大判例

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鹿児島地方裁判所 平成8年(わ)245号 1998年2月13日

被告人

氏名

高原博喜

年齢

昭和二六年一〇月二日生

本籍

鹿児島県出水郡野田町上名二七五〇番地

住居

右同所

職業

会社役員

検察官

中尾英明、原山和高

弁護人

桐原洋一(私選)

主文

被告人を懲役二年及び罰金一〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、自己の経営していた会社の倒産により多額の負債を抱えることになり、その返済に苦慮していたところ、平成四年八月ころ、知人から濱畑康正を紹介され、濱畑に右負債について債権者である金融機関との交渉により返済条件を緩和してもらうなど債務整理をしてもらったことから、恩義を感じて濱畑と行動を共にするようになり、平成五年二月、夢工房サンコー有限会社が設立されると、同社の専務取締役に就任し、同社の会長で全国同和連合会会長と自称する濱畑やその配下の者と共謀して、「同和」の名を背景にいわゆる脱税請負や競争入札妨害などの不正行為を繰り返していたものであるが、

第一  西岡岩男、濱畑康正、野下敦祥、麻木正生、原口三郎らと共謀の上、西岡岩男の実父西岡嘉四雄が平成六年四月二三日死亡したことに基づく西岡岩男の相続財産にかかる相続税を免れることを企て、西岡嘉四雄の財産を相続した相続人全員分の正規の課税価格が総額一二億六二八一万九〇〇〇円で、このうち西岡岩男の正規の課税価格は九億九四二五万四〇〇〇円であり、これに対する相続税額は二億一四七八万〇八〇〇円であるにもかかわらず、被相続人西岡嘉四雄が右原口に対して借入金元本三億円及びその利息三億八〇〇〇万円の合計六億八〇〇〇万円の債務を負担していたかのごとく仮装した上、同年一二月二六日、鹿児島市易居町一番六号所在の所轄鹿児島税務署において、同税務署長に対し、相続人全員分の課税価格は総額六億七八四六万八〇〇〇円で、このうち西岡岩男の課税価格は三億三一五五万七〇〇〇円であり、これに対する西岡岩男の納付すべき相続税額は六八八万九四〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により、右相続にかかる西岡岩男の納付すべき正規の相続税額二億一四七八万〇八〇〇円と右申告税額との差額二億〇七八九万一四〇〇円を免れた。

第二  徳田シヅ子、濱畑康正、原口三郎、朝木正生らと共謀の上、右徳田がその所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の実際の平成五年分の分離課税による長期譲渡所得金額が三二〇七万八〇〇〇円で、これに対する所得税額は九六二万三四〇〇円であるにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、右徳田が遠矢純則に対する三〇〇〇万円の保証債務を履行するため右土地を譲渡したがその求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成六年三月一六日、鹿児島県姶良郡加治木町諏訪町一三番地所在の所轄加治木税務署長に対し、分離課税による長期譲渡所得金額が二〇七万八〇〇〇円で、これに対する所得税額は六二万三四〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を郵送して提出し、もって不正の行為により、右譲渡にかかる正規の所得税額九六二万三四〇〇円と右申告税額との差額九〇〇万円を免れた。

第三  柏木カズ子、柏木謙作、濱畑康正、奥薗道明、関孝成及び舛田英二と共謀の上、柏木カズ子がその所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の実際の平成七年度分の分離課税における長期譲渡所得金額が六二三二万六一七六円で、これに対する所得税額は一六五三万三八〇〇円であるにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、柏木カズ子が被告人に対する六二〇〇万円の保証債務を履行するため右土地を譲渡したがその求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成八年三月一四日、鹿児島市易居町一番六号所在の所轄鹿児島税務署において、同税務署長に対し、分離課税における長期譲渡所得金額が三二万六一七六円で、これに対する所得税額は零円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右譲渡にかかる正規の所得税額一六五三万三八〇〇円全額を免れた。

第四  土橋文枝の長男として、同人から、その財産管理・税務申告等を委任されていた分離前の相被告人土橋由幸、同濱畑康正、同御手洗光一、同関孝成及び同舛田英二らと共謀の上、土橋文枝がその所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の平成七年分の実際の総合課税の所得金額が五六二四万三八九五円、分離課税による長期譲渡所得金額が二億五七五五万九〇九〇円で、これに対する所得税額が九七〇二万七二〇〇円であるにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、土橋文枝が被告人に対する三億九〇〇〇万円の保証債務を履行するため右土地を譲渡したがその求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成八年三月一五日、広島県廿日市市桜尾二丁目一番二六号所在の所轄廿日市税務署長に対し、総合課税の所得金額が五六二四万三八九五円で、分離課税による長期譲渡所得金額が一億三〇四四万〇九一〇円の損失であり、平成七年分の所得税額が二一七五万九五〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を郵送して提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額九七〇二万七二〇〇円と右申告税額との差額七五二六万七七〇〇円を免れた。

第五  大城繁盛、濱畑康正、奥薗道明、朝木正生らと共謀の上、大城繁盛の所得税を免れることを企て、沖縄県島尻郡豊見城村字田頭田原所在の右大城所有の土地を国に売却譲渡したにもかかわらず、右土地が右奥薗の所有であるかのごとく装って譲渡収入を除外して所得を秘匿した上、

一  右大城の平成五年分の実際の総所得金額が七五六万三七五三円で、分離課税による長期譲渡所得金額が三億七四二一万〇四一〇円であるにもかかわらず、平成六年三月一四日、那覇市旭町九番地所在の所轄那覇税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が七五六万三七五三円で、分離課税による長期く、平成五年分の所得税額は六一万六七〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行譲渡所得はな為により、同年分の正規の所得税額五六八九万八二〇〇円と右申告税額との差額五六二八万一五〇〇円を免れた。

二  右大城の平成六年分の実際の総所得金額が九四七万四八一四円で、分離課税による長期譲渡所得金額が一億〇一四五万四四〇二円であるにもかかわらず、平成七年三月一四日、前記那覇税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が九四七万四八一四円で、分離課税による長期譲渡所得はなく、平成六年分の所得税額は八五万九六〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一四五二万〇八〇〇円と右申告税額との差額一三六六万一二〇〇円を免れた。

第六  坂田泰司、濱畑康正、朝木正生らと共謀の上、坂田泰司の実父坂田嘉久が、平成五年二月一四日に死亡したことに基づく右坂田泰司及び他の相続人三名(右坂田嘉久の妻坂田美智子、長男坂田佳紀、長女東郷瑛子)の相続財産にかかる相続税を免れることを企て、右坂田泰司らの相続税の正規の課税価格が合計五億三八〇八万二〇〇〇円(坂田泰司分一億〇〇二三万五〇〇〇円、坂田美智子分二億四七八二万二〇〇〇円、坂田佳紀分九五一九万円、東郷瑛子分九四八三万五〇〇〇円)で、これに対する相続税額は合計九九九四万六七〇〇円であるにもかかわらず、一億一〇〇〇万円余りの預金等を右相続財産から除外し、被相続人坂田嘉久が奥薗道明に対して二億五〇〇〇万円の債務を負担していたかのごとく仮装するなどした上、同年九月二八日、福岡市中央区天神四丁目八番二八号所在の所轄福岡税務署において、同税務署長に対し、右坂田泰司らの相続税の課税価格が合計二億一一七五万四〇〇〇円(坂田泰司分三一一二万七〇〇〇円、坂田美智子分一億一〇一〇万四〇〇〇円、坂田佳紀分三〇二七万八〇〇〇円、東郷瑛子分四〇二四万五〇〇〇円)で、これに対する相続税額は合計一一九九万四四〇〇円(坂田泰司分三五二万六八〇〇円、坂田美智子分四七万八五〇〇円、坂田佳紀分三四三万〇一〇〇円、東郷瑛子分四五五万九〇〇〇円)である旨の虚偽の相続税申告書(ただし、同申告書上は、右課税価格を二億一一七五万六〇〇〇円と誤記)を提出し、もって不正の行為より、右相続にかかる正規の相続税額合計九九九四万六七〇〇円(坂田泰司分二五九七万三九〇〇円、坂田美智子分二四七三万〇一〇〇円、坂田佳紀分二四六六万七四〇〇円、東郷瑛子分二四五七万五三〇〇円)と右申告税額との差額八七九五万二三〇〇円を免れた。

第七  青木澄子、濱畑康正、木場英幸、岩本信一、朝木正生らと共謀の上、右青木が、その所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の平成六年分の実際の総合課税の所得金額が一一八万二六九一円、分離課税の長期譲渡所得金額が四七二一万五九〇〇円で、これに対する所得税額は一一九七万五五〇〇円であるにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、右青木が田中英昭に対する四五〇〇万円の保証債務を履行するため右土地を譲渡したがその求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成七年三月一〇日、福岡市早良区百道一丁目五番二二号所在の所轄西福岡税務署において、同税務署長に対し、右青木の平成六年分の総合課税の所得金額が一七四万八五七七円で、分離課税の長期譲渡所得金額が二二一万五九〇〇円であり、これに対する所得税額が五三万六九〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一一九七万五五〇〇円と右申告税額との差額一一四三万八六〇〇円を免れた。

第八  濱畑康正、朝木正生及び分離前の相被告人舛田英二と共謀の上、右舛田が代表取締役をしていた有限会社第一産業及び右舛田らが所有する土地及び建物につき不動産競売開始決定がなされることを予期し、偽計を用いて右土地建物の競売から入札希望者を排除することなどを企て、

一  大分県信用組合からの申し立てにより、平成七年一〇月一八日、大分地方裁判所竹田支部において舛田英二及び舛田英二の父舛田帝が所有する土地(大分県大野郡三重町大字秋葉字中原二九番一等六筆)及び建物(同町大字秋葉字中原二九番地一所在の家屋番号二九番一の居宅等三棟)につき不動産競売開始決定(同支部平成七年(ケ)第一二号事件)がなされるや、同年一二月一五日ころ、あらかじめ作成していた、前記夢工房サンコー有限会社の前身であるサンコープランニング有限会社が前記有限会社第一産業に対して平成二年七月一日に貸し付けた四〇〇〇万円と同年一二月一〇日に貸し付けた六〇〇〇万円を合算した一億円について舛田英二及び舛田帝を連帯保証人とする旨の平成三年四月一日付の内容虚偽の金銭消費貸借契約書一通、及び右土地建物につき賃貸人を舛田英二及び舛田帝、賃借人を夢工房サンコー有限会社とし、一〇年分の賃料及び敷金は右貸付金と相殺すること、賃借権の譲渡及び転貸は自由であることなどを内容とする平成六年四月三〇日付の内容虚偽の土地建物賃貸借契約書一通を大分市荷揚町七番一五号所在の大分地方裁判所執行官菅五郎宛てに郵送した上、平成八年二月二一日、右土地建物付近において、右不動産競売開始決定に基づいてその現況調査に赴いた同執行官に対し、夢工房サンコー有限会社の社員である竹原七男をして、「私は夢工房サンコー有限会社の社員で、夢工房サンコー有限会社が舛田さん親子並びに有限会社第一産業から賃借している三重町所在の不動産の管理をするために会社から派遣されて来ました。」などと申し向けさせるなどし、同執行官をして、右土地建物の現況調査報告書にその旨記載させた上、同年四月三日、大分地方裁判所竹田支部に右報告書を提出させ、もって、偽計を用いて公の競売の公正を害すべき行為をした。

二  大分県信用組合からの申し立てにより、平成七年一〇月一八日、大分地方裁判所竹田支部において前記有限会社第一産業が所有する土地(大分県大野郡三重町大字小坂字柳井瀬四一〇九番一九等四筆)及び建物(同町大字小坂字柳井瀬四一〇九番地二二及び同番地一九所在の家屋番号四一〇九番二二の倉庫等五棟)につき不動産競売開始決定(同支部平成七年(ケ)第一三号事件)がなされるや、同年一二月一五日ころ、あらかじめ作成していた、内容虚偽の前記平成三年四月一日付の金銭消費貸借契約書一通、及び右土地建物につき賃貸人を有限会社第一産業、賃借人を夢工房サンコー有限会社とし、一〇年分の賃料及び敷金は右貸付金と相殺すること、賃借権の譲渡及び転貸は自由であることなどを内容とする平成六年四月三〇日付の内容虚偽の土地建物賃貸借契約書一通を前記大分地方裁判所執行官菅五郎宛てに郵送した上、平成八年二月二一日、前記土地建物付近において、右不動産競売開始決定に基づいて右土地建物の現況調査に赴いた同執行官に対し、前記竹原七男をして、「私は夢工房サンコー有限会社の社員で、夢工房サンコー有限会社が有限会社第一産業並びに舛田さん親子から賃借している三重町所在の不動産の管理をするために会社から派遣されて来ました。現在、三重町大字秋葉に所在する舛田さん親子から借りている住宅に居住しながら本件不動産の管理をしております。」などと申し向けさせるなどし、同執行官をして、右土地建物の現況調査報告書にその旨記載させた上、同年四月三日、大分地方裁判所竹田支部に右報告書を提出させ、もって、偽計を用いて公の競売の公正を害すべき行為をした。

(証拠)

括弧内の番号は検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。ただし、併合前の福岡地方裁判所平成八年(わ)第一一〇一号、第一一六七号事件(当庁平成九年(わ)第一六一号事件)記録中の証拠等関係カード記載の番号についてはアの符号を、併合前の大分地方裁判所平成九年(わ)第一四四号事件(当庁平成九年(わ)第二八四号事件)記録中の証拠等関係カード記載の番号についてはイの符号をそれぞれ付して区別する。

判示事実全部について

一  被告人の公判供述

判示第一の事実について

一  被告人の検察官調書謄本(乙一ないし四)

一  西岡岩男(甲一三ないし一八)、朝来正生(甲一九、二〇)、野下敦祥(甲二一ないし二六)、原口三郎(甲二七、二八)、廣野峰代(甲二九、三〇)、吉留健志(甲三一、三二)、秋山幸彦(甲三三、三四)、小野譲(甲三五、三六)、西岡律(甲三七)、市川洋子(甲三八)、小泉幹惠(甲三九)、塩野千寿子(甲四〇)、生山嘉美(甲四一)及び八木義文(甲四二)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲八ないし一〇)及び実況見分調書謄本(甲一一、一二)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲一)及び相続税額計算書謄本(甲六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(甲二)、有価証券(上場株式及び気配相場のある株式)調査書(甲三)、債務(原口三郎からの借入金等)調査書(甲四)及びみなし犯則課税価格調査書(甲五)

一  戸籍謄本(甲七)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官調査書謄本(乙五)

一  徳田シヅ子(甲四八ないし五〇)、原口三郎(甲五一)、朝木正生(甲五二)、尾花徳仁(甲五三ないし五七)、遠矢純則(甲五八)、木場英幸(甲五九、六〇)及び原口安成(甲六一)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲四五、四六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲四三)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲四四)

一  電話聴取書謄本(甲四七)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官調書謄本(乙六ないし一〇)

一  柏木カズ子(甲六八)、柏木謙作(甲六九ないし七一)、奥薗道明(甲七二ないし七五)、舛田英二(甲七六、七七)、関孝成(甲七八ないし八〇)、木場英幸(甲八一)、武末昌秀(甲八二)及び鬼丸義生(甲八三)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲六四ないし六七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲六二)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲六三)

判示第四の事実について

一  被告人の検察官調書謄本(乙一二ないし一五)

一  木場英幸(甲一〇七、一〇八)、御手洗光一(甲一〇九ないし一一三)、関孝成(甲一一四、一一五)、舛田英二(甲一一六、一一七)、土橋由幸(甲一一八ないし一二三)、重川忠男(甲一二四)、目良嘉明(甲一二五)、塩田和則(甲一二六)、坂口清孝(甲一二七)、中嶋祐弘(甲一二八)、河村治信(甲一二九)、石原茂(甲一三〇)、中間信一(甲一三一)及び高山裕三(甲一三二)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲一〇三ないし一〇五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲一〇一)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲一〇二)

一  電話聴取書謄本(甲一〇六)

判示第五の一、二の各事実について

一  被告人の検察官調書謄本(乙一六ないし二二)

一  大城繁盛(甲一三六ないし一四二)、平良銀勇(甲一四三ないし一四七)、津嘉山善建(甲一四八、一四九)、奥薗道明(甲一五〇ないし一五三)及び朝木正生(甲一五四ないし一五七)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲一五九)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲一三三、一三四)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲一三五)

一  電話聴取書謄本(甲一六〇)

判示第六の事実について

一  福岡地方裁判所平成八年(わ)第一一〇一号、第一一六七号事件(当庁平成九年(わ)第一六一号事件)記録中の第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官調書(乙アの一ないし四)

一  畠山隆(甲アの八)、坂田泰司(甲アの一七ないし二六)、坂田美智子(甲アの二七)東郷瑛子(甲アの二八、二九)、東郷幸治(甲アの三〇)、坂田佳紀(甲アの三一ないし三三)、奥薗道明(甲アの三四、三五)、黒阪亮太(甲アの三六ないし三九)、大神一郎(甲アの四〇ないし四二)、遠矢純則(甲アの四三ないし四六)及び朝木正生(甲アの四七ないし五〇)の各検察官調書謄本

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(甲アの一、二)及び報告書(甲アの三)の各謄本

一  申述書(甲アの九ないし一三)及び証明書(甲アの一四、一五)の各謄本

一  戸籍謄本(甲アの四ないし七、ただし謄本。)

一  捜査報告書謄本(甲アの一六)

判示第七の事実について

一  福岡地方裁判所平成八年(わ)第一一〇一号、第一一六七号事件(当庁平成九年(わ)第一六一号事件)記録中の第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官調書(乙アの五ないし九)

一  青木澄子(甲アの五七ないし六三)、亀山輝也(甲アの六四ないし七八)、田中英昭(甲アの七九ないし八五)、岩本信一(甲アの八七ないし九一)、木場英幸(甲アの九三ないし九七)及び朝木正生(甲アの九八ないし一〇〇)の各検察官調書謄本

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(甲アの五一)、脱税額計算書(甲アの五二)、脱税額計算書説明資料(甲アの五三)及び査察官調査書(甲アの五四、五五)の各謄本

一  捜査報告書謄本(甲アの五六)

判示第八の一、二の各事実について

一  大分地方裁判所平成九年(わ)第一四四号事件(当庁平成九年(わ)第二八四号事件)記録中の第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官調書(乙イの二ないし六)及び警察官調書(乙イの一)

一  高橋薫の検察官調書謄本(甲イの六七)及び警察官調書謄本(甲イの六六)

一  栗田光雄の検察官調書謄本(甲イの六九)及び警察官調書謄本(甲イの六八)

一  舛田帝(甲イの七〇)、菅五郎(甲イの七一)、村尾甫(甲イの七二)、首藤和生(甲イの九六)、緒方勝治(甲イの九七)、竹原七男(甲イの九八)、千年原優(甲イの九九)、廣野峰代(甲イの一〇〇)、朝木正生(甲イの一〇一、一〇二)及び舛田英二(甲イの一〇三、一〇四)の各検察官調書謄本

一  穴南景司(甲イの七四、七五)、首藤節夫(甲イの七七)、堀純二(甲イの七八)、赤嶺雄二(甲イの七九、八〇)、笠村真喜子(甲イの八六)、菅野建二(甲イの八七)、工藤哲郎(甲イの八八)、原口安成(甲イの九〇)及び木場英幸(甲イの九三、九四)の各警察官調書謄本

一  捜査報告書謄本(甲イの一、五七)

一  写真撮影報告書謄本(甲イの五八)

一  捜査関係事項照会回答書謄本(甲イの四)

一  捜査資料入手報告書謄本(甲イの一二)

一  商業登記簿謄本の写し(甲イの三一)

一  登記簿謄本の写し(甲イの三八ないし四六、四八ないし五六)

一  電話聴取書謄本(甲一六一)

(判示第八の競売入札妨害事件について本位的訴因を認定しなかった理由)

一  本件競売入札妨害被告事件(当庁平成九年(わ)第二八四号事件)の本位的訴因は、「舛田英二は、電子部品組立を行う有限会社第一産業の代表取締役であったもの、被告人は、建築工事請負等の事業を行う夢工房サンコー有限会社の取締役であったものであるが、右両名は、同会社会長濱畑康正及び朝木正生と共謀の上、右有限会社第一産業及び舛田らが所有する土地(大分県大野郡三重町大字小坂字柳井瀬四一〇九番一九等一〇筆)及び建物(同町大字小坂字柳井瀬四一〇九番二二及び同番地一九所在の家屋番号四一〇九番二二の倉庫等八棟)につき不動産競売開始決定がなされることを予期し、右土地建物につき賃貸借事実がないのにこれあるように装って、偽計を用いて右土地建物の競売から入札希望者を排除することなどを企て、大分県信用組合からの申し立てにより、平成七年一〇月一八日、大分地方裁判所竹田支部において不動産競売開始決定がなされるや、同年一二月一五日ころ、あらかじめ作成していた右土地建物に関する右第一産業及び舛田らと右夢工房サンコー有限会社との間の内容虚偽の土地建物賃貸借契約書等三通を大分市荷揚町七番一五号所在大分地方裁判所執行官菅五郎に郵送した上、同八年二月二一日、右不動産競売開始決定に基づいて右土地建物の現況調査に赴いた大分地方裁判所執行官菅五郎に対し、右夢工房サンコー有限会社社員竹原七男をして、『私は夢工房サンコー有限会社の社員で、夢工房サンコー有限会社が舛田さん親子並びに有限会社第一産業から賃借している三重町所在の不動産の管理をするために会社から派遣されて来ました。』などと申し向けさせるなどし、同執行官をして、右土地建物の現況調査報告書にその旨記載させた上、同年四月三日、右大分地方裁判所竹田支部に提出させ、もって、偽計を用いて公の入札の公正を害する行為をしたものである。」というものである。

二  ところで、関係証拠を総合すると、右競売入札妨害被告事件においては、不動産競売開始決定が二つなされており(大分地方裁判所竹田支部平成七年(ケ)第一二号及び一三号、以下それぞれ「一二号事件」、「一三号事件」という。)、これら二件の不動産競売手続について被告人らが公正を害すべき行為をしたものであるところ、検察官は、被告人らの行為につき包括的に一罪が成立するとして、前記本位的訴因を主張し、予備的に、各競売手続ごとに一罪が成立し、両者の関係は併合罪であるとして、判示第八の一、二と同趣旨の訴因を主張した。

三  そこで検討するに、競売入札妨害罪は、公務の執行を妨害する罪の一つであり、公の競売または入札の公正がその主な保護法益であるから、公の競売または入札の手続ごとに一罪が成立すると解するのが相当である。

そして、本件では、被告人らは、各競売手続ごとに内容虚偽の不動産賃貸借契約書を作成しており、被告人らの犯意も二つの競売手続に向けられていると解されること、現況調査の際に執行官に対して虚偽の説明をなした点についても、本件では各競売手続ごとに目的不動産が地理的にまとまって存在しており、しかも一二号事件の目的不動産と一三号事件の目的不動産との距離が相当離れており、被告人らはそれぞれの目的不動産の所在地で執行官に応対していることなどの点を併せ考慮すると、右各競売妨害行為について包括的に一罪が成立すると解するのは相当ではない。

四  よって、本件競売入札妨害被告事件については、各競売手続ごとに一罪が成立し、両者の関係は併合罪であると解すべきであるから、右本位的訴因を認定せず、予備的訴因を認定した。

(法令の摘要)

罰条 判示第一及び第六の各行為につき

いずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)六〇条、六五条一項、相続税法六八条一項

判示第二、第五の一、二、第七の各行為につき

いずれも改正前の刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項

判示第三、第四の各行為につき

いずれも刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項

判示第八の一、二の各行為につき

いずれも刑法六〇条、九六条の三第一項

科刑上一罪の処理 改正前の刑法五四条一項前段、一〇条(判示第六の各相続税法違反は、一個の行為で四個の罪名に触れる場合であるから、一罪として最も犯情の重い坂田美智子の相続税ほ脱分に対する罪の刑で処断)

刑種の選択 判示第一ないし第七の各罪につき

懲役刑及び罰金刑を選択

判示第八の一、二の各罪につき

懲役刑を選択

併合罪の加重 懲役刑につき

前記附則二条二項前段、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき

前記附則二条二項前段、刑法四五条前段、四八条二項

未決勾留日数の算入 前記附則二条三項、刑法二一条(懲役刑について)

労役場留置 前記附則二条三項、刑法一八条

(量刑の理由)

本件は、被告人が、いわゆる脱税請負グループを組織し全国同和連合会会長と自称する濱畑康正やその配下の者及び納税義務者らと共謀して、被相続人が多額の債務を負っていたかのように仮装して多額の相続税を免れ(判示第一及び第六の各犯行)、あるいは架空保証債務を計上し、納税義務者がこれを履行するために土地を譲渡したがその求償が不能になったなどと虚偽の所得税確定申告をして多額の所得税を免れるという(判示第二ないし第五の一、二及び第七の各犯行)脱税行為を繰り返したほか、さらに、脱税請負グループの一員である舛田英二の経営する会社などが所有する不動産の競売から入札希望者を排除することなどを企て、濱畑やその配下の者らと共謀して、内容虚偽の不動産賃貸借契約書を作成するなどの偽計を用いて公の競売の公正を害すべき行為をした(判示第八の一、二の各犯行)という事案であるが、いずれも組織的、計画的犯行であって犯情ははなはだ悪質である。

被告人は、夢工房サンコー有限会社を濱畑らと共に設立し、以来、濱畑らと共に、いわゆる脱税請負などの不正行為を組織的、継続的に行ってきたものであるが、本件各犯行にはいずれも報酬を得る目的で関与しており、その利欲的な動機に酌量の余地はない。被告人は、脱税請負グループの中では主犯の濱畑に次ぐ地位にあり、濱畑の側近として、本件各犯行全般にわたって濱畑の指示を他の共犯者らに伝えるなどの連絡調整を行ったほか、共犯者らに報酬を分配したり、脱税の依頼などの情報の伝達経路をある程度整備することもしており、本件一連の犯行において被告人の果たした役割は大きい。さらに、本件脱税事件によるほ脱額は合計四億七八〇〇万円を超えており、巨額である上、ほ脱率がいずれも高率であること、被告人は、本件各犯行により合計二六〇〇万円余りの多額の報酬を得ていることなどの事情も考慮すると、その刑事責任は重大である。

そうすると、他方、本件各犯行の主犯格は濱畑であり、同人が犯行の主要部分を決定し、被告人らに指示していたこと、被告人は、濱畑に恩義を感じていたことから、同人の指示に従わないことは心情として困難な一面もあったこと、捜査段階から事実関係について率直に供述しており、事案の真相解明に寄与したと考えられること、本件を深く反省し、今後は二度と過ちを犯さないことを誓っていること、被告人に犯罪歴がないこと、本件により相当期間身柄を拘束され、また、離婚を余儀なくされるなど一定の社会的制裁を受けていることなど被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、なお主文の刑は免れないものと判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・懲役三年六月及び罰金一〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 牧真千子 裁判官 中桐圭一)

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