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鳥取地方裁判所倉吉支部 昭和53年(ワ)36号 判決 1982年9月30日

昭和五三年(ワ)第三六号事件・

松本いち

昭和五六年(ワ)第二四号事件原告

ほか七名

昭和五三年(ワ)第三六号事件被告

柳楽祥史

ほか三名

昭和五六年(ワ)第二四号事件被告

野崎哲宏

ほか二名

主文

一  (第一事件について)

1  被告柳楽は、原告松本いちに対し金四六四万五、四八三円、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵ら各自に対し金一九万八、九九六円及び右各金員に対する昭和五三年六月一四日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  原告らの被告柳楽に対するその余の請求、被告新免司、同新免雪夫、同新免月枝に対する請求をいずれも棄却する。

二  (第二事件について)

3 被告野崎哲宏は、原告松本いちに対し金四六四万五、四八三円及びこれに対する昭和五六年四月一八日から、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵ら各自に対し金一九万八、九九六円及びこれらに対する昭和五〇年九月一日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

4 原告らの被告野崎哲宏に対するその余の請求、被告野崎典道、同野崎志奈代に対する請求をいずれも棄却する。

三  (第一、第二事件について)

5 訴訟費用は、原告らと被告柳楽、被告野崎哲宏との間においては、原告らに生じた費用の五分の二を右被告両名の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告新免司、同新免雪夫、同新免月枝、同野崎典道、同野崎志奈代との間においては全部原告らの負担とする。

6 この判決は1及び3項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 第一事件被告らは、連帯して、原告松本いちに対し金九一二万六、五八四円及びこれに対する被告柳楽において昭和五三年六月一四日から、被告新免司、同雪夫、同月枝において同月一三日から、いずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵に対しそれぞれ金八九万三、五九六円及びこれに対する被告柳楽において同月一四日から、被告新免司、同雪夫、同月枝において同月一三日から、いずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

2 訴訟費用は第一事件被告らの負担とする。

3 第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 第二事件被告らは連帯して、原告松本いちに対し金九一二万六、五八四円及びこれに対する昭和五六年四月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵に対しそれぞれ金八九万三、五九六円及びこれに対する昭和五〇年九月一日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は第二事件被告らの負担とする。

3 第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(第一事件について)

一  請求原因

1 事故の発生

(1) 日時 昭和五〇年八月三一日午後二時ころ

(2) 場所 鳥取県東伯郡東郷町長和田花見選果場前

(3) 加害車 自動二輪車(一岡き六四五号、以下、加害車という。)

右運転者 第一事件被告柳楽祥史(以下被告柳楽という。)

(4) 被害者 松本政吉

(5) 態様 被告柳楽は加害車を運転して前記場所付近道路(以下、本件道路という。)を走行中対向する四台の車両に気を奪われて運転をしたため、ハンドル操作を誤り本件道路左側の歩道内に進入し、折から同所を自転車で走行中の被害者に追突したもの

2 責任原因

(1) 被告柳楽は、前方及び左方不注意並びにハンドル操作不適当の過失によつて本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故によつて被害者及び原告松本いちが受けた人的並びに物的損害を賠償する責任がある。

(2) 第一事件被告新免司(以下、被告司という。)は加害車の所有者であり、本件事故当時被告柳楽に同車を貸与し使用させていたものであるから、同車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて被害者及び原告松本いちが受けた人的損害を賠償する責任がある。

(3) 第一事件被告新免雪夫(以下、被告雪夫という。)、同新免月枝(以下、被告月枝という。)は、本件事故当時一七歳の学生に過ぎなかつた被告司の両親であつて、未だ独立した経済力を持たない同人をその庇護下においていたものであるから、加害車の運行を支配制御すべき責務があつたものというべく、同車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて被害者及び原告松本いちが受けた人的損害を賠償する責任がある。

3 損害

(1) 被害者は本件事故のため頭蓋骨骨折(右視束管骨折)、臀部・腰部打撲、頭部外傷、左肘頭部・下腿部擦過創の重傷を負い、このため清水整形外科で治療を受け昭和五〇年一二月三日症状固定の診断を受け、その後も野島病院で治療を受けたが、その間、

(一) 昭和五〇年八月三一日から同年九月二日まで前記外科に通院三日

(二) 同年九月二日から同月二三日まで同外科に入院二二日間

(三) 同年一二月一九日から同月二〇日まで前記病院に通院二日

(四) 同月二二日から同五一年二月二〇日まで同病院に入院六一日間

(五) 同年一二月一一日に同病院に通院一日

の各入通院を余儀なくされた。

(2) 被害者は、本件事故前、白内障により左眼の視力が殆ど消失していたものの、健康で農作業もでき、自転車にも乗れる程体力があつたが、前記傷害の結果両眼を失明する後遺障害(後遺障害別等級表一級)が残り、これに七六歳という高齢による環境適応能力の滅退も加わり、日常の起居動作も意のままにならず、寝たきりの生活を強いられた。

(3) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(一) 治療費 合計五三万一、三三〇円

清水整形外科分 一九万四、七四〇円

野島病院分 三三万六、五九〇円

(二) 入院雑費 合計六万六、四〇〇円

入院日数八三日((1)の(二)、(四))につき一日八〇〇円

(三) 通院費及び文書料 合計五、八四〇円

(四) 付添費

(a) 原告松本いちにつき 合計二五八万九、〇〇〇円

同原告は、被害者が前記症状により日常生活上の行為につき他人の介護を要するため、昭和五〇年一二月一九日から少なくとも同五三年四月三〇日まで八六三日間同人の付添看護を余儀なくされて来たものであるから、一日三、〇〇〇円の割合による付添費相当の損害を蒙つた。

(b) 被害者につき 合計二三七万円

被害者は、昭和五三年五月一日以降同五四年八月一七日に死亡するまで四七四日間の付添看護を必要としたため、一日五、〇〇〇円の割合による付添費相当の損害を受けた。

(五) 休業補償費 合計四九万二、八二八円

被害者は本件事故当時、農業経営に従事していたものであるが、右事故のため稼働不能となり、昭和五〇年八月三一日から同年一二月三日までのべ九五日間の休業を余儀なくされた。そこで昭和五〇年度版賃金センサスによると、七六歳男子の年収は金一八九万三、五〇〇円であるから、被害者の労働をこれと同等と見積つて右休業期間中の損害を計算すると前示金額となる。

(六) 後遺症による逸失利益 合計三〇六万七四八円

(a) 被害者は、症状固定時七六歳であり平均余命は六・五年であるから、就労可能年数はその二分の一の三・二五年となり、事故がなければその間事故当時と同程度の収入を得ることができたはずである。

(b) 被害者は、事故前左眼がすでに失明に近い状態にあつたものであるが、事故によつて右眼を失明し、結果的に両眼失明となつた。よつて被害者の労働能力喪失率は両眼失明の場合の喪失率一〇〇パーセントから一眼失明の場合の喪失率四五パーセントを差引いた五五パーセントとなる。

(c) 従つて被害者が右全労働期間を通じて労働能力を五五パーセント喪失したものとし、七六歳男子の年収を前示のとおり金一八九万三、五〇〇円として、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、被害者の将来の逸失利益は前示金額となる。

(七) 慰藉料

(a) 被害者につき

被害者の受傷、後遺障害、後遺障害の結果による病状の内容程度は前記のとおりであり、殆ど横臥したままの生活を余儀なくされ、死亡時までこの状態が続いたことなどを合わせ考えると、同人の慰藉料額は入院分五〇万円、通院分五万円、後遺症分八〇〇万円、合計金八五五万円とするのが相当である。

(b) 原告松本いちにつき

同原告は被害者の妻であるが、本件事故により夫を回復の見込みの全くない廃疾者にされてしまつたばかりか、事故後同人の死亡まで付添看護に当らなければならない境遇に置かれていたものであるからその精神的苦痛の程度は同人が事故によつて死亡した場合にも劣らないものというべきであり、その慰藉料額は金三〇〇万円をもつて相当とする。

(八) 弁護士費用

(a) 被害者につき一六九万円

(b) 原告松本いちにつき四一万円

4 損害の填補

被害者は事故後同和火災海上保険株式会社より強制保険金として六九三万三、一七七円、共済保険から治療費として四五万一、二一三円をそれぞれ受領したので、右合計額七三八万四、三九〇円を同人の損害(前記(3)の(一)ないし(八))の一部に充当する。

5 相続による承継

被害者は、昭和五四年八月一七日死亡したため、同人の妻原告松本いちにおいて三分の一、同人の子原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵において各二一分の二の割合で被害者の上記九三八万二、七五六円相当の損害賠償請求権を相続した。

6 結び

よつて、原告松本いちは、第一事件被告らに対し各自金九一二万六、五八四円及びこれに対する被告柳楽については同被告に対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年六月一四日から、被告新免司、同雪夫、同月枝については同被告らに対する訴状送達の日の翌日である同月一三日から、いずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵は第一事件被告らに対し各自それぞれ金八九万三、五九六円及びこれに対する被告柳楽については同被告に対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年六月一四日から、被告新免司、同雪夫、同月枝については同被告らに対する訴状送達の日の翌日である同月一三日から、いずれも完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告柳楽)

1  請求原因1の(1)ないし(4)及び同4の各事実は認める。

2  同1の(5)及び同2、6の各事実は否認する。

3  同3、5の各事実は知らない。

(被告司、同雪夫、同月枝)

1  請求原因2の(2)の事実は否認する。被告司は、もと加害車を所有していたが、本件事故前の昭和五〇年七月上旬、同車を第二事件被告野崎哲宏に売渡し直ちに引渡を了したものである。

2  同1、2の(1)、3ないし6の各事実は知らない。

三 被告柳楽の仮定抗弁

仮に同被告に過失があるとしても、本件は被害者が飲酒のうえ自転車で走行中、同被告の進路上(車道)によろめき出たため起きた事故であるから、過失相殺をすべきである。

(第二事件について)

一  請求原因

1 事故の発生、損害、損害の填補、相続による承継

いずれも第一事件についての各該当項の記載と同じ

2 責任原因

(1) 被告柳楽は、前方及び左方不注意並びに不適確なハンドル操作によつて本件事故を惹起させたものであるから、過失がある。

(2) 第二事件被告野崎哲宏(以下被告哲宏という。)は加害車の所有者であり、本件事故当時、被告柳楽に同車を貸与し使用させていたものであるから、同車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて被害者及び原告松本いちが受けた人的損害を賠償する責任がある。

(3) 第二事件被告野崎典道(以下、被告典道という。)、同野崎志奈代(以下、被告志奈代という。)は、被告哲宏の両親であり、本件事故当時満一六歳六か月で未成年者であつた同被告を監督すべき法定義務者の立場にあつた。被告典道、同志奈代は、被告哲宏の通学する高等学校から自動二輪車の免許取得並びに所有については厳重に注意されているのを知つていたにもかかわらず同被告の求めに応じて、本件加害車の購入に当り、代金の支出をなし、あるいは、その維持管理に対し積極的に協力していた。即ちこの点において、被告典道、同志奈代は、被告哲宏に対する日頃の監督注意義務を怠つたものというべきであるから、親権に服する子の所有する加害車が惹起した本件事故について、民法七〇九条、七一九条により連帯してその損害を賠償すべきである。

(4) 仮に右監督義務違反による不法行為責任が認められないとしても、被告典道、同志奈代は、加害車の購入費を支出したのみならず、同車の修理費、燃料費等の維持費を負担し、常時その保管場所の提供をしていたものである以上、車の所有・維持管理・運行に対する指示制禦をなし得る地位にあつたと考えるべきであるから、被告哲宏と共に自賠法三条に基づき本件事故によつて被害者及び原告松本いちが受けた人的損害を賠償する責任がある。

3 結び

よつて、原告松本いちは、第二事件被告らに対し各自金九一二万六、五八四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年四月一八日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵は第二事件被告らに対し各自それぞれ金八九万三、五九六円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和五〇年九月一日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び同2の(1)の各事実は知らない。

2 同3の(2)ないし(4)及び同3の各事実は否認する。

被告哲宏は、一旦加害車を受取つたあと、車検証が無いことに気付き、これを被告柳楽に返えし同車を買わなかつたことにしたのであるから、事故当時同車を所有していたものではない。被告典道が被告哲宏に買い与えた車は一二五CCのホンダ製二輪車であつて同被告は二輪車の免許を有していたのであるから、被告典道、同志奈代に被告哲宏に対する監督義務違反はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  被告らの責任の有無

1  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一ないし一一及び証人松本美佐男の証言、原告松本政吉並びに被告柳楽祥史各本人尋問の結果を総合すると、被告柳楽は、原告主張の日時場所において、加害車を運転して走行中、対向車線上を対向してくる四台の車両に気を奪われて運転をしたため、ハンドル操作を誤り本件道路左側端を同一方向へ自転車に乗つて進行中の被害者に自車を追突させて本件事故を惹起したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告柳楽は前方不注視及びハンドル操作不適確の過失によつて本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づき、被害者及び同人の妻原告松本いちが受けた損害を賠償する責任がある。

2  被告新免司本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証及び証人光井里志の証言、同被告並びに被告柳楽祥史各本人尋問の結果を総合すると、被告司は、本件事故前の昭和五〇年七月上旬、その所有にかかる加害車を、被告哲宏に代金四万五、〇〇〇円で売り渡したこと、同被告は本件事故当時同車を被告柳楽に貸与して使用させていたことが認められ、右認定に反する甲第二号証の記載及び被告野崎哲宏本人尋問の結果は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、被告司は本件事故当時加害車を所有していたものでないことが明らかであるから、同車の運行供用者ということはできず、本件事故によつて生じた人的損害を賠償する責任はない。

したがつて被告司が同車を所有していたことを前提とする被告雪夫、同月枝の運行供用者としての自賠法三条に基づく賠償責任も存在しない。

また被告哲宏は本件事故当時加害車を所有し、これを被告柳楽に貸与し使用させていたのであるから、同車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて被害者及びその妻原告松本いちが受けた人的損害を賠償する責任があるものといわねばならない。

3  被告典道、同志奈代が、本件加害車の購入にあたり、代金を支出し、同車の維持管理に協力したとの事実は、本件全証拠によつてもこれを認めるにたりず、被告典道、同志奈代が、息子哲宏に対する日頃の監督、注意を怠つたものと認めるにたりる証拠はないというべきであるから、両被告に民法七〇九条、七一九条による賠償責任はない。

成立に争いのない丁第一号証及び被告野崎哲宏、同野崎志奈代各本人尋問の結果によると、被告哲宏は本件事故当時一六歳六か月の高校生であつて、自動二輪車の運転免許は昭和五〇年三月二六日に取得していたこと、被告典道、同志奈代は、被告哲宏の両親であつて、同被告に一二五CCのホンダ製バイクを購入して与えたことはあつたが、前示加害車の購入については本件事故当時未だ二か月もたつていなかつたため、同被告がこれを買受けたことを知らなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると被告典道、同志奈代が加害車の所有・維持管理・運行につき指示制禦をなしうる地位にあつたものとはいい難いから、同車の運行供用者としての責任を認めることはできない。

4  本件事故に際し被害者に過失があつたとの事実については、被告柳楽祥史本人尋問の結果中にはこれに添う供述があるけれども、右供述は前記一の1掲記の各証拠に照しにわかに信用することができず、他に抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて被告柳楽の仮定抗弁は理由がない。

二  原告らの損害

1  被害者の身体の状況、治療費、入院雑費、通院費・文書料、付添費、休業補償費、逸失利益

被告柳楽との間においては当事者間に争いがなくかつ被告哲宏との間においては弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし三、第四、第五号証の各一、二、第六、第七号証、丙第一、第二号証及び証人板倉和資、同野島鉄之助、同松本美佐男の各証言及び原告松本政吉、同松本いち各本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認定することができる。

(1)  被害者は、本件事故のため頭蓋骨骨折(右視束管骨折)、臀部・腰部打撲、頭部外傷、左肘頭部・下腿部擦過創の傷害を負い、右治療のため昭和五〇年八月三一日から同年九月二日まで清水整形外科に通院三日、同月二日から同月二三日まで同外科に入院二二日間、同年一二月一九日から同月二〇日まで野島病院に通院二日、同月二二日から同五一年二月二〇日まで同病院に入院六一日間、同年一二月一一日に同病院通院一日、の各入通院を余儀なくされた。

(2)  被害者は、本件事故前、白内障により左眼の視力が殆んど消失していたものの、健康で農作業もでき、自転車にも乗車できるほど体力があつたが、前記傷害の結果両眼を失明する後遺障害(後遺障害別等級表一級)が残り、日常の起居動作も意のままにならず、高年齢もあつて寝たきりの生活となつた。

(3)  被害者は、右傷害による治療費として、清水整形外科に金一九万四、七四〇円、野島病院に金三三万六、五九〇円合計五三万一、三三〇円を要したので、同額の損害を蒙つた。

(4)  被害者は右入院日数八三日の間、一日八〇〇円の費用を要したので、入院雑費合計六万六、四〇〇円の損害を受けた。

(5)  被害者は、右通院費及び治療にかかわる文書料として合計五、八四〇円を要したので、同額の損害を蒙つた。

(6)  原告松本いちは、被害者が前記症状により日常生活上の行為につき他人の介護を要するため、少なくとも昭和五〇年一二月一九日から同五三年四月三〇日まで八六三日間、同人に対する付添看護を余儀なくされたため、一日三、〇〇〇円の割合で合計二五八万九、〇〇〇円相当の損害を蒙つた。

また被害者は、昭和五三年五月一日以降同五四年八月一七日に死亡するまで四七四日間の付添看護を必要としたため、一日五、〇〇〇円の割合による付添費合計二三七万円相当の損害を受けた。

(7)  被害者は、本件事故当時農業経営に従事していたものであるが、右事故のため、稼働不能となり、昭和五〇年八月三一日から同年一二月三日までのべ九五日間の休業を余儀なくされた。被害者の年収は、農業経営による総収益三二万円から諸経費一六万円を差引いた一六万円と見積ることができるから、右休業期間中の損害は合計四万一、六四三円となる。

(8)  被害者は、後遺症状固定時、七六歳であり、就労可能年数は平均余命六・五年の二分の一の三・二五年であるところ、その労働能力喪失率は両眼失明の場合の喪失率一〇〇パーセントから一眼失明の場合の喪失率四五パーセントを差し引いた五五パーセントとなるから、被害者の年収を前示のとおり金一六万円として、中間利息の控除につきホフマン式計算法を用いて同人の右就労可能年数における逸失利益を算定すれば、左記のとおり金二五万八、六三二円となる。

160,000×2.939×55/100=258,632

以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  慰藉料

原告松本政吉、同松本いち各本人尋問の結果及び証人松本美佐男の証言を総合すれば、被害者は本件事故により、両眼失明となり、その後死亡時まで横臥したままの生活を余儀なくされ、高年齢とあいまつてその精神的苦痛には計り知れないものがあつたこと及び長年にわたり同人の付添看護に当つた妻の原告松本いちにおいてもその精神的苦痛は軽視できないことがそれぞれ認められるから、本件口頭弁論に顕われた一切の事情をも併せ斟酌し、右苦痛を慰藉するための慰藉料としては、被害者に対し総計六〇〇万円、原告松本いちに対し一〇〇万円をもつて相当とする。

3  被害者及び原告らが本件代理人に本訴の追行を委任し、かつ報酬の支払を約したことは、弁論の全趣旨より明らかであるところ、本件事案の難易等に鑑み、本件事故と相当因果関係を有するものとして、被告柳楽及び同哲宏に請求しうべき弁護士費用の額は、被害者において二〇万円、原告松本いちにおいて三六万円とするのが相当である。

4  被害者が、事故後保険会社より強制保険金として六九三万三、一七七円、共済保険から治療費として四五万一、二一三円を各受領し、その合計七三八万四、三九〇円を前記被害者の損害の一部に充当したことは、被告柳楽との間においては争いがなく、被告哲宏との間においては、弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。

5  被告柳楽との間においては成立に争いがなく、被告哲宏との間においてはその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第九号証及び証人松本美佐男の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、被害者は、昭和五四年八月一七日死亡したため、同人の妻原告松本いちにおいて三分の一、被害者の子原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵において各二一分の二の割合で、被害者の上記二〇八万九、四五五円(1ないし3の被害者の損害の合計額から4を差引いたもの)相当の損害賠償請求権を相続したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  結論

よつて原告松本いちは、被告柳楽に対し金四六四万五、四八三円(二の1の(6)と2、3の同原告の損害額に5の相続分を加えたもの)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年六月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、被告哲宏に対し金四六四万五、四八三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年四月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告松本美佐男、同藤井妙子、同戸田沙代恵、同松本輝秀、同乾民子、同松本潔、同井上静恵は被告柳楽に対しそれぞれ金一九万八、九九六円(二の5の金額の七分の一・但し円以下切上げ)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年六月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、被告哲宏に対しそれぞれ金一九万八、九九六円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五〇年九月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員の各支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、右被告両名に対するその余の請求、被告司、同雪夫、同月枝、同典道、同志奈代に対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 豊永格)

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