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鹿児島地方裁判所 平成14年(行ウ)10号 判決 2003年3月26日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  主位的請求

原告が下記の処分場設置の許可を受けた者の地位にあることを確認する。

施設の名称 株式会社太伸

施設の種類 管理型・安定型最終処分場(産業廃棄物処理施設)

設置場所 鹿児島市a町b番地

許可年月日 昭和61年8月12日

許可番号 第557号

2  予備的請求

(1)  被告が平成13年2月23日付でした産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)の譲受許可申請にかかる不許可処分を取り消す。

(2)  被告が平成13年2月23日付でした産業廃棄物処理施設(安定型最終処分場)の譲受許可申請にかかる不許可処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,主位的には,産業廃棄物処理施設(2か所)の譲渡を受け,改正前の廃棄物処理法に基づいて被告に対する届出をしたと主張して,同法に基づく許可を受けた者の地位にあることの確認を求め,予備的に,改正後の同法に基づいて原告がした譲受許可申請に対して被告がした不許可処分はいずれも違法であると主張して,その取消を求めた事案である。

1  争いのない事実及び証拠(甲1及び2の各(1)(2),3ないし8,10,11の(1),13ないし17,18の(1)ないし(5),19,乙1,3の(1)ないし(8),4,6の(1)ないし(10),9,11の(1)(2),12ないし18,20の(1)(2),21,23ないし31,33ないし40,42の(1)(2))により認められる事実

(1)  株式会社太伸は,昭和61年7月ころ以降,鹿児島市a町c番外9筆の土地に産業廃棄物管理型最終処分場(以下「本件管理型処分場」という)を,隣接する同所d番e外24筆の土地に産業廃棄物安定型最終処分場(以下「本件安定型処分場」といい,前記本件管理型処分場と合わせて「本件各処分場」と総称する)をそれぞれ設置し,所有していた。

平成4年10月ころから平成5年2月にかけて,太伸の取締役,代表取締役の交替が登記されたが,このとき就任したとされた代表取締役らにつき,平成5年7月23日の職務執行停止仮処分決定を経て,平成6年2月9日,鹿児島地方裁判所の判決確定により,各選任決議不存在の登記がなされた。

平成6年9月29日,太伸は鹿児島地方裁判所により破産宣告を受け,A弁護士が破産管財人に選任された。

(2)  原告は,昭和47年2月10日に設立された会社(旧商号は株式会社光洋)であり,平成11年1月20日付変更登記後の目的は産業廃棄物の収集,処理業等とされている。

現在の原告代表取締役Bは平成元年7月まで太伸の監査役,平成4年10月まで取締役の地位にあった者であり,原告の前代表取締役Cは平成5年7月まで太伸の代表取締役であった。

(3)  平成12年1月17日,太伸の破産管財人A弁護士は鹿児島地方裁判所に対し,本件管理型処分場内のプレハブ式事務室等の建物3棟及びプール状受水槽を含む一切の施設,構築物についての太伸の所有権を放棄することにつき許可を申請し,そのころ同裁判所の許可を得て,同月24日,各地権者あてに所有権放棄の通知をした。

(4)  平成12年5月16日,原告は被告に対し,本件安定型処分場の施設につき,当時の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下,単に「廃棄物処理法」という)第15条の4において準用する第9条の5第3項の規定(廃棄物処理施設の設置許可を受けた者の地位を承継した者の都道府県知事に対する30日以内の届出義務を定めたもの)に基づき,太伸の地位を承継した旨の届出書(甲7)を提出した。

同月18日,原告は被告に対し,本件安定型処分場の施設につき,再度,上記と同様の届出書(甲19)を提出した(甲7とは許可年月日及び許可番号の記載内容に違いがある)。

しかし,これらの各届出書の記載に不備があった(被承継者の名称を太伸と記載すべきところをいずれも原告と記載した)ため,被告の担当者は原告に補正を指示した。

(5)  平成12年8月31日,原告は被告に対し,本件管理型処分場に焼却灰等のコンクリート固化プラントを設置するにつき,騒音規制法の規定に基づく届出をし,受理された。

(6)  平成12年10月1日,産業廃棄物処理施設の設置許可を受けた者の地位の承継につき,従来の届出制を許可制に変更した平成12年法律第105号による改正後の廃棄物処理法が施行された。

(7)  平成12年12月14日,原告は被告に対し,改正後の廃棄物処理法第15条の4において準用する第9条の5第1項の規定に基づき,原告が本件各処分場を太伸から譲り受けることについての許可をそれぞれ申請した(以下「本件各申請」という)(争いがない)。

本件各申請にあたり,原告は被告に対し,以下の書類を提出した。

・ 原告の役員2名が産業廃棄物処理業に関する新規許可講習会の処分課程,廃棄物処理法施行規則の定める廃棄物処理施設技術管理者認定講習等をそれぞれ終了したことを証明する証書

・ 平成12年7月20日現在の普通預金残高が1007万2102円であることを証明する株式会社鹿児島銀行発行の残高証明書(乙17)

・ 原告の平成9年度ないし平成11年度の納付すべき税額及び納付税額がいずれも無いことを証明する旨の鹿児島税務署長作成の納税証明書(乙18)

④ 決算書は準備中であり,存在しない旨の記載がある原告作成の書面

(8)  平成13年1月16日,被告は,鹿児島大学理学部教授らの同行のもと,本件各処分場の現地立入調査を実施した。その結果,本件管理型処分場については,浸出汚水を蒸発させるための焼却炉は解体撤去され,沈砂池の一部は埋まっており,汚水浸出を防止するための遮水シートには随所に破損や亀裂があり,遮水シート下の法面は崩壊,剥離しているなど,管理型最終処分場として機能させるためには抜本的な再整備が必要であり,それには相当高額な資金を要すること,本件安定型処分場は当初の計画よりも約3m高く盛り上げられており,これ以上の埋立ができない状態にあることが判明した。

(9)  平成13年2月23日,被告は原告に対し,本件各申請につき,

① 原告は廃棄物処理法施行規則第12条の11の3第2項第3号に定める「直前3年の各事業年度における貸借対照表,損益計算書」を提出せず,納税実績もないため,原告の経営実態を知ることができない。

② 平成13年1月16日の立入調査の結果,本件管理型処分場は,設置後約6年を経過し,維持管理がなされていないため,遮水シートの劣化,破損があり,浸出液集水設備の機能は低下し,処理水最終処分のための焼却施設が撤去されており,管理型処分場としての機能を有しないことが判明したものであり,これを昭和52年総理府・厚生省令第1号の定める構造基準に適合する施設として機能させるべく再整備するには相当高額の資金的裏付けが必要であるが,原告が提示した資金の総額は不十分であり,かつ,調達方法も明示されていない。

また,本件安定型処分場は,埋立が既に完了し,これ以上安定型処分場として使用できる状態にはない。

・ 以上のとおり,原告の経済的基盤ははなはだ脆弱であり,管理型最終処分場または安定型最終処分場の維持管理を的確に,かつ,継続的に行なうに足りる経理的基礎を有することが求められる施設設置者の能力の基準を満たしていない。

との理由により,いずれも廃棄物処理法第15条の4において準用する第9条の5第1項及び第2項の定める譲受許可の要件を満たしていないとして,不許可とする旨の各処分(以下「本件各処分」という)をし,原告に通知した(争いがない)。

(10)  平成13年4月24日,原告は鹿児島県知事に対し,行政不服審査法に基づく審査請求をした。

平成14年4月2日,鹿児島県知事は原告の審査請求を棄却する旨の裁決をし,同月27日,原告は環境大臣に対し,再審査請求をした。

2  原告の主張

(1)  主位的請求に関し

原告は,本件各申請に先立つ平成12年5月16日,本件各処分場の施設につき,太伸から譲渡を受け,かつ,被告に対し,当時の廃棄物処理法第15条の4において準用する第9条の5第3項の規定に基づき,産業廃棄物処理施設の設置許可を受けた者の地位を承継した旨の届出書を提出し,受理された(ただ,この届出書の記載に不備があり,かつ,地権者の同意が条件であったので,原告は直ちに届出書を補正し,かつ,同年9月ころまでに地権者の同意を得る手続を完了した)。

以上のとおり,本件各処分場譲受の届出は有効になされており,これにより,原告は本件各処分場の設置許可を受けた者の地位を承継した。

(2)  予備的請求に関し

ア 本件各申請を廃棄物処理法第15条の4において準用する第9条の5第2項において準用する第8条の2第1項第3号が定める要件を満たしていないことを理由として不許可とすることはできない。

イ 原告はそれまで1年程度の営業実績しかなかったため,被告が提出を求めた3年間分の貸借対照表,損益計算書を提出することができなかったので,被告担当者と協議した結果,法人税の納税証明書,預金残高証明書をもって代えることとなり,原告はこれらの書類を被告に提出した。したがって,本件各処分はいずれも瑕疵ある違法な処分である。

ウ 原告は今後事業展開を図る計画であり,また,本件管理型処分場が鹿児島県内唯一の施設であるため,稼働を始めれば多数の契約が締結され,これによる契約料及び施設利用料の収入が見込まれ,本件管理型処分場を維持管理していくための経済的基盤が確保されることは確実である。

本件管理型処分場の遮水シートの補修は可能であり,また,原告は汚水焼却施設に代わる固化無害化プラントを既に設置している。

本件安定型処分場については,原告が譲受の許可を受けたうえ,これを整備し,安全な埋立地にして地権者に返還する必要がある。

これらの事情によれば,本件各処分は違法であり,取り消されるべきである。

第3当裁判所の判断

1  主位的請求につき

(1)  前認定のとおり,原告は,平成12年5月16日,太伸から本件各処分場の施設の譲渡を受けたとして,改正前の廃棄物処理法第15条の4において準用する第9条の5第3項の規定に基づき,産業廃棄物処理施設の設置許可を受けた者の地位を承継した旨の届出書を提出したものである。

原告は,上記の譲渡及び届出が有効であることを前提として,原告はこれにより廃棄物処理場の設置許可を受けた者の地位を承継したと主張する。

(2)  前記のとおり,太伸は平成6年9月29日に破産宣告を受け,破産管財人に選任されたA弁護士は,平成12年1月24日,本件管理型処分場内のプレハブ式事務室等の建物3棟及びプール状受水槽を含む一切の施設,構築物についての太伸の所有権を放棄することにつき破産裁判所の許可を得て,各地権者あてに所有権放棄の通知をしたものである。この「所有権放棄」が破産財団からの権利放棄の趣旨であるのか,所有権の絶対的放棄の趣旨であるのかは必ずしも明らかではないが,仮に前者とすれば,これにより,破産者の太伸は本件安定型処分場の施設についての処分権限を回復したものである。

しかし,破産により解散した太伸が財産を処分するには,裁判所によって選任された清算人による法律行為が必要であるところ,裁判所により太伸の清算人が選任され,原告主張の譲渡契約がこの清算人との間で締結された形跡はないから,実体上この譲渡契約を有効とみる余地はなく,したがって,原告の被告に対する平成12年5月16日付の譲受の届出は処分場設置許可を受けた者の地位移転の効果を生じない。また,「所有権放棄」の趣旨が所有権の絶対的放棄であるならば,放棄された施設は無主物又は国庫に帰属することとなるから(民法239条2項),処分場設置許可を受けた者の地位を原告が承継できないのは明らかである。

(3)  よって,原告の主位的請求は理由がない。

2  予備的請求につき

(1)  前認定のとおり,被告は,原告の各許可申請がいずれも廃棄物処理法第15条の4において準用する第9条の5第1項及び第2項の定める譲受許可の要件を満たしていないとして不許可としたものであり,同法第8条の2第1項第3号を適用したものではないから,この点の違法をいう原告の主張は理由がない。

(2)  原告が被告に対し,廃棄物処理法施行規則第12条の11の3第2項第3号に定める「直前3年の各事業年度における貸借対照表,損益計算書」を提出しなかったことは争いがなく,これらの書類は原告の経営実態を認定し,廃棄物処分場の安定的な経営に適する財産的基礎を有しているかどうかを判定する資料として提出が求められており,これらの書類の提出が不能な場合には,これに代わる資料の提出を許すのが同条項の趣旨と解される。

前認定のとおり,本件各申請にあたって原告が被告に提出した書類は,

① 原告の役員2名が所定の講習等を終了したことの証明書

② 原告の平成12年7月20日現在の普通預金残高が1007万2102円であることを証明する株式会社鹿児島銀行発行の残高証明書

・ 原告の平成9年度ないし平成11年度の納付すべき税額及び納付税額がいずれも無いことを証明する旨の鹿児島税務署長作成の納税証明書

④ 決算書は準備中であり,存在しない旨の記載がある原告作成の書面

のみであり,原告の財産的基盤の判定資料となり得るのは,このうち②の残高証明書のみである。

然るに,被告が平成13年1月16日に実施した本件各処分場の現地立入調査の結果,本件管理型処分場については,浸出汚水を蒸発させるための焼却炉は解体撤去され,沈砂池の一部は埋まっており,汚水浸出を防止するための遮水シートには随所に破損や亀裂があり,遮水シート下の法面は崩壊,剥離しているなど,管理型最終処分場として機能させるためには抜本的な再整備が必要であり,それには相当高額な資金を要すること,本件安定型処分場は当初の計画よりも約3m高く盛り上げられており,これ以上の埋立ができない状態にあることが判明したことは前認定のとおりであり,このような本件各処分場の現況に照らし,金融機関に約1000万円程度の預金を有しているという事実だけでは,原告が本件各処分場の安定的な経営に適する財産的基礎を有しているとは認められない。

原告は,本件管理型処分場につき,整備及び維持管理には特段の費用を要しないと主張するもののようであるが,これは事実に即しない主張というべきであり,また,今後の事業展開によりこれを維持管理していくための経済的基盤が確保されることは確実である旨の主張については,このような将来の予測を許可不許可の基準とすることは廃棄物処理法の許容するところではないと解される。

原告は,また,本件安定型処分場につき,地権者との関係で原告が譲受の許可を受ける必要がある旨主張し,これは,本件安定型処分場の経営を廃止し,土地を地権者に返還する前提での主張と解されるが,このような事情は廃棄物処理法における譲受許可において考慮すべき事柄ではないと解される。

なお,原告は,被告の担当者から上記書類に代わる特定の書類を提出すれば,許可の要件を満たす旨の指導を受けた旨主張するが,このような事実を認めるべき証拠はないし,仮にあったとしても,これによって被告が原告の申請を許可すべき行政法上の義務を負う筋合いのものではないことは明らかである。

その他,本件各処分の適法性を疑うに足りる事情はないと認められる。

(3)  よって,原告の予備的請求もまた理由がない。

(裁判長裁判官 池谷泉 裁判官 市原義孝 裁判官 平井健一郎)

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