鹿児島地方裁判所 平成22年(行ウ)7号 判決 2012年1月18日
主文
1 原告両名の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告両名の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は、別紙報酬目録記載の委員会の委員及び非常勤の監査委員に対し、同目録記載の報酬をいずれも支給してはならない。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
1 本件事案の要旨
本件は、鹿児島県の住民である原告両名が、鹿児島県報酬及び費用弁償に関する条例の規定のうち鹿児島県収用委員会、鹿児島県労働委員会及び鹿児島県選挙管理委員会の各委員並びに鹿児島県監査委員(常勤の監査委員を除く。)に月額制の報酬を支給することを定める規定が地方自治法203条の2第2項に反する違法、無効なものであると主張して、被告に対し、同法242条の2第1項1号に基づき上記報酬に係る公金の支出の差止めを求める事案である。
2 争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実
(1) 当事者等
被告は、普通地方公共団体である鹿児島県の知事である。
原告両名は、鹿児島県の住民である。
(2) 鹿児島県の委員会及び委員
鹿児島県には、地方自治法(以下「法」という。)の規定に基づき、鹿児島県収用委員会、鹿児島県労働委員会及び鹿児島県選挙管理委員会の各委員会並びに鹿児島県監査委員が設置されている(法180条の5)。
(3) 鹿児島県収用委員会
鹿児島県収用委員会は、土地収用法に基づく権限を行使する執行機関として鹿児島県に設置された行政委員会である(土地収用法51条1項)。
鹿児島県収用委員会は、7人の非常勤の委員によって組織され、同委員から互選された会長によって代表される(法180条の5第5項、土地収用法52条1項、56条)。
(4) 鹿児島県労働委員会
鹿児島県労働委員会は、労働組合法及び労働関係調整法等に基づく権限を行使する執行機関として鹿児島県に設置された行政委員会である(労働組合法19条の12第1項、20条)。
鹿児島県労働委員会は、使用者委員、労働者委員及び公益委員各5人(いずれも非常勤の委員)によって組織され、公益委員の中から上記各委員によって選挙された会長によって代表される(法180条の5第5項、労働組合法19条の12第2項、労働組合法施行令25条の2別表第3、労働組合法19条の12第6項、第19条の9第3項)。
(5) 鹿児島県選挙管理委員会
鹿児島県選挙管理委員会は、鹿児島県が処理する選挙に関する事務及びこれに関係のある事務を管理する執行機関として鹿児島県に設置された行政委員会である(法181条1項、186条)。
鹿児島県選挙管理委員会は、4人の非常勤の選挙管理委員によって組織され、同委員の中から選挙された委員長によって代表される(法180条の5第5項、181条2項、1871条)。
(6) 鹿児島県監査委員
鹿児島県監査委員は、鹿児島県の財務に関する事務の執行及び鹿児島県の経営に係る事業の管理を監査するとともに、必要に応じて鹿児島県の事務の執行について監査をする執行機関である(法195条1項、199条)。
鹿児島県監査委員の定数は4人であり、うち2人又は1人が鹿児島県議会の議員から選任され、その余は、人格が高潔で地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有するもの(以下「識見を有する者」という。)から選任される。鹿児島県議会の議員から選任された監査委員は非常勤である。一方で、識見を有する者から選任された監査委員は、これを常勤とすることができ、また、少なくとも1人以上は常勤とすることが要求される(法180条の5第5項、195条2項、196条)。
(7) 普通地方公共団体の非常勤の職員に対する報酬に係る地方自治法の規定法203条の2第2項は、普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。以下「非常勤職員」という。)に対する報酬について、「その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。」と規定している。
(8) 鹿児島県報酬及び費用弁償に関する条例
鹿児島県報酬及び費用弁償に関する条例2条並びに別表第1及び第2は、鹿児島県収用委員会、鹿児島県労働委員会及び鹿児島県選挙管理委員会の各委員並びに非常勤の鹿児島県監査委員(以下「本件各委員」という。)に対する報酬について、別紙報酬目録記載のとおり月額制で支給すると規定している(以下「本件規定」という。)。なお、本件各委員に支給する報酬の額は、鹿児島県知事等の給与の特例に関する条例6条により、平成20年4月1日から平成24年3月31日までの間、本件規定に定める額から、その額に100分の10を乗じて得た額を減じた額とされている。
(9) 原告両名による住民監査請求と本訴の提起
原告両名は、平成22年3月29日、鹿児島県監査委員に対し、地方自治法242条1項に基づき、本件各委員に月額制の報酬を支給することを定める本件規定が法203条の2第2項に反する無効なものであると主張して、被告に対し、本件各委員の報酬について、これを月額制で支給することを取りやめ、勤務日数に応じて支給するよう勧告することを請求した。
しかし、鹿児島県監査委員は、平成22年4月23日、上記請求はいずれも住民監査請求の対象に該当しないので、却下することとした旨を原告両名に通知した。
そこで、原告両名は、平成22年5月20日、本訴を提起した。
3 争点
(本件規定の法203条の2第2項適合性)
ア 原告両名
(ア) 法203条の2第2項の解釈について
法203条の2第2項は、非常勤職員に関し、その勤務日数に応じて報酬を支給することを原則としつつ、特に繁忙であるなど特別な事情のある非常勤職員に限って、条例の定めにより月額制等の報酬を支給することを認めた規定であると解される。
それゆえ、非常勤職員に対し、月額制の報酬を支給するためには、当該非常勤職員の役所における勤務量が常勤の職員に比肩し得る場合、役所外での職務執行時間が多く事実上の拘束が認められる場合、勤務量を認識することが困難で月額制を採らざるを得ない場合など、月額制の報酬を支給することが相当と認められる特別な事情が必要である。
以上を踏まえれば、非常勤職員に対し月額制の報酬を支給することを定める条例の規定が上記特別な事情を欠くため法203条の2第2項本文の原則に矛盾抵触して著しく妥当性を欠く状態になっており、かつ、そのような状態が相当期間内に是正されていないといえる場合には、法203条の2第2項によって付与された議会の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法、無効となると解される。
(イ) 本件規定が法203条の2第2項に違反し違法、無効であること
a 鹿児島県収用委員会の委員の勤務実態
鹿児島県収用委員会の委員の年間勤務日数は12日ないし20日程度である。また、毎月行われる定例会の平均所要時間は56分程度である。
b 鹿児島県労働委員会の委員の勤務実態
鹿児島県労働委員会の委員の年間勤務日数は20日ないし40日程度である。
c 鹿児島県選挙管理委員会の委員の勤務実態
鹿児島県選挙管理委員会の委員の年間勤務日数は15日ないし30日程度である。また、毎月行われる定例会の平均所要時間は55分程度である。
d 非常勤の鹿児島県監査委員の勤務実態
非常勤の鹿児島県監査委員の平均月間勤務日数は6日程度である。
e 結論
以上のような本件各委員の勤務実態に鑑みれば、本件各委員に対し月額制の報酬を支給すべき特別な事情は何ら存しないことは明らかである。
そして、鹿児島県議会は、上記特別な事情がないことを、遅くとも平成21年6月頃の時点で認識していたが、いまだにこれを是正していない。
したがって、本件各委員に対し月額制の報酬を支給することを定める本件規定は、法203条の2第2項によって付与された議会の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであり違法、無効である。
イ 被告
(ア) 法203条の2第2項の解釈について
法は、203条の2第2項本文で、非常勤職員に対し、その勤務日数に応じて報酬を支給することを基本とする旨宣言する一方、同項ただし書において、特段の要件を課すことなく、条例で特別の定めをすることにより、その余の方法で報酬を支給することを認めている。
また、非常勤職員の職務の性質、内容や勤務態様が多種多様であるため、非常勤職員に対する報酬の支給方法につき、日額制と月額制のいずれが適切であるかについては、非常勤職員の職務実態等を総合的に考慮して判断する必要がある。
以上を踏まえれば、地方自治法は、非常勤職員の職務実態を総合的に判断する能力を有する普通地方公共団体の議会に対し、非常勤職員に対する報酬の支給方法について特別の定めをすることにつき、広範な裁量権を付与したと解するのが相当である。よって、非常勤職員に対し月額制の報酬を支給することを定める条例の規定が違法、無効となるのは、上記委員等に対し月額制の報酬を支給することが社会通念上著しく妥当性を欠き、法203条の2第2項によって付与された議会の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に限られるというべきである。
(イ) 本件規定が法203条の2第2項に違反しないこと
本件各委員は、普通地方公共団体の執行機関ないし執行機関の構成員であり、法令上広範かつ重要な職務権限を有する一方で、重大な義務と責任を負っている。
そのため、本件各委員は、役所等における勤務以外にも、その職責を適切かつ十分に全うするため、各職務に関連した調査及び研究等に相当な時間を費やしている。
以上のような本件各委員の職務実態等を斟酌すれば、本件各委員に月額制の報酬を支給することが社会通念上著しく妥当性を欠くといえないことは明らかである。
したがって、本件規定は地方自治法203条の2第2項に違反しない。
第3当裁判所の判断
1 判断の前提となる事実
以下の事実は、当裁判所に顕著な事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。
(1) 鹿児島県収用委員会の業務について
鹿児島県収用委員会の業務は、土地の収用又は使用に関する調査、審理及び裁決等である(土地収用法60条以下)。
鹿児島県収用委員会の委員は、月1回開催される定例会に出席して、土地の収用又は使用に関し、裁決方針の決定、裁決のために必要な調査及び審理等を行っている。
鹿児島県収用委員会の委員につき、定例会、裁決に必要な調査、審理等に係る出席等の日数のうち同一の日にされたものを1日として算定した平成18年4月から平成21年12月までの各委員の月間の平均登庁実日数(以下、単に「平均登庁実日数」という。)は、1.35日ないし1.8日であった。
また、鹿児島県収用委員会の定例会につき、平成19年4月から平成21年12月までの期間に行われた各回の平均所要時間は、約1時間26分であった。
(当裁判所に顕著な事実、甲第3号証、乙第7号証、弁論の全趣旨)
(2) 鹿児島県労働委員会の業務について
鹿児島県労働委員会の業務は、労働組合の資格審査、鹿児島県内の不当労働行為事件の審査と救済、労使争議の調整(あっせん、調停、仲裁)、労働協約の拡張適用の決議等である(労働組合法5条、11条、18条、20条)。
また、労働委員会は、その事務を行うために必要があると認めたときは、使用者又はその団体、労働組合その他の関係者に対して、罰則による強制の下で、出頭、報告の提出若しくは必要な帳簿書類の提出を求め、又は委員若しくは労働委員会の職員に関係工場事業場に臨検し、業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(労働組合法22条、30条)。
鹿児島県労働委員会の委員は、月2回開催される定例総会に出席して、労働委員会の業務全般に係る承認・審議・報告事項等について審議を行うほか、不当労働行為事件等に関する調査、審問及び事前打合せ等を行っている。労働問題研究会や各種研修会への出席も、委員の職務である。
鹿児島県労働委員会の委員につき、定例総会、事件の調査、審問及び事前打合せ、労働問題研究会並びに各種研修会等に係る出席等の日数のうち同一の日にされたものを1日として算定した平成18年4月から平成21年12月までの各委員の平均登庁実日数は、1.84日ないし2.7日であった。
(当裁判所に顕著な事実、甲第4号証、乙第8号証、弁論の全趣旨)
(3) 鹿児島県選挙管理委員会の業務について
鹿児島県選挙管理委員会の業務は、衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員、県議会の議員及び県知事の選挙の管理(公職選挙法5条)、選挙に関する啓発、周知(同法6条1項)、選挙の効力等に関する異議の申出や審査の申立てに係る業務(同法202条等)、条例の制定又は改廃の請求に係る業務(法74条等)等であり、選挙の管理に係る業務は、選挙人名簿の登録・管理、選挙の告示、開票、当選人の決定等に係る各種事務のほか、選挙運動の規制などにも及ぶ。また、同委員会は、地方公務員法に基づき、その職員の任命等を行う権限も有している。
鹿児島県選挙管理委員会の委員は、月1回開催される定例会及び臨時に開催される臨時会に出席して、選挙や政治団体等に関連する事項について議決、協議等を行っている。選挙関係の用務や各種団体の総会への出席も、委員の職務である。
鹿児島県選挙管理委員会の委員につき、定例会、臨時会、選挙用務、各種団体行事及び県議会等に係る出席等の日数のうち同一の日にされたものを1日として算定した平成18年4月から平成21年12月までの各委員の平均登庁実日数は、1.48日ないし2.91日であった。
(当裁判所に顕著な事実、甲第5号証の1ないし3、乙第9号証、弁論の全趣旨)
(4) 鹿児島県監査委員の業務について
鹿児島県監査委員の業務は、定例監査(法199条4項)及び行政監査(同条2項)等の一般監査、直接請求に基づく監査(法75条)及び議会の請求に基づく監査(法98条2項)等の特別監査、その他住民監査請求(法242条)に基づく監査等である。
鹿児島県監査委員は、委員協議に出席し、業務予定の決定や、決算審査意見書(地方公共団体の財政の健全化に関する法律3条参照)及び住民監査請求等に係る対応の協議を行うほか、鹿児島県内各地の監査対象機関において監査業務を行っている。
鹿児島県監査委員につき、委員協議及び監査等に係る出席等の日数のうち同一の日にされたものを1日として算定した平成18年4月から平成21年12月までの各委員の平均登庁実日数は、5.46日ないし5.67日であった。
(当裁判所に顕著な事実、乙第10号証、弁論の全趣旨)
(5) 法203条の2第2項の改正経緯について
ア 昭和31年法律第147号による改正(以下「昭和31年改正」という。)前の地方自治法は、普通地方公共団体の議会の議員、委員会の委員等の普通地方公共団体の非常勤の職員に対しては報酬及び費用弁償を支給し(同法203条1項、2項)、普通地方公共団体の常勤の職員に対しては給料及び旅費を支給し(同法204条1項)、これらの額及び支給方法については条例で定めることとしていた(同法203条3項、204条2項)。
イ 昭和31年改正において、閣議決定を経て国会に提出された当初の法律案(以下「政府案」という。)は、同改正前の地方自治法203条1項の次に2項として、単に「前項の職員の中議会の議員以外の者に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。」との規定を新設するというものであったが、衆議院地方行政委員会における政府案についての審議では、いわゆる行政委員会の委員を念頭において上記規定を設けることに反対する趣旨の質問が複数の議員からされるなどし、上記規定に「但し、条例で特別の定をした場合は、この限りでない。」とのただし書を加える修正案が議員により提出された。そして、上記修正を加えた内容で地方自治法の一部を改正する法律案が可決されて成立した。
ウ 昭和31年改正によって新設された上記修正後の上記規定は、平成20年法律第69号による改正により、法203条の2第2項として規定されることとなった。
(当裁判所に顕著な事実、弁論の全趣旨)
2 法203条の2第2項の解釈について
(1) 法203条の2第2項ただし書は、普通地方公共団体が条例で日額報酬制以外の報酬制度を定めることができる場合の実体的な要件について何ら規定していない。また、委員会の委員を含め、職務の性質、内容や勤務態様が多種多様である非常勤職員に関し、どのような報酬制度が当該非常勤職員に係る人材確保の必要性等を含む当該普通地方公共団体の実情等に適合するかについては、各普通地方公共団体ごとに、その財政の規模、状況等との権衡の観点を踏まえ、当該非常勤職員の職務の性質、内容、職責や勤務の態様、負担等の諸般の事情の総合考慮による政策的、技術的な見地からの判断を要するものということができる。このことに加え、前記1(5)の昭和31年改正の経緯も併せ考慮すれば、法203条の2第2項は、普通地方公共団体の委員会の委員等の非常勤職員について、その報酬を原則として勤務日数に応じて日額で支給するとする一方で、条例で定めることによりそれ以外の方法も採り得ることとし、その方法及び金額を含む内容に関しては、上記のような事柄について最もよく知り得る立場にある当該普通地方公共団体の議決機関である議会において決定することとして、その決定をこのような議会による上記の諸般の事情を踏まえた政策的、技術的な見地からの裁量権に基づく判断に委ねたものと解するのが相当である。したがって、普通地方公共団体の委員会の委員を含む非常勤職員について月額報酬制その他の日額報酬制以外の報酬制度を採る条例の規定が法203条の2第2項に違反し違法、無効となるか否かについては、上記のような議会の裁量権の性質に鑑みると、当該非常勤職員の職務の性質、内容、職責や勤務の態様、負担等の諸般の事情を総合考慮して、当該規定の内容が同項の趣旨に照らした合理性の観点から上記裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものであるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成22年(行ツ)第300号、第301号、同年(行ヒ)第308号平成23年12月15日第一小法廷判決参照)。
(2) 本件における上記の諸般の事情のうち、まず、職務の性質、内容、職責等については、そもそも収用委員会、労働委員会及び選挙管理委員会等のいわゆる行政委員会並びに監査委員は、独自の執行権限を持ち、その担任する事務の管理及び執行に当たって自ら決定を行いこれを表示し得る執行機関であり(法138条の3、138条の4、180条の5第1項から3項まで)、その業務に即した公正中立性、専門性等の要請から、普通地方公共団体の長から独立してその事務を自らの判断と責任において、誠実に管理し執行する立場にあり(法138条の2)、その担任する事務について訴訟が提起された場合には、その長に代わって普通地方公共団体を代表して訴訟追行をする権限も有する(土地収用法58条の2、労働組合法27条の23、法192条、199条の3等)など、その事務について最終的な責任を負う立場にある。その委員の資格についても、一定の水準の知識経験や資質等を確保するための法定の基準(土地収用法52条3項、法182条1項、196条1項等)又は手続(土地収用法52条3項、労働組合法19条の12第3項、法182条1項、196条1項等)が定められていることや上記のような職責の重要性に照らせば、その業務に堪え得る一定の水準の適性を備えた人材の一定数の確保が必要であるところ、報酬制度の内容いかんによっては、当該普通地方公共団体におけるその確保に相応の困難が生ずるという事情があることも否定し難いところである。そして、本件各委員の業務も、前記1(1)ないし(4)で判示したとおり、重要な事項に関わるものを中心とする広範で多岐にわたる業務であり、公正中立性に加えて一定の専門性が求められるものということができる。
また、勤務の態様、負担等については、本件各委員の平均登庁実日数は常勤の職員に比して少ない日数にとどまるものの、前記1(1)ないし(4)のように広範で多岐にわたる一連の業務について執行権者として決定をするには各般の決裁文書や資料の検討等のため登庁日以外にも相応の実質的な勤務が必要となる上、事件の審理や判断及びこれらの準備、検討等に相当の負担を伴う権利取得裁決及び明渡裁決の申立て(土地収用法39条、47条の3等)、不当労働行為救済命令の申立て(労働組合法27条等)、選挙の効力に関する異議の申出や審査の申立て(公職選挙法202条等)、住民監査請求の申立て(法242条)等の処理については争訟を裁定する権能を有しており、これらの争訟に係る案件についても、登庁日以外にも書類や資料の検討、準備、事務局等との打合せ等のために相応の実質的な勤務が必要となるものといえる。さらに、上記のような業務の専門性に鑑み、その業務に必要な専門知識の習得、情報収集等に努めることも必要となることを併せ考慮すれば、本件各委員の業務については、形式的な登庁日数のみをもって、その勤務の実質が評価し尽くされるものとはいえない。なお、上記の争訟の裁定に係る業務について、一時期は申立て等が少ないとしても恒常的に相当数の申立てを迅速かつ適正に処理できる態勢を整備しておく必要のあることも否定し難いところである。
以上の諸般の事情を総合考慮すれば、本件各委員について月額報酬制を採りその月額を別紙報酬目録記載のとおりとする旨を定める本件規定は、その内容が法203条の2第2項の趣旨に照らして特に不合理であるとは認められず、県議会の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとはいえないから、同項に違反し違法、無効であるということはできない。
第4結語
以上によれば、原告両名が被告に対し法242条の2第1項1号に基づき本件各委員に対する別紙報酬目録記載の報酬に係る公金の支出の差止めを求める本訴各請求は、全て理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧賢二 裁判官 和波宏典 松原平学)
(別紙)報酬目録<省略>