鳥取地方裁判所米子支部 昭和50年(ワ)89号 判決 1978年1月31日
原告
藤村ツユ子
被告
日本トラツク株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告に対し、金一〇七一万五〇六四円および内金一〇二一万五〇六四円に対する昭和五〇年九月二三日から、内金五〇万円に対する同年一一月一五日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 原告
1 被告らは各自原告に対し、金一五二六万五一七一円および内金一三二四万七五三〇円に対する昭和五〇年九月二三日から、内金二〇一万七六四一円に対する同年一一月一五日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告ら各自の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四八年一月二四日午後七時五〇分頃島根県邇摩郡仁摩町内所在の馬路隧道付近国道九号線上を、広田太資が運転する軽四輪貨物自動車(以下原告車という)に同乗して走行していた。被告伊藤博美(以下被告伊藤という)は、その頃大型貨物自動車(以下被告車という)を運転して原告車と同一方向に進行していたものであり、これより先原告車が被告車を追越したのが気に入らないとして右隧道の西方にある湯里隧道内で原告車を追越した後、同隧道出口で被告車を一、二分間斜めに停めて原告車が同隧道から出るのを妨害し、その後も右広田が被告車を追越そうとすると、左右にハンドルを切つて原告車の進路を妨害したりしていたが、前記場所に至つた時再び、ハンドルを右に切つて原告車の進路を妨害し、右広田をして原告車を前記道路右側コンクリート壁に衝突させた。原告は右交通事故により胸や額などに加療四六二日間(うち入院加療一九〇日間)を要する傷害を受けた。
2 被告伊藤は被告日本トラツク株式会社(以下被告会社という)の従業員であり、その業務に従事中故意または過失によつて右交通事故を惹起したものである。
3 原告は本件事故により、次のとおり合計金一五二六万五一七一円の損害を蒙つた。
(一) 原告は従業員五名を使用して露店で焼トウモロコシを販売していたものであるが、本件事故による傷害の治療のため、昭和四八年一月二四日から同年七月三日までおよび同年七月一五日から同年八月一二日までの間入院し、同年七月四、五日および同年八月一二日から昭和四九年四月三〇日までの間通院し、昭和四八年二月一日から昭和四九年八月末日までの間(一九か月)休業せざるを得なかつた。原告の昭和四七年度の売上高は金一七二五万〇〇五〇円であり、これから従業員に対する給料等人件費金五六六万円、トウモロコシ仕入代金三五五万四四七五円、醤油代金二万四五七〇円、油代金一七万七六七八円、豆炭代金三二万七八〇〇円、紙袋代金九万円、網・ハケ等代金三八四〇円の必要経費を控除すると同年度の利益は金七四一万一六八七円であるから、右休業期間中の原告の得べかりし利益は金一一七三万五一七一円となる。ところで、原告は本件事故当時代金四一万五〇〇〇円の自動車を営業用に使用しており、一年間使用して金二五万円で下取りしてもらう予定になつていたので、右自動車の必要経費は一年間金一六万五〇〇〇円であり、一年半分では金二四万七五〇〇円であるから、結局これを右得べかりし利益から控除した金一一四八万七六七一円が、右休業期間中の原告の逸失利益となる。
(二) 原告は、右休業期間中も昭和四八年二月から同年五月までの間、広田太資を除く従業員三名に対し一か月金二六万円の割合で合計金一〇四万円の給料を支払つた。
(三) 原告は、その営業に使用するトウモロコシの生産を他へ委託していたのであるが、右休業によりトウモロコシを委託先から購入することができず、委託先に損害を与えたので、その賠償として委託先に金一七〇万円を支払つた。
(四) 原告が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料は金一五〇万円が相当である。
(五) 原告は、本件訴訟の遂行を弁護士多田紀に依頼し、着手金および成功報酬として各金七〇万円、合計金一四〇万円を支払う旨契約した。
(六) 原告は被告会社から、休業補償として金一七八万円の支払を受けまた破損した原告車に替わる自動車の購入提供を受けた時、未払の自動車割賦代金八万二五〇〇円を支払つてもらつたので、この合計金一八六万二五〇〇円を前記損害合計金一七一二万七六七一円から控除する。
4 よつて原告は被告ら各目に対し、被告会社については民法七一五条に、被告伊藤については同法七〇九条に基づいて、損害金一五二六万五一七一円および内金一三二四万七五三〇円(後記費目の損害を除くその余の損害額)に対する損害が生じた後で被告らへの訴状送達の後である昭和五〇年九月二三日から、内金二〇一万七六四一円(弁護士費用と前記逸失利益のうちの一か月分との合計相当額)に対する損害が生じた後で被告らに同年一一月一〇日付請求の趣旨等変更申立書が送達された後である同年同月一五日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告会社)
1 請求原因1のうち、原告主張の日時場所において広田太資運転の原告車が道路右側コンクリート壁に衝突し、これに同乗していた原告が入院加療を要する傷害を負つたことおよび右日時場所において被告伊藤が被告車を運転していたことは認めるが、その余の事実は争う。
2 同2のうち、被告伊藤が被告会社の従業員であり、本件事故発生当時その業務に従事していたことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同3(一)のうち、原告が入院治療を受けたことは認めるが、その余の事実および同3(二)ないし(五)の事実は否認する。原告主張の露店商は、原告の長男博文が営んでいたものである。
(被告伊藤)
1 請求原因1のうち、原告主張の日時場所において、被告伊藤が被告車を運転していたこと、広田太資運転の原告車が道路右側コンクリート壁に衝突したことおよび被告伊藤が湯里隧道出口で一分間弱被告車を停車させたことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 同2のうち、被告伊藤が本件事故当時被告会社の従業員でありその業務に従事していたことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同3(一)ないし(五)の事実は知らない。
三 抗弁
(被告会社)
本件事故は、原告車が国道九号線清水隧道内で被告車を追越したところ、その追越方が悪いと被告伊藤が憤慨して原告車を追越し、以後両車が互に抜きつ抜かれつせり合つていたために生じたものであるが、このようなせり合い運転は交通事故につながる危険を孕むことが予見されるから、広田太資の雇主である原告は、これを制止して安全運転をするよう注意すべきであるのにこれを黙認していたのであるから、本件事故の発生については原告および右広田にも過失がある。
(被告伊藤)
本件事故は、原告車が被告車にからんで妨害的な走行をし、互に抜きつ抜かれつの状況で邇摩郡仁摩町馬路隧道の東方約二〇〇メートルの地点に差掛つた時、先行していた被告車の左前方約四〇メートルに犬一頭を発見した被告伊藤が、これを避けるため被告車を右側へ移行させようとしたところ、被告車に余りにも接近して追越そうとしていた原告車の運転者広田太資が追突の危険を感じ、右危険を避けようとして運転を誤つたために発生したものであるから、本件事故の発生については右広田およびその雇主である原告にも過失がある。
四 抗弁に対する認否
被告らの抗弁のうち、原告が広出太資の雇主であることは認めるが、その余の事実は否認する。(被告伊藤およびその訴訟代理人は、適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出席しないが、第一回口頭弁論期日において陳述したとみなされた答弁書の記載によれば、同被告の申立および主張は前記のとおりである)
第三証拠〔略〕
理由
第一本件事故の発生について
広田太資運転の原告車が、昭和四八年一月二四日午後七時五〇分頃島根県邇摩郡仁摩町内所在の馬路隧道付近国道九号線上を走行中、道路右側コンクリート壁に衝突したことおよび右日時場所において被告伊藤が被告車を運転していたことについては当事者間に争いがない。しかして、原原と被告会社との間においては成立に争いがなく、原告と被告伊藤との間においてはその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第四号証の一ないし六、第六号証、証人広田太資の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、被告車は、右同日午後七時四五分頃国道九号線上を東進中、右隧道の西方にある清水隧道内で原告車に追越されたのであるが、被告伊藤はこれに立腹して、同郡温泉津町所在の湯里隧道内で原告車を追越し、その出口に被告車を停めて(同所に停車したことについて、原告と被告伊藤との間においては争いがない)原告車の進路を妨害したうえ、再び発進してからも道路中央線の方に寄つて原告車の追越を妨げるような走行をしたり、後続する原告車の走行を妨害するかのような低速度で被告車を走行させたりしていたこと、そこで右広田は、右湯里隧道の東方にある前記馬路隧道の東約二〇〇メートルの地点で被告車を右側から追越し先行しようとしたところ、突然被告車が何らの合図もしないで進路を右に変更したため、これとの衝突を避けようとして右に急転把した結果、原告車が道路右側のコンクリート壁に衝突し、この事故により原告車に同乗していた原告が入院加療を要する傷害を負つたこと(原告車に同乗していた原告が右傷害を負つたことについて、原告と被告会社との間においては争いがない)が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
第二被告らの責任について
前記認定事実によれば、被告伊藤は、原告車が被告車の直後を走行しており、いつ被告車を追越しにかかるかもしれない状況にあることを十分承知していたことが推認でき、かかる場合自動車運転者としては原告車の動静を注視し、急な進路変更を避け、進路変更の必要があるときはその旨事前に合図するなどして危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるところ、被告伊藤の前記進路変更の所為は右注意義務を怠つたものというべきであり、右過失により本件事故が発生したことは前記認定事実から明らかである。なお被告伊藤は、右進路変更は被告車の左前方約四〇メートルに犬一頭を発見して、これを避けるためにとつた措置であると主張するが、本件事故当時犬が現場にいたことを認めるに足る証拠はなく、仮に右の如き事実があつたとしても、原告車の走行状況を承知していた被告伊藤としては、犬を避けることよりも原告車に対し危険を生じさせないことを優先して考慮すべきであるにもかかわらず、前記注意義務を怠つて被告車の進路を急に変更したのは軽率のそしりを免れず、右主張は被告伊藤の過失の有無を左右するものではない。
また、本件事故当時被告伊藤が被告会社の従業員であり、その業務に従事していたことについては当事者間に争いがない。
してみれば、被告伊藤は不法行為者として、被告会社は被告伊藤の使用者として、それぞれ本件事故により原告が蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。
第三原告の損害について
一 証人広田太資の証言、原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証の一ないし一〇、第二号証の一ないし六六、第三号証の一ないし一二八、被告会社との間では成立につき争いがなく被告伊藤との関係では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認むべき甲第四号証の七ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和四六年九月頃から道路脇で焼トウモロコシの露店売を始め、長男、二男およびその妻、広田太資を従業員として使用していたこと、昭和四七年度の原告の右露店商による売上金、必要経費、利益は別表一のとおりであり、必要経費の内訳は別表二のとおりであつたこと(前掲甲第三号の各証および原告本人尋問の結果によれば、原告は同年二月頃には毎日スイートコーンを仕入れており、毎日その日の売上、仕入内容などを手帳(同号各証)に記入していたと認められるところ、右手帳の同月一二日の頁(甲第三号証の三一)には同日のスイートコーンの仕入量が記入されていないが、同号証の三〇ないし三二と弁論の全趣旨とによれば、同日の右仕入量は八ケースであつたことが推認される)、本件事故により、原告は左前胸部挫傷、左膝関節挫傷の傷害を受け、一週間の安静加療を要すると当初診断されたが、その後いわゆるむち打症の症状が生じたため、右事故の日から昭和四八年八月頃までの間入院して治療を受け(但し同年七月初頃約一〇日間退院)、退院後昭和四九年四月三〇日頃までの間通院して治療を受けていたことにより、昭和四八年二月一日から昭和四九年四月三〇日までの間右露店商を休業せざるを得なかつたものと認めるのが相当である(原告が入院治療を受けたことについて原告と被告会社との間においては争いがない)。
なお原告は、昭和四九年八月末日まで休業した旨主張し(請求原因3(一))、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、通院期間についての原告の主張は、一応、同年四月末日までとなつているのみならず、原告本人の供述も同年四月末日以降いつまで通院したかについては曖味であり、同年四月末日以降同年八月末日まで休業せざるを得なかつたことについて、その理由を肯認するに足る診断書などの資料も提出されていないので、原告が同年五月一日以降も休業していたとしても、右休業を本件事故と相当因果関係のあるものとはたやすく認定しかたく、他に右事実を認めるに足る証拠もない。また被告会社は、右露店商は原告の長男博文が営んでいたものであると主張し、成立に争いのない乙第一号証の一、第四号証によれば、原告は、本件事故当時住民登録上の住所が山口県美弥郡秋芳町にあつたところ、同町において昭和四七、四八年度の所得を申告せず、右博文により同人の扶養者として届出られていることが認められるが、昭和四七年度の所得申告の時期には原告が入院中であつたことおよび昭和四八年度は本件事故により原告が休業していたことは前記のとおりであり、原告本人尋問の結果によれば、原告はこれまで自己の所得を申告したことがないことおよび本件事故以後右博文は焼トウモロコシの露店売に従事していないことが認められ、これらの事実に照らせば、前記乙第一号証の一、第四号証によるも前記認定事実はなお左右されないというべきであり、他に右認定事実を覆すに足る証拠はない。
そこで原告の右休業期間中の逸失利益についてみるに、本件証拠上、右算定の資料となし得るものは別表一、二の数値が唯一のものであるところ、逸失利益を算定すべき休業期間が昭和四八年二月から翌四九年四月までの一五か月間という右数値算出の期間に接着した一年余のことであり、他に格別の資料も提出されていないことからすると、原告の主張するように右数値に基づいて右休業期間中の逸失利益を算定するのもあながち不当なものではないというべきである。
しかしながら、右数値によつてあらわされる原告の昭和四七年中の収入は前記の如くかなり高額なものであり、原告が前記営業を始めたのは昭和四六年九月頃のことで本件事故までの営業継続年数は一年余にすぎないことからすると右数値の安定性(原告が右営業を継続した場合、常に確実に右程度の収入をあげ続けることが出来たかどうか)については問題がないわけではないと考えられることを考慮すると、右逸失利益の算定にあたつては原告にとつて控え目な算定の仕方をするのが相当である。
しかるところ、原告の昭和四七年度の月別の利益は季節によつてかなり大きく異なり、一、七、八、一〇月の利益が特に多額であるが、最も多い一月の利益は最も少ない九月のそれの約五・五倍に及んでおり、原告の休業期間が前記の如く昭和四八年二月一日から翌四九年四月三〇日までの一五か月間であることに照らすと、右別表の数値を算術平均して得られる一か月当りの平均利益に一五を乗じて得べかりし利益を算定すると右多額な収入のある月の利益が毎月の利益に均分されて前記控え目な算出の趣旨に反する結果になるので、右算定方法は相当でなく、右期間中の原告の月別の得べかりし利益は、当該月に対応する昭和四七年度の各月の利益に等しいものとして右期間中の原告の得べかりし利益を算定するのが相当である。しかして、この方法によつて求められる右期間中の原告の得べかりし利益は、昭和四七年度の年間利益金七一四万二七二二円に同年度の二ないし四月分の利益合計金一五〇万三五九二円を加えた金八六四万六三一四円から、営業に使用する自動車の年間償却費金一六万五〇〇〇円と置台の年間償却費金三万円との合計金一九万五〇〇〇円の一二分の三に相当する金四万八七五〇円を減じた金八五九万七五六四円であるから、右期間の休業による原告の逸失利益は金八五九万七五六四円であるというべきである。なお原告は昭和四七年六月中休業しているのであるが、これが同年限りのものであることを認めるに足る証拠はなく、原告もその損害を主張するにあたり、昭和四八年度においても右程度の休業のあることを前提にして逸失利益を算定していると解される(請求原因3(一)参照)ので、当裁判所においても同年六月分の利益はないものとして前記のとおり算定した。
二 原告本人尋問の結果によれば、原告は休業中も昭和四八年二月から五月までの間、従業員である長男および二男に各金一〇万円、二男の妻に金六万円を毎月給料として支払つたことが認められるのであるから、右本人尋問の結果によれば、原告の長男は本件事故の約三か月後から、二男は同年五月頃からそれぞれ他へ勤めに出たことが認められ、同人の妻についてもその頃までには適当な就職先を見つけることができたのではないかと思料されるところ、同女について同月頃までに他へ就職することができなかつたことを認めるに足る証拠はなく、また原告と右三名の者との身分関係や昭和四七年六月に休業した時は右従業員らに対し全く給料を支払つていないこと(前掲甲第一号証の一〇)などを考慮すると、原告が休業中右三名に支払つた給料のうち昭和四八年二月から四月までの三か月分に相当する金七八万円が、右事故と相当因果関係に立つ損害というべきである。
三 原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし二五によれば、原告は、前記露店商を営むためトウモロコシの栽培を他へ委託して、そこから計画的に仕入れる予定であつたところ、本件事故に遭遇して休業したため委託先からトウモロコシを購入することができなかつたが、このことにより委託先が受ける損害を賠償するため、別表三のとおり昭和四八年七月七日から同年一〇月八日にかけて米原美八子ほか二四名の委託先に合計金一七一万九六〇〇円を支払つたことが認められる。そして原告の右出捐は、本件事故により余儀なくされたものであるから、被告らは右出捐額のうち原告の請求する金一七〇万円を賠償する義務があるというべきである。
四 本件事故の態様、被告伊藤の過失内容、原告の入、通院期間など、これまでの認定事実を総合考慮すると、本件事故により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は金一〇〇万円が相当である。
五 被告会社が本件事故による原告の損害の賠償として金一八六万二五〇〇円を既に支払い、これを原告の損害額から控除すべきことは原告も自認するところ、前記一ないし四の合計金一二〇七万七五六四円と被告会社の既払額との差は金一〇二一万五〇六四円である。
六 原告が本訴提起のため弁護士多田紀に訴訟代理を委任したことは訴訟上明らかであり、前記認容額および本件の難易度ならびに原告が著しく高額の収入を得ながら所得申告をしていなかつたため、被告らとしては原告の請求に対し抗争せざるを得なかつたことが弁論の全趣旨により認められることを考慮すると、原告が同弁護士に支払う弁護士費用のうち金五〇万円を本件不法行為と相当因果関係に立つ損害として被告らに負担させるのが相当である。
第四過失相殺について
前掲甲第六号証によれば、被告伊藤は本件事故を惹起したことにつき益田簡易裁判所で略式命令により罰金に処せられたことが認められ、右命令書謄本(甲第六号証)には、原告車と被告車とが抜きつ抜かれつの状態で進行していた旨の記載があるが、本件訴訟において認定し得る事実は前示のとおりであつて、右事実をもつて右両車が抜きつ抜かれつの状態で進行していたとか、せり合い運転をしていたといい得るかどうかは疑問であり、右事実以外の具体的事実を認めるに足る証拠は提出されておらず、かつ前記本件事故の態様や被告伊藤の過失内容および事故発生に至る経緯等に照らすと、原告車が前記馬路隧道の東方約二〇〇メートルの地点で被告車を追越そうとしたこと自体に広田太資の過失があつたというのは相当でなく、またその追越方法につき同人および原告に過失があつたことを認めるに足る証拠もないから、被告らの過失相殺の主張は理由がない。
第五結論
よつて、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し損害金一〇七一万五〇六四円および内金一〇二一万五〇六四円(弁護士費用相当額を除くその余の損害額)に対する損害が生じた後で被告らに本件訴状が送達された後であることが記録上明らかな昭和五〇年九月二三日から、内金五〇万円(弁護士費用相当額)に対する損害が生じた後で被告らに同年一一月一〇日付請求の趣旨等変更申立書が送達された後であることが記録上明らかな同年同月一五日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度においてこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 上野茂 平弘行 楢崎康英)
別表一
<省略>
別表二
<省略>
別表三
<省略>