鶴岡簡易裁判所 事件番号不詳 判決
原告
齊藤正
外十三名
被告
合資会社齊藤工業所
主文
被告は原告齊藤正に対し金参千百六十二円六十銭を、同佐々木三郎に対し金弐千七百弐拾四円参拾銭を、同高梨廣志に対し金参千百拾七円を、同大森孝太郎に対し金参千弐拾六円を、同川俣長次郎に対し金弐千九百四拾五円四拾銭を同阿部奨に対し金参千百五拾円五拾銭を、同阿良梅次郎に対し金弐千六拾円を、同和島良蔵に対し金弐千九百五拾参円八拾銭を、同渡部源蔵に対し金弐千五百八拾四円六拾銭を、同佐藤新作に対し金弐千九百参拾壱円四拾銭を、同市村辰雄に対し金弐千八百拾七円参拾銭を、同高橋儀一に対し金参千百五拾七円八拾銭を、同小鷹俊一に対し金参千参百拾参円六拾銭を、同高橋武雄に対し金弐千七百四拾円弐拾銭を、各支払うべし。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は仮りに執行することができる。
請求の趣旨
原告等は主文第一、二項と同旨の判決並仮執行の宣言を求める。
事実
原告等は被告が請負工事中の県営北楯大堰用水改良工業に人夫として雇傭期間の定めなく賃金は一日金百弐拾円宛で、原告齊藤正は昭和二十三年一月二十五日から、同佐々木三郎は同年一月十八日から同高梨廣志は同年、一月十日から同大森孝太郎は同年一月二十六日から同阿部奨は同年一月十九日から同阿良栴次郎は同年一月十二日から同和島良蔵は同年一月十四日から同渡部源蔵は、同年一年十四日から同佐藤新作は同年一月二十二日から同市村辰雄は同年一月二十三日から同高橋儀一は同年二月四日から同小鷹俊一は同年一月四日から同高橋武雄は同年一月二十五日から夫々日々雇入れの下に雇傭されたものであるが、原告等はいづれも同年三月三十一日何等の予告なしに被告から解雇されたものである、然るに原告等はいづれも日々雇い入れられた者で、且一箇月を超えて引続き使用されたのであるから其雇傭期間内に支払われた賃金に対する平均賃金三十日分、即ち原告齊藤正は実働日数五十八日で支払われた賃金総額は金六千九百六拾円、これに対する三十日分の平均賃金参千百拾六円四拾銭、同佐々木三郎は実働日数五十六日で支払われた賃金総額は金六千七百弐拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千七百弐拾四円参拾銭、同高梨廣志は実働日数七十一日で支払われた賃金総額は金八千五百弐拾円、これに対する三十日分の平均賃金参千百拾七円、同大森孝太郎は実働日数五十八日で支払われた賃金総額金六千九百六拾円、これに対する三十日分の平均賃金参千弐拾六円、同川俣長次郎は実働日数五十四日で支払われた賃金総額金六千四百八拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千九百四拾五円四拾銭、同阿部奨は実働日数六十二日支払われた賃金総額金七千四百四拾円、これに対する三十日分の平均賃金参千五拾七円五拾銭、同阿良栴太郎は実働日数四十八日支払われた賃金総額金五千七百六拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千百六拾円、同昭島良蔵は実働日数六十四日支払われた賃金総額金七千六百八拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千九百五拾参円八拾銭、同渡部源蔵は実働日数五十六日支払われた賃金総額金六千七百弐拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千五百八拾四円六拾銭、同佐藤新作は実働日数五十七日支払われた賃金総額金六千八百四拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千九百参拾壱円四拾銭、同市村辰雄は実働日数五十四日支払われた賃金総額六千四百八拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千八百拾七円参拾銭同高橋儀一は実働日数五十日支払われた平均賃金総額金六千円、これに対する三十日分の平均賃金参千百五拾七円八拾銭、同小鷹俊一は実働日数八十一日支払われた賃金総額金九千七百弐拾円、これに対する三十日分の平均賃金参千参百拾参円六拾銭、同高橋武雄は実働日数五十一日支払われた賃金総額金六千百弐拾円、これに対する三十日分の平均賃金弐千七百四拾円弐拾銭の支払いを求めるため本訴に及んだと述べ、被告の抗弁事実を否認し、仮りに被告主張の如く即時解雇がやむを得ない事由のため事業継続が不可能になつたことを原因とし、或は原告等の責に帰すべき事由に基く場合であつたとしても被告は其解雇にあたり所轄労働基準監督署長の認定を受けないのであるから即時解雇は失当であると述べた。(立証省略)
被告代理人は原告等の請求棄却の判決を求め、答弁として原告等の主張事実中雇傭期間の定めがなかつた点は否認するも其余の主張事実は全部これを認めると述べ、抗弁として、
第一、本件工事は季節的業務であり原告等はこの業務につき工事完成又は中止までの不確定期間使用されたものであるから解雇するに当り三十日前に予告を要しなかつたのである。即本件工事は受益田に灌漑水を送るための用水堰工事で、用水を誘水するための立谷沢川本流を堰止めて行う工事であるから融雪期となり増水すれば浸透水量が多くなりこれがため工事の施行が困難になること、及び人夫は概ね受益地区の農夫であることから其農閑期でなければ工事の施行ができない関係等から大体毎年十一月上旬から翌年三月下旬の期間継続施行され、余の時期は当然中止されるところの季節的業務である。そして原告等は昭和二十三年一月頃から昭和二十二年度施行部分である排砂門工事が完成、又は中止されるまでの不確定期間使用されたものである。従つて解雇するについては三十日前に予告することを要しなかつたものである。
第二、本件は労働基準法第二十条第一項但書に定めるやむを得ない事由のため事業の継続が不可能となつた場合である。即昭和二十三年三月下旬頃から融雪による増水のため工事の施行が困難となり、其の継続が不可能となつたので同工事々務所長竹越政治の勧告によつて同月三十一日限り残工事の大部分を中止し、これがため原告等を解雇したのであるから、解雇するにあたつて三十日前に予告をすることを要しなかつたものである。
第三、被告は前示法条に定める労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇したものである。即原告等は昭和二十三年二月中工事現場に被告が設置した休憩小屋内に於て其屋根藁をむしり取つて焚付に用いて焚火をなし、残火の始末をしない儘作業に出たため右屋根藁を取つた個所に出来た大穴から風が吹込みそれがため火が煽られ其小屋と共に其場に置いてあつた原告等の持物全部を消失したところ原告等は右失火が原告等の過失に基くにもかかわらず毎日の様に団体交渉によつて持物焼失による損害の賠償を被告に迫り仕事を怠り、これがため工事の作業能率を著しく低下させるに至つたので、被告は甚だ困惑していた矢先前述の様に工事中止の止むなきに至つたので解雇するに至つたもので、右解雇は原告等の責に帰すべき事由に基くものであるから解雇は原告等の責に帰すべき事由に基くものであるから解雇するにあたつて三十日前に予告することを要しなかつたものである。
第四、被告は原告等を解雇するにあたり他に就職を斡旋したが、原告等は理由なくこれを拒否し自ら其の利益を抛棄したものであるし、又原告等の斯る行為は信義誠実の原則に反するから原告等は労働基準法第二十条第一項本文の適用を受くべきでなく、従つて被告に於ては賃金支払の義務がない。即被告は原告等を解雇するにあたつて其翌日から本件工事場附近で他の工事の請負人である大林組に対し被告との雇傭契約と同等の条件で原告等を雇傭して貰うことにし、原告等に其の就職方を勧めたところ原告等は理由なくこれを拒絶したのである。従つて被告としては原告等が解雇のため収入減に陥いる結果を充分阻止しうる措置を講じてやつたのに原告等は其の利益を自ら放棄したのであり、又原告等の斯る行為は信義誠実の原則に反するものであるから被告は原告等に対する賃料支払の義務はない。従つて原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)
理由
原告等が被告の請負にに係る県営北楯大堰用水改良工事に労働者として原告等主張の日時に日給百二十円で日々雇入られ、一ケ月を越えて使用せられたこと、昭和二十三年三月三十一日何等の予告なしに解雇せられたこと原告等の実働日数及其期間に支払われた賃金総額並これに対する三十日間の平均賃金については当事者間に争のない事実である。
よつて雇傭期間の定めがあつたか否かの点並に被告の抗弁事実について考へてみる。
第一の抗弁事実について考へてみると、証人菊池勇一、齊藤伊之助、竹越政治の証言を綜合すれば、本件工事は灌漑用水取入のための工事であり従つて農耕のたゆ灌漑用水を必要とする四月上旬頃から十月頃迄の時期には工事を施行することができず、又其の年の融雪増水程度によつては三月未頃には出水により支障をきたすところの基礎工事等の大部分の工事はこれを施行することができないことが認められる。従つて本件工事は右期間内に施行せられるところの季節的業務であることが認められる。しかしながら季節的業務であるにせよ労働基準法第二十一条によつて同法第二十条の適用が排除せられる場合は単にそれが季節的業務であることのみを以て足りるのではなく、其期間内に四ケ月以内の期間を定めて雇傭された場合であることを要するのである。それでは本件においては斯る雇傭期間の定めがあつたかというに、被告は排砂門工事が完成又は中止される迄の不確定期間使用したものであると主張するが、これに対する何等の立証なく却つて証人齊藤伊之助、原告本人佐藤新作、大森孝太郎、渡部源蔵の各証言を綜合すると原告等が雇傭されるにあたつては何等期間については定めがなく。日々雇入られたものであり其の後三月下旬四月の農繁期になつても継続使用せられることの話合があつたことが認められる。従つて被告の本件の即時解雇措置は失当であつてこの点に関する被告の抗弁は採用し難い。
第二の抗弁事実について考へてみると、証人大塚八朗、竹越政治、原告本人佐藤新作の証言を綜合すると、昭和二十三年三月三十一日頃には相当の増水はあつたがこれがため残工事の大部分が継続不可能となつた事実は認め難い。(証人大塚八朗、竹越政治は増水は工事中止第二次的な原因と述べている)又他の証人の証言を綜合してもこれを覆すに足りない、仮りに右三月三十一日頃には増水のため大部分の工事の継続が不可能の状態にあつたとしても被告は毎年三月下旬には増水期となり工事の継続が不可能となるので、本件工事はそれ迄の期間中に行われるところの季節的業務であると主張しているし、又証人齊藤伊之助の証言によれば同人は三月三十一日頃になれば融雪の増水で工事の継続が困難になることの状態を予測していたことが認められる。即被告は三月下旬頃になれば増水のため工事の継続が不可能になることを予測していたものといわなければならない。労働基準法第二十条但書のやむを得ない事由とは不慮の事故発生によつて予告なしに解雇することが止むを得ない場合を云うのであつて、本件の如く使用者に於て斯る事故の発生を予測し得る状態にあつた場合は本条の止むを得ない事由に該当しないものと解すべきである。更らに又、斯る場合に該当するとしても斯る事由に基いて労働者を即時解雇するには、同法第二十条第三項同第十九条第二項同施行規則第七条によつて所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならないのであつて、其の認定が解雇の効力発生要件と解すべきである。然るに証人齊藤伊之助、大久保敏雄の証言によれば被告は原告等を解雇するに当つて斯る認定を受けなかつたことが認められる。従つていづれにしても本件解雇措置は失当であるから被告の抗弁は採用し難い。
第三抗弁事実について考へてみると、証人丸藤遠助の証言によるも小局の焼失が原告等の過失によることを認めるに足りないし、火災後原告等は被告に対し団体交渉による損害賠賞の請求をしたがこれがため工事の作業能率を著しく低下させた事実は認められないから労働者の責に帰すべき事由の存在は認められない。仮りに原告等の責に帰すべき事由に該るとしても、前述の如く所轄労働基準監督署長の認定を受けなければ即時解雇ができないのであつて、本件においては前示証人齊藤伊之助、大久保敏雄の証によるも斯る認定を受けた事学を認めることができない、従つて本件即時解雇措置は失当であるから被告の抗弁は採用し難い。
第四抗弁事実について考へてみると、証人安藤遠助、石野建夫、原告本人佐藤新作、大森孝太郎の各証言を綜合して考へてみるに、当時被告が原告等を大林組に斡旋しようとしたが当時大林組においては資金難のため人夫賃の不払があり、人夫の出面も悪く評判が悪かつたことから原告等は右斡旋を拒否したことが認められる。しかしながら賃金収入によつてのみ生活する労働者にあつては賃金不払状態にある新雇主の下に就職することを拒否することは無理ならぬことであつて、斯る拒否を以て理由なくして拒否したことは認め難く、又信義則に反するものと認めることはできない。勿論利益の抛棄ともみるべきではない、従つて被告の賃金支払義務が免責せらるべきではないから本抗弁も又採用し難い。
以上の如く被告の抗弁はいづれも採用し難く、従つて被告が原告等を何等の予告なしに解雇したことは失当であるから被告は原告等に対し三十日分の平均賃金支払の義務があるものといわなければならない。よつて原告等の本訴請求は全部正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を仮執行の宣言については同法第百九十六条を適用し主文の通り判決する。