鹿児島地方裁判所 昭和23年(行)6号 判決 1948年3月23日
鹿児島県川辺郡知覧町郡百八番地
原告
朝隈兼宏
右法定代理人親権者母
朝隈典子
鹿児島県川辺郡知覧町
被告
知覧税務署長
右指定代表者大蔵事務官
垣花泰正
右当事者間の不法な相続税課税に対する不服の訴に付て当裁判所は次の通り判決をする。
主文
原告の訴は之を却下する。
訴訟費用は原告の負担
事実
原告法定代理人は
「被告が原告の父朝隈兼周に対し相続税課税額を金十万一千百円と査定した決定は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」
との判決を求め
その請求原因として
「原告の祖父朝隈武五郎は昭和二十年十一月一日隠居し、原告の父朝隈兼周に於て其の家督を相続したが同人は昭和二十二年六月十一日死亡し、其の長男たる原告等においてこれが遺産を相続した。ところが武五郎の隠居に際し、記名公債証書及び登記済の不動産等を留保していた。尤も右留保は確定日附のある証書を以てした訳ではない。それと言うのも、同人は別に居所を定めて居たことでもあり、此の種の財産の留保に付ては、其の様な手続を履まなくともよいと考へたからである。然るに被告は昭和二十二年十二月二十三日兼周の相続税課税額を金十万一千百円と決定した。然しこれは右財産留保の事実を無視した決定で違法なものだから其の取消を求める為に本訴請求に及んだ訳である。」
と陳述し
被告の抗弁に対し
「原告等が被告主張の日其の主張のような審査請求をしたことは認める」
と述べ
立証として
甲第一号証を提出した。
被告指定代表者は
先ず本案前の抗弁として
主文と同趣旨の判決を求め
其の理由として
「抑も相続税課税額の決定に対する不服の行政訴訟は財務局長宛に審査の請求を為し、其の審査決定を経た後でなければ提起し得ないことは相続税法第五十条の規定に徴し明らかなところである。然るに本件に関しては原告等に於て昭和二十二年十二月二十七日被告に対し異議申立をしたので被告は便宜之を審査の請求があつたものとして取扱い現に熊本財務局においてこれが審査中であつて、未だ其の決定を見るに至つていないので本訴の提起は手続に違背したものと謂はねばならず、従つて原告の訴は却下さるべきものである。」
と陳述し
本案に付
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決を求め
答弁として
「原告の主張事実中相続関係が原告主張の通りであること及び被告が原告主張の日其の主張の様な相続税額を決定したことは認めるが、其の余の事実は争う。財産の留保は確定日附ある証書を以てしなければ其の効力がないことは民法第九百八十八条の規定によつて明らかなところなので被告は屡々原告に対し若し財産留保の事実ありとせば、之に付いての確定日附ある証書の提示ある様催告したけれども、原告は之に応じなかつたので、被告は財産留保の事実なしと思料して前記の様な税額を決定したのであつて、被告の該決定には何等違法な点はないので本訴請求は失当である。」
と陳述し
甲第一号証の成立を認めた。
理由
先ず被告の本案前の抗弁の当否について考察すると日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律第八条の規定によれば、行政訴訟の対象となる行政処分に付いては何等限定するところがないけれども右憲法施行後に実施された法律中に行政処分に対する不服の申立の方法につき規定がある場合には、同法律所定の不服の申立をした後でなければ行政訴訟は提起し得ないものと解するのが相当である。そして右憲法と日を同じくして施行された相続税法に依れば相続税課税額の決定に対する不服の申立は先ず政府に対し審査の請求を為し,其の審査決定に不服あるときは、更に訴願又は訴訟を為し得ること其の第四十八条第五十条の規定の趣旨に徴して明かなところである。
之を本件に付いて見ると、被告が原告主張の日其の主張の様な相続関係に基いて其の主張の様な相続税額を決定し被告主張の日原告から被告主張の様な審査の請求のあつたことは当事者間に争がなく又此の請求に対しては政府に於て目下其の審査中であることも原告の明らかに争はないところである。して見れば原告の本訴提起は前記相続税法の規定に違背して居ることが明らかであつて本訴は不適法だから、これを却下することとし訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する次第である。
(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 河野友為 裁判官 龍岡資久)