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鳥取家庭裁判所 平成20年(家)365号 審判 2008年10月20日

申立人

A

被相続人

B

主文

申立人に対し,被相続人の相続財産である別紙財産目録記載の財産のうち金600万円を分与する。

理由

1  申立ての要旨

申立人は,被相続人の相続財産の分与を求め,その理由として要旨次のとおり主張した。

(1)  被相続人(大正○年○月○日生)は,平成18年×月×日に死亡し,相続が開始した。

(2)  被相続人には法定の相続人が存することが明らかでなかったので,申立人の申立てにより相続財産管理人が選任され,民法957条及び同法958条の手続が行われたが,申立人が相続債権につき請求の申出をしたほかは,所定の期間内に相続債権者,受遺者又は相続人であるとして請求の申出又は権利の主張をするものはなかった。

(3)  相続債務を清算した後の被相続人の相続財産は別紙財産目録記載のとおりであるところ,申立人は,被相続人の生前,同人と特別の縁故関係があった。

2  当裁判所の判断

(1)  事実関係

本件記録及び関連事件(平成××年(家)第×××号相続財産管理人選任申立事件,同年(家)第×××号相続人捜索の公告申立事件)の各記録によれば,以下の事実が認められる。

ア  被相続人は,大正○年○月○日に父C,母Dの長男として○○市で出生し,父母の死亡後,□□市に出て働いたのち○○市に戻り,市内の○○○に勤務し,60歳で定年退職した。退職後,被相続人は,老人ホームに入所した。その際,被相続人の元同僚が身元引受人となったが,同人は平成14年ころ,事故で寝たきりとなった。

イ  申立人(昭和○年○月○日生)は,昭和30年×月×日に夫Eと結婚した。Eは,被相続人の又従兄弟(被相続人の父CとEの父Fが従兄弟)であるところ,平成14年×月×日,老人ホームの担当者から依頼され,前記の事情で新たな身元引受人が必要となった被相続人のために身元引受人となり,以来,老人ホームの行事に参加したり,時には被相続人が申立人夫婦宅を訪れてEと酒を酌み交わすなど,親交が深まった。

なお,申立人は,Eの母Gとともに,かねて,被相続人の実家のC家が△△町に残した墓の守りをC家の者に代わってしてきており,昭和62年に被相続人が両親の墓を○○市内の○×寺に移した後も,△△町に残された被相続人の祖父母の墓を守ってきた。その間,被相続人はC家の長男として,盆や彼岸に墓参りに来ており,G家にも挨拶に来て,申立人とも顔見知りとなっていた。Gは平成15年に死亡したが,申立人は,その後もC家の墓守を続けてきた。

ウ  Eは,平成18年×月×日,交通事故で死亡した。その1か月後,被相続人と老人ホームの担当者が申立人を訪ねて来て,申立人に対し被相続人の身元引受人となることを依頼し,申立人はこれを引き受けた。申立人は,身元引受人となった後,被相続人のため,再々,下着等の衣類を自費で購入して届け,その際,みやげ物を持参したこともある。

同年9月ころ,老人ホームが廃止となるとの話が持ち上がり,申立人は,身元引受人として,その説明会に3,4回参加し,また被相続人の相談に乗るなどしていたが,被相続人から後見人となることを依頼され,同年×月×日,被相続人との間で,申立人を受任者とする任意後見契約を締結した。なおまた,申立人は,被相続人から○×寺にあるC家の墓の永代供養に関する相談も受け,被相続人に同伴して○×寺に赴き,住職に永代供養の申し入れを行った。永代供養料100万円のうち50万円は同日被相続人が支払い,残金50万円は,被相続人の死亡後,相続財産から支払われた。

エ  同年×月×日朝,被相続人は,老人ホームにおいて,起床時間になっても起きてこず,自室で,喉に痰を詰まらせ死亡しているのが発見された。同日午前4時ころ死亡したものと推定されている。

申立人は,前記任意後見契約に基づき,被相続人の葬儀や○×寺への納骨を執り行い,葬儀費用等103万7212円を立替払した(立替金は,既に相続財産から弁済済み)。

オ  申立人は,被相続人のため老人ホームの退寮手続を行い,同月×日に遺品を引き取ったところ,1週間後,遺品中のノートに,「遺言書 自分死亡した後全財産を成年後見人おゆずりします A氏に 平成十八年×月×日△△町 B」と書かれた書面が挟まれており,また,ノート自体にも「遺言証書 右B A氏に自分全財産をおゆずりします 十八年×月×日」と書かれているのを発見した(以下,これらの記載を「本件メモ書き」という。)。

なお,被相続人は,前記任意後見契約に際し,公証人から,遺言書の作成についても示唆を受けていた。

カ  申立人は,被相続人の死亡後も,前記のC家の墓を守り,また,○×寺への墓参りを続けている。

キ  申立人は,被相続人に法定の相続人がいないため,当庁に相続財産管理人の選任を申し立て,H弁護士が相続財産管理人に選任され,民法957条及び同法958条の手続が行われたが,申立人が上記立替金につき請求の申し出をしたほかは,所定の期間内に相続債権者,受遺者又は相続人であるとして請求の申出又は権利の主張をするものはなかった。

ク  平成20年×月×日現在の被相続人の相続財産は,別紙財産目録記載のとおりであり,これから,相続財産管理人の報酬の支出が予定されている。

(2)  以上の事実によれば,平成14年×月以降,申立人の夫が又従兄弟の関係にある被相続人の老人ホーム入所につき身元引受人となったもので,その間申立人も妻として相応の協力をしたものと推定されるし,夫が死亡した後は,短期間ではあるが,自ら身元引受人となり,衣類を届けるなど身辺の世話をしていたものであること,さらに,被相続人の依頼により,任意後見契約を結んでおり,被相続人から厚い信頼を得ており,同人の精神的支えとなっていたことが窺われること,被相続人の死亡後は,葬儀等や退寮手続を行い,身辺整理をするなどしたこと,また,かねて,C家の墓守をしており,死亡後もその墓守を続けるとともに,納骨した○×寺への墓参りも行っていること,そして,被相続人は,申立人に相続財産を包括遺贈する旨の本件メモ書きを残しており,有効な遺言の方式を備えていないものの,相続財産を遺贈する意向を明確に表示していることなどを考慮すると,被相続人と特別の縁故があったものと認めるのが相当である。

(3)  そこで分与額につき検討すると,申立人は,一定期間被相続人の身辺監護を支援するなどし,被相続人は申立人に相続財産を包括遺贈する旨の本件メモ書きを残しているなどの事情が認められるが,他方,本件メモ書きは遺言書としての方式を備えず不完全なものであるところ,公証人から遺言書の作成につき示唆を受けたのに,かかる書面を作成するに止まった具体的な事情は明らかでないが,客観的,外形的に見て,被相続人の申立人に対する包括遺贈の意思が未だ確定的なものとなっていなかったといわざるを得ないこと,また,申立人は,被相続人の相続財産の形成,維持に寄与したものではないこと,その他前記認定説示の諸事情を総合考慮し,相続財産管理人の意見を聴いた上,申立人に対し,別紙財産目録記載の財産のうち600万円を分与するのを相当と認めて,主文のとおり審判する。

(家事審判官 田中澄夫)

(別紙)

財産目録

預金

株式会社□△銀行○○支店の「B相続財産管理人H」名義の普通預金口座〔口座番号××××××××〕の残高2520万0874円のうち金2516万3961円

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