鹿児島地方裁判所 平成2年(行ウ)6号 判決 1991年1月18日
鹿児島市東郡元町三番八号エクセレント中央三〇二号
原告
髙木林
熊本市二の丸一番二号
被告
熊本国税不服審判所長 野水鶴雄
右指定代理人
宿理八郎
同
石川公博
同
富永民主男
同
染川洋一郎
同
永田康昌
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立て
一 原告
1 被告が平成元年一〇月三〇日付けで原告に対してなした、「審査請求を棄却する。」旨の裁決(熊裁(所)平元第四号、以下「本件裁決」という。)を取り消す。
2 被告は、原告に対し、金一二一九万円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。
二 被告
主文同旨
第二主張
一 請求原因
1(一) 原告は、昭和六二年分の所得税の確定申告書に、総所得金額二三三万六三五四円(内訳 不動産所得の金額一〇七万三三五四円、給与所得の金額一二六万三〇〇〇円)、分離長期譲渡所得の金額五六七六万円、納付すべき所得税額一二三一万八一〇〇円と記載して、昭和六三年三月一七日、鹿児島税務署長(以下「税務署長」という。)に対して、所得を申告し、その後、右所得税額を納付した。
(二) 原告は、右確定申告書に記載の分離長期譲渡所得に係る資産の譲渡はなかつたとして、同年九月一四日、税務署長に対し、総所得金額二三三万六三五四円(内訳は前記(一)に同じ)、分離長期譲渡所得の金額零円、納付すべき所得税額一二万八一〇〇円とする、国税通則法二三条一項に基づく更正請求をした。これに対し、税務署長は、同年一二月二二日付けで更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「原処分」という。)をした。
(三) 原告は、原処分を不服として、平成元年二月一〇日、税務署長に対し、異議申立てをしたところ、税務署長は、同年四月二六日付けで棄却の異議決定をした。
(四) 原告は、異議決定を経た原処分について、なお不服があるとして、同年五月一七日、国税不服審判所長(以下「審判所長」という。)に対し、審査請求をしたところ、審判所長は、同年一〇月三〇日付けで本件裁決をした。
2 しかしながら、次のとおり、原告に昭和六二年分の分離長期譲渡所得は生じていない。よつて、前記1(二)の更正請求は理由があるから、これをないものとした原処分は違法である。したがつて、これと異なり原処分を相当とした本件裁決も、違法なものとして取消しを免れない。
(一) 本件分離長期譲渡所得は、原告が所有していた鹿児島市谷山塩屋町字清見寺七五五番一宅地七二七・三〇平方メートル(以下「本件土地」という。)が、昭和六二年六月五日、鹿児島地方裁判所の競売により、徳永忠久(以下「買受人」という。)に売却されたことから生じたとされている。
しかし、原告は、本件土地について、土地区画整理法九八条に基づき、同五八年八月一日付けで区画整理事業執行者である鹿児島市長から仮換地変更指定通知(仮換地ブロック番号五四、地積五六〇・〇三平方メートル。以下「本件仮換地」という。)を受けているものであるが、本件仮換地の使用収益権については、民事執行法八三条に規定する引渡しの申立てが買受人からなされておらず、同条に基づく引渡命令もない。よつて、買受人への本件仮換地の引渡しは、未だ行われていないことになるから、昭和六二年分の譲渡所得はない。
(二) また、譲渡というためには、原告において資産を譲渡する意思がなければならないと解すべきところ、本件土地については、原告に譲渡の意思はなかつたものであり、所有権が買受人に移転した原因は、その登記原因にも明らかなように「競売による売却」であるから、譲渡とはいえず、したがつて、譲渡所得は発生していない。
3 よつて、原告は、被告による本件裁決の取消しを求めるとともに、被告に対し、前記1(一)の納付済み所得税額一二三一万八一〇〇円と同1(二)の本来納付すべき所得税額一二万八一〇〇円との差額である一二一九万円の返還支払を求める。
二 被告の本案前の主張
1 本件裁決の取消しの訴えについて
(一) 本件裁決は、平成元年一一月一六日、原告に送達され、原告は、同日、本件裁決があつたことを知つた。しかるところ、本件訴えは、三か月の出訴期間(行訴法一四条)を経過した同二年一〇月二六日に提起されている。よつて、本件訴えは、不適法である。
(二) 本件裁決の取消しを求める訴えは、これを行つた審判所長を相手方として提起すべきである(行訴法一一条)から、被告を相手方とした本件訴えは不適法である。 2 所得税返還の訴えについて
被告には本件訴えの被告適格がないから、右訴えも不適法である。
第三証拠
記録中の証拠目録の記載を引用する。
理由
一 まず、本件裁決の取消しの訴えの適法性について検討する。
裁決の取消しを求める訴えは、裁決があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならない(行訴法一四条)。
これを本件についてみるに、本件の裁決書謄本は平成元年一一月一六日原告に送達されているから(乙一の1、2、二、三の1、2、六)、原告は右同日本件裁決があつたことを知つたものと推定すべきところ、本件訴えは、右三か月の出訴期間を経過した後である同二年一〇月二六日に提起されたものであるから不適法である。
また、裁決の取消しの訴えは、裁決をした行政庁を被告として提起しなければならないところ(行訴法一一条)、本件裁決は国税不服審判所長がしたものであるから(乙六)、本件訴えは、被告適格を有しない者を被告とする不適法なものである。
二 次に、所得税返還の訴えの適法性について検討する。
本件訴えは、国に対して納付した所得税に過払分があるとして、その返還を求める給付訴訟と解されるから、本件訴えは、被告適格を有しない者を被告とする不適法なものである。
三 よつて、本件訴えはいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮良允通 裁判官 原田保孝 裁判官 手塚稔)