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鹿児島地方裁判所 平成22年(行ウ)13号 判決 2011年9月07日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1) 処分行政庁がX1 に対し平成 21年3月 11 日付けでした平成 19年分の所得税の更正のうち総所得金額 5782 万 2015 円,納付すべき税額 145 万 4800 円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の各処分をいずれも取り消す。

(2) 処分行政庁がX2 に対し平成 21年3月 11 日付けでした平成 19年分の所得税の更正のうち総所得金額 4081 万 7138 円,納付すべき税額 17万 9400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の各処分をいずれも取り消す。

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第2事案の概要

1  本件事案の要旨

本件は,贈与税更正処分取消請求訴訟に一部勝訴し,既に納付していた贈与税,過少申告加算税及び延滞税の一部の還付を受けるとともに,国税通則法58 条1項に規定する還付加算金の支払を受けた原告らが,平成 19 年分所得税の確定申告において,上記還付加算金を雑所得として申告するに際し,上記取消訴訟に補佐人として関与した税理士(原告ら補佐人)に対する報酬を必要経費に算入したところ,処分行政庁から上記報酬は上記還付加算金の必要経費に当たらないとして更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため,これを不服として上記更正及び賦課決定の取消しを求める事案である。

2  争いのない事実等

以下の事実は,争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。

(1)  前件訴訟の経緯

ア 贈与税の申告と処分行政庁の更正

原告らの母であるAは,平成9年1月 20日,原告らに対し,Bの出資口数各 1000 口を贈与するとともに,同出資口数各3万口を 5520万円で売却した。そこで,原告らは,平成 10年3月 16 日,鹿屋税務署長に対し,Aから贈与を受けた上記出資口数について,贈与税の申告をした。これに対し,鹿屋税務署長は,[1]原告らが上記出資口数の価額を不当に低く申告している,[2]上記売却による出資口数の取得は著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当するとして,平成 13年3月6日,原告らに対し,増額更正及び過少申告加算税の賦課決定を行った(以下「前件各処分」という。)。

(争いのない事実)

イ 不服の申立て

原告らは,平成 13 年3月 29日,金融機関及び原告ら補佐人から借り入れるなどして調達した金銭をもって,前件各処分に係る増加分の贈与税,加算税及び延滞金を納付した(以下,金融機関及び原告ら補佐人からの借入金を「本件借入金」という。)。その上で,原告らは,平成 13年4月3日,鹿屋税務署長に対し,前件各処分を不服として異議申立てを行った。しかし,鹿屋税務署長は,平成 13 年7月3日,原告らの申立てをいずれも棄却した。そこで,原告らは,平成 13年7月 31日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,同所長は,平成 15年6月 30日,前件各処分の一部を取り消す旨の裁決をした。

鹿屋税務署長は,平成 15 年7月8日,上記裁決に基づき,X1 に対し,贈与税 1315 万8000円,加算税 197万 4000円及び延滞税 99万 8000円並びに還付加算金 154万 2700円を還付し,同様に,X2 に対し,贈与税 1315 万 8000 円,加算税 197 万 4000 円及び延滞税 99万 8000円並びに還付加算金 154万 2600円を還付した。

(争いのない事実,証拠<省略>)

ウ 取消訴訟の提起

原告らは,平成 15 年9月 29日,上記裁決になお不服があるとして,当庁に対し,前件各処分の取消訴訟を提起した(当庁平成 15年(行ウ)第<省略>号)。しかし,当庁は,平成 18 年6月7日,原告らの請求をいずれも棄却した。そこで,原告らは,福岡高等裁判所宮崎支部に控訴を提起したところ(福岡高等裁判所宮崎支部平成 18年(行コ)第<省略>号),同庁は,原告らの主張を一部認め,平成 19年2月2日,前件各処分(国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)を一部取り消す旨の判決をし,その後,同判決は確定した(上記一審及び控訴審を併せて,以下「前件訴訟」という。)。なお,原告ら補佐人は,前件訴訟においても,原告らの補佐人として訴訟活動を行っていた。

鹿屋税務署長は,平成 19 年3月 15日,上記判決に基づき,原告らに対し,それぞれ贈与税 2352 万 3400 円,加算税 350 万 4500 円及び延滞税 178 万 4400 円(以下,上記三つの税を併せて「本件過誤納金」という。)並びに還付加算金 712 万 8100 円(以下「本件還付加算金」という。)を還付した。

(争いのない事実,証拠<省略>)

エ 原告ら補佐人に対する報酬の支払

X1 は,平成 19 年3月 16 日,原告ら補佐人に対し,前件訴訟の報酬として 368 万円を支払った。また,X2 も,平成 19 年3月 19 日,原告ら補佐人に対し,前件訴訟の報酬として 368万円を支払った(以下,原告らが原告ら補佐人に対し支払った報酬を「本件報酬」という。)。なお,本件報酬には,原告ら補佐人が立替払をしていた,前件訴訟における弁護士費用及び不動産鑑定費用が含まれていた。(証拠<省略>)

(2)  本件訴訟に至る経緯

ア 平成 19年分の所得税に係る確定申告

X1は,平成 20 年3月 12 日,処分行政庁に対し,平成 19 年分の所得税について,総所得金額 5641万 7246円,納付すべき税額 89万 2800 円とする確定申告書を提出した。当該確定申告書における雑所得の金額は,本件還付加算金 712 万 8100 円から必要経費 693 万1232 円(本件借入金に係る利息金 325 万 1232 円及びX1 が原告ら補佐人に対し支払った本件報酬 368万円の合計額)を控除した 19万 6868 円であった。

また,X2も,平成 20年3月 12日,処分行政庁に対し,平成 19 年分の所得税について,総所得金額 4051 万 7037 円,納付すべき税額5万 9400 円とする確定申告書を提出した。当該確定申告書における雑所得の金額は,本件還付加算金 712万 8100円に平成 18年分所得税に係る還付加算金 2100 円を加えた額から必要経費 903万 4934円(本件借入金に係る利息金 535 万 4934 円及びX2 が原告ら補佐人に対し支払った本件報酬 368 万円の合計額)を控除した0円であった。

(争いのない事実,証拠<省略>)

イ 平成 19年分所得税に係る修正申告

X1 は,平成 20 年 12 月 16 日,処分行政庁に対し,平成 19 年分の所得税について,総所得金額 5737 万 4681 円,納付すべき税額 127 万 6000 円とする修正申告書を提出した。

当該修正申告書における雑所得の金額は,本件還付加算金 712 万 8100 円から必要経費 597万 3797 円(本件借入金に係る利息金 229 万 3797 円及びX1 が原告ら補佐人に対し支払った本件報酬 368 万円合計額)を控除した 115 万 4303 円であった。

また,X2 も,平成 20 年 12 月 16 日,処分行政庁に対し,平成 19 年分の所得税について,総所得金額 4052 万 0744 円,納付すべき税額6万 1000 円とする修正申告書を提出した。当該修正申告書における雑所得の金額は,本件還付加算金 712万 8100 円に平成 18年分所得税に係る還付加算金 2100円を加えた額から必要経費 903 万 4934円(本件借入金に係る利息金 535万 4934円及びX2が原告ら補佐人に対し支払った本件報酬 368万円の合計額)を控除した0円であった。

(争いのない事実,証拠<省略>)

ウ 処分行政庁の更正

処分行政庁は,平成 21年3月 11日,X1 の平成 19 年分の所得税について,総所得金額6150万 2015円,納付すべき税額 292万 6800円とする更正及び過少申告加算税 16万 5000円の賦課決定を行った。上記各処分において認定された雑所得の金額は,本件還付加算金712万 8100円から必要経費 184 万 6463 円(本件借入金に係る利息金)を控除した 528万1637 円であり,X1 が原告ら補佐人に対し支払った本件報酬は雑所得の必要経費に算入されていなかった。

また,処分行政庁は,平成 21 年3月 11日,X2 の平成 19 年分の所得税について,総所得額 4449 万 7138 円,納付すべき税額 165 万 1400 円とする更正及び過少申告加算税 15万 9000円の賦課決定を行った(X1 に対する処分と併せて,以下「本件各処分」という。)。

X2 に対する上記各処分において認定された雑所得の金額は,本件還付加算金 712 万 8100円に平成 18 年分所得税に係る還付加算金 2100 円を加えた額から必要経費 315 万 3806 円(本件借入金に係る利息金)を控除した 397 万 6394 円であり,X2が原告ら補佐人に対し支払った本件報酬は雑所得の必要経費に算入されていなかった。

(争いのない事実,証拠<省略>)

エ 不服の申立て及び本件訴訟の提起

原告らは,本件報酬を雑所得の必要経費に算入しなかった本件各処分を不服として,平成 21 年4月8日,処分行政庁に対し,異議申立てを行ったが,処分行政庁は,同年6月4日,原告らの申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。原告らは,これを不服として,平成 21年7月2日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたが,同所長は,平成 22年3月 12 日,原告らの審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。そこで,原告らは,本件訴訟を提起した。

(争いのない事実,証拠<省略>)

(3)  本件各処分に関連する法制度

ア 所得税と雑所得

所得税とは,納税義務者である個人の所得を課税物件とする租税であり,その課税標準は,総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額の3種類である(所得税法22条1項)。また,所得税法は,所得をその源泉ないし性質により,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得に分類し,さらに,これらに該当しない所得を雑所得として分類している(所得税法23 条ないし 28条,30条ないし 35条)。

イ 必要経費

必要経費とは,所得を得るために必要な支出のことである。必要経費は,課税の対象となる所得から控除される。

雑所得との関係では,原則として,当該雑所得を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額が必要経費として控除される(所得税法37条)。

ウ 還付加算金

(ア) 国税局長,税務署長又は税関長は,適法に納付又は徴収が行われたが,後に租税法の計算規定の適用によって,国が保有する正当な理由がなくなった税額(以下「還付金」という。)や,租税実体法上納付又は徴収の時から国又は地方公共団体が保有する正当な利益を有しない利益(以下「過誤納金」といい,還付金と併せて「還付金等」という。)がある場合には,これらを納税義務者に還付し,又は,当該納税義務者が納付すべき国税があるときは,還付に代えて,その国税に充当しなければならない(国税通則法56 条,57条)。

そして,国税局長,税務署長又は税関長は,上記還付又は充当を行う場合には,法定の起算日からその還付のための支払決定の日又はその充当の日までの期間の日数に応じ,その金額に年 7.3 パーセントの割合を乗じて計算した金額である還付加算金を,還付し,又は充当すべき金額に加算しなければならない(国税通則法58条1項)。ただし,各年の特例基準割合(各年の前年の 11月 30 日を経過する時における日本銀行法第 15 条第1項第1号の規定により定められる商業手形の基準割引率に年4パーセントの割合を加算し,0.1パーセント未満の端数があるときはこれを切り捨てた割合。以下,単に「特例基準割合」という。)が,年 7.3パーセントの割合に満たない場合には,還付加算金の額は,特例基準の割合に基づいて算出される(租税特例措置法 95 条,93 条1項)。

(イ) 平成 13年から平成 20 年までの特例基準割合は,以下のとおりであった。

a 平成 13年  4.5パーセント

b 平成 14年ないし平成 19年  4.1パーセント

c 平成 20年  4.4パーセント

(当裁判所に顕著な事実)

3 争点

(1)  本件報酬の必要経費該当性

ア 原告ら

(ア) 必要経費の判断基準

所得税法37条1項の文言及び趣旨に鑑みれば,当該支出が必要経費に該当するといえるためには,当該支出が所得を得るために直接に要した費用に当たること,すなわち,当該経費と所得とが対応関係を有していることが必要である。

(イ) 還付加算金の法的性質

還付加算金は,過誤納金の納付によって違法に財産権を侵害された納税者に対する調整ないし救済措置として支払われるものである。

(ウ) 本件報酬の必要経費該当性

本件還付加算金は,前件訴訟に係る一部取消判決の確定により,前件各処分の公定力が一部否定されたことによって,過誤納金を納付した日を基準日として発生したものである。また,違法な侵害状態の排除を目的とした取消訴訟と,違法に財産権を侵害された納付者に対する調整ないし救済措置として支払われる還付加算金とは,目的及び性質を同じくするものである。これらの点を考慮すれば,本件還付加算金と前件訴訟とが対応関係を有することは明らかである。

そうだとすると,前件訴訟を遂行した原告ら補佐人に対し支払った本件報酬(前件訴訟のために費やされた弁護士費用及び不動産鑑定費用が含まれている。)と,本件還付加算金とが対応関係を有していることもまた明らかであるといえる。

したがって,本件報酬は,本件還付加算金の必要経費に該当する。

イ 被告

(ア) 必要経費の判断基準

所得税法37条1項の文言及び趣旨に鑑みれば,当該支出が必要経費に該当するといえるためには,当該支出が事業活動と直接の関連を持ち,かつ,その事業の遂行上客観的に必要なものでなければならない。

(イ) 還付加算金の法的性質

還付金等に対して付される還付加算金は,国税の納付遅延に対し延滞税が課されること(国税通則法60条)との均衡等を考慮して設けられた,一種の利子であると解されるそして,還付加算金が発生するためには,[1]過誤納金が存在すること及び[2]過誤納金の納付があった日の翌日から還付のための支払決定の日等までの期間が経過することが必要である。

(ウ) 本件報酬の必要経費該当性の欠如

還付加算金は,前記(イ)で主張したとおり,還付金等に付される一種の利子であり,原則として過誤納金の存在及び一定期間の経過という2つの要件に基づいて発生するものであるから,課税処分の取消判決の確定を端緒として発生することはあるものの,同判決に付随して常に発生するものではない。

そうだとすると,本件還付加算金は,前件訴訟と直接の関連を持つものではないから,前件訴訟遂行の対価として原告ら補佐人に支払われた本件報酬とも直接の関連を持つことはない。そして,この点は,本件報酬が前件訴訟の遂行に費やされた弁護士費用及び不動産鑑定費用を含むものであることを考慮しても,異なることはない。

したがって,本件報酬は,本件還付加算金の必要経費に該当しない。

(2)  本件各処分の憲法適合性

ア 原告ら

本件報酬が本件還付加算金の必要経費に算入されないのであれば,本件還付加算金の額が,本件借入金に係る利息金及び本件報酬並びに雑所得に課された所得税の合計額を下回ることとなり,原告らの私有財産は前件各処分(国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)を受ける前の状態に復さない。このような結果を導く本件各処分は,法の下の平等を定めた憲法14条1項及び財産権の保障を定めた憲法29条1項に反するものといえる。

イ 被告

原告らは,本件各処分が,憲法14 条1項及び 29 条1項に反するものであると主張するが,その実質は単なる法令違反をいうものに過ぎない。そして,本件各処分が,必要経費について定めた所得税法37条1項に違反しないことは,前記(1)イで主張したとおりである。したがって,原告らの主張には理由がない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件報酬の必要経費該当性)について

(1)  還付加算金の雑所得該当性について

還付加算金は,個人の所得であって,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから,雑所得に該当すると解される。

(2)  雑所得の必要経費について

前記第2の2(3)イで判示したとおり,雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は,当該雑所得を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。また,上記要件の判断は,納税義務者の主観的判断を基準とするのではなく,客観的基準に即して行われる必要がある。

(3)  還付加算金の性質について

前記第2の2(3)で判示したとおり,還付加算金の額は,法定の起算日から還付金等を還付のための支払決定の日までの期間の日数に応じて算定されるものであり,還付加算金の割合について,還付金等の発生原因が税務行政庁側にあるか否かにかかわらず,年 7.3パーセントの割合(特例基準割合がこれを下回る場合には特例基準割合)に基づいて算定され,また,一定の限度で市場金利と連動させる措置が採られている。このような還付加算金に関する規定に鑑みれば,還付加算金は,還付金等に付する一種の利子であると解するのが相当である。

なお,原告らは,還付加算金とは,過誤納金の納付によって違法に財産権を侵害された納税者に対する調整ないし救済措置として支払われるものであり,このことは,還付加算金が年 7.3パーセントという高い割合(銀行借入利率の3ないし4倍の割合)に基づいて算定されることからも明らかであると主張する。しかしながら,既に摘示した事情に加え,還付加算金が過誤納金のみならず還付金一般に付されること,還付加算金の割合は常に年 7.3パーセントではなく(特例基準割合がこれを下回る場合には特例基準割合による),この点に関する原告の主張が前提を欠くものであること等からすれば,原告の主張を採用することはできない。

(4)  本件報酬の本件還付加算金の必要経費該当性の欠如

【判示事項相当部分】前記第2の2(1)及び(2)で判示した事実によれば,本件過誤納金は前件訴訟判決の確定により国が保有する正当な利益を失った過誤納金であること,本件還付加算金は本件過誤納金に加算されて還付されたものであること,一方で,本件報酬は原告らが原告ら補佐人に対し前件訴訟遂行の報酬及び前件訴訟遂行に要した費用の立替金として支払った金銭であることが認められる。かかる事実関係に照らせば本件還付加算金と本件報酬との間には一定の対応関係が認められる。

しかしながら,[1]更正処分の取消しは還付加算金発生の必要条件ではないこと,[2]更正処分の取消訴訟は,違法な課税処分の取消し自体を目的とするものであって,還付加算金の取得を目的とするものではないこと,[3]したがって,本件過誤納金自体の発生であればともかく,本件還付加算金の発生は,前件訴訟判決の確定による直接的な効果ではなく,同判決の確定によって遡って国が本件過誤納金を保有する正当な理由を失ったことによる反射的効果にすぎないと解されること等の事情からすれば,本件報酬が,客観的に見て,本件還付加算金を得るために「直接に要した費用」に該当すると解することはできないというべきである。また,還付加算金は,反復継続して行われる事務又は事業によって生じた所得とは認められないから,本件報酬が,「その年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当すると解することもできない。

したがって,本件報酬が本件還付加算金の必要経費に該当すると認めることはできない。

なお,原告らは,本件各処分について,本件借入金に係る利息金を本件還付加算金の必要経費に算入する一方で,本件報酬を上記必要経費に算入しないことは不合理である旨主張する。しかしながら,本件借入金に係る利息金と本件報酬とはその法的な発生根拠が異なる以上,その必要経費該当性を判断するに当たり,当然に同列に扱わなければならないとする理由は見いだし難く,また,そもそも本件借入金は,本件過誤納金の納付費用に当てられ,その結果,本件還付加算金の原資となったと評価できるから,本件借入金は,客観的に見て,本件還付加算金を得るために「直接に要した費用」に該当すると解することができるのであって,本件報酬と異なって必要経費に算入しても不合理とはいえない。したがって,本件各処分に,原告らの主張する不合理性は認められない。

2  争点(2)(本件各処分の憲法適合性)について

原告らは,本件報酬を本件還付加算金に対する必要経費に算入できないのであれば,原告らの私有財産は前件各処分(国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)を受ける前の状態に復さないから,本件各処分は憲法14条1項及び 29条1項に違反すると主張する。

しかし,原告らの主張によっても,本件報酬を本件還付加算金に対する必要経費に算入できないことが,いかなる意味において憲法14条1項に違反するのかは明らかではない。また,本件各処分が憲法29 条1項に反するとの主張についても,そもそも「前件各処分を受ける前の状態」がどのような状態を指すのかが不明であるのみならず,「前件各処分を受ける前の状態」に服さないことが憲法29 条1項に違反する根拠についても明らかであるとはいえない。したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。

第4結語

以上によれば,処分行政庁がX1に対し平成 21年3月 11日付けでした平成 19年分の所得税の更正のうち総所得金額 5782 万 2015 円,納付すべき税額 145 万 4800 円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の各処分の各取消し並びに処分行政庁がX2 に対し平成 21年3月 11日付けでした平成 19年分の所得税の更正のうち総所得金額 4081万 7138円,納付すべき税額 17 万 9400 円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の各処分の各取消しを求める本訴各請求は,すべて理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61 条,65 条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 牧賢二 裁判官 和波宏典 裁判官 松原平学)

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