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鳥取地方裁判所米子支部 平成4年(わ)23号 判決 1992年7月03日

主文

被告人甲を懲役二年に、被告人乙を懲役二年に、被告人丙を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人乙に対し、未決勾留日数中四〇日をその刑に算入する。

この裁判確定の日から、被告人甲に対し四年間、被告人丙に対し、二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一 被告人甲は、暴力団山口組系三代目山健組内大同会幹部、被告人乙は、元被告人甲の弟分、被告人丙は、元工作機械製造会社経営者であるが、被告人丙の義母T所有にかかる鳥取県米子市<番地略>の宅地(299.25平方メートル)及びその土地上の被告人丙所有にかかる木造瓦葺二階建居宅(床面積合計119.19平方メートル)について、根抵当権者である鳥取県信用保証協会の申立てにより、鳥取地方裁判所米子支部において、平成元年九月八日、競売開始決定がなされたことを知るや、共謀の上、被告人甲、被告人乙及び前記大同会と被告人丙及びB間には、何らの金銭消費貸借関係及び同土地・建物に対する賃貸借関係もないのにあるように装うなどして、偽計及び暴力団の威力により、同競売から入札希望者を排除することを企て

一 同月二二日ころ、同市旗ケ崎二丁目一〇番一二号鳥取地方法務局米子支局において、被告人甲の経営する有限会社○○通商の従業員Aをして同法務局登記官に対し、前記建物について被告人丙を登記義務者、被告人甲を登記権利者とする条件付賃借権設定の仮登記をする旨の登記申請書等を提出させて、あたかも被告人甲が被告人丙から右建物を賃借したかのような虚偽の登記を申請させ、情を知らない同登記官をして建物登記簿の原本にその旨不実の記載をさせ、即日これを同所に備え付けさせてこれを行使した

二 同年一〇月一二日ころ、前記鳥取地方法務局米子支局において、Aをして、同法務局登記官に対し、前記土地についてBを登記義務者、被告人甲を登記権利者とする条件付賃借権設定の仮登記をする旨の登記申請書等を提出させて、あたかも被告人甲がBから右土地を賃借したかのような虚偽の登記を申請させ、情を知らない同登記官をして土地登記簿の原本にその旨不実の記載をさせ、即日これを同所に備え付けさせてこれを行使した

三 同月一七日ころ、前記土地・建物の現況調査に赴いた鳥取地方裁判所米子支部執行官村上稔に対し、被告人乙において、「わしは丙に三〇〇万円貸している。平成元年五月一日から一ケ月一万円でこの部屋を借りている。金を返してもらっていないから、裁判所から立ち退きを命ぜられても立ち退かない。大同会も一〇〇〇万円くらい丙に金を貸し、甲が賃借権を付けている。甲は大同会の幹部をしている。」旨また、被告人丙において、「そのとおり間違いない。」旨虚偽及び前記土地・建物に暴力団が関係しているなどの事実を申し向け、同執行官をして同人作成の現況調査報告書にその旨記載させ、これを同年一二月一二日ころから同市西町六二番地鳥取地方裁判所米子支部において、入札希望者等に閲覧できるよう備え付けさせ、もって、偽計及び威力を用いて公の入札の公正を害すべき行為を行った

第二  被告人乙は、同被告人及びCらと一緒に露天の手伝いをしていたD(当時二一歳)が無断で手伝いをやめたことに因縁をつけ同人から金員を喝取しようと企て、Cと共謀のうえ、平成二年一月一六日午後四時二〇分ころ、鳥取県米子市<番地略>先路上において、Cが運転し同被告人の同乗する普通乗用自動車にDを乗車させ、同人に対し、同市<番地略>付近路上を走行中の同車内において、同被告人が、「お前なんだ。何逃げとるだ。」と怒鳴りながらDの顔面を手挙で数回殴打する暴行を加えた上、「これ以上片端になりたいか、片端になりたくないなら金でけじめをつけれ。米子におりたいか、おりたいなら金を払え。」などと申し向けて金員を要求し、同日午後四時三〇分ころ、同市<番地略>所在の山陰中央自動車学校付近の海岸において、同被告人及びCが、こもごもDの胸部、腹部等を手挙で数回殴打するなどの暴行を加えた上、同被告人が、「お前なんぼ持っとるんだ。」「どこにあるだ。」「カード持っとるか。」などと申し向けて山陰合同銀行発行の同人名義のキャッシュカードの交付を要求し、これに応じなければ更に身体に危害を加えるかのような気勢を示して同人を畏怖させ、よって、そのころ同所において、同人から右キャッシュカード一枚を交付させて喝取したが、その際右暴行により同人に加療約五日間を要する左胸部打撲の傷害を負わせた

第三  被告人甲は、平成三年七月ころから、露天商のEの下で稼働していたFに同被告人の露天の手伝いをさせていたが、右手伝いについてEの了解を得ていなかったFは、Eの知り合いで同じく露天商であるG(当時六二歳)を通じ、右手伝いの事実をEに知られることを気にしていた。そこで、同被告人は、同被告人がEに断りを入れるまでGに口止めをしておくようFに指示したが、同年八月中旬ころ、FからEが右手伝いの事実を知っていたと聞かされ、GがEに知らせたものと考え腹を立てていたところ、同年一〇月一四日午後九時三〇分ころ、鳥取県米子市<番地略>勝田神社境内において、同被告人からFの件について追及されたGがこれを否定したため憤慨し、手挙で同人の顔面を二回殴打し、倒れ込んだ同人の右胸を数回足蹴にする暴行を加え、よって、同人に対し全治約三週間を要する右第五肋骨肋軟骨損傷の傷害を負わせた

ものである。

(証拠の目標)<省略>

(累犯前科)

被告人乙は、①昭和五八年一二月八日岡山県地方裁判所高梁支部で暴行、傷害、強要罪により懲役一年に処せられ、昭和六〇年八月一四日右刑の執行を受け終わり、②昭和五九年一一月一四日岡山地方裁判所高梁支部で傷害罪により懲役八月に処せられ、昭和六一年三月一五日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人三名の判示第一の一及び二の各所為のうち、公正証書原本不実記載の点は、いずれも行為時においては刑法六〇条、平成三年法律第三一号による改正前の同法一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の同法一五七条一項に、同行使の点は、いずれも行為時においては同法六〇条、右改正前の同法一五八条一項、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の同法一五八条一項、一五七条一項に、被告人三名の判示第一の三の所為は、行為時においては同法六〇条、右改正前の同法九六条の三第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の同法九六条の三第一項に、被告人乙の判示第二の所為のうち、恐喝の点は同法六〇条、二四九条一項に、傷害の点は、行為時においては同法六〇条、右改正前の同法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の同法二〇四条に、被告人甲の判示第三の所為は同法二〇四条にそれぞれ該当するが、判示第一の各罪及び第二の傷害罪は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから同法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし、判示第一の一及び二の各公正証書原本不実記載と同行使との間には手段結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇条により一罪としていずれも犯情の重い同行使罪の刑で、判示第二の恐喝と傷害とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の重い恐喝罪の刑で、それぞれ処断することとし、判示第一及び第三の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人乙には前記の各前科があるので同法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、被告人甲の判示第一及び第三の各罪、被告人乙の判示第一及び第二の各罪、被告人丙の判示第一の各罪はいずれも同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人甲については最も重い判示第三の罪の刑に、被告人乙については最も重い判示第二の罪の刑に、被告人丙については刑及び犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に、(被告人乙については同法一四条の制限内で)それぞれ法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人甲を懲役二年に、被告人乙を懲役二年に、被告人丙を懲役一年にそれぞれ処し、被告人乙に対し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四〇日をその刑に算入し、被告人甲、被告人丙に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から、被告人甲に対し、四年間、被告人丙に対し二年間それぞれの刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官太田雅也)

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