鹿児島地方裁判所 昭和22年(ワ)194号 判決 1948年3月09日
鹿兒島縣伊佐郡本城村川南千九十三番地
原告
山下景雄
右訴訟代理人辯護士
松尾榮一
鹿兒島縣伊佐郡本城村
被告
本城村農地委員会
右代表者同委員会長
堂山東
鹿兒島市山下町鹿兒島縣廳内
被告
鹿兒島縣農地委員会
右代表者同委員会長
重成格
右訴訟代理人辯護士
栗脇盛吉
右當事者間の昭和二十二年(ワ)第一九四号農地買收に関する不服申立について當裁判所は次のように判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担。
事実
原告訴訟代理人は「被告等は別紙目録記載の土地に対する自作農創設特別措置法に基づく農地買收計画を取り消すこと、被告等は右土地を賣渡計画に編入しないこと、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として「右土地は大正五年原告の先代山下助次郞が鹿兒島縣伊佐郡菱刈町居住の訴外嶽崎種好に買戻約款付きで賣り渡して居たものだが、助次郞の相続人たる原告は昭和十八年五月十日之を種好から買戻し昭和二十二年十月二十一日同人から其の所有権移轉登記を受け現在訴外森田榮吉及び濱友太郞に賃貸小作せしめて居るものである。然るに被告本城村農地委員会は昭和二十二年六月九日右土地は種好の所有番で、同人は之を他人に小作せしめて居り、同人は所謂不在地主だからと云ふことで之を自作農創設特別措置法に基づく同村の農地買收計画に編入し、被告鹿兒島縣農地委員会は昭和二十二年七月二日之を承認した。然し、前記の通り右土地は原告の所有であつて、種好の所有ではないのだから被告等の右処置は事実の誤認に基づく違法な処分と謂はなければならない。それで之に対する救済方法として前記の樣な判決を求める爲に本訴に及んだ次第である」と陳述し、立証として甲第一、二、三号証を提出した。
被告鹿兒島縣農地委員会訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答辯として「原告主張事対中原告主張の曰原告が其の主張の土地に付所有権移轉登記を受けたこと、訴外嶽崎種好が鹿兒島縣伊佐郡菱刈町に居住して居ること、右土地は現に訴外森田榮吉及び濱友太郞に於いて賃借小作して居ること。原告主張の曰被告本城村農地委員会が右土地を原告主張の樣に買收計画に編入したこと及び原告主張の曰被告鹿兒島縣農地委員会が原告主張の樣に右買收計画を承認したことは認めるが、其の餘の事実は爭ふ。被告等が前記の樣に処理した當時は右土地は公簿上種好の名義に登載されて居たものであるから、原告は被告等に対しその所有権を以つて対抗出來ないものであり、被告等の右処理は決して違法なものではないのであつて原告の本訴請求は失當である」と陳述し甲第一号証は不知、同第二、三号証は成立を認めると述べた。
被告本城村農地委員会代表者は適法な呼出を受けたのに本件口頭辯論期日に出頭せず且つ答辯書其の他の準備書面も提出しなかつた。
理由
原告主張の曰被告本城村農地委員会が本件土地を買收計画に編入したこと及び原告主張の曰被告鹿兒島縣農地委員会が原告主張の樣な承認を與へたことは原告と同被告間に爭がなく、被告本城村農地委員会に於いても亦明らかに爭はないところである。そこで被告等の右処分が果して違法と認められるか否かに付いて考察すると同処分のあつた當時右土地の所有者は登記簿上訴外嶽崎種好となつて居たこと、同人が鹿兒島縣伊佐郡菱刈町に居住して居ること及び右土地は現に訴外森田榮吉及び濱友太郞に於て小作中であることは原告の自認するところである。して見れば原告は被告等のの前記処分當時右土地の所有権を以つて被告等に対抗することは出來なかつた譯であり、被告等が右土地を所謂不土地主が他人に賃貸小作せしめて居るものだと認めて右の樣な処分をしたのは洵に相當であつて、何等違法な点はないと謂はなければならず、原告の本訴請求は失當だから訴訟費用については民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する次第である。
目録省略