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鹿児島地方裁判所 昭和56年(ワ)277号 判決 1987年1月29日

原告 阿瀬知ミル ほか七六〇名

被告 鹿児島県 ほか二名

代理人 永松健幹 早田憲次 大村弘一 田上勉 ほか四名

主文

一  被告鹿児島商工協同組合及び被告千歳武志は、各自各原告らに対し、別紙原告別請求額一覧表の請求金額欄記載の金員及びこれに対する同表の被告別遅延損害金起算日欄のうち右各被告欄に記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告鹿児島県に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告鹿児島商工協同組合及び被告千歳武志との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を右被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告鹿児島県との間においては全部原告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自各原告らに対し、別紙原告別請求額一覧表の請求金額欄記載の金員及びこれに対する同表の被告別遅延損害金起算日欄記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告鹿児島県及び被告千歳武志の答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決及び担保を条件とする仮執行免脱宣言(被告鹿児島県)

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告鹿児島商工協同組合(以下「被告組合」という。)は、(一)組合員の取り扱う車輛、消耗品等の共同購買、(二)組合員のために事務指導代行業務、(三)組合員に対する事業資金の貸付け(手形の割引も含む)及び組合員のためにするその借入れ、(四)組合員の取引金融機関に対する組合員の債務の保証又はこれら金融機関の委任を受けてする組合員に対する債権の取立て、(五)組合員の事業に関する経営及び技術の改善、向上又は組合事業に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供、(六)組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結、(七)組合員の福利厚生に関する事業並びにこれらの各事業に附帯する事業をなすことを目的とする中小企業等協同組合法(以下「法」という。)に基づく協同組合であり、昭和五〇年九月二〇日設立された。

被告千歳武志(以下「被告千歳」という。)は、被告組合の設立時から昭和五四年九月一一日まで理事長として、その後は理事としての職にあつた者である。

原告らは、被告組合に対する出資者、被告組合の行つた各種共済事業の契約者或いは生命共済保険金等の受取人である。

2  被告千歳は、被告組合の各種共済事業を行い或いは出資を募るにつき、その掛金又は出資金名下に金員を騙取しようと企て、原告らに対し、被告組合の従業員らを介して各種共済事業の掛金又は出資金を振り込ませてこれを騙取したうえ、生命共済について被保険者の死亡に伴い再保険契約会社から被告組合に振り込まれた保険金を着服横領した。

仮に右事実が認められないとしても、被告千歳には次のような違法行為がある。すなわち、被告千歳は、組合設立の認可申請の際、事業計画書上福利厚生事業として、組合員の慶弔等に対して金員を給付すること並びに組合員及びその従業員の相互の融和を図るためのレクレーシヨン等を行うことの二つに限定していたにもかかわらず、認可後に生命共済、住宅福祉共済、所得保障共済を次々に始めたが、これらの共済事業は、設立時の目的には含まれていなかつたものであつて新たな県知事の認可を必要とするのに、これを受けずになされた違法な事業であつた。また、法九条の二第二項で組合員以外の者の利用は組合員の利用に支障がない場合に限り、一事業年度につき組合員利用総額の二〇パーセントを超えない範囲で認められているにもかかわらず、被告組合の場合、定款による組合員は三二一人であるのに組合員以外の共済加入者は、少なくとも八〇〇〇人以上であつて、その利用総額も組合員のそれの数十倍にのぼるものであつた。更に、被告組合の事業のうち、住宅福祉共済事業の実体は不特定多数の者からの金銭の受け入れであり、経済的性質は出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下「出資法」という。)により禁じられた「預り金」に該当する違法な事業である。被告千歳の右行為は、被告組合の職務を行なうにつき、悪意または重大な過失があつたものというべきであり、そのため被告組合の財政的基礎を崩壊させ、前記の原告らの払い込んだ掛金ないし出資金、原告らの受領すべき保険金の回収を不能ならしめた。

3  被告らの責任原因

(一) 被告千歳及び被告組合

被告千歳の前記2の行為につき、被告千歳は、民法七〇九条又は法三八条の二により、被告組合は、法四二条とこれにより準用される商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により原告らの被つた後記4の損害を賠償する責任がある。

(二) 被告鹿児島県(以下「県」という。)の責任

(1) 県知事の作為義務

県知事は、法に基づく中小企業等協同組合の設立認可申請がなされた場合、法二七条の二第四項により、(イ)設立の手続又は定款若しくは事業計画の内容が法令に違反しないか、(ロ)事業を行うために必要な経営的基礎を欠く等その目的を達成することが著しく困難であるか否かを審査する義務を負うが、右(ロ)の点に関する審査には人的な要素、特に理事長に就任しようとする人物の審査も含まれる。また、県知事は、設立認可決定後、法一〇四条一項の規定に基づき組合員から組合の業務若しくは会計が法令、定款、規約に違反し、又は運営が著しく不当であるとの申出を受けたときは、同条二項により法の定めに従つて必要な措置を採らなければならないが、右措置として法は、組合員、役員、使用人、事業の分量その他組合の一般的状況に関する報告の徴収(法一〇五条の三)、組合の業務、会計に関し必要な報告の徴収又はその状況の検査(同条の四)、組合の業務若しくは会計が法令、定款、規約に違反し又は組合の運営が著しく不当であると認めた場合の組合に対する必要な措置を採るべき旨の命令の発布(法一〇六条一項)、右命令に違反した組合に対する解散命令の発布(同条二項)を定めているところ、これらの規定は、いずれも行政庁(県知事)の作為義務を定めたものである。

(2) 県知事の作為義務違反

県知事は、昭和五〇年六月に被告組合から設立認可申請がなされた際、その理事長として被告千歳が就任しようとしていたのであるから、被告千歳の人物調査を行えば同被告が悪徳金融業者であり企業の乗つ取りや借り倒しを行つている悪名高き人物であることが容易に判明し、設立認可を拒絶できたにもかかわらず、右人物調査の義務を怠つた。

また、被告組合設立後の昭和五一年七月に被告組合の幹部職員五名が県の担当課長に組合の運営の問題点を報告し、組合の検査、指導を求めたのであるから、県知事は、法に基づく検査等の措置を直ちに講じるべきであつたにもかかわらず、これを怠り、ようやく昭和五四年二月に至つて検査を実施したため、この時点では既に被告千歳らによつて帳簿、記録等がうやむやにされ、検査を実施しても何ら事実関係が明らかにできなかつたものである。

(3) 県知事の作為義務違反と原告らの損害との間の因果関係

県知事が被告組合の設立認可申請のあつた時に理事長に就任しようとしていた被告千歳の人物調査義務を尽くしておれば、被告組合は設立認可されなかつたか或いは経営的基礎を充実させる措置をとるよう指導がなされていたであろうから原告らの後記損害は発生しなかつた。

また、設立認可後に被告組合の幹部職員によつて組合の検査、指導を求められた際、直ちに県知事によつて法に基づく被告組合の検査等の措置が講じられておれば、その後の原告らの損害は発生しなかつた。

したがつて、県知事の作為義務違反と原告らの被つた後記損害との間には相当因果関係がある。

(4) 以上により、地方公共団体である被告県は、国家賠償法一条、三条により、県知事の給与の負担者として、県知事の前記不作為により原告らに加えた後記4の損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

原告らは、被告らの行為により別紙原告別請求額一覧表の請求金額欄記載の金額に相当する損害を被つた。

5  よつて、原告らはそれぞれ被告らに対し、各自(不真正連帯)別紙原告別請求額一覧表の請求金額欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同表の被告別遅延損害金起算日欄記載の日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

(被告組合)

被告組合は適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

(被告千歳)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は否認する。

3 同3の(一)の事実は争うが、(二)の事実は知らない。

4 同4の事実は否認する。

(被告県)

1 請求の原因1の事実は認める。

2 同2の事実は知らない。

3 同3の(一)の事実は知らないが、(二)の事実は争う。

4 同4の事実は知らない。

三  被告県の主張

1  県知事の作為義務について

法の基本的性格は、中小企業等協同組合が組合員の手による協同組合たることを強く目指しており、組合は自らの創意によつて運営されるべきもので、その運営につき自ら責任をとり、自ら成果を掴むべきものであつて、中小企業がその企業の合理化、競争力の維持増進を図るために組織する自律的共同経営体として捉えているのであるから、法の特別な規定がない限り、県知事が組合内部の運営に立入り干渉することは許されない。また、法二七条の二第四項は、事業協同組合の設立認可につき一定の基準を設け、これによつて行政庁に認可すべき義務を負わせ行政庁の認可権を拘束しているのであつて、県知事は、設立の手続又は定款、事業計画の内容並びに組合の行おうとする事業と組合の経営的基礎との関係を審査の対象とすれば足り、協同組合設立に際し、理事たらんとする者の人物等の調査義務まで負うものではない。

また、組合の設立認可決定後において、法一〇四条は、組合の業務、会計又はその運営につき、文書による組合員の不服の申出権を認め、県知事は不服の申出を受理したときは、法の該当規定に基づいて権限を行使することを定めているが、法の該当規定とは一〇五条の四、一〇六条であり、これらの規定は権限の行使をするかどうかにつき行政庁の裁量を認めているのであるから、右各条文から直接に具体的な行政庁の法的作為義務を導き出すことはできない。しかも、被告組合の場合、県知事が法一〇四条で定めた不服事項につき「その理由を添えた文書をもつて」不服申出を受けた事実はない。

さらに、法一〇五条の三は、所管行政庁による組合の定期実態調査に関する規定であつて、組合に関する行政を適正に処理するために欠くことのできない基本的な資料入手を確保するためのもので、本条に基づく調査は右の範囲内における一般調査であつて行政庁はこの調査によつて知り得た事実に基づき個々の組合に対して法上の監督権を発動することは許されないから、この規定による県知事の作為義務も発生しない。

なお、法一〇五条の四は、所管行政庁の職権に基づく組合の検査に関する根拠規定であり、組合の検査権限は県知事に与えられてはいるものの、右権限を行使するか否か、いつ行使するかは県知事の自由裁量に委ねられており、これを行使しなかつたとしても当不当の問題が生ずるのみで違法の問題とはなり得ない。もつとも、裁量権の不行使が著しく合理性を欠くときには違法となり得る場合もあるが、後記のとおり県知事は被告組合の組合員からの苦情があつた際の事情に応じ、その目的を達成するに必要な範囲で被告組合に対する行政指導、検査、業務改善命令の措置を採つてきたのであるから、県知事の裁量権の行使に関し何ら違法はない。

2  県知事が被告組合に対して行つた行政指導について

(一) 被告組合の設立後である昭和五一年夏、被告組合の職員数名が被告県の所管部課である水産商工部商工振興課(以下「所管課」という。)に出頭し、係長の今村保(以下「今村係長」という。)に対し、被告組合の代表理事である被告千歳が組合の管理運営につき独善的であること、組合職員の給与の支払につき遅延があること等、組合の業務管理運営につき口頭で苦情を申し立てた。これに対し、今村係長は、被告千歳に出頭を求めて事情を聴取したうえ、同被告の独善的な管理運営を改めること、職員の給与の支払を遅滞なく行うこと等、前記苦情の内容に即した行政指導を行つた。

(二) 昭和五二年二月ころ、被告組合の理事松浦清ほか職員数名が所管課に出頭し、今村係長に対し、前記行政指導にもかかわらず、いまだ被告千歳の組合に対する独善的な管理運営が改められていないこと、組合職員の給与の支払が遅延していること、組合職員の出勤する事業所が明確でないこと等、組合の管理運営に対する苦情を口頭で申し立てた。これに対し、今村係長は同様の苦情が再度申し立てられたことを重視し、鹿児島県中小企業団体中央会(以下「中央会」という。)の協力を得て、同月一〇日及び同年三月一日に被告組合の運営につき第一回目の調査を行つた。右調査に当たつては、苦情の申立てが被告組合の業務管理運営に関するものであり、共済事業の内容については何ら苦情の申立てがなかつたこと、被告組合の事業計画書、定款によれば、被告組合は福利厚生事業としての共済事業しか行えないこととなつているため、被告組合が危険責任を負担して見舞金の程度を超える共済金を給付するいわゆる自家共済を県知事の認可なく実施することは考えられなかつたことから、被告組合の管理運営事項に重点をおいて調査を実施した。

このため被告組合の共済事業についての調査は、生命共済が朝日生命保険相互会社の、所得共済が安田火災海上保険株式会社の団体保険にそれぞれ加入していることを聴取した程度のものであつたが、団体保険に加入しておれば生命共済及び所得共済の被保険者に損害を及ぼすことはなく、また、被告組合が危険責任を負担するものでもないので損害を受けることもないと判断し、これらの事業が福利厚生事業の一環として健全に運営されるよう被告組合を指導した。ただ右生命共済、所得共済の約款が総代会の議決を経ていないため、事後ではあるが総代会の議決を受けるよう指導した。

また、住宅福祉共済についても安田火災海上保険株式会社の団体保険に加入していることを聴取したが、約款自体が存在しないにもかかわらず掛金の受入れが行われていることが共済掛金台帳から判明したので、生命共済、所得共済と同様に事後ではあるが総代会で約款の内容を確定し約款を作成するよう指導した。

これらは、いずれも保険会社の団体保険に加入していると聴取していたため、福利厚生事業の一環としての共済事業を実施しているものと考えられたからである。

県知事は、右調査の結果に基づき、被告組合に対し、昭和五二年三月七日付け水産商工部長名をもつて、被告組合の定款の整備をなし総代数を増員すること、組合員名簿の整備をすること、組合加入手続を定款どおりに行うこと、行政庁への報告義務を遵守すること、経理の適正を図ること、共済事業につき組合員利用と員外利用の法定比率を遵守し、組合員の福利厚生事業としての共済事業の健全な実施をすること等、八項目にわたつて改善事項を通知し、業務運営についての行政指導を行つた。

県知事の右改善事項の告知に対し、被告組合は、同年四月二六日付け文書をもつて指導事項についての善処方を確約し、次いで同年五月三〇日の総代会で生命共済、所得共済及び住宅福祉共済の各約款の議決をなし、県知事の指導に前向きに対処する姿勢を示し、同年八月に提出された被告組合の昭和五一年度決算報告書にも欠損はなかつたので、県知事も被告組合内部での改善措置を期待した。

(三) 昭和五二年八月及び同年一〇月に、被告組合の生命共済の契約者の死亡事故につき共済給付金の支給が遅延している旨の苦情が被告県の所管課の水産商工部中小企業指導課に口頭でなされたので、県知事は、右第一回目の調査に基づく指導通知事項の改善状況の調査を兼ねて再度被告組合の業務管理の運営状況を把握すべく、鹿児島県中央会の協力を得て同年一一月二五日に被告組合に対する第二回目の調査を実施した。この調査では、苦情のあつた生命共済給付金の支払について行政指導すると共に、定款、総代会及び理事会の議事録、組合員名簿、出資台帳、共済掛金台帳、決算関係書類等について調査を実施した。

県知事は、右調査の結果に基づき、被告組合に対し、同年一二月六日付け水産商工部長名をもつて、組合の加入者が増加しているので定款の一部改正をし総代の定数を是正すること、役員変更届出義務を遵守すること、理事の欠員補充をすること、共済事業につき昭和五三年度に見込まれる脱退還付金の給付の額を試算し、支払財源について具体案を策定すること、共済事業の員外利用の利用率の制限を遵守すること、共済給付金の支払の迅速化に努めること、経理内容を明確にし、適正な経理を図ること等、一〇項目にわたり改善事項を文書で通知し、業務運営についての行政指導を行つた。

これに対し、被告組合は、右改善すべき事項のうち定款変更を要する部分については昭和五三年三月一〇日定款変更申請書を県知事に提出し、同月一五日変更の認可を受けたが、同年六月に生命共済給付金の支払がなされていない旨の苦情が重ねて被告県の所管課に持ち込まれたため、所管課において調査をしたところ、朝日生命保険相互会社は既に被告組合に対し当該死亡事故につき保険金を支払つていることが判明した。そこで、所管課の担当係長は、被告組合に対して早急に共済給付金の支払方を指導するとともに、同年八月一二日被告千歳に出頭を求め、生命共済給付金の支払事務遅滞の原因を問いただし、今後共済給付金の支払遅延のないよう指導し、併せて昭和五二年度決算関係書類を早急に提出するよう求めたところ、昭和五三年八月二九日に右決算関係書類が県知事に提出された。

(四) 県知事は、昭和五三年一〇月二六日中央会に対し被告組合に対する監査及び経理の指導方を要請し、その被告をもとに同年一二月一日第三回目の調査を実施した。

右調査の結果、

(1) 生命共済については、朝日生命保険相互会社の団体保険に昭和五〇年一一月加入したものの保険料未納のため昭和五二年六月これが失効しており、また、被告組合の生命共済約款に定めた貸付金の貸付及び脱退還付金の支払については、右保険会社の団体保険約款には何らの定めがなく右範囲での共済事業は組合独自の定めで組合が責任を負う形の共済制度であること

(2) また、所得共済については、安田火災海上保険株式会社、日新火災海上保険株式会社の団体保険に加入しており、加入者の不慮の事故による死亡、入院、又は休業等につき、共済給付金を支給することになつているが、生命共済と同様に被告組合の所得共済約款に定めた貸付金の貸付及び脱退還付金の支払は団体保険の約款には何らの定めもないことから、右共済約款は被告組合の独自の定めで、この部分については被告組合が自ら危険責任を負担する形の共済制度であること

(3) 住宅福祉共済については、共済約款において加入者は併せて所得共済に加入することとされているので、所得共済については右(2)で述べたとおり保険会社の団体保険に加入しているが、住宅福祉共済については保険会社の団体保険に加入しておらず、しかも、住宅福祉共済約款には共済事故及び共済給付金についての定めはなく積立掛金は満期時に配当金を付して返還する旨を規定していることからして出資法二条の預り金に該当する疑いがあること

(4) 被告組合は、右共済事業において組合員資格を有しない者と生命共済、所得共済、住宅福祉共済の各契約を締結しており、員外利用区分が不明確であること

以上の各事実が判明した。

県知事は、右調査の結果に基づき昭和五三年一二月中小企業庁と協議のうえ組合の代表理事の被告千歳に出頭を求め、次の各事項につき行政指導した。

(1) 住宅福祉共済は出資法違反の疑いがあり法九条の二に規定する福利厚生事業の範囲を逸脱する疑いがあるので速やかにこれを停止し、今まで積立てた積立掛金を契約者に払い戻すこと、また、約款に基づき貸し付けた貸付金の早急の回収を図ること

(2) 生命共済については、朝日生命保険相互会社との団体保険契約が失効していることを加入者に通知し、被告組合が危険を負担する形での共済事業は停止すること、また、契約者から徴収した共済掛金のうち保険会社に払い込んだ保険料を上回る共済掛金すなわち貸付金に充てた部分に相当する額は契約者に払い戻すこと、生命共済約款に基づく貸付金は早急に回収を図ること

(3) 所得共済については、安田火災海上保険株式会社及び日新火災海上保険株式会社の団体保険に加入しているが、これらの保険会社に払い込んだ保険料を上回る共済掛金額のうち貸付金に充てる部分に相当する額は契約者に払い戻すとともに約款に基づく貸付金の回収を図ること、また約款に基づく共済掛金のうち保険会社に払い込む保険料を超える部分については、その徴収を即時停止すること(団体保険として適正に実施すること)

(4) 組合員に対して貸付金の貸付けができるのは、組合員の事業に必要とする資金に限られるので生活に必要な資金の貸付けは行わないこと

(5) 組合の事業については員外利用制限を遵守すること

3  県知事が被告組合に対して行つた法一〇五条の四の規定に基づく検査及び措置について

(一) 第一回検査

(1) 県知事は、前記2の第一回ないし第三回の調査結果に基づき、再三にわたり被告組合に対し事務運営等につき行政指導を行つてきたが、共済事務の基本的部分につき改善がなされていないこと及びその後も生命共済につき脱退還付金が支払われていない旨の契約者からの苦情、照会が絶えないこと等を勘案し、被告組合の業務が法令に違反し、その運営が著しく不当である疑いを持つたので、昭和五四年二月一九日から同月二一日まで、被告組合に対し法一〇五条の四の規定に基づく第一回目の検査を実施し、その結果に基づき改善整備すべき事項を指摘した。

(2) 第一回検査の結果に基づき昭和五四年四月一〇日付け中企第一六号をもつて指摘した改善整備すべき事項は要旨次のとおりであつた。

(イ) 住宅福祉共済については、法九条の二第一項三号に定める福利厚生事業に該当せず、法に定める事業の範囲を逸脱するものであり、また、積立掛金は共済約款上も共済事故に対する反対給付について何らの定めがなく、しかも配当金を付して返還する旨定められているから「預り金」と解され、出資法違反の疑いがあるので、右事業を直ちに停止すること

(ロ) 生命共済については、昭和五四年一月から再度安田生命保険相互会社の団体保険に加入したものの、生命共済約款上、右保険会社との再保険契約は共済加入者に適用しないと定められており、生命共済約款に基づく事業は被告組合独自の共済事業として運営されている。そして共済加入者が払い込んだ一口一〇〇〇円の掛金のうち四五五円は右保険会社の保険料に充当され、差額五四五円は共済経費及び共済積立金に充当されているが、右共済積立金は、共済約款上、貸付金として運用する旨定められているので、貸付金の原資の調達を目的としたものと解され、出資法違反の疑いがあるので、掛金は保険会社の団体保険として適正に処理するよう改めること

(ハ) 所得共済については、検査時点では損害保険に加入していたが、その共済積立金については生命共済と同様の問題があるので、保険会社の団体保険として適正に処理するよう改めること

(ニ) 共済約款に基づく事業は、脱退者が極めて多いので、無理な加入推進を行うことは厳に慎むこと

(ホ) 本年度の決算に基づく積立剰余金によつて支払うべき脱退者に対する脱退還付金の計算を行い、その支払に遺憾のないようにすること

(ヘ) 組合事業の組合員以外の者の利用については、法によつて制限されているので員内又は員外の区分を明確にし、員外利用の利用率の制限を遵守すること

(ト) 貸付金のうち組合事業として認められない共済貸付けによるものについては速やかに回収すること、また、組合事業として行う貸付けについては、法及び組合規約に基づき適正に処理し、貸付け手続上必要とされる借用証、伝票等の作成、保管、管理についても適正に行うこと

(チ) 組合脱退者に対する持分の払い戻しは、定款に基づき適正に処理すること

(リ) 組合の経理を明瞭、確実、迅速に処理するため各種帳簿の整理を行うこと、また、共済部門の経理を他事業と区分し、適正な決算を行うこと

(二) 第二回検査

(1) 県知事は、被告組合に対し、右第一回の検査に基づく指摘事項について一か月以内に措置の結果及び改善計画を回報するよう求めたが、被告組合からの回答は期限までになされず、その後の督促にもかかわらずこれが遅延していたため、県知事は昭和五四年八月一六日から同月一八日まで、被告組合に対し法一〇五条の四の規定に基づく第二回目の検査を実施した。

(2) 本検査においては、第一回検査の指摘事項についての改善状況とその後の組合の実態把握に努めたが、業務改善がみられず、記帳経理が遅れ、証ひよう書類も不備なため業務及び会計の状況を十分明らかにすることができなかつた。

このため県知事は、被告組合に対し、早期に帳簿、証ひよう書類を整備し、決算関係を明確にするよう指示するとともに、第一回検査の指摘事項について改善措置をとるよう指示し、その結果及び改善計画を報告するよう求めた。

(三) 第三回検査

(1) 県知事は、第二回検査後、組合代表理事の被告千歳から検査の際指示した決算修正伝票写しの一部、所得共済給付金未払明細書等の提出がなされたので、昭和五四年九月三日所管課においてこれにつき事情聴取した。しかし、右提出資料によつても決算関係を明瞭にするにはいまだ十分ではなかつたので、更に、決算関係について修正整理をするよう指導し、指示を与えた。

これに対し、被告千歳は、決算については一〇月中を目途に終了し、税務署に対する修正申告をする、また、被告組合の運営については九月中旬に臨時総代会を開催し役員改選を行う、代表理事は平川泰三に引き受けてもらうように内諾を得たが、代表理事を退任しても理事としてとどまり責任をもつて事業を整理する旨表明したので、県知事は、指示事項について措置の結果を報告するよう求め、決算関係の修正整理が終了した段階で第三回目の検査を実施する旨伝えた。

しかし、その後の県知事の督促にもかかわらず被告組合から決算関係書類の提出及び法三五条の二の規定に基づく役員変更の届出はなく、また、検査の結果に基づき指摘した改善事項の措置結果等についても何らの回答がなされなかつたので、県知事は、昭和五四年一一月一三日から同月一七日まで被告組合に対し更に第三回目の検査を実施し、その結果に基づき改善整備すべき事項を指摘した。

(2) 第三回検査の結果に基づき指摘した改善整備すべき事項は要旨次のとおりであつた。

(イ) 昭和五四年三月三一日現在の組合脱退者が一四八名、共済約款に基づく事業の脱退件数は五四五一件で加入件数の五〇パーセントにも達し、この事業に対する苦情も多く、組合運営が組合員の信頼を受けていないと認められ、また、検査期間中にもかかわらず職員の欠勤が多い(五日間で常勤理事及び職員延一〇五名中、延三八名が欠勤又は無断欠勤)など代表理事、常務理事、幹部職員の内部統制と指導力が発揮されておらず、更に、法令違反の業務執行、決算の遅延、重要帳簿の不備など役員の善良なる管理者の注意義務が果されていないと認められるので、組合の管理運営体制の確立を図ること

(ロ) 組合の共済約款に基づく事業については、法九条の二第三項に定める組合員以外の者の事業利用分量を超えているので、組合員の相互扶助の理念に立つた事業利用を基本として適法な運営に改めること

(ハ) 組合の共済約款に基づく事業については、第一回検査の結果に基づく指摘事項について改善整理を急ぐよう指示したほか、住宅福祉共済約款に基づく事業は、法に定める共済事業の範囲を逸脱するものであり、事業の停止を指摘したにもかかわらず昭和五四年八月二七日新規契約をしているので事業を停止すること、生命共済約款に基づく事業は、約款上も共済事業として適当でないので契約者に損害を及ぼさない措置を講じたうえ約款を廃止すること、安田生命保険相互会社への未払保険料(三八七万〇三三五円)を速やかに払込むこと、朝日生命保険相互会社から支払のあつた保険金の一部を被告組合で控除して支払つているものが二七件分、一〇五一万二〇三六円(検査時において組合作成の個人別支払明細表から把握しており、未確定のものである。)を組合の収益とすることは不当であるので適正に処理すること、組合の生命共済約款に基づく共済金の未払分三二件、二四〇〇万一五〇〇円及び脱退還付金の未払分六六四件、五〇八万八七〇〇円を早期に支払うこと、また、契約者に対する将来の支払に遺憾のないようにすること、保険金支払金額から出資金を控除することは、保険の趣旨に反するのでこれを適正に処理すること、組合の所得共済約款に基づく給付金の未払分二二件、三九五万八九六五円を適正に処理することを指摘した。

(ニ) 貸付金については、記帳を明確にし、回収についてもその責任を明確にして処理すること

(ホ) 昭和五三年度末の脱退者四六件に対する出資金(持分)の払い戻しを完了すること

(ヘ) 組合の借入金一億〇五〇〇万円及び当面支払を要する債務保険料等九六〇万円の資金調達の準備及び組合業務の整理に伴う経営収支の見通しを立てること

(ト) 昭和五三年度決算を早急に完了し、報告すること

(チ) 昭和五四年四月以降、総勘定元帳(損益元帳)が記帳されておらず、毎月残高試算表も作成されず、経営管理上極めて遺憾な状況にあるので早急にこれを整備すること

(リ) 保険関係事業と他事業との経理を区分すること

(四) 業務改善命令

県知事は、右に述べた三回の検査結果に基づく改善整備事項の指摘にもかかわらず被告組合が改善措置等をしないため、中小企業庁と協議を行つたうえ、昭和五四年一二月一二日付け指令中企第二号をもつて被告組合代表理事に対し法一〇六条一項の規定に基づく業務改善命令を発した。

(五) 第四回検査

(1) 県知事は、右業務改善命令を発した後、これに対する被告組合の業務改善状況を把握するため昭和五五年六月二六・二七日、組合に対し、法一〇五条の四の規定に基づく第四回目の検査を実施した。

(2) 検査の結果、被告組合の管理運営については、代表理事が辞表を提出するなど依然として執行体制が確立しているとはいえない状況にあり、総代会も開催されていなかつた。また、決算関係については、昭和五五年一月から経理に明るい男子職員一人を新規採用し、専ら決算経理事務に従事させ、元帳の記入整備と決算書類の作成を進めているもののいまだ決算事務は完了していなかつた。しかし、被告組合の共済約款に基づく事業については新規契約推進を行わず、昭和五三年度末の脱退者に対する出資金(持分)の払い戻しについては一部支払いを行つている状況にあつた。

このため県知事は、被告組合の執行体制を確立し早期に決算事務を終了して総代会を開催するよう指導したうえ業務改善命令に対する被告組合の措置状況については再度検査を実施することにした。

(六) 第五回検査

県知事は、第四回検査に引き続いて組合の業務改善状況を把握するため、昭和五五年九月一日から同月四日まで、被告組合に対し法一〇五条の四の規定に基づく第五回目の検査を実施したが右二回の検査の結果に基づいて判明した組合の改善措置状況は次のとおりであつた。

(1) 組合の管理運営体制の確立について

県知事の指示、指導にもかかわらず決算事務はいまだ完了せず、総代会も開催されないままであり、また、代表理事ほか理事五名が辞表を提出し専務理事も欠員の状態で組合の執行体制は確立されておらず、役員の善良なる管理者としての注意義務は果されていなかつた。更に、昭和五五年三月三一日現在の組合員数は組合員名簿上は一九四一名となつているが、設立初年度から出資金を払込んでいない者を名簿に登載し、総代の中にも出資金を払込んでいない者があることも判明した。

(2) 組合業務の改善整理について

(イ) 員外利用制限の遵守

被告組合の共済約款に基づく事業については、業務改善命令後は新規契約推進を行わず、また、共済契約期間の満了による員外者の脱退等によつて員外利用の状況は改善されてはいるものの、組合員数が大幅に減少しているため、依然として適法な運営に改められていなかつた。

(ロ) 組合共済約款に基づく事業の改善整理

住宅福祉共済については、昭和五四年度末現在の加入累積件数六七六件、掛金総額三四一四万円となつているが、契約継続件数は昭和五三年度末の四四四件から一六三件に減少していた。しかし、契約期間満了者又は中途解約者に対する積立金五一三件二一九三万四〇〇〇円の払い戻しは全く行われていなかつた。

生命共済については、昭和五四年度末現在の加入累積件数九七一八件、掛金総額三億五〇一四万六〇〇〇円となつているが、これらはいずれも保険会社の団体保険として実施すべきものであるにもかかわらず、保険会社との契約は保険料の払込遅延のため失効し、組合が共済責任を負う形での共済となつており、未だ適正な処理がなされていなかつた。

また、契約継続件数は昭和五三年度末の三六七二件から一六一七件に減少し、事業の整理が進められていたが、保険会社との団体保険契約は締結されていなかつた。生命共済の脱退者一六五三件に対する脱退還付金が未払であつた。

所得共済については、昭和五四年度末現在の加入累積件数三〇一四件、掛金総額七三四八万八〇〇〇円となつているが、生命共済と同様保険会社の団体保険として実施すべきにもかかわらず昭和五四年一〇月期限切れとなつたままであつた。また、契約継続件数は昭和五三年度末の一二一三件から二六三件に減少し、事業の整理が進められていたが、保険会社との団体保険契約は締結されていなかつた。所得共済の脱退者四八四件に対する脱退還付金が未払であつた。

(ハ) 貸付金等の適正処理

被告組合の貸付金が仮受金又は未払金と内部振替え(相殺)が行われ、これが補助元帳に記載されていないことについては、昭和五四年四月一日にさかのぼつてこれを改め、また、もとの仮受金(元帳)及び仮払金(元帳)に振戻し記帳されていた。しかし、貸付金について債権保全措置を講じていないこと、あるいは仮受金又は未払金と相殺していること等不当な処理をしている経緯についての事実関係が明確でなく、これが適正処理について改善措置はなされていなかつた。

(ニ) 組合脱退者に対する持分の払戻し

昭和五四年度決算が終了していないため、年度末現在における組合脱退者七一名中六二名分の出資金(持分)の払戻しが未了であつた。

(3) 資金の調達運用及び経営収支の見とおしについて

被告組合の借入金の返済その他被告組合が支払うべき債務(共済脱退還付金、共済給付金、出資金の払戻し、法人税の未納金等)の支払については、決算事務も完了していない状態で資金手当もなされておらず、また、組合業務の改善整理に伴う経営収支についても見とおしが立つていない状況であつた。

(4) 決算報告及び経理の適正化について

被告組合の総勘定元帳及び補助簿の記帳が遅れており、また、勘定科目についても仮受金、仮払金等の仮勘定で処理するなど適正処理がなされていないため昭和五三年度及び昭和五四年度の決算は完了していなかつた。また、共済関係事業と他事業との経理の区分もなされていなかつた。

県知事は、検査の結果、右に述べたとおり業務改善命令に対する組合の業務改善措置が十分に図られていなかつたため、指摘事項の各項目については検査の時点でそれぞれ改善措置の内容について行政指導したが、更に、昭和五五年一二月一七日組合代表理事平川泰三、同理事被告千歳らを県庁に出頭させ、業務改善命令に対する改善措置の実行、組合の今後の運営対策について指導し、指示を与えた。そして同日付け水産商工部長名の文書をもつて業務改善命令に対する措置状況の報告を求め、併せて、昭和五四年度決算事務を早急に完了し、被告組合の業務、会計、運営の状況を明らかにするとともに債権債務を確定すること、また、脱退還付金等の支払方法を明らかにし、被告組合役員の責任において実行することについて昭和五六年一月二〇日までに措置方針を報告するよう求めた。

しかし、現在に至るまで組合からの報告はなされていない。

(七) 第六回検査

(1) 右に述べたとおり、県知事は、業務改善命令発出後二回の検査を実施したが、被告組合の業務改善措置は十分でなく、帳簿等の整備もなされず決算事務も完了していない状況であつた。

このため県知事は、被告組合代表者らに対し改善措置を図るよう指導し、措置状況の報告を求めたが、被告組合代表理事は理事の辞表を提出していることを理由に改善措置をとることについての誠意を示さず、一方、昭和五五年一二月一九日鹿児島商工協同組合被害者の会代表から県との話し合いを行いたい旨の申し入れがあり、組合の共済事業の実態及び資金の流れを明確にするよう強く求められたこともあつて、組合からの報告期限をまたず同年一二月二二日から同月二四日まで、組合に対し、法一〇五条の四の規定に基づく第六回目の検査を実施した。

(2) 本検査においては、<1>被告組合の収入(共済掛金、保険金収入金)及び支出(保険会社への保険料、共済給付金、脱退還付金等の支払)の状況、<2>仮受金、仮払金等の仮勘定の経理状況、<3>共済事業についての新規契約の状況の把握に焦点を置いて検査を実施したが、仮受金、仮払金の補助元帳については、昭和五一年度にさかのぼつて記帳整備を進めているものの、整理が遅れているため決算書の作成には日時を要する状態であり、収入、支出の状況を十分に把握することは困難であつた。また、共済事業については業務改善命令を受けた後、四件の新規契約が発生していることも判明した。このため県知事は、引き続いて被告組合の検査をする必要があると判断し昭和五六年一月七日から九日まで、同月一二日から一四日まで、更に第七回目の検査を実施することにした。

(八) 第七回検査

本検査においては、昭和五〇年度から昭和五四年度までの被告組合の経営収支等を把握するために、これまでの検査結果を踏まえて更に全般的に検査を実施したがその状況及び検査結果に基づき指示した事項は要旨次のとおりであつた。

(1) 総代会及び理事会の議事録の整備保管

総代会及び理事会の議事録はその一部しか提出がなく、また、提出された理事会の議事録のうち昭和五四年一〇月一二日、昭和五五年一月二六日同年四月二一日開催分については議事録の原本がなく原稿が提出された。このため県知事は、直ちにこれを整備し、県に提出するよう指示した。

(2) 帳簿の整備保管

仮払金、仮受金の補助簿については、昭和五〇年度(一期)から昭和五四年度(五期)までの帳簿を元帳から転記中であつたので、早急に整備するよう指示した。

また、昭和五五年度の金銭出納簿及び昭和五〇年度(一期)から昭和五三年度(四期)までの当座預金出納帳については提出がなく、担当職員が欠勤しているため帳簿の存在すら確認できない状況であつた。

(3) 共済給付金の支払状況

共済給付事由が発生した件数、その金額、保険金の請求日、保険会社から支払われた保険金の受入れ状況等については、その全部を確認することができず、調査を完了することができなかつた。

このため、県知事は被告組合に対し、保険会社から支払のあつた保険金の個人別内訳及び共済給付事由の発生した個人別請求金額及び支払、未払の調書を提出するよう指示した。

(4) 共済脱退還付金

生命共済については、一年以上掛金を納付すれば脱退還付金を受ける資格があるにもかかわらず、脱退の申し出がないものは失効の扱いをしており、その件数も多かつたため掛金額についての調査はできなかつた。

(5) 仮払金及び仮受金

仮払金及び仮受金については残高試算表の作成事務も完了せず、証ひよう書類による残高確認もできなかつたことから、確定した債権・債務ではないので調査のうえ内容を明らかにするよう指示した。また仮払金の多額なものについては債務者から残高確認書を徴し、利息を含めて債権の回収を図るよう指示した。

(6) 貸付金

昭和五五年三月三一日現在の貸付金の残高は一九件、二三六九万七七三〇円あつたが、証ひよう書類の提出がなく債権を確認することができなかつた。貸付金のうち返済期限の到来したものは早急に債権を回収するよう指示した。

(7) 未払金及び立替金

昭和五五年三月三一日現在の未払金は二億五二四三万二九二八円となつていたが内訳が不明であつたため証ひよう書類及び積算基礎を明確にして債務を確定するよう指示した。

また、昭和五五年三月三一日現在の立替金は三一一万九八五〇円となつていたが、元帳との差が三四三万六一四〇円あつたため明細表を作成し、その理由を明確にするよう指示した。

(8) 出資金

出資金調書によつて各年度毎の加入状況及び出資金の払込金額を、また、出資金(持分)の払戻し調書によつて脱退者に対する払戻し金額を確認したが、昭和五四年度末の払戻しの対象となるものは、六〇件であつた。

なお、昭和五四年度末の出資金は四一二五万七〇〇〇円(残高試算表)であつたが、出資金調書から算出した出資金は五八四一万円であり、その差一七一五万三〇〇〇円であつたのでこれを調査するよう指示した。

(9) 決算

経費の支出を金銭出納簿、伝票等で確認したが、出金伝票があつて領収書のないものや記帳洩れがあつたので、帳簿、証ひよう書類等の整備を早急に行い、昭和五四年度決算を終了するとともに共済部門別損益を確定するよう指導した。

また、給与等の支出年度が明確でないもの、給与等の支払額が金銭出納簿及び伝票による算出額と残高試算表による額と不整合のもの、支出金の内容及び支出日が明確でないもの等についても、これを調査して適正に処理するよう具体的に指摘した。

(九) 第八回検査

県知事は、右検査結果を踏まえて、引き続き被告組合の昭和五〇年度から昭和五五年度までの業務、会計及び運営の状況を把握するため、昭和五六年二月三日から同月五日まで、被告組合に対する法一〇五条の四の規定に基づく第八回目の検査を実施したが、初日に職員一人の立合があつただけで立合が得られず、昭和五四年度の損益元帳、同五五年度の金銭出納簿等の帳簿の提出もなかつたので十分な調査ができなかつた。

(一〇) 第九回検査

県知事は、前回の検査が十分にできない状況であつたために、昭和五六年二月九日被告組合に対し、再検査を実施すること、検査態勢を整えることについて文書で通知し、更に、同月一四日理事全員に出頭を求め(理事八名出頭)、県産業会館において理事の責任及び今後被告組合がとるべき対策について指導するとともに検査態勢を整えるよう指示した。そして同月二〇日から同月二七日まで(二二日を除く)、被告組合に対し法一〇五条の四の規定に基づく第九回目の検査を実施したが、検査の状況及びそれに基づき指摘した事項は要旨次のとおりであつた。

(1) 組合の管理運営体制の確立について

代表理事、常任理事二名、及び理事五名が辞表を提出したまま、残任義務があるにもかかわらずその職責が果されていない状態であつたので、委任の本旨に従い善良なる管理者としての注意義務を果すよう指示した。県知事の業務改善命令に対する措置状況の報告等組合役員の責任において実行することを求められている事項については、早急に理事会を開催し、これに対応するよう指示した。決算事務については、経理担当職員を採用して事務処理にあたらせているものの記帳整理が遅れており、損益元帳、当座預金出納帳、総勘定元帳等の提出を求めても提出されない状況であつた。また、昭和五六年一月には経理担当職員ら六人が離職しており、決算事務を終了する見とおしも立つていない状況であつたので、理事会を開催し早急に対策を講ずるよう指示した。

(2) 組合業務の改善整理について

被告組合の共済約款に基づく事業については既に業務を停止していたが、保険金及び共済給付金の支払、脱退者に対する持分の払戻し等の事務は完了していなかつたので、これらの事務を早急に完了するよう指示した。また、仮払金及び仮受金については、帳簿及び証ひよう書類によつてもその内容を十分に把握することができない状態であつたので、各人毎に債権、債務を確認し、実質的に貸付金であるものについては元利金を回収し、帳簿上も適正科目で整理するよう指示した。

(3) 資金の調達運用及び経営収支の見とおしについて

被告組合の債務弁済のための資金の調達が十分にできず、保険会社への保険料の払込み、保険金、共済給付金、脱退還付金等の支払いが遅延していたので、貸付金の債権の回収を含めて資金手当をし、債務の弁済を実行するよう指示した。また、経営収支の見とおしが立てられず、業務の停止と債務弁済の遅延を招いたことについては、その責任を明確にするよう指摘した。

(4) 決算報告及び経理の適正化について

昭和五三年度及び昭和五四年度の決算関係書類を早急に県に報告するよう指示し、昭和五四年度決算については、理事会で決算事務体制を確立する措置を早急に決定し、決算の終了と債権債務の確定をするよう指示した。また、保険関係事業と他事業を区分し、共済部門の損益を明らかにするよう指示した。被告組合の昭和五〇年度から同五二年度までの決算については、決算報告された仮払金、仮受金の残高と帳簿上の残高との不整合があつたが、決算修正伝票、合計残高試算表等の証ひよう書類の提出を求めてもこれが提出されなかつたためにその理由を解明できず、また、被告組合の事業運営上、多額の仮払金、仮受金を必要とした理由についても、事業計画、決算及び証ひよう書類等から明確にするよう求めたが明らかにされなかつた。

4  県知事が法一〇五条の四の規定に基づく検査完了後に被告組合に対して採つた措置

(一) 県知事は、昭和五六年三月一七日被告組合理事に出頭を求め(理事六名出頭)、中央会会議室において、被告組合の昭和五四年度決算を早期に完了すること及び今後の組合の対応策について指導し、検査結果に基づく示達事項については、これを守らない場合には法的措置がとられることになるので遵守するよう指示した。

(二) 県知事は、被告組合に対する検査の結果、業務改善命令及び再三にわたる指導にもかかわらず改善措置がなされなかつたので、同月一八日付け中企第七七六号水産商工部長名をもつて、被告組合代表理事平川泰三あて、業務改善命令の遵守及び今後組合のとるべき対策について示達し、次の事項についてすべての措置を完了したうえ同年五月二〇日までに報告するよう求めた。

(1) 昭和五四年度決算を早期に終了するとともに、同年度末及び昭和五六年二月末における組合の債権、債務を確定すること

(2) 未払となつている共済給付金、生命共済及び所得共済の脱退還付金の支払を完了すること

(3) 住宅福祉共済については、直ちに積立掛金を払い戻すこと

(4) これらを実行するため、総代会又は総会を開催すること

(5) 総代会終了後速やかに県に決算関係書類等の報告書を提出すること

なお、右示達については、中央会に対しても、組合の運営指導方について文書で依頼した。

(三) 県知事は、同年四月三日被告組合理事に出頭を求め(理事六名出頭)、県産業会館において、右示達事項に対する組合の処理対策等について指導した。

(四) 県知事は、同月一七日被告組合代表理事平川泰三に出頭を求め、自治会館において、右示達事項の実行を図るために理事会を開催し、理事の責任において事務を推進するよう指導した。

(五) 県知事は、同年五月一日開催された被告組合の理事会に職員を臨席させ、今後の組合運営及び右示達事項に対する理事の対応について指導した。

(六) 県知事は、被告組合の帳簿等関係書類を保管している理事である被告千歳(前代表理事)が右理事会に出席しなかつたため、同月一二日被告千歳に右理事会の決定事項を伝えるとともに、理事の協力体制を確立してこれを実行し、右示達事項を遵守するよう指導した。

また、翌一三日組合代表理事平川泰三ほか理事四名に対し、理事被告千歳に対する指導内容を伝えるとともに、特定の理事だけでなく理事全員が協力して右示達事項を遵守するよう指導した。

(七) 県知事は、すでに述べたとおり被告組合に対し、検査、指導を重ね、業務改善命令を発し、これを遵守すべく示達してあらゆる努力を尽してきたが、組合はこれを実行せず、報告期限までに示達事項についての報告をしなかつたので、県知事は、同月二一日組合代表理事平川泰三、前代表理事被告千歳を刑事訴訟法二三九条の規定に基づき業務改善命令違反等を理由に告発した。

以上のとおり、県知事には何ら作為義務違反はないのであるから、被告県は原告らに対し国家賠償法上の責任を負ういわれはない。

四  被告県の主張に対する原告らの認否

1  被告県の主張1は争う。

2  同2ないし4の各事実は、いずれも知らない。

第三証拠<略>

理由

第一被告組合に対する請求について

被告組合は民訴法一四〇条三項により原告ら主張の請求原因事実をすべて自白したものとみなされ、右事実によれば原告らの同被告に対する請求は理由がある。

第二被告千歳及び被告県に対する請求について

一  請求の原因1の事実については、原告らと被告千歳及び被告県との間で争いがない。

二  被告千歳の違法行為

右争いのない事実並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(但し、原告らと被告県との間では成立に争いがない)<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被告千歳は、昭和四九年七月ころから法に基づく事業協同組合の設立準備を始め、昭和五〇年四月一四日、設立同意者三〇七名の出席を得て被告組合の創立総会を開催し、定款制定承認、事業計画書及び収支予算設定承認等の議決を経たうえ、理事として被告千歳ほか一〇名を、監事として下濱照夫を選出した。

2  次いで被告千歳は、同年六月二一日発起人代表として鹿児島県知事に対し、被告組合の設立認可申請を行い、同年七月三〇日認可を得たが、右申請にあたつて添付された定款や事業計画書によれば、被告組合は、「組合員のために必要な共同事業を行い、もつて組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ること」を目的とし、(一)組合員の取り扱う車輛、消耗品等の共同購買、(二)組合員のためにする事務指導代行業務、(三)組合員に対する事業資金の貸付け(手形の割引を含む)及び組合員のためにするその借入れ、(四)商工組合中央金庫、銀行その他組合員の取引金融機関に対する組合員の債務の保証、又はこれらの金融機関の委任を受けてする組合員に対するその債権の取立て、(五)組合員の事業に関する経営及び技術の改善、向上又は組合事業に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供、(六)組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結、(七)組合員の福利厚生に関する事業、(八)右の各事業に附帯する事業を事業内容とするもので、組合員の資格として、組合の地区内に事業場を有する建設業、製造業、卸小売業、金融保険業、不動産業又はサービス業を行う事業者であることを掲げ、組合の承諾を得て加入することとしている。また、右申請時に添付の役員名簿には被告組合の理事長に被告千歳が、その余の理事にプロダクシヨン経営の土岐元明外九名が、監事に組合員外の下濱照夫が記載されている。

3  右認可後、被告千歳は、鹿児島市山之口町七番六五号に事務所を、同市城南町七番四七号第二東カンマンシヨン一階に営業所をそれぞれ設置したうえ、同年九月二〇日に被告組合設立の登記を経由してこれを成立させ、被告組合の理事長として組合事業を開始したが、組合設立の当初の目的が金融にあつたものの、銀行や商工中金からの資金の借り入れが思うに任せなかつたため、被告組合の事業目的のうち組合員の福利厚生に関する事業に含まれるとの考えの下に、次の内容による生命共済、住宅福祉共済、所得共済の各事業を自ら考案して実施した。

(一) 生命共済事業

(1) 加入資格

被告組合の組合員及びその従業員

(2) 保障期間

毎年一一月一〇日から翌年一一月九日までの一年間

(3) 給付内容

死亡保険金、廃疾保険金(いずれも掛金一口につき、一〇〇万円)、災害保険金(掛金一口につき二〇〇万円、但し、一〇口の場合一五〇〇万円)、傷害保険金(掛金一口につき一〇万円ないし一〇〇万円、但し、一〇口の場合、五〇万円ないし五〇〇万円)、入院給付金(掛金一口につき一日一五〇〇円、但し一〇口の場合一日七五〇〇円)の給付

(4) 掛金

保険事故発生の場合の給付額に応じ、一口を一〇〇〇円とする掛金一口ないし五口、一〇口の六通り

(5) 再保険契約

被告組合は、朝日生命保険相互会社と再保険契約を締結する。

(6) 特典

一年毎に収支計算を行つて剰余金が生じた場合は配当金を支給する。

(二) 住宅福祉共済事業

(1) 加入資格

被告組合員及び従業員並びにその家族、法に定める員外利用者

(2) 種類、積立期間、積立(掛金)額

(イ) 福祉コース 三六か月 一口二〇〇〇円 五口まで

(ロ) ホーム小型コース 三六か月 一口一万五〇〇〇円 五口まで

(ハ) ホーム大型コース 二四か月 一口六万円 五口まで

(3) 融資制度

加入者は、一定期間(福祉コース一八回以上、ホーム小型コース一五回以上、ホーム大型コース六回以上)掛金を納入すると、契約期間満了時の掛金総額の限度内において融資を受けることができる。

(4) 積立金の返還及び解約返戻金、配当金

(イ) 融資を受けなかつた者

契約満了の際、年率一〇パーセント前後の配当金を付して返還する。

(ロ) 中途解約者

契約満了の際に年率一〇パーセント前後の配当金を付して返還する。

(ハ) 融資を受けた者

融資額に相当する積金に対しては年率五パーセントの配当金を支給し、それを超える部分については年率一〇パーセントの配当金を付して返還する。

(三) 所得共済事業

前記(一)(1)記載の者を加入資格者とし、一口二万円の掛金で年齢、職種に応じて一定額の所得補助給付金を支給する。

右各共済事業のうち、被告千歳が最初に考案したのが生命共済事業であるが、被告千歳がこの事業を始めた動機は、共済事業を広く行うことによつて各金融機関からの信用を得て資金の導入を図ること及び生命共済加入者が支払う掛金と被告組合が負担する再保険料との差額を被告組合の運転資金に回すことにあつた。そして、右生命共済の加入者を募集するに際し、被告千歳は勧誘員に対し、これが三年満期の貯蓄と同様のもので満期後に掛金の九〇パーセント内外を還元する旨述べて勧誘することを指示した。

4  右各共済事業は、被告組合の事業として実施されたものであるが、被告組合の実権は専ら理事長の被告千歳に握られており、定款所定の総代会や理事会も殆んど開催されなかつたため、本来の共済事業の趣旨から大きく逸脱した事業となつた。

すなわち、被告千歳が被告組合を設立したのは、前記のとおり金融業を行うためであつて、その動機自体法の目的から外れるものであつたうえ、被告千歳は、設立認可申請の際に定款や事業計画書によつて示した事業内容の実施については一顧だにせず、知事の認可した被告組合を利用しての銀行や商工中金からの資金の導入という当初の計画が挫折するや否や、それに代わる手段として各共済事業を考案してこれを実施したものであつて、これらの共済事業は、専ら資金集めのための手段であつた。そのため、後に契約どおりの債務の履行ができず、加入者との間で紛争が続出する事態となつた。

右のとおり、被告千歳は、右各共済事業で集めた掛金を被告組合の運転資金に充てたが、一方では市中の金融業者からも多額の借入れを行い、高利の金利負担を被告組合に負わせて経理を圧迫し、昭和五三年三月ころには被告組合の収支見込が全く立たない状況となつた。この間の被告組合の経理は、被告千歳がほぼ独占して掌握し、他の理事の関与を許さず、被告組合名義の資金の使途も帳簿上正確に記帳されなかつたため、多数の組合員及び員外利用者から集めた前記各共済事業の掛金がどのように使用されたかは全く不明である。

5  被告組合の前記各共済事業がその形式上の趣旨とは裏腹に実体は被告千歳の金集めのための手段であつたことから、事業開始後から組合の内外で紛争が発生したため、昭和五一年夏ころから県の所管課により後記認定のとおり度重なる行政指導並びに法に基づく検査及び措置が被告組合に対して加えられたが、改善がみられず、昭和五六年五月二一日鹿児島県水産商工部長名で被告組合及び被告千歳に対し、出資法違反、中小企業等協同組合法違反により告発がなされるに至つた。

6  同年七月、被告千歳は出資法違反を被疑事実として逮捕され、警察及び検察庁における取調べを経た後、同月一八日、住宅福祉共済事業に基づいて昭和五一年八月一六日ころから昭和五五年一二月一二日ころまでの間に五一九名(後に五一八名と訴因変更)から積立金名下に集めた合計金三三七〇万八〇〇〇円が出資法によつて禁止されている預り金にあたるものとして出資法違反により鹿児島地方裁判所に起訴され、次いで同年九月二四日、鹿児島県知事から昭和五四年一二月一七日に被告組合に対しなされた決算報告及び経理の適正化を行うこと、住宅福祉共済事業の停止等の組合業務改善命令に従わなかつたことが法に触れるものとして、中小企業等協同組合法違反により追起訴された。

右裁判の結果、被告千歳は、昭和五八年六月八日右裁判所により懲役二年(執行猶予三年)及び罰金三〇万円の刑に処せられた。

右の各事実が認められ、被告千歳本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を履すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告千歳は、銀行等からの金融の便宜を図つて資金を導入して金融業を行うために被告組合を設立し、右資金の導入計画が挫折するや否や、その内容につき十分な検討を加えることなく、簡易な集金手段として前記各共済事業を開始し、組合員及び員外利用者から掛金若しくは出資金名下に多額の資金を受け入れ、間もなく各共済事業を破綻させたものであつて、各共済事業の内容が一部出資法に牴触するのみならず、それ自体将来の破綻が明白な事業であること、被告組合の運営及び経理を被告千歳に集中させ他の理事の関与を許さなかつた結果、組合員らから受け入れた掛金等の使途をも不明なものとしたのであるから、被告千歳には少なくとも法三八条の二第二項の、被告組合の理事としてその職務を行うについての「悪意又は重大な過失」があつたというべきである。

したがつて、被告千歳は、被告組合の各共済事業に関して組合員を含む第三者に与えた後記四記載の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。

三  被告県の責任の有無について

1  県知事の作為義務

都道府県知事は、法に基づき設立された事業協同組合の地区が都道府県の区域をこえないものであつて、その組合員の資格として定款に定められている事業が大蔵大臣又は運輸大臣の所管に属しない事業である場合(法一一一条一項一号)には、所管行政庁として設立の認可権を有し(法二七条の二第四項)、認可後の事業協同組合の業務又は会計に関する組合員からの文書による不服の申出若しくは検査の請求に対し必要な措置を採り、又は検査の実施をなすべき義務を負つている(法一〇五条、同条の二)。

右のうち設立の際の都道府県知事の認可は、(一)設立の手段又は定款若しくは事業計画の内容が法令に違反するとき、(二)事業を行うために必要な経営的基礎を欠く等その目的を達成することが著しく困難であると認められるとき、以上の場合を除き、義務的になされるべきものであるから、設立認可の申請を受けた都道府県知事は、申請時に提出が義務付けられる一件書類等を精査して右(一)、(二)の事由の有無を審査すれば足り、これ以上に組合役員個々について人物、素行等の調査義務まで負うものと解することはできない。

また、法一〇四条二項に定める必要な措置をとるべき義務も、(1)組合員の財産に対して差し迫つた危険があり、(2)都道府県知事において右危険の切迫を知り又は容易に知りうべき状況にあつて、かつ、(3)都道府県知事が容易に必要な措置をとることができ、これが危険の回避に有効適切な方法である場合を除き、同条一項に定める者(組合員)から、組合の業務若しくは会計が法令若しくは定款、規約に違反し、又は組合の運営が著しく不当であるとの具体的事由を記載した文書による申出がなされることによつて初めて生ずるものと解すべきである。

2  県知事の作為義務違反の有無

右1に述べた県知事の作為義務を前提に、本件につき県知事の作為義務違反の有無を検討する。

原告らは、県知事が被告組合の設立認可申請を受けた際に、理事長として就任しようとしていた被告千歳の人物調査を行わなかつたことをもつて、県知事の作為義務違反である旨主張するが、前述のとおり、法に基づく事業協同組合の設立認可申請に対する県知事の審査の内容には役員に就任しようとする個々の人物の調査まで含まれるとは解されないので、右主張はそれ自体失当たるを免れない。

そこで、進んで本件につき県知事に法一〇四条又は一〇五条に基づく作為義務の違反があつたか否かにつき判断する。

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 昭和五一年夏ころ、被告組合の理事一名及び職員二名が所管課の今村係長を訪れ、被告組合の理事長である被告千歳の組合運営が独善的であつて、職員に対し生命共済の勧誘につきノルマを課し、給与の支払も遅延していること等について口頭で苦情を申し立てた。これに対し、今村係長は、被告千歳を呼び出して苦情の内容を説明したうえ改善を指導したところ、同被告はこれを確約した。

(二) 昭和五二年二月ころ、被告組合の理事松浦清及び職員三名が所管課を訪れ、先に申し立てた苦情内容の改善が全くなされていない旨の申し立てを口頭で行つたため、今村係長は、これを重視し、中央会の協力を得て同月一〇日及び同年三月一日に被告組合の管理運営につき任意調査を実施した。

右調査の結果、被告組合の生命共済事業については朝日生命保険相互会社の、所得共済については安田火災海上保険株式会社の団体保険にそれぞれ加入していることが確認され、住宅福祉共済についても安田火災海上保険株式会社の団体保険に加入している旨の説明を受けたが、約款がないまま掛金の受け入れが行われていることなどが判明した。

右調査の結果に基づき、県知事は、昭和五二年三月七日被告組合に対し、被告組合の定款を現状の組合員数に合わせて改正して総代数を増員し、理事定数も是正すること、生命共済約款の改正及び所得共済約款の設定を総代会で議決すること、住宅福祉共済の約款を制定すること、員外利用者の利用比率(二〇パーセント)を遵守すること、組合員名簿の整備をなすこと、急激な組合員の増加に対する理事会の加入諾否の決定手続を行うこと、法一〇五条の二の規定に基づく事業報告書及び財産目録を期日までに提出すること、経理の適正を図ること、組合事業は真に組合員の相互扶助を目的として運営し、今後は共済事業の拡大のみにとらわれず組合の健全な運営に努めること等の改善事項を通知して組合運営に関する行政指導を行つた。

これに対し、被告組合は、同年四月二六日付文書をもつて、指摘された事項についての改善を約束するとともに、同年五月三〇日開催の総代会で総代及び理事の増員に伴う定款の変更、住宅福祉共済及び所得共済の約款制定の議決をなし、これらを可決し、次いで同年八月に被告組合の昭和五一年度(第二期)の決算報告書を県知事宛に提出して欠損のないことを報告した。

(三) 同年八月、被告組合の生命共済の契約者の死亡に際し、共済給付金の支払がなされない旨の苦情が県の所管課に口頭で持ち込まれたため、県知事は、同年一一月二五日に被告組合の運営状況について第二回目の調査を行い、その結果に基づき同年一二月六日被告組合に対し、共済事業の給付事由が生じたときは組合員等に対し遅滞なく支払うことができるよう事務の迅速化を図ること、共済事業における共済会員に対して給付する脱退還付金の発生が昭和五三年度からとなるので、各月の給付額を試算するとともに支払財源についての具体案を策定すること、理事の定数の増員を図り、理事相互のチエツク体制の充実を図ること、共済事業に対する員外利用の比率を遵守すること等の改善事項を指摘して業務運営についての行政指導を行つた。

これに対し、被告組合は、昭和五三年三月一〇日総代の定数及び任期の変更決議に伴う定款変更の認可申請を県知事に対して行い、同月一五日認可を受けた。また、同年六月に生命共済の給付金の支払が遅延しているとの苦情が重ねて所管課に持ち込まれた際に調査したところ、保険会社からは当該事故にかかる保険金が被告組合に対し既に支払われていることが判明したため、理事長の被告千歳に出頭を求めて事情聴取を行い、共済事業の保険金給付については支給事由の発生に応じ、遅滞なく保険金受取人に支払うこと、組合における事務手続等で早期に支払いのできない場合は、保険金受取人に対しその理由を説明したうえで支払月日等を明確にして必ず了承を得ること、組合職員に対しても事務手続の迅速化と組合員との応待に際し十分相手の理解を得ることを口頭で指導した。これに対し、被告千歳は、直ちに調査して支給すべき共済給付金の支払いをする旨確約した。

(四) 県知事は、同年一〇月中央会に対し被告組合の監査を要請したところ、中央会は、同年一一月一三日被告組合事務所において監査を実施して、翌昭和五四年一月一六日その報告書を提出したが、右報告書によれば、被告組合の事業目的は本来組合員の経済的地位の向上を目的とするが、この趣旨に照らして妥当な事業運営がなされているかどうか疑問が多いとされ、その理由として、理事者側の経営姿勢とこれに起因する管理面の不手際な処理が目立つこと、事務執行体制の不整備、事業が採算の見通しにつき十分な検討がなされずに行われていること等が挙げられている。また、右報告書は、被告組合が個別的に改善すべき点として、共済事業のうち、預金の預り等に類似する行為は出資法に違反するので中止すること、共済事業別に採算の見通しを立て掛金、給付金、還付金の見直しを行うこと、共済事業の内容について教育、指導を徹底すること、各理事の責任分担を明確にし、迅速な執行態勢を確立すること、還付金は計画的に一定額を当座資産として確保しておくこと等を指摘している。

県知事は、右報告書が提出される以前の昭和五三年一一月一四日予め口頭で調査結果の報告を受けたため、同年一二月一日被告組合に対する第三回目の調査を行つたところ、中央会の右報告どおり共済事業の内容をはじめ、被告組合の事業及び運営に関し極めて問題点の多いことが判明した。

そこで、県知事は、同月一五日被告組合の理事長である被告千歳を出頭させ、住宅福祉共済事業は出資法に違反する疑いがあること等の理由により停止すること、住宅福祉共済約款により払い込まれた積金(掛金)を速やかに払込人に払い戻し、同約款により貸し付けた貸付金は速やかに回収すること、生命共済事業については、朝日生命保険相互会社への団体保険加入が切れていることを加入者に通知するとともに、組合の共済責任を明確にして加入者が共済契約を継続する意思があるかどうかを確認すること、特に会社への団体保険加入が失効した後、朝日生命保険相互会社への団体保険加入を信用して加入した者については、共済契約の継続の意思があるかどうかを確認すること、生命共済及び所得共済については保険会社に団体加入して払込んだ保険料以外に組合で貸付けに運用する掛金をとつているが、それに相当する掛金をとることは停止し、既に払い込まれたものは契約者に払い戻すとともに約款に基づく貸付金の回収を図ること、組合が組合員に対して業として金銭を貸し付けることができるのは、組合員がその事業を行うために必要な資金に限られ、生活資金を貸し付けることはできないので改めること、員外利用の算定を再検討すること等を指導した。

これに対し、被告千歳は、住宅福祉共済事業を停止すること及び生命共済事業につき他の保険会社と団体保険契約を締結することを約したが、生命共済の掛金のうち組合で貸付けに運用する掛金の徴収の停止勧告には応じなかつた。

(五) 県知事は、度重なる行政指導にもかかわらず、被告組合の業務の改善がなされず、その業務が法令に違反している疑いを持つたので、昭和五四年二月一九日から同月二一日まで、法一〇五条の四の規定に基づく第一回目の検査を被告組合に対して行い、その結果に基づき同年四月一〇日付書面で要旨次のような整備改善事項を指摘したうえ、一か月以内に改善計画等につき回答すべき旨を通知した。

(1) 住宅福祉共済事業は、組合員の福利厚生事業に該当せず、出資法に違反する疑いがあるので直ちに停止すること

(2) 生命共済事業についても出資法違反の疑いがあるので、保険会社の団体保険加入として適正に処理するよう改めること

(3) 所得共済事業についても生命共済事業と同様の問題があるので、保険会社の団体保険加入として適正に処理するよう改めること

(4) 組合の共済約款に基づく事業は、脱退者が極めて多く、失効した後の脱退処理の済んでいないものも多いので、今後無理な加入推進を行うことは厳に慎むこと

(5) 本年度の決算に基づき共済事業の積立剰余金額を確定し、支払うべき脱退還付金の計算を行つて、その支払いに遺憾のないようにすること

(6) 員外利用制限を遵守すること

(7) 共済貸付は、組合事業としては認められないので、これに基づく貸付金を速やかに回収すること

(8) 理事会の承認を得ないで理事に対する貸付けが行われているので、理事会の追認を受けること

(9) 帳簿の整備が不十分であり、特に総勘定元帳の記帳が遅れているので、経理を明瞭、確実、迅速に処理するため、各種帳簿の整備を早急に行うこと

右通知に対し、被告組合から期限内に回答がなかつたため、県知事は、同年七月一七日付文書で回答の督促を行い、かつ、理事長の被告千歳に対し口頭で督促したが、その後も何ら回答はなかつた。

(六) 右のように、被告組合からの回答がなかつたため、県知事は、同年八月一六日から同月一八日まで被告組合に対する第二回目の検査を実施し、第一回目の検査の後に指摘した事項と同様な改善事項を指摘した。その際、被告千歳に対し、帳簿類を整備して早期に県の方へ提出するよう指示した。

これに対し、被告千歳は、同年九月三日県の所管課に出頭し、提出を求められた資料の一部を差し出したうえ、同月中旬に臨時総代会を開催して役員改選を行うが、新理事長には元県の選挙管理委員長平川泰三に就任を願い、その旨の内諾を得ていること、自分は理事にとどまり責任を持つて事業の整理を行うこと、決算は一〇月中を目途に終了し、税務署に修正申告することを申し出たため、県知事は、決算修正整理が終わつた段階で検査を実施する旨伝えた。

(七) その後、被告組合から決算関係書類の提出がなく、決算修正整理がなされなかつたが、県知事は、同年一一月一三日から同月一七日まで被告組合に対する第三回目の検査を実施し、住宅福祉共済約款に基づく事業の停止、生命共済約款に基づく事業の整理、所得補償共済約款に基づく事業の一時停止等の改善事項を具体的な理由を付して指摘した。しかし、被告組合がこれに応じようとしなかつたため、県知事は、同年一二月一二日法一〇六条一項の規定に基づき、被告組合に対し、組合の管理運営体制を確立すること、組合業務の改善整理を行うこと、資金の調達運用及び経営収支の見とおしを立てることを具体的な問題点を詳細に指摘したうえで早急に改善措置をとるべき事項として命じた。

(八) 右命令を発した後、県知事は、被告組合の理事長平川泰三を出頭させて命令の遵守状況につき事情を聴取し、かつ、命令の趣旨に従つた措置を早急にとるべき旨指導したが、見るべき改善措置が講じられなかつたため、昭和五五年六月二六日、二七日に被告組合に対する第四回目の検査を実施したところ、経理に明るい職員を採用して専ら決算経理事務に従事させるなど、一部改善措置がとられていたものの、未だ十分な改善はなされていなかつた。そこで、県知事は、同年九月一日から同月四日まで被告組合に対する第五回目の検査を行い、被告組合の改善措置の状況を調べたところ、組合業務の改善整理をはじめ、先に命じた改善が殆んどなされていなかつたので、同年一二月、被告組合の理事長平川泰三及び理事の被告千歳を県庁に出頭させて改善事項につき重ねて行政指導したうえ、同月一七日付文書をもつて業務改善命令に対する措置状況の報告を求めるとともに、昭和五四年度決算事務を早急に完了し、組合の業務、会計及び運営の状況を明らかにして債権、債務を確定すること、脱退還付金等の支払方法を明らかにして組合役員の責任においてこれを実行することに関し、昭和五六年一月二〇日までに報告をするよう求めた。

(九) しかしながら、被告組合からはその後右に関する報告はなされず、理事長及び理事の一部が辞表を提出するなどの事態に陥つたため、県知事は、右報告期限をまたずに昭和五五年一二月二二日から二四日まで被告組合に対する第六回目の検査を実施し、被告組合の収入(共済掛金、保険金収入金)、支出(保険会社への保険料、共済給付金、脱退還付金)の状況、仮勘定(仮払金、仮受金)の内容、新規共済契約の状況について調査を行つたところ、仮払金、仮受金の元帳は昭和五一年度にさかのぼつて記帳整理を進めているが、整理が遅れているため決算書の作成には日時を要する状態であり、収支状況の把握が困難であること、共済掛金の集金は昭和五五年一二月一五日から止めていること、業務改善命令後、生命共済の新規契約が四件発生していることが判明した。

(一〇) 県知事は、引き続き昭和五六年一月七日から九日まで、同月一二日から一四日までの二回に分けて第七回目の検査を実施したが、その内容及び指示事項は、次のとおりであつた。

(1) 総代会及び理事会の議事録の整備保管

総代会及び理事会の議事録はその一部しか提出がなく、提出された理事会の議事録の一部には原本がなく原稿が提出されたため、直ちにこれを整備し、原本の写しを県に提出するよう指示した。

(2) 帳簿の整備保管

昭和五五年度の金銭出納簿の提出がなく、仮払金及び仮受金の補助簿については第一期から第五期までの帳簿の元帳から転記作成中であつたので、早急に整備するよう指示した。また、当座預金出納帳は第一期から第四期までの帳簿の提出がなく、普通預金台帳は第一期から第三期までの帳簿の提出がなかつた。

(3) 昭和五〇年度事業計画と共済事業

被告組合の設立認可時の事業計画及び予算では、共済事業を実施することにはなつていないにもかかわらず、昭和五〇年一〇月八日から生命共済掛金の受入れが金銭出納簿等で確認された。

(4) 共済給付金の支払状況

共済給付事由の発生件数、保険金の請求日及び金額の把握が終了せず、各保険会社から支払われた保険金の個人別受入れまでは確認ができなかつた。そこで、県知事は被告組合に対し、保険会社からの支払いのあつた保険金の内訳及び共済給付事由の発生した個人別請求金額とその支払い又は未払いの調書を提出するよう指示した。

(5) 共済脱退還付金

生命共済脱退還付金の支払いにつき、掛金の九〇パーセント支払いを要求した脱退者に対し、約款で定める支給率を上回つて支払つたものがあつた。

(6) 仮払金及び仮受金

仮払金のうち、二億二六〇五万三二九六円の元帳修正記帳を行つているが、その伝票が提出されず内訳が不明であつたので、伝票、証ひよう書類を確認のうえ、債権者ごとの明細表を作成するよう指示した。また、仮払金と手形仮受金等の相殺や貸付金と仮受金等との相殺により仮払金や仮受金の残高が赤字となつているものが多数あつたので、これらの債権、債務の相殺については、各人毎に計算明細書を作成し、適正処理するよう指示するとともに、仮払金の多額なものについては債務者から残高確認書をとり、利息を含めて債権の回収を図るよう指示した。

(7) 貸付金

昭和五五年三月三一日現在の手形割引、貸付金の残高は一九件、二三六九万七七三〇円あつたが証ひよう書類の提出がなく債権の確認はできなかつた。これらの貸付金のうち、返済期限の到来したものについては、早急に元金利息の回収を図るよう指示した。

(8) 未払金及び立替金

昭和五五年三月三一日現在の未払金は二億五二四三万二九二八円となつているが、その内訳が不明であるので事務所借料等の契約書等の証ひよう書類及び積算基礎を明確にして債務を確定するよう指示した。また、右日時現在の立替金が三一一万九八五〇円あるが、元帳との差額が三四三万六一四〇円あつたため、修正明細表を作成し、その相手科目、期日、修正理由を明らかにするよう指示した。

(9) 出資金

出資金調書により各年度毎の加入状況及び出資金払込金額を、出資金払戻し調書により脱退者に対する払戻し金額を確認した。これによると、昭和五四年度末の払戻し対象出資金は計六〇件で総額一八五一万五〇〇〇円であつたが、同年度末の出資金四一二五万七〇〇〇円は、出資金調書から算出した額である五八四一万円と異なつているため、調査するよう指示した。

(10) 決算

経費の支出を金銭出納簿、伝票等で確認したが、出金伝票があつて領収書のないものや記帳洩れがあつたので、帳簿、証ひよう書類等の整備を早急に行い、昭和五四年度決算を終了するとともに、共済部門別損益を確定するよう指導するとともに、給与、支払利息、権利金及び建物造作費の各支払い、貸付金利息等の計算につき、その内容を調査して適正に処理するよう指示した。

(一一) 県知事は、更に昭和五六年二月三日から五日まで被告組合に対する第八回目の検査を実施したが十分な調査ができなかつたため、同月二〇日、二一日、二三日から二七日まで第九回目の検査を実施し、組合の管理体制の確立、組合業務の改善整理、資金の調達運用及び経営収支の見とおし、決算報告及び経理の適正化等につき、従前と同様にその具体的な問題点を詳細に指摘したうえ、被告組合に対し、早急な改善措置をとるよう指示した。

(一二) 県知事は、同年三月一七日被告組合の理事である被告千歳ほか五名を中央会会議室に出頭させ、被告組合の昭和五四年度決算を全理事が協力して早期に完了すること、被告組合の全ての債権者に対し、債務を早急に履行すること等を指導し、検査結果に基づく示達が守られないときは法的措置がとられることを伝えた。

右の示達は、同月一八日付文書をもつて被告組合代表理事平川泰三宛になされたが、県知事は、これにより被告組合に対し、次の事項について全ての措置を完了し、同年五月二〇日までに報告をするよう求めた。

(1) 昭和五四年度決算を早急に終了するとともに、同年度末及び昭和五六年二月末における被告組合の債権、債務を確定すること

(2) 未払いとなつている共済給付金、生命共済及び所得補償共済の脱退還付金の支払いを完了すること

(3) 住宅福祉共済については、直ちに積立掛金を払い戻すこと

(4) 右の各措置を実行するため、総代会又は総会を開催すること

(5) 総代会終了後速やかに県に決算関係書類等の報告書を提出すること

右示達後の同年四月三日、県知事は、被告組合の理事長平川泰三ほか五名の理事に出頭を求め、示達事項に対する被告組合の対応策について指導し、同月一七日には右理事長を重ねて出頭させ、各理事が被告千歳と会つて今後の決算事務の推進等について早急に打ち合せを行つて示達事項を実行する努力を重ねるべきこと等を指示した。

また、同年五月一日に開催された被告組合の理事会に県職員を臨席させて示達事項に対する被告組合の対応につき指導するとともに、同月一二日には、右理事会に欠席した被告千歳に対し理事会の決定事項を伝え、これを実行して県の最終示達を遵守するよう指導した。更に、翌一三日、平川理事長ほか四名の理事を中央会会議室に出頭させ、被告千歳に対する指導内容を伝えた。

(一三) 県知事は、度重なる指導、検査及び命令にもかかわらず、被告組合が業務内容を改善せず、報告期限までに示達事項についての報告をしなかつたため、同月二一日、被告組合の理事長平川泰三及び理事の被告千歳を被告発人とし、法一一四条の二、一〇六条一項、出資法八条一項、二条一項に該当する行為があつたとして、鹿児島県警察本部長に告発した。

以上の各事実が認められ、右認定に反する被告千歳本人尋問の結果は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、県知事は、昭和五一年夏ころから被告組合に対し、その業務につき任意調査を行うなどして業務改善の行政指導を繰り返し、昭和五四年二月から昭和五六年二月にかけて法一〇五条の四の規定に基づく検査を合計九回実施したうえ、被告組合の運営態勢、事業内容、経理関係等に関し、各事項毎に細かく問題点を指摘して改善を指示し、最終的には被告組合の理事長及び理事の被告千歳を告発するに至つたのであるから、昭和五一年夏ころ以降、県知事には法一〇四条又は一〇五条に基づく作為義務違反はなかつたというべきである。

また、右期日以前においても、被告組合の組合員から法一〇四条一項に基づく不服の申出がなされたことを認めうる証拠はなく、県知事において被告組合の組合員の財産に差し迫つた危険があることを知り又は容易に知りうべき状況にあつたことを認めるに足る証拠もないので、県知事には法一〇四条に基づく作為義務そのものが発生していないというべきであるから、作為義務違反はなかつたことが明らかである。

3  よつて、県知事に作為義務違反があつたことを前提とする被告県に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

四  損害

<証拠略>によれば、原告らは、いずれも被告組合の行う各共済事業に契約加入して、掛金等を支払うなどし、被告組合は無資力であるから、その回収は不能であり、別紙原告別請求額一覧表の請求金額欄記載の金員に相当する損害を被つたことが認められる。

第三むすび

以上により、原告らの本訴請求のうち、被告千歳及び被告組合に対する請求は全てこれを認容し、被告県に対する請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九三条一項本文、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下村浩藏 法常格 田中俊次)

当事者目録<略>

原告別請求額一覧表<略>

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