大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和50年(行ウ)3号 判決 1979年4月27日

原告 鳥越重雄

被告 日本専売公社鹿児島地方局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四九年六月四日原告に対してしたたばこ小売人不指定の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和四九年三月二六日被告に対したばこ小売人指定の申請をしたところ、被告は同年六月四日不指定の処分(以下「本件処分」という)をした。そこで、原告はこれを不服として同年七月二八日行政不服審査法に基づき審査請求をしたが、日本専売公社総裁は昭和五〇年八月一一日付で右請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決は同月一九日以降原告に送達された。

2(一)  本件処分の理由は、たばこ専売法(以下「法」という)三一条一項三号の「予定営業所の位置不適当」、同四号の「標準取扱高不足」並びにたばこ小売人指定関係規程(以下「規程」という)五条一項二号の「標準距離不足」、同五号の「標準取扱高不足」に該当するというものである。

(二)  しかし、次に述べるように、被告のした本件処分は違法であるので、取消を免れない。

(1) 原告は昭和四六年から毎年のように被告に対したばこ小売人指定の申請をしてきたが、その都度、法三一条一項四号及び規程五条一項五号の各「標準取扱高不足」を理由として不指定となり、本件処分に先立つ昭和四八年八月にも同様の申請をしたが、同年一〇月五日同じ理由で不指定となつた。しかるに、その後間もなくの昭和四九年一月一七日原告の予定営業所から約七〇メートル離れたところに住居を有する大迫智利(以下「大迫」という)がたばこ小売人指定の申請をしたところ、同年三月一六日その指定がなされた。

(2) 原告の予定営業所と大迫方とは右のようにきわめて近い距離関係にあり、当時、たばこの販売量に影響を及ぼすような付近住宅の増加もなかつたから、大迫方が標準取扱高に達するものとして指定がなされたとすれば、原告の場合も右取扱高に満たないという合理的理由はないはずである。それ故、原告について標準取扱高不足ということはありえない。

(3) 被告は、右のとおり大迫に先立つて申請していた原告を不指定としながら、大迫の申請を容れて同人をたばこ小売人に指定したうえ、本件処分においては不指定の理由として「標準距離不足」を追加した。しかし、右理由は被告が前記経緯で大迫を小売人に指定した結果発生したものであり、その不利益を原告に負わせることはできない。従つて、これを理由として本件処分をするのは被告の有する指定権の濫用であつて、許されないものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実は認める。同(二)の(1)の事実中、原告方と大迫方との距離の点を除き、その余は認める。右両者間の距離は約九〇メートルである。同(2)及び(3)の主張は争う。

三  被告の主張

1(一)  たばこ販売の権能は国に専属し(法二条)、この権能は日本専売公社(以下「公社」という)が行使する。公社は指定したたばこ小売人にたばこを販売させることができ、公社または指定小売人以外の者は販売してはならない(法二九条)。従つて、公社の行うたばこ小売人の指定はいわゆる特許に属し、公社の自由裁量行為である。すなわち、右指定は消費者に対する偏りのないたばこの供給とより多くの売上げという勝れて企業政策的考慮に基づいてなされるものであるから、いかなる場合に何人を小売人に指定するか否かは公社の企業政策的見地からする自由裁量が許されるといわなければならない。

法三一条はたばこ小売人指定の規準を定めているが、右規準は右のような企業政策的見地に基礎をおく合理的裁量権行使の方策として設けられたもので、訓示的な準則と考えるべきものであり、公社による補充を要するもの、あるいは適用に幅のあるものがあり、その具体的適用においては公社の裁量に委ねられる部分が多い。右規準はこのような趣旨から解釈されなければならないし、小売人の指定にあたり実質的にみて裁量権の逸脱濫用にわたることがない限り、適法な指定処分がなされたものと解すべきである。法三一条は右のように公社による補完あるいは具体化を予定しているところ、公社は、たばこ小売人指定の準則として規程を定め、規程の運用に関し「たばこ小売人指定関係規程運用要領」(以下「運用要領」という)を設けている。これらの規程、運用要領の制定、改廃及び解釈適用についても公社の企業政策的見地からする裁量に委ねられているのであつて、これらの準則は裁量権の行使が適正であつたか否かの判断の目安となるものではあるが、それが逸脱濫用にわたるか否かは、法三一条の適用の場合と同様に、それのみで決しうることではないといわなければならない。

(二)  以上の点を本件処分に関係する指定規準についてみると、次のとおりである。

本件処分は法三一条一項三号、四号に該当するという理由でなされているが、右三号の「営業所の位置が…………たばこの小売業を営むのに不適当と認められる場合」という規準は、たばこ専売の担当者としての公社の企業政策的考慮からする専門的知識によらなければ具体的判断は不可能であり、同四号の「取扱の予定高が公社の定める標準に達せず、…………」という「公社の定める標準」は公社の企業政策的見地から定めるのでなければ意味をなさないものである。また、右の点に関し規程に定められた規準として標準距離あるいは標準取扱高なるものがあるが、これらは住宅の密集度、繁華街か否かなどを指標とする環境区分または等地毎に定められており、そこでは公社の裁量に基づき幅のある認定や区分を避けることができないし、予定営業所の取扱予定高が「公社の定める標準」に達するか否かの判断は、同営業所周辺の住宅分布状況、商店街か住宅街か、人の流れ、購買傾向など公社の専門的知識と経験に基づく裁量によつてせざるをえないものである。

ところで、規程(五条二項、八条二項)及び運用要領(3・6)によると、たばこ小売人の指定について競願制度の定めがあり、一定の標準距離内または供給対象を同一にする地域内にあつて同月中及び実地調査前に提出された申請及び争訟継続中の処分にかかる申請については、競願として取り扱い、予定営業所の位置、店舗の構造等を比較し、優位にある方を指定することとしている。もし小売人指定処分が覊束処分であり、申請者に規準に定める最低の条件さえ整つていれば必ず指定しなければならないとすれば、右のように申請者を一定の時期でくくつて優劣を比較するという競願制度を採ることとは理論上調和し難いものがある。この面からみても、右処分の企業政策的配慮による裁量性を否定することができない。競願制度に関連し、運用要領(3・6)は、当該申請の前月を第一月とし第六月までさかのぼつた期間内に提出された申請のうち現状において規程に定める欠格条件(但し、標準取扱高に達しない場合を除く)に該当しない者を含めて優劣の比較を行い、優位にある方に欠格事由がなく、かつ前の申請が優位の場合は申請者に営業意思のあることを条件として指定する(一たん不指定にした方が優位にあるときは不指定処分を取り消して)という参考競願の定めを設けている。右規定の趣旨は、小売人指定につき、より多くの売上げ、偏りのない供給を目指しあわせて前の申請の欠格条件該当性の判断について見直しをしようとするもので、企業政策的考慮に基づく自由裁量性が端的に表われているということができる。

2  本件処分は、以下に述べるように適法になされたものである。

(一) 標準距離不足(法三一条一項三号、規程五条一項二号)について

右の規準となる標準距離は規程三条によつて環境区分毎に定められているが、さらに環境区分の認定には運用要領(2・1)に標準が定められており、地域の実情を十分勘案して認定される。この標準にあてはめると、原告申請の予定営業所の所在地は市制施行地の住宅地(B)に該当し、標準距離は三〇〇メートルであつた。しかるに、原告の予定営業所と既設小売人の大迫店との距離は約九〇メートルしかなく、標準距離が不足していた。

(二) 標準取扱高不足(法三一条一項四号、規程五条一項五号)について

規程四条一項には各等地毎に標準取扱高が定められているところ、その等地は運用要領(2・3(2))によつて市制施行地の住宅地(B)は六ないし一〇等地の範囲内で決められることとなるが、右運用要領の取扱いについての通達によつて、環境区分を同じくする地区内の既設小売人の一店あたり平均取扱高に〇・八を乗じて得た金額の直近下位の標準取扱高に対応する等地とすることができることになつており、これによると、原告申請の予定営業所所在地区内の既設小売人六店の一店あたり月平均取扱高に〇・八を乗じて得た金額が一五万円を超えているので七等地と決定された。従つて、本件申請に適用される標準取扱高は一か月一五万円であつた。しかして、原告の予定営業所の取扱予定高は、現地の道路、住宅の分布状況等によつて供給見込範囲内の住宅数に類似小売人の一戸あたり月平均消費高を乗じて算出したところ、九万五〇〇〇円と算定され、前記標準取扱高に達しなかつた。

(三) 右(一)及び(二)に関し、環境区分の認定、すなわち住宅地(A)か同(B)かの判断、等地決定の際の同一環境として平均取扱高を求めた地区の範囲や供給見込範囲の認定、標準とした類似小売人の選定などいずれも公社の専門的知識、経験に基づいた裁量によつてなされたものであり、本件の処理について特段の不合理な点は存しないし、裁量権の行使に逸脱ないし濫用はない。

原告は、特に標準距離不足の点について、原告の本件申請と前回申請との中間で大迫店を指定したため距離不足が発生したのであるから、これを理由として不指定にするのは指定権の濫用であると主張する。しかし、公社は大迫店の申請につき法及び公社の諸規定に定める規準を満たしていると判断して指定したのであり、仮に違法事由があつたとしても、その指定が権限ある機関によつて取り消されない以上有効として扱われるのであるから、いかなる意味においても指定権の濫用となる理由を見出すことはできない。

なお、大迫店の申請は原告の前回の申請と前記参考競願の関係になつたので、被告は運用要領に従つて両者の優劣比較を行つた。その結果、予定営業所の位置が、大迫店は錫山県道に面し、しかも三叉路の角地にあるのに対し、原告申請のものは右三叉路から約九〇メートル南に入り、さらに道路から約五メートル入り込んだ高いところにあつて、錫山県道からは見通しがきかない状況にあつたので、大迫店が明らかに優位にあつたものである。このように、参考競願において大迫店の申請が優位にある点も考慮して同店を指定したのであり、裁量権の逸脱ないし濫用はない。

四  右三の主張に対する原告の認否と反論

1  右三の1の主張は争う。

たばこ小売人の指定は公社の自由裁量に任されているというべきではなく、むしろ、公社による小売人の指定が行政の一環としてなされるものである以上、公正、平等になされなければならず、そのよるべき規準を定めたのが法三一条一項の規定であると解するのが相当である。要するに、小売人の指定は法規裁量に属するものというべく、公社は申請者が法三一条一項各号のいずれかに該当するときは小売人に指定しないことができるが、右各号のいずれにも該当しない場合には必ず小売人に指定すべきであり、もし不指定の処分をしたときは右処分は違法な処分となるのであつて、自由裁量に属するということはできない。

2  同2の事実は争う。

規程等によれば、たばこ小売人が準市街地・住宅地(A)にある場合その標準距離は二〇〇メートルとされ、市街地の場合は一五〇メートルとなつている。鹿児島市鴨池一丁目付近は右規準による準市街地・住宅地(A)もしくは市街地に該当するとされるところ、昭和三二年頃、同所で約二五メートルを隔てて二軒のたばこ小売人が指定されている。

また、昭和四九年六月には、大迫店から二四七メートルの距離にある坂元酒店がたばこ小売人に指定されたが、右距離が規程等にいう住宅地(B)の制限距離三〇〇メートルに足りないことは明らかであり、仮に同店付近につき住宅地(B)から同(A)への環境区分の変更があつたとしても、当時の状況からみて右変更の要因を欠いていたものである。

被告の主張する自由裁量の実態は右のようなものであつて、標準取扱高不足あるいは標準距離不足は規程等の運用によりどうにでもなることを示している。

五  右四の2の主張に対する被告の認否及び再反論

1  右四の2の事実中、昭和三二年頃鹿児島市鴨池一丁目付近で二店の小売人指定がなされたこと、及び昭和四九年六月坂元酒店に対し小売人の指定がされたことは認めるが、その余の点は争う。

2  鹿児島市鴨池一丁目付近に指定された二店舗間の距離は約四〇メートルである。当時はたばこ小売人指定関係の規準として「製造たばこ販売事務取扱手続」があり、その一三条一項三号に小売人の指定ができない場合として、「予定営業所と既設小売人の営業所の距離が次の標準に達しない場合、但し製造たばこの取扱高が一一条の標準に達すると認められる場合はこの限りでない。」と定められている。当時の指定申請に関する書類が残されていないので詳細は明らかでないが、おそらく右但書により取扱見込高が標準に達すると認められて指定されたものと推測される。

また、坂元酒店と大迫店との距離は約二七〇メートルであるところ、坂元酒店付近は当時住宅が増加しつつあり、ほどなく住宅密集地となることが明らかに予想されたので、昭和四九年四月以降住宅地(A)として環境区分された。同地区の標準距離は二〇〇メートルであるから、坂元酒店の指定処分に何らの問題もない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1及び2の(一)の各事実は当事者間に争いがない。

二  たばこ小売人指定処分の法的性質について判断する。

法二条は、製造たばこの販売等の権能は国に専属すると規定し、同三条は、国に専属する右権能等は公社に行わせると定め、同二九条一項では「公社は、その指定した製造たばこの小売人に製造たばこを販売させることができる。」とし、同条二項で「公社又は小売人でなければ、製造たばこを販売してはならない。」旨を定めている。このように、法がたばこの販売等について専売制を採用し、公社に小売人指定の権能を与えていることからすると、公社によるたばこ小売人の指定は、申請者に対し同人が当然には有していないたばこ販売の権利もしくは資格をあらたに付与する行為であるということができる。

しかしながら、このことから小売人の指定が直ちに公社の自由裁量に委ねられているといえるかは問題であり、なお検討が必要である。

右のとおり、たばこの販売等について専売制が採用されているのは、国の財政上の見地から必要な収入を確保することを主たる目的とするものであるが、それとともに、消費者に対しいかなる土地においても同一品質、同一価格のたばこを販売することによつて、その需要を均等に充たす機会を与え、公衆の日常生活の利便を図ろうとする目的に出たものである。従つて、公社の行うたばこ小売人の指定についても、右の趣旨、目的に副う勝れて企業政策的あるいは専門技術的な見地に立つた考慮がなされることは当然であるが、反面、右の指定制度が適正かつ公平に運用されることにより、小売人となろうとする者や消費者が受ける利益を保護すべき要請の存することも否定できない。

法三一条一項は、公社によるたばこ小売人の指定について、その規準を設けており、その一号ないし六号で小売人の指定をしないことができる各場合を規定している。法がこのように、小売人指定の規準に関し抽象的包括的に公社の裁量に委ねることなく、具体的個別的な規定を設けているのは、前述の企業政策的配慮に基づくことは勿論であるが、同時に、小売人指定制度の適正かつ公平な運用を確保することによるものであると解される。そうだとすると、たばこ小売人を指定するか否かについては、右規定の趣旨からする一定の覊束性を免れないのであつて、右指定処分が専ら公社の自由裁量に属するということはできず、また、法三一条一項各号の規定が公社の裁量についての訓示的な準則を定めたものにとどまるということもできない。それ故、公社は、申請者が右各号のいずれかに該当するときは小売人に指定しないことができるが、そのいずれにも該当しない場合には不指定とすることはできないものであり、もし右の場合に不指定の処分をしたときは、違法な処分となるといわなければならない。

ところで、本件処分の理由は、法三一条一項三号の「予定営業所の位置不適当」、同四号の「標準取扱高不足」に該当するというのであるが、右三号には「営業所の位置が…………不適当と認められる場合」、四号には「製造たばこの取扱の予定高が公社の定める標準に達せず、…………」との文言があり、右各号の規定自体その具体的適用において、公社による裁量判断や公社の定める準則によつて補充されることを予定していることが認められる。このため、右法規に則り、公社は規程を設けて標準距離あるいは標準取扱高等を定め、さらに規程の運用に関し運用要領を定めている。しかし、右の規程、運用要領の定めやその運用については、もとより法規の趣旨が包含する程度の妥当性を保持することが要求されるのであり、これをもつて直ちに小売人指定処分の自由裁量性を根拠づけることはできない(なお、後記認定の本件処分の理由づけとなつた規程及び運用要領の該当条項は、いずれも法の予定する妥当性の範囲内にあるものと認められる。)。

もつとも、前記のようなたばこ専売制度の目的及び小売人指定に関する法規の趣旨から考えると、公社の行う小売人指定については、企業政策的または専門技術的見地に基礎をおく裁量の余地が相当広く認められていると解すべきである。その意味で、規程(五条二項、八条二項)及び運用要領(3・6)において、同一地域内の一定期間内における複数の申請について、先願主義によらずにこれを競願として取り扱い、その優劣を比較検討して条件のより優るものを小売人に指定することとし、あるいは、一たん不指定となつた者についても、その後同一地域内の他の者が一定期間内に申請したときは、これらの者を競願関係にある場合と同様に取り扱つて審査の対象とする参考競願の制度を設けていることも、許容されると解される。

三  進んで、本件処分の適否について判断する。

1  本件処分の理由中、まず、標準距離不足の点を検討する。

前記当事者間に争いのない事実によれば、本件処分の理由の一は法三一条一項三号の「予定営業所の位置不適当」及び規程五条一項二号の「標準距離不足」であるが、被告の主張によると、前者の「予定営業所の位置不適当」がすなわち後者の「標準距離不足」に相当し、両者は本件不指定事由として同一の事由を指称すると解されるので、以後、右不指定事由を「標準距離不足」に統一して考察することとする。

規程五条一項二号には、小売人の指定をしてはならない場合として「予定営業所と小売人の営業所との距離が三条の標準に達しない場合」と定め、同三条で、小売人の環境区分別に標準距離を定めている。右環境区分の認定標準については、運用要領(2・1)において、繁華街、市街地、準市街地、住宅地(A)(主として住宅、アパート等が多く、建物の占める割合が比較的高い地域。住宅団地及び新興住宅街)、住宅地(B)・集団部落(住宅地域内に空地、田畑、庭等が広い面積を占め、建物の占める割合が比較的低い地域。農林漁業者の家屋を主体として家屋が点在ないし小規模の集団をなしている地域)に分類して定めており、これを規程三条の標準距離にあてはめると、市制施行地の標準距離は繁華街が一〇〇メートル、市街地が一五〇メートル、準市街地・住宅地(A)が二〇〇メートル、住宅地(B)・集団部落が三〇〇メートルとなる。

成立に争いのない乙第四、第五号証の各一ないし三、第九号証の一、二、第一五号証の一ないし六、証人有馬実典の証言により真正に成立したものと認める乙第七号証、証人福元猛(第一回)、同今村秀則の各証言によれば、原告の本件小売人指定申請に基づいて昭和四九年四月一一日公社職員が実地調査をした当時、原告申請の予定営業所の所在地(原告の肩書住居に同じ)は、鹿児島市郊外にあり、同市から指宿市に至る国鉄指宿線坂之上駅の西方約八〇〇メートルのところをほぼ東西に走る錫山県道からさらに約九〇メートル南西方に入つた地点に位置し、原告が小売人となつた場合の供給見込範囲内には約六五戸の人家が点在しており、建物の占める割合が比較的低かつたこと、そこで、被告は右調査結果に基づき、原告の予定営業所につき前記環境区分で住宅地(B)、従つて標準距離は三〇〇メートルと判定したこと、しかるに、当時、前記錫山県道から原告の予定営業所方向に折れる三叉路の角地に店舗をもつ大迫が既に小売人に指定されており、右大迫方営業所と原告の予定営業所との距離(両営業所のそれぞれの間口の各中間点間の距離を各営業所前の道路の流れに沿つて実測したもの)が約九〇メートルであつたので、被告は前記標準距離三〇〇メートルに不足すると認定したことが認められ、原告本人尋問の結果も右認定を覆すに足りず、他にこれを左右すべき証拠はない。

しかして、前掲各証拠によると、被告がした前記環境区分及び標準距離等の決定の経緯において手続上の瑕疵や判断の誤りがあつたことは認められず、これに前記認定事実を総合して考えると、本件小売人指定の申請に対し、被告が「標準距離不足」に該当すると判定したことは相当であつたと認められる。

2  請求原因2の(二)の(1)の事実は、原告の予定営業所と大迫方間の距離の点を除き、当事者間に争いがない(前記のとおり、右両者間の距離は約九〇メートルである。)。

原告は、本件小売人指定申請に先立つて原告が同様の申請をしたのに対し、被告は昭和四八年一〇月五日「標準取扱高不足」のみを理由として不指定としていたのに、その後、原告方近くに居住し指定の条件もほとんど変りのない大迫方から指定の申請がなされるや、昭和四九年三月一六日同人を小売人に指定したため、原告方について「標準距離不足」が生じたもので、これを理由とする本件処分は指定権の濫用であつて許されない旨主張する。

しかしながら、大迫に対する小売人指定の事情は暫らくおくとして、一度小売人に指定されたうえは、同人が権限ある機関による取消その他の理由によつて小売人としての地位を喪失しない限り、同人が小売人として扱われるべきことは当然である。それ故、被告が本件申請において、原告の予定営業所に関し既設小売人である大迫方との関係で標準距離不足であると認定したとしても、これをもつて指定権の濫用であるということはできない。

なお、規定五条二項、運用要領(3・6)には、前述のとおり参考競願の制度が設けられている。

前記乙第七、第一五号証の一ないし六、成立に争いのない甲第五号証、同乙第一七号証、証人有馬実典の証言により真正に成立したものと認める乙第一〇、第一二号証、証人福元猛(第一、二回)、同今村秀則の各証言によれば、大迫の小売人指定申請による実地調査は昭和四九年二月一二日に行われたが、右申請と原告の昭和四八年八月の申請(同年一〇月五日不指定となつたもの)とが前記参考競願の関係に立つたので、被告は運用要領に従つて両者の優劣の比較検討を行つたこと、その結果、予定営業所の位置が、大迫方は前記錫山県道に面し、しかもこれから原告方方向に折れる三叉路の角地にあるのに対し、原告方は右三叉路から約九〇メートル南西方に入り、さらに原告方前の路面より約一・六メートル高く、約五メートル入り込んだところにあり、右県道から原告方営業所の存在が確認できない状況にあつたため、被告は大迫の申請が原告の申請よりも優位にあるものと認め、右の点をも考慮して他に欠格条件のなかつた大迫を小売人に指定したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、被告は、大迫の申請を審査するに際し、これに先立つてなされた原告の申請をとり上げて両申請を具体的に比較対照し、その結果、より優位にあつた大迫を小売人に指定しているのである。してみると、その後原告のした本件申請について、大迫店との関係で標準距離不足を生じ、これを理由に本件処分がなされたとしても、けだしやむをえないところであり、実質的にみても、被告に指定権の濫用があつたということはできない。

3  原告は、被告による規程等の運用が恣意にわたり、これを逸脱してなされている事例として、昭和三二年頃鹿児島市鴨池一丁目付近で標準距離に著しく不足する関係にある二か所の店舗が小売人に指定された旨主張する。

しかして、右二か所の店舗が原告主張の頃小売人に指定されたことは当事者間に争いがないが、右指定のなされた地域は本件申請に係る地域と同一もしくはその付近にあるわけではないうえ、十数年前の事案であつて、これをもつて本件処分の適否の判断に影響を及ぼすような事情であるということはできないから、主張自体採用するに由ないものである。

また、原告は、被告が規程等を逸脱して運用している同様の事例として、被告は昭和四九年六月に大迫店から二四七メートルの距離にある坂元酒店を小売人に指定しているが、右距離は前記住宅地(B)の標準距離である三〇〇メートルに足りないものであり、仮に同地域について住宅地(B)から同(A)への環境区分の変更があつたとしても、右変更の要因を欠いていた旨主張する。

原告主張の頃坂元酒店に対し小売人指定がなされたことは当事者間に争いがないところ、前記乙第七号証、証人福元猛の証言(第二回)によると、坂元酒店は大迫方の東方約二七〇ないし二八〇メートルの錫山県道沿いにあり、同所付近は以前は環境区分で住宅地(B)と認定されていたが、右指定当時、坂元酒店の後背地にマンシヨン風の建物等が二五〇ないし二六〇棟ぐらい建築中で住宅が密集しつつあつたので、住宅地(A)と認定が変更され、従つて、同地区の標準距離は二〇〇メートルとなつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、坂元酒店と大迫方との距離が標準距離に達していたことが明らかであるから、被告による規程等の運用に逸脱があつたとすることはできない。

4  以上のとおりであるので、本件小売人指定の申請につき、被告が法三一条一項三号の「予定営業所の位置不適当」及び規程五条一項二号の「標準距離不足」に該当するとしたのは相当であり、この点において既に本件処分は理由があるといわなければならない。そうすると、その余の不指定理由について判断を加えるまでもなく、本件処分は適法になされたものであつて、取り消すべきものとは認められない。

四  よつて、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大西浅雄 林五平 森高重久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例