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鳥取地方裁判所米子支部 昭和40年(わ)44号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕ホームへの立入り行為が罪とならない旨の弁護人及び被告人らの主張について

一 被告人両名の国鉄米子駅一番ホーム(以下、本件ホームという。)上のデモ行進について、弁護人及び被告人らは無罪である旨主張するが、その主張の要旨は、右行進は、憲法第二八条に保障する労働者の団結権、団体行動権に基づく正当な行為であり、かつ、正当な目的のものであつて故なく或いは妄りに侵入ないし立入つたものではないから罪とならないばかりでなく、本件ホーム上のデモ行進は慣行として容認されていたものであり、また米子駅長の推定的承諾もあつたのであるから罪とならず、更に本件の場合、かりに、形式的に右行為が刑法第一三〇条もしくは鉄道営業法第三七条に該当するとしても、労働組合法第一条第二項の適用ある正当な争議行為であり、刑事制裁を科するに値するいわゆる可罰的違法性をも欠いているから罪とならないというにある。

二 いうまでもなく、本件ホーム上のデモ行進の犯罪の成否についても、第四の一、二及び四で述べた見地に立つて判断を進めて行くべきであるが、その結果は犯罪の成立を肯定せざるをえず、弁護人らの主張はいずれも採用することができないことに帰した。以下その理由を述べる。

まず、具体的な事実関係について検討するに、次の事実を認めることができる。

(一) 前記のとおり本件通路を通過したデモ隊は、前同様の態様でもつて、本件ホームの西南端からホーム内に進行して来て、同ホーム上に施設されてあつたテルフアー及び西跨線橋の付近から右施設に沿つてジグザグ状の隊列となり、同駅本屋の改札口近くまで達したころ、同駅駅長花井勇より退去要求があり、これに応じて直ちに右行進の先頭から順次隊勢を減じて静かになり、同駅東通用門から退去して行つたこと。なお、右ホーム上のデモ行進の時間は、デモ隊全部を通じて約七分間位であつたこと。

(二) 右行進の前後における本件ホームの状況は、同ホームから定刻午前六時一八分発鳥取行上り五三二号列車が大雪のため三七分遅延して午前六時五五分に発車し、定刻午前六時五三分発上井行上り一二二D列車も同様に二一分遅延して午前七時一四分に発車したため、丁度右行進が同ホームを通過したときは五三二号列車が発車し一二二D列車が間もなく到着するころであつて、他に列車が入つておらず、乗降客も殆ど同ホーム上に見当たらなかつた状態であつたこと。そして、右行進の通過によつて、施設の破損やその他の物損を生じたことはなく、また同ホーム上では作業は行なわれていなかつたので、その渋滞というような損害もなかつたこと。

(三) 本件ホームは、国鉄米子駅本屋の一部であつて、その中央部の幅員は約一一メートル、長さは約二三〇メートルであり、その西南端の近くには西通用門があり、当時右門は開放されたままになつていたこと。右本屋は鉄筋コンクリート造五階建(一部六階)の建築物であつて、一階が米子駅、二階以上が米子鉄道管理局によつて使用され、駅前広場の東西の長辺に面して建つていること。

本件ホームは、米子駅長の管理するところであり、乗客の乗降その他駅業務の用に供され、外来者は、契約、その他所定の手続に基づくものでない限り、厳にその無断使用は禁止されていたこと。

三 以上のような事実関係から判断すると、本件ホーム上のデモ行進は、管理当局に対する団結の誇示の効果を強めるとともに駅前広場に戻るための通り抜けの意図をも併せもつたものとして本件通路でのデモ行進の延長とみることができ、動労の闘争支援という行進の目的についての同一性は、引続きなお保たれていたものということができる。そうすると、本件ホーム上のデモ行進は、労働組合法第一条第二項の労働組合の団体交渉その他の行為であつて同条第一項に掲げる目的を達成するためにしたものに該当するといえる。

それでは、右のようなホーム上の行進が正当なものであるといえるであろうか。すなわち、本件ホーム上を行進するだけの必要にして相当な理由があるかどうかということである。なるほど、デモ行進の態様については前記第五の二の(一)及び(二)記載のように、積極的実質的な損害を与えるようなものではなく、また暴力を伴うものでもなく、秩序を保つた行進であつたと評することができる。しかしながら、その目的と手段方法との関係については、右行進の主目的が動労米子機関区組合員を激励声援するということであれば、本件ホームの位置から考えてもその必要性は薄弱であり、また、その主目的が動労に対する支援としての管理当局に対する団結の誇示ということであつたにしても、事柄の性質上、即刻ホーム内にデモ隊をもつて立入らなければならないとするだけの差し迫つた事情の存在は前記の認定事実からは汲取りがたい。前記第五の二の(三)記載の駅前広場と駅本屋の場所的関係からみて、米子鉄道管理局を含む駅舎の前の広場で組合員多数が結集してなんらの支障もなく総決起大会を開催し気勢をあげたことは、動労に対する支援としての管理当局に対する団結誇示の目的に十分適つたものといえ、当時の状況上更に進んで支援労組員のデモ隊によるホームに立入つてのデモ行進までも敢えてしなければならなかつた程の事情があつたことは認め難く、その必要性は低いとしなければならない。更に、その主目的が退去のための通り抜けということであれば、前記第五の二の(三)記載の西通用門を利用するのがより効果的であつたと認められるから、右の理由によるホーム内立入りの必要性も殆どないということができる。加うるに、本件ホームは、前記第五の二の(三)記載のように厳に無断使用を禁止されていたものであるだけでなく、行進に使用するが如きは本来の用途の範囲外に属することでもある。とくに、相手方に与える障害については、前記第五の二の(二)記載のような損害はなかつたというものの、本件当時のホームの状況は、前記第五の二の(二)記載のように大雪のため通常の場合と異なり非常の事態にあり、しかも間もなく一二二D列車を迎えようとしていたのであるから、約四〇〇名もの多人数からなるデモ隊が「ワッショイ」「ワッショイ」の掛け声をあげながら短時間であれ行進すること自体、乗降客の安全利便を含めた同駅業務の正常な運営を多分に乱す虞れがあるのみならず同駅構内の平穏ないしは秩序を著しく損うものがあり、その障害の程度は、本件ホーム上を行進する必要性よりかなり大であるといわなければならない。

そうだとすれば、本件ホーム上のデモ行進は、以上の点からみて労働組合法第一条第二項の正当性の限界を逸脱したものとせざるを得ないのであつて、この点に関する前記主張は採用することができない。

四 ホーム内デモ行進の認容慣行ないし推定的承諾の主張について考えるのに、過去において米子駅ホーム上をデモ行進し、かつ、これを理由に制裁を受けた者がなかつたとしても、この事実から慣行としてホーム上のデモ行進が許容されていたと推認することは、本件ホームの前記管理状況に照らして困難であり、まして、米子駅長の推定的承諾があつたとすることは、前記のように同駅長がデモ隊に対し即時退去を要求している一事からいつても無理であり、採用できない。

五 本件は可罰的違法性を欠く旨の主張についても、本件ホーム内立入りデモ行進が労働組合法第一条第二項にいう正当性を欠くことについてさきに説明したところを含め、右行為について、その動機、目的、必要性の程度、手段方法、態様、被告人両名の地位役割、行動、行為によつて増進された法益と侵された法益の権衡等諸般の事情を総合の上実質的に法律秩序の精神に照らして考えてみても、右行為を処罰に値いしないものとしてその違法性を払拭し去ることは首肯し難いところであり、右主張は採用できない。

六 本件ホーム内への立入りが刑法第一三〇条にいう「故なく侵入」した場合及び鉄道営業法第三七条にいう「妄りに立入つた」場合に当たらない旨の主張について判断すると、「故ナク」及び「妄リニ」とは「正当の事由なく不法に」を意味するもので、これは、犯罪の性質上とくに違法性の原則を表現したものにほかならないと解されるところ、本件ホームへの立入りが前記のとおり違法である以上被告人等の本件ホームへの立入りは、故なく建造物に侵入し、妄りに鉄道地内に立入つたものとして建造物侵入、鉄道営業法第三七条違反の罪を構成することを免れないからこの点の主張も失当である。(高橋正之 福島敏男 松井賢徳)

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