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鹿児島地方裁判所 昭和56年(行ウ)1号 判決 1981年10月02日

鹿児島市吉野町三九八五番地

原告

年増高志

鹿児島市易居町一番六号

被告

鹿児島税務署長

松葉強

右指定代理人

有本恒夫

山下碩樹

江口行雄

浜屋和宏

山本輝男

宮尾一二三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五四年九月一三日付でなした原告の昭和五三年度総所得の金額を七九万二〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得の金額を六九二万六四二六円、納付すべき税額を二四五万円とする更正処分および重加算税の額を七三万五〇〇〇円とする賦課決定処分はこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和五三年度分所得税確定申告書に総所得金額七九万二〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得の金額〇円、所得金額から差引かれる金額合計一五九万二四五〇円(社会保険料、生命保険料、配偶者、扶養、基礎各控除)、納付すべき税額〇円とし、右譲渡所得の算定には譲渡価額一七二八万円(但し取得費用合計九九五万三五七四円、譲渡費用四〇万円)の本件土地建物につき租税特別措置法三五条一項を適用する旨記裁し、原告の住所が昭和五三年三月六日下伊敷町三一一六番地から下伊敷町二一七三番地四九の本件家屋所在地に、次いで同年八月二五日再び下伊敷町三一一六番地に移った旨記載された住民票写しを添え昭和五四年三月一五日提出した。

2  被告は同年九月一三日原告の総所得金額を七九万二〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得の金額を六九二万六四二六円、納付すべき税額を二四五万円とする更正処分および重加算税の額を七三万五〇〇〇円とする賦課決定処分をした。

3  原告は右更正処分および賦課決定処分を不服として同年一〇月一八日被告に対し異議申立てをしたが被告は同年一二月一日棄却の異議決定をしたので、更に原告は同年一二月二九日国税不服審判所長宛審査請求をしたが同所長は翌年一〇月二一日棄却の裁決をした。

4  よって、原告は被告に対し昭和五四年改正前の租税特別措置法三五条一項の適用がないとしてなされた本件更正処分および本件賦課処分はいずれも違法であるからその取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は全て認める。

三  抗弁

1  本件更正処分は、原告が昭和五三年四月に訴外牧清彦に売却した鹿児島市下伊敷町(表示変更後は、玉里団地一丁目)二一七三番地四九の宅地二〇・七七平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同地上の家屋番号同町二一七三番四九の居宅木造セメント亙茸二階建、床面積一階五二・八二平方メートル、二階二五・六〇平方メートル(以下「本件家屋」という。)にかかる譲渡所得が別紙譲渡所得算定表の更正欄記載のとおり存在するので、原告の前記確定申告の総所得金額七九万二〇〇〇円に右譲渡所得額を加えた所得金額から、右確定申告のとおりの「所得金額から差引かれる金額」合計一五九万二四五〇円を控除して課税される所得金額を算出し、右金額に法定の税率を適用して納付すべき税額を算定したものであるから、適法である。

2  原告は、本件家屋を新築し、昭和五三年二月頃これを完成し、右家屋に居住することなくそのまま訴外牧清彦に譲渡したものであるのに、専ら租税特別措置法三五条の適用を受けるためにあたかも右家屋に居住したかの如く仮装して住民票の届出をなし、それに基づいて所得税の確定申告をしたものである。原告の右行為は国税通則法六八条にいう事実の仮装に当るものであるから、同条を適用して原告に対し重加算税を賦課した本件賦課決定処分に違法はない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はいずれも否認する。

第三証拠

一  原告

1  証人下野益男、同古賀正夫

2  乙第八号証の二ないし四が本件不動産の写真であることは認め、その余は知らない。第一五号証、第一六号証の一ないし五、第一九号証の原本の存在及び成立は知らない。その余の乙号各証の成立(写については原本の存在とも)は認める。

二  被告

乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証(写)、第四号証の一、二(枝番二は写)、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし四(枝番二ないし四は太田幸助が昭和五六年六月一一日撮影した本件不動産の写真)、第九ないし第一二号証(第九号証は写)、第一三号証の一ないし八(各写)、第一四号証、第一五号証、(写)、第一六号証の一ないし五(各写)、第一七ないし第三二号証(第一九号証、第二一号証、第二五号証、第二八号証、第二九号証、第三一号証、第三二号証はいずれも写)

三  職権

原告本人

理由

一  請求原因について

請求原因事実は全て当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁1について

成立に争いのない乙第一号証の一、二(同号証の二については原本の存在も争いがない)、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第七号証の一、二、第一〇号証によれば、抗弁1の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  抗弁2について

(一)  租税特別措置法三五条一項の不適用について

(1) 前掲乙第五号証の一、第一〇号証、成立に争いのない同第六号証、第九号証(原本の存在も争いがない)、第一二号証によれば、原告は五二年一二月頃、本件家屋を新築すべく訴外牧清彦に建築工事を発注し、翌五三年二月頃本件家屋が完成し、同年三月九日、新築の居宅である旨表示登記がなされ、同月一三日には原告の所有権保存登記がなされたこと、および原告はそのころ有限会社穂山不動産に本件土地、家屋を売却したい旨仲介を依頼したことが認められる。

(2) 成立に争いのない乙第一一号証、第一二号証、第一三号証の一ないし八(原本の存在とも争いがない)、第一四号証、第一七号証、第一八号証、第二一号証(原本の存在とも争いがない)、第二六号証、弁論の全趣旨から原本の存在及び成立の認められる乙第一五号証、第一九号証によれば、訴外牧清彦は転売を意図して原告から本件土地、建物を買い受け、訴外三越商事株式会社を介して訴外原口ツ子に転売し、同女は訴外伊敷商事を介して訴外株式会社しんたくに賃貸し、同社従業員訴外上園昌蔵が同年六月一二日頃本件家屋に入居したこと、および同年四月から右上園が入居するまでに本件家屋を見分した者らは本件家屋に入居者のあった形跡を全く認めていないことが認められる。

(3) 前出乙第一号証の二、成立に争いのない同第二四ないし第三一号証(第二五号証、第二八号証、第二九号証、第三一号証については原本の存在とも争いがない)によれば、原告が本件家屋建築前から居住する下伊敷町三一一六番地の旧住所地における電気および水道設備の利用者名は原告が本件家屋建築後吉野町の現住所地に転居するまで依然原告であり、その使用量にも変化はなく、他方本件家屋の電気は昭和五三年四月一四日新設、水道は同年三月六日開せん、排水設備は同年六月八日新設、都市ガスは同年五月二二日開せんとなっているが、それぞれの使用量を見ると電気、ガスについては同年七月からしか使用量は出ておらず、水道については四月一日と六月二日の検針でそれぞれ一二立方米が記録されているものの、これは新築工事および排水工事に使用されたものと思量され、いずれも原告が生活上使用したものはゼロであること、更に隣家の年増ミチ子方の使用量をみても電気、ガスはゼロであり、原告が隣家のものを利用した形跡もないことが認められる。

(4) 以上を総合すれば、原告は本件家屋に居住しなかったものと認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(5) 従って、租税特別措置法三五条一項の立法趣旨が居住用財産の譲渡の場合には住居を失い、これに代わる新たな住居を取得しなければならなくなることを考慮して譲渡による税負担を軽減しようとしたものであることからすると、本件に右規定を適用する余地はない。

(二)  租税特別措置法三五条一項該当事実の仮装について

(1) 前記認定のとおり、原告は本件家屋に居住したことがないうえ、前掲乙第一号証の一、二によれば、原告は、あたかも本件家屋に転居したかの如く住民届をなし、その住民票写しを添えて所得税の確定申告をなしたことが認められ、右事実を総合すれば、本件家屋に居住したかの如く仮装して所得税の確定申告をなしたものと推認することができる。

(2) 従って、原告に対する本件重加算税の賦課決定処分は適法である。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 猪瀬俊雄 裁判官 太田幸夫 裁判官 櫻井良一)

譲渡所得の算定表

<省略>

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