鹿児島地方裁判所 平成16年(ワ)499号 判決 2005年7月19日
原告 株式会社 総合開発
同代表者代表取締役 竹下豪
同訴訟代理人弁護士 窪田雅信
被告 鹿児島市
同代表者鹿児島市水道事業及び公共下水道事業管理者水道局長 中村忍
同訴訟代理人弁護士 松下良成
主文
一 被告は、原告に対し、金四〇四万二二九〇円及びこれに対する平成一六年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金四〇四万二二九〇円及びこれに対する平成一五年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、宅地造成工事に伴い被告に通水(上水道連結工事)を申し込んだところ、被告から工事負担金を請求されたためこれを納付した原告が、被告に対し、同人が同負担金を徴収し得る法的根拠は存しないと主張して、民法七〇三条に基づき、不当利得たる当該納付金の返還及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。
一 争いのない事実等
以下の事実は当事者間に争いがないか、<証拠省略>により容易に認めることができる。
(1) 当事者
ア 原告は、建物の管理、運営及び宅地造成等を主たる業務とする株式会社である。
イ 被告は、地方公営企業法四条に基づき、鹿児島市水道事業及び公共下水道事業の設置等に関する条例を制定し、地方公営企業法の地方公営企業として水道事業を設置している。
(2) 工事負担金に関する規定等
被告は、開発業者等が納付する工事負担金に関し、以下の規定又は規程をおいている(以下、これらの規定又は規程を総称して「本件規定等」という。)。
ア 鹿児島市給水条例(以下「給水条例」という。)
(ア) 二五条(給水負担金)
(一ないし三項及び五項は省略)
四項 既納の給水負担金は還付しない。ただし、工事着手前に申込みを取り消した場合には還付することがある。
(イ) 二六条(工事負担金)
一項 管理者は、住宅団地の造成その他による新たな給水の申込みに応ずるため、配水管その他の水道施設(以下「配水管等」という。)の設置されていない場合(配水管等が設置されていても、その能力が限界に達している場合を含む。)に新たな配水管等の設置を必要とするときは、当該工事申込者から工事負担金を徴収することができる。
二項 工事負担金の額は、管理者が別に定めるところにより、当該配水管等の設置及び能力の増強に要する費用とこれらに付随する費用との合計額に一〇〇分の一〇五を乗じて得た額(その額に一円未満の端数があるときは、その端数を切り捨てた額)とする。
三項 工事負担金は、前納しなければならない。
四項 前条第四項の規定は、工事負担金について準用する。
イ 鹿児島市給水条例施行規程
三〇条 条例第二六条に規定する工事負担金の額の算定方法その他取扱については、管理者が別に定める。
ウ 「鹿児島市給水条例第二六条及び鹿児島市給水条例施行規程第三〇条に基づき、工事負担金を次のとおり定める。」と冒頭に規定する内部規程(以下「本件内規一」という。)
一条 工事負担金額は、施設増強費と設計審査・工事完成検査費の合計額に消費税を加えた額とする。
一項 施設増強費
次の負担区分に基づいて算出する。
一 開発行為に基づく造成地に対して給水を行う場合
(工事費負担)
給水戸数一戸当たり一五万六九〇〇円とする。ただし、その規模、形状及び周辺の状況、又は将来の水道事業計画等を勘案し、管理者が別途必要と認めた場合は、その都度算出する。
(摘要)
開発行為に基づく造成地においては、団地内給水施設及び団地への連絡管工事は、別途造成者の全額負担をもって施工する。
二 給水申請に伴う一日最大給水量が二〇立方メートル以下のものに対して給水を行う場合
(工事費負担)
申請書一件当たり二〇〇メートルを超えるものについては、超えた延長一メートル当たり五五〇〇円とする。なお、工事完成後一年以内に当該路線に、別途給水の申請がなされた場合についてもこれを適用する。
(摘要)
給水申請により管布設する場合は、申請者一件につき二〇〇メートルまでは、局負担にて施工する。ただし、公道部において将来とも専用的なものについては、給水装置として取り扱う。
三 給水申請に伴う一日最大給水量が二〇立方メートルを超えるものに対して給水を行う場合
(工事費負担)
配水管の未設置カ所及び既設配水管に給水能力がない場合については、申請者の給水量に相当する連絡管工事の全額負担とする。
(摘要)
公道部分において将来とも専用的なものについては、給水装置として取り扱う。既存給水装置の改造を伴うものは、計画一日最大給水量と既存一日最大給水量の水量差が二〇立方メートルを超える部分に適用する。
四 公営住宅、官公署施設及び学校等に給水を行う場合
(工事費負担)
全額負担とし、その都度算出する。
五 上記以外において管理者が必要と認めたもの
(工事費負担)
その都度算出する。
二項 設計審査・工事完成検査費
昭和四七年三月三日施行の内規により算出する。
エ 鹿児島市における造成地の水道施設に対する設計審査及び工事完成検査の業務に関する費用について(内規)(昭和四七年三月三日施行。以下「本件内規二」という。)
(ア) 一条(趣旨)
この内規は、造成地の水道施設で完成後鹿児島市水道事業管理者が管理することとなる水道施設工事の設計審査及び工事完成検査業務の費用に関し、次のとおり定めるものとする。
(イ) 二条(適用範囲)
前条の適用範囲は、移管を前提とする造成地の水道施設工事とする。ただし、水道施設のうちメーター以降給水装置は除くものとする。
(ウ) 四条(設計審査及び工事完成検査の費用)
一項 設計審査及び工事完成検査の業務に要する費用は、工事金額に応じ、次表に定める率を工事金額に乗じて得られた額とする。
(一ないし五号及び七号以下は省略)
六号 工事金額七〇〇万円を越え一〇〇〇万円以下 率三・〇パーセント
設計審査費
率 〇・九〇パーセント
限度率 九万円
工事完成検査費
率 二・一〇パーセント
限度額 二一万円
(同条一項ただし書き及び二項は省略)
(3) 工事負担金納付に至る経緯
ア 富士エコロジー有限会社(以下「富士エコロジー」という。)は、鹿児島市和田町九〇四番地一外一六筆(面積七三四八・六六平方メートル)における計画給水戸数二四戸の宅地造成開発許可申請に関連し、都市計画法三二条に基づき、平成一四年九月二〇日、被告水道局との間で協議を行い、給水条例二六条に基づき概算で四一〇万円の工事負担金を納付することに同意した。
イ 富士エコロジーは、同年一二月五日、前記開発行為について鹿児島市長の許可を得たところ(開発許可番号:指令土調第一四―二九号)、原告は、都市計画法四五条に基づき、平成一五年二月六日付けで、同市長に対し、富士エコロジーを被承継人とし原告を承継人とする前記開発行為の承継承認申請を行い(ただし、造成地は、鹿児島市和田町九一四番地一外一五筆〔以下「本件開発区域」という。〕に変更された。以下、本件開発区域における原告の開発工事を「本件開発工事」という。)、同市長は、同月一四日、当該承継を承認した。(承継番号:第一四―二号)。
ウ 被告水道局から約四一〇万円の工事負担金の納付を求められたことに疑問を抱いた原告は、平成一五年六月二日、被告水道局に対し、その根拠等についての説明を求め、さらに同月七日付け書面をもって、鹿児島市長及び被告水道局長に対し、上記工事負担金は給水条例二六条を根拠とするものか、当該工事負担金の徴収に違法性はないのかとの点についての回答を求めたところ、被告水道局長は、同月一三日付け書面をもって、原告に対し、原告に示した約四一〇万円の工事負担金は、給水条例二六条に基づいたものであり、違法ではないと判断している旨回答した。
エ 原告は、平成一五年七月二二日、被告水道局長に対し、本件開発工事に伴う水道施設工事(工事価格合計八〇四万円)について、工事負担金として四〇四万二二九〇円を通水日(水道局配水管と連結工事を行う日)の前日までに納付することを確約した(上記工事負担金額は、既に本件開発区域内の民家一戸に給水が行われていたため、開発戸数二四戸から一戸引いた二三戸を給水戸数として、本件開発工事に伴う水道施設工事代金八〇四万円を工事金額として算出されたものであり、具体的には、施設増強費三六〇万八七〇〇円〔一五万六九〇〇円×二三戸〕と設計審査・工事完成検査費二四万一一〇〇円〔八〇四万円×〇・〇〇九+八〇四万円×〇・〇二一〕の和に消費税率一・〇五を乗じて算出されたものである。)。
オ(ア) 原告は、平成一五年九月一七日、被告水道局長に対し、本件開発工事に伴う前記水道施設工事について、被告水道局の配水管と連結し通水できるよう申請したところ、同局長は、同月一九日、原告に対し、通水(連結工事)の承諾を通知するとともに、同月二九日までに工事負担金四〇四万二二九〇円を支払うよう請求し、通水のための連結工事は同負担金納付後となる旨通知した。
(イ) 前記通知を受け、原告は、平成一五年九月二五日、被告水道局に対し、工事負担金四〇四万二二九〇円を納付した(以下、被告による当該工事負担金の徴収を「本件徴収」という。)。
(4) 本件開発工事は、本件開発区域内における給水装置及び被告所有の既存配水管までの連絡管は格別、本件開発区域に給水するにあたって新たな配水管等の設置を必要としないものであり、実際にも、配水管増設工事等は行われなかった。
二 争点
本件徴収につき、法律上の原因がないといえるか。
(原告の主張)
(1) 本件開発工事は、新たな給水の申込みに応ずるため「新たな配水管等の設置を必要とする」ものではなく(給水条例二六条一項)、現に被告は何らの工事も行っていないのであるから、同条項によれば、被告が本件徴収をなし得る法的根拠は存せず、法律上の原因がない。
給水条例二六条が「住宅団地の造成その他による新たな給水の申込みに応ずるため」と規定していることからも明らかなように、同条の趣旨は、配水管設備のない場所に宅地造成をし給水を求めるのであれば、基礎的導水設備費用については造成主自らこれを負担すべきであるという点にあるから、本件のように新たな配水管等の設置を必要としない場合には、市街地におけるマンション建設同様、工事負担金を徴収する法的根拠が存しない。
給水条例二六条四項、二五条四項も、工事着手前に申込みを取り消した場合には既納の工事負担金を還付することがある旨定めており、新たな配水管等の設置工事を行うことを前提としていると解される。
(2)ア この点に関し、被告は、給水条例二六条一項の趣旨を開発者間の公平を図る点にあると主張し、本件規定等を根拠として、全ての開発者から、広く薄く一律に工事負担金を徴収し得る旨主張するが、水道事業者と需要者は私法上の契約関係に立つものであり、本件規定等の法的性質は、多数の取引を迅速かつ衡平に処理すべくその内容を定型的に定めたいわゆる附合契約であるから、その解釈は、当該条項に使用されている文言に従って行われるべきであり、被告による上記解釈は、給水条例の文言からは理解し得ない大幅な拡大解釈であるといわざるを得ないため、被告の主張は理由がない。しかも、本件内規二の一条及び二条の文言からすると、設計審査及び工事完成検査の各費用は、開発者が開発区域内に新たに設置した水道施設の設計審査及び工事完成検査に要する費用を意味するものであり、被告主張の工事負担金の意義(既存の配水管等の給水能力を増強する費用)とは相容れない。
イ また、被告は、全ての開発者から、広く薄く一律に工事負担金を徴収することが公平にかなう旨主張するが、かかる主張を前提とすると、順次開発工事が行われ、既存の配水管等の能力が限界に達しつつある場合、後の開発者は、そのことを認識した上で開発工事を行うにもかかわらず、他人の支払った工事負担金によって給水能力不足の解消という利益を独占することになり、かえって不合理かつ不平等な結果を招くことになるし、さらにすすんで、後の開発工事がなかった場合には、被告主張のような不平等は生ぜず、かえって給水能力増強工事が必要ないにもかかわらず工事負担金を徴収した被告が不当な利得を得ることになる。
ウ さらに、被告は、富士エコロジーによる開発行為を承継した原告が、被告及び富士エコロジー間の工事負担金を負担する旨の合意に反する言動を採ることは許されない旨主張するが、いかなる合意であろうとも、法的根拠が存しなければ当該合意が無効となるのは当然である。
エ 加えて、工事負担金を徴収する規定を有する神戸市、京都市及び横浜市の各条例は、いずれも現実に工事することを当然の前提としており、かかる各条例との比較においても、被告主張に理由がないことは明らかである。
(被告の主張)
(1) 本件徴収の根拠規定は本件規定等であり、本件徴収には法律上の原因が存する。
(2) 本件規定等の立法趣旨
ア 第一の宅地造成(開発工事)、第二の宅地造成(開発工事)と、順次開発工事がなされ、それに伴い給水量も増加していく状況を想定すると、ある時点において既存の配水管等の能力は限界に達し、その能力を増強させる必要が生ずるところ、既存の配水管等の能力が限界に達したのは、最終開発者による開発工事のみにその原因が存するのではなく、それまでに行われた全ての開発工事にその原因が存するものであることからすれば、この場合、最終開発者一人に配水管等増強費の全てを負担させるのは極めて不平等、不公平であって、被告は、これをなくし、平等、公平を確保する必要がある。
また、被告としては、いつ、どこで、どの程度の規模の宅地造成(開発工事)がなされるかを予見することは不可能であり、これらを予見して配水管等の施設を計画的に整備しておくことも不可能である。
イ かかる趣旨に基づき、本件規定等は、全ての開発者から、いわば広く薄く一律に、新たな配水管等の設置や既存の配水管等の施設を増強するための費用としての工事負担金を徴収するとしているのであり、被告は、徴収した工事負担金をプールし、必要に応じて新たな配水管等の設置や既存の配水管等の施設を増強するための財源としてこれを使用しているのである。
ウ(ア) この点に関し、原告は、工事負担金に関する被告の取扱いが給付条例二六条一項の文言に反する旨主張するが、およそ法令は合目的的に解釈すべきであって、被告は、給水条例二六条一項により、住宅団地の造成その他による新たな給水の申込みに応ずるため、配水管等の設置されていない場合や配水管等が設置されていてもその能力が限界に達している場合に、新たな配水管等の設置を必要とするときは、当該開発行為に直接関係のない一般の使用者に施設整備の負担が及ばぬよう、原因者である開発者にその費用の負担を求めることとし(ここに同条項の第一の意義が存する。)、また、開発者間においては、既存の配水管等の能力が限界に達したときの開発者のみに全てを負担させるのは不公平・不平等であることから、工事負担金を一律に広く薄く徴収することとしたのであって、工事負担金を徴収するか否か、徴収するとして誰からどのような方法で徴収するかといったことは、当該地方公共団体の財政状況、従前の配水施設の整備状況、工事費の大小等、諸般の事情を総合勘案して、裁量権を有する各水道事業者がそれぞれに政策判断をして決すべき事柄であるから、上記原告の主張は理由がない。
なお、被告は、昭和五三年三月三一日以前においては、個々の開発行為ごとにその都度、当該開発行為の内容に基づき、施設補強の必要な箇所、増強方法等を検討し、施設増強費の見積りを作成した上で、当該開発者と協議し、合意後に施設増強費を徴収していたが、かかる方法によると施設増強費の算出に多大な時間を要するため、手続の迅速化を図るべく、上記趣旨に基づき、現行制度による施設増強費の算出、徴収方法に改めたのである。
(イ) また、原告は、マンションを例に挙げ本件徴収に法律上の原因がない旨主張するが、マンションの場合は、開発行為の場合と異なり、本件内規一第一条一項の負担区分二又は三が適用されるところ、これは、マンションは市街地に建設されるため新規給水による既存管への影響が比較的小さいのに対し、開発行為は、通常配水管等の整備が必ずしも十分でない郊外で行われ、かかる開発行為がいつ、どこで、どの程度の規模で実施されるのか予見できないとの事情に基づく合理的な区別であるから、原告の上記主張も理由がない。
(ウ) さらに、原告は、給水条例二六条四項、二五条四項が、工事着手前に申込みを取り消した場合には既納の工事負担金を還付することがある旨定めていることをもって、給水条例が新たな配水管等の設置工事を行うことを前提としている旨主張するが、同条項の「工事」とは、配水管等の増強工事ではなく、当該開発工事を意味するのであり、開発行為が中止された場合に工事負担金を還付するのは当然であるから、上記原告の主張も理由がない。
(3) 富士エコロジーの承継
富士エコロジーは、平成一四年九月二〇日、被告水道局との間で協議を行い、工事負担金を負担することに合意したのであって、かかる富士エコロジーによる開発行為を承継した原告が、上記合意に反する言動を採ることは許されないから、この点においても、本件徴収には法律上の原因が存する。
第三判断
一 法律上の原因の有無
(1) 本件規定等に基づく工事負担金支払請求の可否
ア(ア) およそ、水道事業者と水道需要者は私法上の契約関係に立つと解するのが相当であるところ(水道法一五条一項参照)、水道法一四条一項が、水道事業者に対し、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めることを要求していることに照らせば、水道事業者と水道需要者の給水契約は、専ら水道事業者が定めた供給規程の供給条件により規律されると解すべきであり、給水契約は、多数の取引を迅速かつ公平に処理するためにその内容を定型的に定めた、いわゆる附合契約であるというべきである。
そして、水道法一四条は、上記のように、水道事業者に供給規程を定めることを義務づけ(一項)、当該供給規程が水道事業者及び水道需要者の責任に関する事項並びに給水装置工事の負担区分及びその額の算出方法が適正かつ明確に規定されているものであることを要求し(二項三号)、供給規程を一般に周知させる措置を採るよう要求していること(四項)、また、前述のとおり、供給規程は附合契約であって、多数の取引を迅速かつ公平に処理すべき要請が存することからすれば、給水契約の内容は、あくまで供給規程の規定文言によるべきであり、拡大解釈を全く許さないと解すべきか否かは一応おくとしても、およそ供給規程の文言に反するような供給条件をその契約内容とすることは許されないというべきである。
(イ) また、ここでいう供給規程は、必ずしも条例の形式で定めなければならないものではなく、本件においても、給水条例を含めた本件規定等の内容が、供給規程の供給条件として、被告及び原告間の給水契約を規律することになると解される。
イ(ア) 前記第二「一 争いのない事実等」欄記載の各事実及び上記アの解釈を前提に判断する。
(イ)a 前認定のとおり、給水条例は、「管理者は、住宅団地の造成その他による新たな給水の申込みに応ずるため、配水管等の設置されていない場合(配水管等が設置されていても、その能力が限界に達している場合を含む。)に新たな配水管等の設置を必要とするときは、当該工事申込者から工事負担金を徴収することができる。」(二六条一項)と定め、「工事負担金の額は、管理者が別に定めるところにより、当該配水管等の設置及び能力の増強に要する費用とこれらに付随する費用との合計額に一〇〇分の一〇五を乗じて得た額とする。」(同条二項)と定めているところ、かかる各規定によれば、被告が営む水道事業の管理者は、配水管等の設置されていない場合又は既設配水管等の能力が限界に達している場合に新たな配水管等の設置を必要とするときに限り、当該配水管等の設置及び給水能力増強工事に要する費用等を内容とする工事負担金を、新たな給水の申込者から徴収し得ると解するのが文言上自然であり、少なくとも、新たな配水管等の設置を必要としないにもかかわらず、申込者から工事負担金を徴収し得ると解することは、上記二六条一項の文言に反するといわざるを得ない。
また、その他、本件規定等の各規定を検討しても、その文言から直ちに、新たな配水管等の設置を行わなかった場合にまで開発者から工事負担金を徴収し得ると解し得る規定は存せず、むしろ、工事負担金の額は、施設増強費と開発区域内における水道施設工事の設計審査・工事完成検査費の合計額に消費税を加えた金額であるとする本件規定等(本件内規一第一条柱書、本件内規二第一条、第二条)の各文言からすると、施設を増強しなかった(新たな配水管等の設置を必要としなかった)場合にまで、工事負担金を徴収し得ると解することについては、疑問が存する。
b したがって、前認定のとおり、本件においては、本件開発区域に給水するにあたって新たな配水管等を設置する必要がなく、実際にも、配水管増設工事等は行われなかったのであるから、工事負担金の納付を原告及び被告間の給水契約の内容とすることは、本件規定等(特に給水条例二六条一項)の文言に反し、許されないというべきである。
(ウ)a これに対し、被告は、本件規定等の立法趣旨を、最終開発者一人に配水管等の全増強費を負担させるのは極めて不平等、不公平であること、いつ、どこで、どの程度の規模の宅地造成がなされるかを被告が予見するのは不可能であることから、全ての開発者に広く薄く一律に増強費の負担を求めることにより、開発者間の平等、公平を図る点に存する旨主張するところ、確かに、例え最終開発者による開発工事の際には偶々新たな配水管等を設置する必要がなかったとしても、それは、それ以前の開発者らが納付した工事負担金を使用して、給水能力増強工事がなされ、または被告が予め余力を持たせて配水管等を設置していたためであって、当該最終開発者は、特段給水能力増強工事費用等を負担していないにもかかわらずその利益を享受する結果となること、配水管等の設置は、配水管等の布設状況、各地の水道使用状況、当該開発工事の給水への影響等を総合考慮して被告が政策的に判断すべきものであり、各開発工事と各配水管等の設置は、必ずしも当該開発工事を行ったがために当該配水管等の設置が必要となったという厳密な結び付きを有するものではないと推測されることからすれば、被告主張のような趣旨から、全ての開発者に広く薄く一律に増強費の負担を求めることも合理性を有するといえるし、また、被告は、徴収した工事負担金を、他の被告財産と区別して別口座等に保管していたなどの事情は窺われないものの、配水管等の設置又は給水能力増強工事以外にこれを流用したと認めるに足る証拠は全く存しないのであって、被告は、徴収した工事負担金を用いて配水管等の設置又は給水能力増強工事を行っていたものと推認されるから、上記趣旨に沿った運用がなされていたことが窺われる。
さらに、<証拠省略>によれば、被告は、昭和五三年四月一日から従来の取り扱いを改め、全ての開発者から一律に工事負担金を徴収することとしたと認められ、他方で、原告も、前認定のとおり、被告水道局長に対し工事負担金の納付を確約しているところ、前述のとおり、水道事業者と需要者は私法上の契約関係に立つのであって、水道法は電気事業法と異なり、供給規程以外の供給条件により給水することを禁ずる規定(電気事業法二一条一項参照)を置いていないことからすれば、原告被告双方が、新たな配水管等の設置を必要としない本件開発工事においても工事負担金を納付することに合意している以上、かかる納付の合意も、原告及び被告間の給水契約の内容となると解する余地もないではない。
b しかしながら、被告主張の立法趣旨を明確に導き得るような規定が本件規定等に存しないばかりか、給水条例二六条一項は前記のように明らかに新たな配水管等の設置を前提にするものであり、被告が主張する立法趣旨を取り入れた文言とはなっていないと解するほかないから、合理性を根拠に文言を離れて工事負担金を徴収しうるとする被告の解釈は疑問がある。また、水道事業者及び水道需要者間の個別合意を全く許さないとすべきか否かは一応おくとしても、本件のような供給規程の文言に明らかに反するような個別合意についてまで、これを許すとすると、供給規程に定めがない事項についても両者の合意で給水契約の内容を定め得ることになるが、これでは水道法一四条一項が水道事業者に供給規程を定めることを義務づけた趣旨(給水契約の内容を供給規程により一律に明確化する。)を没却しかねない。これに給水契約は、多数の取引を迅速かつ公平に処理すべき附合契約であって、特に水道事業は、公共性、公益性を有するものであることをも併せ考慮すると、前記各事情を斟酌してもなお、本件における工事負担金納付の合意は、規範(水道法一四条一項及び本件規定等)に反し、原告及び被告間の給水契約の内容に含ませることはできないのであって、無効というべきである。
被告は、昭和五三年四月に従来の取り扱いを改めた時点で供給規程すなわち、本件規定等を被告主張の趣旨を反映した文言に改定すべきだったのであり、これが不可能ないし著しく困難であったとの事情も窺われない本件においては、工事負担金納付の合意が無効とされても止むを得ないというべきである。
ウ 以上より、被告は、原告に対し、本件規定等に基づく工事負担金支払請求を行うことができないと解される。
(2) 負担合意の承継の有無
前認定のとおり、原告の被承継人たる富士エコロジーは、被告水道局長との間で、工事負担金を納付することに同意しているため、これにより原告が負担金納付の合意を承継したといえるのではないかという点も一応問題となるが、前述のとおり、本件における工事負担金納付の合意は、水道事業者及び水道需要者間の給水契約の内容に含まれず、無効というべきであるから、かかる無効な合意については、承継を認めることもできない。
したがって、被告は、原告に対し、富士エコロジーの工事負担金納付の合意を根拠にしても、工事負担金の支払請求を行うことはできないというべきである。
(3) 小括
以上より、結局、被告による本件徴収には法律上の原因がないといわざるを得ない。
二 遅延損害金の起算日
本件において原告は、遅延損害金の起算日を本件徴収の翌日である平成一五年九月二六日とするが、民法七〇三条に基づく不当利得返還請求権は期限の定めのない債務であるから、債務者たる被告が遅滞に陥るためには債権者による履行の催告が必要であるところ(民法四一二条三項)、本件においては、訴状の送達によりこれがなされたと認められ、訴状送達日は平成一六年八月一〇日であることが記録上明らかであるから、遅延損害金の起算日はその翌日である同月一一日であると解される。
三 結論
よって、原告の本件請求は、上記の限度で理由があるからこれらを認容し、その余は失当であるから、主文のとおり判決する。
なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
(裁判長裁判官 髙野裕 裁判官 山本善彦 大島広規)