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鹿児島地方裁判所 平成10年(行ウ)3号 判決 1999年6月14日

原告 野口修二

被告 鹿児島県知事

代理人 星野敏 飯塚浩昭 下田隆夫 崎山英二 唐仁原暢 松崎米一 ほか八名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

原告の平成一〇年一月二三日付け山川病院の保険医療機関指定申請に対して被告が同年三月三〇日付けでなした拒否処分を取り消す。

第二事実経過(争いのない事実)

一  当事者

1  原告は、鹿児島県揖宿郡山川町小川一五七一番地に所在する山川病院(以下「本件病院」という。)の開設者である。

2  被告は、地方自治法一四八条二項、別表第三、一(五一)<略>に基づき、健康保険法及びこれに基づく政令の定めるところにより、保険医療機関の指定の事務を行う行政庁である。

二  本件処分に至る経緯

1  原告は、鹿児島県揖宿郡山川町小川一五七一番地に山川クリニックを開設していたが、同地において病院の開設を企図し、平成九年九月四日、被告に対し、医療法七条一項により、診療科目を内科、外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科とする五〇室一〇四床の本件病院の開設許可申請をした(<証拠略>)。

2  本件勧告

被告は、平成九年一二月一日付けで右病院開設については、「当該病院の開設を計画している指宿保健医療圏は病床過剰地域であって、特に同病院開設の必要を認めない。」との理由を付して、医療法三〇条の七の規定により、「病院開設を中止すること」という勧告(以下「本件勧告」という。)をした(<証拠略>)。

3  原告は、同年一二月三日、本件勧告に従えない旨被告に通知した(<証拠略>)。

4  被告は、同年一二月二五日、医療法七条三項により、本件病院の開設許可をした(<証拠略>)。

5  原告は、平成一〇年一月一二日被告に対し、医療法二七条により、病院の使用許可申請をし(<証拠略>)、被告は同月二二日付けでこれを許可した(<証拠略>)。

6  原告は、同年一月二三日、健康保険法四三条ノ三第一項(なお健康保険法の条文に関しては、特に注記のない限り本件処分時の条文による。)により、被告に対し、本件病院の保険医療機関指定申請をした(<証拠略>)。

7  被告は、同年一月二七日、健康保険法四三条の一五により、原告に対し、弁明の機会を設定する旨の弁明通知書(<証拠略>)を発し、同年二月一二日、弁明の期日が開かれた。

8  被告は、同年二月二三日、鹿児島県地方社会保険医療協議会に対し、本件病院の保険医療機関の指定拒否について諮問した(<証拠略>)。

9  鹿児島県地方社会保険医療協議会は、同年三月二〇日、被告に対し、本件病院の保険医療機関の指定拒否について諮問のとおり議決した旨答申した(<証拠略>)。

三  本件処分

被告は、平成一〇年三月三〇日、健康保険法四三条ノ三第二項により、原告の被告に対する前記二6の保険医療機関指定申請に対する拒否処分(以下「本件処分」という。)をし(<証拠略>)、右処分の通知は、同年四月二日、原告に到達した。

第三本件処分の適法性(被告の主張)

一  健康保険法四三条ノ三第二項該当事由の存在

本件病院は、本件勧告に反して開設されたものであって、健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当する。

二  健康保険法四三条ノ三第二項「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈の合理性

1  健康保険法四三条ノ三第二項の解釈基準として、国(厚生省)は、厚生省保険局長通知(「医療計画公示後における病院開設等の取扱いについて」昭和六二年九月二一日付 保発六九号 各都道府県知事宛厚生省保険局長通知。以下「六二年通知」という。<証拠略>)において、地域医療計画に定める必要病床数を超える場合であって、医療法三〇条の七の勧告に従わないで病院の開設をし、保険医療機関の指定申請をしたものは、健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するとの解釈基準を定めている。

さらに、健康保険法四三条ノ四第一項の委任に基づく保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「療養担当規則」という。)一一条三項においては、「病院である保険医療機関は、病床数の増加又は病床の種別の変更に関して、医療法三〇条の七の規定による都道府県知事の勧告を受けたときは、当該勧告の内容に沿って、患者を入院させなければならない。」と規定しており、この規定は、「既に保険医療機関の指定を受けている病院にあっても、医療法三〇条の七の勧告に従わずに増床が行われた場合は、(地域医療計画に定める必要病床数を超える病床については契約の対象としないという)基本的な考え方に基づき、当該増床部分は保険給付の対象としない」(六二年通知の1(3))という趣旨であり、療養担当規則に違反した場合は、健康保険法四三条ノ一二第二号により、都道府県知事は保険医療機関の指定を取り消すことができるのであって、かかる趣旨に照らしても、都道府県知事の勧告を拒否して新たに病院の開設を行う場合についても健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当」な場合に該当するものと解釈される。

2  健康保険法は、保険者が被保険者のために保険給付をすることを目的とし(一条)、健康保険制度のあり方として、医療保険の運営の効率化及び医療費の適正化を図り実施すべきことを定めている(一条の二)。

同法四三条ノ三第一項の定める指定の法的性質については、一般に国の機関としての都道府県知事が被保険者のために保険者に代わって医療機関との間で締結する公法上の双務的付従的契約であると解されるところ、この契約については、健康保険法四三条ノ三第二項に規定されている要件に該当する場合には締結を拒むことができる。そして、同項に規定されている保険医療機関の指定を拒否できる場合とは、いずれも医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から、契約を締結する保険医療機関として著しく不適当と認められる場合であるから、同項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の要件に該当するかどうかは、同様に、医療保険の運営の効率化及び医療費の適正化を図る観点から契約を締結する保険医療機関として著しく不適当と認められるかどうかにより判断されるべきである。

3  都道府県知事は、医療資源を効率的に活用する観点から、必要病床数等を定めた医療計画を作成し(医療法三〇条の三)、既存病床数が必要病床数を超える地域(病院の開設等によって超えることとなる地域を含む。)においては、医療計画の達成を推進するため、当該地域における病院の開設等の計画内容の変更又は中止を勧告することができる(同法三〇条の七)。

そして、医療の分野においては、供給が需要を生むことが指摘されており、実際に人口当たり病床数と一人当たり入院医療費との間には強い相関関係が認められている(<証拠略>)ところ、都道府県知事が開設中止等の勧告を行った医療機関を新たに保険医療機関として指定すると、不必要又は過剰であると認められた病床によって本来必要とは言い難い過剰な医療費が発生することになる。したがって、勧告に反して開設又は増床された医療機関は、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から契約を締結する保険医療機関として著しく不適当と判断されるべきものであり、六二年通知による健康保険法四三条ノ三第二項の解釈は、同項の解釈として合理的な裁量の範囲に含まれる。

第四原告の主張(本件処分の違法性)

一  行政手続法三二条二項違反

医療法三〇条の七の規定による都道府県知事の中止勧告(本件勧告)の法的性質は行政指導であるところ、被告は、原告がこの中止勧告に従わなかったことを理由に、本件処分を行って原告に対し不利益な取扱いをしたものであり、行政手続法三二条二項に違反する。

二  裁量権の逸脱又は濫用

1  健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の要件該当性の判断については判断の余地、裁量権があるとしても、同項が確定要件をもって指定拒否の要件としているものは、「保険医療機関ノ指定ヲ取消サレ二年ヲ経過セザルモノナルトキ」、「保険給付ニ関シ診療ノ内容ノ適切ヲ欠ク虞アリトシテ重テ第四十三条ノ七第一項ノ規定ニ依ル指導ヲ受ケタモノナルトキ」の二つであり、これらはいずれも非違行為であり、これらの確定要件と「其ノ他」として並列され、同じ評価に値する「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の要件について、非拘束的計画である医療計画で定めた病床規制の実効性を担保するために行われる単なる行政指導に過ぎない医療法三〇条の七の知事の勧告(本件勧告)に従わない場合を含むとするのは裁量権の逸脱又は濫用に当たる。

国民健康保険法等の一部改正法(平成一〇年法律第一〇九号)により、医療法による勧告に従わない場合に保険医療機関の病床の指定拒否ができることが健康保険法四三条ノ三第四項に新たに法定されたが、同条三項(従前の同条二項)の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈基準について定めた通知(平成一〇年七月二七日付都道府県知事宛厚生省老人保険福祉局長・同省保険局長通知第一4)に規定された右要件の例示と対比しても、被告の右解釈が同要件の解釈の裁量権を逸脱濫用していたことがわかる。

2  厚生省は、六二年通知によって、医療法三〇条の七の勧告に従わないで病院の開設をし、保険医療機関の指定申請をしたものは、健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するとの解釈基準を定めたのであるから、六二年通知以後に改正された健康保険法一条の二(平成九年法律第九四号により全部改正)の規定を右解釈の根拠とすることはできない。また、健康保険法一条の二は、健康保険制度の運用の方針を定めたものであり、同法の目的規定ではないから、同法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈指針にはならない。

3  療養担当規則一一条三項は、保険医療機関の指定を受けた病院等の責務を規定した訓示規定であり、保険医療機関の指定を受ける際の規定ではないから、本件処分の適法性の根拠たりえない。同項は、医療法三〇条の七の規定による勧告が行政指導であることを前提として行政指導の内容に沿って患者を入院させるよう訓示した規定であり、病床数の増加又は病床の種別の変更に関して右勧告を受けたとしても保険医療機関として指定されることを前提としており、同項の趣旨についての六二年通知の1(3)の解釈自体が誤りである。

4  仮に保険医療機関の指定の性質を契約と解するとしても、本件処分の適法性を根拠づける論理的関連性はない。

三  処分の理由提示(行政手続法八条)違反

1  被告は、本件病院が健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するとして本件処分を行っているが、同項の右規定はその意味内容が一義的に明白でない不確定概念であるから、合理的な裁量権を用いてこの内容を確定した上、本件処分に当たっては、本件病院について、その要件に該当する判断の根拠となる具体的な理由を示さなければならない。

しかし、被告は本件処分に当たって、本件病院が右要件に該当すると判断した理由を具体的に明示していないから、行政手続法八条に違反する。

2  なお、被告は本件処分の理由として、六二年通知及び療養担当規則一一条三項の規定の趣旨を示しているが、六二年通知は、単なる指導通達であり、医療法三〇条の七の勧告に従わないで病院の開設をし、保険医療機関の指定申請をしたものが、なぜ健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当すると判断されるべきなのかについての具体的な説明もなく、また、療養担当規則一一条三項の規定は訓示規定にすぎないから、六二年通知及び同規則によって、本件処分の理由を示したことにはならない。

四  地方社会保険医療協議会の答申手続の瑕疵

1  健康保険法四三条ノ三第三項は、都道府県知事が保険医療機関の指定を拒否するには、地方社会保険医療協議会の「議ニ依ルコトヲ要ス」と規定している

参与機関の議決を必要とする行政処分が参与機関の議決の答申を経てなされた場合において、当該参与機関の審理、議決、答申の過程に重大な法規違反があることなどにより、その答申自体に法が右参与機関に対する議決を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、右行政処分は違法となる(最高裁昭和五〇年五月二九日第一小法廷判決・民集二九巻五号六六二頁参照)ところ、処分内容について参与機関で十分な審議がなされないことも、当該行政処分の違法事由となると解するべきである。

健康保険法四三条ノ三第三項が、保険医療機関の指定拒否処分に当たって地方社会保険医療協議会の議に依ることとした趣旨は、保険医療機関の指定拒否処分が、当該指定申請者のみならず、当該病院を利用する患者の利益に重大な影響を及ぼすことから、地域の実情ことに住民の要望及び申請者の病院の診療科目等あらゆることを斟酌し、保険医療機関の指定をすることによる公益に対する影響と指定拒否をすることによる地域社会に及ぼす影響の全てを考慮して処分がなされることを期待している。また、地方社会保険医療協議会が、指定拒否の要件が認定できても、なお、当該医療機関の置かれている場所、周辺人口、周辺の医療機関診療科目等諸般の事情を考慮して医療機関の指定をする法効果裁量を働かせることをも期待している。

2  しかしながら、被告は、本件処分をなすにあたって、鹿児島県地方社会保険医療協議会に対して諮問手続を行ったに過ぎず、本件処分は地方社会保険医療協議会の議決によっていないから、同項に違反する手続上の違法がある。

3  被告は、本件処分を行おうとするときは、地方社会保険医療協議会に付議すべき知事の諮問書に具体的に知事が弁明により把握した事実とその証拠、拒否処分を正当とする具体的事実関係を提示し、これについて地方社会保険医療協議会の委員が参与機関の設置の趣旨にふさわしい審議をして意見を形成し、その上で付議に係る保険医療機関の指定拒否を支持するのか否かの議決をして答申しなければならない。

しかしながら、鹿児島県地方社会保険医療協議会の審議においては、同協議会の委員である鹿児島県医師会長鮫島耕一郎が、原告の経営する診療所について誤った認識を持ち、これを同協議会において主張することにより、保険医療機関の指定拒否を正当とする結論を誘導し、また既存医療機関の権益のみを考慮して審議会をまとめ、本来考慮してはならない点を考慮した点で、いずれも瑕疵があるから、この答申は違法である。また、被告及び鹿児島県社会保険医療協議会は、前述の効果裁量を働かせることを考慮していない点においても瑕疵がある。

第五被告の反論

一  行政手続法三二条二項違反について

本件処分は、健康保険法四三条ノ三第二項に基づいて行ったものであり、単に行政指導に従わなかったことを理由として行ったものではないから、行政手続法三二条二項に抵触することはない。

二  行政手続法八条違反について

行政処分の理由付記の程度については、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して拒否されたのかを、申請者が、その記載自体から了知しうるものでなければならないと解されているところ、本件処分の理由付記は必要にして充分である。

三  地方社会保険医療協議会の答申手続の瑕疵について

1  健康保険法において、都道府県知事は、保険医療機関の指定について、地方社会保険医療協議会に「諮問」することと規定されており(同法四三条の一四第二項)、社会保険医療協議会法一条二項は、地方社会保険医療協議会は、保険医療機関の指定について、都道府県知事の諮問に応じて審議し、及び文書をもって「答申する」と規定し、健康保険法四三条ノ三第三項に係る議決について個別の規定を設けず、全ての諮問に対して答申するという形式を採っているから、同項の保険医療機関の指定拒否処分についても、手続としては、地方社会保険医療協議会に対して諮問し、その答申を得ることになる。

そして、鹿児島県地方社会保険医療協議会は、鹿児島県知事の平成一〇年二月二三日付け保第二三五九号による「山川病院の保険医療機関の指定申請については、健康保険法第四三条ノ三第二項の規定に基づき指定拒否したいから、同法第四三条ノ三第三項による意見を求めます。」との諮問(<証拠略>)に対し、同年三月二〇日に「諮問どおり議決しましたので答申します。」(<証拠略>)との結論を出し、被告は鹿児島県地方社会保険医療協議会の右結論と全く同じ内容の本件処分を行ったものであり、答申手続上の違法はない。

2  鹿児島県地方社会保険医療協議会における審議の内容は本件処分の違法性に関係がない。

第六当裁判所の判断

一  健康保険法第四三条ノ三第二項に規定する「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈について

1  健康保険法第四三条ノ三第二項による指定拒否の法的性格

(一) 健康保険法第四三条ノ三第二項は、都道府県知事は、保険医療機関の指定申請があった場合において、当該病院又は診療所(以下病院と診療所を併せて「病院等」ということがある。)が、同項に定める要件に該当する場合には、その指定を拒否できる旨規定している。

この指定拒否の法的性質について、原告は、病院等の開設者の保険医療機関の指定を受ける権利ないし法的地位の侵害としての行政処分であると主張し、これに対し、被告は、指定拒否が行政処分性を有するのは、健康保険法が病院等の開設者に付与した申請権に基づくからに過ぎず、病院等の開設者には保険医療機関の指定を受ける権利ないし法的地位はないと主張している。

(二) そこで、健康保険法の各規定を通覧するに、同法四三条ノ三第一項に基づき都道府県知事が行う保険医療機関の指定は、これによって、保険医療機関が被保険者に療養の給付を行う債務を負担し(同法四三条ノ四)、保険者が右保険医療機関に対して診療報酬を支払う債務を負担する(同法四三条ノ九)こととされており、保険者と保険医療機関の関係は、右条項に従う限り、療養の給付の委託を目的として、国の機関としての知事が、被保険者のために保険者に代わって保険医療機関との間に締結する公法上の双務的付従的契約とみるのが相当である(同法四三条ノ九第三項等参照)。

このように、病院等の開設者は、自らの申請に基づき保険医療機関としての指定を受けると、保険者との間に公法上の双務的付従的契約を成立させ、かつ、療養等の給付を行うことによって診療報酬債権を取得することのできる地位に立つことになるのであるから、病院等の開設者が保険医療機関の指定を拒否される(同法四三条ノ三第二項)と、右の契約上の地位をことごとく否定される結果となることが予想される。

したがって、保険医療機関の指定を申請しようとする病院等の開設者の地位は、右指定があれば前記契約上の地位を獲得し得るものとして、健康保険法上、それだけで重大な法的利益を有するとみるのが相当であり、さらに、このことは、健康保険法が、都道府県知事は保険医療機関の指定を拒否するには地方社会保険医療協議会の議に依らなければならず(同条三項)、かつ開設者に弁明の機会を付与しなければならない(四三条ノ一五)とする指定申請者の地位につき慎重な配慮をしていることからも窺知することができる。

以上の健康保険法の規定の趣旨からすると、同法は、指定申請をした病院等の開設者には、保険医療機関の指定を受ける法律上の権利ないし法的利益があるとしているものと解することができる。これは、もとより健康保険制度を前提として初めて認められる権利ないし法的利益であることはいうまでもないが、病院等の開設者には保険医療機関の指定を申請する手続的権利しかないと解することは、同法四三条ノ三第二項が指定拒否事由を法定した同項の改正経過からしても、困難というべきである。

さらに、右の点は、病院等の開設者には営業の自由(憲法二二条一項)が保障されていることからも根拠づけることができると解される。すなわち、我が国では国民皆保険制度が採用されており、その保険給付は主として保険医療機関で行われることが予定されているのであり、病院等の開設者の営業は、現実には、健康保険制度等の医療保険制度に基づいて行わざるを得ないことから、病院等の開設者にとって、その営業の自由を実質的に行使するには、保険医療機関の指定を受けることが「死活問題」であるからである。

(三) 被保険者にとっても、療養の給付を受けることのできる保険医療機関(健康保険法四三条三項一号参照)が存在してはじめて、保険給付を受けるという健康保険の目的(同法一条一項)が果たされるのであるから、このような被保険者の保険給付を受ける権利に裏付けられたものとして、先の保険医療機関の指定を受ける地位をとらえ直すことも可能と解される。

(四) 以上のとおり、健康保険法第四三条ノ三第二項による指定拒否は、申請者の法律上の権利義務に直接影響を及ぼすことが明らかであり、その法的性質は、病院等の開設者の保険医療機関の指定を受ける権利ないし法的地位の侵害として、行政処分に当たると解すべきである。

2  健康保険法第四三条ノ三第二項の改正経過と立法者意思

(一) 改正経過

(1) 健康保険法に第四三条ノ三の規定が新設されたのは、昭和三二年法律第四二号による一部改正によるが、その際の条文は、「第四十三条ノ三 保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ハ命令ノ定ムル所ニ依リ病院若ハ診療所又ハ薬局ニシテ其ノ開設者ノ申請アリタルモノニ就キ都道府県知事之ヲ行フ」「都道府県知事保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ノ申請アリタル場合ニ於テ其ノ指定ヲ拒ムニハ地方社会保険医療協議会ノ議ニ依ルコトヲ要ス」と規定されていただけで、指定拒否事由は法定されていなかった。

(2) 昭和五五年法律第一〇八号により、二項として、次の規定が追加され、初めて指定拒否事由が法定された。「都道府県知事保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ノ申請アリタル場合ニ於テ当該病院若ハ診療所又ハ薬局ガ本法ノ規定ニ依リ保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ヲ取消サレ二年ヲ経過セザルモノナルトキ其ノ他保険医療機関又ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキハ其ノ指定ヲ拒ムコトヲ得」

(3) 昭和五九年法律第七七号により、二項が次のように一部改正(傍線が改正部分)され、指定拒否事由が追加された。

「都道府県知事保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ノ申請アリタル場合ニ於テ当該病院若ハ診療所又ハ薬局ガ本法ノ規定ニ依リ保険医療機関若ハ保険薬局ノ指定若ハ第四十四条第一項ニ規定スル特定承認保険医療機関ノ承認ヲ取消サレ二年ヲ経過セザルモノナルトキ又ハ保険給付ニ関シ診療若ハ調剤ノ内容ノ適切ヲ欠ク虞アリトシテ重テ第四十三条ノ七第一項(第四十四条第十二項及第十三項、第五十九条ノ二第七項並ニ第六十九条ノ三十一ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル指導ヲ受ケタルモノナルトキ、其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキハ其ノ指定ヲ拒ムコトヲ得」

(4) 平成六年法律第五六号により、二項が次のように一部改正(傍線が改正部分)されたが、指定拒否事由についての実質的な変更はない。

「都道府県知事保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ノ申請アリタル場合ニ於テ当該病院若ハ診療所又ハ薬局ガ本法ノ規定ニ依リ保険医療機関若ハ保険薬局ノ指定若ハ第四十四条第一項第一号ニ規定スル特定承認保険医療機関ノ承認ヲ取消サレ二年ヲ経過セザルモノナルトキ又ハ保険給付ニ関シ診療若ハ調剤ノ内容ノ適切ヲ欠ク虞アリトシテ重テ第四十三条ノ七第一項(第四十三条ノ十七第九項、第四十四条第十二項及第十三項、第五十九条ノ二第七項並ニ第六十九条ノ三十一ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル指導ヲ受ケタルモノナルトキ、其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキハ其ノ指定ヲ拒ムコトヲ得」

(5) 平成九年法律第九四号により、二項が次のように一部改正(傍線が改正部分)されたが、指定拒否事由についての実質的な変更はない。

「都道府県知事保険医療機関又ハ保険薬局ノ指定ノ申請アリタル場合ニ於テ当該病院若ハ診療所又ハ薬局ガ本法ノ規定ニ依リ保険医療機関若ハ保険薬局ノ指定若ハ第四十四条第一項第一号ニ規定スル特定承認保険医療機関ノ承認ヲ取消サレ二年ヲ経過セザルモノナルトキ又ハ保険給付ニ関シ診療若ハ調剤ノ内容ノ適切ヲ欠ク虞アリトシテ重テ第四十三条ノ七第一項(第四十三条ノ十七第九項、第四十四条第十三項及第十四項、第五十九条ノ二第八項並ニ第六十九条ノ三十一ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル指導ヲ受ケタルモノナルトキ、其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキハ其ノ指定ヲ拒ムコトヲ得」

(二) 立法者意思

同条二項の改正の際の国会での議論、立法担当者の解説の要旨は次のとおりである(当裁判所に顕著である。)。

(1) 昭和五五年法律第一〇八号

「保険医療機関の指定を拒否できる事由を法定する規定を設ける。」

(厚生大臣の趣旨説明。昭和五五年一〇月一四日。第九三回国会衆議院社会労働委員会会議録第一号四頁)

「『著シク不適当』と認められる場合については、具体的には、指定を取り消された医療機関の開設者が、別の医療機関として指定申請をしてきたとき、保険医療機関の指定取消をたびたび受けたとき、監査後に保険医療機関の指定の取消しが行われるまでの間に医療機関を廃止し、又は保険医療機関の指定を辞退し、その後しばらくして同一の開設者がその医療機関を指定申請してきたときといった場合が想定される。」(昭和五五年一一月一三日参議院社会労働委員会厚生省保険局長答弁。第九三回国会参議院社会労働委員会会議録第六号三九頁)(昭和五五年一一月二七日参議院社会労働委員会厚生省保険局長答弁も同旨。第九三回国会参議院社会労働委員会会議録第一〇号三頁)

「保険医療機関等の指定拒否事由の法定 従前は、保険医療機関又は保険薬局の指定の拒否事由は法律上規定されておらず、指定拒否を行う場合は地方社会保険医療協議会の議によることとされていただけであったが、今回の改正により、指定の拒否事由が法文上明らかにされた。」(時の法令一一〇四号一一頁)

(2) 昭和五九年法律第七七号

「医療費の適正化のための改正である。保険医療機関等の不正、不当を排除するため、診療内容が適切を欠くおそれがあるとして重ねて、厚生大臣等の指導を受けている保険医療機関等については、その再指定を行わないことができることとした。」(厚生大臣の趣旨説明。第一〇一回国会衆議院社会労働委員会会議録第六号一九頁。第一〇一回国会参議院社会労働委員会会議録第一四号二頁)

「医療費の適正化 保険医療機関等の指定に当たり、その医療機関の診療内容が適切を欠くおそれがあるとして厚生大臣等の指導を重ねて受けたものであるときは、都道府県知事は指定を拒むことができることとしている。」(時の法令一二二九号九頁)

(三) 医療法改正(昭和六〇年法律第一〇九号)の際の国会での議論

医療法に医療計画の制度を導入した医療法の一部改正法(昭和六〇年法律第一〇九号)に関する国会審議において、医療法三〇条の七の規定による都道府県知事の勧告と健康保険法四三条ノ三第二項の保険医療機関の指定との関係について、法案に反対する立場の議員と政府委員との間で、次のような議論が行われている。

(1) 医療法三〇条の七の勧告に従わなかった場合について

保険医療機関の指定は契約と考えているので、医療法三〇条の七に基づく勧告を受けて、これに従わない医療機関については、保険医療機関の指定は行わないという原則的な考え方に立つ(厚生省保険局長答弁 第一〇三回国会昭和六〇年一一月二一日衆議院社会労働委員会会議録第二号三一頁)(厚生省保険局長答弁 第一〇三回国会昭和六〇年一一月二八日衆議院社会労働委員会会議録第三号一六頁)

(2) 指定を拒否するに当たって健康保険法の改正を要するかどうかについて

「地方社会保険医療協議会ノ議ニ依ル」から、地域の実情と具体的な事例に則して判断すべきものである。健康保険法四三条ノ三第二項は「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキハ其ノ指定ヲ拒ムコトヲ得」となっているので、そういったケースに該当するようなものについては指定を拒みうる。(厚生省保険局長答弁 第一〇三回国会昭和六〇年一一月二八日衆議院社会労働委員会会議録第三号一六頁)。

(四) 改正経緯及び立法者意思についてのまとめ

昭和三二年法律第四二号により、健康保険法四三条ノ三として、都道府県知事による保険医療機関の指定の制度(いわゆる機関指定方式)が設けられたが、指定拒否については、地方社会保険医療協議会の議に依ることが定められているだけで、指定拒否の要件は法定されていなかった。その後、昭和五五年法律第一〇八号により、二項として指定拒否事由が法定され、指定拒否事由の「其ノ他保険医療機関トシテ著シク不適当」と認められる場合については、具体的には、指定を取り消された医療機関の開設者が、別の医療機関として指定申請をしてきたとき、保険医療機関の指定取消をたびたび受けたときなど、並列的に指定拒否事由として規定された保険医療機関の指定取消しに関連した事項のみを想定していた。続いて、昭和五九年法律第七七号により、医療費の適正化の趣旨から、指定拒否事由が追加されたが、この際には「其ノ他保険医療機関トシテ著シク不適当」の解釈についての審議は特別なされていない。なお、医療法改正(昭和六〇年法律第一〇九号)の際の国会審議において、医療計画の達成の推進のために特に必要があるとして医療法三〇条の七に基づく勧告を受けて、これに従わない医療機関については、健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当」の要件に該当するものとして、保険医療機関の指定を拒否するという解釈が厚生省から示された。

3  六二年通知による健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当」の解釈

被告の主張によると、六二年通知による健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当」の規定の解釈の要旨は次のとおりである。

(一) 同項の指定拒否事由の趣旨

(1) 健康保険法四三条ノ三第一項に定める指定の法的性質については、一般に国の機関としての都道府県知事が被保険者のために保険者に代わって医療機関との間で締結する公法上の双務的付従的契約であると解されるところ、この契約については、同条第二項に規定されている要件に該当する場合には締結を拒むことができる。

(2) 健康保険制度は、医療保険の運営の効率化及び医療費の適正化を図り実施すべき(健康保険法一条の二)ところ、同法四三条ノ三第二項に規定される保険医療機関の指定拒否事由は、いずれも医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から、保険医療機関として著しく不適当と認められる場合であるから、同項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の要件についても、医療保険の運営の効率化及び医療費の適正化を図る観点から保険医療機関として著しく不適当と認められるかどうかにより判断されるべきである。

(二) 医療法三〇条の七の勧告

都道府県知事は、医療資源を効率的に活用する観点から、必要病床数等を定めた医療計画を作成し(医療法三〇条の三)、既存病床数が必要病床数を超える地域(病院の開設等によって超えることとなる地域を含む。)においては、医療計画の達成を推進するため、当該地域における病院の開設等の計画内容の変更又は中止を勧告することができる(同法三〇条の七)。

(三) 勧告を拒否して開設された病院と不必要又は過剰な医療費の発生の因果関係

(1) 医療の分野においては、供給が需要を生むことが指摘されており、実際に人口当たり病床数と一人当たり入院医療費との間には強い相関関係が認められている。

(2) 都道府県知事が開設中止等の勧告を行った病院を新たに保険医療機関として指定すると、不必要又は過剰であると認められた病床によって本来必要とは言い難い過剰な医療費が発生することになる。

(四) 勧告を拒否して開設された病院の保険医療機関としての不適当性

したがって、勧告に反して開設又は増床された病院は、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から契約を締結する保険医療機関として著しく不適当と判断されるべきものである。

4  被告の同項の解釈の裁量について

(一) 健康保険法四三条ノ三第二項は、保険医療機関の指定拒否事由として

<1>「保険医療機関ノ指定ヲ取消サレ二年ヲ経過セザルモノナルトキ」

<2>「保険給付ニ関シ診療ノ内容ノ適切ヲ欠ク虞アリトシテ重テ第四十三条ノ七第一項ノ規定ニ依ル指導ヲ受ケタモノナルトキ」

<3>「其ノ他保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」

の三つの事由を規定しており、都道府県知事は、当該医療機関が、これら三つの指定拒否事由のいずれかに該当する場合に限って、その保険医療機関の指定を拒否できるとしている。

ところで、これらの指定拒否事由のうち、<1>及び<2>の指定拒否事由は、その規定の文言からみても、その内容が一義的に明確である。他方、<3>の拒否事由は、「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」と、その内容は規定の文言からは一概に明確ではなく、解釈によって初めて内容を確定することのできる不確定な概念といえる。したがって、<3>の拒否事由については、都道府県知事に解釈の裁量の余地を認めていると解されるが、何が<3>の拒否事由に該当するかは、同条項の趣旨、目的のほか、健康保険法全体の趣旨、目的や関連する規定に照らして合理的に解釈する必要があり、これが都道府県知事の自由裁量に委ねられているわけでないのは当然である。

(二) そこで、以下、本件処分の違法性の判断に当たって被告の行った六二年通知に基づく<3>の拒否事由の解釈が、右の観点から、被告の裁量の範囲を逸脱又は濫用していないかを順次、審理、判断する。

なお、<3>の拒否事由の解釈についての都道府県知事の裁量は、健康保険法により指定される保険医療機関がその他の主要な医療保険制度においても保険給付機関とされていること(国民健康保険法三六条三項、老人保健法二五条三項一号、地方公務員等共済組合法五七条一項三号、国家公務員等共済組合法五五条一項三号)からすると、健康保険法による健康保険制度のみならず、関連する医療保険制度、ひいては、我が国の医療保険制度の観点からの解釈をすることもその裁量の範囲に入るというべきである。

5  六二年通知による解釈の検討

そこで、右3にみた被告の六二年通知による<3>の指定拒否事由の解釈が、その裁量の範囲内にあるかどうかを検討する。

(一) 指定拒否事由の趣旨について

(1) 健康保険法は、事業所の被用者を被保険者(一三条)とし、政府又は健康保険組合を保険者(二二条)とする社会保険の一つを定める法律であり、その目的は「被保険者(及びその被扶養者)ノ業務外ノ事由ニ因ル疾病・・ニ関シ保険給付ヲ為」すことにあった(一条一項)ところ、平成九年法律第九四号(同年六月二〇日公布、同年九月一日施行)の一部改正により、一条ノ二が追加立法された。それによると、健康保険制度は、医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他医療保険制度及び老人保険制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関し常に検討が加えられ、その結果に基づいて「医療保険ノ運営ノ効率化、給付ノ内容及費用ノ負担ノ適正化並ニ国民ガ受クル医療ノ質ノ向上」を総合的に図りつつ実施されるべきことが宣明された。

すなわち、健康保険法は、医療保険制度の創設、実施を目的に立法されたが、平成九年の一部改正により、「医療保険ノ運営ノ効率化」、「給付ノ内容及費用ノ負担ノ適正化」、「医療ノ質ノ向上」等を図るべきことが追加規定された。この改正は、医療保険制度に内在する本質的要請に基づくものと解され、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化の観点が改正前の健康保険法の解釈において一切妥当しないとする根拠は見あたらない。

(2) 健康保険制度の運営にあたって、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化が図られるべきことは、右にみたとおり医療保険制度の本質的要請であり、健康保険法等の医療保険制度の諸改正は、いずれも、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を目的として行われたものである。したがって、健康保険法一条の二の規定を持ち出すまでもなく、これらの要素を<3>の指定拒否事由の要件を解釈するに当たって考慮したとしても、それのみで裁量の範囲を逸脱しているとは言えないと解される。そして、同法四三条ノ三第二項に規定する指定拒否事由は、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から保険医療機関として著しく不適当と認められる場合を列記したものと整理することができるから、同項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の要件解釈についても、医療保険の運営の効率化及び医療費の適正化を図る観点から保険医療機関として著しく不適当と認められるかどうかにより判断されるべきであると解するのが合理的である。

(二) 医療法三〇条の七の勧告について

医療法は、病院、診療所及び助産所等の医療施設の開設・管理に関する必要事項を定め、これら施設の整備推進に必要な事項を定めることにより、医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与することを目的に立法されたものであり(一条)、医療施設に関する根本法規といえる。同法は、医療資源の効率的活用を図るため、医療施設の在り方を含め、医療制度について見直しを行い、時代に即応した制度の改革を図るとの観点に立ち、昭和六〇年の一部改正(法律第一〇九号)により、地域における体系だった医療体制の実現を目指すとともに、医療法人の適正な運営を確保するための方策として、都道府県ごとに医療計画を策定することとされた(第二章の二)。

かかる医療計画が拘束的計画(統制計画)か、非拘束的計画かは議論の余地があり得るが、平成九年の健康保険法の改正の趣旨も踏まえると、既存病床数が医療計画に定められた必要病床数を超える地域(病院の開設等によって超えることとなる地域を含む。)においては、都道府県知事は、医療法三〇条の七に基づき、医療計画の達成を推進するため、当該地域における病院の開設等の計画内容の変更又は中止を勧告しうるものであること、すなわち、同条の勧告は病床過剰地域における病床規制を目的としたものであると解することは同条の解釈として正当であると思われる(<証拠略>)。

(三) 勧告を拒否して開設された病院の保険医療機関の指定と不必要又は過剰な医療費の発生の因果関係について

(1) 六二年通知は、医療の分野においては供給が需要を生む経験則があり、実際に人口当たり病床数と一人当たり入院医療費との間には強い相関関係が認められるという事実認識を解釈の前提としている。右事実認識の合理性の根拠として、被告は、都道府県の一人当たり入院医療費と人口一〇万人に対する病院病床数の相関関係を示すグラフ(<証拠略>)を証拠として提出しているところ、右証拠には、人口一〇万人対病床数の多い県は一人当たり入院医療費も高く、人口一〇万人対病床数と一人当たり入院医療費にはかなり強い関連があることが指摘されており、他に、右認識が事実に反し、又は不合理であることを認めるに足りる証拠はないから、六二年通知が右事実認識を解釈の前提としていることは、その裁量の範囲内であるといえる。

(2) 続いて、六二年通知は、都道府県知事が開設中止等の勧告を行った病院を新たに保険医療機関として指定すると、不必要又は過剰であると認められた病床によって本来必要とは言い難い過剰な医療費が発生することになるという事実認識を解釈の前提としている。

医療計画に定められた必要病床数は、病床の種別に応じて定められ、都道府県の区域ごとに設定される一般の病床以外の病床(精神病床、結核病床)と二次医療圏(一般の病床の整備を図るための地域的単位としての区域)ごとに定められる一般的な入院を主体とする一般の病床とがある(<証拠略>)が、これらは医療資源の効率的活用を図る観点から、医療需要に対応するため整備を図るべき病床の数という意味と、無秩序な病床の増加をコントロールするための数という意味があると解せられる(医療法三〇条の三、医療法施行規則三〇条の二九、<証拠略>)。そして、医療法三〇条の七の開設中止等の勧告は、既存病床数が医療計画によって定められた必要病床数に既に達している場合又は当該病院の開設等によって超えることとなる場合に行われるから、勧告の対象となった病院は、病床過剰地域において、必要病床数を超えて不必要又は過剰であると認められた病床を有していると考えることができる。

また、我が国は、国民皆保険制を採用しており、国民の医療は、極めて特殊な医療分野を除いては、医療保険制度を利用して行われていることは公知の事実であり、健康保険法による保険医療機関は、その他の主要な医療保険制度においても保険給付機関とされていることは前述したとおりである。この医療保険制度の現状をもとに、ここに「供給が需要を生む」という右(1)の事実認識を加えると、都道府県知事が開設中止等の勧告を行った病院を新たに保険医療機関として指定すると、不必要又は過剰であると認められた病床によって本来必要とは言い難い過剰な医療費が発生するという事実認識に至ることはあながち不合理ではないと思われる。本件において、この事実認識の合理性を実証する証拠は見あたらないが、他方で、これが不合理であること認めるに足りる証拠もないので、六二年通知が右事実認識を解釈の前提としていることは、その裁量の範囲内であると考えられる。

(四) 勧告を拒否して開設等された病院の保険医療機関としての不適当性について

六二年通知は、勧告に反して開設等された病院は、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から契約を締結する保険医療機関として著しく不適当と判断されるべきものとしているが、この判断の合理性について以下検討する。

医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を健康保険法の解釈に当たって考慮することができることは前述のとおりであり、特に健康保険法に一条ノ二が追加された後にあっては、被告が、過剰な医療費を発生させる結果となる事態の発生について、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から、健康保険法上、医療保険制度として著しく不適当であると判断することにはそれなりに合理性があると解される。

ところで、都道府県知事が開設中止等の勧告を行った病院を新たに保険医療機関として指定すると、不必要又は過剰であると認められた病床によって本来必要とは言い難い過剰な医療費が発生するという(三)の事実認識における過剰な医療費とは、右(三)(1)の事実認識からすると具体的には入院医療費を念頭に置いているものと解される。保険医療機関における保険給付は、入院による場合といわゆる外来診療による場合とがあるが、外来診療における医療費の増減については、病床数と入院医療費との関係のような相関関係が認められる要素の存在の有無は明らかではなく、外来医療については医療計画における必要病床数を定めるに当たって考慮されていない。また、そもそも、六二年通知が外来診療における医療費について考慮したかどうかについても不明である。したがって、六二年通知が前提とする事実認識からすれば、過剰な医療費の発生を抑制するためには、病床の増加を抑制すれば足り、外来診療部門については、保険医療機関の指定が、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化を図る観点から不適当か否かは不明であるとも考えられる。(したがって、病院等の開設者の保険医療機関の指定を受ける権利の実質的な重要性に鑑みれば、平成一〇年法律第一〇九号による改正後の健康保険法四三条ノ三第四項のように病床の指定拒否に留めることが、より合理的な手法であるといえよう。)

しかしながら、平成一〇年法律第一〇九号による改正前の健康保険法四三条ノ三第一項による保険医療機関の指定は病床を除いて指定するという制度を有していなかったのであるから、外来と病床を区別せず病院全体として指定するか指定を拒否するかという二者択一の選択しかないという当時の制度を前提として、六二年通知の判断の合理性は検討されるべきである。当時の健康保険法による保険医療機関の指定の制度を前提にすると、都道府県知事が開設中止等の勧告を行った病院を新たに保険医療機関として指定すると、不必要又は過剰であると認められた病床によって本来必要とは言い難い過剰な(入院)医療費が発生するという事実認識に基づいて、当該病院を保険医療機関として著しく不適当と判断したことについて、これが不合理な判断とまで考えることはできないし、また他に不合理な判断であると認めるに足りる証拠はない。

(五) 六二年通知の立法者意思による検討

右一の2のとおり、健康保険法四三条ノ三第二項の一部改正の過程においては、六二年通知の直接の根拠となる議論は全くなされていない(ただし、同項の重要な改正はすべて医療法改正(昭和六〇年法律第一〇九号)前に行われている。)。しかしながら、右一の2の(三)のとおり、医療法改正(第一〇三回国会)の際には、六二年通知と同旨の健康保険法四三条ノ三第二項の解釈の意向が厚生省から答弁されており、この答弁内容については、特段訂正を求められることもないまま、医療法の一部改正法(昭和六〇年法律第一〇九号)は成立したのであるから、六二年通知は、医療法改正に際しての立法者意思が、健康保険法四三条ノ三第二項の解釈として許容した範囲にあると解することができる。

(六) 以上の検討によると、原告の健康保険法四三条ノ三第一項に基づく保険医療機関指定申請に対し、被告が六二年通知に基づき同法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するとしてなした指定拒否の処分(本件処分)は、被告の判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかとはいえず、その判断の過程に一応の合理性があることを否定しがたい。したがって、他に特段の事情がない限り、本件処分には裁量の逸脱ないし濫用の瑕疵はないと認めるべきところ、本件ではいまだ右特段の事情までは見出しがたい。

6  原告の主張について

(一) 原告は、被告が、医療計画に定めた病床規制の実効性を確保するため病院開設中止の勧告(本件勧告)をしたにもかかわらず、これに従わない原告に対し、保険医療機関指定申請の段階で、「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に当たるとして指定拒否処分したのは、そもそも本件勧告が行政指導にすぎない(したがって、これに従うか従わないかは勧告を受けた者の自由である。)のに、これに従わないことをもって拒否事由に当たるとしたものと評価され、被告の右措置は権限の恣意的行使に当たり、裁量権限の濫用として違法であると主張している。

しかしながら、右の「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に当たるか否かの解釈は、先にみたとおり、本件処分当時、当該条項、健康保険法全体の趣旨、目的のみならず、我が国の医療保険制度の観点を考慮の対象に入れることができると解され、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化といった要素を考慮に入れることは他事考慮に当たらず、健康保険法の解釈として許されるというべきである。右勧告を拒否して開設された病院の保険医療機関としての不適当性はすでに検討したとおりであって、六二年通知に基づく本件処分はいまだ被告の恣意的な権限行使には当たらないと認められる。

(二) 原告は、指定拒否事由のうち<1>と<2>の二つは、いずれも非違行為であり、これらの確定要件と「其ノ他」として並列される<3>の事由の解釈については、同じ評価に値する事由に限られるべきであり、これは、平成一〇年法律第一〇九号による改正後の健康保険法四三条ノ三第三項(従前の同条二項)の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈基準について定めた通知(平成一〇年七月二七日付都道府県知事宛厚生省老人保険福祉局長・同省保険局長通知第一4)に規定された右事由の例示と対比しても明らかであると主張している。

たしかに、立法技術上「その他」の用語は、「その他」の前にある字句と「その他」の後にある字句とが並列の関係にある場合に使用される字句である(ぎょうせい「ワークブック法制執務」六二〇頁等参照)が、意味内容まで同質であることを必ずしも要求するものではないと解される。

また、平成一〇年法律第一〇九号により、医療法による勧告に従わない場合に保険医療機関の病床の指定拒否ができることが健康保険法四三条ノ三第四項に新たに法定され、従前、同条二項の解釈によって行っていた医療法による勧告に従わない場合の保険医療機関の指定拒否を、病床指定方式に修正した上、別項として明文化したのであるから、平成一〇年法律第一〇九号による改正後の健康保険法四三条ノ三第三項(従前の同条二項)の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈基準について定めた通知から、従前の同条二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の解釈の裁量の範囲を検討することは必ずしも適当でないと解される。

(三) 療養担当規則一一条三項について

療養担当規則一一条三項を援用するまでもなく、六二年通知が健康保険法四三条ノ三第二項の解釈の裁量の範囲内にあることは、右5において検討したとおりである。

(四) 健康保険法一条ノ二について

健康保険法一条ノ二に明文化される以前から、医療保険制度の本質的要請から、医療保険の運営の効率化や医療費の適正化の観点が、健康保険法の解釈において考慮されるべきことは、右5において検討したとおりである。

7  まとめ

以上のとおり、六二年通知による健康保険法四三条ノ三第二項の解釈に裁量の範囲の逸脱又は濫用は認められない。

そして、本件病院が本件勧告に反して開設されたものであることに争いはないから、本件病院が健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するとしてなされた本件処分に違法はない。

二  処分の理由提示(行政手続法八条)違反について

1  行政処分の理由提示の程度について

行政手続法八条一項本文、二項による行政処分の理由提示の程度については、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して拒否されたのかを、申請者が、その記載自体から了知しうるものでなければならないと解される(最高裁昭和六〇年一月二二日第三小法廷判決・民集第三九巻第一号四頁参照)。

2  本件処分の理由提示

本件処分の通知書である「保険医療機関の指定の拒否について(通知)」(<証拠略>)には、保険医療機関の指定を拒否する理由として、要旨次のとおり記載されている。

(一) 山川病院については、開設を計画している指宿保健医療圏は病床過剰地域であって特に同病院開設の必要性を認めないとして、県知事による開設中止勧告が行われたが、これを拒否して、病院開設許可を取得した上で、本件保険医療機関の指定申請が行われたこと

(二) 山川病院は、健康保険法四三条ノ三第二項に指定拒否事由として規定されている「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当すること

3  以上の本件処分の理由提示の内容を見ると、本件処分が、(一)の事実関係に基づき、(二)の法律を適用してなされたものであることは、その通知書の記載自体から了知しうるものであるということができるから、本件処分の理由提示について、行政手続法八条違反の違法はないと解せられる。

なお、原告は、医療法三〇条の七の勧告に従わないで病院等の開設をし、保険医療機関の指定申請をしたものが、健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当すると判断される具体的な説明が本件処分の理由提示において必要であると主張しているが、被告が、健康保険法四三条ノ三第二項について、医療法三〇条の七の勧告に従わないで病院の開設をし、保険医療機関の指定申請をしたものは健康保険法四三条ノ三第二項の「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するとの解釈をとっていることは、六二年通知からも公知の事実であるから、被告が同項を適用するために必要な事実の認定は、本件病院が医療法三〇条の七の勧告を拒否して開設され、保険医療機関の指定の申請がなされたとの事実の認定で必要十分であるというべく、本件処分の理由提示においても、その事実を明示すれば足りると解せられる。原告の主張は、本件処分の根拠となる健康保険法四三条ノ三第二項の解釈過程についても、理由提示すべきことを求めるものであって、これは、行政手続法八条の定める理由提示の趣旨を超える主張であり、採用できない。

三  行政手続法三二条二項違反について

1  行政手続法三二条二項は、相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないことを規定しているが、同項は、個別の行政法規が、ある行政指導に従わないこと又はある行政指導に従わなかった結果形成された事実を、その法規の目的から特定の行政処分の要件事実として規定している場合に、行政庁が右行政法規に基づいて相手方に不利益となる行政処分を行う場合には、適用はないと解すべきである。

2  そして、本件処分は、その提示された理由(<証拠略>)からも明らかなとおり、健康保険法四三条ノ三第二項に基づいて行われたものであり、単に行政指導(本件勧告)に従わなかったことを理由として行われたものではないから、行政手続法三二条二項には抵触しないと解される。

したがって、本件処分に行政手続法三二条二項違反の違法はない。

四  地方社会保険医療協議会の答申手続の瑕疵について

1  地方社会保険医療協議会の答申手続の瑕疵と本件行政処分の違法性との関係

(一) 都道府県知事の行う保険医療機関の指定拒否処分については、地方社会保険医療協議会はいわゆる参与機関にあたる(健康保険法四三条ノ三第三項)ところ、かかる参与機関の議決を必要とする行政処分が参与機関の議決の答申を経てなされた場合において、当該参与機関の審理、議決、答申の過程に重大な法規違反があることなどにより、その答申自体に法が右参与機関に対する議決を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、右行政処分は違法となる(最高裁昭和五〇年五月二九日第一小法廷判決・民集二九巻五号六六二頁参照)。

(二) 健康保険法四三条ノ三第三項が、保険医療機関の指定拒否処分に当たって地方社会保険医療協議会の議に依ることとした趣旨は、保険医療機関の指定拒否処分が、当該指定申請者のみならず、当該病院を利用する住民、医療保険の保険者及び被保険者、その他の関係者の利益に影響を及ぼすことから、医療保険の保険者及び被保険者等を代表する委員、医師等を代表する委員、公益を代表する委員によって構成される地方社会保険医療協議会(社会保険医療協議会法三条一項)において、保険医療機関の指定拒否事由の有無を慎重に審議し、都道府県知事の恣意によって拒否されるおそれを防止することを目的としたものと解される。特に、健康保険法四三条ノ三第二項に規定する指定拒否事由のうち「保険医療機関トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の事由の認定については、地方社会保険医療協議会が、その裁量により、都道府県知事の行った認定と異なる判断をすることも可能である。ただし、保険医療機関の指定は都道府県知事の権限であり、都道府県知事が指定拒否事由の認められる医療保険についてあえて保険医療機関の指定をなしうる裁量(効果裁量)を有することは文言解釈上疑いないが、保険医療機関の指定に関しては地方社会保険医療協議会は諮問機関としての位置づけにとどまるのである(健康保険法四三条ノ一三第二項)から、指定拒否の諮問を受けた地方社会保険医療協議会が、指定拒否事由があると同じく判断しながら、あえて保険医療機関の指定をする旨の答申をすることまでの裁量を働かせることまで、健康保険法は地方社会保険医療協議会に期待しているとは到底解しえない。したがって、鹿児島県地方社会保険医療協議会の審議が効果裁量を考慮してない点で瑕疵があるとの原告の主張は、採用できない。

2  答申手続の瑕疵の有無について

(一) この点について、原告は、本件処分をなすにあたって、被告は鹿児島県地方社会保険医療協議会に対して諮問手続を採ったに過ぎないから、「議ニ依ル」とする健康保険法四三条ノ三第三項に違反する手続上の違法があると主張している。

しかしながら、社会保険医療協議会法は、一条二項において、地方社会保険医療協議会は、保険医療機関の指定及び指定の取消しについて、都道府県知事の諮問に応じて審議し、及び文書をもって答申すると規定するほか、健康保険法四三条ノ三第三項に係る議決について個別の規定を設けていないから、健康保険法四三条ノ三第三項に係る議決についても、都道府県知事の諮問に対して答申するという形式を採っていると解される。したがって、保険医療機関の指定拒否処分についても、都道府県知事が地方社会保険医療協議会に対して諮問し、その答申を得るという手続によっても、手続上違法な点はない。

(二) そして、本件処分において、鹿児島県地方社会保険医療協議会は、鹿児島県知事の平成一〇年二月二三日付け保第二三五九号による「山川病院の保険医療機関の指定申請については、健康保険法第四三条ノ三第二項の規定に基づき指定拒否したいから、同法第四三条ノ三第三項による意見を求めます。」との諮問(<証拠略>)に対し、同年三月二〇日に「諮問どおり議決しましたので答申します。」と答申し(<証拠略>)、被告は鹿児島県地方社会保険医療協議会の右議決と全く同じ内容の本件処分を行ったものであるから、答申手続上の違法はないと解せられる。

3  審議の瑕疵の有無について

(一) 原告は、鹿児島県地方社会保険医療協議会の審議においては、同協議会の委員である鹿児島県医師会長鮫島耕一郎が、原告の経営する診療所について誤った認識を持ち、これを同協議会において主張することにより、保険医療機関の指定拒否を正当とする結論を誘導し、また既存医療機関の権益のみを考慮して審議会をまとめ、本来考慮してはならない点を考慮した点で、いずれも瑕疵があると主張している。

(二) しかしながら、鹿児島県地方社会保険医療協議会は、医療保険の保険者及び被保険者等を代表する委員、医師等を代表する委員、公益を代表する委員の合計二〇名によって構成され(社会保険医療協議会法三条一項)、その合議に基づいて、答申内容が議決されるのであるから、原告の主張するような委員の言動が仮にあったとしても、その審議自体が直ちに違法と評価されることにはならないと解される。

4  その他、本件処分に当たっての鹿児島県地方社会保険医療協議会の答申に、本件処分を違法とするような瑕疵があることを認めるに足りる証拠はない。

五  結論

以上のとおり、本件処分には何らの違法も認められないから、本件処分の取消を求める原告の請求は理由がない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条により、主文のとおり判決する。

(裁判官 榎下義康 冨田敦史 山本由利子)

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