鹿児島地方裁判所 平成14年(ワ)785号 判決 2005年4月12日
主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
原告らと被告馬毛島開発株式会社及び被告Y1外35名との間において,別紙物件目録記載1ないし4の各土地につき,いずれも塰泊浦集落(塰泊小組合)集団を構成する原告ら及び被告馬毛島開発株式会社を除く被告らが,共有の性質を有する入会権を有することを確認する。
第2事案の概要
本件は,原告らが,別紙物件目録記載1ないし4の各土地(以下,それぞれ「本件土地1」ないし「本件土地4」という。)は,いずれも被告馬毛島開発株式会社を除く被告ら(以下,被告馬毛島開発株式会社を「被告馬毛島開発」といい,同被告を除く被告らを「被告Y1ら」と総称する。)及び原告らを構成員とする塰泊浦集落住民(計62名)の入会地であり,同各土地の登記名義人及び被告馬毛島開発間の各売買契約はいずれも無効であると主張して,同各土地につき共有持分移転登記をそれぞれ経由した被告馬毛島開発及び本件訴訟についての非同調者たる被告Y1らに対し,入会権の確認を求めた事案である。
1 争いのない事実等
以下の事実は当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる。
(1) 当事者等
ア 原告ら及び被告Y1らは,いずれも鹿児島県西之表市塰泊地区の住民である(弁論の全趣旨)。
イ 被告馬毛島開発は,同市○○に本店を置く株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 旧本件土地1(平成元年5月1日に西之表市○○字a6番4の土地を分筆する前のa6番3の土地(分筆後の同土地が本件土地1である。)を指す(乙イ1)。)の登記状況
被告Y2及び同Y3は,昭和54年,旧本件土地1につき,それぞれ持分移転登記を経由した。
(3) 本件土地2ないし4の登記状況
被告Y4及び同Y5は,昭和55年4月26日,本件土地2ないし4につき,真正な登記名義の回復を原因とする共有者持分全部移転登記をそれぞれ経由した。
(4) 被告馬毛島開発による買受け及び登記
被告馬毛島開発は,本件土地1ないし4を買い受けたことを原因として,平成13年5月29日,本件土地1については,その登記名義人である被告Y2及び同Y3から,また本件土地2ないし4については,その登記名義人である被告Y4及び同Y5から,共有持分移転登記をそれぞれ経由した。
2 争点
(1) 原告適格の有無
(2) 塰泊浦集落住民が本件土地1ないし4についての入会権を有するか
第3争点に対する当事者の主張
1 原告適格の有無(争点(1))について
(被告馬毛島開発の主張)
(1) 本件訴訟のように,対外的に入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起し得るいわゆる固有必要的共同訴訟であり(最高裁昭和41年11月25日判決・民集20巻9号1921頁),一部の権利者によって提起されたことが明らかな被告馬毛島開発に対する本件訴訟は,原告適格を欠く不適法なものであり,却下されるべきである。
(2) なお,本件訴訟では原告ら主張の入会権者のうち,原告ら以外の者(被告Y1ら)を被告として訴えが提起されており,これは,固有必要的共同訴訟と解されている共有地の土地境界確定訴訟の事案において,非同調者を被告とする訴訟提起を認めた最高裁判決(平成11年11月9日判決・民集53巻8号1421頁)に倣ったものと思われるが,かかる判決は,境界確定訴訟の特殊性から例外的に認められるものであり,境界確定訴訟以外の固有必要的共同訴訟に当てはまるものではない。
また,本件訴訟判決の既判力が二当事者対立の関係にない被告馬毛島開発と被告Y1らとの間に及ばないことは明らかであるから,本件において原告適格を認めると,権利関係について矛盾した結論が導かれかねない危険も存する。
(原告らの主張)
(1) 近時,入会集団構成員の職業及び社会的地位が多様化し,構成員相互間の利害関係が一致しない場合も増加してきているため,入会地の管理及び処分等について集団内部で意見対立し,紛争を生じることがあるところ,例えば入会権の存否について争いがある場合,その存在を主張する構成員は,これを否定する構成員を相手方として訴訟を提起しなければならない。
本件は,集団の対外的訴訟と対内的訴訟とが一体となったものであり,対外的には被告馬毛島開発を,対内的には被告Y1らを被告としているのであるから,訴訟要件に欠けるところはない。
(2) 被告馬毛島開発は,入会権確認訴訟が固有必要的共同訴訟であることを根拠に原告適格を否定するが,入会地盤の処分及び変更等に起因する入会権確認訴訟が全入会権者によって提起できるような状態であるのであれば,そもそもそのような訴訟を提起する必要はないし,また,かかる論理によれば,入会権者中多数の者による無効な入会地の処分につき,これが無効であることを法律上確認するためには,入会地を処分した(若しくはこれに賛同した)者たちが,かかる処分は無効であると考え直し,原告として訴訟に参加しなければならないということになるが,このようなことはおよそあり得ないのであって,結局,入会権者らによる訴訟上の救済の道が閉ざされてしまうことになるのであるから,上記被告馬毛島開発の主張は不当である。
2 塰泊浦集落住民が本件土地1ないし4についての入会権を有するか(争点(2))について
(原告らの主張)
塰泊浦集落住民は,本件土地1を網干場,潮待ち場所,休憩場所及び漁具倉庫などに,本件土地2を季節小屋を建てて漁業のための宿泊などに,そして本件土地3及び4を生活薪材等の採取地及び採草地などに利用してきたのであり,現在でも本件土地1を利用している。
また,塰泊浦集落住民らは,本件土地1ないし4を現在でも自分たちの共同所有地(浦持地)として意識しており,これまでに上記各土地の売買が集落と全く関係なく自由に行われた事実は存しないのであって,同各土地は,その登記名義人たる被告Y2,同Y3,同Y4及び同Y5の共有地ではない。
これに対し,被告Y1らは入会権を否定するが,本件土地1が埋立てられたころ,Aが多額の寄付をし,同土地が塰泊浦の排他的支配地ではなかったとしても,その後同土地は,4か浦の協議により塰泊浦専用の単独所有地となったのであるから,上記主張は理由がない。
したがって,塰泊浦集落住民は,本件土地1ないし4についての入会権を有するというべきである。
(被告Y1らの主張)
塰泊浦集落住民が本件土地1ないし4についての入会権を有するとの事実については,否認する。
第4判断
1 原告適格の有無(争点(1))について
(1) 入会権は権利者である一定の入会集団に総有的に帰属するものであるから,入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟である(最高裁昭和41年11月25日判決・民集20巻9号1921頁参照)。
したがって,原告らが,本件土地1ないし4の各土地につき,入会集団たる塰泊浦集落住民の構成員たる地位に基づく使用収益権の確認ではなく,共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴訟は,入会権者全員によってのみ訴求できる固有必要的共同訴訟であるというべきところ,本件訴訟が,入会権者と主張されている入会集団構成員全員によって提起されたものではなく,その一部の者によって提起されたものであることに争いはないため,本件における訴えは,原告適格を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。
(2) これに対し,原告らは,入会権者らによる訴訟上の救済の道が事実上閉ざされてしまう旨主張し,入会権者保護の観点からはかかる主張もよく理解し得るところであり,また,原告らが,本来的被告である被告馬毛島開発に加え,入会集団とする塰泊浦集落住民のうち,本件訴訟に同調しない者ら(被告Y1ら)をも被告として本件訴訟を提起しており,土地共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には,その余の共有者は,隣接する土地の所有者と訴えを提起することに同調しない者とを被告として当該訴えを提起することができるとする最高裁判決(平成11年11月9日判決・民集53巻8号1421頁)が存するため,原告らに当事者適格を認め,訴訟提起が可能とする余地が存するのではないかとも思料されるところである。
しかしながら,上記判決は,形式的形成訴訟である境界確定の訴えの処分権主義・弁論主義が妥当しない特質に着目したものであって,固有必要的共同訴訟とされる場合につき一般的に非同調者らを被告として訴訟提起することができるとしたものではないと解され,これにより本件において原告らに当事者適格を認めることはできないし,また,訴訟提起に同調しない者は本来原告となるべき者であって,民事訴訟法には,かかる者を被告に回すことを前提とした規定が存しない(現行民事訴訟法の立法の際検討されたいわゆる参加命令の制度も,導入が見送られている。)ため,本件のような場合に非同調者らを被告として訴訟提起することを認めることは,非同調者の被告適格,非同調者に対する主文等,種々の問題を伴うものであり,訴訟手続的には困難というべきである上,入会権は,入会集団の構成員全員に総有的に帰属し,構成員の一部によって管理処分できないという性質のものであって,入会権の管理処分は構成員全員でなければ行使できないのであるから,構成員の一部の者による訴訟提起を認めることは実体法と抵触することにもなり,原告らに当事者適格を認めることはできない。
なお,塰泊浦集落住民が権利能力なき社団に当たる入会団体を形成し,その代表者に総有権確認請求訴訟を追行しうる特別の授権が総会の議決等によりなされているなどの事実を認めるに足る証拠も存しない以上(本件訴訟に同調しないために被告とされた者が多数おり,そのような議決を得ることは不可能であると推認される。),入会団体の代表者による訴訟追行の方法へ変更することもできない。
2 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本件各訴えはいずれも不適法である。
物件目録
1 所在 西之表市<以下省略>
地番 <省略>
地目 雑種地
地積 2230平方メートル
2 所在 西之表市<以下省略>
地番 <省略>
地目 宅地
地積 2105.78平方メートル
3 所在 西之表市<以下省略>
地番 <省略>
地目 雑種地
地積 7213平方メートル
4 所在 西之表市<以下省略>
地番 <省略>
地目 雑種地
地積 10460平方メートル