鹿児島地方裁判所 平成14年(ワ)258号 判決 2003年12月22日
主文
1 被告は原告らに対し,それぞれ別紙無事戻し金一覧表記載の当該原告欄の「無事戻し金合計額」欄に掲げる各金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告らの,その1を被告の各負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は原告らに対し,それぞれ別紙損害金一覧表記載の当該原告欄の「損害金合計」欄に掲げる各金員(ただし,原告E1及び同E2については記載金員の2分の1ずつ)を支払え。
第2事案の概要
本件は,農家が生産して肥育に適する状態にまで育てた子豚を,農協が設置する共同肥育場で肥育し,肉豚として出荷する事業に参加した原告らが,共同肥育場を設置した農協を合併した被告に対し,事業の安定化のために原告らが積み立てた積立金が返還されていないとして,積立金の返還とそれに対する遅延損害金の支払を求め,また,上記事業の決算書には利益が計上されており,農協が内部資金の名目で不当に高い利息を徴収せず,農協分の積立を農協の自己資金で行なっていれば,より高額の利益が計上できたはずであるにもかかわらず原告らに利益が配当されていないとして,利益の配当とそれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実及び証拠(甲1ないし4,8の(1)ないし(9),9ないし11,12の(1),(2),13,15の(2),17の(19)ないし(66),18,30,34,乙1(1),(2),2の(1),(2),3の(1),(2),5,6,8ないし18,19の(1)ないし(3),20,21,22の(1),(2),23,24,26,27,29,証人A,同B,同C,原告D本人)により認められる事実
(1) 当事者
ア 被告は,平成10年3月1日,合併により,旧枕崎市農業協同組合(以下「枕崎市農協」という)の権利義務を承継した者である。
イ 原告ら(ただし,原告E1及び同E2については,訴訟当事者としての原告らという趣旨である場合には同人らを指し,養豚農家としての原告らという趣旨である場合には,同人らの被承継人Eをいう)は,養豚事業を営む農家であり,枕崎市農協の組合員であった者である。
(2) 枕崎市農協における肉豚共同肥育事業の開始
肉豚共同肥育事業(以下「本件共同肥育事業」という)とは,枕崎市農協と組合員中の養豚農家が契約を締結し,養豚農家が繁殖させた子豚を,枕崎市農協が所有する共同肥育場(以下「養豚センター」という)で肥育し,肉豚として出荷する事業である。
昭和47年,枕崎市農協及び養豚農家は本件共同肥育事業を開始したが,後記の昭和59年の共助積立金制度の発足とともに,事業の会計処理も同制度を組み込んだものに整備された。
本件の紛争はこれ以後の本件共同肥育事業の経理処理をめぐって生じたものである。
(3) 共助積立金制度
昭和59年,鹿児島県経済農業協同組合連合会(以下「県経済連」という)は,肉豚の価格低迷に対処し,県内各農業協同組合の共同肥育事業の経営安定を図るため,農協共同肥育事業共助積立金要領(以下「積立金要領」という)及び「農協共同肥育事業共助積立金の経理処理について」(以下「共助積立金経理処理要領」という)を作成し,以下の共助積立制度を制定した。
ア 概要
共同肥育場から県経済連を経由して出荷される肉豚につき,出荷の都度,1頭当たり,県経済連及び単位農協が500円,養豚農家が1000円を出捐して積み立て,損失が生じた場合にはこれを取り崩して損失を填補し,利益が生じた場合にはこれを出捐した者に返還し(以下「無事戻し」という),もって共同肥育事業の経営安定を図る。
イ 積立
(ア) 農家分
① 後記のとおり,農協は農家が子豚を共同肥育場に出荷した時点で各農家に対し「子豚仮渡金」を支払うものとされていたが,この中から1頭当たり1000円を養豚センターの会計に留保しておき,成育した肉豚の出荷時に,1頭当たり1000円を当該農協の鹿児島県信用農業協同組合連合会(以下「県信連」という)の預金口座に振り替える。
② 県経済連は,肉豚出荷時に,出荷頭数1頭当たり1000円を当該農協の県信連預金口座から引き落とし,共助積立金として積み立てる。
(イ) 農協分
① 農協は,肉豚の出荷時に,1頭当たり500円を本会計から支出して,当該農協の県信連預金口座に入金する。
② 県経済連は,肉豚の出荷時に,1頭当たり500円を当該農協の県信連預金口座から引き落とし,共助積立金として積み立てる。
ウ 共助積立金の適用と実施
(ア) 対象期間と標準損益の算定
共助積立金の対象期間(長期平均払期間)は3年間とされ,毎月の損益額は県経済連が決める。県経済連会長は,毎月の損益額の3年間分の累計に基づき,対象期間の標準損益を決定する。
(イ) 共助積立金の取崩
対象期間の満了時に決定された標準損益に損失が生じた場合は積立金を取り崩して損失に充当する。
(ウ) 共助積立金の繰越,無事戻し
対象期間満了時において積立金に残額があるときは,県経済連は,当期の各事業年度ごとに農家・農協・経済連の持分を明確にして金額を一旦翌期に繰り越し,積み立てた年次にしたがって,農協分及び農家分の無事戻し金を当該農協の県信連預金口座に振り込む。
農協は,県経済連から県信連預金口座に無事戻しで振り込まれた農家分の共助積立金を,一旦肉豚出荷時と逆の経理処理を行なって受入の処理をした上で,最終的に各農家の農協預金口座に振り替える。
同年3月2日,枕崎市農協の子豚契約生産部会(平成4年度から養豚契約生産部会に名称変更。以下「養豚部会」という)の総会において,この共助積立制度に加入することが決議された(争いがない)。
しかし,昭和59年8月ころに開催された枕崎市農協の理事会において,農協分の積立金を養豚センターの会計から支出することが決議された(争いがない)。
(4) 枕崎市農協における肉豚共同肥育事業実施要領等の制定
ア 肉豚共同肥育事業実施要領(以下「事業実施要領」という)
県信連による共助積立金制度の発足に伴い,肉豚共同肥育事業の実施につき,枕崎市農協と養豚農家との間で,以下の内容の事業実施要領が定められた。
(ア) 運営
子豚生産は繁殖豚契約農家(以下「契約農家」という)が自己の責任において行ない,契約農家は生産した子豚の肥育を共同肥育場に委託する。
枕崎市農協は契約農家から委託された子豚を共同肥育場で飼育し,肉豚として仕上げ販売し,特別会計により区分計算して,後記の子豚長期平均払共同計算により清算する。
(イ) 施設
契約農家は自己の責任において子豚生産に必要な諸施設を設置する。
枕崎市農協は契約農家から委託された子豚を飼育し,肉豚として販売するに必要な施設(養豚センター)を設置する。
(ウ) 子豚の契約生産
枕崎市農協は子豚契約生産実施要領に基づき契約農家と子豚生産契約を締結し,その契約により事業を行なう。
(エ) 飼育管理
共同肥育場の管理,肉豚の飼育は枕崎市農協の責任において行なう。
(オ) 子豚の評価と清算
子豚の評価と清算は後記の子豚長期平均払共同計算実施要領に基づいて行なう。
イ 子豚長期平均払共同計算実施要領(以下「共同計算実施要領」という)
事業実施要領で定められた子豚長期平均払共同計算制度を実施するため,以下の内容の共同計算実施要領が定められた。
(ア) 子豚仮渡金
枕崎市農協は,契約農家から子豚を受け入れた時点で,子豚代金の仮渡金を契約農家に支払う。
子豚仮渡金は養豚部会委員会で検討し農協理事会で決定する。
子豚仮渡金のうち1000円以上の一定額を子豚仮渡留保金として留保することができる。
(イ) 共助積立金
① 積立の方法
農家,農協及び県経済連は共助積立金を下記のとおり積み立てる。
農家 1頭当たり1000円
農協 1頭当たり 500円
県経済連 1頭当たり 500円
② 相互補償の実施(積立金の取崩し)
長期平均払契約期間満了時において県経済連が算定した差引標準損益に損失が生じたときは,共助積立金の取崩しにより相互補償を実施する。
③ 積立金の繰越
3年の長期平均払契約期間満了時において共助積立金に残額があるときは,期間中の各事業年度ごとに農家の持分を明確にしたうえ,全額を翌期に繰り越す。
④ 無事戻し
前期から繰り越された農家持分の積立金は,当期の各事業年度に対応する前期の各事業年度分を,当期の各事業年度末に無事戻しをする。
(ウ) 最終清算
最終清算は枕崎市農協の特別会計による長期平均払共同計算により清算する。
共同計算の一期間は3年とし,最終年度の枕崎市農協の決算期日までに受け入れた子豚を共同計算の対象とする。
本要領の契約期間満了時における最終損益は契約農家に帰属し,契約農家はその生産の責めを負う。
なお,清算保留金については枕崎市農協養豚部会委員会で検討し,枕崎市農協理事会の議を経て契約農家の出荷頭数に応じて清算保留金の一部を還元することができる。また,残額については農家の持分を明確にし翌期に繰越すことができる。
清算仮払金(期末決算に係る欠損金を処理する勘定科目)については年間契約不履行者のみ不足頭数割で追徴する。ただし,追徴額で清算仮払金を補填できない場合は理事会で協議し決定する。
(エ) 子豚代金の支払
子豚代金の支払は,子豚仮渡金については子豚を枕崎市農協に譲渡した後,仮清算又は最終清算については清算確定後30日以内に枕崎市農協の契約農家個人別普通貯金口座に振り込んで支払う。
ウ 肉豚共同肥育事業会計経理処理要領(以下「経理処理要領」という)肉豚共同肥育事業の会計処理のため,以下の内容の経理処理要領が定められた。
(ア) 会計単位の設定
枕崎市農協は,共同肥育場に係る会計を処理するため,肉豚肥育センター会計(以下「養豚センター会計」という)を設定する。
(イ) 現金の収納及び支払
現金の出納は原則として枕崎市農協の一般会計で行ない,一般会計では「肉豚センター勘定」で振り替え,養豚センター会計では「組合勘定」で受けて該当科目に振り替える。
(ウ) 特別会計の決算
特別会計の決算については,後記の肉豚共同肥育事業会計決算要領(以下「決算要領」という)により行なう。
エ 肉豚共同肥育事業会計決算手続要領
肉豚共同肥育事業の決算手続のため,以下の内容の肉豚共同肥育事業会計決算手続要領が定められた。
(ア) 内部資金利息の振り替え
枕崎市農協の一般会計から養豚センター会計に貸し付けられた内部資金の利息は次の算式により計算し,養豚センター会計から一般会計に振り替える。
内部資金利息=平均残高×前年度内部資金原価
平均残高=特別勘定の毎月末残高累計÷13
(イ) 共通管理費,指導部費の振り替え
養豚センターの共通管理費負担額は事業管理費割と職員数割の合成比で計算し,養豚センター会計から一般会計に振り替える。
養豚センターの指導部費負担繰入額は他の事業部門と同様に受益度によって計算し,養豚センター会計から一般会計に振り替える。
但し,豚価の暴落等により養豚センター,契約農家の経費負担が著しく増大する場合,共通管理費,指導部費の軽減措置は経営政策として理事会の決済を経て対応する。
(5) 養豚センターの決算の実際
ア 枕崎市農協は,本件共同肥育事業の経理処理を行なうため,経理処理要領に定められたとおり養豚センター会計を設定し,現金の出納は一般会計で行ない,一般会計では「養豚センター会計」で振り替え,養豚センター会計では「組合勘定」で受けて該当科目に振り替える処理を行なっていた。
イ 県経済連からの積立金の返還と経理処理
昭和59年度以降の県経済連からの積立金の返還とそれに伴う経理処理は以下のように行なわれた(以下,共助積立金制度の開始された昭和59年度から昭和61年度の3年間を第1期とし,昭和62年度から平成1年度までを第2期,平成2年度から平成4年度を第3期,平成5年度から平成7年度を第4期とする)。
(ア) 第2期の積立金の返還と経理処理について
① 積立額
農家分 3400万3000円
農協分 1700万1500円
県経済連分 1700万1500円
② 積立金の返還
平成2年3月ころ,枕崎市農協は県経済連から第2期の積立金の処理を以下のように行なうとの通知を受け,その後,通知どおり,それらの合計額が県経済連から枕崎市農協の預金口座に振り込まれた。
取崩し 無事戻し
農家分 1860万0262円 1540万2738円
農協分 930万0131円 770万1369円
なお,原告らは,第2期分について,後記2(1)イ記載の原告主張の金額の無事戻しがあったと主張するが,その根拠とする甲3号証調査報告書の平成1年度分は,本来農家分の半額であるはずの農協分と県経済連分がそのようになっておらず,しかも同額であるべき農協分と県経済連分の金額が異なっていて内容が信用できないのに対し,乙9のうちの「農協肉豚共同肥育事業共助積立金および特別対策費の支出明細書」と題する書面には,農家分,農協分及び県経済連分の共助積立金の額,取崩しの額,無事戻し金の額が記載されており,その他,農協名として枕崎市と記載され,農協分の処理科目に共助積立金戻入と共助積立金経理処理要領に記載されたとおり処理科目が記載されていて,額に争いのない第3期の返還分に関して県経済連が作成した明細表(乙19の(2))と体裁が同一であることからすると,同書面は県経済連が当該年度の枕崎市農協に関連する積立金の処理について作成したものと認められ,無事戻し金の金額は前認定のとおりであったと認められる。
・※ 積立金の返還を受けた枕崎市農協は,農家分について,養豚センター会計に受入の処理を行なったものの,無事戻し金について経理処理で定められた各農家の貯金に振り替えることはせず,取崩しがなされた場合と同様に子豚仮払留保金につき戻入があったとして,全額を養豚センター会計の収益に計上した。
農協分については,積立時に本来営農改善費や販売雑費として農協自身が積立額を負担すべきところ,養豚センターの立替金として処理していたため,農協分の返還については,立替金を未収金に振り替える処理を行なった。
(イ) 第3期の積立金の返還と経理処理について
① 積立額
農家分 3346万5000円
農協分 1673万2500円
県経済連分 1673万2500円
② 積立金の返還
平成5年3月5日,枕崎市農協は県経済連から第3期の積立金の処理を以下のようにするとの通知を受け,その後,通知どおり,それらの合計額が県経済連から枕崎市農協の預金口座に振り込まれた。
取崩し 無事戻し
農家分 0円 3346万5000円
農協分 0円 1673万2500円
③ 返還を受けた枕崎市農協は,第2期のときと同様,農家分について,
養豚センター会計に受入の処理を行なったものの,無事戻し金について共助積立金経理処理要領で定められた各農家の貯金に振り替えることはせず,取崩しが行なわれた場合と同様に子豚仮払留保金につき戻入があったとして,養豚センター会計の収益に計上した。
農協分についても,第2期と同様の処理が行なわれた。
(ウ) 第4期の積立金の返還と経理処理について
① 積立額
農家分 3299万9000円
農協分 1649万9500円
県経済連分 1649万9500円
② 積立金の返還
平成8年3月18日,枕崎市農協は県経済連から第4期の積立金の処理を以下のようにすると通知を受け,その後,通知どおり,それらの合計額が県経済連から枕崎市農協の預金口座に振り込まれた。
取崩し 無事戻し
農家分 3299万9000円 0円
農協分 1649万9500円 0円
③ 返還を受けた枕崎市農協は,農家分及び農協分につき,前2期と同様の処理をした。
ウ 昭和62年度から平成7年度までの養豚センター会計に計上された当期利益,内部資金利息,共通管理費,指導部費,人件費は次のとおりであった。
file_2.jpg| “OWA | ARS ALE | Sea | ATR | | RB Rn624 ol 7, 390, 758 | | RaR634E AE | 14, 072, 000 | 7, 333, 08 [32ik 1 EME | 14, 275, 000 | 3, 832, 073 | [nk 2 THe | 12, 377, 000 | 52, 576 | [ek 3 eA | 0] 10, 352, 705. | Sena ae ol 6, 399, 314 | 1 52'S AME | -39, 664, 158 | 10, 487, 858 | | $m 6 4B | -12, 122,114 | 9, 859, 3 [eae 7 AEM | 821,739 | 10, 943, 301 | 8, 446, 000 | ol ol ol 14, 265, 000 | 13, 902, 000 | 7,000, 000 | 7,000, 000 | 13, 000, 000 | AER 2,100,000 | 3, 150, 000 | ol ol ol ol ol ol ol ol olエ 養豚部会では毎年1回総会が開催され,養豚センターの試算表等の書類により,収支決算が報告されていた。
オ 平成1年度の養豚部会の総会では,昭和62年度から平成1年度までの期間に関し,平成1年度末に生じた清算留保金368万1998円について,事業実施要領及び共同計算実施要領に基づいて,肉豚一頭当たり104円の清算金を支払う旨の決議を行なった。
(6) 原告らが出荷した肉豚の頭数
昭和62年から平成7年まで,養豚センターでは原告らを含む農家から受け入れた子豚に加え,枕崎市農協自らも子豚を市場から購入し,これらを肥育して肉豚として出荷した。飼育期間中に死亡する子豚がいたものの,農家から受け入れた子豚なのか,枕崎市農協が購入した子豚なのか判別できなかった。
このように原告ら各人が枕崎市農協に出荷した子豚のうち何頭が肉豚として出荷できたのかは不明であるが,肥育途中で死亡した子豚を子豚の出荷頭数に応じて割り振ると,昭和62年から平成7年まで,原告らを含む各農家から受け入れ,あるいは,枕崎市農協が購入した子豚のうち出荷に至った頭数は,それぞれ別紙出荷頭数一覧表記載のとおりとなる(争いがない)。
2 主張
原告
(1) 共助積立金(無事戻し金)に関する請求について
ア 原告らが枕崎市農協との間で締結した子豚清算契約7条(以下「本件契約」という)によれば,共同計算実施要領は,原告らと枕崎市農協との間の契約と考えられ,共同計算実施要領によれば,枕崎市農協は原告らに対して積立金の無事戻しをすることが義務づけられている。
イ 養豚センター会計の第2期及び第3期の決算では,養豚農家に対する無事戻し金の合計額は次のとおりであったが,枕崎市農協はこれを養豚農家に返還しなかった。
第2期 1345万1762円
第3期 3346万5000円
合計 4691万6762円
ウ イの各金額に対する各期の満了日の翌日から平成11年7月末日までの遅延損害金(年5%)は,次のとおりである。
第2期分に対して 633万8913円
第3期分に対して 1074万5474円
合計 1708万4387円
エ イ及びウの合計額6400万1149円を第2期及び第3期の養豚センターの出荷頭数(市場導入《養豚農家からの子豚の受入数が養豚センターの稼働率を維持するために必要な数に満たない場合に,養豚センターの稼働率を維持するために市場から子豚を購入することをいう》による豚の出荷頭数を除く。養豚センターの出荷頭数に関しては以下同様)に対する原告らの出荷頭数の割合に応じて割り振った金額は,別紙損害金一覧表の「共助無事戻損害金」欄記載のとおりである(ただし,原告E1及び同E2については記載金員の2分の1ずつ)。
(2) 利益配当請求権に基づく請求
ア 共助積立金(取崩し)に関する請求
(ア) 肉豚共同肥育事業を営む農協は共助積立金制度に加入することが義務づけられている。この共助積立金制度は,県経済連,農協,農家のいわば三面契約ともいえるものであり,当事者の1人は他の2人に対して積立金の積立を請求することができる。
また,前述のとおり,事業実施要領は原告らと枕崎市農協との間の契約によれば,枕崎市農協には肉豚1頭当たり500円を積み立てるべき義務がある。
(イ) 養豚センター会計の第2期及び第4期の決算では共助積立金の取り崩しが行なわれたが,枕崎市農協が出損すべきであった積立金が養豚センター会計から出損されていたため,枕崎市農協は養豚農家の損失において次のとおりの利得を得た。したがって,原告らは事業実施要領に基づいて以下の金額につき利益配当請求権を有している。
第2期 734万9155円
第4期 1649万9500円
合計 2384万8655円
(ウ) (イ)の各金額に対する各期の満了日の翌日から平成11年7月末日までの遅延損害金(年5%)は,以下のとおりである。
第2期分に対して 346万3163円
第4期分に対して 282万0736円
合計 628万3899円
(エ) (イ)及び(ウ)の合計額3013万2554円を第2期及び第4期の養豚センターの出荷頭数に対する原告らの出荷頭数の割合に応じて割り振った金額は,別紙損害金一覧表の「共助発動損害金」欄のとおりである(ただし,原告E1及び同E2については記載金員の2分の1ずつ)。
(オ) 心裡留保に関する被告の主張は争う。
イ 利益金の配当請求
(ア) 原告らは被告に対し,事業実施要領に基づき利益配当請求権を有しているが,養豚センター会計の第2期及び第3期の決算では,次のとおり利益が生じているにもかかわらず,枕崎市農協はこれを原告らに配当しなかった。
第2期のうち昭和62年度 1407万2000円
第2期のうち平成1年度 1427万5000円
第3期のうち平成2度 1237万7000円
合計 4072万4000円
(イ) (ア)の各金額に対する各期の満了日の翌日から平成11年7月末日までの遅延損害金(年5%)は,以下のとおりである。
昭和62年度に対して 663万1189円
平成1年度に対して 672万6849円
平成2年度に対して 397万4204円
合計 1733万2242円
(ウ) (ア)及び(イ)の合計額5805万6242円を第1期及び第2期の養豚センターの出荷頭数に対する原告らの出荷頭数の割合に応じて割り振った金額は別紙損害金一覧表の「配当利益損害金」欄記載のとおりである(ただし,原告E1及び同E2については記載金員の2分の1ずつ)。
ウ 内部資金利息過大徴収に関する請求
(ア) 枕崎市農協は,養豚センター会計において,特段の約定がないにもかかわらず,規定以上の過大な利息を計上し,これを徴収して一般会計に組み入れていたから,徴収されていた利息のうち年5%を超える金額は養豚センター会計に返還されるべきである。
(イ) そして,(ア)の超過分が養豚センター会計に返還されたとして計算すると,第2期から第4期までの間に原告らが配当を受けることができた金額は以下のとおりである。
第2期 443万5710円
第3期 1711万6226円
第4期 760万5886円
合計 2915万7822円
(ウ) (イ)の各金額に対する各期の満了日の翌日から平成11年7月末日までの遅延損害金(年5%)は,以下のとおりである。
第2期分に対して 209万0252円
第3期分に対して 549万5950円
第4期分に対して 130万0294円
合計 888万6496円
(エ) (イ)及び(ウ)の合計額3804万4318円を第2期ないし第4期の養豚センターの出荷頭数に対する原告らの出荷頭数の割合に応じて割り振った金額は,別紙損害金一覧表の「内部資金損害金」欄記載のとおりである(ただし,原告E1及び同E2については記載金員の2分の1ずつ)。
エ 利益配当については養豚部委員会で検討し,農協の理事会の議決を得て還元することになっているが,被告の理事会が被告自身の行なった会計処理を否定するような決議をすることは期待できないから,本件においては,原告らは,信義則上理事会の決議がなくても具体的な利益配当請求権を有していると解すべきである。
被告
(1) 共助積立金(無事戻し金)に関する請求について
本件共同肥育事業は原告ら農家によって構成される民法上の組合が運営していたもので,被告は会計事務を担当していたに過ぎないから,無事戻し金が養豚センター会計に組み入れられれば原告らには何ら損害が生じないし,被告が領得したことにもならず,被告が原告らから無事戻し金の支払を請求される法律関係に立つことはない。
(2) 利益配当請求権に基づく請求について
ア 共助積立金(取崩し)に関する原告らの主張につき
(ア) 枕崎市農協には積立金を出損すべき義務はない。
(イ) 仮に,枕崎市農協が出損しなかったことに問題があったとしても,それは制度の主宰者である県経済連が問題とすべきことであって,原告らには出損を求める権利はない。
(ウ) 事業実施要領において,枕崎市農協が原告らに対してした共助積立金を積み立てるという意思表示は,真意ではないことを原告らが知り,又は,知り得べき状況にあったのであるから,民法93条ただし書きにより無効である。
(エ) この積立制度に農協が参加するか否かは自由であるところ,前記のとおり,昭和59年8月20日開催の理事会において,養豚センター会計を流用して農協の積むべき共助金を積み立てたかのごとく装い,経済連主宰の共助積立金制度に参加することを決議した。
イ 利益金の配当に関する原告らの主張につき
(ア) 原告らが主張する利益の額は,決算書には利益として記載されているが,内部資金利息,共通管理費及び指導部費の額が控除されていないことからも明らかなように,枕崎市農協が養豚センター会計から支払を受けるべき金額である。
(イ) 養豚センター会計から枕崎市農協の会計に組み入れられる額については,毎年養豚センター会計の決算を行なう際,原告らを含む組合員によって構成される枕崎市農協総会にその額を提案し,総会の承認を得て支払を行なっていたものであり,合意が成立している。
ウ 内部資金利息過大徴収に関する原告らの主張につき
(ア) 養豚センター会計から枕崎市農協が支払を受けるべき費目としては,内部資金利息のほかに,共通管理費及び指導部費があり,原告らが「内部資金利息」として主張する金額には,これらの金額も含まれている。
(イ) 本来養豚センターが負担すべき内部資金利息,共通管理費及び指導部費並びに実際に農協に繰り入れられた額は以下のとおりであり,実際に農協の本会計に繰り入れられた額が内部資金利息等の合計額よりも少ないことからすれば,枕崎市農協は原告らのためにむしろ犠牲を払ってきたというべきである。
file_3.jpgAne ze HE | 3, 696, 000 | HR R6 SE HE | 1072, 000 | | ene 1 ABE | 4, 275, 000 | | nls 2 FB | 2,37, 000 | | Ene 3 ABE | 4, 265, 000 | | Ele 4 FA | 3, 902, 000 | | ene 5 FB | 8, 399, 000 | 7, 786, 000 | 8,570, 000 | 7, 392, 000 | 8,713, 000 | 8, 959, 000 | 8,310, 000 | 9, 184, 000 | 7, 958, 000 | | PIED REALE | SEER | TaD | 5,017, 000 | 3, 394, 000 | 5, 246, 000 | 4, 070, 000 | 5, 074, 000 | 4, 251, 000 | 3, 209, 000 | 4, 008, 000 | 4, 826, 000 | 4, 599, 000 | 5,013, 000 | 4, 416, 000 | 3,991, 000 | 4, 543, 000 | 2,026, 000 | 4, 504, 000 | 3, 062, 000 | 4, 993, 000 | eit | 16, 811, 000 | 17, 102, 000 | 17, 895, 000 | 14, 605, 000 | 18, 137, 000 | 18, 388, 000 | 16, 845, 000 | 15, 714, 000 | 16, 013, 000 | BAG(ウ) 養豚センター会計から枕崎市農協の会計に組み入れられる額については,毎年養豚センター会計の決算を行なう際,原告らを含む組合員によって構成される枕崎市農協総会にその額を提案し,総会の承認を得ていた。
第3判断
1 原告らと枕崎市農協との法律関係
(1) 前認定事実によれば,原告らを含む養豚農家と枕崎市農協は,本件共同肥育事業を事業実施要領にしたがって運営し,養豚農家と枕崎市農協の法律関係も事業実施要領の定めるところによって律せられることを合意したものと認められる。
(2) 本件共同肥育事業においては,原告らを含む養豚農家は枕崎市農協に子豚の肥育を委託し,枕崎市農協は共同肥育場(養豚センター)を設置して養豚農家から子豚を受け入れ,受託した子豚を枕崎市農協職員の管理により肥育し,生産された肉豚を出荷販売するという方法で運営されてきたものであり,この事実によれば,原告らを含む個々の養豚農家と枕崎市農協との間には,子豚の肥育,成育した肉豚の売買契約締結及び出荷販売についての準委任及び委任の契約関係が生じていたと認められる。
被告は,共同肥育事業は原告らを含む養豚農家を構成員とする民法上の組合が運営していたものであり,被告は会計事務を担当していたにすぎないと主張するが,事業実施要領の規定は全て原告ら農家と農協との関係を定めていただけで,養豚農家が一個の団体を構成することを前提とし,これと枕崎市農協との関係を定めた規定はないこと,経理処理要領では,枕崎市農協は共同肥育場に係る会計を処理するため,枕崎市農協の会計の一部である肉豚センター特別会計を設定し,現金の出納は一般会計で行なうとされていたこと,枕崎市農協とは別個独立の共同肥育事業主体が存在し,これが事業の方針,運営を決定する執行機関を有し,独立した会計処理を行ない,子豚の肥育等に関する前記の契約を枕崎市農協との間で締結し,これに伴う金員の支払及び受領を枕崎市農協との間で行なっていたなどの事実を認めるに足りる証拠はないことに照らし,被告の主張は根拠がない。
(3) ただ,原告ら養豚農家は枕崎市農協の組合員であるから,本件共同肥育事業に関する原告らと枕崎市農協の法律関係は,組合と組合外の第三者との契約関係とは異なり,協同組合とその組合員との間の集団的な権利義務関係としての側面をも有しており,枕崎市農協は,組合員の一部が行なう肉豚生産を組合として援助し,管理するため,共同の養豚センターを設置運営し,各養豚農家の委託を受けて子豚の肥育を引き受け,出荷販売の事務を代行し,事業収支の会計管理を担当するのみならず,本来であれば子豚ないし肉豚の所有者である養豚農家が自由に処分し得る利益の分配還元についても農協理事会の裁量による決定権を保有するなど,個々の組合員との個別契約関係の集積ではなく,団体的統率が強化された法律関係ということができる。この点に加え,本件共同肥育事業が,これに先立つ枕崎市農協と契約農家との間の子豚生産契約に基づいて契約農家が生産した子豚を枕崎市農協が肉豚に仕上げたうえ出荷販売する事業であったことからすると,子豚の生産(これは組合員のうち契約農家に対する組合からの委託として行なわれるとも見ることができる),生産された子豚の肥育及び肉豚の販売出荷(これは枕崎市農協が自己の施設,労務を用い,自己の計算において行なうものとみることもできる)の事業は,実体としてはむしろ枕崎市農協が主体となって行なう事業であり,その過程の一部である子豚の生産を枕崎市農協が組合員である契約農家に委託し,農家がこの委託業務を遂行するために要した費用及び報酬を最終的な肉豚販売による利益(組合の事業収益)の配分という形で還元するというものであったと解する余地がある(この場合,事業による損益は組合に帰属し,養豚農家に対する収益還元は農協の裁量的な判断だけで決定することができ,養豚センター会計も枕崎市農協の会計の一部を構成するものとして,組合の判断による処分が許され,養豚農家の承諾を得る必要はないこととなる)。
(4) しかし,事業実施要領が定めるとおり,この事業による損益は個々の養豚農家に帰属するとされ,あくまでも個々の養豚農家がその責任において行なう肉豚生産事業を組合が援助するという建前で定められているから,事業主体は個々の養豚農家と解さざるを得ず,したがって,個々の養豚農家と組合の法律関係は前記の個別契約関係が主となるのであり,各養豚農家は組合が行なう肉豚生産,販売事業の一部を組合員の義務として分担するのではないから,事業の損益は,委任契約における委任者と受任者間の費用と収益の清算として,個々の養豚農家ごとに計算され,現実に分配または負担されなければならず,個々の養豚農家との間の合意に基づかずに,組合の判断だけで養豚センター会計の中において処理することは許されないと解される。
2 無事戻し金に関する請求について
(1) 無事戻し金の返還義務及び返還の実行
ア 共助積立金制度は,共同肥育事業の経営安定を図るため,県経済連,農協及び農家がそれぞれ積立を行ない,共同肥育事業で損失が生じた場合にはこれを取り崩して損失を填補し,利益が生じた場合にはこれを出捐した者に返還する制度であり,積立金制度の具体的な経理処理について定めた共助積立金経理処理要領によれば,対象期間満了時において積立金に残額があるときは,県経済連は農協及び農家の無事戻し分を当該農協の県信連預金口座に振り込み,農協は,県経済連から無事戻しで振り込まれた農家分の共助積立金を最終的には農協の各農家の貯金に振り替えるとされていたのであるから,無事戻しが行なわれた場合には,積立金はその役割を失ったものとして農家に返還されるべきことは明らかである。
イ 昭和62年度から平成1年度までの第2期,平成2年度から平成4年度までの第3期において,県経済連から無事戻し金の返還があったが,返還を受けた枕崎市農協は,農家分について,養豚センター会計に受入の処理を行なったものの,各農家の預金に振り替えることはせず,取崩しがなされた場合と同様に子豚仮払留保金につき戻入があったとして,全額を養豚センター会計の収益に計上したことは前記のとおりである。
被告は,本件共同肥育事業の運営主体を養豚農家により構成される民法上の組合であるという前提のもとに,無事戻し金が養豚センター会計に組み入れられれば,原告らを含む養豚農家には何ら損害が生じないし,被告が領得したことにもならないとして,被告が原告らから無事戻し金の支払を請求される法律関係にはないと主張するが,前提となる法律関係の主張が成り立たないことは前記のとおりであり,無事戻し金が枕崎市農協の会計処理の方法として設定された養豚センター会計に組み入れられたからといって,原告ら養豚農家に対して支払われたことにはならず,これを養豚センターの維持経営を含む本件共同肥育事業に用いるために枕崎市農協の養豚センター会計に保留するについては,個々の養豚農家の承諾が必要であって,仮に,県経済連の算定において利益が生じたとして共助積立金が無事戻しされたものの,枕崎市農協の養豚センター会計においては経費が収益を上回るなどして欠損を生じ,これを補填するために養豚農家に拠出を求める必要があったとしても,枕崎市農協が個々の養豚農家の同意を得ずに無事戻し金をこれに充てることはできない。
ウ なお,原告らを含む組合員によって構成される枕崎市農協の毎年の総会において,養豚センター会計を含む決算が承認されていたことからすると,原告らは無事戻し金を養豚センター会計に保留することを承認したといえるのではないかという疑問がある。しかし,本件共同肥育事業における原告らと被告の法律関係は前記のとおり個別の契約関係であり,組合という集団的法律関係における意思決定の方法である総会における決議を個別契約関係における意思表示と同視することはできない。
エ 以上のとおりであるから,原告らは被告に対し無事戻し金の支払を求める権利を有する旨の原告らの主張は理由がある。
(2) 原告らに対し返還されるべき金額
ア
(ア) 前認定のとおり,県経済連から枕崎市農協に,農家分の無事戻し金として,平成2年3月ころに1540万2738円,平成5年3月5日に3346万5000円,合計4886万7738円が返還され,養豚センター会計に組入れられたこと,昭和62年から平成7年まで,原告らを含む各農家から受け入れ,あるいは,農協が購入した子豚のうち出荷に至った頭数は,それぞれ別紙出荷数記載のとおりであったことが認められる。
したがって,原告らが無事戻し金として被告に返還を請求できるのは,無事戻しとして返還された合計4886万7738円を第2期及び第3期の養豚センターの出荷頭数(市場導入分については積立金制度の対象外であるため,返還された無事戻し金を割り振る際の母数に参入することは相当でない)に対する原告らの出荷頭数の割合に応じて割り振った別紙無事戻し金一覧表の「無事戻し第2期分認定額」及び「無事戻し第3期分」欄に記載の金額となる(小数点以下切り捨て。原告E1及び同E2については被相続人木浦豊志の出荷頭数の割合に応じて割り振った金額を相続割合である2分の1ずつに引き直した。)。
(イ) ところが,第2期について,原告が無事戻しがなされたと主張する金額は,前記第2の2原告(1)イに記載のとおりであり,この金額を第2期の養豚センターの出荷頭数に対する原告らの各期の出荷頭数の割合に応じて割り振った金額は,別紙無事戻し金一覧表の「無事戻し第2期分請求額」欄に記載のとおりとなる(小数点以下切り捨て。原告E1及び同E2については,被相続人木浦豊志の出荷頭数の割合に応じて割り振った金額を相続割合である2分の1ずつに引き直した金額)。
(ウ) (ア)及び(イ)によれば,「無事戻し第2期分認定額」欄に記載の金額は原告らの請求額を超えるため,第2期分については,原告らの請求どおり,別紙無事戻し金一覧表の「無事戻し第2期分請求額」欄に記載の範囲で認容することとする。
イ アで認容した無事戻し金額に対する各期の満了日の翌日から平成11年7月末日までの遅延損害金(年5%)は,別紙無事戻し金一覧表の「第2期分遅延損害金」及び「第3期分遅延損害金」欄記載のとおりとなる。
ウ ア及びイの合計額は,別紙無事戻し金一覧表の「無事戻し金合計額」欄記載の金額となる。
3 利益配当請求権について
ア 共助積立金(取崩し)に関する請求,利益金の配当請求及び内部資金利息過大徴収に関する請求は,いずれも,本件共同肥育事業に基づいて原告らに還元すべき利益が発生したことを前提とし,その利益の配当請求権(清算保留金の還元請求権)に基づく請求であるが,前認定のとおり,共同計算実施要領には,利益(清算保留金)については養豚部会の委員会で検討し,枕崎市農協の理事会の議を経て契約農家の出荷頭数に応じて清算保留金の一部を還元することができる旨定められている。これは,共同肥育事業の損益は農家に帰属する以上,利益が生じた場合には農家に還元しなければならないが,一方,肉豚の価格変動によるリスクに対処し,損失が生じて共同肥育事業自体の存続自体が脅かされる事態に備えて,清算留保金を積み立てておく必要があるため,清算留保金を還元するかどうか,還元金額をどれだけにするかなどについては,将来の収支状況を見据えた経営判断によって決定される必要があるという理由に基づく定めと解され,これに合理的根拠がないとはいえない。前記のとおり,事業実施要領の解釈上,本件共同肥育事業の主体は個々の養豚農家であり,個々の養豚農家と組合の法律関係は個別契約関係が基本となると解され,したがって,事業の損益は個々の養豚農家ごとに計算され,分配または負担されるべきであるけれども,個々の養豚農家は,利益(清算留保金)の還元(配当)について枕崎市農協理事会の決定によって行なうという団体的統制に服することを合意した以上,これに拘束されると解さざるを得ない。
してみれば,各養豚農家は,利益が生じたからといって当然にその還元(利益配当)請求権を取得するのではなく,枕崎市農協理事会により還元する旨の決議がなされたときに初めて具体的な還元(利益配当)請求権を取得するというべきである。
本件において,枕崎市農協理事会が利益配当(清算留保金の還元)を行なう決議をしたと認めるに足りる証拠はないから,原告らが利益配当請求権を有しているとは認められない。
イ 原告らは,枕崎市農協理事会が自ら行なった会計処理を否定するような決議をすることは期待できないから,原告らは理事会の決議がなくても信義則上具体的な利益配当請求権を有していると解するべきであると主張するが,前記のとおり,養豚センター会計を含む枕崎市農協の決算は各期の総会においていずれも承認されており,原告らを含む養豚農家はこの決算審議において疑義を質す機会があったことに照らすと,枕崎市農協理事会が上記決議をしなかったことについて信義則違反をいう原告らの主張はいまだ採用しがたい。
したがって,信義則上の利益配当請求権を有しているとの原告の主張は採用できない。
4 結論
よって,原告らの本件請求は,共助積立金(無事戻し金)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
(裁判長裁判官 池谷泉 裁判官 山本善彦 裁判官 平井健一郎)
<編注:『※』部分は原文のとおり。
別紙 無事戻し金一覧表 省略
別紙 損害金一覧表 省略
別紙 出荷頭数一覧表記載 省略