鹿児島地方裁判所 平成13年(行ウ)5号 判決 2002年2月04日
主文
1 本件各訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告鹿児島県指宿土木事務所長は,平成11年7月21日付け「指土第78号」の原告に対する一般海浜地等土石(砂)採取不許可処分(以下「本件不許可1」という。)を取り消す。
(2) 被告鹿児島県加世田土木事務所長は,平成11年7月21日付け「世土第127号」の原告に対する一般海浜地等土石(砂)採取不許可処分(以下「本件不許可2」という。)を取り消す。
2 被告ら
(本案前の答弁)
本件各訴えをいずれも却下する。
(本案の答弁)
原告の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
本件は,本件不許可1・2(以下,一括して,「本件各不許可」という。)を受けた原告が,これが違法であるとして,その取消しを求める事案である。
1 争いのない事実等
(法令は,いずれも平成11年法第87号による改正前のものである。)
(1) 原告は,鹿児島県知事の認可を受けた海砂及び陸砂の採取販売等を目的とする協業組合である。
(2) 原告は,平成11年3月2日,海砂採取の目的で建設省(現・国土交通省)所管国有財産部局長たる鹿児島県知事(以下「県知事」という。)に対し,国有財産法18条3項に基づき,鹿児島県川辺郡知覧町松ヶ浦の松ヶ浦漁港沖合と揖宿郡頴娃町石垣の頴娃漁港沖合を結ぶ9平方キロメートルの区域の一般海浜地等土石(砂)採取許可申請(海底)(以下「本件申請1」という。)及び松ヶ浦漁港沖合の13.9平方キロメートルの区域の一般海浜地等土石(砂)採取許可申請(海底)(以下「本件申請2」という。)をした(甲1の2・4)。
(3) これに対し,県知事から委任を受けた被告鹿児島県指宿土木事務所長は,平成11年7月21日付けで,本件申請1について,①鹿児島県海砂採取要綱(以下「本件要綱」という。)3条に基づく採取資格がないこと,②鹿児島県一般海浜地等管理規則(以下「本件規則」という。)4条2号に定める利害関係人たる県漁連会長の同意書が添付されていないこと,③本件規則4条2号の採取地域の関係町長の同意が得られなかったことを理由に,本件不許可1をした(甲2の1,乙4)。
また,県知事から委任を受けた被告鹿児島県加世田土木事務所長は,同日,本件申請2について,上記②③と同様の理由により,本件不許可2をした(甲2の3,乙4)。
(4) 原告は,平成13年8月31日,総会の決議により解散し,同年11月3日,清算結了の登記をなした(乙7)。
2 争点
(1) 本件各不許可には行政処分性があるか。
(原告の主張)
ア 行政財産は,国の行政目的のため,国が直接使用するのが原則であるが,一定の場合には,国以外の者に使用又は収益させることができるとされており,それに基づき国有財産法18条3項では,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用又は収益を許可することが認められている。
そして,行政財産の使用又は収益の許可は行政処分であり,行政不服審査法及び行政手続法の対象になる。
イ したがって,本件各不許可には行政処分性がある。
(被告らの主張)
ア 行政事件訴訟法3条2項に定める「処分の取消しの訴え」の「処分」とは,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為で,同条3項に定める裁決,決定その他の行為を除くものとされており,「行政庁の処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が法令の規定に基づいて行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
イ 原告の本件申請1・2は,海岸法3条に定める海岸保全区域以外の海浜地(以下「法定外公共用財産」という。)における土石(砂)の採取のために国有財産法18条3項の規定に基づき行政財産である土地の使用許可を求めるものであるが,法定外公共用財産については,私人が自己のためにこれを使用又は収益し得る法的地位にはなく,たとえ使用又は収益が許可されなかったとしても,不許可の前後で私人の法律上の利益に何ら変化はない。また,国有財産法その他の法令中に使用又は収益を希望する者に申請権を認めた規定はないから,本件申請1・2について本件各不許可がされたからといって,原告に侵害された法律上の利益はない。
ウ したがって,本件各不許可には行政処分性はなく,本訴は不適法である。
(2) 本訴には訴えの利益があるか。
(原告の主張)
原告の解散,清算結了は,別件訴訟(平成13年(ネオ)第22号。原告代表者の選任決議無効確認の訴えで,第一審,二審とも原告代表者の選任決議を無効と判断している。)の対策のためのものであり,原告は,真に清算結了したものではない。
(被告らの主張)
ア 原告は,平成13年8月31日,総会の決議により解散し,同年11月3日,清算結了し,法人格を失った。
イ 原告は,解散により,清算の目的の範囲内でのみ存続するものに過ぎず,新たな海砂の採取販売事業を営むことはできなくなったばかりか,清算結了により法人格を失い,同事業の取引主体となり得なくなった。
したがって,原告には,本件各不許可の取消しにより回復すべき法律上の利益がないことは明らかである。
ウ よって,本訴は,訴えの利益がなく不適法である。
(3) 本件各不許可は違法か。
(原告の主張)
ア 本件各不許可は,本件規則4条2号によって必要とされる添付書類のうちの「利害関係人の同意書」として,本件要綱8条1項2号によって必要とされる県漁連会長の承諾書が添付されていないことを理由とするものである。
イ しかしながら,本件要綱8条1項2号は,県漁連会長の承諾書がなければ,海砂採取業者の漁業権区域外の事業活動を不可能とするもので,県漁連会長に不法な権限を与えるものである。したがって,かかる規定は,鹿児島県の裁量において重大かつ明白な取疵に基づき規制したものとして,行政権の濫用であり,砂利採取法,憲法14条及び同法22条に違反する。
すなわち,漁業権区域外は,漁業法6条に基づく定置漁業権,区画漁業権及び共同漁業権等の営業許可権利は存在せず,また,水産資源保護法14条(保護水面の定義)に基づく指定区域ではないことから,同法18条1項(工事の制限等)に該当せず,同条4項の規定による許可等は必要としない。仮に,本件要綱8条1項2号の規定を遵守すれば,漁業権区域外水域である領海法の12海里及び我が国の漁業水域距離として定めた200海里までの海域に及ぶことになる。
したがって,本件要綱8条1項2号に基づく規制は,権利の濫用として違法である。
ウ また,本件規則は,国の法令に違反し,無効であり,本件規則4条2号に基づいて別記第2号様式として準拠した添付書類のうち「利害関係人の同意書」を要求することは,機関委任事務管理者としての権限を逸脱した公権力の濫用である。
エ したがって,違法な本件要綱8条1項2号及び本件規則に依拠してなされた本件各不許可は違法である。
(被告らの主張)
ア 本件規則4条2号が市町村長の意見書を添付図書としたのは,公共用財産である海浜地及び海底の使用又は収益は,その所在する地域住民の生活と密接な関係を有することを考慮したものである。また,同条号が利害関係人の同意書を添付図書としたのは,他の産業に対する影響を考慮して許可の可否を判断する必要があることを考慮したものである。
イ 漁業権は,定着性のある水産動植物を目的とする漁業や移動しない漁具を使用した漁業等を営むものであるが,漁業権の設定区域外においても,ハエ網漁,曳き網漁などの各種漁業が営まれているから,砂利の採取にあたっては,これら漁業者との利害の調節が必要となる。このため,本件要綱8条2号は,漁業権区域の内外を問わず,利害関係人の範囲(漁業権区域内の海砂採取にあっては採取区域に漁業権を有している漁業協同組合の長を,また,漁業権区域外の採取にあっては,操業形態の異なる複数の漁業者が操業する海域であり,漁業関係者の広域的な調整を要することから県漁連会長)を定めて同意書を得るべきことにしたものである。
ウ 上記のような取扱いには合理的理由があり,本件各不許可はいずれも適法である。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(本件各不許可には行政処分性があるか。)
海底の土地における砂利採取に関する国有財産法18条3項の許可は,一定期間にわたり,海底を使用して砂利を採取する権原を付与するものであるから,「申請」を前提とするというべきである。したがって,上記許可申請は,行政庁の職権発動を促す単なる事実上の行為ではなく,行政庁の応答を義務づけるものと解すべきであり,さらに,申請に対する許可は,採取権原の付与という法的効果を生じさせ,不許可は,申請に係る許可を得る可能性を奪う場合もあることからすると,上記許可・不許可は,申請者の権利,利益に影響を及ぼす公権力の行使に当たるというべきであり,申請に対する不許可は,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当すると解すべきである。
そうすると,本件各不許可には行政処分性があるというべきである。
2 争点(2)(本訴には訴えの利益があるか。)について
(1) 原告は,中小企業団体の組織に関する法律に基づく協業組合であるところ,同法47条3項で準用される中小企業等協同組合法(「協同組合法」という。)62条1項1号は,総会の決議が解散事由になる旨定め,また,中小企業団体の組織に関する法律47条3項で準用する協同組合法69条は,商法116条を準用するので,清算の目的内で協業組合は存続するものとみなされるが,清算結了すれば,法人格が消滅し,訴えの利益がないこととなる。
これを本件についてみるに,争いのない事実等(4)によると,原告は,解散,清算結了の登記を経由しており,弁論の全趣旨によると,原告は,平成10年4月以降,事実上休眠状態であったことが認められ,これらの事実を総合すると,原告は,清算結了したものというべきであり,本訴の訴えの利益はないこととなる。
なお,原告は,別件訴訟(平成13年(ネオ)第22号。原告代表者の選任決議無効確認の訴えで,第一審,二審とも原告代表者の選任決議が無効と判断されている。)の対策上,解散及び清算結了の登記をしたに過ぎない旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はないばかりか,かかる主張は信義則に反し許されない。
(2) そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本訴はいずれも不適法として却下を免れない。
第4結語
以上より,本件各訴えはいずれも不適法として却下を免れないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 榎下義康 裁判官 小川理津子 裁判官 横田昌紀)