鹿児島地方裁判所 平成17年(ワ)379号 判決 2008年3月25日
主文
1 別紙財産目録に記載の各財産が、A(平成15年3月31日死亡)の遺産であることを確認する。
2 訴訟費用は、原告らに生じたものの2分の1と被告Y1に生じたものを同被告の負担とし、その余を被告Y2の負担とする。
事実及び理由
第1申立て
1 原告らの請求
主文第1項と同旨(以下、別紙財産目録に記載の財産のうち、1の①ないし③の土地建物を「a町の物件」、1の④ないし⑦の土地建物を「b町の物件」、2の預貯金を「本件預貯金」、3の現金を「本件現金」と各総称する。また、前記Aのことを単に「A」というほか、各当事者についても姓を省略して表示する。)
2 被告Y1の答弁
(1) 主位的答弁
ア 本件預貯金に関する請求に係る訴えを却下する。
イ a町の物件に関する各共有持分4分の3及び本件現金がAの遺産であることを確認する。
ウ 原告らの、a町の物件に関するその余の請求、及び、b町の物件に関する請求をいずれも棄却する。
(2) 予備的答弁
ア 本件預貯金に関する請求に係る訴えを却下する。
イ 本件現金がAの遺産であることを確認する。
ウ a町の物件及びb町の物件に関する原告らの請求を棄却する。
3 被告Y2の答弁
(1) 本件預貯金に関する請求に係る訴えを却下する。
(2) a町の物件及び本件現金がAの遺産であることを確認する。
(3) b町の物件に関する原告らの請求を棄却する。
第2事案の概要
1 訴訟物等
本件は、いわゆる遺産確認請求訴訟の事案であり、以下の点は、全当事者間に争いがない。
(1) 原告ら及び被告らは、いずれもA(平成15年3月31日死亡)とその夫であったB(平成13年10月29日死亡)との間の子であり、他にAの相続人は存在しないこと。
(2) a町の物件は、Aがその妹である甲山C(平成11年12月14日死亡。以下「C」という。)からの相続によって取得したことになっている不動産であり、そのうち既登記の、別紙財産目録1①の土地及び同②の建物(なお、同③の未登記建物は、同②の建物の付属物である。)については、いずれも平成12年5月17日受付でAへの所有権移転登記(原因は平成11年12月14日相続)が経由されていること。
(3) b町の物件は、未登記建物である、同目録1の⑥及び⑦の建物(なお、これらは同⑤の建物の付属物である。)を含め、平成12年7月8日付けの売買契約書(甲41)をもってAが前所有者から買い受けたことになっている不動産であり(ただし、同契約書の実際の作成日は同月31日であり、その買主欄にAの氏名を記載するなどしたのは、原告X1であった。)、そのうち既登記の、同目録1④の土地及び同⑤の建物については、いずれも平成12年7月31日受付でAへの「共有者全員持分全部移転」の登記(原因は同日売買)が経由されているが、同物件については、同日から現在まで被告Y2が占有使用していること。
(4) Aについては、原告X1が平成13年1月5日付けで鹿児島家庭裁判所川内支部にした、成年後見開始の申立てに基づき、同年10月17日付けで同原告が成年後見人に就任したもので、本件預貯金のうち、名義人の部分にその資格が表示されているもの(同目録2⑥の普通預金と同⑨の通常貯金)、及び、預入日がそれ以降であるもの(同②ないし⑤の定期預金と同⑩ないし⑫の定額・定期貯金)はもとより、それ以外のものについても(なお、同①の預金口座の開設日は平成12年4月12日であり、また、同⑦の普通貯金と同⑧の定期積金に係る取引開始日は、いずれも同年6月12日である。)、原告X1がAの財産として管理していたものであること。
(5) 原告らと被告Y2は、Aが平成15年3月31日に死亡した後の同16年2月3日付けで、被告Y1を相手方として、鹿児島家庭裁物所川内支部に、別紙財産目録に記載の各財産を含む財産がAの遺産であるとした上、その分割を求めるとする調停を申し立てたが(同支部同年(家イ)第79号)、この調停事件については、被告Y1が次のような主張、すなわち、同被告は、Cの財産について死因贈与を受けていたものの、その相続人3名(姉のA、兄の甲山D及び弟の甲山E)との間で、Cの遺産を4分の1ずつ分け合うこととする旨の合意をしたので、Aの遺産とされているもののうちの大半を占める、Cから承継した財産の4分の1は同被告固有の財産であるという主張をしたことから、その主張の当否に関する訴訟を経ずに話合いを続けるのは困難となり、結局、取下げで終了したこと。
2 被告Y1の主張
(1) Cからの生前贈与について
被告Y1は、次のような経緯により、平成8年11月上旬ころにCから、その全財産の生前贈与を受けた。
すなわち、まず、同年11月初めころ、C(大正10年○月○日生)は、当時住んでいた川内市(現・薩摩川内市)から突然タクシーで鹿児島市内にある被告Y1宅を訪れた上、同被告に対し、「鹿児島市山之口町の土地建物を売って兄弟の居る川内に引っ越し、兄弟に面倒を見てもらうつもりだったが、兄弟も歳をとり、それぞれの生活があって泊めてもらえず、自分の思うような手助けをしてもらえない。それに、手助けをしてもらうときは兄弟は必ず『いくらくれるのか』とお金の話ばかりするので、それが嫌になった。自分の全財産をY1にやるから、面倒を見て欲しい」旨を述べた。
これに対し、被告Y1は、「妻や子供たちとも相談したいので、ちょっと待って欲しい。Cさんも兄弟と相談して欲しい」と言って、Cの申出を丁重に断ったところ、Cは残念そうに帰宅した。
ところが、それから約1週間後、Cは再びタクシーで被告Y1宅を訪れ、「私の全財産は甲山家からもらったものは何もない。これは私の財産だからY1の思うように使えばよい。全部Y1にあげるから、面倒を頼むから見てくれ」と強い口調で述べた上、被告Y1らの前に風呂敷包みを広げて通帳や預金証書、印鑑等(川内市内の不動産の権利証を含む。)を差し出しながら、「これを全部Y1にあげるから、面倒を見てくれ。Y1が見てくれないなら、徳洲会病院のF先生と面識があるので、そのまま寄付して死ぬまで面倒を見てもらう」と言って、被告Y1に決断を迫った。
そこで、被告Y1は、実際に家族の了解も得られていたことから、「ありがとう。お金等は大事に使うからね。妻や子供たちも賛成してくれたから、面倒を見させてもらうよ」と答えた上、Cの差し出した通帳等を受け取ったところ(ここにおいて、贈与契約が成立するとともに、その履行も完了したことになる。)、Cは祭祀承継の問題に言及し、「将来、Y1さんと一緒にお墓を購入する予定だから。できれば、自分の元夫(乙川G)の乙川家のお墓も一緒に守ってもらえると助かるのだけれど」と嬉しそうに述べ、このようにして、それ以降、被告Y1がCの面倒を見ることとなった。
(2) Cの相続人との合意について
その後、Cは平成11年12月14日に死亡したところ、その四十九日の法要が行われた平成12年1月30日、次のような経緯により、Cの相続人3名(姉のA、兄の甲山D及び弟の甲山E。ただし、Aについては、原告X1がその代理を務めた。)と被告Y1との間で、Cの遺産を4分の1ずつ分け合うこととする旨の合意(以下「本件和解」という。)が成立するに至った。
すなわち、上記法要は、前述のとおり被告Y1がCの面倒を見ていたことから、同被告において段取りをしたものであったところ、当日には、同被告からの事前の案内を受けて、川内市から大型タクシー1台で甲山D夫婦、甲山E夫婦及び原告X1の5名が被告Y1宅を訪れた。
そして、鹿児島市在住の原告X2や被告Y1の妻を交えて前記乙川の墓がある同市内の墓地で納骨をするなどの、一連の法要の行事が終わった後に、一同が被告Y1宅の2階において雑談をしていたところ、その際、甲山Dから被告Y1に対し「X2が帰ってから(Cの遺産の)話をしよう」という提案があり、実際にも、原告X2が帰宅し、被告Y1の家族も1階に降りた段階で、Cの遺産についての話合いが始まった。
その席上では、まず原告X1が中心になって、被告Y1がその場に持ってきた預金通帳などに基づいて、遺産のリストを作成する作業が行われたが、その総額が3億円ほどであることが判明したところで、甲山Eが、「Y1、皆4分の1ずつでどうかと思うが、Y1としては不服はないか」と発言したところ、これに対しAの代理人であった原告X1も甲山Dも異議を唱えなかったので、被告Y1も「4分の1でよい」旨を述べ、このようにして、本件和解が成立した。
なお、被告Y1は、上記法要に先立ち、自宅のすぐ前にある「c貯金事務センター」で弁護士に相談をした結果、「あなたはCさんから全財産の生前贈与を受けているから、Cさんの相続人に財産を渡す必要はない」とのアドバイスを受けていたことから、本件和解のような話が成立しない限り、C名義の預金通帳等をその相続人には渡さず、訴訟をしてでも生前贈与の主張を貫くとの強い思いで上記話合いに臨んでいたもので、それが終わって甲山D夫婦、甲山Eの妻及び原告X1が1階に降り、甲山Eと2人だけになった際、同人に対し、「Hさんから『4分の1ずつでどうか』という話がなければ、そこの事務センターで弁護士からアドバイスを受けたとおり、通帳などを渡すつもりはなかった」と告げたところ、そのころ1階にいた被告Y1の妻は、原告X1が「こげんずんばい金があっとなら(こんなに沢山お金があるのなら)、私がCの面倒を見れば良かった」と発言したのを耳にしている。
(3) 本件の各財産について
ア a町の物件は、Cの相続人3名の内部的な協議によってAが取得することになったものであるが、本件和解によれば、同物件については、その成立と同時に4分の1の共有持分権が被告Y1に帰属したことになるので、同被告は、主位的にその旨を主張する。
また、仮に本件和解の成立が認められないとすれば、それに先立つ前記生前贈与により同物件の所有権は被告Y1に帰属したままであったことになるから、同被告は、予備的にその旨を主張する。
イ 一方、b町の物件は、原告X1が、Aの代理人として、しかしAには無断で、被告Y2のために購入したものであって、他にその売買契約の効力がAに帰属したものと解すべき事情もないから、同物件については、Aがそれを取得した事実自体が存しないものというべきである。
ウ また、本件預貯金は、AがCからの相続によって取得した1億円強の預貯金を原資とするものであるので、本件和解を前提とした場合は、その4分の1が被告Y1の固有財産で、残り4分の3がAの遺産ということになり、本件和解の成立が認められないとすれば、その全部が被告Y1の固有財産であることになるが、仮に原告らの主張するとおり全部が遺産であるとしても、相続の開始と同時に法律上当然に分割されて各共同相続人に帰属しているものであって(最高裁昭和29年4月8日判決・民集8巻4号819頁参照)、いずれにしても、遺産の共有の場合に限って訴えの利益が認められる、遺産確認の訴えの対象適格に欠けるので、本件預貯金に関する請求に係る訴えは却下されるべきである。
なお、本件現金については、Aの遺産に属するものと解されるので、本件訴訟では争わないこととする。
3 被告Y2の主張
(1) b町の物件について
上記物件について原告X1がAの名義でした売買契約は、同物件を購入すると同時にそれを被告Y2に贈与するという、同被告に対しても表示されたA自身の意思に基づき、原告X1が使者又はその旨の授権を受けた代理人として締結したものであり、したがって、同物件は、上記売買契約の締結と同時に被告Y2の所有に帰した、その固有の財産である。
(2) 本件預貯金について
上記預貯金がAの遺産であることは間違いないが、このような可分債権については、相続の開始と共に法律上当然に分割されて各共同相続人に帰属することになるので、「当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴え」であるとされている遺産確認の訴え(最高裁昭和61年3月13日判決・民集40巻2号389頁参照)の対象とはなり得ない。よって、本件預貯金に関する請求に係る訴えは却下されるべきである。
(3) その余の財産について
a町の物件と本件現金は、Aの遺産である。
4 原告らの主張
(1) Cからの生前贈与に関する被告Y1の主張について
Cは、自分の預金通帳や印鑑を常に肌身離さず持っていて入院する際にも病院に持参していたほどであるほか、生活もかなり質素でお金にとても執着していた人物であり(なお、この点については、被告Y1自身が平成15年4月17日に原告X1に対し、「Cは病院で冷蔵庫も借りきれず、個室にも入りきらなかった」と話したことからも裏づけられる。)、そのような人物が被告Y1に全財産を贈与するなどと言って通帳や印鑑等を手渡したはずはなく、この点だけからしても、Cからの生前贈与をいう同被告の主張は事実に反するものであることが明らかというべきである。
(2) 本件和解に関する被告Y1の主張について
Cの四十九日の法要が行われた平成12年1月30日に、甲山D夫婦、甲山E夫婦、原告X1及び被告Y1の6名が同被告宅の2階に集まっていた席上で、同被告が持参していた預金通帳などに基づいてCの遺産のリストが作成されたのは事実であるが、少なくとも、原告X1がAからCの遺産に関する合意をするための代理権を授与されていた事実はないから、同原告がAの代理を務めることによりAにも効力が帰属する形で本件和解が成立したとする被告Y1の主張は、明らかに失当なものというべきである。
(3) b町の物件について
上記物件は、原告X1が、被告Y2に懇願されたことから、そこに同被告を居住させるため、AがCから承継取得した財産で、しかしAには無断で購入したものであり、当該売買契約の締結行為が無権代理行為であったことは否定できない。
しかし、その後、原告X1は、自らが申し立てたAについての成年後見開始の審判手続の関係で、平成13年2月9日に家庭裁判所調査官の調査を受けた際、b町の物件の名義人を確認されるとともに、それを変更しないよう指示されたことに加え、Aの成年後見人に選任された後の同年11月21日付けの書面(甲18)により、後見監督人のIから「被後見人Aの財産は、Aの療養看護等の生活費に使用すべきものであって、親族であっても、貸し出し等の行為はしないこと」などとする指摘を受けたことから、これを遵守するため、当該書面の写しを被告らにも送付するなどしてその周知方を図ったところであり、これらの事実関係によれば、原告X1は、遅くともそのころまでに、自らのした上記無権代理行為につき、Aの法定代理人(成年後見人)として、これを追認したものというべきである。
したがって、b町の物件はAの遺産であり、これと異なる旨を述べる被告らの主張は、いずれも失当である。
第3当裁判所の判断
1 本件預貯金について
(1) 被告Y1は、本件預貯金が、AがCからの相続によって取得した預貯金を原資とするものであることを理由に、その4分の1又は全部が自己に帰属しているように主張するが、本件預貯金は、すべて同被告の意思や行為とは無関係に、Aの名義で銀行等に預け入れられたものであることが明らかであって、単にその原資が同被告において一定の権利を有していた、C名義の預貯金であるというだけでは、本件預貯金に係る個々の債権の全部又は一部が同被告に帰属することはあり得ないから、同被告の上記主張は、本件和解の成否ないしCからの生前贈与の有無について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
(2) そうすると、他に本件預貯金がAの遺産でないとする主張のない本件においては、その遺産性を肯定すべきことになるが、ここで本件預貯金がAの遺産であるというのは、被告らも主張するように、それが当然に分割承継される可分債権であることからして、正確には、本件預貯金が、Aが死亡した時点で同女に帰属していたという意味になるところ、このような過去の法律関係については、その確認を求める利益の有無が問題となる。
ところで、預貯金については、当然に遺産分割の対象となるものではないものの、当事者の合意があれば分割の対象になるとするのが、実務の大勢であるところ(その背景として、金融機関が一般に各共同相続人からの個別の払戻請求には容易に応じないという、公知の事情がある。)、本件に先立つ調停事件では、原告ら及び被告Y2が本件預貯金の分割を求めたのに対して、被告Y1においてその一部が自己の固有財産であるとの主張をしたことから、調停の進行が困難になったという経緯であるので、本件で上記のような意味における遺産性が確認されれば、同被告としてもそれを前提とするしかないことになるため、今後の調停ないし審判による紛争の解決の可能性が格段に高まると考えられるから、上記の遺産性については確認の利益が存するものと解するのが相当である。
本件預貯金に関する請求に係る訴えが却下されるべきであるとする被告らの主張は、上記説示に照らし、採用しない。
(3) 以上によれば、本件預貯金に関する原告らの請求は理由がある。
2 本件現金について
次に、本件現金について検討するに、これがAの遺産であることは当事者全員が認めるところであるので、むしろ、争いのない法律関係について確認を求める利益があるか否かが問題となるが、本件に先立つ調停事件において被告Y1がその遺産性を争っていたことに照らすと、この点についても確認の利益が存するものと解するのが相当である。
したがって、本件現金に関する原告らの請求も理由がある。
3 a町の物件について
(1) 被告Y1は、本件和解によりa町の物件に関し4分の1の共有持分権を取得したように主張するが、同被告の主張によっても、本件和解は「Cの遺産を4分の1ずつ分け合うこととする」という漠然としたものにすぎず、遺産総額が3億円ほどであったということから当然に問題となる、相続税の申告手続との関係も不分明であるところ、弁論の全趣旨によれば、同被告は、本件に先立つ調停の時から本件訴訟の最終段階に至るまで、本件和解につき、「被告Y1がCの遺産の4分の1を取得することを前提として、『相続税の申告段階においては、Cの法定相続人3名がCの遺産を全部相続することにし、後日、清算する』との合意」であった旨の主張をしていたことが明らかであり、この点に照らすと、単に本件和解が成立したということのみから、Cの遺産の一部であるa町の物件そのものについて被告Y1が物権的にその4分の1の共有持分権を取得したと解するのは、困難であるといわざるを得ない。
また、被告Y1は、甲山Hの、「Y1、皆4分の1ずつでどうかと思うが、Y1としては不服はないか」との発言に対しAの代理人であった原告X1が異議を唱えなかったことから、Aに関しても本件和解が成立したように主張するものであるが、仮に、被告Y1に向けられたものである上記発言について原告X1が応答しなかったことをもって、黙示の承諾行為と見ることができるとしても、その効果がAに帰属するためには、その話合いの際に原告X1において自己がAの代理人である旨を表示したことと、同原告がそのような合意をするための代理権をAから与えられていたことを要するところ、これらの点を認めるに足りる証拠はないから、そもそも、Aにも効果が及ぶ形で本件和解が成立したとする被告Y1の主張は、失当なものといわざるを得ない(ちなみに、被告Y1本人の供述によれば、Cは入院先の病院で縊死したものであるところ、原告X1は、その四十九日の法要の当日、ショックを受けるといけないのでCが亡くなったことはまだAに話をしていない旨を述べていたとのことであるので〔調書28頁、42頁、44頁、62頁〕、被告Y1としても、当然、Cが死亡したことすら知らないAが、Cの遺産について協議をするための代理権を、原告X1に与えているはずがないことを了知し得たものと解される。)。
なお、平成12年1月30日にCの四十九日の法要が行われた後、Aが平成15年3月31日に死亡するまでの間に、A自身又は同女から個別の授権を受けた代理人ないし法定代理人(成年後見人)としての原告X1が、被告Y1との間で本件和解のような合意をしたことを認めるに足りる証拠も存しない。
(2) そこで次に生前贈与に関する被告Y1の主張について検討するに、同被告作成の陳述書である乙イ8の記載及び同被告本人の供述中には、上記主張に沿う旨を述べる部分があるが、同部分については、①弁論の全趣旨によれば、同被告は、本件に先立つ調停の時だけでなく本件の当初においても、Cからその財産について死因贈与を受けていたとの主張をしていたことが明らかであるところ、上記陳述書で述べているような、明白な生前贈与行為があったのであれば、これを死因贈与と取り違えるはずはないことや、②本人尋問においても、Cから風呂敷包みに入っていた通帳等を受け取ったのは預かっただけではないのかとの質問に対し、自分とCとの共有物と理解していた旨を答えたり(調書34頁)、Cの生前に同人名義の預金から合計3150万円を下ろしたが贈与税の申告はしなかった理由につき、もらった、もらわないという認識ではなく、Cが来た時からCは母親であり自分は子供という認識だったので、申告もしなかったし自由に金を使っただけである旨を述べたり(調書36頁)、それに関連して、Cの生前は贈与のつもりではなかったが亡くなってから贈与だったと認識したように述べているが(調書37頁)、これらの供述は、上記のように明白な生前贈与を受けた者の供述としては、余りにも不自然であること、③また、本人尋問での供述によれば、上記3150万円の内の2150万円は、川内市大小路町にあったC名義の不動産を、生前贈与の直後におけるCの指示に基づき、a町の物件ともども売りに出していたのが、ようやく売れて、その代金としてC名義の銀行口座に入金されたものを、平成10年7月31日に下ろしたということであるが、その不動産自体を贈与されていたことからすれば、C名義のまま売却したにしても、その代金は自由に使ってよいはずであるのに、それが入金されたことをCに報告したら「あんたが使いなさい」と言われたので下ろした旨を述べているのも不自然であるし、残りの1000万円については、平成11年4月16日に、C名義の2000万円の定期預金のうち1000万円を引き続きC名義の定期預金とした上で、解約した1000万円だけを、その前日ころにCから使いなさいと言われたことから、引き出したということであるが、全財産の生前贈与を受けながら、このように個別的な指示に基づいて預金を下ろしたというのも、不自然であるといわざるを得ないこと、④他方、これ以外には、C名義の預貯金から大きな金額を引き出してはいないとのことであるが、それを引き出して自分名義の預貯金にしたりすれば贈与税がかかるということで、C名義のままにしておいたものであるにしても、Cの死亡後のことを考えれば、Cに贈与を証する書面を作成してもらうのが普通であると考えられるし、なかなか売れなかったというa町の物件についても、そうであればせめて仮登記をつけて自己の権利の保全を図るというのが普通であると思われるところであり、このような措置が執られていないことからしても、生前贈与の真実性には疑念を抱かざるを得ないこと、⑤さらには、本人尋問での供述によれば、Cが平成11年12月14日に亡くなってから間もなくの平成12年1月6日に、自分のほうから「預かっている分があるんだけど」ということで相談をもちかけた、甲山Dの妻のJと2人で、C名義の商工組合中央金庫の債券について約3000万円の払戻しを受け、これを約半分ずつ山分けにしたとのことであるが、Cから生前贈与を受けていながら、このような行為に及んだというのは相当に不可解であるし、Cの四十九日の法要の後に行われたCの遺産に関する話合いに際して、生前贈与に言及することなく通帳等を任意に差し出し、かつ、甲山Eから「4分の1ずつでどうか」と言われた時も、一言も生前贈与のことに触れることなく、すぐにそれを承諾したというのも、かなり不可解であることなどからして、たやすく信用することができず、他に、生前贈与に関する被告Y1の主張を認めるに足りる証拠はない。
(3) そうすると、他にa町の物件がAの遺産ではないとする主張のない本件においては、その遺産性を認めるのが相当であり、したがって、この点に関する原告らの主張も理由がある。
4 b町の物件について
(1) 乙ロ1(被告Y2作成の陳述書)の記載及び被告Y2本人の供述中には、上記物件に関する被告Y2の主張に沿う旨を述べる部分があるが、同部分は、それ自体、極めて曖昧な点が多く、反対趣旨を述べる原告X1本人の供述と対比しても、容易に信用することができず、他に上記主張を認めるに足りる的確な証拠は存しない。
(2) 一方、被告Y1は、原告らと同様に、同物件に関する原告X1の売買契約締結行為が無権代理行為であったとした上で、他にその契約の効力がAに帰属したものと解すべき事情もないから、同物件については、Aがそれを取得した事実自体が存しないものというべきである旨主張するが、同物件中の既登記物件が、Aが死亡するまで同女の所有名義のまま維持されてきたことに照らすと、原告らの主張するとおり、上記無権代理行為については、原告X1がAの法定代理人(成年後見人)の立場においてこれを追認したものと認めるのが相当である。
(3) そうすると、b町の物件に関する原告らの請求も理由があることになる。
5 結語
以上の次第で、原告らの本件各請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 小田幸生)
(別紙)財産目録<省略>