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鹿児島地方裁判所 昭和29年(行モ)3号 決定

「鹿児島市南林寺町四十二番(現在同町一番の二六四、二六五、二六七)の宅地は、鹿児島市の所有であつたところ、申立外北原勝二は、右宅地のうち八十八坪を同市から賃借していたので、申立人は昭和十年頃から右宅地上に建築してあつた右北原所有の建坪十二坪の家屋を賃借居住していたが、昭和二十年七月十七日の空爆により右家屋は全焼した。そこで申立人は昭和二十一年初頃右北原に相談した結果、右宅地八十八坪のうち四十二坪の借地権を譲り受けて市当局にその旨を通知した。すなわち、申立人は罹災都市借地借家臨時処理法第二、三、四条の規定に基づき右宅地四十二坪の賃借権を取得した次第である。その後申立人は鹿児島市の許可を得て右宅地に本件建物を建設し、次いで、同年十月被申立人に対して借地権の権利指定に関する届出をした。被申立人は特別都市計画の施行者として、申立外桑水流正之助の換地予定地として最初同市南林寺町一番の二六六(ブロツク第二九号)の土地を指定していたが、申立外北原勝二が勝手に右地上に家屋を建築したため右両者間に紛争が起きたところ、被申立人は右桑水流に対する換地予定地の指定を変更し、昭和二十四年六月十二日申立人が借地権を有する宅地を含む同市南林寺町一番の二六四、二六五、二六七(ブロツク第二九号)土地面積百六十五坪二合七勺を指定し、申立人に対しては換地予定地を指定せずして、昭和二十九年十月十九日に本件建物除却の行政代執行をすべき旨を通告して来た。しかしながら右代執行は特別都市計画法第十五条第二項、第十三条第一項の規定に違反することは明白である。よつて申立人は事態が緊急で訴願の裁決を経る暇もないままに被申立人を被告として行政代執行命令取消の訴を御庁に提起した(当庁昭和二十九年(行)第七号行政代執行命令取消請求事件)ものであるが、右代執行を強行されるときは換地予定地の指定も受けていない申立人としては、償うことのできない損害を受ける虞があり、右損害を避けるため緊急の必要があると認められるので、本案判決確定に至るまで代執行を停止する旨の決定を求めるため本申立に及んだ」と述べ、

被申立代理人は意見として、「申立外北原勝二が鹿児島市から賃借していた土地は鹿児島市南林寺町一番の二六四、二六五、二六七ではなくて同町一番の二六六であり、又その坪数は八十八坪ではなくて八十一坪九合であるが、申立人が右土地上に建設してあつた北原所有の建物を賃借居住していた事実、右建物が空爆により焼失した事実は認めるけれども、同土地中四十二坪について申立人が北原から借地権を譲受けた事実、被申立人に対して該譲受の通知をした事実はない。従つて申立人が右土地について賃借権を取得するいわれはなく、又申立人は本件建物を建築するについて鹿児島市の許可を得ていると称するが、右は建築工事着手届に過ぎずその敷地の使用権の有無とは関係のないものである。又申立人から被申立人に対して賃借権に関する権利指定の届出がなされた事実もないのである。次に被申立人が申立人に対し昭和二十九年十月十九日に申立人所有の本件建物について除却の代執行をすべき旨を通知した事実は認めるが、その経緯は次のとおりである。被申立人は訴外桑水流正之助に対して本件土地を換地予定地として指定し、その使用開始日を昭和二十四年六月十二日と定めた(同人に対する換地予定地を変更した事実はない。)ので、昭和二十五年八月二十日に本件建物に対する除却命令を発し、右命令書は同月二十二日に申立人に送達され、右命令に基づく行政代執行令書は昭和二十七年三月十一日に発せられて同月二十二日に申立人に送達されたが、その執行は数次延期されて今日に及んでいるものであつて、前記代執行をすべき旨の通知も右行政代執行令書に基ずくものである。しかして、申立人が本件土地に対する借地権を有せず、かつ、被申立人に対して借地権に関する権利指定の届出をしていないことは前叙のとおりであるから、被申立人は申立人に対して換地予定地を指定する義務はなく、換地予定地を指定せずしてなされた右除却命令乃至行政代執行令書には何等違法の点はない。従つてこの点を前提とする申立人の本件申立は失当として却下さるべきである。そればかりではない。(1)申立人は本訴を提起するにつき、事態が緊急で訴願の裁決を経るの暇がなかつたと主張しているが、前述の如く本件建物に対する除却命令は昭和二十五年八月二十日に発せられて同月二十二日に申立人に送達され、又右命令に基づく行政代執行令書は昭和二十七年三月十一日に発せられて同月二十二日に申立人に送達されているのであるから、今日に至る間に充分訴願をする余裕があつたのにこれを怠つたものというべく行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる訴願の裁決を経ないことにつき正当の事由があるということができず結局右本訴は不適法となるから、本件申立も却下を免れない。(2)行政事件訴訟特例法第十条により行政処分の執行が停止せられるためには、処分の執行によつて生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認められる場合でなければならないが、本件代執行により仮に損害が生ずるとしても、その損害は金銭賠償をもつて償うことができるものであるから、同条にいわゆる償うことのできない損害に該当しないばかりでなく、本件建物に対する代執行令書は前記日時に発せられて今日に至るまで満二年数ケ月を経過しているのであつて、その間に本件本訴及び処分執行停止決定申立は提起し得たのであるから、同条にいわゆる損害を避けるため緊急の必要がある場合にも該当しないものである。(3)被申立人は、本件土地について換地予定地の指定を受けた桑水流正之助に対しては、その使用開始の日である昭和二十四年六月十二日から、右土地を使用収益し得る状態に置く義務があるところ、申立人が被申立人の除却命令に応ぜず本件土地を占有しているため右義務を履行することができず従つて右桑水流に対しては損害を補償しなければならない。(4)申立人の如く被申立人の除却命令に応ぜず右命令に基づく行政代執行令書が発せられてから満二年余も他人に指定された換地予定地を占有して建物を除却しないということは、土地区画整理上一般に悪い影響を及ぼしその進捗を阻害するに至るものであるから、戦災復興のための特別都市計画という公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞がある。以上の次第であるから本件申立は却下さるべきである。」と述べた。

よつて判断するに、行政事件訴訟特例法第十条により処分の執行を停止するのは、当該処分の執行により生ずべき償うことのできない損害を避けるために緊急の必要があると認められる場合に限り、許さるべきものであるところ、当事者提出の疎明資料及び申立人、申立代理人、被申立代理人各審尋の結果を綜合すれば、被申立人に対し昭和二十五年八月二十日に本件建物の除却命令を発し、右命令書は同月二十二日に申立人に送達され、右命令に基づく行政代執行令書は昭和二十七年三月十一日に発符されて同月二十二日に申立人に送達されたがその執行は数次延期されて来たものであつて最近においては昭和二十九年十月十九日に右行政代執行令書に基づく執行をすべき旨の通知がなされたものであることが明かであるから、申立人としては右除却命令乃至行政代執行令書の発符に対し、その処分の取消又は変更にかかる訴訟を提起してその執行の停止を求むべき充分の余裕があつたのにかかる手段を採ることなく時日を空費して今日に及んだというの外なく、若し本件執行により損害を生ずるとしても、申立人が右損害を避けるために緊急の必要を有するものとは到底認めることができない。又本件の如き場合に執行を停止すれば、除却命令乃至行政代執行令書を軽視する風潮を助長し延いては戦災都市の復興を図る特別都市計画の進捗を阻害することにもなり公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞もあるわけである。

以上の次第であるから、本件申立は失当として却下すべきであり申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 森田直記 小出吉次 緒方誠哉)

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