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鹿児島地方裁判所 平成14年(ワ)230号 判決 2003年3月26日

主文

1  被告の平成14年2月15日開催の臨時総会における組合員Aを除名する旨の議決が無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求(1と2は選択的併合)

1  被告の平成14年2月15日開催の臨時総会における組合員Aを除名する旨の議決が無効であることを確認する。

2  被告の平成14年2月15日開催の臨時総会における組合員Aを除名する旨の議決を取り消す。

第2事案の概要

本件は、漁業協同組合である被告の臨時総会において、組合員である原告を除名する旨の議決がされたことに関して、原告が被告に対して当該議決の無効確認又は取消しを求めた事案である。

1  基礎となる事実

(1)  当事者

被告は、水産業協同組合法(以下「水協法」という。)に基づいて設立された漁業協同組合である。被告は、昭和37年9月21日、志布志第二漁業協同組合、有明漁業協同組合等が合併し、設立されたものであり、曽於郡志布志町及び有明町の区域を組合の地区としている。

被告の定款8条では、地区内に住所を有する漁民であって年間90日を超えて漁業を営むもの等を正組合員の資格者とし、同様の漁民であって年間45日を超えて漁業を営むもの等を准組合員の資格者と定めている。

原告は、被告の設立時からその准組合員であったが、平成6年11月1日開催の被告理事会において正組合員の資格者と判定され、所定の手続を経て正組合員となった。

原告は、かご網と呼ばれる漁具(かごの形状をした小型の網で、2か所に獲物の入口が設けられている。)を海底に一定時間沈めて魚介類を採捕するかご網漁業を営んでおり、かご網を50個ほどロープで接続したものを使用して主にカニを採捕している。なお、かご網漁業は、下記・の免許において認められた漁業のうち、第2種共同漁業(雑魚かご網漁業)に含まれる。(甲8,11,39,乙6,20の3の1,20の3の2,弁論の全趣旨)

(2)  被告の有する共同漁業権

被告は、漁業法に基づき、鹿児島県知事から志布志町及び有明町地先の一定の海域を漁場の区域とする共同漁業免許(免許番号・鹿共第60号)を受け、上記の海域についての共同漁業権(以下「本件共同漁業権」という。)を有している。

現在有効である免許は平成5年9月1日に受けたもので、存続期間は平成15年8月31日までとされている。この免許において認められている漁業の種類は、第1種共同漁業(わかめ、あわび、いせえび漁業等)、第2種共同漁業(雑魚建網漁業、雑魚かご網漁業、小型定置網漁業)、第3種共同漁業(雑魚地びき網漁業)の3種類である。(乙8の2~8の6)

(3)  被告の漁業権行使規則

被告は、免許を受けた漁業権の管理及び行使のため、漁業法8条に基づき、鹿児島県知事の認可を受けて、漁業権行使規則を定めている。これらのうち本件に関係する規則は、志布志漁業協同組合鹿共第60号第2種、第3種共同漁業権行使規則(以下「本件行使規則」という。)であり、現行の規則は、平成5年5月28日被告の通常総会において制定が承認され、同年8月31日鹿児島県知事の認可を受けたものである。

本件行使規則には、前記免許により認められた第2種共同漁業について、漁業の方法、統数、区域及び期間の制限に関する、要旨、次のような規定が設けられている。

ア 雑魚建網漁業については網を建てる方法により統数55の範囲内、雑魚かご網漁業についてはかご網を設置する方法により統数20の範囲内、小型定置網漁業については定置網を設置する方法により統数10の範囲内でなければ営むことができない。区域はいずれも本件共同漁業権の区域の全域とし、期間はいずれも1年後に更新とする(4条1項本文)。

イ 理事は、水産動植物の繁殖保護又は漁業調整上必要と認める場合は、漁業の方法、統数、区域又は期間を制限することができる(4条1項ただし書)。この制限をしようとする場合は、理事は、漁業の方法、統数等を指定して、これを公示しなければならない(4条2項)。

さらに、本件行使規則には、違反者に対する措置として、共同漁業を営む組合員が漁業に関する法令及びこれに基づく行政庁の処分又はこの規則に違反したときは、当該漁業を停止させることができること、上記組合員がこの規則に違反したときは、過怠金を課すことができることが定められている(8条)。

なお、漁業権行使規則の制定、変更及び廃止については、総会の特別決議による議決及び都道府県知事の認可を経なければならないとされている(水協法48条1項9号、50条5号、漁業法8条6項(平成12年改正後の規定)、定款38条1項・、42条・)。(甲8,乙1,7,8の1,19,弁論の全趣旨)

(4)  かご網漁業に関する操業時間の制限と組合員に対する通知・警告昭和62年2月2日開催の被告の理事会において、かご網漁業及び建網漁業について、資源保護上、操業時間を日没から日の出までに制限することが決定され、その旨が被告の掲示板に告示された。

平成3年7月ころ、被告は、志布志港湾事務所長から港湾区域内におけるかご網等の操業に関する注意を受け、組合員に対し、時間や区域等の規則を順守して操業するようにとの告示をした。

同年12月25日ころ、被告は、かご網漁業を営む組合員に対し、「かご網の操業については日中は禁止となっておりますが、先般の理事会において、新たに投入するかごは、60個までとし、これに違反した場合は許可を取り消すことに決定しましたので通知致します。規則を順守して操業して下さい。」と記載された「かご網操業の規制について」と題する書面を送付した。

平成5年1月18日ころ、被告は、かご網漁業を営む組合員に対し、「かご網の操業は日中禁止、投入するかごは60個までとなっています。この投入するかごにつける旗を作成しましたので、この費用3,500円と引き換えに組合で受け取るように通知致します。なお、この旗以外は違法操業になりますので、規則を順守して操業してください。」と記載された「かご網操業に係る旗について」と題する書面を送付した。また、このころ、被告は、かご網漁業を営む組合員に対し、かご網の操業は日中は禁止されており、操業区域及び操業時間を順守するように通知する旨の「かご網の操業について」と題する書面を送付した。

平成8年11月27日ころ、被告は、原告に対し、「貴殿が違反操業して迷惑を被っていると組合員から再三再四組合に苦情が来ています。かご網の操業は日没から日の出までとなっており、日中の操業は禁止となっているので規則を遵守するように! 今後、違反操業が続くようであれば許可没収を含めて対応しますので、ここに通知致します」と記載された書面を送付した。

ところで、被告は、本件共同漁業権に関して、漁業を営む権利を有する組合員に対して「共同漁業権漁業許可証」と題する書面を交付しており、原告は、遅くとも昭和60年以降、かご網漁業についての上記許可証と題する書面を毎年交付されている。この書面には、「制限又は条件」の表題で組合員の遵守すべき事項が記載されているが、平成7年7月1日以前の日付の書面には、かご網漁業に関する特別の遵守事項は記載されていなかった。しかし、平成9年7月1日付けの書面には、遵守事項として、「禁漁区域及び違反操業は絶対してはならない(注・かご網漁業の操業は日没から日の出までとし、投入するカゴ数については60個までとする。また投入したカゴについては標識旗を掲げなければならない)」との記載が追加された。平成10年以降の日付の上記書面にも同旨の記載がされている。(甲2~7,乙2,5,13,15(枝番があるものは全部),弁論の全趣旨)

(5)  志布志港港湾改修による漁業権放棄とその補償金の配分に関する紛争志布志港港湾改修計画に基づく志布志港内の海面の埋立等に伴い、鹿児島県と被告は、昭和54年と平成8年の2度にわたり、本件共同漁業権の一部放棄・制限に関する漁業補償協定を締結し、鹿児島県は被告に対して合計45億5000万円の補償金を支払った。

これらのうち、平成8年締結の協定に基づく20億円の補償金の配分方法をめぐって、被告の理事会側と原告をはじめとする一部の組合員側との間で意見が対立し、平成8年8月20日開催の臨時総会において補償金の配分方法に関する決議がされたことから、原告を含む10名ほどの組合員が、当該決議に基づく補償金の配分の差止めを求める仮処分の申立てをし、さらに、被告に対して当該決議の無効確認等を求める訴えを提起した(その後、平成9年5月2日開催の臨時総会における決議の無効確認を求める訴えも追加された。以下これらの訴訟を総称して「前訴」という。)。

平成11年9月27日、鹿児島地方裁判所はこれらの総会決議の無効確認請求を棄却する判決をし、平成13年4月27日、福岡高等裁判所宮崎支部において控訴が棄却され、同年11月8日、最高裁判所で第1審判決が確定した。

前訴においては、原告につき本人尋問が実施されたほか、第1審判決の当事者の表示の筆頭に原告が記載されており、原告は前訴を提起した組合員らの中心的な人物であった可能性が高い。(甲30,32,33,37,38,40,41,乙6,弁論の全趣旨)

(6)  組合員の除名に関する規定

組合員の除名については、水協法によれば、①長期間にわたって組合の施設を利用しない組合員、②出資の払込み、経費の支払その他組合に対する義務を怠った組合員、③その他定款で定める事由に該当する組合員のいずれかに該当することが除名事由とされ、これらに該当する組合員につき総会の議決によって除名することができるとされている。この場合には、組合は、その総会の会日から7日前までにその組合員に対しその旨を通知し、かつ、総会において弁明する機会を与えなければならず(27条2項)、総会における除名決議には、総組合員(准組合員を除く。)の半数以上が出席し、その議決権の3分の2以上の多数による議決(特別決議)を要するとされている(50条3号)。

また、被告の定款では、上記の水協法の規定を受け、「法令、法令に基づいてする行政庁の処分又はこの組合の定款、行使規則(漁業権行使規則及び入漁権行使規則をいう。以下同じ。)若しくは規約に違反しその他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき」等を除名事由として定めている(15条1項・)。(甲8)

(7)  原告の除名に至る経過

平成13年12月6日に開催された被告の理事会に、被告の組合員らから「要望書」と題する書面が提出された。この書面では、原告が再三再四にわたる被告からの警告にもかかわらず違反操業を繰り返し、現在も違反操業を行っているとして、原告を除名することを求めている。また、原告を含む8名の組合員(いずれも前訴を提起した者)は、平成7年の総会での決議事項(被告への出資金の増資に関する決議)を無視し履行していないが、違反操業者の原告に賛同しているのであるから、理事会において各人の意見を聞き、定款に触れるようであれば除名されたいとしている。

平成13年12月6日の理事会では、上記「要望書」の提出を受けて、その取扱について協議がされた。協議の中で、被告の理事ら(前訴を提起した者の一人であるB理事を除く。)から、上記8名の組合員が増資に応じないことや前訴の弁護士費用その他の費用として2000万円以上を要したことなどの指摘があり、これらの8名を除名すべきとする意見が出され、この問題につき今後検討を進めることで了解された。

平成13年12月14日、被告は、上記8名の組合員に対して、他の組合員らから除名の要望書が提出されているとして、個別に意見を聴取するための聴聞会を同月19日に開催するから出席されたい旨の通知書を送付した。しかし、同月18日、これら8名の代理人の弁護士から、被告に対して、聴聞の目的と内容、除名の理由を明らかにすることを求めるとともに、納得のいく回答がない限り聴聞には出頭しない旨の書面が送付され、結局、聴聞は実施されなかった。

平成14年1月21日開催された理事会では、除名決議のための臨時総会の招集について協議がされ、上記8名が増資に応じていないこと、前訴の費用として各組合員が1人当たり50万円以上を負担していること、上記8名の中に漁業権行使規則を守らない者がいること、前訴の費用の負担のためこれらの者を快く思っていない組合員が多いことなどの説明があり、同年2月15日開催の臨時総会を招集すること、原告を除名の対象者とし、今後の様子を見ることが提案され、了承された。

平成14年2月5日ころ、被告の組合員に対して「平成13年度臨時総会招集通知」と題する書面が送付され、同月15日に組合員の除名等を議案とする臨時総会が開催される旨が通知された。また、同じころ、原告に対して、「組合員除名に関する平成13年度臨時総会開催の通知」と題する書面が送付された。この書面には、同月15日開催予定の臨時総会において原告の除名について組合員に付議することを決定した旨の記載があるが、除名の理由については、「志布志漁業協同組合漁業権行使規則違反」とのみ記載され、具体的内容については記載がない。

平成14年2月15日開催された臨時総会には、正組合員145名のうち139名が出席した(うち本人出席85名)。被告の組合長は、除名の理由について、原告は、かご網の操業時間が日没から日の出までと決められているにもかかわらず、日中も操業をしており、10年以上も被告から再三注意を受けながら、違反操業を続けていると説明した。これに対して、原告は、違反操業は行っていないと主張し、日中の操業が違反操業に当たるのであれば、他の組合員も違反操業をしていることになるなどと弁明したが、投票の結果、投票総数138票のうち109票が賛成であったため、議案が可決されたものとされた(以下「本件除名決議」という。)。

平成14年2月19日、被告から原告に対し、同月15日開催の臨時総会において「志布志漁業協同組合漁業権行使規則違反」により原告を除名することが決定された旨の通知がされた。(甲1,24~27,29,34,乙4,34,35(枝番があるものは全部))

2  争点

(1)  被告の主張

被告は、昭和62年2月2日、理事会において、本件行使規則4条に基づき、かご網漁業の操業時間につき日没から日の出までとする日中操業の禁止を決定し、その旨を掲示板に告示し、かご網漁業を営む組合員に通知した。

しかし、原告は、この決定を守らず、別紙図面中の1の海域では昭和62年ころから平成8年ころまで、同2及び3の海域では昭和62年ころから平成12年ころまで、同4の海域では平成14年1月18日、同5の海域では平成13年3月28日、5月31日及び7月9日、いずれも日中にかご網漁業の操業を行った(以下これらの海域を「海域1」~「海域5」という。)。

このように、原告は、日中の操業を禁止する理事会の決定を守らず、違法操業を続けていたので、他の組合員からの苦情を受けた被告は、平成8年11月27日、原告に対して書面で警告を行った。しかし、その後も原告はこれを無視して違法な操業を続けたため、多数の組合員から原告を除名するようにとの要望書が被告に提出され、平成14年2月15日開催の臨時総会において原告を除名するとの決議がされたものであるから、本件除名決議は有効である。

(2)  原告の主張

漁業権行使規則の制定、変更及び廃止については、水協法50条に基づき、総会の特別決議を要するとともに、さらに、漁業法8条による都道府県知事の認可を受けなければその効力を生じないとされている。したがって、仮に、被告の理事会においてかご網漁業の操業につき日没から日の出までとの制限を決しうるとしても、それは漁業権行使規則の制定、変更及び廃止に関するものであるから、総会の特別決議と鹿児島県知事の認可を受けなければ、効力が生じない。

仮に、上記主張が認められないとしても、原告がかご網漁業の日中操業を行った場所は、志布志港港湾改修計画に関連して被告が漁業権を放棄した海域内であって、当該海域内では本件行使規則が適用されないから、原告の操業は本件行使規則違反には当たらない。

さらに、仮に、原告の操業が本件行使規則違反に当たるとしても、その違反は軽微なものであるから、本件除名決議は権利の濫用であり無効である。

原告以外にもかご網の日中操業を行っている組合員がいるが、これらの者は何らの処分も受けていない。被告は、原告を含む8名の者が前訴を提起したことに対する報復として、中心人物である原告を本件行使規則違反の名目で除名したものである。

第3争点に対する判断

1  昭和62年2月2日の理事会決定の効力について

平成5年に制定された現行の本件行使規則4条1項は、第2種共同漁業の方法や統数等に関して前記のような制限を定めた上で、さらに、水産動植物の繁殖保護又は漁業調整上必要と認める場合は、漁業の方法や統数等を理事が制限することができるとの規定を設けている。これは、漁業権行使規則の改正には厳格な手続を履践することが法律上要求されていることから、漁業の方法や統数等につき時機に応じた適切な制限を設ける実際上の必要があることを考慮して、一定の合理的必要性がある場合に限り、これらについて制限を設ける権限を理事に与えたものと解される。したがって、これに基づき理事が漁業の方法や統数等を制限することが行使規則の制定や変更等に当たらないことは明らかであり、これについて総会決議や知事の認可を受ける必要はないというべきである。原告の主張は独自の見解に基づくもので、採用することができない。

そして、この規定に基づき理事が漁業の方法等を制限しようとする場合にはこれを公示しなければならないとされていること、制限の実効性を確保するためには違反者に対して制裁措置を執ることができるとする必要があることにかんがみれば、この規定に基づき理事が制限を定めた場合には、当該制限は行使規則の規定と相俟って組合員の漁業権の行使を規制し、その違反者に対しては行使規則違反による制裁措置を執ることができると解するのが相当である。

昭和62年2月2日の理事会決定がされた当時の本件行使規則は、昭和58年に制定されたものであり(乙7,18の1)、その内容は必ずしも明らかでないが、現行の本件行使規則の内容とほぼ同一と考えられるから(弁論の全趣旨)、当該理事会決定によるかご網漁業の操業時間の制限は有効であり、この決定に反して日中操業を行うことは当時の本件行使規則に違反する。現行の本件行使規則の制定後に再度理事会において同一の操業時間制限を決定した事実は証拠上うかがわれないが、前記認定のとおり、平成9年以降被告は「共同漁業権漁業許可証」にかご網漁業の操業時間制限に関する遵守事項を追加し、また、平成8年原告に対して日中操業を中止するよう書面で警告を行っており、これらの事実にかんがみれば、現行の本件行使規則の制定後もかご網漁業については理事により操業時間が制限されていたと認められるから、かご網漁業の日中操業は現行の本件行使規則にも違反するというべきである。

2  原告の違反操業の有無について

本件において、被告は、原告が本件行使規則に違反する操業を行ったことを除名事由として主張しているところ、本件行使規則とは、本件共同漁業権の管理等に関する規則であって、被告が漁業権を放棄した海域内での操業については本件行使規則の規制するところではないから、被告が本件共同漁業権を有する海域内における原告の違法操業の有無についてのみ検討する。

原告本人は、日中操業を行っていることを自認するが、操業をした場所は志布志港内の漁業権放棄海域内であると供述し、本件共同漁業権の海域内での日中操業を否認する。

しかし、前訴における平成10年11月12日の原告本人調書(乙6)によれば、原告本人は、平成8年に漁業権が放棄された海域付近で1年を通じて操業をしていると述べている(52~67項)。その時に提示された書証(前訴の甲32)が本件訴訟では提出されていないため、原告本人が操業を認めた場所は必ずしも明確ではないが、堤防の延長と当該漁業権放棄により最も影響を受ける部分であると述べていること(67項)にかんがみれば、その場所は海域1の付近であろうと推測される。このような前訴における原告本人の供述に被告の主張及びこれに沿う証人Cの証言を併せれば、原告は少なくとも海域1の付近で昭和62年ころから継続的にかご網漁業の操業を日中行っていたものと認められる。

したがって、原告は、平成8年に漁業権が一部放棄されるまでは、ほぼ1年を通じて本件行使規則に違反して日中操業を行っていたものと認められ、その後も、漁業権が放棄された海域の周辺で同様の違反操業をしばしば繰り返していたものと推測される。

3  原告の除名処分の適法性について

上記認定のとおり、原告は、日中操業を禁止した理事会の決定に違反して、本件共同漁業権の範囲内で、昭和62年ころから継続的にかご網漁業の日中操業を行っており、原告の行為は、定款所定の除名事由である行使規則に違反する行為をしたときに当たると考えられなくもない。

しかしながら、漁業協同組合のような組合員相互の経済活動の利便のため設立された団体においては、組合員の除名処分は、当該組合員の存在が組合員の相互扶助といった組合の目的に反し、又はこの目的を阻害するといった明確な事実があるときに限り許容されるものであり(最判平成13年4月26日・判時1750号94頁参照)、このような場合に当たらないときは、形式的に見れば、組合員の行為が法又は定款に定める除名事由に該当しても、除名処分をすることは許されず、当該処分は違法というべきである。さらに、本件のように漁業協同組合が共同漁業権を有する場合に、当該共同漁業権の対象となる漁業を営んでいた組合員について除名処分をすることは、その組合員から漁業を営む権利を実質的に剥奪することになり、除名処分の対象とされた組合員に極めて重い制裁を課すことになる。このような除名処分の結果の重大性にかんがみれば、除名処分が許されるのは、漁業の停止措置や過怠金を課すことなどの他の措置では不相当といえるような重大な違反がある場合に限られると解さざるを得ない。

原告は、昭和62年ころから継続して違反操業を行っており、平成8年11月には書面により日中操業を中止するよう警告を受けながら、その後も、理事会の決定による操業時間制限は無効であるとの独自の見解に基づき、日中操業を繰り返していたものであって、原告の行為の違法性は決して軽微とはいい難い。

しかしながら、原告の行っていたかご網漁業は、前記のとおり比較的小規模で伝統的な漁法であり、日中の操業により周囲に与える影響の程度はさほど大きいとは思われず、原告が理事会決定を無視して日中操業を継続したことは、他の措置では不相当といえるような重大な違反に該当するとは認めることができない(前記第2の1・・の認定事実にかんがみれば、原告等による前訴の提起とそれに伴う多額の費用の負担などが原告の除名処分が行われるに至った動機の一つである疑いが強い。)。

以上によれば、原告の除名処分には法及び定款の定める除名事由が存在しないというべきであるから、本件除名決議は違法であり、無効である。

第4結論

よって、原告の請求のうち、本件除名決議の無効確認を求めるものは理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 市原義孝)

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