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鹿児島地方裁判所 昭和30年(行)4号 判決 1955年10月27日

原告 小川季春 外四名

被告 鹿児島県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告が原告等の代表者小川季春に対して昭和二十九年十一月一日付指令二九第二九四号の五で免許した定置第五十六号漁業権の存続期間につき、昭和二十九年十一月一日から昭和三十一年八月三十一日まで、とあるのを、昭和二十九年十一月一日から昭和三十四年十月三十一日まで、と変更する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「定置第五十六号漁業権(以下本件漁業権という)は、漁業法(以下法という)の定めに従い鹿児島県公報でその免許内容等が公示されたが、その存続期間は五年とされており、今なお変更されてはいない。しかして、右公示の申請期間中原告等(代表者小川季春)、訴外浦内漁業協同組合および同梶原某の各免許申請があり競願となつたが、被告は原告等と梶原某との申請を拒否し、浦内漁業協同組合にこれを免許した。そこで原告等は農林大臣に訴願し、浦内漁業協同組合への免許を取り消して原告等に免許する旨の裁決を求めた後、御庁に原処分の取消請求訴訟を提起(昭和二十六年(行)第八号事件)し昭和二十九年七月六日に原告等勝訴の判決を得、該判決はその当時確定した。その結果被告は原告等と訴外梶原某との当初の免許申請につき、北薩海区漁業調整委員会(以下委員会という)に諮問したうえ、原告等に対して前記漁業権を免許したのであるが、その存続期間については、これを五年としないで、前記のとおりわずか二漁期間としたので、原告等は昭和二十九年十二月十五日に農林大臣に訴願し、存続期間を五年とするように変更を求めたが、その後三カ月を経過し、今日に至つてもまだ裁決がなされない。ところで、漁業権の存続期間は権利の重要な要素であるから、法第十一条にいう「免許の内容たるべき事項」に該当し、これを変更する場合には同条第二項、第四項により都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見をきいてこれを公示しなければならないのにかかわらず、被告は本件漁業権につき最初その存続期間を五年と公示したまま、その短縮については委員会の意見をきいておらず、またこれを公示していないのであるから、該漁業権は公示どおり五年の存続期間をもつて免許されなければならない。なお、同法第二十一条第一項の期間延長については、同条第三項において海区漁業調整委員会の意見をきくことが要求されているのに、同条第五項の期間短縮については直接かかる規定がないのであるが、この短縮には「漁業調整のため必要な限度」という条件が付されているのであるから、漁業調整を使命とする海区漁業調整委員会が存在する以上、当然この場合にも、その必要の有無と限度とについて同委員会の意見をきかなければならないものであつて、この場合においては右第五項によつて法第十一条の適用が排除されると解するのは不当である。現に、鹿児島県告示第五百三十一号によれば、本件漁業権についての法第十一条第四項の公示にその存続期間を五年と掲げてあり、また昭和二十六年二月二十八日付農林省水産庁長官名義で出された各知事宛「漁場計画の公聴会並びに公示に関する件」と題する書面によれば、法第十一条第三項により公示すべき事項として指示された事項のなかにも存続期間の一項目が含まれているのであつて、かかる点からみても存続期間は法第十一条第一項の免許の内容たるべき事項に該当するものと解するのが相当である。」と陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、本訴は行政処分の変更を求めるものであり、恩給の増額を求めるのと同様裁判所の権限として審判されるべき事項であるからこの点についての被告の抗弁は失当である。と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、本案前の抗弁として、「被告が本件の免許において漁業権の存続期間を短縮したのは、後記のとおり海区内の漁場の総合利用計画に基づく調整の必要から、法律で与えられた特権の発動を余儀なくされたからである。もし原告の請求どおりこれが変更されることとなれば、次期の漁業計画に著しい混乱をきたすことが予想されるのであつて、かかる特殊の行政行為に対して積極的変更をなすことは裁判権の限界を超脱するものというべきであるから、本件訴は不適法である。」と陳述し、本案につき、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告等の主張する事実は認めるが、その法律的見解は不当である。すなわち、原告等主張の鹿児島県告示第五百三十一号には本件漁業権の存続期間を五年とする旨の記載があるが、これは、法第十一条にいわゆる「免許の内容たるべき事項」として記載したのではなく、法第二十一条第一項の規定に従い本件漁業権の存続期間が昭和二十六年九月一日から昭和三十一年八月三十一日までである旨を表示したものである。法第二十一条第一項の期間の延長については同条第二項、第三項に従つて処理しなければならないが、その第五項において都道府県知事は漁業調整のため必要な限度においてはこれを短縮しうる特別の権限を与えられており、かつこの場合に法律は海区漁業調整委員会の意見をきくことを要求していないのであるから、都道府県知事は右の特別の権限に基づき単独でこれを短縮できるものと解すべきである。かりに存続期間は「免許の内容たるべき事項」に属するとしても、都道府県知事は、漁業調整のため必要な限度においては、法第十一条所定の手続によらないでこれを短縮できるものと解すべきであつて、法第二十一条第五項はこの点における法第十一条の適用を排除しているものである。わが漁業法は、その第一条において、水面の総合的利用により漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする旨を宣言している。これがために、昭和二十六年八月に旧漁業法による漁業権は一せいに消滅せしめられ、新漁業法に基づいて総合的な漁場計画が樹立され、各種の漁業権が免許されたのである。しかしてこの漁場計画は定置漁業権の存続期間を原則として五年と定めたのであるが、これは、一定海区内の同種の漁業権を五年目毎に同時に発足させるとともに、同時に消滅させ、五年を一期として海区内の漁場の総合的利用計画を遂行しようとするものである。鹿児島県下における定置漁業は一様に昭和二十六年に発足し、昭和三十一年度をもつて終了する五年を一期として計画されているのであつて、もしこの終期を不同にすると、次期の新規漁場計画に支障をきたし、水面の総合的利用を阻害する結果を生じ、漁業法改革の目的をざ折させるおそれがあるのである。本件は、漁場計画年次の中途で免許が取り消され、新たに免許をし直さなければならなくなつた場合であるが、かゝる場合においても法第二十一条第一項に定められた期間のままに免許するときは、本件漁業権だけが次期年度にわたつて残存することとなり、次期の漁場計画に支障をきたすこととなるので、ここに被告は本件の免許にあたり、漁業調整のためその終期を、すでに免許されている他の同種の漁業権と合致させる必要から、前記の特別な権限に基づき、存続期間を二漁期に短縮して免許したのであつて、これを違法とする原告の主張は理由がない。」と陳述した。(立証省略)

理由

本件訴旨が被告が原告等に対して免許した本件漁業権の存続期間につき、昭和二十九年十一月一日から昭和三十一年八月三十一日までとあるのを、実質的に更に三年二カ月を追加延長して昭和三十四年十月三十一日までと変更することを求めるものであることは、原告等の主張自体によつて明らかである。

しかしてかかる変更をする権限が本来行政庁に属することは明らかであるところ、裁判所においてもまた、かかる変更の権限を有するか否かの点については議論の存するところではあるが、当裁判所は三権分立の建前上、法令に特別の規定がない限り、裁判所は単に違法な行政処分についてこれを取り消すかまたはその一部取消の性質を有する変更をなしうるにとどまり、行政庁に対して積極的に行政処分を命じたり、あるいは自らこれに代わる裁判をしたりすることはできないものと解するから、特別の規定のない本件では、裁判所は原告の求めるような趣旨の判決をする権限を有しないものといわざるを得ない。

よつて本件訴はこれを不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森田直記 山本茂 永井登志彦)

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