鹿児島地方裁判所 平成8年(わ)231号 判決
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、分離前の相被告人原口三郎、濵畑康正、高原博喜、朝木正生らと共謀の上、被告人の実父西岡嘉四雄が平成六年四月二三日死亡したことに基づく被告人の相続財産に係る相続税を免れることを企て、共同相続人全員分の正規の課税価格が総額一二億六二八一万九〇〇〇円で、これに対する相続税額は総額二億一八七八万三四〇〇円であり、このうち被告人の正規の課税価格は九億九四二五万四〇〇〇円で、これに対する相続税額は二億一四七八万〇八〇〇円であるにもかかわらず、被相続人西岡嘉四雄が、分離前の相被告人原口三郎から借入金元本三億円及び利息三億八〇〇〇万円の合計六億八〇〇〇万円の債務を負担していたと仮装した上、同年一二月二六日、鹿児島市易居町一番六号所在の所轄鹿児島税務署において、同署長に対し、相続人全員分の課税価格は総額六億七八四六万八〇〇〇円で、このうち被告人の課税価格は三億三一五五万七〇〇〇円で、これに対する被告人の納付すべき相続税額は六八八万九四〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により右相続に係る被告人の納付すべき正規の相続税額二億一四七八万〇八〇〇円との差額二億〇七八九万一四〇〇円を免れた。
(証拠)
括弧内の番号は検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。
一 被告人の公判供述
一 分離前の相被告人原口三郎の公判供述
一 被告人の検察官調書(乙一ないし七)
一 分離前の相被告人原口三郎の検察官調書(乙一一ないし一三)
一 高原博喜(甲二〇ないし二二)、朝木正生(甲二三、二四)、野下敦祥(甲二五ないし三〇)及び秋山幸彦(甲三五、三六)の各検察官調書謄本
一 廣野峰代(甲三一、三二)、吉留健志(甲三三、三四)、小野譲(甲三七、三八)、西岡律(甲三九)、市川洋子(甲四〇)、小泉幹惠(甲四一)、塩野千寿(甲四二)、生山嘉美(甲四三)及び八木義文(甲四四)の各検察官調書
一 検証調書(甲五ないし七)及び実況見分調書(甲八、九)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲一)、脱税額計算書説明資料(甲二)及び相続税額計算書(甲三)
一 鹿児島市長作成の戸籍謄本(甲四、附票添付)
一 押収してある相続税の申告書等一件書類一綴(甲一〇、平成八年押第五六号の1)、相続税申告書ファイル一冊(甲一一、同押号の2)、債務弁済に関する契約書一枚(甲一三、同押号の4)及び業務委託申込書一枚(甲一四、同押号の5)
(法令の適用)
罰条 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六〇条、相続税法六八条一項、二項
刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科
労役場留置 右改正前の刑法一八条(金一〇万円を一日に換算)
刑の執行猶予 右改正前の刑法二五条一項(懲役刑について)
(量刑事情)
被告人は、平成五年七月ころ、衣料品販売を主たる業務とする株式会社西岡を設立して代表取締役社長に就任し、実父西岡嘉四雄とともに経営に携わってきたが、実父が死亡したことに基づき、同人の遺産を母親、姉、妹らとともに共同相続し、他の相続人から実印と印鑑証明を預かり相続税の申告手続きを任されていたところ、高額になると予想された相続税額の軽減を図ろうと考え、右会社の顧問税理士や同人の兄野下敦祥を通じて、夢工房サンコー株式会社の会長で全国同和連合会会長を自称し、同和団体の圧力を背景にして脱税請負いなどの不正行為をしていた濵畑康正やその配下の高原博喜らを紹介され、同人らに相続税の脱税を依頼して、六億八〇〇〇万円の架空債務を計上した虚偽の相続税申告をし、約二億円余りもの巨額の相続税を免れたものであり、本件は重大で悪質な組織的犯行である。被告人は、国民の納税義務を軽視し自己に課される相続税の軽減を図ることのみを目的として、自ら求めて脱税請負グループに接触し、多額の報酬支払いの条件のもと積極的に脱税を依頼しており、利欲的な犯行動機に酌量の余地はないこと、架空債務の計上という巧妙な不正工作に加え、同和団体を名乗って税務当局に不当な圧力をかけるという態様の甚だ悪質な犯行であること、前記のとおり脱税額が巨額である上逋脱率も約九六パーセントと非常に高いことなどを併せ考えると、被告人の刑事責任は重いというべきである。
しかしながら、被告人は、本件以前は、家業の衣料品販売業に精励し、社会奉仕活動にも取り組むなどまじめに社会生活を営んでおり、古い交通関係の罰金前科以外に犯罪とは無縁の生活をしてきたこと、被告人は、逮捕直後から、深く反省して事実を素直に認め、二度と過ちを繰り返さないことを誓っており、知人の会社役員も監督する旨約束していること、本件相続に関して、被告人を含めた相続人間で改めて遺産分割協議を行い、総額で、相続税の追徴額約六八〇〇万円、重加算税約二四〇〇万円及び延滞税約八五〇万円の総額一億円余りの課税処理が確定し、被告人は延納の許可を受けていること、本件は報道機関により取り上げられ一定の社会的な制裁を受けていると考えられること等被告人のために酌むべき事情も認められるので、これらの情状を総合考慮して、被告人には主文の刑を科した上、今回に限り懲役刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑・懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円)
(裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 島田一 裁判官 田村政巳)