁判所 昭和56年(行ウ)1号 判決 1982年6月24日
鳥取県米子市米原五六四番地
昭和五二年(行ウ)第六号事件
原告
高林機材株式会社
同所
同
高林鉄道資材株式会社
同所
同
高林通商株式会社
同所
昭和五二年(行ウ)第六号、昭和五六年(行ウ)第一号事件
原告
高林興産株式会社
同県同市夜見町二八八〇番地
同
高林工業株式会社
右原告ら代表者代表取締役
高林健治
右訴訟代理人弁護士
多田紀
同県同市西町一八番地の二
被告
米子税務署長 細見真
右指定代理人
笹村将文
山根光春
守屋憲人
白尾兆成
吉岡健
高田資生
藤井哲男
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告高林機材株式会社(以下、原告機材という)に対し
(一) 昭和五一年八月三一日付でした同原告の昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度(以下昭和四八事業年度という)、昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度(以下昭和四九事業年度という)の各法人税についての第三次更正及び過少申告加算税の賦課決定処分
(二) 昭和五一年一二月一〇日付でした同原告の昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度(以下昭和五〇事業年度という)の法人税についての更正処分
(三) 昭和五四年三月二三日付でした同原告の昭和五一年六月一日から昭和五二年五月三一日までの事業年度(以下昭和五一事業年度という)の法人税についての更正処分並びに昭和五二年六月一日から昭和五三年五月三一日までの事業年度(以下昭和五二事業年度という)の法人税についての更正及び過少申告加算税の賦課決定処分
を取り消す。
2 被告が原告高林鉄道資材株式会社(以下原告鉄道資材という)に対し
(一) 昭和五一年八月三一日付でした同原告の昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税 の賦課決定処分
(二) 同日付でした同原告の昭和四九事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、昭和五二年六月三〇日付裁決により一部取り消された後のもの)
(三) 昭和五一年一二月一〇日付でした同原告の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(四) 昭和五四年三月二三日付でした同原告の昭和五一事業年度、昭和五二事業年度の各法人税についての更正処分及び 過少申告加算税の賦課決定処分
を取り消す。
3 被告が原告高林興産株式会社(以下原告興産ともいう)に対し
(一) 昭和五一年八月三一日付でした同原告の
1 昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
2 昭和四九事業年度の法人税についての第三次更正処分
(二) 昭和五一年一二月一〇日付でした同原告の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分
(三) 昭和五四年三月二三日付でした同原告の昭和五一事業年度、昭和五二事業年度の各法人税についての更正処分
(四) 昭和五五年一二月一九日付でした同原告の昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度(以下昭和五三事業年度という)、昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日までの事業年度(以下昭和五四事業年度という)の各法人税についての更正処分
を取り消す。
4 被告が原告高林通商株式会社(以下原告通商ともいう)に対し
(一) 昭和五一年八月三一日付でした同原告の昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(二) 同日付でした同原告の昭和四九事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、昭和五二年六月三〇日付裁決により一部取り消された後のもの)
(三) 昭和五一年一二月一〇日付でした同原告の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(四) 昭和五四年三月二三日付でした同原告の昭和五一事業年度、昭和五二事業年度の各法人税についての更正処分及び 過少申告加算税の賦課決定処分
を取り消す。
5 被告が原告高林工業株式会社(以下原告工業ともいう)に対し
(一) 昭和五二年二月一五日付でした同原告の昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(二) 昭和五一年六月三〇日付でした同原告の昭和四九事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(三) 昭和五一年一二月一〇日付でした同原告の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分
(四) 昭和五四年三月二三日付でした同原告の昭和五一事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(五) 昭和五四年三月二三日付でした同原告の昭和五二事業年度の法人税についての更正処分
(六) 昭和五五年一二月一九日付でした同原告の昭和五三事業年度の法人税についての更正処分
(七) 同日付でした同原告の昭和五四事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
を取り消す。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告機材は昭和四八年五月二八日に、原告鉄道資材は同月二四日に、原告興産は同年六月一日に、原告通商は同年五月一九日に、原告工業は昭和四七年六月一日にそれぞれ設立された資本金三〇〇万円の会社であり、いずれも青色申告書提出の承認を受けた同族会社であつた。そして原告らは鳥取県米子市所在の高林産業株式会社(以下仮に第一高林産業という)の子会社である。すなわち第一高林産業は不動産を除くその余の営業部門を六つに分割し、同会社の全額出資により、その六部門に対応する目的を有する原告らと高林商事株式会社(以下高林商事という。また原告らと高林商事を単に子会社ともいう)を設立した。
(二) 第一高林産業は昭和四八年六月一日高林開発株式会社(以下、高林開発という)と商号を変更した。これとは別に鳥取市に昭和四八年五月九日設立され、同年六月一日米子市へ本店を移転した高林産業株式会社(以下、仮に第二高林産業という)を昭和四九年九月一日に吸収合併して商号を高林産業株式会社(以下、仮に第三高林産業という)と変更した。第一高林産業は昭和四八年五月三一日まで、高林開発は昭和四八年六月一日から昭和四九年八月三一日まで、第三高林産業は同年九月一日以降子会社の親会社であつて(以下、第一高林産業、高林開発、第三高林産業を親会社ともいう)、親会社と子会社の代表取締役はいずれも高林健治であつた。
2 課税処分の経緯
(一) 昭和四八ないし昭和五二事業年度(以下本件五事業年度ともいう)分の法人税については、原告らからの各確定申告、被告の更正処分(昭和四八、四九事業年度分については第二次更正処分、第三次更正処分|ただし、原告工業の昭和四九事業年度分を除く)と過少申告加算税の賦課決定処分(以下、単に賦課決定という)、原告の審査請求、国税不服審判所長の裁決があり、この手続の経緯は別紙第一表Aのとおりである。
(二) 昭和五三、五四事業年度の法人税については、原告興産同工業がなした各確定申告(なお昭和五四事業年度分については各修正申告)、被告の更正処分及び賦課決定(ただし、原告工業の昭和五四事業年度分についてのみ)、右原告両名の審査請求、国税不服審判所長の裁決があり、この手続の経緯は別紙第一表Bのとおりである。
3 本件各処分の違法事由
(一)1 原告らの昭和四八、四九事業年度分の確定申告に対する各第三次更正処分(ただし、原告工業の昭和四九事業年度分の確定申告に対しては第一次更正処分のみ)及び昭和五二事業年度分の確定申告に対する更正処分(以下、右各事業年度の最終の更正処分又は第三次更正処分を総称して本件五事業年度の各更正処分という)において、被告は、原告らが本件五事業年度に親会社及び第二高林産業に対して支払つた負担金名義の金銭(以下、本件負担金という)を法人税法(以下、単に法という)三七条五項所定の寄付金に該当するものと認定して、同条二項、同法施行令七三条(以下、これを合わせて、単に法三七条二項という)により計算した金額(損金不算入額)を申告所得金額に加算した。
2 しかし本件負担金は損金に算入すべきものであるから、右損金不算入額を所得に算入すべきではないので、本件五事業年度の各更正処分には原告らの所得金額を過大に認定した違法があり、かつそれを前提としてなされた各賦課決定も違法である。
(二) 原告興産、同工業の昭和五三、五四事業年度分の法人税についての被告の各更正処分は、右原告両名の昭和五二事業年度における所得を右(一)のとおり過大に認定した違法な更正処分を前提としてなされたものであるから、違法であり、同様に賦課決定も違法である。
4 よつて、原告らは本件五事業年度の各更正処分及び賦課決定の取消しを、原告興産、同工業は昭和五三、五四事業年度の各更正処分及び賦課決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1・2の事実は認める。
(二) 同3(一)1の事実は認めるが、同(一)2は争う。
(三) 同3(二)は争う。
2 被告の主張
(一)1 原告機材の昭和四八事業年度の所得金額は別紙第三表一の1(三)ないし(六)のとおり五〇八〇万二〇八六円、昭和四九事業年度の欠損金額は同表一の2(三)ないし(六)のとおり九四万八三一三円、昭和五〇事業年度の欠損金額は同表一の3(三)ないし(六)のとおり一〇九二万六八一三円、昭和五一事業年度の所得金額は同表の4(三)ないし(六)のとおり七六万三二八四円、昭和五二事業年度の所得金額は同表一の5(三)ないし(六)のとおり一七七五万〇九四四円である。
2 原告鉄道資材の昭和四八事業年度の所得金額は同表二の1(四)ないし(七)のとおり三七六万〇六五一円,昭和四九事業年度の所得金額は同表二の2(三)ないし(六)のとおり七一二万三六八三円、昭和五〇事業年度の所得金額は同表二の3(三)ないし(六)のとおり五八四万九一一二円、昭和五一事業年度の所得金額は同表二の4(三)ないし(六)のとおり八五八万一〇三一円、昭和五二事業年度の所得金額は同表二の5(三)ないし(六)のとおり三六〇万一一二四円である。
3 原告興産の昭和四八事業年度の所得金額は同表三の1(三)ないし(六)のとおり二三八万一七五九円、昭和四九事業年度の欠損金額は同表三の2(四)ないし(七)のとおり三一七万八三三三円、昭和五〇事業年度の欠損金額は同表三の3(三)ないし(六)のとおり九九二万二〇三三円、昭和五一事業年度の欠損金は同表三の4(三)ないし(六)のとおり五六二万六七六七円、昭和五二事業年度の欠損金額は同表三の5(三)ないし(六)のとおり二六八万〇三六五円、昭和五三事業年度の欠損金額は別紙第一表B一の1のとおり二一五万八四一四円、翌期繰越欠損金額は別紙第五表1のとおり二三五六万五九一二円、昭和五四事業年度の所得金額は第一表B一の2のとおり零、翌期繰越欠損金額は第五表2のとおり一三九六万二九三九円である。
4 原告通商の昭和四八事業年度の所得金額は別紙第三表四の1(三)ないし(六)のとおり一二〇六万三三八九円、昭和四九事業年度の所得金額は同表四の2(三)ないし(六)のとおり九六二万一八一七円、昭和五〇事業年度の所得金額は同表四の3(四)ないし(七)のとおり四一五万九八八七円、昭和五一事業年度の所得金額は同表四の4(三)ないし(六)のとおり、七六九万二九五二円、昭和五二事業年度の所得金額は同表四の5(三)ないし(六)のとおり六四六万二六一五円である。
5 原告工業の昭和四八事業年度の所得金額は同表五の1(三)ないし(六)のとおり八五五万五八〇七円、昭和四九事業年度の所得金額は同表五の2(三)ないし(六)のとおり六〇四万三七一六円、昭和五〇事業年度の欠損金額は同表五の3(三)ないし(六)のとおり三三四万一六五一円、昭和五一事業年度の所得金額は同表五の4(三)ないし(六)のとおり二三〇万〇九一八円、昭和五二事業年度の欠損金は同表五の5(三)ないし(六)のとおり一九二五万九三七四円、昭和五三事業年度の所得金額は第一表B二の1のとおり零、翌期繰越欠損金額は第五表3のとおり九九八万〇九九八円、昭和五四事業年度の所得金額は第一表B二の2のとおり八五五万三九二七円である。
(二) 第三表のとおりの各原告の申告所得金額に加算されるべき損金不算入寄付金について
1(イ) 原告らは本件五事業年度において、親会社及び第二高林産業に対し、別紙第二表記載のとおり本件負担金を支払つた。
(ロ) 本件負担金は法三七条に規定する寄付金にあたる。
2 親会社に支払つた負担金について
親会社に支払われた負担金は、親会社の欠損を補填する目的のものである。
(イ) 原告工業は他の子会社より約一年前の昭和四七年六月一日に設立されたが、設立後の第一期目(昭和四七年六月一日から昭和四八年五月三一日まで)は親会社に本件負担金と同旨の金銭を支払わなかつた。
(ロ) ところが、親会社は昭和四八年五月末ころから同年六月一日までの間に自己の営業を分割して原告工業以外のその他の子会社を順次設立したことにより、親会社に残された不動産からの収入のみでは賄えない必要経費(欠損金)が発生したため、親会社と子会社とは、そのころ子会社が親会社に対し負担金を支払う旨の契約を結んだ。
(ハ) 本件負担金は、本件五事業年度における親会社の右欠損金の支払資金のほか、右営業分割前からの親会社の繰越欠損金の消却分の支払資金にも充てられた。
3 第二高林産業に対する負担金について
親会社がその営業を分割して子会社を設立したことにより、親会社に残された債権債務及び棚卸商品の整理について、第二高林産業は親会社に代わつてそれを行うため、昭和四九年六月一日本店を鳥取から米子市に移転した。その整理業務に要した費用は本来親会社が負担すべきものであり、子会社が支払うべきものではないから、原告らから第二高林産業への立替払に相当するものであつて、結局親会社の費用の補填を目的としたものである。
4 本件負担金の性格|寄付金|について
(イ) 法第三七条二項に規定する寄付金は法人の通常の営業経費に属さない経済的利益の供与であつて、社会通念上の寄付金よりも広義に解すべきところ、当該寄付金の支出が法人の営業に直接関連があるか否かの判定が具体的事例によつては困難な場合が多いため、同条の規定により形式的基準によつて擬制的に寄付金の損金算入限度額が定められた。
(ロ) このような法人税法上の寄付金の性格によると、本件負担金は親会社の欠損金の補填を目的として支出されたものであり、原告らは親会社ないし第二高林産業から本件負担金と対価関係に立つ反対給付を受けていたものではなく、かつ他に本件負担金を支払うべき合理的な根拠も存在しないから、本件負担金は法人税法上の寄付金に該当する。
(三) 翌期繰越欠損金額について
1(イ) 原告興産の昭和四九ないし五二事業年度における控除未済欠損金額は第四表の1(三)1の各金額のとおり(合計二一四〇万七四九八円)である。
(ロ) 同原告の昭和五三事業年度の当期欠損金は同表一の1(三)1のとおり二一五万八四一四円である。従つて翌期繰越欠損金額は二三五六万五九一二円となる。
(ハ) 同原告の昭和五四事業年度における当期控除額は表一の2(三)2のとおり(九六〇万二九七三円)である。従つて翌期繰越欠損金額は一三九六万二九三九円となる。
2(イ) 第四表二の1(三)1のとおり原告工業の昭和五〇事業年度の控除未済欠損金は第三表五の4(二)1、(五)1ですでに控除済であるから零であり、昭和五二事業年度の控除済欠損金は第四表二の1(三)1のとおり一九二五万九三七四円である。
(ロ) 同原告の昭和五三事業年度の当期控除額は同表二の1(三)2のとおり九二七万八三七六円である。従つて同原告の翌期繰越欠損金額は同表二の1(三)3のとおり九九八万〇九九八円となる。
(ハ) 同原告の昭和五四事業年度の控除未済欠損金が同表二の2(三)1のとおり九九八万〇九九八円であるところ、当期の利益一八八二万四八〇〇円のうち九九八万〇九九八円が右欠損金の控除額に充てられ、その残額の八八四万三八〇二円は同原告の修正申告所得額二二万二〇七九円に加算されるべきであり、従つてその合計額九〇六万五八七七円が同事業年度の所得金額となる。
(四) ところが原告らは本件五事業年度分につき第三表のとおり、原告興産、同工業は昭和五三、五四事業年度分につき第一表B、第四表のとおり確定(修正)申告した。
(五)1 しかし本件五事業年度における原告らの各所得金額は別紙第三表記載のとおり、寄付金たる本件負担金について法三七条二項により計算した金額を申告所得金額に加算した額であるから、この範囲内でなされた本件五事業年度分の各更正処分、賦課決定はいずれも適法である。
2 次に原告興産、同工業の昭和五三、五四事業年度翌期繰越欠損金額は前記(三)のとおりであり、この範囲内でなされた右二事業年度分の各更正処分及び賦課決定はいずれも適法である。
三 被告の主張に対する認否及び原告の反論
1 被告の主張に対する認否
(一) 被告の主張(一)の事実は否認する。
(二)1同(二)1(イ)の中の事実中、各原告が昭和四九事業年度において親会社に支払つた負担金の額(第二表一ないし五の各2欄)は否認するが、その余は認める。原告らが昭和四九事業年度において親会社に支払つた負担金の額は次のとおりである。
原告機材 一四二七万二〇〇〇円
同 資材 一七三万〇〇〇〇円
同 興産 一二〇万四〇〇〇円
同 通商 四五〇万六〇〇〇円
同 工業 七三〇万二〇〇〇円
2 同(二)2の事実は認める。
3 同(二)(3)(4)の事実は否認する。
(三) 同(三)の事実は否認する。
(四) 同(四)の事実は認める。
(五) 同(五)は争う。
2 原告の反論
(一) 親会社に対する本件負担金支出の根拠について
本件負担金は、親会社から子会社へ賃貸した営業権の賃借料、親会社から子会社に対する融資の対価、親会社による子会社のための債務保証、仕入保証の対価、親会社の子会社に対する営業指導の対価から構成されているので、寄付金にはあたらない。すなわち
1 営業権の賃借料
(イ) 親会社に対する本件負担金の主たるものは、親会社が子会社を設立すると同時に、親会社の営業権を営業部門ごとに六つに分割して各子会社に対し、それぞれ期間五年の約定で賃貸したが、親会社に対する本件負担金の主たる性格は、この賃貸についての子会社からの対価(賃借料)である。
(ロ) 親会社の営業権の存在
親会社が営業権を有していたことは以下の事実から明らかである。
(a) 親会社の昭和三八事業年度(昭和三八年七月一日から昭和三九年六月三〇日まで)から昭和四四事業年度(昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日まで)までの七事業年度における各申告所得金額は、別紙第六表のとおり昭和四〇事業年度を除き黒字であつた。
(b) しかし親会社の昭和四五事業年度(昭和四五年六月一日から昭和四六年五月三一日まで)から昭和四七事業年度(昭和四七年六月一日から昭和四八年五月三一日まで)までの三事業年度の各所得金額はいずれも赤字であつたが、その原因は親会社の現在地への移転、新社屋建設に要した資金三億円の金利負担増、右移転に伴う会社資産の減価償却費、設備廃棄損の増加、昭和四八年五月三一日新体制に移行するため役員及び全従業員に退職金を支払つたこと、親会社の得意先であつた佐藤造機株式会社が更生会社に転落したことによる異常出費などが重なつたことによるものであつた。ところで、親会社の全営業による所得が赤字であつたとしても、そのうち子会社に分割賃貸した各営業部門ごとによる所得が赤字となるか否かは別個に検討すべきものであり、これにあたつては親会社が支出した費用のうち子会社に賃貸した営業部分と関係のないもの、すなわち親会社のした長期設備に投下した借入金の金利、親会社資産の減価償却費、親会社従業員に対する退職金の支払は欠損原因から除外すべきである。以上の基準によると右三事業年度における原告らの所得は別紙第七表のとおり黒字であつた。
(c) 設立初年度(昭和四八事業年度)における子会社の所得は、いずれも黒字であつたのは、親会社から賃借した営業権の収益力によるものである。もつともその後二事業年度は子会社のうち三社に赤字経営が続いたが、これは政府の総需要抑制策のためであり、全国的にも中小企業の半数は赤字であつた。また原告興産、同工業の営業成績が特に悪かつたのは、得意先の佐藤造機株式会社が更生会社になつたことによるものであつた。
(d) 親会社は金融機関から右社屋等の建設資金の融資を受け得るだけの営業成績を上げていた企業であつた。
2 親会社から受けた融資の対価
親会社が原告らに対し運転資金を融資したことについての対価も本件負担金に含まれている。
3 親会社の債務保証、仕入取引債務保証の対価
原告らが第三者からの資金の借入れ又は商品の仕入れにあたり、親会社から保証を得たことの対価(保証料)が本件負担金に含まれている。
4 営業指導料
本件負担金の中には、原告らの営業を担当する役員、従業員が、機械金属の専門家で経営手腕のある親会社代表取締役高林健治から営業指導を受けたことについての対価も含まれていた。設立後間もない原告らは右営業指導を受けなければ、業務を遂行できない状態であつた。
(二) 本件負担金の算出方法について
1 その算出方法は次のとおりであつた。まず親会社の減価償却費、支払利息、租税公課、人件費等約二八項目からなる年間の必要経費のうち自らの収入をもつて補填できない部分及び親会社の分割前の累積赤字の各事業年度における消却分(ただし、右累積赤字は昭和五〇事業年度で消却済となつた)との合計額を、親会社に対する子会社の負担金総額とした。次に、この負担金総額を、各子会社の売上高、人件費、資本、固定資産、利益の五項目を基準として、その各項目の合計をそれぞれ一ないし三割として、五項目の合計で一〇割となるように各項目に振り分け、更に右項目ごとの負担金の額を子会社間で当該基準項目ごとに案分することにより各子会社の負担金の額を決めた。
2 本件負担金を算出するにあたり、右五項目を基準としたのは、それが各子会社の経営規模、すなわち当該子会社が賃借した営業権の収益力を示すものだからである。
(三) 第二高林産業に対する負担金支出の根拠
1 原告らは、設立当初経理事務を担当するだけの能力をもつ従業員を欠いていたため、第二高林産業に伝票の記入整理、各種帳簿の記入、試算表の作成等の経理事務を委託し、その対価として第二高林産業に本件負担金を支払つた。
2 本件負担金の算出にあたつては、第二高林産業の業務の大部分が子会社からの右委託事務であつたことから、第二高林産業の全必要経費のうち子会社の負担すべき総額を第二高林産業と子会社の協議によつて決定し、右負担金の総額を子会社間で前記五項目を基準として案分して決めた。
四 原告の反論に対する認否及び被告の再反論
1 被告の認否
(一)1(イ) 原告の反論(一)1(イ)の事実は否認する。
(ロ) 同1(ロ)の事実中、親会社の昭和三八ないし昭和四五事業年度の申告所得金額が第六表のとおりであつたこと、親会社の昭和四五ないし昭和四七事業年度の各所得金額はいずれも赤字であつたこと、昭和四八事業年度における子会社の所得はいずれも黒字であつたこと、その後の二事業年度は子会社三社に赤字が続いたことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 同(一)2ないし4の事実は否認する。
(二) 同(二)1の事実は認めるが、同(二)2の事実は否認する。
(三) 同(三)の事実は否認する。
2 被告の再反論
(一) 親会社に対する本件負担金の性格について
1 営業権の賃借料について
(イ) 親会社の営業権の不存在
(a) 法人税法上における営業権は、ある企業が同種の事業を含む他の企業の通常の収益(平均収益)よりも、大きな収益(超過収益)を稼得できる無形の財産価値である。ところが、子会社設立前の昭和四五ないし四七事業年度における親会社の各決算は連続して赤字であり、その経営内容は劣悪であり、原告らの設立当時における親会社は超過収益力を有していなかつたので、かかる営業権は存在していなかつた。
(b) 原告らが賃借したと主張する営業部門に限定してみても、右三事業年度における親会社の各所得は赤字であり、右各営業部門には超過収益力はなかつた。
A 原告ら主張の第七表Aの2欄の確定決算書当期利益(以下当期利益という)について
親会社から子会社に引き継がれた営業部門の収益力を合理的に計算するためには、右当期利益の額につき次の修正を行うべきである。当期利益には子会社が引き継いだ営業部門とは関係のない営業部門によつて生じた受取賃貸料、家賃収入及び固定資産売却益も含まれているから、第八表Aの2ないし4欄記載のとおり減算すべきである。また親会社は分割前の三事業年度において、理由もなく価格変動準備金、貸倒引当金の額を前期から減額して計上することにより、当該事業年度において右準備金、引当金の戻入益と繰入損の差額を益金に加算している。しかし、右準備金、引当金の額については一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計上されることになるので、通常の継続企業であれば、毎期同一の基準により右準備金、引当金が計上されるものであり、右戻入益と繰入損との差額が当該年度の益金に計上されるはずはないから、第八表Aの5ないし7欄記載のとおり減額すべきである。
昭和四七事業年度においては、退職給与引当損が計上されていないが、企業の収益力を計算する場合には、次年度に子会社の分割が行われず、従来どおり会社が継続するものとして右引当金が計上されるべきであるから、同表8欄記載のとおり当期利益から右引当金相当額を減算すべきである。
B 原告ら主張の第七表A4欄の減価償却費について
原告らは有形固定資産の減価償却費は親会社から子会社に引き継がれた営業とは関係がない費用であるとして全額当期利益に加算している。しかし分割後の子会社から賃借した有形固定資産があつて初めて営業活動を行い収益をあげることができるのであり、仮に子会社が親会社から有形固定資産を賃借しない場合には、他からこれに相当する有形固定資産を取得して減価償却費及び有形固定資産の取得に要する借入金の利息を費用として計上するか、他から賃借して賃借料を支払うことになり、いずれにしても営業活動を行ううえで減価償却費等が必要不可欠の費用となる。このことは分割前の親会社が子会社に引き継がれた営業を行う場合にも同様であるから、同営業の収益力を算出するには右営業を行うに際して使用された有形固定資産の減価償却費を必要経費として算入すべきである。従つて当期利益に減価償却費を加算する場合には、分割後の子会社に賃貸された有形固定資産に相当する減価償却費を差し引いた残額を加算すべきであり、右計算を行うと原告主張の第七表Aの当期利益に加算すべき減価償却費は別紙第八表Bのとおりとなる。
C 原告ら主張の別紙第七表A3欄の金利計算について
同表3欄の金利は利率年一〇パーセントとなつているが、親会社の長期借入金の平均金利とみられる年九パーセントによつて計算するのが合理的である。すなわち、当時の親会社の長期借入金の個別的金利は不明であるが、借入金総額の約九七パーセントを占める地方銀行、相互銀行、商工組合、中央金庫、中小企業金融公庫からの借入金の平均金利は年利率約八・五パーセント以下であるところから、借入金総額の平均金利は年利率九パーセントを上回ることはない。原告らは同表3欄の金利計算に際して有形固定資産の期中平均設備投資額に対する金利計算を行つている(第七表B)が、前記のとおり有形固定資産のうち分割後の子会社に賃貸された部門に相当する借入金利息は、子会社に引き継がれた営業の収益力を算出するにあたつて同営業の必要経費とみるべきであるから、同利息相当額を差し引いた残額を原告ら主張の第七表A2欄の当期利益に加算するのが合理的である。そこで、右計算を行うと右当期利益に加算すべき金利は第八表Cのとおりとなる。
D 右AないしCのとおり、子会社分割前の三事業年度における、子会社が承継した営業部門の推定収益力は第八表Dのとおりいずれも赤字となる。仮に親会社から子会社に引き継がれた営業部門の収支決算が黒字であつたとしても、直ちに親会社の営業権が存在したことにはならない。すなわち、営業権の価値は一般に超過収益力を資本還元することにより算出できるものとされており、その計算方法としては相続税を課税する場合の財産評価基準に基づく方式が通常妥当な方法とされている。そこで、この方式によつて分割前の親会社の営業権を評価すると、別紙第九表のとおり零となり、営業権は存在しないことになる。
(ロ) 営業権の賃貸借の不存在|営業権の無償譲渡
仮に原告らの設立当時、親会社が営業権を有していたとしても、これは子会社に賃貸されたものではなく、親会社の営業部門の分割に伴い、子会社に無償で譲渡されたものである。
2 親会社からの融資の対価について
原告らは、親会社から融資を受けたとき、親会社に対し、本件負担金とは別に利息を支払つていたので、本件負担金は親会社からの融資の対価とは関係ない。
3 親会社による債務保証について
保証債務は会計上将来負担するかもしれない特殊な債務であり、保証を受けたこと自体は法人の損益に直接影響はないから、債務保証を受けた者は強いてその対価を見積もる必要はないし、また子会社等の債務について保証を行つた場合は保証料相当額の収益認定を行う必要はない。
ところで本件においては、親会社と原告らとの間に保証料支払の約定は存在しない。
4 仕入取引による債務の保証の保証料について
原告らの仕入取引による債務について、親会社が保証した場合、親会社と原告らとの間において、原告らが保証料を支払う旨の約定はなく、また仕入保証料は一般的に慣行化されておらず、原告らの確定決算で仕入保証料が経理されていなかつたことから、保証料を損金として認定する必要はない。
5 営業指導料について
親会社が子会社を管理指導することは専ら親会社の固有事務であり、管理指導のための費用を子会社に請求できるのは具体的な役務の対価として測定可能な経費に限られる。本件においては、親会社の営業指導の具体的内容や指導実績は認められず、原告らは個別具体的な経理をせず、漫然と負担金として経理していたもので、損金として認められない。
6 法一三二条の該当性
仮に本件負担金が原告ら主張の対価にあたるとしても、それは親会社の欠損金を補填する目的のものであり、原告らが損金と扱つた本件負担金を、親会社が利益に計上しても、親会社は法人税を納付するに至らない。しかも本件負担金の支出額は毎期親会社の経営内容により変動しており、本件負担金の支出は同族会社である親子会社間で損金を通算するためになされたものであるから、かかる行為計算を容認するときは法人税の負担を不当に減少させる結果となるから、同条により右行為、計算は否認されるべきである。
(二) 第二高林産業に対する負担金の性格について
原告らには設立当時から経理事務経験のある事務員がおり、また原告らが第二高林産業に対し、原告ら主張の経理事務を委託していた事実もない。
五 被告の再反論に対する認否
1 再反論の事実はすべて否認する。
2 被告の再反論(一)3の主張について
被告は、本件各更正処分において債務保証料を認定して本件負担金の一部を損金と認め、本訴訟でもそれを前提とした主張を行つていたものであるが、本訴訟の途中になつて債務保証は認められないと主張を変更した。しかし、これは更正決定の理由の差し換えであつて許されない。
第三 証拠関係
一 原告ら
1 甲第一ないし第一〇号証の各一ないし三、第一一ないし第一四号証の各一、二、第一五号証、第一六ないし第一九号証の各一ないし六、第二七ないし第三一号証、第三二号証の一、二、第三三ないし第四四号証、第四五号証の一ないし三、第四六号証の一、二、第四七号証、第四八、四九号証の各一ないし四、第五〇号証の一ないし三、第五一号証の一、二、第五二、五三号証の各一ないし三、第五四号証の一ないし四、第五五号証、第五六ないし第六〇号証の各一、二、第六一、六二号証、第六三号証の一ないし五、第六四ないし第六八号証の各一、二、第六九ないし第九四号証
2 証人高林和夫、原告ら代表者本人
3 乙第一号証、第二号証の一ないし一〇、第三号証の一ないし八、一〇ないし一七、第四号証の一ないし一四、第五号証の一ないし七の各成立は不知。第一〇号証のうち上段右側の「高林開発」なる部分の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。第一一号証のうち上段欄外の「日立」「日パ」「サト」「49・9合併」「鳥取に廃業を登記して48・6分かつ」「49・9月」「名称変更『開発』次に開発と合併して廃業になる、49・9合併、不動会社」「41」なる部分、倉庫欄の「自動車」から「4t-5t」までの部分、一般管理費の科目欄の「2526 7069 52 556 18321 8324 1855 4744 6636 15720 4949000 24000000 14292 23397 1136 3720 開発(六カ所)(」なる部分の成立は否認するが,その余の部分の成立は認める。第一三号証のうち上段欄外の「親会社」(二カ所)の部分及び「28」なる部分、合計欄の「271000 43947000 差 6836000」なる部分の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。その余の乙号各証の成立は認める。
二 被告
1 乙第一号証、第二号証の一ないし一〇、第三号証の一ないし一七、第四号証の一ないし一四、第五号証の一ないし七、第六、七号証、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一六号証、第一七、一八号証の各一、二、第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二三号証、第二四号証の一、二、第二五ないし第三三号証、第三四号証の一、二、第三五ないし第五二号証
2 証人宅野彊
3 甲第六号証の二のうち、二枚目の書き込み部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める。第七号証の一のうち、二枚目欄外の書き込み部分の成立は不知、その余の成立は認める。第二二ないし第四二号証、第四八、四九号証の各一ないし四、第五〇号証の一ないし三、第五一号証の一、二、第五二、五三号証の各一ないし三、第五四号証の一ないし四、第五五号証、第六一号証、第六三号証の一ないし五の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。
理由
一 請求原因1・2・3の(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件負担金の性格及びこれを基礎としたうえでの原告らの各事業年度の所得金額について順次判断する。
1(一) 原告らが昭和四八事業年度、昭和五〇ないし五二事業年度において親会社と第二高林産業に支払つた負担金の額、昭和四八、四九事業年度において第二高林産業に支払つた負担金の各金額は、第二表記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いのない乙第一三号証(ただし成立の否認部分を除く)及び証人宅野彊の証言によれば、原告らが昭和四九事業年度において親会社に支払つた負担金の額は第二表一ないし五の各2記載のとおりであつたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
2 寄付金について
法三七条に規定する寄付金は、法人の事業に関連があるか否かを問わず、法人が行う直接の対価のない支出であると解すべきである。すなわち、寄付金には法人の事業に関連性を有し、その収益を生み出すのに必要な経費といえるものと、そうではなく単なる利益処分の性質を有するにすぎないものとがあるといえるが、具体的事例において法人が寄付金として支出した金銭等がそのいずれに当たるかを判定することは困難であるところから、法人税法は擬制的に損金算入限度額の制度を定める規定を設けたものと解すべきである。従つて、直接の対価のない支出にあたることが肯認されれば、それが同条項の括弧内のものに該当しない限り、事業との関連性いかんを問わず、寄付金性を有するものと解すべきである。
3 (親会社に支払つた負担金の性格について)
1 次の各事実には当事者間に争いがない。
(一) (営業権の賃借料について)
(イ) (本件負担金支払の経緯)原告らを含む子会社のうち、原告工業は他の子会社より約一年先の昭和四七年六月一日に設立され、設立後の第一期目において、親会社に対し本件負担金と同旨の金銭を支払つたことがなく、その後親会社が営業部門を分割して原告ら子会社を設立したことから、親会社の必要経費中に分割後の親会社に残された営業部門である不動産業による収入のみでは賄えない部分(欠損金)が発生したため、これを親会社と子会社との契約によつて、子会社に負担させることとした。原告ら子会社が親会社に対し支払う右負担金の中には右欠損金のほか、親会社の営業部門の分割前からの繰越欠損金の消却分も含まれていた。
(ロ) 親会社に対する各子会社の一事業年度における負担金の額は次のようにして算出された。まず減価償却費、支払利息、租税公課、人件費等約二八項目からなる親会社の年間の必要経費のうち自らの収入をもつて賄えない部分及び親会社の営業部門の分割前からの累積赤字の各事業年度における消却分(ただし昭和五〇事業年度で消却済となつた)の合計額を子会社の負担金の総額とし、次にこの総額を子会社の五項目(売上高、人件費、資本、使用固定資産、利益)を基準として振り分け、更に各項目に振り分けられた負担金の額を当該基準項目ごとに各子会社に案分することにより各子会社の負担金の額が決められた。
2 証人高林和夫の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二二ないし第二六号証の各一ないし六、成立に争いのない甲第二七ないし第三一号証、乙第六号証、第一七号証の二、第二三号証、第三五号証、証人宅野彊の証言、原告ら代表者尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる的確な証拠はない。
(イ) 原告らは本件五事業年度の各事業年度の初めころ、当該事業年度における親会社の必要経費中自らの収入で賄えないと見込まれる部分及び親会社の繰越欠損金のうちの当該事業年度の消却分の合計額を基に、右算出方法に従つて各子会社の当該事業年度における負担金の見込額を算出して、右見込額を親会社に支払い(昭和五〇事業年度以降はその旨約定した仮契約書をその都度作成していた)、当該事業年度末に確定決算に基づいて正式に算出した確定負担金額を記入した契約書を作成し、すでに支払済の右負担金の見込額との間の増減の清算を行つていた。
(ロ) 原告らが親会社に本件負担金を支払う旨を定めた契約書は、各事業年度ごとに作成される右(イ)記載の契約書以外にはなかつたが、右契約書には単に親会社の必要経費の負担金を支払う旨規定されているのみで、営業権の賃貸借等についての右負担金の支払と対価的関係に立つ法律関係については、何らの約定もなかつた。
(ハ) 原告らは税務調査担当の係官から昭和四八ないし昭和五〇事業年度の確定申告について調査を受けた際、本件負担金支出の根拠として営業権の有償譲渡の対価であるとか、営業権の賃借料であるなどの説明をしなかつた。その後審査請求の段階になつて初めて、原告らは、本件負担金が親会社からの営業の賃借料であるとか、営業権の譲渡の対価であるとか主張し、更に本訴においても当初は営業の一部を譲り受けていると主張するなど、その主張は変転し、一義的ではなかつた。
(ニ) 親会社は原告らとの間で前記のとおり本件負担金の算出基準を定めていたものの、営業権の賃借料算定の前提となるべき営業権そのものの価値評価は行つておらず、また原告らはその決算書において営業権ないし営業の賃借権を資産勘定に計上していなかつた。
(ホ) 原告らは前記のとおり本件負担金を算出する際、当該事業年度の売上高や利益を基準の一つとしていたことから、売上高ないし利益の増減に応じて負担金も増減することとなり本来ほぼ一定であるべきはずの営業権の賃借料すなわち営業権の価値が観念的には原告らの努力いかんによつて増減変動する結果となつていた。
(ヘ) 原告らは、親会社の繰越欠損金が消却済となり、収益状況も良好となつたことから、昭和五三事業年度以降は本件負担金を支払つていなかつたが、従前どおり営業を継続していた。
3 右(1)(2)の各事実によれば、原告らを含む子会社六社と親会社との間には親会社の営業権の価値を評価した事実もなく、本件負担金の算出方法も営業権の価値と対価的関連なく定められていたことが認められるので、親会社に営業権が存在していたか否かを判断するまでもなく、本件負担金をして原告らが親会社から営業権を賃借した直接の対価ということはできないから原告らの主張は採用できない。
(二) (親会社から受けた融資の対価について)
成立に争いのない乙第三四号証の二及び原告ら代表者尋問の結果によると、本件五事業年度において親会社から原告らに対し融資がなされたときは、本件負担金とは別個に原告らに対しその借入金に対する利息が支払われていたことを認めることができ、本件負担金が親会社からの融資と対価的意義を有するものということはできない。
(三) (債務保証の対価について)
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六三号証の一ないし五、乙第二号証の一ないし一〇、第三号証の一ないし八、一〇ないし一七、第四号証の一ないし一四、第五号証の一ないし七、成立に争いのない乙第三号証の九によれば、原告らは本件五事業年度において親会社の保証を得て株式会社山陰合同銀行等の金融機関から融資を受けていたことが認められる。ところで、保証債務は、会計上、いまだ現実に発生していないが、将来負担するかもしれない潜在的、偶発的債務であるから、保証を委託した者はその受託者に対し、保証料の支払義務を負うわけではなく、債務保証を受けたこと自体は法人の損益に直接の影響はないものと解すべきである。本件についてみるに、前掲の乙第一七号証の二、成立に争いのない乙第一五号証、証人高林和夫の証言によれば、親会社と原告らとの間では、原告らの金銭借入れについて親会社が保証する場合、原告らから保証料を支払う旨の契約は締結されていなかつたこと、昭和五三事業年度以降原告らが本件負担金を支払わなくなつてから負担金とは別個に保証料を支払つている事実はないこと、親会社の保証のもとにおける資金の借入れは、親会社、子会社全体の資金調達の目的でなされており、具体的には業績の良好な子会社が金融機関から借入れた資金を、親会社が極く低利で右子会社から借り受けたうえ、更に資金不足の他の子会社に貸し付けていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によると、原告らが親会社に対し保証料を支払うだけの合理的根拠はなく、親会社の債務保証が本件負担金と対価的意義をもつものということはできない。
なお、原告らは被告が更正処分の段階においては保証料を認定しておきながら、本件訴訟でそれを否認するのは理由の差し換えとなつて許されない旨主張しているが、前記事実によれば、被告が本件訴訟で債務保証料を否認したことは更正処分に付記された理由そのものを差し換えた(付記されていない新たな主張をした)わけではなく、単に付記理由とされている寄付金の範囲を拡大したにすぎないものであると認めることができ、被告にかかる主張を許しても、何ら更正処分に理由付記を要求した趣旨に反せず、原告らに対する不意打ちとなるものともいえない。従つて原告らの右主張は採用できない。
(四) (仕入取引の債務保証の対価について)
証人高林和夫の証言、原告ら代表者尋問の結果、これらにより真正に成立したと認められる甲第四八ないし第五四号証の各一によれば、原告らが積水化学工業株式会社、湯浅金物株式会社、岩崎商事株式会社、株式会社芝浦製作所等との間で商品の仕入について継続的取引契約を締結した際、原告らが右契約によつて負担する債務について、親会社が連帯保証したことが認められる。ところで右保証も前記のとおり潜在的、偶発的な債務であるから、保証料支払の特約がない限り、法人の損益には直接の影響はないものと解すべきところ、本件においては前掲乙第一七号証の二、証人高林和夫の証言によれば、親会社と原告らとの間では右保証料の授受に関する約定がなされていなかつたこと、原告らが本件負担金を支払わなくなつた昭和五三事業年度以降も右保証料は支払われていないことが認められ、右保証が本件負担金と対価関係に立つということはできない。
(五) (営業指導料について)
証人高林和夫の証言及び原告ら代表者尋問の結果によれば、高林健治は、子会社の役員や一般従業員に対し子会社の経営分析を行つて経営上の指示を行つたり、仕入先や販売先の選定等に関する指示、助言を行つたりしていたことが認められる。しかし、高林健治は前記認定のとおり親会社の代表取締役であると同時に親会社の全額出資にかかる子会社の代表取締役をも兼任しており、成立に争いのない乙第一九号証の一ないし三によれば、各子会社からも役員報酬を受けていたことが認められ、右の程度の営業上の指導助言は親会社兼子会社の代表取締役として当然の職務であつて右報酬とは別個に対価を評定することはできない。他に原告らが親会社に営業指導料を支払うべき合理的な根拠を認定するに足りる証拠はない。従つて原告の営業指導料についての主張は失当といわざるを得ない。
4 (第二高林産業に支払つた負担金の性格について)
原告らは、第二高林産業に経理事務を委託したことの対価として右負担金を支出したと主張し、原告ら代表者の供述中には右主張に沿う部分がある。しかし、成立に争いのない乙第二〇号証、第二四号証の二、証人宅野彊、同高林和夫、原告ら代表者尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨によれば、第二高林産業は親会社の営業部門の分割、子会社の設立に伴う債権債務の整理業務を行うため、米子市に移転したこと、原告らが第二高林産業に支払う負担金の算出方法は、まず、原告ら子会社と第二高林産業との協議により同会社の必要経費のうちで、子会社が負担すべき部分を決定し、それを更に親会社に対する負担金を算出する際の前記五項目の基準に従つて各子会社に案分することにより、負担金の額が定められており、子会社の経理事務の委託とは関係なく決められていたこと、原告らと親会社との間には経理業務の委託に関する契約書は作成されていなかつたこと、被告の調査係官が原告らを調査した際、第二高林産業に経理事務を委託していた旨の説明が原告らからなされなかつたこと、原告らには設立当時から経理担当の従業員がいたことが認められ、これらの事実に照らすと、原告の前記主張に沿う原告ら代表者の供述部分はたやすく信用できず、他に原告の前記主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。右事実によると右負担金は、原告らが第二高林産業に対し何らの対価なくして任意に給付した金銭と認めざるを得ない。
5 以上の認定によれば、原告らが親会社及び第二高林産業に対し支払つた本件負担金は、いずれも対価のない給付として、寄付金であると認めることができ、前掲の乙第一九号証の一ないし三、成立に争いのない甲第一ないし第五号証の各一ないし三、乙第四二ないし第五二号証、弁論の全趣旨によつて認められるように、本件負担金のうち、法三七条二項を適用して算出した損金不算入額は第三表の「損金不算入寄付金」欄記載のとおりであり、これは益金に計上されるべきであるから、本件五事業年度における原告らの所得金額は同表の各「所得金額」欄記載のとおりとなる(なお原告らが第三表のとおり確定申告したことは当事者間に争いがない。)。従つて右認定の範囲内でなされた本件五事業年度の各更正処分は適法であり、また右更正処分を前提としてなされた過少申告加算税の賦課決定も適法であるというべきである。
6 本件五事業年度における原告興産、同工業の所得金額は前記認定のとおりであり、右事実に弁論の全趣旨を併わせ考えると、控除未済欠損金の額は第四表の被告主張額記載のとおりであること、右控除未済金額を基に計算した右原告両名の昭和五三、五四事業年度における各翌期繰越欠損金の額又は所得金額は第五表記載のとおりであることが認められ、被告のなした右二事業年度の各更正処分は右認定の範囲内でなされたものであるから、いずれも適法であり、原告工業の昭和五四事業年度についての右更正処分を前提としてなされた同原告に対する過少申告加算税の賦課決定も適法であるというべきである。
三、そうすると、原告らの本訴請求はいずれも理由がないことからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鹿山春男 裁判官 大戸英樹 裁判官 三浦州夫)
第一表A
(課税処分の経過表)
△印は損失の表示である。
一 原告高林機材株式会社
1 昭和四八事業年度
2 昭和四九事業年度 (図一)
3 昭和五〇事業年度 (図二)
4 昭和五一事業年度 (図三)
5 昭和五二事業年度 (図四)
二 高林鉄道資材株式会社
1 昭和四八事業年度 (図五)
2 昭和四九事業年度 (図六)
3 昭和五〇事業年度 (図七)
4 昭和五一事業年度 (図八)
5 昭和五二事業年度 (図九)
三 原告高林興産株式会社
1 昭和四八事業年度 (図一〇)
2 昭和四九事業年度 (図一一)
3 昭和五〇事業年度 (図一二)
4 昭和五一事業年度 (図一三)
5 昭和五二事業年度 (図一四)
四 原告高林通商株式会社
1 昭和四八事業年度 (図一五)
2 昭和四九事業年度 (図一六)
3 昭和五〇事業年度 (図一七)
4 昭和五一事業年度 (図一八)
5 昭和五二事業年度 (図一九)
五 原告高林工業株式会社
1 昭和四八事業年度 (図二〇)
2 昭和四九事業年度 (図二一)
3 昭和五〇事業年度 (図二二)
4 昭和五一事業年度 (図二三)
5 昭和五二事業年度 (図二四)
第一表B
(課税処分の経過表)
一 原告高林興産株式会社
1 昭和五三事業年度
2 昭和五四事業年度 (図二五)
二 原告高林工業株式会社
1 昭和五三事業年度 (図二六)
2 昭和五四事業年度 (図二七)
第二表
(被告主張にかかる原告らが親会社及び第二高林産業に支払つた負担金)
一 原告高林機材株式会社
二 原告高林鉄道資材株式会社 (図二八)
三 原告高林興産株式会社 (図二九)
四 原告高林通商株式会社 (図三〇)
五 原告高林工業株式会社 (図三一)
第三表 (被告主張の所得金額の計算内容)
一 原告高林機材株式会社
1 昭和四八事業年度 資本金三〇〇万円
2 昭和四九事業年度 資本金五〇〇万円 (図三二)
3 昭和五〇事業年度 資本金五〇〇万円 (図三三)
4 昭和五一事業年度 資本金一,〇〇〇万円 (図三四)
5 昭和五二事業年度 資本金一、〇〇〇万円 (図三五)
二 原告高林鉄道資材株式会社 1 昭和四八事業年度 資本金三〇〇万円 (図三六)
2 昭和四九事業年度 資本金三〇〇万円 (図三七)
3 昭和五〇事業年度 資本金三〇〇万円 (図三八)
4 昭和五一事業年度 資本金五〇〇万円 (図三九)
5 昭和五二事業年度 資本金五〇〇万円 (図四〇)
三 原告高林興産株式会社
1 昭和四八事業年度 資本金三〇〇万円 (図四一)
2 昭和四九事業年度 資本金三〇〇万円 (図四二)
3 昭和五〇事業年度 資本金三〇〇万円 (図四三)
4 昭和五一事業年度 (図四四)
5 昭和五二事業年度 資本金五〇〇万円 (図四五)
四 原告高林通商株式会社
1 昭和四八事業年度 資本金三〇〇万円 (図四六)
2 昭和四九事業年度 資本金三〇〇万円 (図四七)
3 昭和五〇事業年度 資本金三〇〇万円 (図四八)
4 昭和五一事業年度 資本金五〇〇万円 (図四九)
5 昭和五二事業年度 資本金五〇〇万円 (図五〇)
五 原告高林工業株式会社
1 昭和四八事業年度 資本金三〇〇万円 (図五一)
2 昭和四九事業年度 資本金三〇〇万円 (図五二)
3 昭和五〇事業年度 資本金三〇〇万円 (図五三)
4 昭和五一事業年度 資本金五〇〇万円 (図五四)
5 昭和五二事業年度 資本金五〇〇万円 (図五五)
第四表 (被告主張の欠損金の損金算入に関する明細書)
一 原告高林興産株式会社
1 昭和53事業年度
2 昭和54事業年度 (図五六)
二 原告高林工業株式会社
1 昭和53事業年度 (図五七)
2 昭和54事業年度 (図五八)
第五表 (被告主張の所得金額)
(注) △印は翌期繰越欠損金の額である。
(省略)
第六表 (原告ら主張の親会社の申告所得金額)
△印は欠損を示す。
(省略)
第七表A(原告ら主張の親会社が子会社に賃貸した営業部分の推定収益力)
△印は欠損を示す。
(単位は円)
(省略)
第七表B(原告ら主張の金利の計算)
(単位は円)
(省略)
第八表A(被告主張の確定決算当期利益の修正項目表)
△印は欠損を示す。
(単位は円)
(省略)
第八表B(被告主張の減価償却費「推定額」)
(単位は円)
(省略)
第八表C(被告主張の金利(推定額))
(単位は円)
(省略)
第八表D(被告主張の親会社が子会社に引き継いだ営業部門の推定収益力)
△印は損失金額を示す。
(単位は円)
(省略)
第九表(被告主張の営業権の価額計算)
1 所得金額の計算 (注)1 1欄の所得金額は法人税法22条1項に規定する所得金額である。
2 5欄の各種引当金繰入額の内訳は次表のとおりである。 (図五九)
3 △印は損失の金額である。
2 平均利益金額の計算 (図六〇)
(注) 卸売物価指数は「昭和54年物価指数年報」による。
(34,203,589円+66,062,684円+67,107,279円)×1÷3=55,791,184円(平均利益金額)
3超過利益金額の計算
(平均利益金額)(企業者報酬の額)(総資産価額)(超過利益金額)
55,791,184円×0・5-7,000,000円-(1,065,804,379円×0・08)=0
4営業権の価額
(超過利益金額)(営業権の持続年数に応ずる年8分の複利年金現価率)(営業権の価額)
0×6・717 6・=0