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鳥取簡易裁判所 平成18年(ハ)865号 判決 2007年3月27日

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原告

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同訴訟代理人弁護士

勝浦敦嗣

東京都品川区東品川二丁目3番14号

被告

CFJ株式会社

同代表者代表取締役

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主文

1  被告は,原告に対し,金93万5318円及び内金93万5077円に対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金93万5670円及び内金93万5378円に対する平成13年4月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  請求原因の要旨

原告と被告間で,平成7年10月23日,金銭消費貸借取引契約を締結し,原告は被告から金13万円を借入れ取引継続してきたが(以下「本件取引」という。),返済につき利息制限法の制限利率超過利息を支払ったため,過払元金93万5378円が生じたとし,被告に対し,不当利得返還及び悪意の受益者であることを理由として年6分の利息の支払を求める。

2  争いのない事実

(1)  原告は一般市民であり,被告は貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条の登録を受け,同2条の貸金業を営むものである。

(2)  別紙計算書記載の取引年月日,同日付借入金額及び弁済額(甲1,乙1)

3  争点

(1)  本件取引における被告の貸金債権の放棄と相殺の意思表示の有効性

(原告主張)

被告は,本件取引が,①平成7年10月23日~同13年4月12日間の取引(以下「A取引」という。乙1)と②平成14年11月1日~同18年10月13日間の取引(以下「B取引」という。乙2)に568日間の取引がなく,両取引は別個取引であるとし,A取引の過払金93万3604円を受働債権とし,B取引の貸付金111万6437円を自働債権として対当額の相殺を主張し(乙1,2),貸付金18万2833円が存在するから,原告の本訴請求は理由がないと主張する。そこで,原告は,両取引が別個取引であるとの被告主張を援用し,A取引の過払金の返還請求する。被告は,上記のとおり相殺を主張するが,遅くとも平成18年11月16日までに,原告に対する債権を放棄しているから(甲2,3),既に放棄した債権を自働債権とする相殺を認める余地はなく,被告の相殺の主張は無効である。

(被告主張)

原告は,被告がB取引の貸付金を一方的に放棄したとし,A取引の過払金の返還請求を主張するが不当である(甲2,3)。確かに「債務免除」という文言のみ取り上げれば,そのように理解しうる。しかし,原告に都合のよい杓子定規な解釈である。被告の提案は,本件取引が利息制限法の金利ではなく出資法の金利で行われ,提案時,原告に対し,金139万9415円の貸金債権があり(甲1),「お客様の債務整理の簡素化及び早急な救済」と「被告の経理上の便宜(本件取引を利息制限法の金利で計算し直す煩を避けるため)」の観点から(甲2),出資法の金利に基づく当該債権の放棄を提案したのである。そして,この提案に原告が同意できる場合は,原告が利息制限法の金利に基づく過払金返還請求権を放棄するのと引き替えに,被告も同法の金利に基づく貸金返還請求権を放棄(債務免除)し,訴訟物に関する請求を互譲する行為の和解を提案したのである。仮に,原告主張のように,被告が一方的に利息制限法の金利に基づく貸金返還請求権を放棄(前同)していた場合,被告は営利を追求する企業であるから,もし,このような法律効果が生じることを知っていたなら,債務免除の意思表示をしなかったであろうし,一般人もしないのが通常であるから,法律行為の要素に錯誤が存在する(民法95条)。したがって,被告の債務免除の意思表示は無効であり,B取引の貸金返還請求権を自働債権とする被告の相殺の意思表示は有効である。

(2)  悪意の受益者

(原告主張)

本件取引に関し,法43条みなし弁済(以下「みなし弁済」という。)が成立した旨を根拠付ける証拠はない。被告は,無担保小口の消費者金融を主要業務内容とする貸金業者であり,利息制限法超過の高利貸付をしていることを知りながら,原告から返済を受けていたのであるから,悪意の受益者であることは明らかである。

(被告主張)

被告は,本件取引に関し,みなし弁済成立の余地が十分があり,その認識で当初から現在まで取引してきたのであるから,悪意の受益者には該当しない。原告は,被告がみなし弁済不成立を知っていたことを主張立証しない限り,被告は悪意の受益者を認めることはできない。

(3)  適用利率

(原告主張)

被告は悪意の受益者であるから,適用利率は民法704条の利息の解釈として商事法定利率年6分(商法514条)が相当である。

(被告主張)

適用利率は民事法定利率年5分(民法404条)が相当である。

第3当裁判所の判断

1  争点(1) 本件取引における被告の貸金債権の放棄と相殺の意思表示の有効性

当事者主張は前記(第2の3(1))のとおりであるが,結局のところ,甲2号証及び同3号証記載の債権放棄(全額債務免除)の被告意思の解釈に帰結する。被告は,自負のとおり営利目的の専門的貸金業者であり(法2,3条),利息制限法,貸金業法及び出資法等の金融関係法規に精通するものと評され,一方の原告は,被告自認のとおり一般市民であり,通常は金融関係法規の理解に乏しい零細な資金需要者と解されるから,その解釈は自ずと認識差が生ずるのは当然であるが,いずれの観点からも,債権放棄(前同)の端的な被告意思を認めるのが相当である。その理由であるが,被告意思の内容である意図ないし思惑は,利息制限法の金利で引き直し計算したA取引の過払金とB取引の貸付金を対当額で相殺すると貸付金が残ると一方的に断定し,「原告の債務整理の簡素化及び早急な救済」と「被告の経理上の便宜(本件取引を利息制限法の金利で計算し直す煩を避けるため)」を理由に債権放棄(前同)を主張するが(甲2,3),本件取引から派生が考えられる過払金の返還請求の放棄を原告に要請し,当事者相互間に債権債務不存在の安直な処理を促すことにあるものと解するのが相当である。しかし,本件取引がA取引とB取引の別個取引か否か自体に争いがあり,一連一体取引であれば過払金の存在の可能性があるのであるから,原告は,一方的な上記理由付けによる被告主張や意図ないし思惑に拘束される必要性はなく,被告に対し,被告の債権放棄(前同)を理由に過払金返還の拡張請求に及ぶのは正当である。要は,被告の意図ないし思惑がはずれたに過ぎず,その帰責を原告に求めるいわれはない。したがって,被告の債権放棄(前同)の意思表示は有効であるから,錯誤無効の主張は失当であり,また,相殺の同主張も理由がない。

2  争点(2) 悪意の受益者

民法704条の悪意の受益者とは,不当利得者がその利得につき法律上の原因の不存在を基礎付ける事実を認識している場合は当然に,法令の存在を知らなかったり,誤った法解釈に基づき又は重大な過失により法律上の原因があるものと認識した場合も同様に,悪意の受益者と解される。被告主張は,本件取引に関し,みなし弁済の適用を認識していたようであるが,その具体的主張及び立証を行わないのであるから,結果的にみなし弁済の適用がないことになる。そうすると被告は,法解釈を誤ったか又は重大な過失があったものと評され,過払金発生時から法律上の原因がない不当利得金として,返還しなければならないことを知っていた悪意の受益者と解するのが相当である。

3  争点(3) 適用利率

適用利率は民事法定利率年5分(民法404条)が相当である(平成19年2月13日最高裁判決)。

4  結語

以上のとおり判断するのが相当である。よって,原告の本訴請求は,別紙計算書記載の残元金(過払元金),過払利息残額及び残元金(前同)に対する平成13年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の請求の限度で理由があるから,これを認容し,主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤洋一)

<以下省略>

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