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鹿児島地方裁判所 平成14年(ワ)1152号 判決 2005年1月25日

原告

同訴訟代理人弁護士

亀田徳一郎

山口政幸

被告

社会福祉法人宝林福祉会

同代表者理事

同訴訟代理人弁護士

松下良成

本木順也

主文

1  原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は,原告に対し,平成14年9月から本判決確定の日まで,毎月末日限り金13万3758円を支払え。

3  被告は,原告に対し,平成14年9月から本判決確定の日まで,毎年3月末日限り金36万0627円,毎年6月末日限り金28万4829円及び毎年12月末日限り金36万0628円を支払え。

4  原告のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

6  この判決は,第2,第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文第1項同旨

2  被告は,原告に対し,金87万0392円及び平成14年12月から本判決確定の日まで,毎月末日限り金21万7598円を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告が設置・経営する身体障害者療護施設に調理員として勤務していた原告が,被告の原告に対する解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)が解雇権の濫用に当たり,無効であると主張して,被告に対し,被用者としての労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに,解雇以降の賃金等の支払を求めた事案である。

1  争いのない事実等

以下の事実は当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠(証拠の枝番号については,括弧を付して表記する。)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)  当事者等

ア 被告は,第1種社会福祉事業として,平成12年6月1日より身体障害者療護施設「つわぶきの里」(以下「本件施設]という。)及び身体障害者通所授産施設「セルプつわぶき」(以下「セルプつわぶき」という。)の各設置・経営を行い,また第2種社会福祉事業として,保育所「昭光保育園」の設置・経営,身体障害者短期入所事業の受託経営のほか,同年7月1日より身体障害者デイサービス事業「つわぶき苑」(以下「つわぶき苑」といい,本件施設,セルプつわぶき及びつわぶき苑を合わせて「本件施設等」という。)の受託経営を行っている社会福祉法人である(<証拠省略>)。

本件施設等の定員及び職員定数は,本件施設が入所定員30名,職員定数28名,セルプつわぶきが通所定員20名,職員定数8名,つわぶき苑が利用定員一日当たり15名,職員定数7名である(<証拠省略>)。

イ 原告は,平成12年6月1日,被告の職員(正職員)に採用され,同日からセルプつわぶきの調理員として,同年9月1日から本件施設の調理員として勤務していた(<証拠省略>)。

ウ 被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)には,以下の規定が存する(<証拠省略>)。

(ア) 11条1項

職員が次の各号の一に該当する場合は,解雇する。<中略>

4号 その他業務上の都合により,事業の縮小,廃止等やむを得ない事由があるとき

(イ) 29条

職員は,その職務の遂行に際しては,法令及び法人の諸規則を遵守するとともに,上司の服務上の指示命令に従わなければならない。

(ウ) 30条

職員は,常に次の各号に留意して服務に従事しなければならない。

1号 相互に職責を理解し,協調することが利用者処遇に対する基本的態度であることを理解し,常に秩序と品位を保持しなければならない。

2号 利用者に対しては,常に懇切丁寧を旨としてその言語態度には慎重かつ細心の注意を払い,利用者に不安と不信の念を起こさせてはならない。

3号 常に健康に留意し,明朗な態度をもって就業し,酒気を帯びて就業してはならない。

4号 施設の内外及び設備什器等の清潔整頓に心掛けて伝染病等の発生を防止しなければならない。

5号 火気及びガス等の危険物の取扱い,保管を厳しくして火災予防に努めなければならない。

6号 施設の設備等の保全を厳しくするとともに,物資及び経費を効率的に使用しなければならない。

7号 職員としての技術習熟に努め,業務の充実を図らなければならない。

8号 勤務中,法人が貸与した被服を着用し,氏名を記した記章をつけ業務に必要なもの以外は着用しない。

(2)  本件解雇に至る経緯

ア 旧社会福祉事業法(改正により「社会福祉法」に改題。)等の改正法が,平成12年6月7日に公布・施行され,社会福祉サービスに関しては,利用者本位の福祉を実現すべく,平成15年4月1日より,従来の措置制度から利用制度へと移行し,行政から支給される費用も,措置費から支援費へと変更されることとなった(<証拠省略>。以下「本件改正」という。具体的には,従来行政が決定していたサービス内容,施設等につき,利用者(障害者)自身が自由に選択できるようになり,行政から支給される費用についても,行政から各施設へのサービス委託料といった性格から,利用者(障害者)への利用料の支援・助成といった性格のものへと変更されることになった。)。また,合わせてNPO,民間企業等の多様な主体が福祉サービスへ参入できることになった(<証拠省略>)。

イ(ア) 被告事務長A(以下「A事務長」という。)は,平成14年3月6日,原告に対し,被告理事U(以下「U理事長」という。)作成の,平成13年6月12日及び平成14年1月27日の原告の業務上の行動・対応につき始末書を提出するよう再度求める通知書(<証拠省略>)を交付した(<証拠省略>)。

(イ) 同年3月21日,A事務長に4月1日から1か月間の外部研修(被告経営ではない他の福祉施設における研修)を指示された原告は,同年3月26日,鹿児島県医療福祉労働組合(以下「医労組」という。)に加入し(<証拠省略>),医労組代表者とともに,同月29日,被告に対し,医労組の上部団体である鹿児島県医療労働組合連合会(以下「医労連」といい,医労組,医労連を合わせて「医労連ら」という。)及び医労組共同作成の原告の組合加入通知書(<証拠省略>)及び要求書(<証拠省略>。被告による原告へのいじめを中止すること,上記研修について原告及び医労組と十分に協議し,各同意を得ることを要求し,同要求についての団体交渉に応じるよう求めたもの。なお,原告へのいじめがあったか否かについては争いがある。)を交付した(<証拠省略>)。

(ウ) これに対し被告は,同年4月9日,医労連との団体交渉に応じ(<証拠省略>),また同月30日,前記要求書に対する回答書(<証拠省略>)を医労連らへ交付した(<証拠省略>)。被告は,同回答書の中で,原告へのいじめを否定し,18項目に及ぶ原告の業務上の問題点を指摘したうえ,前記始末書の提出要求は当該問題点が原告に存したために本件就業規則29,30条に基づいて行ったものである旨,研修を指示した際の原告の態度からして同人は同研修に同意したものと理解している旨回答した。

ウ(ア) U理事長ら(U理事長,A事務長及びB事務長補佐(以下「B事務長補佐」という。)を指す。以下同様である。)は,同年6月10日,少なくとも3名の調理員(原告を含む。)に対し,給食業務の外部委託を考えていること,半年間委託をやってみて駄目であれば元に戻すことも考えていることなどを告げた(<証拠省略>。この際,被告から退職するよう告げたか,退職しても被告在籍時と労働条件は同一である旨告げたかについては,争いがある。)。

(イ) また,U理事長らは,同月18日,原告を含む全調理員に対し,「給食業務の業者委託について(お知らせ)」と題する書面(<証拠省略>)を交付した(<証拠省略>)。同書面には,「今般,当宝林福祉会に於きましては,平成15年度の支援費制度導入を目前にし,入所者へのサービスの向上,経営の効率化を目指し,給食業務の業者委託を決意いたしました。実施時期につきましては平成14年8月1日の予定にいたしております。<中略>調理員の皆様方には受託業者の方へ移動していただきたいと考えております。なお,給与等勤務条件につきましては,現在と変わらぬように措置してございますので念のため申し添えます。また,同意いただけましたなら下記の同意書に記名押印のうえご提出ください。」「同意書 私は,給食業務の業者委託の方針に同意します。いったん貴社会福祉法人を退職し,新たに給食業務受託業者に就職することといたします。」などとの記載が存する(<証拠省略>)。

当時,本件施設には4名(原告を含む。うち1名はパート。),セルプつわぶきには1名(パート),つわぶき苑には1名(非常勤)の調理員(合計6名)がいたところ(<証拠省略>),原告を除く5名は,翌19日,上記書面下部の同意書欄に署名押印して被告に提出したが(<証拠省略>),原告はこれをしなかった。

(ウ) 原告は,同年6月27日,医労連と被告との団体交渉の席上で,被告に対し,業者委託の実施の有無にかかわらず,被告職員として雇用を継続するよう要求した(<証拠省略>)。

エ 被告は,同年7月1日,原告に対し,「給食業務業者委託を平成14年8月1日より開始するにあたりまして同意を求めておりましたが,平成14年6月27日に同意いただけない旨の申し出がありました。<中略>給食業務を業者委託いたしますと調理業務を当法人では必要としません。なお,当法人においては他の部署の人員も全て定員を満たしており,貴殿を配置転換することもできません。」として,同年7月31日をもって原告を解雇する旨の解雇通知書(<証拠省略>)を交付した(本件解雇)。

(3)  給食業務の外部委託の実施

ア 被告は,平成14年7月27日付けで株式会社b(以下「b社」という。)を含む株式会社3社に対し,被告給食業務の外部委託の指名競争入札者に指名した旨通知し(<証拠省略>),同年8月5日に説明会(被告調理員5名を引き継ぐこと,献立作成・栄養計算は被告が行うこと,調理員の給与は引き継ぎ時の給与額を基本とすること,業務委託期間は同年9月1日から平成15年3月31日までであることが,条件として説明されたもの。<証拠省略>)を開催した後,平成14年8月12日,入札を実施した。

イ(ア) 前記入札の結果,b社が落札し,平成14年8月19日,被告との間で主な内容を以下のとおりとする業務委託契約を締結した(<証拠省略>。以下,下記実施要項の内容も含め,「本件委託契約」といい,被告のb社に対する給食業務の委託を「本件外部委託」という。)。

a 履行期間 平成14年9月1日から平成15年3月31日まで

b 業務委託料 855万7500円(月額122万2500円)

c 業務遂行に必要な燃料及び水道光熱費は,被告が負担する。

d 被告の調理員5名を引き続きb社が雇用し,被告の処遇に準じた扱いとする。

(イ) 本件委託契約の実施要項には,給食業務に従事する調理員の人数を6名とする旨,b社は被告栄養士(U理事長の娘であるV。以下「V栄養士」という。)の指導に基づき調理業務等を行う旨,経費の負担区分として,給食の材料は被告が調達し,水道光熱費及び消耗品費も被告の負担とする旨の規定が存する(<証拠省略>)。

ウ 被告へ同意書を提出した前記5名の調理員は,平成14年8月31日,被告を退職し,翌9月1日にb社九州支社へ転職した(<証拠省略>)。

エ 被告及びb社は,平成15年4月1日,本件委託契約とほぼ同内容の委託契約を締結し(<証拠省略>。ただし,期間は同日から平成16年3月31日,業務委託料は月額117万4787円とされた。),平成16年4月1日にも本件委託契約とほぼ同内容の委託契約を締結した(<証拠省略>。ただし,期間は同日から平成17年3月31日,業務委託料は6月30日までが月額118万6500円,7月1日以降が月額106万0500円,給食業務に従事する調理員の人数は5名とされた。)。

(4)  原告の賃金

原告は,平成13年に被告から,年間261万1180円の給与・賞与等の支払を受けており(<証拠省略>),また,平成14年4月に13万5339円,5月に13万5391円,6月に13万1130円(同月には賞与28万4829円も支払われた。),7月に13万4754円の給与の支払を受けた(<証拠省略>。毎月末日払いであり,各月の給与には通勤手当1万0500円が含まれている。)ほか,さらに,解雇予告の後7月31日まで稼働したので,同年8月1日に改めて解雇予告手当に準じて14万8321円の支払いを受けた(弁論の全趣旨)。

2  争点

(1)  本件解雇が本件就業規則11条1項4号の要件を充足するか

(2)  本件解雇が不当労働行為に該当するか

(3)  本件解雇が,原告に対するいじめによるものであるか

(4)  原告の賃金額等

第3争点に対する当事者の主張

1  本件解雇が本件就業規則11条1項4号の要件を充足するか(争点(1))について

(被告の主張)

(1) 本件就業規則11条1項4号には,業務上の都合により,事業の縮小,廃止等やむを得ない事由があるときは,職員を解雇できると定められているところ,本件解雇は同条項の要件を満たしているので有効である。

上記規則を根拠とする本件解雇のような整理解雇については,判例上,その有効性の判断要素として,<1>人員整理の必要性,<2>解雇回避の措置,<3>整理解雇基準(被解雇者の選定),<4>整理解雇手続の4点が挙げられる。そして,かかる<1>ないし<4>の各点は,解雇権濫用の有無を判断するための類型的な判断要素として,相対的・総合的に判断すべきものである。

(2) 人員整理の必要性(<1>)

ア 人員整理の必要性とは,経営上の事情により従業員の縮減を行う必要が客観的に存在するかどうかということである。

イ(ア) 被告を含めた各福祉施設は,本件改正により,利用者(障害者)から選択を受ける立場に置かれることになり,また,利用者から利用料を受け取りその直接の対価である福祉サービスを提供することになったため,利用者から満足され,信頼されるに足る十分な福祉サービスを提供できなければ生き残れなくなった。

(イ) また,支援費制度の導入に伴い,被告の収入は,以下のとおり大きく減少することが予想された。

<省略>

すなわち,本件施設(つわぶきの里)については,利用者の定員が30名であるから,年間292万7160円(8131円×30名×12か月)の減収となる。他方,セルプつわぶきについては,利用者の定員が20名であるから,年間64万0320円(2668円×20名×12か月)の増収となる。つわぶき苑については,従前,利用者数に関係なく鹿児島市から年間2500万円の委託料を受領していたが,支援費制度の下では一人当たりの利用料が各回5210円とされることになり,その定員は一日当たり15名であるから,月利用者を150名と予測した場合(デイサービスは土日祝日は休みであり,一日当たりの利用者は平均7,8名である。),年間1562万2000円(2500万円-5210円×150名×12か月)の減収となる。

したがって,被告の収入は年間1790万8840円もの大幅な減少となることが予想された。

かかる予想からすれば,被告にとって,経費削減,経営のスリム化及び効率化は,緊急かつ重要な課題となった。経営上は収入を増やすことも考えられるが,社会福祉法人にあっては営利企業と同じような営業活動はできないし,また,上記予想からして被告としては利用定員に達していないデイサービスの利用者を増やすよう努めるほかないが,これにも限界があり,仮に毎日定員の15名を満たしたとしても土日祝日が休みであるから,最大限の年間収入は1875万6000円(5210円×15名×月間稼働日数20日×12か月)程度であって,措置制度の下での年間委託料2500万円には到底及ばない。

結局,被告は経費を削減しなければ生き残れないことになったのである。

(ウ) さらに,規制緩和により,平成15年4月1日からは株式会社等の企業も福祉事業に参入できるようになった。鹿児島県も,身体障害者についての各種サービスにつき,平成14年度末時点での事業所・施設数を平成19年度までに大幅に増加させる目標を有しており(209か所だったホームヘルプサービス事業所を400か所に,96か所だったショートステイ事業所を170か所に,33か所だったデイサービス事業所を53か所に,13か所だった通所授産施設を19か所に増やすことを目標にしている。),いわゆる親方日の丸だった時代は終わり,福祉の世界にも競争原理が導入されることになった。

ウ(ア) 被告は,前述の基本的視点に立ち,かつ,障害者の方々の最大の楽しみの一つは「食事」であるという事実を率直に受け止めて,給食業務(調理)を外部業者に委託することを計画・検討し,委託によって以下のように更なる利用者本位の「食」の提供が可能となり,かつ,経費節減になると判断したため,その実施を決定した。

すなわち,

a 給食専門業者のノウハウを活用することにより,献立の多様化,個別対応(利用者の障害の内容や程度に応じた食事の提供)が可能となる。

b 給食専門業者のノウハウを活かした食事による利用者ケアの向上(一種の食事療法)が可能になる。

c 給食専門業者による食材等の大量仕入れ,様々なノウハウの活用等により,コストダウンが可能になる。

d 調理の技術向上,安全衛生面の更なる充実が可能となる。

(イ) 全国の社会福祉施設において,給食業務の全面的外部委託を行っている施設の割合は,平成9年度は8.5パーセントにすぎなかったが,平成12年度には23.9パーセントと増加しているのであり,このことは,多くの施設が給食業務の外部委託によるメリットを肯定していることを示している。

エ 以上より,本件外部委託は,客観的にみて高度の必要性と合理性を有するものと評価されるから,調理部門の廃止に伴い調理員を整理する必要性もまた認められる。

なお,人員整理の必要性の有無の判断に際して,人員整理をしなければ企業の存続維持が危機に瀕する程度に差し迫った必要性までは要しないと解すべきであり,上記のとおり,客観的に高度な必要性があれば足りると解すべきである(最高裁判所昭和55年4月3日判決参照。)。

また,企業経営は基本的に使用者の自由であること,使用者(企業の代表者)は多くの場合,企業の借入れにつき個人保証をしていること,倒産必至という事態まで人員整理を認めないということは企業の再建や経営悪化の回避の機会を逃すことになりかねないこと,裁判所は企業破綻回避につき責任を負っていないことなどに照らせば,使用者(経営者)の経営上の判断は第一義的には尊重されるべきであり,人員整理の必要性についての司法判断は抑制的にならざるを得ないと考えられる。

(3) 解雇回避の措置(<2>)

ア 被告は,原告を被告内部において配置転換できないか検討した。

しかし,本件解雇当時,本件施設等においては,いずれも職員定数を満たしていたこと,被告に余剰人員を抱える余裕はなかったこと,措置費から支援費への移行により被告の収入が減少することは確実であったことから,原告を配置転換することはできなかった。

なお,被告は,原告に対し,非常勤職員としてであれば雇用し続けることが可能である旨説明したが,原告はこれを拒否し,正職員としての雇用を強く希望したため,合意には至らなかった。

イ また,被告においては,労働者を出向させることができる旨の労使間の協定・合意は存在しない。現実的にも,原告がb社への出向に同意したとは到底考えられない。

ウ 被告が原告を解雇するにあたり,希望退職者を募集しなかったことは事実であるが,被告の施設は比較的職員が少ない職場であるから,退職希望者が存しないことは当時分かっていたし,また,本件解雇後の実際の退職者の職務内容(技術指導,大型バス運転手等)・職種等に照らし,いずれにせよ,原告がこれらの者の代替を行うことは不可能であった。

なお,希望退職者募集は必須の要件ではない(最高裁判所昭和61年12月4日判決参照。)。

エ 被告は,本件外部委託により調理部門が廃止されることから全調理員の再就職を確保し,不利益が生じないようにするため,入札条件として被告調理員全員を被告におけると同一の労働条件(賃金,勤務時間,勤務体制,福利厚生)で雇用することを課したのであり,現に当該条件は履行されており,その後の更新においても同条件を課し,履行されているし,今後も同様の条件を課し続けるつもりである。

被告は,上記条件を入札条件とすることで全調理員の再就職を可能にすべく配慮したのであり,このことは厳密には解雇回避措置には当たらないものの,これに優るとも劣らない措置として評価されるべきである。

(4) 整理解雇基準(被解雇者の選定)(<3>)

本件において原告は,b社への再就職を一人拒否したのであるから,被解雇者を選定するという作業は不要であり,必然的に原告を解雇せざるを得なかった。

(5) 整理解雇手続(<4>)

被告は,平成14年6月10日及び18日,原告を含む全ての調理員に対して,給食業務の外部委託を行うべき必要性・合理性,人員整理の必要性を説明し,併せて,外部受託業者への再就職をお願いした。

原告を除く調理員全員が上記被告の説明に納得したうえで再就職に承諾したことは,被告の説明が十分に説得的であったことを示している(なお,被告は,原告を含む全調理員を完全に平等に扱った。)。

また,被告は,同月27日,原告加入の医労組とも団体交渉を行い,説明のうえ理解を求めた。

(原告の主張)

(1) いわゆる整理解雇の4要件に照らして本事件の経過と事実を考察すると,どの要件に照らして検討しても,本件解雇が被告による一方的な解雇権の濫用に当たることは明らかである。

(2) 人員整理の必要性(<1>)

ア まず,本件解雇は,施設経営上,十分な必要性と高度な合理性に基づいておらず,被告は,原告を解雇しなければならないほどの経営状態ではなかった。

イ 第1に,被告は,平成15年の支援費制度実施によって収入減に転じたのではなく,むしろ措置制度時代の収入水準を維持しており,今後の経営努力によって収入改善を図っていくことは可能である。

すなわち,別紙原告分析表1記載のとおり,被告が経営する法人の年間収入の約65パーセントを占める本件施設は,平成15年4月1日に支援費制度が導入された後も,措置制度時代の収入水準を基本的に維持しており,セルプつわぶきも,前年より収入が増えている。

他方,つわぶき苑の収入は,前年(平成14年)度に比し約800万円減少しているが,この原因は,前年度までは,利用者の定数に対する定額の補助金収入であったのに対し,支援費制度の下では,利用者の障害度や利用実数に応じた利用料収入に変わった点に存する。したがって,定数どおりの利用者を常時確保できるように,被告が利用者増対策と日常的な定数管理を強化すれば,収入増を図ることは可能であり,これは被告自らの経営努力の問題である。

また被告は,本件とは関係ないとして,セルプつわぶきの平成15年度収入から授産事業収入を除いているが,平成14年度の収入には,事業費収入としてこれが含まれていると考えられるので,授産事業収入(平成15年度:555万4696円)を含めて比較すべきである。この収入を含めると平成15年度の本件施設等の合計収入は2億4333万1784円となり,前年比100.5パーセント増で,約122万円の増収となる。

さらに,法人本部会計が,前年比19.5パーセントと大幅な減収になっているが,その原因は,寄付金が大幅に減少したこと(平成14年度は461万円であったが,平成15年度は201万円である。),繰入金収入(平成14年度387万円)がゼロ計上になっていることにある。これらの問題は,支援費制度が直接の原因ではなく,被告自らの経営努力の問題だと考えるべきである。

ウ 第2に,被告の平成15年度決算は,本件外部委託が経営合理化(人件費や給食費の削減など)に役立っておらず,経営上のメリットがないことを示している。

すなわち,別紙原告分析表2記載のとおり,支援費制度が適用される本件施設等の人件費総額は,平成15年度決算で1億2940万0984円となり,前年比93.2パーセント(約940万円減)に減少している。

しかし一方,業務委託費は,別紙原告分析表3記載のとおり,平成15年度決算で,前年比141.7パーセント(約595万円増)と大幅に増加しているし,給食費も,別紙原告分析表4記載のとおり,外部委託が下期から実施された平成14年度決算では前年度支出を下回ったものの,外部委託が1年を通じて実施された平成15年度決算では,前年比99.7パーセント(約5万円減)とほとんどコスト削減効果は表れていない。

また,人件費についても,確かに平成15年度決算では一見減少しているように思われるが,他方で被告は,b社に,平成14年9月から平成15年3月までの7か月間に計855万7500円の業務委託料を支払い,また平成15年度は1年間で計1409万7444円の業務委託料を支払っている。この業務委託料は,b社に移った調理員らの給与総額を超える水準であり,外部委託によって,逆に実質的な人件費の増加を招く結果となっているため,施設経営の合理化には役立っていない。

さらに,原告が解雇された年である平成14年度のセルプつわぶきの人件費は,前年比約189パーセント(約1185万円増)と大幅に増加し,平成15年度もその高い人件費水準を維持している。平成13及び14年度における正職員と非常勤の人員構成は大きく変わっていないにもかかわらず,かかる大幅な増加が生じた原因は,U理事長がセルプつわぶきの施設長として平成14年4月から配置されたことにより給与支出が増加した点にあると考えられる。平成14年度は,被告が支援費制度導入を前にして,今後の経営の在り方を認識し,その経営合理化の一環として,給食の外部委託方針を決定し,その方針に同意しなかった原告を解雇した年でもある。ところがU理事長は,自らはセルプつわぶきの施設長としての給与収入を確保しながら,その年収を大幅に下回る原告(約261万円)を,「余剰人員を抱えるほど,経済的余裕はない。」との理由で解雇したのである。

エ 第3に,鹿児島県内における障害者施設の年間給食費の推移を比較すると,必ずしも,給食の外部委託が給食費削減につながるとはいえない。また,コスト削減を最優先して外部受託業者からの大量仕入れのみに偏重すると,利用者(障害者)が求める「個のニーズ」に応えられないばかりか,毎日の献立づくりが(外部業者からの)仕入れ動向に左右されやすくなり,逆に利用者本位の給食づくりという点で「給食の質の低下」を招くのではないかと考えられる。

すなわち,別紙原告分析表5は,情報公開法に基づいて入手した本件施設類似の施設を経営する法人の会計資料をもとに,3年間の給食費の推移を比較したものであるところ(aないしcの各施設は知的障害者更生施設であり,dないしeの各施設は本件施設と同様の身体障害者療護施設である。),同表記載の各数値を比較すると,外部委託により給食費が削減できるとは断定できないことが分かる。

また,同表によれば,本件施設における平成15年度の一人当たりの年間給食費は40万0493円であり,他の施設よりも高い。

さらに,本件施設では本件外部委託が始まってから画一的なメニューが増えているようである。被告は,給食の外部委託化を選択する社会福祉法人が増えている旨主張するも,社会福祉法人経営者が給食材料費及び人件費の削減のみに汲々とするならば,当該経営者は,より低いコストを求めて受託業者との契約変更を繰り返し,その度に調理員が変わり,利用者と調理場との関係は希薄になることが推測される以上,これにより給食の質の低下を招くことは必至である。また被告は,本件外部委託により給食の質が改善した旨主張するも,実際に調理を行っている者は委託前と同じ者たちであるにもかかわらず,なぜにわかに質が改善されたといえるのか,甚だ疑問である。

オ 第4に,被告についての経営分析の結果,安全性や収益性などの面で特に問題となる項目はなく,1名の職員を「経営的余裕がない。」との理由で解雇する財政的根拠を全く認めることができない。

すなわち,別紙原告分析表6は,被告から提出された貸借対照表をもとに,被告の経営分析を行った結果であるところ,これによれば,<1>高ければ高いほど安全性が高いとの性質を有する自己資本構成比率につき,平成15年度も改善されている。また,<2>活動収支差額構成比率は,法人成立以来どれだけの繰越金が残っているかを計る項目であり,この数値が高いほど良いところ,平成15年度も増加している。<3>国庫補助金等特別積立金構成比率は,固定資産の減価償却等に伴って減少していくものであり,これが少ないほど自己資本の安全性は高いといえるところ,本件施設はまだ開設して4年目ということもあり,平成15年度で55.7パーセントの到達ではあるが,今後この数値が減少していくと思われる。<4>固定資産構成比率は,資産に占める固定資産の割合であり,安全性の面からはこの数値が次第に減少していくことが望ましいところ,平成15年度では前年度に比べ減少しているので,改善されていると考えられる。<5>流動資産構成比率は,この数値が高いほど安全性が高いと考えられるところ,平成15年度は前年度よりも上昇し改善されている。<6>総負債比率は,この数値が高いほど資金的余裕がないことになるところ,平成15年度は前年度よりも改善されている。<7>流動負債構成比率は,この数値が高いと短期に返済する負債が多く,資金繰りに支障が出ることが考えられるところ,各年度とも2パーセント台を保っており,資金繰りの面で逼迫している状況とは考えられない。<8>負債比率は,自己資本に占める負債の割合であり,この数値が高いほど他からの資本を当てにしていることになるところ,被告のここ3年の推移をみると数値は減少してきており,改善されている。<9>固定比率は,固定資産の純資産に占める割合であり,自己資産で固定資産を賄えるようにするには,100パーセント以下にしていくことが望ましいと考えられるところ,平成15年度は前年度よりも減少しているので,改善されている。<10>固定長期適合率は,自己資産だけで固定資産が賄えなくとも,長期の借入金(すぐに返さなくてもいい借入金)でこれが賄える割合であり,この率が,100パーセントを下回り低いほど健全と考えられるところ,平成15年度は改善されている。<11>流動比率は,流動資産の流動負債に占める割合であって,短期の支払いの安全性を見るものであり,この数値が高いほど資金の支払いの心配が少ないといえるところ,被告のそれは,平成15年度に399.3パーセントに到達し,年々改善が進められているし,この割合であれば短期的に資金がショートする心配はなく,もちろん倒産の危険もないと考えることができる。

以上の経営分析のとおり,被告の法人は,財務構造上も,緊急に処置しなければならないような事態には直面していないことが窺える。

カ 第5に,支援費制度は,従来の措置制度と異なり,利用者の選択権が認められる制度であるとはいえ,むしろ現状は施設に入所できない利用者が多いのであり,給食業務を外部委託しなければ生き残れないとの被告の主張は,非現実的で誇大な主張である。

またU理事長は,平成14年6月10日,原告らに対し,給食業務の外部委託を半年行っても上手くいかないときは元に戻す(全調理員を再度被告が雇用し,調理部門を復活させる)こともあり得ると説明しており,本件外部委託が高度の合理性を有するとは考えられない。

キ 以上より,人員整理の必要性(<1>)は存しない。

(3) 解雇回避の措置(<2>)

ア また,被告は,本件解雇を回避するためのあらゆる努力を尽くしておらず,むしろ原告に対して「始めに解雇ありき」の態度が明白である。

イ(ア) 原告の雇用継続について,原告及び医労連らと被告が協議したのは,平成14年6月18日及び同月27日の2回のみであり,それ以外に個別に協議したことはないし,被告から本件解雇回避のための提案を受けたことも一切ない。被告は,鹿児島県労働委員会からあっせんの働きかけがあった際にも解雇回避のための提案をしていないし,上記27日の団体交渉後,何らの提案をすることもなく,同年7月1日付けで原告を解雇した。

(イ) また原告は,平成13年12月,被告より寮母への異動を命じられたにもかかわらず,当該異動は,その後突然取り消された。被告は,本件解雇当時,職員定数は満たしていた旨,余剰人員を抱える余裕はなく,退職希望者もいなかった旨主張するが,かかる異動の内示は,被告が原告について調理員以外の職種にも適格を有すると認めていたことを意味するし,また,寮母などの職種においては6か月間の雇用期間が定められた非常勤職員が多数おり,その期間満了により当然欠員が生じるのであるから,正規職員である原告につき配置転換ができなかったとの被告の主張は,理由がない。

(ウ) さらに,被告は,全調理員を従前と同一労働条件で雇用するよう入札業者に条件を課し,再雇用に配慮した旨主張するが,被告を退職し外部受託業者の従業員となったのでは,将来の生活保障,福利厚生等の面で不利となり得るため,上記条件を付したのみでは解雇回避措置として十分とはいえないはずである。

また,全調理員のうち,原告のみが退職に同意しなかったのであるから,被告は,本件解雇を回避するための方策として,原告をb社へ出向させるなどの雇用形態を採れば,同解雇を回避することも可能であった。

ウ このように,本件解雇を回避する様々な方策が考えられたにもかかわらず,被告はこれらを検討することなく,原告,医労連らとの協議を拒んだまま一方的に原告を解雇したのであり,解雇回避の努力(<2>)を怠ったといえる。

(4) 整理解雇基準(被解雇者の選定)(<3>)

さらに,本件解雇は,原告を本件施設から排除するために計画されたものであり,被解雇者の選定の要件も満たさない。

被告は,原告に対する1年以上のいじめを認識していたにもかかわらず,原告に対し,他の調理員らと同様に退職への同意を求めた。原告は,例(ママ)えこれに同意したとしても,引き続き他の調理員らと一緒に勤務することになる以上,いじめが続いて結局は退職に追い込まれることになったのであり,本件解雇は,原告の退職の同意の有無にかかわらず,同人を本件施設から排除するために計画・実行された解雇事件であるといえる。

(5) 整理解雇手続(<4>)

加えて,使用者は,労働組合や労働者に対し,整理解雇の必要性とその内容(時期,規模,方法)について納得を得るために説明を行い,誠意をもって協議をすべき信義則上の義務を当然負うところ,本件における被告は,このような姿勢を全く見せず,一方的に原告を解雇した。

すなわち,被告は,平成12年6月の旧社会福祉事業法等の改正法公布後措置制度から利用制度に移行する平成15年4月1日まで,3年近い準備期間があったにもかかわらず,平成14年6月10日に突然委託計画を明らかにし,原告や医労連らとの協議を尽くさぬまま,計画発表から20日しか経過していない7月1日に原告を解雇したのである。解雇前の最後の交渉となった同年6月27日の団体交渉においても,被告は,説明義務を果たすどころか,雇用継続を要求する原告をせせら笑うなど,不誠実な態度に終始した。

2  本件解雇が不当労働行為に該当するか(争点(2))について

(原告の主張)

(1) 原告は,本件施設内でのいじめを止めさせて欲しいとの要求を抱いて医労組に加入してきたため,医労連らは,平成14年3月29日,同施設を訪問し,被告に対して組合加入通知書といじめの中止を求める要求書を提出したが,被告は,同年4月9日の団体交渉で原告へのいじめを否定し,交渉場所付近に原告をいじめていたV栄養士らを待機させるなど,責任者としてなすべきいじめに対する謝罪等をしないばかりか,むしろ,原告に全ての原因が存するかのような主張をした。

(2) また,同月25日,全職員会議後の午後7時過ぎ,調理場の部署会議が突然開かれ,V栄養士は,調理員らの前で原告の組合加入通知書を読み上げたうえ,同僚職員と共に原告を集中的に責め続けた(他の調理員は,「組合に入った目的は何なのか。何故施設長を追い込むのか,悩んで病院通いをしている。」などと発言した。)。

(3) さらに,同月30日,U理事長らは,医労組事務所を直接訪問し,医労連らに対し,18項目にわたって原告の業務上の問題点を挙げ,原告に一方的に非を押し付ける回答書(<証拠省略>)を提出した。

(4) また,同年5月9日,突然部署会議が開かれ,W施設長(U理事長の妻),B事務長補佐も同席の下,原告は,勤務体制等につき医労組と相談していることを指摘され,全員の前で詰問を受けた。

(5) 以上の事実は,原告が医労組に加入していることを理由に心身に苦痛を与え,圧力を加える行為であり,不当労働行為そのものである。被告は,組合に加入し組合員として活動する原告を嫌悪し,敵視していたのであり,このため原告を解雇したのである。

(被告の主張)

原告の不当労働行為との主張は,事実に反するし,証拠も存しない。

原告が被告の管理職についている者から注意・指導を受けたことをもっていじめと受け取ったとすれば,それは原告の謙虚さの問題であり,また同僚との関係がぎくしゃくしていたとすれば,それは原告の協調性の問題である。

被告は,一職員を辞めさせるために,給食業務の外部委託という,経営の根幹にかかわり万が一失敗すれば著しく信用を失ってしまうようなリスクを犯す意思はない。

また,本件外部委託に際し被告は,原告と他の調理員らを平等に扱ったし,半年経っても上手くいかないときは元に戻す(全調理員を再度被告が雇用し,調理部門を復活させる)と説明したことからも,被告が原告を排除する意思がなかったことは明らかである。

3  本件解雇が,原告に対するいじめによるものであるか(争点(3))について

(原告の主張)

(1) V栄養士らは,平成13年6月ころから,原告に過重な献立を担当させるための勤務シフトを組んだり,部署会議で原告の勤務態度について集中的に責め続け,あるいは無視するなど,原告に対するいじめを続けてきた。

被告はこれを否定し,業務上必要な注意と指導であった旨主張するが,原告の勤務態度に何ら問題はなく,V栄養士らが一方的に原告をいじめ続け,退職に追い込もうとしたにすぎない。

(2) また,本件施設でのいじめは原告に対するものだけでなく,V栄養士らは,気にくわない職員に対していじめを続け,当該職員らを退職に追い込んでいる。

(3) したがって,原告に対するいじめは,単なる個人攻撃でなく,被告の意に添わない職員について,いかなる手段を用いても施設から排除するという被告の異常な労務管理体質を土台にして発生したものであり,かかる意識的かつ組織的に行われたいじめに基づく本件解雇は,解雇権の濫用に当たり,無効である。

(被告の主張)

原告主張のようないじめは存しない。

4  原告の賃金額等(争点(4))について

(原告の主張)

原告は,平成13年に被告より年間261万1180円(月額21万7598円)の給与の支払いを受けたため,被告に対し,平成14年8月から本案判決確定まで毎月21万7598円の賃金請求権を有する。

(被告の主張)

被告が,平成13年に原告に対し,年間261万1180円を支払った事実は認めるが,上記支払額には,年2回の賞与及び年1回の期末手当が含まれているし,賃金に関する原告のその余の主張は争う。

第4判断

1  本件解雇が本件就業規則11条1項4号の要件を充足するか(争点(1))について

(1)  証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 被告は,平成13年12月13日,本件施設の介助員(正職員)が同月31日をもって退職したい旨申し出てきたことから,当時の寮母または寮父を介助員に異動(配置転換)させて原告を寮母に異動させることを計画し,同月25日,同人に対し,寮母への異動を内示した。

しかし,同月29日になって被告は,原告への上記内示を取り消し,翌平成14年1月7日から新たに職員(介助員)を採用した。

イ(ア) 被告は,利用制度・支援費制度の導入に備え,同年5月ころから給食業務の外部委託を検討し始め,同年8月1日の開始を予定してb社と随意契約を前提に交渉を開始した。

(イ) 被告は,同年6月10日午前,少なくとも3名の調理員(原告を含む。)に対して給食業務の外部委託を考えていることなどを告知し,同日午後には,同人らに対してb社の担当者を紹介し,b社による本件施設等の調理員らに対する説明,個々の調理員の意向調査を同月13日に実施することを決定した。

(ウ) b社は,これを受けて同日,本件施設等の全調理員に対して個人面接を実施し,この中で原告に対し,被告が給食業務をb社に委託することは既に決定している旨,被告在籍時と同じ条件でb社に移って欲しい(被告を退職して欲しい)旨などを説明した。

(エ) 原告から被告の外部委託について相談を受けていた医労連は,上記面接の後,被告に対して団体交渉を申し入れたため,6月18日午前9時30分から約1時間,被告と医労連との間で当該交渉が実施され,その中で,医労連は,被告に対し,原告があくまで被告職員として働き続ける意思を有している旨を伝えた。

(オ) その後U理事長らは,同日午後,原告を含む全調理員に対して,「給食業務の業者委託について(お知らせ)」と題する書面(<証拠省略>)を交付し,退職の同意を求めた(なお,午前中に行われた上記団体交渉において,被告は,午後に同書面を交付する予定であることを医労連に伝えなかった。)。

(カ) これを受け医労連らは,6月20日,被告に対して,給食業務の外部委託及び原告に対する退職強要の各中止を求める要求書(<証拠省略>)を交付するとともに,6月27日,被告と再度交渉し(この際は,原告及び医労連が交渉した。),配置転換も含めた原告の雇用継続を要求したものの,被告は,外部委託の中止及び配置転換は不可能であるとして譲らず,原告が委託開始予定日(8月1日)になってもなお退職を拒否した場合の対応については検討している旨回答し,当該検討結果につき7月1日に回答することを約束した。

ところが,被告は,同日,本件解雇を実施した。

(キ) 被告はその後もb社と随意契約を前提に交渉していたが,同月18日ころ,契約金額からして被告の経理規定上入札を実施しなければならない場合であることが判明し,急遽,開始時期を同年9月1日に変更したうえで,b社を含む3社に対し,説明会(8月5日),入札(8月12日)を実施した。

ウ 本件解雇当時,本件施設には29名(原告を含む。うち,非常勤が5名,パートが2名),セルプつわぶきには7名(うち,非常勤が2名,パートが1名),つわぶき苑には9名(うち,非常勤が5名,パートが2名)の職員がいたが,その後平成15年7月31日までに,本件外部委託による退職者以外に少なくとも7名(事務長1名,指導員3名(うち1名は非常勤),寮母2名(うち1名はパート),介助員(非常勤)1名)が退職した。

エ 平成13年度ないし15年度における,本件施設等の収入及び支出の金額等は,別紙収支一覧表記載のとおりである。

(2)ア  争いのない事実に加え,上記(1)認定の事実を前提に判断するに,本件就業規則11条1項4号の規定(「その他業務上の都合により,事業の縮小,廃止等やむを得ない事由があるとき」に該当する事実が存するとき,被告は,職員を解雇することができるとの規定)は,いわゆる整理解雇の定めと解することができる。

イ  ところで,整理解雇は,使用者側の経営上の理由のみに基づいて行われるものであり,その結果,何ら責められる事情のない労働者の生活に直接かつ重大な影響を及ぼすものであるから,解雇権の行使も一定の制約を受けるというべきであり,これが有効か否かについては,<1>経営上整理解雇をする必要があること,<2>使用者側が解雇を回避するために相当な努力をしたこと,<3>選定基準が合理的であって,被解雇者の人選が合理的であること及び<4>解雇に至る過程で労働者や労働組合と十分協議を尽くしたことの,いわゆる整理解雇の4要件の該当性の有無,程度を総合して判断すべきである。

そこで以下,本件解雇の有効性につき,上記<1>ないし<4>の各要件(要素)に照らして検討する。

(3)  整理解雇の必要性(<1>)

ア(ア) 前認定のとおり,被告は,平成12年6月1日,本件施設及びセルプつわぶきを開設し,その経営を開始したところ(なお,つわぶき苑の受託経営開始は同年7月1日である。),同年6月7日に旧社会福祉事業法等の改正法が公布され(本件改正),平成15年4月1日より,従前の措置制度・措置費制度から利用制度・支援費制度へと移行・変更されるとともに,民間企業等の福祉サービスへの参入が認められることとなった。

(イ) これにより,従前,利用者に対し一方的にサービスを提供してきた各福祉施設は,一転して利用者による選択を受ける立場,対等な契約者の立場に置かれることになったのであり,民間企業等の参入が可能になったこともあって,各施設間で競争が発生し,サービスの質の向上が求められることになったことが認められる。

被告も,前記本件施設等の開設時期からして,少なくとも同開設の構想段階,準備段階では,措置制度・措置費制度の下での経営を前提として本件施設等開設の構想,準備を進めてきたと認められるのであり,他の社会福祉施設同様,本件改正によって,従前予定していなかった各施設間の競争にさらされることになったため,本件解雇(平成14年7月1日)当時,何らかの経費削減策,サービスの質を向上させる方策を採る必要に迫られていたと認められる(なお,被告は,利用制度・支援費制度への移行を知ったのは平成14年1月10日ころであり,それ以前は全く知らなかった旨主張し,U理事長も同様の供述をするが,本件施設等の経営の根幹にかかわる重要な事実と思われる本件改正につき,法案審議段階ではなく,これを過ぎて改正法が成立し公布された段階においてもなお知らなかったとの供述は,信用性を欠き採用できない。)。

(ウ) また,収入の面からしても,本件改正の公布日である平成12年6月7日に実施された第25回全国身体障害者施設協議会研究大会において,当時の厚生省大臣官房障害保健福祉部障害福祉課長は,支援費の単価につき総体としては従前の措置費の水準を下げる考えがない旨説明しているものの(<証拠省略>),その際同人も説明しているとおり,支援費は,従前の措置費と異なり,各利用者の障害の程度に応じて個別具体的に支給されることになったため,従前よりも収入が減少し得ることが予想されたのであるし,被告以外の社会福祉法人の経営者も,利用制度・支援費制度施行前の平成14年12月20日ころ発行の福祉関連雑誌(<証拠省略>)のインタビューにおいて,支援費制度導入により法人の経済的負担が重くなるとの予測を前提に,支援費だけで運営していくのは極めて厳しく,支出削減と経営の効率化が急務である旨述べていることからすれば,本件解雇がなされた同年7月1日ころにおいて,被告が,利用制度・支援費制度導入に備え,何らかの経費削減策を採る必要に迫られていたことが認められる。

イ(ア) ところで,全国社会福祉施設経営者協議会の調査によれば,給食業務を全面的に外部委託している施設の割合は,平成9年度に8.5パーセントであったが,平成12年度には23.9パーセントに増加しており(<証拠省略>),本件解雇(平成14年7月1日)当時はさらに増加していたと推測されること,平成10年4月に給食業務の全面委託を導入した福祉施設の実践例によれば,かかる委託のメリットとして,利用者の食事レベルの向上(業者のノウハウを活用することにより,献立や個別対応が可能となる。),衛生面での管理の更なる徹底,労務管理からの解放(職員補充や効率的な職員配置など),コスト管理の充実(大量仕入れなどによる材料費の適正化や品質の確保)が挙げられており(<証拠省略>),本件施設等でも適切な委託をすれば上記各メリットが得られるものと思われることからすれば,給食業務の外部委託は,経費削減,サービスの質向上のための選択肢の一つであると認められる(必ず経費削減策等に資するといった性質のものでないことは,言うまでもない。)。

(イ) したがって,前記のとおり,本件解雇(平成14年7月1日)当時,被告は,利用制度・支援費制度導入に備えて何らかの経費削減策,サービスの質を向上させる方策を採る必要に迫られていたのであるから,被告が,かかる対応策として給食業務の外部委託を採用したこと自体については,一定の合理性が認められる。

ウ(ア) しかしながら,整理解雇の必要性については,個別具体的な事情の下,あくまで本件解雇に着目して,被告の経営上同解雇を行う必要が存するか否かにより判断しなければならないのであり,被告による給食業務の外部委託が合理性を有することをもって直ちに,それに伴い廃止される調理部門の職員が余剰人員となり,整理解雇(本件解雇)の必要性も認められるとすることは許されない。

(イ)a そこで,本件解雇の必要性について検討するに,前認定のとおり,被告は,本件解雇当時,利用制度・支援費制度の導入に備えて何らかの経費削減策,サービスの質向上策を採る必要に迫られていたとはいえ,本件解雇直前の決算である平成13年度決算において,本件施設等で合計2922万4747円の黒字(3施設全てが黒字である。)を計上しており,経営的に逼迫していたなどの事情は窺われない。

確かに,整理解雇の必要性については,倒産必至の状況にあることまで要求するのは使用者側に酷であり,黒字決算であることが直ちにこれを否定することにはつながらないが,本件で問題となっている支援費の支給対象となる3施設(本件施設等)全てにおいて黒字決算であり,廃止対象とされた給食部門が不採算部門であったとの事情も窺われない上,被告は,自身の試算として,支援費制度の導入により本件施設等で年間計1790万8840円の減収となることが予想されたと主張し,U理事長も同旨の供述をするが,その試算根拠は不明であってこれを裏付ける証拠は何ら存せず(むしろ,U理事長は,つわぶき苑(利用定員一日当たり15名)についての上記被告の試算が,一日当たり平均7,8名利用することを前提としているにもかかわらず,一日当たりの平均利用者数は11から12名であると供述している。),結果としても,前認定のとおり,支援費導入後の平成15年度決算における本件施設等の収入(2億3777万7088円)は,平成13年度のそれ(2億3623万5433円)を上回っていること(ただし,平成14年度の2億4211万1626円よりは減少した。)を考慮すると,解雇以外の経営合理化策については格別,将来の収入減少を見込んで積極的に解雇にまで踏み切る必要があったかについては疑問が存する。

b また,本件解雇により解雇された職員は原告のみであるから,同解雇の必要性については,全調理員ではなく,原告を解雇する経営上の必要性の有無を検討する必要があるところ,仮に給食業務を外部に委託した結果,本件施設等の調理員らが余剰人員となったとしても,前認定のとおり,原告以外の全調理員(5名)は,本件解雇当時,被告を退職して給食業務受託業者へ転職することに既に同意していたこと,また本件解雇当時,本件施設等のうち,本件施設(職員定数28名のところ29名(原告を含む。))及びつわぶき苑(職員定数7名のところ9名)はいずれも定数を上回る職員がいたものの,セルプつわぶきはこれを下回っていたこと(職員定数8名のところ7名)からすれば,余剰となった調理員のうち,残りは原告一人のみとなったこの段階において,さらに人員を整理する必要があったのか疑問が存する。

エ したがって,本件解雇当時,被告が,利用制度・支援費制度の導入に備えて何らかの経費削減策,サービスの質向上策を採る必要に迫られていたことを考慮してもなお,本件解雇を行う必要が存したと認めるには足りない。

そうすると,この人員整理の必要性という大前提が認められないのであるから,整理解雇を理由とする本件解雇が有効となる余地は乏しいが,さらに他の要件(要素)について検討を加えておくこととする。

(4)  解雇回避努力(<2>)

ア 解雇回避努力について検討するに,被告は,本件解雇を行うに際し,職員の出向,希望退職者の募集,役員その他の職員の減俸を全く実施していない(U理事長本人,弁論の全趣旨)。

この点に関し,被告は,希望退職者募集が整理解雇の必須の要件ではない旨主張し,最高裁判所昭和61年12月4日判決をその根拠として挙げるが,同判決は,臨時員の雇止めにつき,期限の定めなく雇用されている従業員の希望退職者募集に先立ってこれが行われてもやむを得ないとするものであり,解雇回避努力を尽くしたと認められるには常に希望退職者を募集する必要があるかは格別,本件のように,非常勤職員,パート職員の人員整理が実施されぬまま(争いがない。)正職員たる原告が解雇された場合とは事案を異にする。

イ また,本件解雇は原告一人のみの解雇であり,これを回避するためには一人の職員を何らかの方策により削減または調整すれば足りるところ,本件解雇を回避する措置の一つとして非常勤職員,パート職員の希望退職者募集等を実施すべきでなかったかとの疑問も存するし(被告は,本件解雇当時,退職希望者が存しないことは分かっていた旨主張するが,前認定のとおり,同解雇後約1年の間に少なくとも7名の退職者(本件外部委託による退職者5名を含まない。)が存するのであり,同解雇当時,希望退職者の募集を行っても希望者は全く出なかったと認めるに足りない。),職種の違いがあるとはいえ,正職員であった原告につき,本件施設等において異動等を実施することが不可能であったとまでは認められない(前認定のとおり,被告は,本件解雇前,一旦は原告に寮母への異動を内示したことがあるため,原告が他の職種を担当し得ることを認めていたといえるし,前認定の本件施設等における非常勤・パート職員の人数,セルプつわぶきの欠員状態からしても,各職員の異動・勤務調整等を検討してもなお,一人の職員の削減または調整が不可能であったと認めるには足りない。)。

ウ さらに,本件委託契約は,その内容として,前認定のとおり,給食材料を被告が調達すること,業務遂行に必要な各費用(燃料費,水道光熱費,消耗品費)も被告の負担とすること,調理員6名(平成16年4月1日からは5名)のうち,5名は被告の調理員を引き続き雇用すること,栄養士も委託前と同様にV栄養士が担当することなどを含んでおり(b社による食材の一括仕入れを導入するなどしていない。),また,結果的にも,本件外部委託導入後の平成15年度の給食費(1557万5614円)は,本件解雇直前の決算期である平成13年度のそれ(1740万3000円)に比し,約183万円減少したものの,人件費は約417万円,業務委託費は約1566万円それぞれ増加しているため(別紙収支一覧表参照),委託の具体的内容をどういったものにするかは経営者の裁量に委ねられるべき面が存することを考慮しても,被告は,本件委託契約において,コスト削減のメリットを減殺する種々の合意をしたといわざるを得ない。

したがって,本件解雇は本件外部委託に伴う被告の調理部門の廃止を理由になされた整理解雇であり,同委託が被告の経費削減に資するものであることが当然の前提とされていることを併せ考えると,この点からも,被告は,本件解雇を避けるべく使用者として相当な努力をしたといえないのではないかとの疑問が存する。すなわち,本件解雇後,被告が上記のようなコスト削減のメリットを減殺する種々の合意をしていることから翻って考えると,被告は,同解雇を実施するにあたり,これを回避するために当然に行うべき解雇以外の種々のコスト削減策の検討をしていない,あるいは検討したとしても不十分なのではないかとの疑いが存する(解雇前に十分コスト削減策を検討したならば,かえって約1800万円(417万円+1566万円-183万円)もの支出増となるような委託契約を締結するはずはないと思われる。)。

なお,前述のように,給食業務の外部委託のメリットには,コスト削減ばかりでなく,利用者の食事レベルの向上によりサービスの質を向上させるとの点も存するが,セルプつわぶきの通所者であったCは,むしろ委託前の方が食事内容は良かった旨陳述書(<証拠省略>)に記載しており,本件外部委託がサービスの質向上に資する可能性を強調したとしても,上記疑問を否定するには足りないというべきである。

エ また,解雇回避努力に関し,被告は,原告に対して,非常勤職員であれば雇用し続けることが可能である旨説明したと主張し,同旨のB事務長補佐の陳述書(<証拠省略>)も存するが,これによっても具体的にいつどのようにして原告に説明したのか明らかでないこと,原告はこれを明確に否定していること(<証拠省略>),前認定の平成14年6月18日及び27日に行われた団体交渉の中で,原告の非常勤職員としての雇用継続が話し合われた形跡は存しないし,原告が正職員としての雇用に固執していたと窺わせる事情は認められないこと,上記主張及び書証の提出は,U理事長及び原告の本人尋問が終了した後の段階で突然なされたものであるとの印象を否定できないこと(弁論の全趣旨。仮処分段階も含めたそれ以前の当事者双方の主張及び上記各尋問において,非常勤職員としてであれば雇用し続けるとの主張,供述はなされていない。)からすれば,上記B事務長補佐の陳述書は,その信用性に疑問があるといわざるを得ず,他にこれを認めるに足る証拠も存しない。

オ よって,前認定のとおり,b社が,平成14年6月13日に行われた原告との個人面接の中で,被告在籍時と同じ条件でb社へ移って欲しい旨説明していることから,この段階(本件解雇前の段階)で既に被告は,b社との間で,被告の全調理員をb社が引き継ぎ,被告在籍時と同じ労働条件で雇用する旨合意していたと推認されるものの,かかる事実を考慮してもなお,解雇を回避するために相当な努力をしたと認めるには足りないというべきである。

(5)  整理解雇基準(人選)の合理性(<3>)

ア 整理解雇基準(人選)の合理性に関し,被告は,b社への再就職を拒否したのは原告のみであるから,被解雇者を選定するという作業は不要であり,必然的に同人を解雇せざるを得なかった旨主張する。

イa 確かに,本件外部委託により被告の調理部門は廃止されることとなったのであるから,全調理員に対して受託業者へ再就職するよう要請したところ,一人これを拒否した原告につき,整理解雇を実施せざるを得なかったとの被告の主張は,人選の合理性との観点からは,合理性を有するようにも思われる。

b しかしながら,かかる被告の再就職要請は,調理員らに対し,被告を退職するよう勧奨する性質のもの(退職勧奨)であると評価されるところ,被告は,原告がただ一人退職勧奨に応じなかったことをもって原告一人を対象とする本件解雇を行ったものと認められるが,本来,原告が退職勧奨に応ずるか否かはその自由意思に委ねられているのであり,これに応ずる義務は当然存しない以上,当該勧奨を拒絶したことをもって整理解雇基準(人選)の合理性を満たすとすることは許されない。

また,前認定のとおり,被告(U理事長,A事務長)は,平成14年3月6日,原告に対してその業務上の行動・対応につき始末書を提出するよう求め,同年4月30日には医労連に対し,18項目に及ぶ原告の業務上の問題点を指摘する回答書を交付しているが,他方で,同年2月1日まで本件施設に調理員として勤務していたDは,V栄養士らが原告に対し,他の調理員に比し過重なメニュー(茶碗蒸し,揚げ物,ロールキャベツなど)を課し,注意・指導等も行わなかった旨証言しており,これが原告主張のようないじめに該当するかは格別,真実原告の業務上の行動・対応につき被告指摘のような問題点が存したのかについては疑問が存するため,原告が他職員に比し,経験・能力等の面で特に劣っていたと認めるに足りる証拠は存しないというべきである。

しかも,前認定のとおり,本件解雇当時,本件施設等には複数の非常勤職員,パート職員が在籍していたのであり,正職員であった原告がこれらの者に先立って解雇されるべき事情は認められない。

ウ よって,本件解雇につき,被解雇者の人選が合理的であると認めるには足りない。

(6)  解雇手続の妥当性(<4>)

ア 退職勧奨に関する手続

(ア) 前認定のとおり,被告は,本件外部委託を実施するにあたり,平成14年6月10日午前,少なくとも3名の調理員(原告を含む。)に対して給食業務外部委託の考えを告知した後,同日午後には,同人らに対してb社の担当者を紹介し,同月13日,全調理員に対してb社による個人面接を実施している。原告は,10日の時点では被告から退職するよう告げられていない旨,労働条件についても被告在籍時と同一であるとは告げられていない旨供述するが,U理事長らが給食業務の外部委託を説明した以上,これにより廃止される調理部門の職員(調理員)の処遇(退職の要否,労働条件等)についても説明したと考えるのが自然である。

また,被告は,前認定のとおり,同月18日午後,原告を含む全調理員に対し,「給食業務の業者委託について(お知らせ)」と題する書面(<証拠省略>)を交付して退職の同意を求めており,原告以外の全調理員は,翌19日これに同意している(原告を除く全調理員が19日に同意書を提出している以上,被告は,同人ら(特に6月10日午前に説明を受けたか不明な3名)に対し,遅くとも上記書面(<証拠省略>)を交付した18日午後までには,外部委託の考えを説明してその理解を求めていたことが推認される。)。

さらに,被告は,原告に対しては,同日午前に医労連との団体交渉を行い,上記退職勧奨後の6月27日にも,原告及び医労連と団体交渉を行っている以上,そこでも本件外部委託,調理員らの退職の必要性につき,ある程度説明がなされたことが推認される。

(イ) かかる事実に照らせば,被告は,少なくとも給食業務の外部委託に伴う退職勧奨については,全調理員に対し,ある程度,その必要性を説明し,理解を求めたと認められる。

(ウ) しかしながら,他方で被告は,前認定のとおり,6月18日午前の団体交渉において,医労連が原告はあくまで被告職員として働き続ける意思を有している旨を伝えたにもかかわらず,退職の同意を求める書面(<証拠省略>)を交付する予定であることを医労連に伝えぬまま,その日の午後には,原告に対して同書面を交付しており,同月27日の交渉においても,原告があくまで退職を拒否した場合の対応について検討している旨医労連・原告へ回答し,当該検討結果につき7月1日に回答することを約束したにもかかわらず,回答予定日である同日に,突如として本件解雇を実施している。

また,前認定のとおり,被告が給食業務の外部委託を検討し始めたのは,平成14年5月ころであって,原告または医労連らに対し,当該委託を考えている旨を初めて説明したのは,その約1か月後の6月10日であるにもかかわらず,被告は,それから1月も経過していない7月1日に原告を解雇(本件解雇)しており,上記検討開始から本件解雇までの間に行われた団体交渉は,6月13日及び27日の2回のみである(しかも,27日の団体交渉におけるU理事長らの対応に関し,医労連執行委員長Eは,交渉中にU理事長らがせせら笑うなどの不誠実な態度を採った旨陳述書(<証拠省略>)に記載しており,同人らが当該交渉において医労連らと十分に協議し説明しようという態度・立場を採っていなかったのではないかとの疑問も存する。)。

(エ) したがって,前述のとおり,給食業務の外部委託に伴う退職勧奨につき,被告が,ある程度,調理員らにその必要性を説明し,理解を求めていたとは認められるものの,退職を拒否した原告,医労連らに対し,十分に説明・協議を尽くしたとまではいえないというべきである。

イ 本件解雇に関する手続

(ア) また,前認定のとおり,被告は,6月27日の団体交渉において,原告・医労連に対し,原告があくまで退職を拒否した場合の対応について検討中である旨回答し,当該検討結果につき7月1日に回答することを約束したにもかかわらず,回答予定日である同日,突如として本件解雇を実施していることからも明らかなように,被告は,原告・医労連らに対し,原告があくまで退職を拒否した場合には整理解雇に踏み切る旨説明していない。

(イ) 前述のように,退職勧奨に応ずるか否かは原告の自由意思に委ねられており,これを拒絶しても退職を強要されるものではないのであるから,仮に被告が給食業務の外部委託に伴う退職勧奨につき,原告・医労連らに対して十分に説明・協議を尽くしたと認められる場合であっても,それだけでは足りず,少なくとも,あくまで退職を拒否した場合には整理解雇に踏み切る可能性があることまで説明し,これについても協議を尽くしたと認められることが必要であるというべきである。

前述の被告の対応からすれば,本件解雇は,整理解雇の時期,方法についてはもちろん,その具体的な実施についてすら明言されぬまま,検討結果の回答予定日に突如としてなされたものであり,整理解雇に踏み切る可能性の説明,協議がなされないまま,原告が退職勧奨に応じなかったことを契機として,唐突に実施されたものと評価せざるを得ない。

(ウ) したがって,この点からしても,本件解雇は,原告・医労連らとの間で十分な協議を尽くしたものであるとは認められない。

(7)  小括

以上より,被告は,本件解雇当時,前述の整理解雇の4要件全てにつき,これを満たしていたと認めるに足りないため,同解雇は,本件就業規則11条1項4号の要件を満たすとは認められない。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件解雇は,解雇権の濫用に当たり無効といわなければならない。

2  原告の賃金額等(争点(4))について

(1)  前認定のとおり,原告は,本件解雇前3か月間(平成14年5月ないし7月)に,それぞれ13万5391円,13万1130円,13万4754円の給与の支払を受けており,平均賃金は,月額13万3758円である(毎月末日払い。なお,前認定のとおり,各月の給与には通勤手当1万0500円が含まれているが,被告は,職員の勤務日数にかかわりなく一律にこれを支給していると認められるため(<証拠省略>),通勤手当も賃金に含まれるというべきである。)。

そして,特段の事情が存しない限り,原告が勤務を継続していた場合,同人に対し,本件解雇後も上記平均賃金と同額の賃金が支給されたと認めるのが相当である。

(2)  また,本件において原告は,被告に対し,平成13年の1年間に被告から支給された全賃金(261万1180円)を12(年間の月数)で除した金額(21万7598円)を毎月支払うよう請求していること,原告は,平成13年に被告から賞与2回及び期末手当1回の支給を受けていること(弁論の全趣旨。夏期賞与が6月,冬期手当が12月,期末手当が3月に支給されるものと推認される。)からすれば,原告は,前記給与のほかに,賞与(年2回)及び期末手当(年1回)の支払をも求めていると解されるところ,かかる賞与等についても,特段の事情が存しない限り,原告が勤務を継続していた場合,本件解雇後も同額が支給されたと認めるのが相当である。

そこで,本件解雇前の平成13年の年末賞与(12月)並びに平成14年の期末手当(3月)及び夏期賞与(6月)の金額につき検討するに,前認定のとおり,原告は,平成14年の夏期賞与については,同年6月に被告から 28万4829円の支給を受けている。

他方,平成13年の年末賞与及び平成14年の期末手当の具体的支給額は,弁論の全趣旨によっても直ちに明らかにはならないが,前認定のとおり,原告は,平成13年に被告から年間261万1180円の給与・賞与等の支払を受けているため,前記平均賃金からすれば,同年の原告の賞与・期末手当の総額は100万6084円(261万1180円-13万3758円×12か月)であると推認される(同平均賃金は平成13年ではなく,平成14年5月ないし7月分であるが,特段の事情がない限り,平成13年も同程度の賃金が支払われたものと認められる。)。そのため,上記賞与等の支給総額から平成13年の夏期賞与額(少なくとも,前認定の平成14年夏期賞与と同額が支給されたと推認できる。)を控除した金額(72万1255円)が,平成13年の年末賞与及び期末手当の合計金額であると推認されるところ,期末手当に関しても,特段の事情のない限り,平成13年と平成14年では同額が支給されたと推認できるため,結局,平成13年の年末賞与及び平成14年の期末手当の合計金額は,上記72万1255円であると認められる。そして,弁論の全趣旨によっても年末手当及び期末手当の支給割合が明らかでない本件では,これを2分し,年末手当を36万0628円,期末手当を36万0627円とするのが相当である。

(3)  ところで,前認定のとおり,原告は,平成14年8月1日に解雇予告手当に準じ14万8321円の支払を受けたものであるから,同月に関する原告の賃金請求は理由がない。

(4)  したがって,原告は,被告に対し,平成14年9月から本判決確定の日まで,毎月末日限り金13万3758円の賃金,並びに毎年3月末日限り36万0627円の期末手当,6月末日限り28万4829円の夏期賞与及び12月末日限り36万0628円の年末賞与を請求する権利を有しているというべきである。

3  結論

よって,原告の本件請求は,被告に対し,労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに,平成14年9月から本判決確定の日まで,毎月末日限り金13万3758円,並びに毎年3月末日限り36万0627円,毎年6月末日限り28万4829円及び毎年12月末日限り36万0628円の支払を求める限度で理由があり,その余は失当であるから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙野裕 裁判官 山本善彦 裁判官 大島広規)

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