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鹿児島地方裁判所 昭和62年(行ウ)1号 判決 1988年9月30日

鹿児島県名瀬市金久町二一番一二号

原告

神田タツ

右訴訟代理人弁護士

川村重春

同市幸町一九-二一

被告

大島税務署長

木庭真利

右指定代理人

田邊哲夫

末廣成文

神野義視

的野義文

内村仁志

西山俊三

杉山雍治

溝口透

岩崎光憲

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和六〇年七月四日原告の昭和五八年分所得税についてなした更正位及び重加算税賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五八年三月一四日訴外宮之原有弘との間で、原告が一年以上所有していた別紙物件目録記載一の土地(以下「入舟の土地」という。)と、宮之原が一年以上所有していた同目録記載二及び三の各土地(以下、二筆を合わせて「井根の土地」という。)とを交換した。

2  原告は、本件交換が所得税法(以下単に「法」という。)五八条の固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(以下「交換の特例」という。)が適用される場合に該当するとして、昭和五九年三月、昭和五八年分の所得税の確定申告をなすにあたり、同年分の譲渡所得はないものとして申告し、申告納税額金七万二〇〇〇円を納入した。

3  ところが、被告は、右申告に対し、本件交換に際しては交換差益金として金三〇〇〇万円が宮之原から原告に支払われているから、本件交換は法五八条に規定する要件を欠き、交換の特例は適用されないとの理由で、昭和六〇年七月四日、納付すべき税額を金一五二五万七〇〇〇円と更正(以下「本件更正処分」という。)するとともに、重加算税として金四五五万四〇〇〇円を賦課する旨決定(以下「本件重加算税賦課決定」という。また、本件更正処分を併せて「本件各処分」という。)し、原告に通知した。

4  そこで、原告は昭和六〇年八月二三日本件各処分について異議を申立てたところ、被告は、同年一一月一八日付で右異議申立てをいずれも棄却する決定をした。

5  次いで、原告は同年一二月一〇日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、昭和六二年三月三〇日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決は同年四月一七日原告に送達された。

6  しかし、被告が本件交換に際し交換差金として金三〇〇〇万円が宮之原から原告に支払われたとした点はその認定を誤つたものであるから、被告の本件各処分はいずれも違法である。

よつて、請求の趣旨のとおり、本件各処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張

(認否)

請求原因1ないし5は認める。同6は争う。

(主張)

1 本件更正処分について

原告と宮之原は、本件交換に際し、入舟の土地の価格を七〇〇〇万円、井根の土地の価格を四〇〇〇万円と各評価し、の差額三〇〇〇万円を宮之原が原告に支払うことを合意し、昭和五八年三月一四日右三〇〇〇万円の内金二四〇〇万円が、同月二四日残金六〇〇万円が宮之原から原告に支払われた。

右のとおり、本件交換は等価交換ではなく、交換差金三〇〇〇万円の授受を伴うものであるところ、右交換差金三〇〇〇万円が、本件交換の対象となつた土地のうち価額の高い方の土地である入舟の土地の価額七〇〇〇万円の一〇〇分の二〇に相当する金額である一四〇〇万円を超えるから法五八条二項により、交換の特例の適用がない場合に該当する。

2 本件重加算税の賦課決定について

ところが原告は、本件交換が交換差金三〇〇〇万円を伴つたことが明らかとなる契約書を作成すると、交換の特例の適用を受けることができなくなつて、納税額が多額となるため、これを避けるために、本件交換が交換差金を伴わない等価交換であるように装つた内容虚偽の契約書を昭和五八年三月一四日付で作成し、これに基づいて所得を過少に申告し、また、交換差金三〇〇〇万円の授受について宮之原に交付した領収書を後日破棄するように同人に要請してこれを破棄させるなどした。

原告の右行為は、国税通則法六八条一項にいう「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当することは明らかである。

3 よつて、被告は、昭和六〇年七月四日、原告がすでに確定申告をしていた原告の昭和五八年分の所得総額一七一万二四八〇円に本件交換に基づく分離課税の長期譲渡所得金額六五五〇万円を加えて、納付すべき税額を一五二五万七〇〇〇円と更正決定をなすとともに、重加算税として四五五万四〇〇〇円の賦課決定をなしたものである。

4 以上のとおり、本件各処分は、いずれの点においても適法であるから、原告の本訴請求は理由がない。

三  被告の主張に対する原告の認否

1、2は否認し、3は認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし5は、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件更正処分の適法性について

本件更正処分は、本件交換が等価交換ではなく交換差益金三〇〇〇万円の授受を伴うものであつたことを理由とするものであるから、本件交換に際して、原告が宮之原から交換差金三〇〇〇万円を受領したか否かの点について検討する。

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証、成立に争いのない甲第六、第八、第二六号証、証人斉藤幸公の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人宮之原有弘の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、同証言により原本の存在及びその成立が認められる乙第四号証の二、三、第五号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第六ないし第八号証、並びに証人宮之原有弘の証言、同碩怒栄盛の証言の一部及び原告本人尋問の結果の一部によれば、次の事実が認められ、証人碩怒栄盛の証言、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し得ず、他にこれを覆えすに足る証拠はない。

1  原告は、入舟の土地を有料駐車場とし、宮之原は入舟の土地の隣接地で喫茶店を、さらにその隣接地に訴外薗田親儀が所有している建物の一階を賃借して理容業を営んでいたものであるが、昭和五八年二月ころ、宮之原は原告とその従業員碩怒栄盛から入舟の土地を買つてくれないかと持ちかけられた。

2  宮之原は、入舟の土地は、自己の経営する喫茶店や理容店に来客する客の駐車場として利用価値が高いのでこれを手に入れたいと考えたが、原告の提示した入舟の土地の価格が七〇〇〇万円と多額であり、それだけの資金の都合がつかないことから、自己所有の井根の土地と入舟の土地を交換し、交換差金を支払うことを申し出、結局、入舟の土地を七〇〇〇万円、井根の土地を四〇〇〇万円と各評価し、宮之原に原告は三〇〇〇万円を支払うことで双方合意に達した。

3  そして、昭和五八年三月一四日宮之原は奄美信用金庫の実母森マツ名義の預金口座から金二二〇〇万円を引き出し、手持の金二〇〇万円と合わせて計二四〇〇万円を交換差金三〇〇〇万円の内金として奄美大島信用金庫本店の二階で原告に支払い、同月一五日に交換登記をすませた後、同月二四日鹿児島銀行大島支店の自己名義の交差から金一八〇〇万円を引き出して、そのうち六〇〇万円を交換差金の残金として原告に支払つた。

4  ところで、本件交換の契約書の作成にあたつては、宮之原は、原告から交換差金三〇〇〇万円は裏金にしたいからと言われていたため、差金三〇〇〇万円の支払については何ら記載をせず、本件交換が等価交換である体裁の契約書(甲第一号証)を作成し、また、差金の支払いに際して、原告から徴した領収書も、登記手続が完了した後、原告から頼まれるままにこれを破棄した。

原告本人尋問の結果中には、原告は当初から入舟の土地と井根の土地を交換したいと宮之原に申し入れたのであつて売買の話しはしていない、そして等価交換とすることで合意した旨の前記認定に反する供述部分がある。しかしながら、前掲甲第一号証、成立に争いのない乙第九号証によれば、入舟の土地の公簿面積は一九九・六四平方メートル、これに対して井根の土地の公簿面積は二筆合わせて一九〇・四一平方メートル(七三七番四が一一五・七〇平方メートル、七三七番七が七四・七一平方メートル)とほぼ同一面積であるが、両地の路線価格は、入舟の土地が一平方メートルあたり約一二万円、井根の土地が一平方メートルあたり約六万六〇〇〇円であつて、入舟の土地が井根の土地の約一・八倍の価格であることが認められること、証人宮之原有弘の証言によれば、宮之原はすでに本件交換を譲渡所得とする修正申告をなし納税を済ましていると認められること、また原告本人尋問の結果により原本の存在及びその成立が認められる甲第二号証、同結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇、第一一、第一九、第二四号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件交換当時原告は多額の負債を抱えてその整理にかかつており、そのため井根の土地も本件交換の翌年にはすでに売却して現金化していることが認められるのであつて、債務の整理に迫られて入舟の土地を売却しようとした原告が、全く金銭の授受を伴わない等価交換を合意するということは不自然であること等の事実に照らせば原告本人尋問の結果中の前示供述部分は措信することができない。

以上のとおり、本件交換は交換差金三〇〇〇万円の授受を伴うものであると認められるところ、交換差金三〇〇〇万円は本件交換の対象となつた土地のうちその価額が高い方の土地である入舟の土地の価額七〇〇〇万円の一〇〇分の二〇にあたる一四〇〇万円を超えるものであるから、法五八条二項により、本件交換には法五八条一項の交換の特例は適用されないから、原告は、昭和五八年分の申告にあたつては本件交換を譲渡所得として計上すべきであつたこととなる。

三  本件重加算税賦課処分について

また、前記二4に認定のとおり、原告は故意に内容虚偽の契約書を作成し、かつ、交換差金三〇〇〇万円の受領書を宮之原に破棄させたものであり、右事実は、国税通則法六八条一項の「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、または仮装し、」た場合に該当することは明らかであるから、同条に基づき重加算税を課する場合に該当する。

四  そうすると被告が原告に対してなした本件処分更正処分及び重加算税の賦課決定はいずれも適法であると言うべきである。

五  以上のとおりであるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村浩藏 裁判官 岸和田羊一 裁判官 坂梨喬)

物件目録

一 所在 名瀬市入舟町

地番 一二番四(住居表示一二番一二号)

地目 宅地

地積 一九九・六四平方メートル

二 所在 名瀬市井根町

地番 七三七番四

地目 宅地

地積 一一五・七〇平方メートル

三 所在 名瀬市井根町

地番 七三七番七

地目 宅地

地積 七四・七一平方メートル

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