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鹿児島地方裁判所 平成12年(ワ)615号 判決 2006年2月03日

甲事件原告ら

外261名

乙事件原告ら

外74名

丙事件被告ら

外23名

以上の当事者の訴訟代理人(弁護士)

馬奈木昭雄 髙橋謙一 亀田徳一郎 井之脇寿一 幸田雅弘

小林洋二 久保井摂 森德和 伊黒忠昭 浦田秀徳

稲村晴夫 武藤糾明 諫山博 小島肇 山本一行

小澤清實 梶原恒夫 城台哲 深堀寿美 三浦宏之

江越和信 江上武幸 下東信三 三溝直喜 永尾廣久

中野和信 藤尾順司 安部尚志 前田豊 小宮和彦

古屋勇一 古屋令枝 林田賢一 掘良一 井上滋子

名和田茂生 野林信行 石井将 三浦久 吉野高幸

河辺真史 前田憲徳 中村博則 秋月慎一 仁比聡平

縄田浩孝 一柳俊文 高木健康 井上道夫 宮原貞喜

紫藤拓也 髙峰真

(ただし,紫藤拓也及び高峰真は,丙事件被告亡E訴訟承継人以外の関係では馬奈木昭雄の復代理人である。)

甲乙事件被告・丙事件原告

株式会社Z

同代表者代表取締役

主文

1  甲事件原告A,同B,同C及び同Dの請求をいずれも棄却する。

2  甲乙事件被告は,前項の4名とEを除く甲事件原告ら及び乙事件原告らに対する関係で,別紙物件目録記載の土地について,産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)を建設してはならない。

3  甲事件のうち原告Eに関する部分は,平成17年9月8日同原告の死亡により終了した。

4  丙事件原告の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,第1項の原告4名について生じたものを同原告らの負担とするほか,すべて甲乙事件被告・丙事件原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  甲乙事件原告ら(以下,単に「原告ら」という。)の請求

甲乙事件被告(丙事件原告。以下「被告会社」という。)は,別紙物件目録記載の土地(以下,一括して「本件予定地」という。)について,産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)を建設してはならない。

2  被告会社の請求(丙事件)

丙事件被告らは,被告会社に対し,連帯して,金5268万0786円及びこれに対する平成12年10月4日から(ただし,別紙「丙事件被告目録」に表示の番号21の被告については同月5日から,同22の被告については同月6日から,同23の被告については同月11日から,同24の被告については同月31日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  本件事案の要旨(一部判断を含む。)

1  本件の甲乙事件は,鹿児島県鹿屋市内のa町などに居住する原告らが,被告会社が本件予定地において建設を進めている産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)(以下「本件処分場」という。)につき,同施設から有害物質を含む浸出液が漏洩して地下水に混入することなどにより,原告らが飲用を含む生活水として使用している井戸水が汚染されるおそれがあるとして,人格権に基づいて,その建設の差止めを求めた事案である。

2  一方,丙事件は,F,B及びGを除く丙事件被告ら21名と亡E(承継前丙事件被告。その訴訟承継の点については次の3参照。以下,この計22名を「Eら22名」という。)の実力行使により本件処分場の建設を妨害されたと主張する被告会社が,上記22名による共同不法行為を理由に損害賠償を求めた事案である(なお,被告会社が主張する損害額は前記請求額を上回っているが,これは,一部請求の趣旨である。また,附帯請求は,訴状送達日の翌日からの,民法所定の割合による遅延損害金の請求である。)。

3  なお,甲事件原告(丙事件被告)の1人であったEが平成17年9月8日に死亡したとして,夫のH(甲事件原告・丙事件被告)及び二男のB(甲事件原告)のほか,長男のF(甲事件原告の1人であったが,訴えを取り下げていた。)及び三男のGから受継の申立てが行われているが,丙事件の関係で訴訟が承継されたことに問題はないものの(ただし,本来であれば,子である承継人に対しては,その相続割合の限度で他の21名の被告との連帯支払が求められるべきであるが,被告会社は,その旨の補正をしなかった。),人格権に基づく差止請求権を訴訟物とする甲事件の関係では,それがE自身の生命・身体の安全等に対する妨害を予防するための一身専属的な請求権であって,相続の対象となるものではないと解されることから,訴訟承継の余地はなく,甲事件のうち同原告に関する部分は,その死亡に伴い当然に終了したものというべきである。

よって,この点を明確にするため,主文において,いわゆる訴訟終了宣言を行うこととする(したがって,以下における「原告ら」という表記についても,その死亡後のことに関してはEを除く意味で用いるものである。)。

第3  基礎となる事実

1  当事者等

(1)  原告らはいずれも鹿屋市民であり,そのほとんど(甲事件原告A,同B,同C及び同D以外)は,本件予定地から約1.5キロメートルの範囲内にある同市b町か,本件予定地から肝属川沿いに約3ないし4.5キロメートル下流に位置する同市a町に居住している(弁論の全趣旨)。

(2)  被告会社は,平成元年にソフトウェアの開発及びその販売等を目的として設立された後,平成6年に産業廃棄物の収集運搬及び処理業等がその目的に追加された株式会社である(争いのない事実)。

(3)  被告会社と,本件予定地内に産業廃棄物の安定型最終処分場(以下「本件旧処分場」という。)を設置した上,平成9年4月までこれを運営していた南日本建設工業株式会社(以下「南日本建設」という。)とは,平成11年3月まで代表取締役(I。以下「I」という。)が共通であったほか,Iに代わって南日本建設の代表取締役に就任したのも,従前から被告会社の取締役も務めていた人物であるなど,役員構成を含めて極めて密接な関係にあったところ,被告会社(その後,複数の代表取締役を置くようになっており,本件訴訟の関係ではJが代表者となっている。ちなみに,同人は弁護士経験を有する人物である。)は,遅くとも平成7年1月ころから,本件予定地に本件処分場(産業廃棄物の管理型最終処分場)を建設することを計画しており,その設置について廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)15条1項の規定に基づく鹿児島県知事の許可を平成10年7月2日付けで取得した後の平成11年4月に着手した建設工事を現在は中断しているものの,なお続行する意思を有している(甲2,甲3,甲21の1及び2,乙187,乙230,弁論の全趣旨)。

2  産業廃棄物の処分に関する法的規制の概要等

(1)  産業廃棄物とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類などをいい(廃掃法2条4項,同法施行令2条),その処理については事業者が自ら行うのが原則であるが,許可を受けた処理業者に収集,運搬及び処分を委託することもできるところ,いずれにせよ,その収集,運搬及び処分に関しては,同法12条1項にいう「産業廃棄物処理基準」又は12条の2第1項にいう「特別産業廃棄物処理基準」に従って行わなければならないこととされている(同法11条1項,12条1項,3項,12条の2第1項,第3項,14条12項,14条の4第12項)。

そして,上記各基準を定めた同法施行令6条及び6条の5によれば,産業廃棄物の中でも特に有害なもの(正確には,6条1項3号ハの(1)から(5)までに掲げる産業廃棄物と,6条の5第1項3号イの(1)から(6)までに掲げる特別産業廃棄物)の埋立処分は,「公共の水域及び地下水と遮断されている場所で行うこと」とされる一方,それ以外の産業廃棄物(その中には,6条1項3号イ所定の「安定型産業廃棄物」も含まれる。)の埋立処分に当たっては,3条3号ロの規定の例により,原則として,埋立地(埋立処分の場所)からの浸出液による公共の水域及び地下水の汚染を防止するために必要な「環境省令で定める設備の設置その他の環境省令で定める措置」を講ずべきこととされており(6条1項3号ニ,ホ,6条の5第1項3号ロ,ハ),この「設備」及び「措置」を定めた廃掃法施行規則1条の7の3及び1条の7の4では,その措置の1つとして,それぞれ一定の条件を備えた①遮水工,②保有水等(廃棄物の保有水及び雨水等をいう。)集排水設備,③浸出液処理設備及び④開渠等の設備を設けることが掲げられている。

(2)  一方,廃掃法15条1項及び同法施行令7条14号によれば,その設置について都道府県知事の許可を受けることが必要な「産業廃棄物の最終処分場」には,①上述の特に有害な産業廃棄物の埋立処分の用に供されるもの(同号イ。遮断型最終処分場)と,②安定型産業廃棄物の埋立処分の用に供されるもの(同号ロ。安定型最終処分場)及び③それ以外の産業廃棄物の埋立処分の用に供されるもの(同号ハ。管理型最終処分場)の3種類があるところ,このような許可制が採られているのも,同法の目的である「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図る」ためである(同法1条参照)。

これらの最終処分場を含む産業廃棄物処理施設の設置に関する許可の基準については,同法15条の2第1項に規定があり,当該施設の設置に関する計画が「環境省令で定める技術上の基準」に適合していること(同項1号)などが要件とされているほか,許可後における施設の維持管理に関しても,「環境省令で定める技術上の基準」及び当該施設の許可に係る申請書に記載した維持管理に関する計画に従ってこれを行うべきことを定めた規定(同法15条の2の2)が設けられている。

もっとも,被告会社が本件処分場の設置について許可の申請をした当時においては,上記で引用した許可要件の内容は「厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については,総理府令,厚生省令)で定める技術上の基準に適合していること」(平成9年6月18日法律第85号による改正前の廃掃法15条2項1号)というものであったところ(なお,上記改正前の施設の維持管理に関する規定は「産業廃棄物処理施設の設置者は,厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については,総理府令,厚生省令)で定める技術上の基準に従い,当該産業廃棄物処理施設の維持管理をしなければならない」(15条5項)というものであった。),ここでいう「総理府令,厚生省令」である「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令」(昭和52年3月14日総理府令・厚生省令第1号。これは,現在の廃掃法15条の2第1項1号にいう「環境省令」に該当するものである。以下「共同命令」という。)についても,被告会社が許可申請をした後に,平成10年6月16日総理府令・厚生省令第2号による改正が行われており,上記申請については,本来,この改正前の共同命令への適合性が許可要件の1つとして問われるべき関係にあったが,実際には,鹿児島県側から改正後の基準に適合する計画内容にするようにとの指導があり,被告会社のほうもこれを受け入れたことから,改正後の共同命令による基準に基づいて審査・許可が行われたという経緯がある(乙166,弁論の全趣旨)。

ちなみに,上記共同命令の改正は,例えば管理型最終処分場の遮水シートから汚水が浸み出て周辺の生活環境を悪化させるのではないかという不安が持たれていたり,埋立処分を終了した最終処分場からガスの排出等がみられる例もあるなど,最終処分場に対する国民の信頼が損なわれかねない状況にあることから,最終処分場の構造及び維持管理の基準の強化により安全性をより高め,都道府県知事等が行う最終処分場の設置許可の審査や指導監督がこれらの基準に則して厳格に行われるようにするとともに,埋立処分を終了した最終処分場について,その安全性が確認されることなく維持管理が打ち切られて,生活環境の保全上の支障を生じることがないよう,最終処分場の廃止についての監督の強化を図る必要があるとして実施されたものであり,改正の柱の1つであった管理型最終処分場に係る構造基準及び維持管理基準の強化・明確化の関係では,①遮水工に係る基準の強化・明確化,②浸出液の処理等に係る基準の強化・明確化のほか,③地下水等の水質検査の実施や,④維持管理に関する記録の作成及び保存の点が改正の要点であった(以下,上記改正後の共同命令を「改正共同命令」という。)(甲4001)。

(3)  管理型最終処分場について改正共同命令が定める技術上の基準中,本件で問題となるものの概要は,以下のとおりである。

ア 埋め立てる廃棄物の流出を防止するための擁壁等の設備(自重,土圧,水圧等に対して構造耐力上安全であり,かつ,廃棄物,地表水,地下水及び土壌の性状に応じた有効な腐食防止のための措置が講じられたもの)が設けられていること(2条1項4号,1条1項4号)。

〔なお,共同命令の運用に伴う留意事項を掲げた平成10年7月16日付け「環境庁水質保全局企画課海洋環境・廃棄物対策室長」及び「厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長」の通知(以下「留意事項」という。)によれば,擁壁等が埋立地の一部を構成する場合には,保有水等の埋立地からの浸出を防止するために共同命令1条1項5号イ(1)が規定する遮水層と同等の遮水の機能を有する必要がある点に留意すべきものとされている(甲4001)。〕

イ 埋立地からの浸出液による公共の水域及び地下水の汚染を防止するための以下の措置が講じられていること(2条1項4号,1条1項5号柱書)。

①(遮水工の設置)

保有水等の埋立地からの浸出を防止するため,当該埋立地に不透水性地層がある場合を除き,次の要件を備えた遮水工又はこれと同等以上の遮水の効力を有する遮水工を設けること(同号イ)。〔なお,本件予定地の地層であるシラスは,上記の不透水性地層には該当しないものである(弁論の全趣旨)。〕

(ア) 次のいずれかの要件を備えた遮水層又はこれらと同等以上の効力を有する遮水層を有すること(同号イ(1)の(イ)ないし(ハ))。

1) 厚さが50センチメートル以上であり,かつ,透水係数が毎秒10ナノメートル以下である粘土その他の材料の層の表面に遮水シートが敷設されていること。〔なお,透水係数とは,地盤上の水位が1センチメートルで変動しないと仮定した場合に水が地盤を浸透する速度を意味するものである(乙26)。〕

2) 厚さが5センチメートル以上であり,かつ,透水係数が毎秒1ナノメートル以下であるアスファルト・コンクリートの層の表面に遮水シートが敷設されていること。

3) 不織布その他の物(二重の遮水シートが基礎地盤と接することによる損傷を防止することができるものに限る。)の表面に二重の遮水シート(その間に,埋立処分用の車両の走行等による衝撃などで双方のシートが同時に損傷することを防止することができる十分な厚さ及び強度を有する不織布その他の物が設けられているものに限る。)が敷設されていること。

〔なお,留意事項によれば,遮水シートは,アスファルト系以外のものについては1.5ミリメートル以上の厚さを有することを要し,また,①埋立地内部の保有水等を浸出させない十分な遮水性,②廃棄物等の荷重・車両等による衝撃力・基礎地盤の変位及び温度応力に対応できる性能(強度及び伸び),③紫外線に対する耐候性,④季節の推移や廃棄物の分解反応による温度変化に対する熱安定性,⑤耐酸性及び⑥耐アルカリ性を有すべきものとされている(甲4001)。〕

(イ) 基礎地盤は,埋め立てる産業廃棄物の荷重その他予想される負荷による遮水層の損傷を防止するために必要な強度を有し,かつ,遮水層の損傷を防止することができる平らな状態であること(同号イ(2))。

②(地下水集排水設備の設置)

地下水により遮水工が損傷するおそれがある場合には,地下水を有効に集め,排出することができる堅固で耐久力を有する管渠その他の集排水設備(地下水集排水設備)を設けること(同号ハ)。

③(保有水等集排水設備の設置)

埋立地には,保有水等を有効に集め,速やかに排出することができる堅固で耐久力を有する構造の管渠その他の集排水設備(保有水等集排水設備)を設けること(同号ニ)。

〔なお,留意事項によれば,保有水等集排水設備は,埋立地の地形条件,保有水等の流出量等を考慮に入れて施工し,スケール等による断面の縮小にも対応できるよう管路の径を十分に大きくとるべきであるとされ,また,目詰まり防止のため,管渠等の周囲に砕石等の被覆材を敷設することも有効であるとされている(甲4001)。〕

④(調整池の設置)

保有水等集排水設備により集められ,次の浸出液処理設備に流入する保有水等の水量及び水質を調整することができる耐水構造の調整池を設けること(同号ホ)。

⑤(浸出液処理設備の設置)

保有水等集排水設備により集められた保有水等に係る放流水の水質を,排水基準を定める総理府令1条に規定する排水基準等に適合させることができる浸出液処理設備を設けること(同号へ)。

〔なお,留意事項によれば,浸出液処理設備を設けるに当たっては,処理する浸出液の量が最小かつ平均的になるようにすべきであり,また,浸出液の質に応じて,沈殿設備,ばっ気設備,ろ過設備等の設備を組み合わせて設置するのが一般的であるとされている(甲4001)。〕

3  本件処分場の設置計画の概要

一方,被告会社による本件処分場の設置計画の概要については,次のとおりである(甲3016,乙1,乙2,弁論の全趣旨)。

(1)  設置場所

本件予定地は,シラス台地である笠野原台地の北端にあり,肝属川上流に位置する。その形状は別紙「現況平面図」のとおりであり,中心付近が低く,北側,東側及び南側が高い,すり鉢状の地形となっている。なお,前記許可における施設用地の面積は7万1150平方メートルであり,そのうち5万1793平方メートルを埋立地として使用する計画となっている。

(2)  予定埋立廃棄物等

埋立処分する産業廃棄物としては,鉱さい,汚泥,燃え殻,ばいじん類,「13号廃棄物」(廃掃法施行令2条13号所定の産業廃棄物),がれき類,金属くず,ガラスくず及び陶磁器くず,ゴムくず,廃プラスチック類が予定されており,上記面積の埋立地を1区画5000平方メートル以下の8ブロックに分割した上,1区画ごとに高さ5メートルの盛土による堤を作って,1番区画から順に埋立てを行い,8番区画まで終了すれば再び1番区画から同様に埋立てを行う方法で処理する計画である。

本件処分場の処理能力は1日あたり37.3立方メートル,総埋立容量は136万5373立方メートルで,稼働後10年で埋立てが終了する計画である。最終的な埋立地内の貯留構造物の高さは最も高い所で約40メートルに達する予定である。

(3)  設備の概要

本件処分場の遮水工は,別紙「遮水シート工断面図」のとおり,不織布と厚さ2ミリメートルのニポロンシートSS(ポリエチレン製の遮水シート)を二重にして用い,その間にマット(保護材)を挿入した上で上下のシートを一体化して敷設し,更にその下部にベントナイト混合土又はベントナイトシートを敷設したものが予定されている。

また,保有水等集排水設備は,遮水シートの上に敷設した直径600ミリメートル(幹線)及び300ミリメートルの高密度ポリエチレン管よりなるものが予定されている。

一方,本件処分場の浸出液調整池(以下「本件調整池」という。)の処理能力は1日あたり390立方メートル,その容量は8141立方メートルの計画である。

また,本件処分場における浸出液の処理過程は,別紙「排水処理装置フローチャート」のとおりであり,この過程を経て処理された水は,本件処分場の西側にある国道504号線を横切る暗渠(排水路)を通じて,1日あたり390立方メートルの割合で肝属川に放流されることになっている。

本件処分場の地下水集排水設備は,直径600ミリメートル(幹線)及び300ミリメートルの高密度ポリエチレン管よりなるもので,地下水は通常は(雨水調整池を経て)そのまま肝属川に放流されるが,センサーによって水質の変動を常時監視し,異常な水質変動を検知した場合には,地下排水を本件調整池に流入させることが可能な構造とする計画になっている。

なお,本件処分場の建設工事は南日本建設が行うことになっており,許可申請の段階においては,着工は平成9年7月とし,樹木等の伐採と掘削・調整池・浸出液処理施設・遮水工に係る工事の全部又は一部を終わらせた上,翌年(平成10年)6月から産業廃棄物の埋立てを始める予定になっていた。

4  本件処分場の設置許可に至るまでの経緯

前記のとおり,被告会社は,本件処分場の設置に関する鹿児島県知事の許可を平成10年7月2日付けで取得しているところ,これを得るまでの主な経過については,以下のとおりである(甲4,甲6,甲27の1から29の6まで,甲41から47まで,甲52,甲55,乙2,乙159,乙162,乙163の1から167まで,乙187,乙212,弁論の全趣旨)。

(1)  事前協議の状況等

平成7年1月25日,被告会社は,本件処分場を設置するため,鹿児島県(以下「県」という。)に対し,「鹿児島県産業廃棄物の処理に関する指導要綱」7条に基づく事前協議書を提出した。

これに対し,県知事は,同年11月16日,上記指導要綱8条に基づき,事前協議を要する「関係地域」として,いずれも鹿屋市b町のc集落及びd集落を指定するとともに,鹿屋市との協議事項を定めた(なお,原告らの多くが居住するa地域については,上記c集落が本件予定地から概ね1キロメートル,原告らの一部が居住するd集落でも概ね1.5キロメートルの範囲にあるのに対し,約3キロメートル以上離れていることから,騒音,振動,悪臭等の影響はないし,本件処分場からの浸出液についても,排水基準を遵守して処理される以上,下流域への環境の問題はないということで,その生活環境に著しい影響はないと判断され,関係地域には指定されなかった。)。

被告会社は,上記指定のあった当日(平成7年11月16日)にc集落に対する説明会を実施し,同年12月12日付けで同集落から本件処分場の設置についての承諾を得たほか,平成8年1月24日には,鹿屋市との協議を実施した。

一方,d集落に対する説明会は,平成7年11月11日に開催され,その後も断続的に協議が行われたが,住民の意見がまとまらず,結局,平成8年3月24日に開かれたd町内会の総会において,反対の意見と,やむを得ないとする意見(心情的には反対の気持ちもあるが,法律的に本件処分場の設置を阻止できないのであれば,被告会社が説明会の中で約束してきたことを誠実に守ることを条件に認めるとの意見)があることを被告会社に伝えることとし,町内会としては賛成又は反対の意思表明は行わずに協議を終了するとの結論に至り,翌25日,その通知を受けた被告会社を通じて県にも報告が行われた(なお,同月には,a町内会長及びe町内会長から提出されていた,本件処分場の建設に反対する旨の陳情が,鹿屋市議会において採択された。)。

そして,平成8年9月3日には,県から鹿屋市及び被告会社に対し,指導要綱に基づく事前協議が完了したことの通知がされたところ,これに対し,本件処分場の建設に反対する住民らは,まだ被告会社との協議は尽くされていないとして,県に上記通知の保留,撤回を求め,鹿屋市長も,同市議会において,事前協議は完了していない,本件処分場を建設するのであれば公共関与型のものを検討すべきである旨の答弁を行うとともに,同月19日には,県知事あてに上記通知の撤回を求める旨の文書を提出したが,県は,撤回はできないとの回答をした。

(2)  許可申請後,公共関与が模索された状況等

被告会社は,南日本建設が平成9年4月10日付けで本件旧処分場の廃止手続をした後の同年5月1日,県知事に対し,本件処分場の設置許可の申請をしたところ,翌2日,県から公共関与方式で本件処分場を運営することについて打診を受けたので,県とその協議を行った。その後も両者間の協議は継続して行われ,同年6月には,c町内会f班から,被告会社が単独で本件処分場を運営することについては,同処分場からの有害物質の流出や,産業廃棄物の不法投棄,埋立終了後の維持管理などの点で住民に不安があるとして,公共関与を求める旨の陳情が県議会及び鹿屋市議会に提出されたが,この陳情は同市議会において不採択とされた。

しかし,その後,同年8月12日にd町内会から公共関与を求める要望書が出されたのに続いて,同月27日には,g町とb町の11の町内会の会長で構成されるh地区町内会長連合会からも同様な要望書の提出があったため,鹿屋市議会は,同月26日に提出されたa町内会からの本件処分場建設反対の決議書とともに,上記c町内会f班の陳情を再び審査することになり,県及び鹿屋市も公共関与への賛成を求めたが,同市議会は,同年9月17日,本件予定地が肝属川の源流にあたり立地条件が悪いとの理由で再び不採択とし,ここにおいて,県及び鹿屋市は公共関与を断念した。

なお,鹿屋市は,同年10月,被告会社に対し,本件予定地の買取り及び本件処分場の建設の中止を申し入れたが,被告会社は,その譲渡を拒否し,単独で建設計画を続行する旨を表明した。一方,鹿屋市議会は,同年11月,その建設に反対する旨の意見書を県知事に提出することを可決した。

(3)  その後,設置許可がされるまでの状況等

ところで,原告らの一部は,いずれも南日本建設が本件旧処分場から搬出した土砂で嵩上げをしたとされる鹿児島県曽於郡(現鹿屋市)i町jのK所有の農地(以下「i町の農地」という。)と鹿屋市cのL所有の農地(以下「cの農地」という。)を調査することとし,前者については平成10年1月16日に,後者については同年3月13日にそれぞれ深さ3ないし5メートル程度まで掘削したところ,いずれの農地からもコンクリート塊などの廃棄物が発見されたため,その旨を県に通報した。

これを受けて,県は,i町の農地については,同年1月16日から同年2月24日までの間に計5回,cの農地については,同年3月13日から5月25日までの間に計10回,それぞれ現地調査や関係者からの聞き取り及び関係書類の確認等の調査を実施した。

その間の同年1月27日,被告会社から県知事に対し,本件処分場の建設を遂行するのに必要な,森林法10条の2に基づく林地開発行為の許可申請が行われ,県知事が,同条6項により鹿屋市長に意見照会を行ったところ,鹿屋市長は,同年4月,本件旧処分場の廃棄物処理に関し被告会社の関係者に違法な行為がなかったかどうかについての県の調査が終了するまで,開発許可の審査を留保するとともに,調査結果を報告するよう求める旨の意見書を提出した。

県は,i町の農地の廃棄物については,平成9年7月から9月にかけて南日本建設とともに本件旧処分場から土砂の搬出をして農地の嵩上げをした有限会社森光運輸(以下「森光運輸」という。)が同社の車庫周辺にあったコンクリート塊,タイヤ,木の根などを投棄したものであり,また,cの農地の廃棄物については,その所有者であるLが畜産施設を取り壊した際に生じたコンクリート塊やアスファルトを自ら埋めたものであって,いずれも本件旧処分場から搬出されたものとは認められないという調査結果報告書を作成し,平成10年6月25日に鹿屋市に対しこの調査結果を報告,説明するとともに,原告らの一部に対してもそのころ上記報告書を送付した。

これに対し,原告らの一部は,同月29日に県庁を訪れて,i町の農地にあった汚泥状の土砂からシアンが検出された旨を述べるなどして再調査を求めるとともに,本件処分場の設置許可を出さないよう申し入れた。また,翌30日には,鹿屋市議会も,上記調査結果は鹿屋市民が納得し得るものではないとして,再調査と本件処分場の設置許可申請に対する審査の見直しを求める旨の要望書を県知事に提出した。

その後,原告らの一部は,県から被告会社が県職員立会いの下で同年7月2日に話合いをすることを望んでいるという連絡を受けたことから,同日,鹿屋市の合同庁舎において被告会社と協議をもったが,被告会社のほうでは,実質的な話合いは事前協議で尽くしたとして,事業の説明と質疑応答のみを予定していたのに対し,原告らの側は実質的な話合いを行う説明会の日時等に関する協議と理解していたため,同日の協議は物別れに終わったところ,その日の夕刻になって,県知事は,被告に対し,本件処分場の設置及び林地開発行為について許可をするに至った。

なお,これに対し,原告らの一部が翌3日に県庁を訪れて,抗議文を提出するとともに,i町の農地から掘り起こされたコンクリート塊などを積載したダンプカー4台を県庁に横付けして,県知事に対し現地調査をするよう要求したところ,県知事は2週間以内にこれを行うことを約束した。

5  その後の事情

(1)  平成10年7月8日,県は,i町の農地において,地表から深さ3メートルの地点,4メートルの地点及び5メートルの地点の合計3か所から検体となる土壌を採取し,土壌の汚染に係る環境基準に定める24項目の調査を実施したが,同月31日に出された分析結果によれば,全項目が上記基準を下回っており,シアンも検出されなかった(甲55)。

その間の同月14日に県知事が上記農地を視察した際,その所有者からも再調査の要望があったため,県は,再調査を約束し,同年9月8日にこれを実行し,同農地の入口側2か所を縦6メートル,横6メートル,深さ6メートルの範囲で森光運輸に掘り起こさせたところ,10トントラック約1台分のコンクリート塊などが掘り出されたため,翌9日にかけて,森光運輸に,以前掘り出された廃棄物(土砂を含めて10トントラック約9台分,廃棄物のみで約6台分)と共にこれを搬出させた(甲55)。

(2)  平成11年1月22日,鹿屋市長は,原告らの一部を含む,本件処分場の建設に反対する住民と話合いをした際,鹿屋市が本件予定地を買い取るよう求める要望が出されたことから,再び被告会社に対して本件予定地の買取りを申し入れることで反対住民らと合意した(甲20の2,甲61の2)。

被告会社は,同月25日,本件処分場を建設するため,本件予定地の樹木の伐採行為に着手したところ,原告らは,同年2月11日に開催された住民集会で,伐採を着工とみなして直ちに提訴することはせず,引き続き安全性に関する説明会を開催するよう被告会社に求めるとともに,話合いの余地を残す方針を確認した(甲62の1,乙170)。

その間の同年2月5日,鹿屋市長,上記反対住民及び被告会社による三者協議が行われ,被告会社に対して改めて鹿屋市による本件予定地の買取りの申入れがされるとともに,住民への説明会の開催について協議が行われたが,被告会社側が,最初に町内会の役員,班長と話合いをした上で,町民全体に対する説明会を行いたいとしたのに対し,反対住民側は,代表者との話合いをしたことで説明会を開いたことにされるのを恐れ,あくまで住民全体への説明会の開催を求めたことから,両者の主張は平行線をたどり,鹿屋市長も同月25日ころ,説明会の開催に関する両者間の調整を断念した(甲61の1から3まで,甲62の2)。

(3)  平成11年4月18日,被告会社は,本件予定地に立入り禁止の杭打ちを実施して,本件処分場の建設工事(以下「本件工事」という。)に着手した(甲62の3,乙187)。

これに対し,原告らは,本件予定地の入口部分の道路(国道504号線)の反対側に監視小屋を建てた上,日曜日と祝日を除く毎日,21ある町内会の班員が交代で監視を行い,本件工事の作業が始まるとサイレンを鳴らして農作業等をしている仲間を集め,このようにして集まった者において,説明会を開くまで工事を中止するよう,口々に作業員に訴えるほか,時には重機を取り囲んで作業ができないようにしたり,あるいは互いに手をつないで本件予定地の入口に立ちはだかってダンプカー等が入るのを阻止するなどの活動を行うようになったところ,Eら22名も,この活動に積極的に参加していた(甲19,乙119,乙172,乙196,弁論の全趣旨)。

その後,梅雨のために重機を使用しての本件工事を中断していた被告会社が同年7月7日に工事を再開したことから,原告らは,再び上記のような工事中止要請のための直接行動を開始したが,8月に入って警察から警告があったため,これを中止したところ,同年8月23日,原告らの大半を含む,本件予定地の周辺住民から本件工事の禁止を求める旨の仮処分の申立てが行われ(鹿児島地方裁判所平成11年(ヨ)第260号事件),いわゆる訴訟外で,仮処分の申立てに対する決定が出るまで本件工事を中止することが合意されたのを受けて,同年8月31日には工事現場から重機等が引き上げられたが,さらに,平成12年3月31日,上記住民の一部の申立てを認容して工事の禁止を命ずる仮処分決定が出されたことから,本件工事は本件予定地の掘削の段階で中断された状態となって現在に至っている(甲20の2,甲62の5,甲63,甲3016,乙119,乙120,乙187,乙196,弁論の全趣旨)。

なお,原告らの一部が平成17年3月23日にi町の農地を深さ9メートル程度まで掘削したところ,コンクリート塊,鉄くず,ビニールシート,ゴムシート,汚泥などが新たに発見された(甲57,弁論の全趣旨)。

第4  争点

1  本件差止請求に関する主張・立証責任についてどのように考えるべきか。

(原告らの主張)

(1) 管理型最終処分場で埋立処分される産業廃棄物の中には,シアン,総水銀,アルキル水銀,鉛,六価クロム,カドミウム,ヒ素,PCB,有機リン等の重金属類,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン(以上の11物質は「有害11品目」と呼ばれ,最も初期の段階から規制されていた有害物質である。)などの,多くの重金属類及び化学物質類が含有されている。

管理型最終処分場で埋立処分される燃え殻は,産業廃棄物を中間処理施設で焼却処理をした時に発生した灰であり,集塵設備を備えている特殊な焼却施設でゴミが焼却された場合,その焼却後に発生する灰は,焼却施設の下側に残されているボトムアッシュと,集塵設備に集められたフライアッシュの2種類に分けられる。

燃え殻は,水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン及びそれらの化合物が,内閣府令に定める基準以上であれば遮断型最終処分場で,基準以下であれば管理型最終処分場でそれぞれ埋立処分されることになっているので,法律自体が,燃え殻に,水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン及びそれらの化合物が含まれていることを前提としている。

一方,フライアッシュ(ばいじん)に関しては,法令により,重金属類が溶出しないように,あるいは酸その他の溶媒に重金属類を十分に溶出させた上で,化学的に安定した状態にして処分又は再生するように規定されていることから,重金属類が含有されていることが想定されている。

また,同じく管理型最終処分場で埋立処分される汚泥については,水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン,シアン,有機リン,PCB,揮発性物質(トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン,四塩化炭素,1,2─ジクロロエチレンなど),チラウム,シマジン,チオベンカルブ等の有害物質が基準値以下であれば管理型最終処分場で埋立処分され,基準値以上であれば遮断型最終処分場で埋立処分されるか,基準値に適合するまで処理された上で,管理型最終処分場で埋立処分されるのであるから,法は上記物質が汚泥に含有されていることを前提にしている。

さらに,テレビの燐光体にはカドミウムが使われているし,水道管は鉛でできており,塗料,酸化剤及びプラスチックの可塑剤には,六価クロム等の重金属類のほか,多くの揮発性物質が含まれているが,これらも管理型最終処分場で埋立処分されるものである。

(2) ダイオキシン類(従来はポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシンとポリ塩化ジベンゾフランの2つとされていたが,近年ではコプラナーポリ塩化ビフォニールをも含むものとされている。)の発生メカニズムは未解明であるが,塩化メチルなどの有機塩素系の成分を含む物質を高温で燃焼したときに発生するものとされているところ,有機塩素系の成分を含むプラスチックや塩化ビニール類は大量に消費され,焼却場で焼却処分されているから,燃え殻やばいじんは,当然,ダイオキシン類を含有している。また,全国各地のゴミ処分場から環境ホルモンとされる化学物質が検出されていることからして,環境ホルモン類を含有していることも明らかである。

ダイオキシン類は,急性毒性,慢性毒性,発ガン性,催奇形性,生殖への悪影響,免疫毒性,内分泌作用攪乱性などの毒性があるとされており,その毒性はごく微量で短期間の曝露であっても人体に悪影響を及ぼすほど強く,耐性の減少などの点で子孫にも悪影響を及ぼす。

ダイオキシン類につき,国は現在,耐用1日摂取量(人が生涯にわたって継続的に摂取しても健康に影響を及ぼすおそれがない1日あたりの摂取量)(以下「TDI」という。)を人の体重1キログラム当たり4ピコグラムと定めているが,ダイオキシン類の毒性に照らすと,一定量以下であれば毎日摂取しても問題がない安全量は存在しないものというべきであり,TDIが1ピコグラムを超えることはあり得ない。そして,日本人は現在においても人体に悪影響を及ぼす高濃度のダイオキシン類を摂取しているのであるから,たとえわずかであっても,ダイオキシン類が含有された浸出液を本件処分場から漏洩させることは決して許されない。

(3) 産業廃棄物中に含まれる有害物質の以上のような危険性を前提にすると,原告らが次の3点,すなわち,

① 本件処分場に搬入される廃棄物には,有機又は無機水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン等の重金属類や,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン等の発ガン性のある揮発性物質,種々の毒性を有するダイオキシン類,環境ホルモン類等の各種有害物質が含まれていること,

② 上記有害物質は,処分場内の浸出液に溶解し,又は浮遊粒子物質として含まれて浸出液とともに移動し,処分場の外に流出して地下水に混入するか,浸出液の処理が不十分なため,それらの有害物質を含有した浸出液が放流されることにより,河川や地下水に混入すること,

③ 原告らは,本件処分場の周辺において,井戸を掘って地下水を生活用水として飲用しているので,上記のような有害物質が地下水に混入すれば,それが原告らの体内に摂取され,原告らの生命,身体に被害が生じ,又は人格権の一内容である,「一般通常人の感覚に照らして飲用及び生活用に供するのを適当とする水を確保する権利」が侵害されること,

を主張・立証すれば,本件処分場の建設が,原告らの人格権を侵害する一応の蓋然性を主張・立証したことになり,被告会社において「本件処分場からは未処理の浸出液は一滴も漏らさないこと」,「被告会社が放流する浸出液には人を発病させるに足るダイオキシン,環境ホルモン,重金属類等は処理され,除去されていること」を主張・立証しない限り,本件差止請求は認容されることになるものと考えるべきである。

(被告会社の反論)

本件処分場に搬入できる産業廃棄物は,鉱さい,汚泥,燃え殻,ばいじん類,がれき類,金属くず,ガラスくず,陶磁器くず,ゴムくず,廃プラスチック類などに限定されており,そのうち「がれき類」以下の6品目は無害なものとして安定型最終処分場にも埋め立てられ得るものであるから,本件処分場に搬入される廃棄物のすべてが有害であるわけではない。

また,重金属類等が人体にとって有害物質になるのはある濃度以上になったときだけであって,微量のそれは,むしろミネラルとして生物の生存にとって必要不可欠であるとさえ,いえるのである。そして,本件処分場に埋め立てることのできる有害物質の上限濃度(埋立基準)は,「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令」の別表第一において法定されており,無制限に高濃度の有害物質が埋め立てられることはない。

燃え殻,ばいじんは,焼却施設から発生する廃棄物で,本来的に重金属類やダイオキシン類等の有害物質を含んでおり,被告会社としても,ダイオキシン類を含む環境ホルモンについては健康被害の原因となる有害物質であると認識しているので,埋め立てる前にコンクリート固化処理を行うことにより,ダイオキシン類が付着した微粒子を団粒化し,埋立時における飛散や,浸出液への混入を防止することとしているほか,浸出液処理過程に環境ホルモン類を分解除去するための高度処理工程を追加しているところである。

TDIは,ダイオキシン類による健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で重要な指標となるものであって,世界保健機構(WHO)や各国において科学的知見に基づいて設定されているものであるから,ダイオキシン類には安全量がなく,安全量を前提としたTDIの考え方が間違っているとする原告らの主張は失当である。また,本件で問題となり得るのは,水からのダイオキシン類の摂取であるが,ダイオキシン類は油性であって,そもそも水に溶けにくいことから,食品等に比べると水から摂取されるダイオキシン類の量はごくわずかである。

管理型最終処分場では,法定された埋立基準以下の有害物質を含む廃棄物を埋め立てることを目的としており,そのために水処理施設の設置が法定され,浸出液処理により排水基準以下に処理された浸出液が放流される仕組みが採用されるとともに,埋立終了後も,浸出液が無害化されるまで処理が継続されることとされているのであり,未処理の浸出液が,たとえわずかでも漏れることが許されないのは当然である。

そして,本件処分場が改正共同命令に適合していること,本件処分場からは未処理の浸出液は一滴も漏らさないこと,被告会社が放流する浸出液からは,人を発病させるに足るダイオキシン,環境ホルモン,重金属類等が処理され,除去されていることは十分に立証されている。

2  本件差止請求の関係で問題となり得る,本件処分場の公共性・必要性やその立地条件の適否の点については,どのような評価をすべきであるか。

(被告会社の主張)

(1) 「鹿児島県産業廃棄物処理計画」(乙72)によれば,平成11年3月の時点で県内に埋立てが可能な管理型最終処分場は1か所もない一方,管理型最終処分場で処分すべき産業廃棄物の量は,平成15年には年間12万9000トンになるものと推計されるため,県としては今後3か所程度の管理型最終処分場の整備に努めるものとされているが,現在においても管理型最終処分場は1か所も建設されておらず,そのため,県内の産業廃棄物の処分は宮崎県などの近隣の処分場に委託されているのが実情である。

全国的に管理型最終処分場が絶対的に不足している状況を考えれば,いつまで県外で埋立処分できるか分からない状況であることは間違いなく,県内に早急に本件処分場のような管理型最終処分場を建設する必要がある。

したがって,本件処分場は,高い公共性・必要性を有する。

(2) 本件予定地の地下水位は地表から約45メートルの深度にあり,20メートルから30メートルの層厚の地下水層がシラス層の中を南東方向に流れているので,仮に未処理の浸出液が漏出したとしても,それがシラス層を通過する際の希釈効果やろ過効果を考慮すれば,水質汚染が生じる可能性はまずないものといえる。

また,本件予定地の南東方向にある集落の中で最も近いk集落まででも約2キロメートルは離れている上,この集落では,ほぼ上水道が使用されており,d集落で上水道が引かれていない居宅については,被告会社が費用を負担して上水道を引くことになっている。

したがって,本件処分場は決して悪い立地条件にあるわけではない。

(原告らの主張)

(1) 本件予定地は水源地であるところ,周辺地域住民の生命,健康,日常生活に密接不可分である飲料水などの生活用水の汚染を防止するためには,産業廃棄物の最終処分場の水源地への立地は回避すべきである。

また,本件予定地は,笠野原台地の北西端に位置する傾斜地であり,その地盤はシラスである。シラスは極めて透水性が高く,もろくて崩れやすいとされているので,そのような地盤に最終処分場を建設するのは避けるべきである。のみならず,傾斜地については,地中の水の流れにより火砕流堆積物にトンネルが穿たれ(パイピング現象),上部の火砕流堆積物の崩壊を引き起こす危険性が高い。

したがって,本件予定地は,最終処分場の建設には適しないことが明らかというべきである。

(2) 産業廃棄物の最終処分場一般について社会的存在価値(公共性・必要性)があることは否定しないが,上記の立地条件の悪さなどに由来する危険性に照らすと,本件処分場にそのような価値があるとはいえない。

3  本件処分場について改正共同命令への適合性が認められるかどうか。

(被告会社の主張)

(1) 擁壁について

有限要素法による自重・地震解析の結果,本件処分場の擁壁はどの地点をとっても安全率が1.0以上であるので(乙20参照),自重や地震により擁壁が損傷・崩壊する危険性はない。

腐食防止措置としては,透水係数が毎秒10−9センチメートル以下となるような性能を有するベントナイトシートを敷設することで対処する。

(2) 遮水シートについて

本件処分場の遮水層は,別紙「遮水シート工断面図」に示されたとおりのものであって,改正共同命令1条1項5号イ(1)の(イ)及び(ハ)の双方を満たしている。

また,底部の遮水シート工の上部には更に50センチメートル以上の保護砂層を設けて突起物等による破損を防止し,法面の遮水シート工の上部には遮光不織布を敷設して劣化を防止する。このような措置により,不等沈下,突起物,車両走行によるシートの破損を十分に防ぐことが可能である。

なお,ポリエチレンシートが遮水シートとして使用された場合,その実際の耐用年数は様々な要因によって左右されるから,メーカーとしては,実際に使用された場合の耐用年数を明示し,保証できないことは当然であって,メーカーの保証がないことをもって,その性能が悪いと断定するかのような原告らの主張は誤りである。

本件処分場については,稼動後10年で埋立てが終了する計画であるから,これと埋立後の水処理に要する時間を合計した期間だけ,遮水シートが耐用すれば足りるのであり,また,遮水シートの耐用年数は,シート自体の強度の問題よりも,処分場の設計工事方法,開業後の日常の管理方法等によって左右されるものであるから,これらの要因を考慮せずに,遮水シートの耐用年数のみを論じることは余り意味がない。

そして,ニポロンシートSSは,留意事項の規定を上回る2ミリメートルの厚さを有し,低密度,高強度で,しかも低温時においても柔らかいという特性を有する優れた遮水シートであり,そのメーカーである日ケミ商事株式会社がした実験結果によれば,本件処分場で想定される熱,酸,アルカリ等の条件に十分耐用できる性能を有している(乙22参照)。

また,廃棄物の荷重,雨水の重量によって本件処分場の遮水シートが破損する可能性がないことは,株式会社地層科学研究所作成の「廃棄処分場遮水シート安定解析報告書」(乙16)により,本件処分場では上載荷重として1平方メートルあたり200トンを作用させても遮水シートは破損しない旨の報告がされている点から明らかであるし,廃棄物による最大負荷は1平方メートルあたり64.7トンであるから(乙25参照),トラックの荷重分(25トントラックで1平方メートルあたり7.8トン程度)を考慮しても,なお十分な強度を有している。

原告らは,遮水シートの破損事故例を列挙するが,これらはいずれも改正共同命令が施行される前に設置許可がされた施設におけるものであり,改正共同命令はこれらの事故を受けて,遮水シートの破損事故を未然に防止することを最大の目的としているところ,本件処分場はこの改正共同命令に適合しているのであるから,遮水シートの破損事故が生じる可能性はない。

加えて,本件処分場では,遮水シートの損傷検知・補修システムとして,T&OHシステム(負圧式検知システム)を採り入れる予定であるところ,このシステムにおいては,真空圧を利用してシートの損傷を検知し,損傷を発見した場合には,管理ホースで圧縮空気を送り込み,損傷部からの漏水が発生する前にこれを防ぐ応急措置や,同ホースで固化剤を加圧注入して漏水を止める恒久措置が可能で,廃棄物を撤去せずに遮水シートの補修ができ,電気式検知システムのように電極が腐食したりする心配はない。現に,改正共同命令の施行後,T&OHシステムを採用した処分場に関し遮水シートの損傷が報告された事例はない。

(3) 基礎地盤について

本件処分場の埋立地底部となる地面について,スウェーデン式サウンディング試験を実施したところ,3か所の測定点(貫入深さ2.50メートル,3.00メートル,6.75メートル)でそれぞれN値が88.8,89.9,84.5であり,地盤の強度として必要十分とされている20を大幅に超えていた(乙158参照)。また,笠野原台地のシラスに設置されている鹿屋市清掃センター関係の地質調査報告書(乙189)でも,概ね50以上のN値となっている。これらに照らすと,本件予定地の地盤であるシラスが本件処分場を設置するのに必要な強度を有していることは明らかである。

シラスの遮水性能については,通常シラスの透水係数は毎秒10-3センチメートル前後とされているが,上記の地質調査報告書によると,毎秒10-5から同10-6センチメートルとの結果が報告されているところ,本件処分場においては,遮水シートの破損に備えて,埋立地底部にベントナイトを混合した厚さ50センチメートルの改良土層を敷設した上,法面についても下地基盤としてベントナイトシート(透水係数毎秒10-9センチメートル以下)を敷設して,シラスの遮水性能の不足を補っている。

なお,上記の地盤改良に関し,当初に予定していたサンクリート(樹脂)からベントナイト(粘土)に変更した理由は,ベントナイトのほうが弾性に富み,亀裂に対して自己修復能力を有するなどの利点があり,各地の廃棄物最終処分場においても,遮水シートにベントナイトを組み合わせた遮水工が多数造られ,十分な実績を挙げているからである。

(4) 地下水集配水設備について

本件予定地のボーリング調査の結果によれば(乙2参照),地下水位は,西側で38.7メートル(地盤高は60.05メートル),東側で50.3メートル(地盤高は70.08メートル)と深く,湧水による遮水工損傷のおそれはないが,地下水集排水設備は設ける予定である。

(5) 保有水等集排水設備について

保有水等集排水設備は,中央に設置した直径600ミリメートルの主幹,これに20メートル間隔で直線形に敷設する直径300ミリメートルの枝管のそれぞれについて,大日本プラスチック株式会社製のダイプラハウエル管(高密度ポリエチレン管)を採用している。

このダイプラハウエル管が耐圧強度等に優れていることは,その技術資料(乙37)から明らかであり,異常な外的要因がなければ50年以上の耐用年数がある。

そして,本件処分場に敷設される上記集排水管の管径,設置勾配(1.5%),配管等からみてスムーズな排水が可能であることは,本件の保有水等集排水設備に関する検討で解析されているとおりである(乙27参照)。

現在全国の最終処分場の計画・設計のガイドラインとされている「廃棄物最終処分場指針解説」(乙19)(以下「指針解説」という。)によれば,保有水等集排水管の集水機能確保のために管の周囲を覆う「被覆材」選定の留意点として,土砂やゴミ,スケール等による目詰まりの防止が挙げられており,その管径設定に当たっても,スケールなどの成長による断面縮小にも対応し得るものでなければならないとされているところ,本件処分場では,指針解説及び「廃棄物最終処分場技術システムハンドブック」(乙40)等の被覆材の算定式に基づき,被覆材には,粒径50から150ミリメートルの栗石及び単粒砕石(集水管周辺には粒径20から30ミリメートルの単粒砕石)を使用し,万一,目詰まりが生じたときは,排水溝出口からの自走式噴射洗浄機による洗浄又は高圧エアーの吹込み等により修復する予定である。

(6) 調整池について

本件調整池は,遮水性の高いベントナイト及び腐食防止のためのゴムアスファルトシートの二重構造のものであるので,耐水性が高く,日常の適切な管理・補修により,50年以上維持することが可能である。

過去21年間の降雨量から計算すると,本件調整池の容量を超えて浸出液が埋立地内に貯留する日数は172日あるが,最も長く連続して埋立地内に貯留するのは122日で,これは過去117年で最も年間降水量が多かった年(平成5年)に関する計算であり(乙30参照),本件処分場は10年で埋立てが終了するのであるから,上記のような年に遭遇する可能性は極めて低く,本件処分場で埋立地内に浸出液が貯留することは,まずあり得ない。

(7) 浸出液処理設備について

浸出液処理設備については,本件処分場付近の過去の降雨データ及び埋立計画に基づき,1日の水処理量を390立方メートルとし,その水質につきBOD(生物化学的酸素要求量)は1リットルあたり1000ミリグラム,SS(浮遊物質量)は同じく300ミリグラムに設定して設計がされている(乙2参照)。もっとも,この濃度でなければ処理できないということではなく,紫外線+オゾン酸化法,逆浸透膜分離法等により,幅広い濃度に対応できるシステムとなっている。

本件処分場の設置許可時に予定していた浸出液処理システムは,生物処理のみであったが,その後の水処理技術の進歩等を踏まえて,別紙「排水処理装置フローチャート」に表示のシステムに変更した。その内容について補足すると,次のとおりである。

まず,降雨量の多い地域であることを考慮し,生物処理槽(ばっ気槽)を2系統に分け,降雨量の多い時期には2系統を同時運転する。

生物処理については,維持管理が容易であること,余剰汚泥の量が少ないこと,汚泥が浮上してしまう「バルキング現象」が起きる可能性が低いこと,窒素の除去ができることなどの理由で,活性汚泥法から接触ばっ気法(板状の接触剤を設置し,その表面に付着して膜状に増殖した微生物で主にBODの処理を行う方法)に変更した。

従前は,重金属類を最終段階のキレート樹脂によって吸着して除去する例が多かったが,樹脂の吸着能力を超えた場合は重金属類は除去されずに放流されてしまうおそれがあったので,本件処分場では,最初に液体キレート剤(重金属固定剤)を添加し,重金属イオンと反応させて不活性塩を析出する処理を行った上,その後の高速沈殿,活性炭,逆浸透膜等で完全に重金属類を除去する方法を採用している。なお,液体キレート剤であれば,添加量の調整により重金属類の濃度の変化に対応できる。

紫外線+オゾン酸化法を採用したのは,主にダイオキシン類及び環境ホルモン類の除去対策のためであり,凝集沈殿,生物処理,砂ろ過等の前段階でダイオキシン類等の付着する粒子状物質をできるだけ除去し,残ったダイオキシン類等をオゾン処理(オゾンが酸素分子と単体の酸素原子に分解し易く,後者が強い酸化作用を持っていることを利用した浄化方法)と,酸化分解を促進する紫外線を組み合わせて分解除去する。

活性炭は,種々の大きさ・形状をした細孔が入り組んで複雑な網目構造を形成し,重金属類,有機物,ダイオキシン類を吸着除去するものであるが,オゾン処理と併用することにより,活性炭の寿命が大幅に延びる上,オゾン酸化処理後に活性炭で残留オゾンを吸着する効果もある。

最後の工程に逆浸透膜装置を設置するのは,すべてのろ過方法の中で最も微細なろ過が可能な処理方法で,ダイオキシン類,大腸菌,BOD,COD(化学的酸素要求量),超微細粒子等の除去ができるからであり,その除去率は95%から98%以上である。

このようにして処理された浸出液は,重金属類が排水基準令(排水基準を定める総理府令)1条の基準値以下,BODとSSが共に1リットルあたり10ミリグラム以下,pHが6から8,大腸菌が1ミリリットルあたり3000個以下となり,ほぼ清水に近い状態で放流される(乙31参照)。

(8) 本件処分場の維持管理について

改正共同命令に準拠した処分場が建設されたとしても,保守管理や,運転操作及び埋立作業等が不十分であれば,遮水シートが破損したり,浸出液の処理が十分に行われず,重金属類等が基準値以上の濃度で放流されるなどの事故が発生する。実際,廃棄物処分場において発生する上記のような事故の原因のほとんどは,設備の欠陥ではなく,日常の管理などが十分に行われていなかったことにあり,その内容は大別して①資金不足に起因するものと,②経営者の廃棄物処理に関する知識,技術,経験不足に起因するものに分けられるが,本件処分場に関しては,そのような問題はない。

まず資金面についてであるが,本件予定地(担保権の設定は一切ない。)は被告会社の代表取締役であるIが所有しており,本件処分場の設置に関し既に費やした資金も南日本建設に対して負担した本件工事の一部費用程度である上,今後必要とされる本件処分場の工事代金(約20億円)及びd部落に関する簡易水道敷設費用(約3000万円)に関しても融資を受けることが決まっているから,被告会社に財政的な不安要因はない。

受入管理については,本件処分場では,継続的な処理委託契約を締結した特定の排出事業者からの廃棄物のみを受け入れ,搬入券を事前に販売しない予定であり,不特定多数の排出事業者からの受入れは行わない。また,搬入される廃棄物の性状等については目視検査を実施するほか,安定型処分場において法的に義務づけられている展開場所を用意し,すべての廃棄物につき展開検査を実施して,マニフェスト伝票等と照合するとともに,被告会社において分析施設(原子吸光光度計,ガスクロマトグラフ,分光光度計,還元気化装置,pHメーター,DOメーター,液体クロマトグラフ)を設置の上,専門業者である有限会社南日本環境科学にその管理を委託し,専従技術者の常駐派遣を受けて日常的に搬入廃棄物の有害物質の濃度や浸出液等の分析を行い,埋立基準を超える廃棄物の受入れは拒否して持ち帰らせるなどの厳格な受入管理に役立てる。なお,これらの分析結果は近隣住民にも公開する。

浸出液処理設備については,浸出液を処理が可能な濃度・水量に常に調節しておくことが必要であるが,その設計を担当した九州化工株式会社に管理を委託し,昼間は同社の専従技術者を常駐させ,夜間に異常が発生した場合には,自動的に同社に通報され,夜勤技術者及び専従技術者が25分以内に本件処分場に駆けつけて対処するというシステムを採る予定である。また,同社は浸出液処理設備の管理に必要な分析施設を有しているので,水質分析は同社に担当してもらう。

さらに,廃棄物の埋立作業については,南日本建設から,数十年間廃棄物処分場で同作業に従事し,重機の操作に熟達している従業員の派遣を受ける予定であり,以上のとおり,施設運営面での不安要素も全くない。

なお,i町の農地で発見された廃棄物は,地主から嵩上げを請け負った森光運輸が勝手に投棄したものであって,南日本建設はこれに一切関与しておらず,本件訴訟中に新たに発見されたコンクリート塊なども,上記と同一の機会に森光運輸が投棄したが発掘されていなかったものである。この点については,県も,平成17年3月に現地を調査し,関係者からの事情聴取をした上で,同様の結論を出しているところである。

(原告らの主張)

(1) 擁壁について

本件処分場の擁壁が改正共同命令に適合するとの立証はない。

(2) 遮水シートについて

遮水シートによる遮水工は,天然遮水工や鉛直遮水工と比較すると,破損のリスクがはるかに大きい。実際,東京都日の出町の谷戸沢処分場,長崎県北松浦郡小佐々町の一般廃棄物処分場,東京都八王子市の戸吹最終処分場において,いずれも遮水シートが破損しており(甲2001から2003まで及び甲2005参照),岡山県及び三重県においても,管理型処分場の設置許可申請に対し,遮水シートが破損するおそれがあるなどとして,県知事が不許可決定をした事例がある。また,旧厚生省生活衛生局の平成7年12月22日付け通達の内容からすると,厚生労働省も遮水シートが破損しているという認識を持っており,それを前提として指導をしていることが明らかである。さらに,安定型処分場の建設差止めに関する裁判例でも,遮水シートの破損の可能性は否定できないと判断されているものが多い。

一般に,荷重に相違がある部分には剪断力が作用するところ,遮水工には,埋設処分される廃棄物の高さと密度に応じた不均一な荷重がかかり,下部の地盤の強弱による不等沈下と相まって必ず剪断力が作用するので,遮水工は必ず破損の危険性を有することになる。また,円弧滑りという一種の地滑りによる法面の崩壊や,地下水ないし湧水の水圧により,法面の遮水シートが破損する危険性もある。

この点,遮水シートのメーカーによる試験結果として,シートの耐用年数は,太陽光線,風雨にさらされた場合でも概ね50年以上という試験結果が出されており,また,地下に埋め立てられて太陽光線,熱,風雨に直接さらされない以上,シートの寿命は半永久的であるとの主張がされることがある。しかし,遮水シートの有力メーカーの資料によると,廃棄物処分場で現実に使用された遮水シートの耐用年数は,各種の条件が複合して作用するため,メーカーによる評価試験によるものとは一致せず,それより非常に短くなると指摘されており(甲2007参照),その一方で,現実の耐用年数がどれくらいの期間であるのかは一切述べられていない。このように,メーカーの主張する遮水シートの耐用年数については,理論的根拠が薄弱で信用できず,被告会社は,廃棄物等の荷重,埋立作業用の車両等による衝撃力,基礎地盤の変位,温度応力に対応できる性能を有することを立証できていない。

なお,被告会社は,ニポリンシートSSについて,1平方メートルあたり200トンの荷重を受けても影響はないと主張するが,これは机上における計算上の数値にすぎず,また,本件処分場において現実にかかる荷重が上記の数値以下であるかどうかは分からないのであるから,本件処分場における耐用性を測定する指標とはなり得ない。

また,被告会社は,遮水シートの自己修復システム(T&OHシステム)を採用するというが,これがあっても,操業者が自ら検査をしなければ異常は発見できないところ,被告会社が適切に検査を行うという保証はないし,仮に検査をしたとしても,検査結果の判定は被告会社が行うのであり,自ら不利となる判定を行うことは到底期待できない(なお,T&OHシステムには,異常かどうかの判定基準が3つあるが,それらを総合的に検討した上,最終的には水質検査により決定するという,極めてあいまいなものであり,また,この水質検査を実施するかどうかも操業者の判断に委ねられており,報告義務もない。)。加えて,遮水シートの損傷という結果が出れば,その修復費用(1か所あたり約200万円)は操業者が負担しなければならず,政治・社会問題にもなるから,被告会社が損傷という結果を隠蔽するおそれがある。さらに,T&OHシステムの修復方法は,不織布とゴムシートの間を修復材が広がっていくというものであり,不織布自体が損傷した場合には何らの効果もないし,破損部分が大きい場合は,修復自体が不可能である。

(3) 基礎地盤について

本件予定地の地盤は,場所によって良好な支持層の出現深度が異なるから(乙83参照),その強度は不均等であり,廃棄物の不均等な埋立てによって荷重がかかれば不等沈下の危険性が増し,遮水シートの破損原因ともなる。

被告会社は,地盤の強化にベントナイト混合土を使用すると主張するが,同混合土にはシラスの強度を増加させる効果はなく(乙143参照),改良地盤についても不等沈下等によるひび割れが生じていれば無意味である。

なお,被告会社は,当初,地盤工事にサンクリート工法を採用すると主張していたが,原告らが同工法の問題点(地盤の強度を強化するものではないこと,強度はサンクリートとセメント,シラスの混合割合や工事後の養生により著しい差が生じること,サンクリートとセメントの混合は酸に対し弱いこと)を指摘すると,ベントナイト混合土の使用を主張したもので(それについても問題があることは上記のとおりである。),検討の不十分さが顕著である。

(4) 地下水集排水設備について

地下水集排水管は,①万一,浸出液が漏洩した場合にその浸出液をすべて集めるということと,②地下から処分場内に圧力を加えようとする地下水を排泄するという2つの目的のために設置されるものである。

ところが,本件処分場のそれは,10メートル又は20メートルの間隔で埋設されるのであるから,漏洩したすべての浸出液を集水し,また,すべての地下水を排泄できないことは明らかであり,どれだけ効果があるのかは不明というほかない。

(5) 保有水等集排水設備について

これについても改正共同命令に適合するとの立証はされていない。

(6) 調整池について

本件調整池については,前記仮処分決定が,その容量を超えて埋立地内に浸出液の貯留する状態が5月から9月までの間だけで約1か月以上継続する年が,昭和55年から平成11年までの20年間で7年存在すると指摘しているとおり,改正共同命令に適合していないことが明らかである。

(7) 浸出液処理設備について

浸出液処理は,汚染負荷量の変動に対応して行わなければならないから,まず浸出液受入槽の浸出液の水質を明らかにし,浸出液処理フローの各段階において有害物質がどれだけ除去されるのかを,具体的なデータに基づいて明らかにすべきであるが,被告会社は,処理されて放流される浸出液の水質がどの程度のものになるのかについて,実測データを全く示していない。

本件処分場の浸出液については,被告会社によると,第1次から第3次の処理まで行うとのことであるが,各処理段階において,有害物質を除去する効果を発揮するために適切な濃度やpH等が設定され,それに対応した量の薬剤が投入されるべきなのであるから,浸出液の処理を適正に行うためには,浸出液に含まれている有害物質を特定した上,各処理段階において有害物質の適切な濃度やpH等が保たれていることが必須の条件となる。ところが,降水量だけでなく,搬入廃棄物の中に存在している物質の種類や濃度自体も一定ではないから,本件調整池程度ではその一定化を図ることは困難であるのに,被告会社は,試運転の段階で分析値を確認して操業条件を設定し,あとは月に2回程度,不定期に浸出液の分析を行うとするのみであるから,刻々変動する浸出液の水質を正確に把握することは不可能である。

各処理段階を検討しても,まずキレート処理について,被告会社はこれをエポフロックL─1という硫化物により行うとするが,エポフロックL─1と反応する重金属類は限定されており,処理できない重金属類も存在する。さらに,浸出液中に重金属類と共存している可能性がある代表的物質として塩類,酸化剤,還元剤,有機物,アンモニア及びロッシエル塩が考えられるが,これらがエポフロックL─1に反応してしまい,その分,エポフロックL─1の重金属類除去の効果が落ちる可能性もあるため,エポフロックL─1の必要投入量は実際の原水を使用してテストしてみなければ判明しない。

次に,生物処理においては,温度や栄養剤によりバクテリアをいかに適正に管理するかということが重要であり,それには専門的知識と経験が必要とされるところ,被告会社は何らの対策も講じていない。

また,凝集沈殿は,SSや重金属類を一定の凝集剤を用いて固体と液体に分離し,固体を除去するというものであるが,被告会社の技術者(M)の説明によれば,仮に凝集剤の量が適正であったとしても,最大で10%の重金属類が除去されずに残るということであるし,その量が適正でなければ残存する重金属類はより多くなる。

一方,紫外線+オゾン酸化処理は,酸化剤の組み合わせや適用条件が多岐にわたるため,その最適プロセスが確立されていないなど,まだ効果が証明されていない未成熟の技術であるし,逆浸透膜についても,処理水の濃度と水量の適正条件が問題となる。

被告会社は,これらの点につき,メーカーのパンフレットをデータとして提出しているが,それらのデータは最終製品の性能を保証するものではないとされており,したがって,本件処分場の浸出液が適正に処理されるという証明はされていないものというべきである。

(8) 本件処分場の維持管理について

ア 搬入廃棄物の検査体制

被告会社の代表取締役の1人であったNは,その陳述書(乙136)において,①搬入廃棄物の受入時は必ず現物をサンプリングして分析を行い,受入れサンプルの分析表との比較検討を行う旨及び②継続して搬入される廃棄物については,一事業所につき月に最低2回のサンプリングを受入れの際に不定期に行い,分析する旨を述べているが,鉱さい,汚泥,燃え殻,ばいじん及びプラスチックなどについては,特定の企業の特定の施設から排出されたものであっても,そこに含まれる有害物質の種類及び濃度は,搬入するダンプ1台ごとに千差万別であり,処分場の入口でいかに正確な展開検査を行ったとしても,それだけで判断できるものではない。

また,分析検査を何人で行うのかや,サンプルの採取方法,分析結果が判明するまでに必要な時間,それが出るまでの間の搬入廃棄物の保管場所,受け入れられない廃棄物を持ち帰らせる方法など,受入管理に必要な一連の手順が全く検討されておらず,実際に検査を行うのか甚だ疑わしい。

イ 実行可能性

受入管理以外の点についても,人的・物的に実行できる具体的な体制や手順などが真剣に検討されていない。被告会社の主張は,違法な廃棄物は搬入されない,遮水シートは破れない,浸出液は安全に処理できる,排出した水は原告らに到達しないという立前論に終始しており,現実には実行しないのではないかという強い不安と不信感を抱かざるを得ない。

また,被告会社が採用するという技術のかなりの部分は最新技術であり,既に信頼性が確立されている技術ではない。その技術の性能等を裏付ける証拠とされているのは,メーカーのパンフレットだけであり,被告会社は,自然界はビーカー内と同じではないということを全く無視している。

さらに,被告会社は経費の計算も示そうとせず,原告らの質問に答えて提出されたものは大雑把な計画のみであり,このことからも,被告会社が本気で本件処分場に関する計画を実行する意思を有していないことが認定される。

ウ 産廃処理業者としての適格性

Iが代表取締役をしていた南日本建設は,被告会社が本件処分場を建設するために,本件予定地に埋立済みであった廃棄物を掘り起こして違法に農地に投棄したのであるから,被告会社が廃掃法7条5項4号トの規定にいう「その業務に関し,不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に当たることは明らかであって,被告会社は,本来,産廃処理業者として認めてはならない業者である。

なお,平成17年3月23日にi町の農地で新たに発見された廃棄物については,その量(800ないし900トンと推計される。)と内容物(有毒ガスの発生している汚泥も含まれる。)からみて,森光運輸の仕業ということでは説明できず,南日本建設が投棄したことが明らかである。

4  本件処分場から未処理又は十分に処理されていない浸出液が漏出した場合,それに含有される物質が,原告らの利用する井戸水に混入するかどうか。

(原告らの主張)

原告らは,肝属川流域の河川水及び地下水が流入する井戸の水を飲用水などとして利用しているが,本件処分場に関する被告会社の計画では,処理された浸出液と地下水集排水設備からの排水は肝属川に放流されることとされているので,十分な処理が行われなかった浸出液や,遮水シートから漏洩し,地下水集排水設備で集水された未処理の浸出液があった場合,それに含まれる物質は,当然,肝属川を経て原告らの井戸水に混入することとなる。

本件処分場の浸出液で地下水に流入するのは,遮水工の破損などにより漏洩し,かつ,地下水集排水設備で集水されなかったものだけであり,被告会社の計画によれば,遮水工から漏洩した浸出液についてもそのほとんどが地下水集排水設備で集水されるというのであるから,本件予定地を流れる地下水が,肝属川(南西)方向に流れているのか,それとも串良川(南東)の方向に流れているのかは,本質的な争点ではない(この点に関する被告会社の主張は,本件訴訟に至って初めてされたもので,被告会社も本件処分場の設置許可申請に際しては,「西側の肝属川周辺への水の流れがあるものと推定される」と記載されたボーリング調査結果を県に提出していたところである。)。

のみならず,シラス台地の地形は基本的に基盤岩の地形に従っているということは,シラス台地研究の第一人者である鹿児島大学の大木公彦教授によって明らかにされた通説的な考え方であるところ(甲2044,2045参照),大木教授によると,火砕流堆積物で構成されている地域に見られる現地形や,火砕流堆積以前の旧地形の状況などから,基盤岩侵食面の起伏をある程度類推することができるとのことであり,これに従うと,本件予定地を流れる地下水については,肝属川方向に向かうことが明らかというべきである。

(被告会社の主張)

本件処分場は笠野原台地の北端に位置しているが,3次元浸透流解析の結果によれば,笠野原台地の地下水は,本件処分場から串良川方向に流れており,肝属川方向には流れていない(乙59参照)。また,高密度電気探査の結果等によれば,笠野原台地の地下水には肝属川水系と串良川水系との間に分水嶺はみられず,むしろ地下水面が一体として串良川方向へと傾斜している可能性が確認されている(乙134参照)。

したがって,仮に遮水シートが破損するなどの事故により未処理の浸出液が地中に漏出して地下水に混入したとしても,原告らの生命・身体に被害が発生することはあり得ない。

仮に上記地下水が肝属川方向に流れており,かつ,本件処分場から漏洩した浸出液がこれに混入したとしても,原告らの大半の住居は3キロメートル以上離れているので,遮水シート下のベントナイトとシラスの混合土層や(これを通過するだけで約350年を要する。乙219参照),更にその下のシラス層,地下水層が流下するシラス層及び軽石層によるろ過・希釈効果をも考慮すれば,原告らの生命・身体に被害が発生することはあり得ないというべきである。

さらに,原告らの居住地周辺の地下水位の深度は約40メートルであるのに対し,原告らの利用している井戸は深さ10メートル程度の井戸であることや,湧水池である鬼山池が存在していることからして,その井戸水は,肝属川由来のものではなく,h山系の伏流水であると考えられるので,本件処分場から浸出液が漏洩して地下水に混入したとしても,原告らがこれを飲用する可能性はないものというべきである。

5  Eら22名による共同不法行為の成否及びその成立が認められる場合における被告会社の損害額

(被告会社の主張)

Eら22名は,被告会社が南日本建設に発注して本件工事を開始した平成11年4月18日から同年8月31日までの間,本件処分場の建設に反対する他の周辺住民とも意思を相通じて,日曜・祭日を除く毎日,工事の作業が行われる度に,Iが所有し南日本建設が管理する工事現場に,I及び南日本建設従業員の制止を振り切って多人数で侵入した上,その入口部分に自動車を横に並べて駐車したり,工事阻止の横断幕を掲げて入口を塞いだり,あるいは地面に座り込むなどの方法で,工事車両の出入りを妨害するとともに,杭打ちの際に杭の上に手を出したり,打ち込まれた杭を引き抜いたり,重機にぶら下がったり,さらには暴言で作業員を挑発して暴力を振るわせようとするなどの方法で,工事作業を妨害するという違法行為を繰り返した。

この点,丙事件被告らは,説明会を開くまで工事を中断するよう求める行動であったにすぎない旨を主張するが,Eら22名は,県知事が指定した「関係地域」の住民ではない上,県環境生活部長や担当課長からも本件処分場の計画について十分に説明を受けていたものであるから,その説明会開催要求は本件工事を中止させるための方便にすぎないし,工事の中断を要請するためであったにしても,上記のように実力を行使することが許される理由はないから,その行動を適法視する余地はない。

したがって,Eら22名には,上記行動により被告会社が受けた次の損害,すなわち,①被告会社が無駄に南日本建設に負担することになった工事代金5155万4076円と,②被告会社が結局は無意味に鹿屋市土木事務所に支払った上記工事期間中の道路占有料225万3420円の合計5380万7496円について,共同不法行為による損害賠償責任がある。

(丙事件被告らの反論)

Eら22名は,被告会社が本件処分場に関する説明会を開くまで本件工事を中断するよう求めて行動したにすぎず,それに至る経緯や具体的行為の態様に照らすと,その行動が違法であったとはいえない。

第5  当裁判所の判断

1  争点1(本件差止請求に関する主張・立証責任)について

本件処分場に搬入される予定の産業廃棄物の中に,人の生命・身体の安全に重大な悪影響を及ぼす物質である重金属類及びダイオキシン類が含まれているであろうことについて当事者間に争いはない。

しかしながら,人は,相互に影響し合わずに社会生活を営むことはできないのであるから,自らの生命・身体の安全に何らかの影響があるからといって,直ちに他人の活動を止めさせることはできず,いわゆる受忍限度を超える健康被害を受ける蓋然性がある場合に初めて,人格権に基づく差止請求権の行使が可能になるものと考えるべきであり,また,その請求権の発生要件となる上記の点についての主張・立証責任は,民事訴訟の一般原則どおり,その請求権の存在を主張する者において負担するものと解すべきである(これと異なる旨をいうものと解される原告らの主張は採用できない。)。

もっとも,まず,その健康被害が受忍限度を超えるものであることという点についていえば,本件では,上記のような有害物質が飲用に供される井戸水に混入するかどうかが問題となっているのであるから,その混入の蓋然性が肯定される場合には,それによって生じ得べき健康被害が受忍限度を超えるものであることについては,他に特段の反証がない限り,事実上,推定されるものというべきである。

また,そのような健康被害が発生することにつき,単なる可能性ではなく,蓋然性があるものと認められることを要するとの点についていえば,本件では,本件処分場から未処理(適切に処理されていないものを含む。以下同じ。)の浸出液が漏出して,それに含まれている物質が河川又は地下水を通じて原告らの利用している井戸水に混入する蓋然性の有無が問題となっているものであるところ,①廃掃法が,共同命令の遵守の有無を1つの基準として,産業廃棄物の最終処分場の設置の許否を決すべきものとしていることや,②改正共同命令は,科学的知見及び技術水準を踏まえつつ,最終処分場に対する国民の不安感を払拭することをも考慮した上で,最終処分場の安全性を確保するために策定されたものと考えられることからすると,その遵守は,本件処分場の設置許可を受けた被告会社において当然に果たさなければならない行政上の義務であると同時に,周辺住民に対する関係でも,それに定められた技術上の基準を確保すべき責務を負うものと解されるから,被告会社において,本件処分場が改正共同命令に適合していることを立証できない限り,それから未処理の浸出液の漏出が生じる蓋然性があることが,事実上,推定されるものというべきである。

2  争点3(改正共同命令への適合性)について

そこで,次に(争点2に関する検討を留保して)争点3について検討する。

(1)  擁壁について

ア 証拠(乙20,証人P)によれば,本件処分場の擁壁は,有限要素法による自重及び地震解析において,安全率が1.0を下回らなかったことが認められる。したがって,上記擁壁は,自重及び地震力等に対して構造耐力上安全であると認められる。

イ また,証拠(乙2,乙20,乙146)及び弁論の全趣旨によれば,上記擁壁は土堰堤であり,その側面には5層の遮水シート工を敷設する予定であることが認められるから,この擁壁の計画は,廃棄物や地表水等による腐食防止のための措置が講じられているものといえる。

ウ そうすると,本件処分場の要壁は,改正共同命令に適合するものと認められる。

(2)  遮水シートについて

証拠(乙16,乙22,証人Q)によれば,ニポロンシートSSの透水係数は,毎秒2.7×10-12センチメートルであり,改正共同命令1条1項5号イ(1)(イ),同(ロ)の遮水層の遮水性能と比べて,理論上約1000倍の遮水性を有していること,1平方メートルあたり200トンの負荷(本件処分場の最大埋立高を大幅に上回る約110メートルに相当する負荷)をかけた場合のニポロンシートSSの安全率(ここでは,限界伸び率を最大引張ひずみで除した数値を指す。)は,上層で1557.69,下層で1588.24であり,14.3%と最も限界伸び率が低い不織布においても,安全率は上層で6.36,下層で5.18であること,ニポロンシートSSを60℃の0.05%H2SO4aq(酸性)で240時間処理した場合,伸び率比は長手で101%,幅で100%であり,60℃の飽和Ca(OH)2aq(アルカリ性)で240時間処理した場合,伸び率比は長手で99%,幅で99%であること,ニポロンシートSSを80℃で240時間熱処理した場合,伸び率比は長手で100%,幅で101%であることが認められる。

上記認定事実によれば,ニポロンシートSSは,改正共同命令に適合する遮水工を構成するに足りるものであると判断される。

この点につき原告らは,本件処分場にかかる荷重が1平方メートルあたり200トン以下とは限らないと主張するが,この200トンの負荷は,本件処分場の最大埋立高40メートルの2.5倍以上の埋立高に相当する負荷であり,これ以上の負荷が生じることは容易に想定できない。

また,原告らは遮水工が必ず破損するように主張するが,ニポロンシートSSの上記特性に照らすと,原告らの主張は採用し難い。

さらに,原告らは,遮水シートの損傷検知・補修システム(T&OHシステム)についても論難するが,改正共同命令はこのようなシステムを備えることを要求していないから,それへの適合性の関係では意味を有しない。

(3)  基礎地盤について

証拠(乙25,乙157,乙158,乙161,乙189,証人P)によれば,本件処分場の基礎地盤は,本件処分場の最大負荷(59万4688トンから217万8521トン)を考慮した有限要素解析(対象物の形状や物性を考慮し,荷重を加えた際の対象物の変形挙動を調べる手法)の結果,安全率が1.0を下回る分布がなかったこと,上記地盤中の3か所の地点で実施したスウェーデン式サウンディング試験の結果,地面からの深さがそれぞれ3メートル,2.5メートル及び6.75メートルの地点における換算N値(15以上で「爪で印が付けられる」程度の非常に固い地盤,30以上で「爪で印を付けるのが難しい」ほど特に固い地盤とされる。)がそれぞれ89.9,88.8及び84.5であったこと,本件処分場の底面は,これらより更に5ないし10メートルほど掘削した地点に水平に整地される予定であることが認められる。

したがって,上記地盤は,廃棄物の荷重その他予想される負荷による遮水層の損傷を防止するために必要な強度を有しているものと認められる。

なお,原告らは,株式会社大東ボーリングによる報告書(乙83)によると,本件予定地の地盤は場所によって良好な支持層の出現深度が異なるとされているので,本件予定地の強度は不均等であり,不等沈下により遮水シートを破損するおそれがある旨主張するが,証拠(乙2,被告会社代表者I)によれば,上記報告書においてボーリング孔とされている地点はいずれも埋立予定地外であることが認められ,他に本件処分場の地盤が不等沈下を起こし易い性状であることを裏づけるような証拠もないから,上記主張は採用できない。

(4)  地下水集排水設備について

証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件予定地のボーリング検査の結果,地下水位は西側で38.7メートル,東側で50.3メートルであり,湧水による遮水工の損傷のおそれはないことが認められるので,本件処分場では地下水集排水管の設置は要求されていないものというべきである。

(5)  保有水等集排水設備について

証拠(乙27,乙28)によれば,本件処分場の保有水等集排水設備は,高密度ポリエチレンのダイプラハウエル管を採用した上,指針解説を参考に設計されており,浸出液を円滑に集水管に流すために,その被覆材の積上高を1メートル,幅を1.8メートルとすること,また,主幹の管径を600ミリメートル,勾配を1.5%とすることで,浸出液を全量排出することができるようにすること,土砂やゴミ,スケール等による目詰まりを防止するため,粒径50から150ミリメートルの栗石及び単粒砕石を用い,集水管周辺のフィルタ材には20から30ミリメートルの単粒砕石を用いる予定であること,ダイプラハウエル管に100トンの荷重(水分を含んだ廃棄物を約55メートルまで積み上げた重さに相当する。)を与えて,有限要素法により耐力解析を実施したところ,安全率は最小値でも2.56で,1.0を下回ることはなかったことが認められる。

この認定事実によれば,本件処分場の保有水等集排水設備は改正共同命令に適合しているものと判断される。

(6)  調整池について

ア 証拠(乙2,乙19,乙25,乙30,乙36,乙143)及び弁論の全趣旨によれば,本件調整池は,ベントナイトとゴムアスファルトによる二重構造であり,ベントナイトの透水係数は毎秒約1×10−8センチメートルであること,本件処分場はその構造上,底盤から5メートルの高さまでは保有水等を一時的に貯留することができ,これを計算に入れると,本件処分場の限界貯水量は4万3223立方メートルと計算されること,指針解説は,本件調整池のような設備に要求される最大容量を計算する方法としては,「合理式」による方法と,「降雨があってから浸出液が生じるまでの時間差を考慮した水収支モデル」による方法(合理式によるのよりも表層保水能や流出抵抗により保有水等の量が平準化される傾向がある。)があり,経済性や施設稼働率を考慮して最適な規模を選定すべきものとしているところ,前者によると,昭和55年から平成12年までの21年間に浸出液量が限界貯水量を上回ったであろう日数としては平成5年の70日があるが,同年の年間降水量は4022ミリメートルで,過去117年間で最も多かったこと,これに対し,後者の方法によると,上記21年間で浸出液が限界貯水量を超える日数はなく,本件調整池の貯水量(8141立方メートル)を超えて埋立地内に浸出液が貯留したであろう日数は合計172日であるが,そのうち122日は平成5年におけるものであることが認められる。

イ 上記アの冒頭で認定した事実によれば,本件調整池は耐水構造となっており,亀裂や漏水が生じる可能性は少ないものと認められる。

ウ 次に,指針解説(乙19)によると,浸出液調整設備には,豪雨時あるいは寒冷地にあっては融雪時等に生じる浸出液の急増対策,あるいは季節的水量変動の調整という機能があるものとされ,浸出液調整設備の規模の基本的な考え方としては,浸出液量は降雨によって大きく変動するので,水処理設備を安定して稼動させるためには適切な規模の浸出液調整設備を設置することが重要であり,浸出液量やその変動幅は,地域の気象条件,埋立地の立地条件,埋立物の質などにより大きく異なるので,地域の気象条件や地域の実情をよく把握した上で,総合的な検討により,浸出液調整設備の規模を決定すべきものとされている。

また,証拠(甲2055,甲2060,証人R)によれば,「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令」4条で定める検定方法ではpH5.8から6.3(中性が7であるので,弱酸性である。)を前提とした溶出試験を行い,これによる重金属類等の溶出が基準以下のものだけが管理型最終処分場で処理可能とされているところ,現在ではこれを大きく上回るような酸性雨が発生することも稀ではなく,酸性が増す場合や水分に長く浸されている場合には重金属類が溶出しやすくなることが認められるから,重金属類の廃棄物からの溶出を防ぐためには処分場内で浸出液を貯水することは可及的に避けることが望ましいものというべきである。

ところが,上記アで認定したように,指針解説が定める算定方法の一方である合理式によれば,過去117年間で最も降水量が多かった平成5年においてではあるが,本件処分場における浸出液量が限界貯水量を超えた日数が70日もあるというのであり,浸出液の処理は,本件処分場の埋立期間(被告会社代表者Iの供述によれば最大で15年程度)を超えて廃棄物が無害化するまで相当長期にわたって問題になることを勘案すると,浸出液調整設備の機能及びその規模の決定についての基本的な考え方に照らし,本件調整池の容量が万全であるとは解し難い。

しかも,証拠(乙2,乙21,証人P)によれば,本件処分場の埋立地外周側溝の勾配を1ないし3%と設定しても,シラスの流出係数を0.70(指針解説による数値の倍),集水流量を側溝の8割,処分場内での降雨が一切浸透しないと仮定した場合,1時間122ミリメートルの降雨量(鹿屋地区において30年に1度発生する確率がある短時間降雨強度)が発生した際に側溝を通じての処分場外への排水が可能かどうかに関する安全率はせいぜい1.01から1.14と算出されているところ,実際には本件処分場の外周側溝の勾配は0.3%程度であるから,豪雨の際には側溝が溢れて埋立地外側の地表水が埋立地内に流入する可能性が否定できず,このような事態が生じた場合には本件調整池への負荷も更に増加することになる。

したがって,本件調整地については,保有水等集排水設備により集められる保有水等の量を勘案して適切に設定されていると直ちに評価することはできず,改正共同命令2条1項4号,1条1項5号ホに適合していない懸念が残る。

(7)  浸出液処理設備について

証拠(乙17,31,43,45,46,証人M)及び弁論の全趣旨によれば,液体キレート剤であるエポフロックL─1は,水銀,カドミウム,銅等の重金属イオンと反応して不溶性塩を形成し,フロックを生成すること,接触ばっ気法により汚水のBODを相当程度処理し得ること,紫外線+オゾン酸化法によりCODを除去することができ,ダイオキシン類の分解も可能であると考えられること,逆浸透膜装置により鉄,銅,ニッケル,亜鉛等のイオン状物質,硬度成分などの除去が可能であることが認められる。

しかしながら,他方で,まず,証拠(証人M)によれば,一般的に液体キレート剤は重金属類の中でも吸着できるものとそうでないものがあり,エポフロックL─1もその例外ではないから,液体キレート剤が吸着できない重金属類については,主に凝集沈殿の段階で対処するほかないこと,液体キレート剤が浸出液中の塩化物に反応してしまい,重金属類を除去する効果が薄まる可能性もあること,そのために液体キレート剤の量を適宜調整したり,凝集沈殿槽を継続的に観察してその処理状況を監視するのが重要であることが認められる。

次に,接触ばっ気法については,証拠(証人S)により活性汚泥法よりも管理が楽であることは認められるが,他方で長時間の酸化分解を行う活性汚泥法に比べて処理水の濃度変化に対応する力が劣っていることは被告会社自身も認めており,それゆえにこそ当初は活性汚泥法を採用するとしていたものである(平成13年2月1日付け被告会社準備書面(1)第3.2ロ)が,計画を変更して接触ばっ気法を採用するに当たり,被告会社がこの点につき十分な代償措置を講じるであろうことを認めるに足りる証拠はない。

加えて,これら浸出液処理設備の一部が故障した場合につき,被告会社は浸出液及び処理中の水を本件調整池に返送して再処理を行うとするが,本件調整池の容量が万全とはいえないことは既に認定したとおりであり,返送によっても浸出液の漏洩は何ら考えられないとする被告会社の主張はやや根拠薄弱といわざるを得ない。

また,それぞれの処理方法は,他の処理方法と組み合わせて使用することを想定して作られているわけではないから,仮に単独で前認定の効果を発揮するとしても,他の処理方法と組み合わせることにより,その本来の効果が発揮されなくなることも考えられる。

そして,以上の点に弁論の全趣旨を総合すると,被告会社が予定している個々の処理方法により除去できる物質等は明らかであるとしても,当該処理方法を実際に本件処分場において採用される浸出液処理設備(別紙「排水処理装置フローチャート」参照)に組み入れた場合に,それが本件処分場から現に生じる浸出液を排水基準に適合させることが可能かどうかについては,実際に本件処分場の供用を開始した後の試運転段階で浸出液を測定してみなければ判明せず,しかも,その浸出液の濃度や内容は降雨量や廃棄物の量・種類等によって常時変動する余地があることが認められる。

したがって,本件処分場の浸出液処理設備が改正共同命令に適合しているものと即断することはできないし,仮に設備自体はこれに適合しているとしても,その維持管理の方法によっては浸出液を適正に処理できない蓋然性があるものというべきである。

(8)  本件処分場の維持管理について

ア 前記のとおり,改正共同命令は,最終処分場の維持管理についても規定しており,また,改正共同命令に適合した処分場が建設されたとしても,その維持管理が適切に行われなければ,遮水シートの破損あるいは浸出液の処理が十分でないことなどにより処分場から未処理の浸出液が漏出する事故が発生するおそれがあることについては,被告会社も自認するところである。

そうすると,改正共同命令が定める各設備が,その本来の機能を確実に発揮するような維持管理が行われる体制が採られていることを被告会社が立証できない限り,やはり,本件処分場から未処理の浸出液が漏出する蓋然性があることが,事実上,推定されるものというべきである。

イ 証拠(乙204,被告会社代表者I)及び弁論の全趣旨によれば,本件処分場については,設置許可申請時の工事予算は13億6280万円であったが,その後の計画変更により工事費用が4億2336万7200円増加し,総工事費用は17億8616万7200円となったことが認められる。また,証拠(乙31,乙178)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,本件処分場の操業に要する費用として,浸出液処理設備関係だけで年間2100万円程度を見込んでいることが認められる。

しかし,本件処分場の維持管理に関しそれ以外に要する費用としてどの程度を見積もっているのかについては,被告会社は具体的な立証をしない。この点,乙2によれば,許可申請段階における計画では借入金償還を除く事務費と付帯工事費とで年間1億1300万円程度の費用を見込んでいたことが認められるが,浸出液処理設備の管理を九州化工株式会社に委託するほか,搬入廃棄物に対する展開検査の関係で,分析装置を設置した上,有限会社南日本環境科学から分析担当職員の派遣を受けてその管理委託するというのであるから,維持管理費用が当初の計画よりも相当高額になることは自明である。

また,被告会社は,本件処分場を稼動した場合に得られるであろう収益の見込みについても,具体的な裏付けのある立証をしていない。もっとも,被告会社代表者Iは,「鹿児島県廃棄物処理計画」(乙200)において,平成18年度に管理型処分場で処分されるべきものとして推計されている117千トンの産業廃棄物のうち,96千トンと推計されている汚泥がすべて本件処分場で処理されることを前提に,1トンあたり1万8000円として172億円以上の売上が予測されるから,上記工事費用等を負担しても赤字になる可能性は全くない旨供述している。しかしながら,県内で排出されるすべての汚泥が上記金額によって本件処分場で処理されるという確たる根拠はないから,上記予測には客観的な裏付けがないものというほかはない。

被告会社が本件処分場の設置許可申請をした後,c町内会f班などの周辺住民が公共関与を陳情したり,鹿屋市長が公共関与を望んだのは,主に被告会社が資金面で,本件処分場を継続的かつ安定的に運営できるか否かを心配していたからであるにもかかわらず,被告会社はその後も具体的な収支の見込みを立てることなく今日まで至っているのであって,この事実からは,被告会社が,その主張するような管理体制において本件処分場を,その計画期間を通じて適切に維持管理できるかどうかは,相当に疑わしいものといわざるを得ないし,被告会社が言及する維持管理積立金制度(廃掃法15条の2の3,8条の5)も,平成9年6月の改正で導入されたもので本件処分場については適用されないから,その存在は上記のような疑念を払拭する方向には作用しない。

ウ また,「基礎となる事実」4及び5で認定した事実に,証拠(甲30の2,甲41,甲57,甲58,証人T,甲事件原告U,同V)及び弁論の全趣旨を総合すると,i町の農地に土砂と共に投棄されたコンクリート塊などの廃棄物(平成17年3月に新たに発見された分を含めると,現に発見されたものだけで少なくともダンプカー約30台分はあるものと推測される。)については,すべて平成9年7月ころに南日本建設の指示で本件旧処分場から搬出されたものであって,同農地の所有者であるKは,これにつき無償で道路と同じ高さにまで嵩上げをする旨の申出を受け,使用するのは土砂のみであるとの説明を信じて,これを承諾したものであることが認められる。

この点につき,被告会社は,森光運輸(代表取締役W)作成の陳述書(乙226)や平成17年第2回鹿児島県議会定例会における県職員の答弁内容(乙235,乙236)等を根拠に,南日本建設が本件旧処分場から搬出したのは土砂のみであり,コンクリート塊などの廃棄物については森光運輸が投棄したものであると主張する。

しかしながら,南日本建設が運営していた本件旧処分場から搬出されたもので嵩上げされた農地からコンクリート塊(安定型最終処分場において埋立可能な産業廃棄物である。)などが見つかったという客観的事実及び発見された廃棄物の規模や内容からみて,特段の事情がない限り,それらは南日本建設の指示で搬出されたことが推認されるものというべきところ,森光運輸の倉庫の周辺にあったコンクリート塊などを投棄したとするWの陳述内容は,その陳述する廃棄量が,新たに発見された廃棄物が出る度にその廃棄物の量に一致するように変遷するなど,およそ不合理で信用できず,主として同人の話に依拠した県の調査結果についても,i町の農地から新たに廃棄物が大量に発見された平成17年3月以降においては,その合理性が失われているものと解するほかはない。なお,前記T証人の証言等の信用性を弾劾するために出された証拠(乙225ないし227)は,その記載内容自体及び上述の説示に照らし,採用しない。他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

そして,以上のとおりコンクリート塊などを所有者に無断で農地に投棄したものと認められる南日本建設の当時の代表者(I)が,その当時から被告会社の代表取締役であったことなどからすると,その投棄自体が廃掃法上は違法でなかったにしても,被告会社が,同法その他の法令を遵守して本件処分場を維持管理していくかどうかについては,疑問を抱かざるを得ない。

エ 一方,証拠(甲3016,乙204)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,前記設置許可申請以降,本件処分場の計画につき,以下のような変更をしたことが明らかである。

① 遮水シートにつき,1.5ミリメートルの加硫系ゴムシートと高密度ポリエチレンの併用から,2ミリメートルの低密度ポリエチレン2層に変更。

② 遮水工下部の不透水性地盤の下地をサンクリートからベントナイトに変更。

③ 遮水工が破損した場合に備えた対策につき,電気式漏水検知システムからT&OHシステムに変更。

④ 浸出液処理設備につき,生物処理施設を中心としたものから液体キレート処理,逆浸透膜装置を併用したものに変更。

⑤ その生物処理施設につき,活性汚泥法から接触ばっ気法に変更。

⑥ 搬入廃棄物の分析施設を新設。

しかし,このように頻繁に計画内容が変更されること自体,当初の計画が綿密なものでなかったのではないかとの疑問を投げかけるものというべきである。

しかも,上記の変更がすべて本件処分場の安全性を高める方向に作用するものとは必ずしも即断できない面がある。すなわち,既に説示したとおり,接触ばっ気法と活性汚泥法とでは一長一短があるし,電気式漏水検知システムとT&OHシステムについても,証拠(証人Q)及び弁論の全趣旨によれば,後者は電極が腐食する心配はないが,電位差の自動的な監視で足りる前者に比べると,管理者がその都度システムを作動させて破損をチェックする必要がある分,余計に手数がかかることが認められる。

また,稼働する設備が大規模かつ高度になれば,必然的にその維持管理に費用と能力が要求されるようになることは容易に推認される。

そうすると,被告会社には,このような計画立案等の点でも,実現すれば九州で最大級の規模となる(甲28の2)本件処分場の運営を行うのにふさわしい能力を有しているかどうか不安が残るものといわざるを得ない。

オ さらに,証拠(証人M,同S)及び前記認定事実によれば,浸出液処理設備を最適の状態で稼働させるには,浸出液の水質を定期的に試験した上,処理する水量や投入する液体キレート剤を常時調整し,凝集沈殿槽の上澄み液を監視し,接触ばっ気漕のpH値を中性に保って過ばっ気等による微生物の死滅を防ぎ,また,逆浸透膜通過の前後でCOD量を計測して膜の破損の有無等に注意を怠らないようにする必要があり,そのためには,通常,専門の資格を有する分析担当者1名のほか,機器管理や接触ばっ気漕での処理の教育を十分に受けてこれを担当する者2名,予備1名の合計4名の専従要員が必要となることが認められるが,被告会社においては,前記九州化工株式会社から1名の派遣を受ける予定であることが認められるものの,その余の点は必ずしも明らかではない。

加えて,被告が搬入廃棄物について必ず実施するという展開検査や,疑問のある廃棄物の分析の関係でも,証拠(証人S)によれば,本件処分場での廃棄物の分析には1件あたり約10時間を要し,その間,当該廃棄物は展開場に留置したままとしておくほかないこと,前認定のとおり,県の推計によると,管理型最終処分場で処理されるべき廃棄物の中で大半を占め,Iも重視している汚泥については,目視ではその内容物が判明しないので分析の必要が高いが,本件処分場での分析能力は1日10件程度が限界であることが認められるところ,これらの点に,検査を厳しくすれば顧客の反発を買う場合も予想されることなどを考え併せると,営利企業である被告会社において,どの程度まで搬入廃棄物の点検が可能なのかについては,不透明な部分が多いといわざるを得ない。

カ 以上の諸点に照らすと,本件においては,改正共同命令が定める各設備が,その本来の機能を確実に発揮するような,適切な維持管理が行われる体制が採られているとの立証はされていないものというべきであり,他にこの判断を左右するに足りる証拠はない。

(9)  まとめ

以上のとおり,本件処分場については,本件調整池及び最も肝心な浸出液処理設備の関係で,改正共同命令への適合性に疑念があるほか,仮にこの点を措くとしても,その維持管理について被告会社においてこれを適切に行う体制が採られているとの立証はなく,したがって,この維持管理の不適切さに起因する遮水シートの破損や,浸出液の処理が十分でないことなどにより,本件処分場から未処理の浸出液が漏出する事故が発生するおそれがあることを否定し難い状況にあるところ,愛知県津島市において本件処分場と同じくT&OHシステムを備えた遮水工のある管理型最終処分場が,予定を大幅に上回る速度で異物や突起物の含まれた廃棄物をそのまま埋め立てるといった維持管理の不十分さが原因で,漏洩事故を招いたとみられること(乙109)にかんがみると,たとえ最新の設備を備えた管理型最終処分場であっても,これを安定的かつ継続的に維持管理していくには経済的・技術的能力だけでなく,モラルの点でも高い水準が要求されることは論をまたない。

しかるに,被告会社における施設の維持管理体制が,上述のように多くの疑念や疑問を抱かざるを得ないものであってみれば,本件においては,本件処分場から未処理の浸出液が漏出する蓋然性が無視できない程度に高いことが,事実上推定されるものというほかはない。

3  争点4(本件処分場から未処理の浸出液が漏出した場合に,それに含まれる物質が,原告らの利用する井戸水に混入するかどうか)について

そこで,さらに進んでこの争点について検討する。

(1) 本件処分場から未処理の浸出液が漏出するルートとしては,①遮水シートの破損により全く未処理の浸出液が漏洩し,しかも地下水集排水設備で集水されずに付近を流れる地下水に流入するというルートだけでなく,②浸出液処理設備において十分な処理がされないまま,所定の経路を通って肝属川に放流されるというルート及び③破損した遮水シートから漏洩した全く未処理の浸出液が地下水集排水設備で集水された上,その設備からの通常の経路を通って肝属川に放流されるというルートが考えられる。

そして,後二者の肝属川に放流される浸出液については,上記2で述べたところに照らすと,全く未処理の③のものだけでなく,②のものについても,相当に高い濃度の有害物質が含まれている蓋然性があるものと考えなければならないところ,証拠(証人P)によれば,本件処分場周辺では肝属川の水量は極端に少ないか,涸れていることが認められるから,その河川水による希釈効果を期待することはできず,したがって,原告らの利用する井戸に肝属川流域の水が流入しているとすれば,当該浸出液に含まれていた有害物質が井戸水に混入する蓋然性が認められることになる。

(2)  ところで,弁論の全趣旨によれば,甲事件原告A,同B,同C及び同Dが居住する地域には,いずれも既に上水道が設置されていることが認められるところ,それにもかかわらず上記原告らが井戸水を生活用水として使っていることを認めるに足りる証拠はない。

そうである以上,上記原告らが本件処分場の建設について人格権に基づく差止請求権を有するものとは解し難く,したがって,上記原告らの請求には理由がない。

しかし,弁論の全趣旨によれば,上記4名以外の原告らについては,その居住地域に上水道が設置されていないため,飲用を含む生活用水として井戸の水を使っていることが認められる。

(3) そこで,この原告らが利用している井戸の中に肝属川の河川水が流入しているものかどうかを検討するに,被告会社は,a町及びb町に居住の原告らが主に肝属川の水を井戸水として取水していることを認めているから,この点について自白が成立するものというべきである(平成13年9月27日被告会社準備書面4の3頁(2))。これに対し,被告会社は,鬼山池の存在から,上記原告らの井戸水は高隈山系の伏流水である旨主張するが,被告会社の自白が真実に反しかつ錯誤に基づく旨の主張立証はなく,かえって,証拠(甲11の1及び2,甲事件原告U,同V)及び弁論の全趣旨によれば,以前d集落にあったでんぷん工場の汚水が肝属川に流入してa町の住民の井戸水を汚染した事実があったことが認められるところ,この事実に弁論の全趣旨を総合すると,上記原告らの大多数が居住するa町地区はもとより,それより本件予定地に近いb地区についても,そこに掘られている井戸には肝属川に由来する地下水が流入しているものと認められ,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(4) 以上によれば,上記4名以外の原告らの関係では,本件処分場から未処理の浸出液が漏出した場合,それに含まれる物質が同原告らの利用する井戸水に混入する蓋然性があることが肯定される。

そして,前記のとおり,その浸出液には相当高濃度の有害物質が含まれている蓋然性があるところ,それが河川水による希釈効果も期待できない状態で,上記井戸水に混入する蓋然性があることからすれば,他に特段の事情がない限り,それによって生じ得る健康被害については,受忍限度を超えるものと認めるのが相当であるところ,弁論の全趣旨から認められる本件処分場設置の必要性及びその公共性の点を含め,本件に顕れた諸般の事情について検討しても,上記の特段の事情に該当すると解されるものは存しない。

なお,この点に関し,d集落の住民のために被告会社が費用を負担して上水道を設置するとしていることとの関係が問題となるが,上記原告らの中にこの上水道を使用できる者がいたとしても,その上水道設置計画自体の詳細や実現可能性が明らかでない現時点においては,この点を,受忍限度を超えない理由として考慮するのは相当でないものというべきである。

(5)  そうすると,結局,上記4名を除く原告らの本件差止請求は,理由があることになる。

4  争点5(Eら22名による共同不法行為の成否等)について

前記「基礎となる事実」5の(3)で認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると,その認定事実にあるとおり組織的で比較的大規模な工事中止要請活動が展開されたところ,その中の具体的な行動については,被告会社が主張するとおり,土地への無断侵入という側面や,客観的には本件工事を妨害する行為にあたるという側面もあったことが認められる。

この点,被告会社は,Eら22名などが工事を妨害した旨主張するが,「基礎となる事実」5の(2)で認定した事実によれば,これらの者においては,提訴も考えつつ,しかし当面はあくまでも説明会による被告会社との話合いを求めていくという方針で行動していたことが明らかであり,説明会が開かれるまではという形での工事中止要請を離れて,単純に工事を妨害することだけを目的にした行動が行われたものと認めるべき証拠はない。

そして,それらの者が説明会の開催を求めていたこと自体は,いわゆる関係地域の住民ではなかったにしても,比較的近隣に大規模な産廃処理施設が建設されるという話を聞いた者として合理的な要求であったと考えられ,その反面で,被告会社の対応にも全く問題がなかったわけではないという事情もある。

また,そのように説明会の開催を要求したのは,施設の内容に不安を感じていたからであると考えられるが,後の仮処分決定において一部住民の申立てが認容されたことからすると,結果的には,上記の者らにおいて施設の安全性を疑っていたのには合理的理由があったことになるし,その設置許可前にi町の農地やcの農地から不法投棄と思われる廃棄物が発見されていたことなどからして,上記の者らが強い不安等を覚えて説明を求めたいと思ったとしても無理からぬものがあったといえる。

もっとも,工事の中止を求めるためであったにせよ,実力行使と見られる形をとったのは問題であるが,実力行使の中では比較的平穏な態様によるものであったと認められるし,また,最終的にも警察から警告を受けたことで活動を中止したという経緯であり,それまでの過程においていわゆる暴行事件に発展するようなことがあったことを認めるに足りる証拠もない。

以上の諸点に徴すると,Eら22名の行為については,結果的に本件工事を妨害することになった点などで問題はあるものの,社会通念上,違法とまではいえないものと解するのが相当であり,他にこの判断を左右するに足りる証拠はない。

そうすると,被告会社の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことに帰する。

5  結語

以上の次第により,甲事件原告A,同B,同C及び同Dの請求は理由がないから,これを棄却し,その余の原告らの請求は理由があるから,これを認容し,一方,被告会社の丙事件の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小田幸生 裁判官 岡田幸人 裁判官 稲玉祐)

別紙

物件目録<省略>

現況平面図<省略>

遮水シート工断面図<省略>

排水処理装置フローチャート<省略>

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©大判例