鹿児島地方裁判所 昭和47年(ワ)158号 判決 1975年2月20日
原告 株式会社サンライト
右代表者代表取締役 柳田喜八郎
右訴訟代理人弁護士 池田
同 松村仲之助
被告 鹿児島綜合警備保障株式会社
右代表者代表取締役 荒武禎年
右訴訟代理人弁護士 村田継男
主文
一、被告は原告に対し、金一二五万六、六二〇円およびこれに対する昭和四七年五月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
(一) 被告は原告に対し、二三三万三、七九二円およびこれに対する昭和四七年五月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および第一項につき仮執行の宣言。
二、被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(一) 原告は鹿児島市郡元町二、四八三番地においてサンライトボウルと称するボーリング場を経営するものであり、被告は警備保障を業とするものである。
(二) 原告は昭和四五年一二月九日被告との間で、次のような警備に関する契約をした(以下「本件警備契約」という)。
1 警備の対象と範囲
前記サンライトボウルの建物(以下「本件建物」という)ならびにその敷地内。
2 警備内容
被告は火災、盗難、その他の事故を未然に防止し、かつ不法行為者、不法侵入者、その他不審者を発見、排除し、警察への通報、連絡等を行う。
3 警備方法
(1) 常駐警備
被告は午後八時から翌朝九時までサンライトボウルに警備士一名を常駐させ、常駐警備士は本部統制指令室および巡回機動隊員と緊密な連絡を保ちながら定期巡回を実施して任務を遂行する。
(2) 機動巡回警備
本部統制指令室と緊密な連絡を保ちながらパトロールカーによる巡回を不定期に実施して任務を遂行する。
(3) 本部巡察
本部巡察隊が不定期に巡回し、常駐警備士の指導監督に当るとともに、自らも警備任務を遂行する。
(4) 緊急警備
火災、盗難等の緊急事態が発生し、警備力を集中する必要がある場合は、他の機動隊、巡察隊、予備隊を動員し、関係機関にも通報連絡のうえ、協力して犯人の逮捕、施設の防衛等強力な警備を実施する。
4 事故発生時の処置
事故が発生した場合は、警備士は現場において犯罪行為の制止、火災の初期消火に当り、適切な処置をとるとともに、原告指定の責任者、被告会社本部、警察、消防署等へそれぞれ報告するものとする。
5 損害賠償
被告の責に帰すべき事由により本件警備物件に生じた事故に基く原告の損害については、被告はその賠償の責を負う。また、警備実施中被告の責に帰すべき事由により生じた第三者の身体ならびに財産上の損害については、原告がその賠償の責に任ずることとするが、被告は原告が第三者に支払う右賠償金を補償するものとし、被告の負担すべき右損害賠償および補償の限度額は、財産上の損害については右双方を合わせ一事故につき三、〇〇〇万円とする。
(三) 昭和四七年一月一七日午前三時三〇分から午前四時三〇分までの間、二人組の賊が本件建物北側のレストラン入口の錠を破壊して侵入し、原告会社従業員用食堂兼休憩室(以下「警備員室」という)にいた常駐警備士の訴外正込利治に短刀を突きつけ、麻縄で同人の手足を縛り上げ口に猿轡をして、同人のズボンのポケットから鍵束を奪い取ったうえ、売上金を保管してあった事務室の耐火書庫二個のうち、一個をバールのようなもので損壊し他方を前記鍵で開けて、右金庫の中にあった売上金等を奪って逃走した(以下「本件事故」という)。
(四) 右賊の侵入により、原告は次のとおり合計二六三万三、七九二円の損害を受けた。
1 現金 二三四万七、六二〇円
耐火書庫の中から奪われたもので、その明細は、別紙(一)現金損害額内訳表記載のとおりである。
2 物損 七万五、八〇〇円
(1) レミントン耐火書庫 七万三、〇〇〇円
(2) レストラン入口錠 二、八〇〇円
いずれもバールのようなもので破壊されその効用を滅失したもの。
3 逸失利益 二一万〇、三七二円
原告は、本件事故が発生した昭和四七年一月一七日(月曜日)は、警察の捜査等のため午後四時ころまで休業を余儀なくさせられ、同日の売上額は三七万九、六九〇円であった。ところで、原告の同年一月および二月中の月曜日の一日当りの平均売上高(ゲーム料、ロッカー料、レーン予約料、友の会収入および貸靴料による売上)は、五九万〇、〇六二円であるから、右平均売上高から本件事件当日の売上高を控除した差額二一万〇、三七二円を、前記休業による逸失利益として請求する。
(五) 原告は被告から、前項の損害の内金三〇万円の支払を受けた。
(六) よって、原告は被告に対し、本件警備契約上の債務不履行による損害として、前記損害残額二三三万三、七九二円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四七年五月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する被告の答弁
(一) 請求原因(一)の事実は認める。但し、原告は同所においてレストランも経営している。
(二)1 同(二)の事実のうち、昭和四五年一二月九日に警備契約が締結されたことは認めるが、右契約によれば、警備の実施時間は昼間も含み、且つ常駐警備士は四名であった。その後昭和四六年二月一日ころ契約内容が変更され、警備の実施時間を夜間のみとし、常駐警備士を一名とした。本件警備契約書(甲第一号証)の日付が昭和四五年一二月九日付となっているのは、昭和四六年二月に契約書を作成した際、日付を遡らせたものである。
2 右変更後の警備契約の内容が、請求原因(二)の3の(1)の警備実施の時間の点を除き、原告主張のとおりであることは認める。警備実施時間は、午後八時三〇分から翌朝九時三〇分までである。
(三) 同(三)の事実は認める。
(四) 同(四)の事実は否認する。ボーリング場関係の売上金については、原告は被告が関与することを嫌い、本件警備契約に基く細部協定事項にもその定めがなく、被告は右金員の保管場所も全く知らされていなかったものであり、ボーリング場関係の現金は警備物件の対象となっていない。
(五) 同(五)の被告が三〇万円支払ったことは認める。しかし、右金員は被告の法的責任の履行として支払ったものではなく、被告が本件警備に際し、レストランの売上金を保管するキャビネット(原告が耐火書庫と称しているもの)の鍵を預かっていたので、見舞金として支払ったものである。
(六) 同(六)の被告に債務不履行責任があることは争う。
三、被告の抗弁
本件事故当夜、正込は細部協定事項所定の勤務を行い、昭和四七年一月一七日午前三時三〇分ころ警備員室内の折畳み式椅子に腰掛けて待機休憩していたところ、突然レストラン入口の錠をバールのようなもので破壊して屋内に侵入した二人組の男が警備員室内にあらわれ、正込に短刀を突きつけ、「動くと殺すぞ。」と言って脅した。正込はこれにかまわず抵抗したが、右手首を切られ横腹に短刀を突きつけられて身動きできなくなった。賊は正込の両手および両足を麻縄で縛ったうえ手と足とを縛り寄せ、さらに日本手拭で猿轡をして、正込のズボンの右ポケットから鍵束を奪い、同人を床に転がし、頭から毛布をかけた。同人は賊が出て行くと直ぐ、警備員室内にあった電熱器のコードをコンセントに差込み、仰むけに寝たまま手と足を縛り寄せた麻縄を焼き切り、両手を縛られ猿轡のまま、事務室の電話で警察に通報したものである。したがって、本件事故の発生については被告の責に帰すべき事由はない。
四、抗弁に対する原告の答弁
賊の侵入による本件事故発生の状況が、ほぼ被告主張のとおりであったことは認めるが、被告に帰責事由がないとの点は否認する。本件事故当時、正込は警備員室で警備日誌を書きおえ、ゆっくりしているうちに寝入ってしまい、賊に肩をゆすられてはじめて目をさましたものである。
第三、証拠関係≪省略≫
理由
一、請求原因(一)および(三)の事実については、当事者間に争いがない。
二、≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四五年一二月一九日から鹿児島市郡元町二四八三番地でボーリング場の営業を開始したが、右営業開始前の同月九日から被告に本件建物およびその敷地内の警備を依頼し、被告は右警備を引受けたこと、右原、被告間の本件警備契約の内容は、警備時間が午後八時三〇分から翌朝午前九時三〇分までであるほかは、当初から原告主張のとおりの内容であったが、原告の営業開始前日の昭和四五年一二月一八日から同月二一日までは、常駐警備士の外に被告会社から臨時に一ないし三名の警備士が派遣されて警備に従事したこと、右原、被告間の本件警備契約は、昭和四六年二月ころ警備請負契約書として書面化されたこと(前記甲第一号証。以下「本件契約書」という)、また本件警備の細目を定めた細部協定事項書は保険会社に提出するため本件事故後作成されたものであるが、同事項書は現実に行われていた警備方法を書面化したものであり、本件警備契約締結の当初からほぼ同事項書記載のとおりの警備が行われていたものであること、以上の事実が認められる。≪証拠判断省略≫
三、ところで、被告はボーリング場関係の売上金は、本件警備契約の対象になっていなかった旨主張するので、まずこの点につき判断する。
(一) ≪証拠省略≫によれば、本件建物にはボーリング場のほかレストランが併設されており、本件事故当時ボーリング場およびレストランの売上金は、営業終了後本件建物内の事務室にある二個の耐火書庫の中にそれぞれ別個に保管されていたこと、細部協定事項書には、レストランの売上金については、「金銭保管のための連絡を待って、事務室および耐火書庫の鍵を開けて、所定の位置に保管されるのに立会する」旨記載されているが、ボーリング場の売上金については何ら記載されていないこと、常駐警備士はレストランの売上金を保管する耐火書庫の鍵は預かるが、ボーリング場の売上金を保管する耐火書庫の鍵は預かっておらず、レストランとボーリング場の売上金の保管につき若干異る取扱がなされていたことが認められる。
(二) しかし、一方次のような事実を認めることができる。
1 前記認定のとおり、ボーリング場の売上金を保管する書庫は、レストランの売上金を保管する書庫と同じ事務室内に置かれていた。
2 ≪証拠省略≫によれば、被告作成の本件警備計画書案には、警備対象として「サンライトボウル」とのみ記載され、また本件契約書には警備物件に生じた事故による被告の損害賠償責任につき、「被告は、その損害が被告の責に帰すべき事由により生じたものについてのみ賠償の責に任ずる」と記載されているのみで、ボーリング場の売上金を本件警備契約の対象から除外する旨の合意がなされたとすれば、本件警備契約およびその実施上重要な事項であるにも拘らず、前記計画書および契約書上、右ボーリング場の売上金を本件警備の対象から除外することが何ら明らかにされていない。
3 ≪証拠省略≫によれば、ボーリング場の営業終了後原告会社のボーリング場係員がボーリング場の売上金を書庫に納める際、その時間が深夜でありかつ本件建物の構造上外部からも売上金を持運んでいることが目につきやすいため、常駐警備士が前記事務室前の玄関ホールで警備にあたるのが通常であったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫
4 また≪証拠省略≫によれば、警備会社が契約に基づき警備を行う場合、警備士は依頼者が現金を保管する金庫等の鍵は預らないのが通例であることが認められ、右認定に反する証拠はないから、本件書庫の鍵を常駐警備士が預かっていたか否かが、直ちに警備対象の範囲に含まれるか否かを左右するものとも解し難い。
5 前記(一)に認定のとおり、本件細部協定事項書は本件事故発生後保険会社に提出するため作成されたものであることが認められるから、同事項書に被告会社の警備士が行うべき全ての任務を記載したものとも認め難く、したがって同事項書にボーリング場の売上金の保管に関する記載がないからといって、直ちに警備の対象から外しているものとも解し難い。
(三) 右(二)に認定の事実を総合すれば、ボーリング場の売上金、その他の現金も本件警備契約の対象に含まれていたものと認めるのが相当であり、右認定に反する≪証拠省略≫は前項認定の事実に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
四、次に、被告は本件事故の発生につき被告の責に帰すべき事由はない旨主張するので、この点につき検討する。
(一) まず前記認定の本件警備契約の性質は、被告において午後八時三〇分から翌朝午前九時三〇分までの間本件建物およびその敷地内における不法行為者、不法侵入者の排除、警察への通報等の警備を行うことにより、右警備対象の時間的および場所的範囲内における火災、盗難、その他の事故の発生を未然に防止することを主たる目的とする請負契約であると解せられる(因みに甲第一号証の本件契約書も、「警備請負契約書」と題されている)。
ところで、原告は本訴において、被告の本件警備契約上の債務不履行責任を問うているものであり、且つ右のとおり右契約の性質が事故発生の防止を目的とするものであるから、本件事故の発生について被告の履行補助者たる正込の無過失が立証されない限り、被告は本件警備契約に基づく債務不履行責任を免れないものといわねばならない。そこで、右正込の過失の有無につき検討することとするに、次のような事実を認めることができる。
1 ≪証拠省略≫によれば、二人組の賊は、レストランのガラス引戸に設置された鋼鉄製鎌錠の受座をバールのようなものでこじあけて侵入したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 また、≪証拠省略≫によれば、訴外佐々木唯志は昭和四六年二月から同年五月末ころまで、正込は同年一〇月ころから本件事故当時に至るまで常駐警備士として本件建物およびその敷地内の警備に従事していたが、原告の営業終了後の右両名の具体的警備方法は、本件建物内外の火気、施錠等を点検したうえ、警備員室で待機して警備日誌の記載を行い、午前二時ころには被告会社の機動巡回警備隊が巡回して来るので同警備隊とともに屋内を巡回し、その後は佐々木の場合は三〇分ないし四〇分間隔で、正込の場合は二時間おき位に屋内を巡回していたこと、警備員室で待機する場合には、電話機が警備員室になく事務室の電話機を被告会社本部統制指令室等からの連絡や同指令室等への連絡用として使用していた関係上、および異常な音や臭の発生が直ちにわかるようにするため、警備員室のドアは閉めないで待機するのが通常であったこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
3 ≪証拠省略≫によれば、本件事故当夜は午前一時ころボーリング場の営業が終了し、その後午前二時ころ機動巡回警備隊が巡回して来たが、ボーリング場でまだ原告会社の従業員がボーリングをしていたため、正込から異状なしとの報告を受けて同警備隊はそのまま引上げて行ったこと、午前二時三〇分ころ原告会社の従業員が全員帰宅したので正込は屋内を巡回し消灯、施錠を確認した後、警備員室で警備日誌を書き椅子にかけ壁にもたれているうち眠りこみ、午前三時三〇分ころ目がさめた時は既に賊に肩をつかまれており、その後は原、被告主張のような経緯をたどったこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) ところで、本件事故に関し保険会社が作成した成立に争いのない乙第六号証、同第八号証には、「正込が仮眠していなかったとしても、本件事故の発生は防止し得なかった」旨記載されているが、右各書証によれば、右記載の判断はいずれも、本件強盗犯人が施錠を破壊するにつき他人に察知されるような音を出さず巧妙な手口で破壊したことを前提とするものであることが認められるところ、捜査機関の捜査によっても本件犯人が未だ不明の現段階ではその真相を知ることはできないが、本件全証拠によるも、本件施錠の破壊が右のような方法でなされたことを認めるに足りる証拠はないから、右各書面記載の判断をそのまま首肯することはできず、他に正込において賊が屋内に侵入する以前にこれを発見することが不可能であったこと、または屋内侵入以前に発見したとしても本件事故の発生を防止することが不可能であったことを認めるに足りる証拠はない。かえって、前記四の(一)の1に認定のような本件錠の性状およびその破壊状況に照らし、本件施錠の破壊に際してはかなりの音が発生し且つある程度の時間を要したであろうことが推測され、正込が仮眠状態におちいらず、また屋内巡視の時間的間隔が適切であったならば(前記四の(一)の2に認定のとおり佐々木の巡回の間隔が三〇分ないし四〇分であったのに対し、正込の場合は二時間おきであった)、賊の屋内への侵入を未然に防止できた可能性を否定しさることができない。
もっとも、≪証拠省略≫によれば、被告会社においては、本件のような警備形態による場合常駐警備士が仮眠をとることは禁じられていなかったことが認められるが、しかし、本件警備契約の目的を達成するため具体的にどのような警備を行うかは、原則として請負人たる被告の責任において決定すべきことであり、被告が一定の警備方法によったがなお結果的に事故の発生を防止できなかった場合には、被告において当該事故の発生を防止するため他に適切な警備方法をとりえたと認められる限り、依頼者たる原告が当該警備方法を指示し、若しくは契約上当該警備方法によって防止し得なかった事故については被告の責任が免除されることが予定されていると解される場合を除き、被告は事故の責任を免れないものというべきである。前記乙第八号証には、「本件契約上暫時の仮眠は許されるから、被告に本件事故の責任はない」旨記載されているが、右記載は何らその具体的根拠を明らかにしておらず、右記載のみをもって仮眠による事故の発生については本件警備契約上当然に被告がその責任を免れるものと認めることはできず、他に本件警備契約上仮眠による事故については被告が免責されること、あるいは警備実施上仮眠および巡回につき具体的に原告が指示したことを認めるに足りる証拠はない(前記甲第三号証の細部協定事項書には、巡回につき不定期とのみ記載されている)。
(三) 右(一)および(二)に認定の事実を総合すれば、本件事故の発生につき正込に過失がなかったとはいえず、したがってまた、被告も本件事故による賠償責任を免れることはできないといわねばならない。
五、そこで、原告の損害につき検討する。
(一) 現金
≪証拠省略≫によれば、本件事故当時、被害にあった二個の書庫の中には別紙(二)書庫在中の現金明細表記載の合計一八七万五、一二七円の現金が納められていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
原告主張の別紙(一)現金損害額内訳表記載の金員のうち、14の売掛入金五、〇〇〇円および20の友の会入金三、〇〇〇円については、右主張に副う甲第一〇証の一および証人中馬邦彦の証言が存するが、しかし、右甲第一〇号証の一はメモ的なものでその作成者、作成日時が明らかでないこと、右中馬証言によれば、売掛入金があった場合通常は売上日報にその記載がなされるようになっているにも拘らず、右14の入金についてはこれを記載した売上日報がないことが認められること、≪証拠省略≫に照らして考えると、友の会入金についてもレジ計算票および同売上票にその記載がなされるのが通常と推認されるのに右20の入金についてこれを記載したレジ計算票および同売上票が存しないこと、証人中馬の右各金員が入金した旨の証言も、甲第一〇号証の一等に基く推測を述べたもので確実性がうすいこと、以上の事実に照らして考えると、原告の主張に副う前記証拠によっても、未だ右各金員が入金され本件事故当時被害書庫に保管されていたとの事実を認めるに十分でない。
また同表15の売掛入金、同16の預り金、同17のむつみ会の入金、同18の国体協力金の預り金に関する証人中馬邦彦の証言は、その内容があいまいで信用性に乏しく、右証言のみをもって右各金員が入金され事故当時本件被害書庫に保管されていたことを認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。同表19の預り金および同25の元金については、本件全証拠によるもこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件事故による現金被害額は、本件事故当時被害書庫に保管されていた前記一八七万五、一二七円から原告が現場に遺留されていたと自認する三九万四、三〇七円を差引いた一四八万〇、八二〇円と認められる。
(二) 物損
≪証拠省略≫によれば、原告は賊により七万三、〇〇〇円相当の耐火書庫一個および二、八〇〇円相当のレストラン引戸の錠一個を破壊され、右合計七万五、八〇〇円相当の損害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(三) 逸失利益
証人有馬守男の証言によれば、原告は本件事故のため事故当日一時営業ができなかったことが認められる。ところで、右証人有馬は甲第六号証の四記載の金額が事故当日の原告の営業開始後の売上額である旨証言するが、しかし、右甲第六号証の四記載の作成日時、≪証拠省略≫に照らして考えると、右甲第六号証の四記載の金額は昭和四七年一月一六日午後五時から本件事故前までの売上金額を示すものと認められ、他に本件事故当日の原告の営業開始後の売上額を認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の逸失利益の請求は認め難い。
六、前項の損害合計一五五万六、六二〇円のうち、三〇万円の支払を受けたことは原告の自認するところであるから損害残額は一二五万六、六二〇円となる。
よって、原告の本訴請求は、被告に対し右残額一二五万六、六二〇円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年五月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を適用し、なお仮執行の宣言の申立については相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 湯地紘一郎)
<以下省略>