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鹿児島地方裁判所 昭和62年(行ウ)2号 判決 1994年7月20日

鹿児島市武二丁目二八番八号

原告

今村東一

鹿児島市易居町一番六号

被告

鹿児島税務署長 奥田冨雄

右指定代理人

齋藤博志

白濱孝英

濱田國治

江口徹

田原昭男

小松弘機

松永誠

福田道博

徳田実生

河野通法

主文

一  原告の請求をい棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五九年一一月二八日付けでした原告の昭和五六年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額二四六万九八四〇円を超える部分及び分離の土地等の事業所得の金額を一〇億六九〇二万六四〇八円とする部分、並びに被告が原告に対し同日付けでした過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産の売買・仲介等を業とする者である。

2  原告は、昭和五七年三月一五日、被告に対し、原告の昭和五六年分の所得税について、所得税法一四三条に規定する青色申告により、総所得金額二四六万九八四〇円、分離短期譲渡所得の金額七〇六六万三三五〇円、納付すべき税額四二九五万六七〇〇円とする確定申告書を提出した。

3  被告は、昭和五九年一一月二八日付けで、原告の昭和五六年分の所得税につき、総所得金額五二九万〇六三八円、分離の土地等の事業所得の金額一〇億六九〇二万六四〇八円、分離短期譲渡所得の金額七〇六六万三三五〇円、納付すべき税額九億二六七二万五四〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を四四一八万八〇〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(以下、両処分をまとめて「本件更正処分等」という。)。

4  原告は、昭和六〇年一月二五日、国税不服審判所長に対し、本件更正処分等について審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和六二年三月三一日、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、昭和六二年四月二四日、原告に送達された。

よって、原告は、被告に対し、本件更正処分等のうち、請求の趣旨に記載した部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の事実はすべて認める。

三  抗弁(本件更正処分等の適法性)

1  本件更正処分等の内容

本件更正処分等の内容は、別紙一に記載のとおりである。

2  本件更正処分の適法性

(一) 分離の土地等の事業所得の金額

(1) 本件売買契約

原告は、昭和四八年一月一九日、訴外南国地所株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で、鹿児島市山田町及び五ケ別府町に属する地域(以下「皇徳寺地区」という。)において、また、同年九月一〇日、同市山田町、五ケ別府町及び広木町に属する地域(以下「星ケ峯地区」という。)において、原告が右両地区内の土地を地主から買い受けこれを訴外会社に順次売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、原告は、本件売買契約に基づき、右両地区内に土地を所有する地主から土地を買い受けた上、これを順次訴外会社に売り渡して、引き渡した。

(2) 前受金の授受

原告は、訴外会社から、本件売買契約の履行に伴い、対象土地の買収資金等のため金員を受領し(以下、原告からみたときは「前受金」と、訴外会社からみたときは「前渡金」という。)、これを総勘定元帳の前受金勘定に計上した上、訴外会社へ引き渡した土地の代金に相当する金額の一部を昭和五五年以前の年分において前受金勘定から売上勘定等に振替計上していたが、一団の土地について契約どおりの履行がされなかったこと及び売買代金総額は最終的に本件売買契約が完了したときに売買された土地の面積を実測した上でこれに基づき清算することになっていること等の理由から、前受金のすべてが収入金額となるか否かは明らかでないとして、一部売上勘定に振替計上することを留保していた。

(3) 原告と訴外会社の対立

ところで、原告は、昭和五〇年ころから前記両地区の土地買収に行き詰り、訴外会社は、昭和五一年から直接買収に乗り出した。そして以後、原告と訴外会社は、本件売買契約の清算方について幾度か折衝を重ね、昭和五六年三月七日、ホテル鶴鳴館においても協議したが、原告が訴外会社に引き渡した土地の実測面積の算定方法等をめぐって紛糾し、原告は、訴外会社に対して、本件売買契約にかかる土地代金は前受金総額では不足であるとして追加払を要求し、訴外会社は、前渡金総額には三億七〇三〇万二一七四円の過払いがあると主張して対立した。

(4) 売上金等の確定

しかし、訴外会社は、右のとおり原告に対しては前渡金から返還を求めるべき過払金があると主張したものの、ホテル鶴鳴館における協議を区切りに、原告に対し支払った金員はすべて土地売買代金であるとし、これについては一切返還を求めない態度を明確にしたので、前受金として原告に留保されていた金額は売上金として確定し、また、訴外会社は、以後原告に対し本件売買契約にかかるなんらの義務の履行も求めない態度を明確にしたので、原告と訴外会社との取引にかかる仕入代金、必要経費も確定した。そしてその後両者間では本件売買契約の清算方についてはなんらの協議もされていない。

ところで、土地売買において売買代金を売上に計上すべき時期は、当該土地の引渡しの時とするのが原則であるが、引渡しの時において売上であるのか否か明らかでない部分の金額については、それが売上であることが明らかになった日に計上すべきである。これを本件についてみるに、前受金は、昭和五六年中に本件売買契約にかかる売上であることが確定したというべきであるから、同年分の売上に計上すべきである。

なお、原告は、訴外会社との間で星ケ峯地区の売買代金について合意が得られなかったため、訴外会社に対し、四億八三〇〇万一二一三円の追加払を求めて訴訟を提起し(原審当庁昭和五九年ワ第二一一号土地売買契約による清算金請求事件-昭和六〇年一二月一三日請求棄却判決言渡し、控訴審福岡高等裁判所宮崎支部昭和六一年ネ第九号事件-昭和六二年一〇月五日控訴棄却判決言渡し)、また、皇徳寺地区の売買代金についても、二億七四六七万一八二六円の追加払を求めて訴訟を提起した(当庁平成元年ワ第三四六号土地売買代金清算請求事件)が、右各訴訟は、原告がこれまでに受けた前受金は土地代金の一部として確定していることを前提にこれを超える土地代金の追加払を求めたものであり、訴外会社から受領し終わっている前受金が原告の取得すべき土地代金の一部であることについてはなんら争いがないから、右各訴訟の提起は、前受金から差し引かれるべき金額の存否とはなんら関係のないものである。

(5) 原告の売上計上漏れ金額

前受金のうち、売上勘定等に振替計上されずに留保されたままになっていた金額は、次のとおり一一億〇〇二〇万一五三八円であり、これが原告の分離の土地等の事業所得の金額の計算上収入金額に計上すべき金額となる。

イ 訴外会社から受領した前受金

原告が昭和四八年から昭和五四年までの間に訴外会社から受領した前受金(家屋補償金等を含む。)は、皇徳寺地区が一七億六六七九万六五五四円、星ケ峯地区分が二六億〇五〇〇万円の合計四三億七一七九万六五五四円であった。

ロ 前受金から差し引くべき家屋補償金等

<1> 家屋補償金

本件売買契約によれば、買収対象土地上の家屋の移転補償金は訴外会社の負担とされていたが、原告が立替払した家屋の移転補償金は、前記イの金額から差引清算されている。その額は、皇徳寺地区分が七五五四万九九〇〇円、星ケ峯地区分が一億三七九八万七五〇〇円の合計二億一三五三万七四〇〇円である。

<2> 道路用地代金

本件売買契約によれば、皇徳寺地区の地域内に通ずる道路用地は訴外会社において実費を支払うこととなっており、原告が立替払した道路用地代金は前記イの金額から差し引き清算されている。その額は六七一九万四〇〇〇円である。

ハ 原告の売上となる土地代金

前記イの額(前受金)から前記ロの額(家屋補償金、道路用地代金)を差し引いた金額、すなわち皇徳寺地区一六億二四〇五万二六五四円、星ケ峯地区二四億六七〇一万二五〇〇円の合計四〇億九一〇六万五一五四円が原告の売上となる土地代金の総額である。

ニ 昭和四八年分ないし昭和五五年分の申告又は調査において売上として計上済みの土地代金

<1> 昭和四八年分

売上として申告した土地代金は、皇徳寺地区六億七二四五万〇七一四円、星ケ峯地区六億九六五二万八六六一円の合計一三億六八九七万九三七五円である。

<2> 昭和四九年分

売上として申告した土地代金は、皇徳寺地区一億二六九九万九三一一円、星ケ峯地区一一億一六八二万八四三四円であったが、調査により皇徳寺地区の売上に計上していた道路用地代金六二六万五一〇〇円を減算したので、合計は一二億三七五六万二六四五円となる。

<3> 昭和五〇年分

売上として申告した土地代金は、皇徳寺地区四六九三万九一八二円、星ケ峯地区三億〇三六九万六一五五円であったが、調査により皇徳寺地区の売上に計上していた道路用地代金八二九万五七八二円を減算したので、合計三億四二三三万九五五五円となる。

<4> 昭和五一年分

売上として申告した土地代金は、皇徳寺地区一八三万三〇〇〇円、星ケ峯地区一〇一一万四四一〇円の合計一一九四万七四一〇円である。

<5> 昭和五二年分

売上として申告した土地代金は、星ケ峯地区の九八万八九二一円であったが、調査により星ケ峯地区の売上計上漏れとして四〇三万九一五四円を加算したので、合計は五〇二万八〇七五円である。

<6> 昭和五三年分

売上として申告した土地代金は、星ケ峯地区の二一〇〇万円であるが、調査により星ケ峯地区の売上計上漏れとして四〇〇万六五五六円を加算したので、合計は二五〇〇万六五五六円となる。

<7> 昭和五四、五五年分

訴外会社に対する売上はない。

ホ 原告が清算未了として前受金勘定に留保していた土地代金の額前記ハから前記ニを差し引いた金額、すなわち皇徳寺地区七億九〇三九万一三二九円と、星ケ峯地区の三億〇九八一万〇二〇九円の合計一一億〇〇二〇万一五三八円が原告の売上計上から漏れた真の金額である。以上を表にしたのが別紙二(売上金額計算表)である。

(6) 必要経費に計上すべき金額

原告の分離の土地等の事業所得の金額の計算上必要経費に計上すべき金額は、原告が昭和五六年分の事業所得の青色申告決算書に計上した必要経費の額のうち、租税公課一一一万七二二三円、接待交際費九万六一一五円、利子割引料一二九万八九三二円及び支払手数料四五万円の合計額二九六万二二七〇円に事業全体の総収入金額一一億一五二〇万一五三八円に占める前記(5)、ホの収入金額一一億〇〇二〇万一五三八円の割合を乗じて計算した額二九二万三七六〇円である。

(7) 分離の土地等の事業所得の金額

以上の結果、分離の土地等の事業所得の金額は、前記(5)、ホの収入金額一一億〇〇二〇万一五三八円から前記(6)の必要経費の額二九二万三七六〇円を控除した一〇億九七二七万七七七八円であり、この金額は本件更正処分における所得金額一〇億六九〇二万六四〇八円を超えているから、その範囲内でされた本件更正処分は適法である。

なお、右事業所得については、租税特別措置法二八条の四の規定の適用を受けるものであるから、総合課税の事業所得と区分し、分離の土地等の事業所得として計算すべきである。

(二) 総合課税の総所得金額

(1) 事業所得の金額

原告の事業所得の金額は、原告の昭和五六年分の青色申告決算書に計上した必要経費の額五九〇万二二七〇円のうち二九二万三七六〇円を前記三、2、(一)、(6)の分離の土地等の事業所得の必要経費に計上したため、原告の確定申告額五九万七七三〇円に右二九二万三七六〇円を加算した三五二万一四九〇円である。

(2) 不動産所得の金額

不動産所得の金額は、原告が所得税法一四三条に規定する青色申告の承認を受けているので、原告の確定申告額二六〇万二六九八円から租税特別措置法二五条の三に規定する青色申告控除一〇万円を控除した二五〇万二六九八円である。

(3) 給与所得の金額

原告の確定申告額のとおり六五一万円である。

(4) 純損失の繰越控除額

原告の確定申告額のとおり七二四万〇五八八円である。

3  本件賦課決定処分

前記のとおり、本件更正処分に違法、不当な点はなく、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したのは適法である。

4  以上のとおり、被告が原告に対して行った本件更正処分等はいずれも適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2(一)  同2、(一)、(1)ないし(3)の事実は認める。

同2、(一)、(4)のうち、訴外会社が原告に対し前受金から返還を求めるべき過払金があると主張していたこと及び原告が被告主張の各訴訟を提起したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

同2、(一)、(5)の前段の事実は否認する。

同(5)、イの事実は否認する。後に主張するとおり、両地区合計で三八億七四二四万二八〇三円である。

同(5)、ロ、<1>の事実は認める。同<2>の事実のうち、本件売買契約において、皇徳寺地区の地域内に通ずる道路用地は訴外会社において実費を支払うこととなっており、原告が立替払した道路用地代金は前記イの金額から差し引き清算されることになっていることは認め、その余は否認する。原告と訴外会社の間では買収した道路用地面積について争いがある上、取得に要した仲介費用・登記費用等を含めると、その額は六七一九万四〇〇〇円を上回る九一一四万七五八〇円である。

同(5)、ハの事実は否認する。四〇億九一〇六万五一五四円は帳簿上の前受金額に過ぎない。

同(5)、ニ、<1>ないし<6>の事実は否認する。抗弁に対する原告の主張2に記載のとおりの金額である。<7>の事実は認める。

同(5)、ホの事実は否認する。抗弁に対する原告の主張2に記載のとおり二億八五〇四万〇九九七円が新たに計上すべき売上金額である。

同(6)のうち、原告の昭和五六年分の事業所得の青色申告決算書に計上した必要経費の額のうち租税公課、接待交際費、利子割引料及び支払手数料の各金額が被告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

同(7)第一段のうち、分離の土地等の事業所得の金額は否認し、その余の主張は争い、第二段の主張は認める。

(二)  同2、(二)、(1)の事実は否認する。

同2、(二)、(2)ないし(4)の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

4  同4の主張は争う。

五  抗弁に対する原告の主張-本件更正処分等の違法事由

1  抗弁2、(一)、(4)に対し-本件売買契約の清算未了-

本件売買契約の対象土地は広大であり、地主からの対象土地買収・訴外会社への売渡し及び対象土地の実測面積の確定には長年月を要したことから、原告と訴外会社は、皇徳寺地区については、対象土地の面積は実測面積とするが、当分は登記簿上の面積の三倍を仮の実測面積と定め、その面積に坪当たり単価を乗じた額の八〇パーセントにあたる金額を概算前払金として原告が訴外会社から受領し、星ケ峯地区については、対象土地の土地代金の八〇パーセントを概算で払い、原告はこの前受金をもって地主への対象土地売買代金に充て、訴外会社に対象土地を引き渡した段階で概算前払金を清算することを合意していた。そこで原告は、訴外会社から受領した概算前払金を帳簿上前受金として計上し、訴外会社に対象土地を引き渡した段階で土地代金を前受金から売上代金に振り替えていた。地主に支払った代金が仕入金であり、訴外会社に現実に引渡し・清算が済んだ土地との代金が売上金である。そして、このほか土地取得に要した経費も当然存在する。

以上によれば、前受金は、あくまでも地主への対象土地買収代金の概算払であるから、原告が訴外会社に売り渡した土地の実測面積が確定し概算払が清算された段階において、清算された土地の売上代金から経費及び税法による控除項目を差し引いた残額に課税がされるべきところ、本件売買契約の履行については、次のような事情があり、清算が終了していないから、本件更正処分は違法である。

(一) 本件更正処分等の対象年である昭和五六年分については、原告と訴外会社との間で、売買代金算定の基礎となる実測面積及び倍率に関し、かつ、本件売買契約中の「還元対象地積」(代金不払面積)について抗弁2、(一)、(4)に記載の各訴訟が継続中であり、清算が終了していなかった。

(二) 原告と訴外会社との間では、皇徳寺地区の土地について本件売買契約成立直後から紛争が生じ、当事者間の覚書では登記簿上の面積の三倍を仮の実測面積とするとされているが、これが紛争のもととなり確定しないので、被告には、一応登記簿上の面積の一・五倍を実測面積として土地代金を売上計上し、これに応対した経費を算出申告している。もし、三倍で実測面積を算出して売上金を算出して申告すれば、経費額も当然異なってくるから、前受金残はほとんど発生しないというべきである。星ケ峯地区については、原告が訴外会社の倍率に同意したので、前記訴訟も終結し、被告主張のように前受金残が生じているが、これは請求があれば訴外会社に返還すべき金額であって、原告の所得を構成しないというべきである。

2  抗弁2、(一)、(5)に対し-原告の売上計上漏れ金額-

原告と訴外会社との間では、売上高につき、本件売買契約所定の計算方式に基づき売上高の概算決定がなされ、その額は昭和五〇年二月末現在で、両地区合計で三八億七四二四万二八〇三円である。

ところで、原告は、訴外会社に対する土地売買について次のとおり青色申告した。昭和四八年ないし五三年までの青色申告した売上高合計は三五億八九二〇万一八〇六円となる。

<省略>

原告が訴外会社から受領した概算払土地代金額は、前記のとおり三八億七四二四万二八〇三円であるから、これから青色申告した売上高合計三五億八九二〇万一八〇六円を控除すると、二億八五〇四万〇九九七円となる。この金額が、原告が訴外会社から受領した土地代金の未申告金額(新たに計上すべき売上金額)である。

3  経費の未確定

前受金銭額は、既に支払義務の発生した関係地主に対する土地代金、地主に引き渡す代替地の購入代金、契約外補償金及び事業経費未払分について支払が繰り返されていたものや昭和五七年以降に発生する経費項目及び控除項目についても前受金が清算された段階で支払うものとされていたのであって、これらの未申告の経費は、代替地取得費用三億三六六二万八八〇〇円と、最終的に清算されるべき立木、工作物の補償費-ただし家屋以外のもの-、測量費及び司法書士に対する登記手続費用等の一切の経費九一一四万七五八〇円との合計四億二七七七万六三八〇円であるが、うち二億七四六七万一八二六円を皇徳寺訴訟で訴外会社に請求しているので、残額は一億五三一〇万四五五四円である。

そうすると、前記のとおり新たに計上すべき売上金額があるとしても、新たに計上すべき経費を考慮することなく、単に帳簿上の前受金残高を所得とみなしてした本件更正処分は違法というべきである。

六  原告の主張に対する被告の反論

1  原告の主張1について

(一) 還元契約の履行について

原告は、原告と訴外会社との間においては、地主に引き渡すべき代替地の購入代金等還元契約の履行について清算されていない旨主張する。

しかしながら、原告は、右還元契約を全く履行しておらず、そのため訴外会社が保証責任者として還元契約に基づく債務の管理及び支払を実行しているが、訴外会社は右支払額について原告に対しなんら請求していない。それゆえ、右還元契約の債務の履行は本件前受金から差し引かれるべき金額の存否となんら関係がない。

(二) 皇徳寺地区の売上金額及び経費

皇徳寺地区の売上金額についてみると、本件売買契約においては、縄伸びの倍率についてなんらの合意もなかったが、原告は、昭和四八年の確定申告以降毎年、「(山林原野の引渡坪数×2+田畑等の引渡坪数)×坪単価四七〇〇円」という方式で売上金額を計算して申告し、被告もこれを合理的なものとして認めていた。その結果、原告は訴外会社から受領していた一六億二四〇五万二六五四円と、原告が右売上計算方式により売上額として申告した八億三三六六万一三二五円(ただし修正後もの)との差額の七億九〇三九万一三二九円を清算未了として前受金勘定に留保していたのである。そして、既に主張しているとおり訴外会社との清算は昭和五六年中に終了していたことが判明したので、右留保分がそのまま土地代金として確定したのである。

次に皇徳寺地区の経費についてみるに、売上代金に対応した経費を調整して申告していた事実は全くなく、原告は各年分とも訴外会社との取引に関する買収地及び代替地の取得費は全額仕入金額に計上していた。また、必要経費についても、売上代金に対応して調整していた事実は全くなく、原告は当該年中に支払ったあるいは支払うべき金額を全額経費として計上していたし、訴外会社以外との土地取引も相当あったから、土地の売上と個々に対応できる土地の仕入と異なり必要経費の按分は実際上不可能であった。

(三) 星ケ峯地区の売上金額及び経費

星ケ峯地区の土地代金については、契約上縄伸びの倍率についての定めがなく、原告は、「引渡坪数×(六〇〇〇〇〇÷二九九〇四一)×坪単価六一〇〇円×八〇パーセント」という計算方式を採用して売上金額を算出した。そして、各年に申告した売上金額及び原告が立替払した家屋補償金及び道路用地代金を概算払の金員から差し引いた金額を前受金として計上していた。したがって、前受金は清算の上確定されるべき土地代金そのものである(しかも昭和五六年にすべて土地代金として確定していることは既に主張しているとおりである。)。また、前記三、2、(一)、(4)の高裁判決によって、追加払四億八三〇〇万一二一三円の請求は既に訴外会社が弁済しているとの理由で存在しないことが確定している。そして、右判決理由によれば、星ケ峯地区については、訴外会社が五二五万七九七六円の過払いをしていることになるが、訴外会社が右判決確定現在まで右過払額の返還を請求した事実もない。

2  原告の主張2について

原告は、訴外会社以外の者とも高額の土地取引をしているのであって、昭和四八年分以降の青色申告決算書に記載の土地の仕入及び事務経費は他の土地売買の分を相当含んでいる。原告は、訴外会社以外との土地取引にかかる事業所得金額及び土地の譲渡所得金額を全く無視した主張をしており、失当である。

3  原告の主張3について

(一) 代替地取得費用について

代替地所得費三億三六六二万八八〇〇円は、昭和四八年分ないし昭和五五年分の申告において仕入金額として計上済みのものであって、再度仕入として計上することはできない。

(二) 計上漏れの必要経費について

立木、工作もの補償費、測量費、登記費用等の必要経費九一一四万七五八〇円の計上漏れについては、原告からこれを裏付ける資料の提出は全くないし、調査においても必要経費となるべきものはすべて計上されており、新たに必要経費とすべきものは認められなかった。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりである。

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁(本件更正処分等の適法性)について

1  抗弁1の事実(本件更正処分等の内容)は当事者間に争いがない。

2  抗弁2、(一)(分離の土地等の事業所得の金額)について

(一)  (1)ないし(3)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  同(4)の事実について検討する。

訴外会社が原告に対し前渡金から返還を求めるべき過払金がある旨主張していたこと及び原告が訴外会社に対し、星ケ峯地区の売買代金について、四億八三〇〇万一二一三円の追加払を求めて訴訟(原審当庁昭和五九年ワ第二一一号土地売買契約による清算金請求事件-昭和六〇年一二月一三日請求棄却判決言渡し、控訴審福岡高等裁判所宮崎支部昭和六一年ネ第九号事件-昭和六二年一〇月五日控訴棄却判決言渡し)を提起し、また、皇徳寺地区の売買代金についても、二億七四六七万一八二六円の追加払を求めて訴訟(当庁平成元年ワ第三四六号土地売買代金清算請求事件)を提起したことは当事者間に争いがない。

そして、争いのない事実、甲二六、二七、三四、三五、三七、乙一五、一六及び原告本人尋問の結果(一部)によれば、原告と訴外会社と間の本件売買契約の清算方についての折衝の経過は次のとおりであったことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない。そして他に右認定を左右する証拠は存しない。

(1) 原告と訴外会社の間においては、昭和五二年一一月以降、文書の往復により本件売買契約の清算についての交渉が行われた。

訴外会社は、同月三〇日ころ、原告に対し、買収の状況、買収作業遅滞の事由、現状及び将来の見通し、具体的方策等について回答を求めたのに対し、原告は、同年一二月二四日ころ、訴外会社に対し、別紙三の(1)、(2)を添付して、解決策を回答されたい旨返答した。右別紙によれば、原告は、日報分では、星ケ峯地区については二二万五九一四・五五坪を、皇徳寺地区については一三万一七二七・四七坪を地主から買収して訴外会社に引き渡し、この結果、星ケ峯地区について五億五〇八五万八八二六円の未収金があり、皇徳寺地区については一億四〇五四万九一一八円の未収金があるとされている。

これに対し、訴外会社は、原告に対し、同年一二月三一日現在では、別紙四の(1)、(2)のとおり、両地区とも買収済み面積は原告の主張した面積と同じであるものの、訴外会社が原告に対し土地代金を過払いしていると主張した。すなわち、日報分では、星ケ峯地区は一億〇四七九万六一一八円の過払いであり、皇徳寺地区は、縄伸び率が三倍とすれば過不足はないものの、右倍率が二・七倍では一億五七四〇万五二二六円の過払い、右倍率が二・五〇六倍では二億五九一九万四〇〇四円の過払いになるとされている。

次に原告は、昭和五四年一二月六日ころの訴外会社に対する催告状で、星ケ峯地区の未払土地代金は五億六九四四万九四八〇円であると金額を訂正して主張した。そして、その後も両者間で文書の交換が数回行われた。

(2) かくして、昭和五六年三月七日、ホテル鶴鳴館において両者による話合いが行われたが、双方がその主張を述べるだけで終わり、何らの進展もなかった(この事実は争いがない)。

(3) 訴外会社は、ホテル鶴鳴館における話合いが終わった直後の昭和五六年四月二五日付けで、原告に対し、

東一興産関係清算資料と題する本件売買契約に関する資料を送付した。右資料は、本件売買契約の履行状況、金銭の授受及びその計算について、訴外会社の立場から総まとめをしたものであるが、これによると、訴外会社が原告に対し、星ケ峯地区については一億二三〇一万四七一八円、皇徳寺地区については二億四七二八万七四五六円、合計で三億七〇三〇万二一七四円を過払いしているとされている。

(4) しかし、訴外会社は、右資料を交付後は、原告に対して右過払金の返還についてなんの要求もしておらず、原告に対する過払金の返還請求を事実上放棄しており、既に原告に交付した前渡金を全額仕入勘定に振り替える経理処理をしているのであって、訴外会社としては、土地代金の清算は終了したとの態度をとっている。

(5) 他方、原告も、訴外会社から既に受領している前受金は土地代金の内金であるとして、これを返還するつもりがなく、次のような主張により訴外会社に対して追加金の支払を求めている。

原告と地主との間の土地売買契約においては、原告が売買代金を支払うほかに地主に対して一定の土地を還元するものや、売買代金を支払わないで一定の土地を還元する形態のものがあり、地主に還元する土地の面積は買収対象土地の登記簿上の面積の二〇パーセントないし二五パーセントであった。他方、原告と訴外会社との間では、星ケ峯地区については還元対象面積については売買代金を支払わないとされ、右対象面積も登記簿上のそれの三〇パーセントである。しかるに訴外会社は、還元対象面積を実測面積とし(代金支払対象面積が少なくなる。)、しかも還元対象地を原告に引き渡さずに直接地主に引き渡したから、原告の取り分となる五ないし一〇パーセント相当の土地の取得が不可能になった。また皇徳寺地区については、還元対象地については売買代金を支払わないとの特約は存在しないにもかかわらずこれを売買代金算定の基礎から除外し(代金支払対象面積が少なくなる。)、しかも還元対象面積は登記簿上の面積を基準とすべきであるにもかかわらず実測面積としている(代金支払対象面積がさらに少なくなる。)。したがって、訴外会社は原告に対し、右還元対象地に関して、追加金ないし清算金を支払うべきである。

(6) しかしながら、原告は地主に対する還元契約に基づく債務を履行しておらず、訴外会社がこれを履行しており、しかも訴外会社は履行に要する経費を原告に請求することもしておらず、訴外会社の負担として処理されているのが実態である。

以上の事実によれば、原告と訴外会社との間の本件売買契約は、既に対象土地のうち両地区合計で三五万七六四二・〇二坪が訴外会社に引き渡され、遅くとも最終的に両者間の交渉が終わった昭和五六年中には、訴外会社が原告に対しては本件売買契約に関するなんらの義務の履行も求めないことになり、原告が受領した前受金を返還する必要もなくなったのであるから、原告が受領した前受金は、全額を右三五万七六四二・〇二坪の土地代金として昭和五六年分の売上に計上すべきである。

原告は、本件前受金は、あくまでも地主への対象土地買収代金の概算払であるから、原告が訴外会社に売り渡した土地の実測面積が確定し概算払が清算された段階において、清算された土地の売上代金から経費及び税法による控除項目を差し引いた残額に課税がされるべきである旨主張するが、本件前受金がその受領の時点で土地代金の概算払金であったとしても、前示認定のような事実が存在する以上、売上が発生したと解することに支障はない。よって、原告の右主張はすべて採用できない。

(三)  同(5)の事実(原告の売上計上漏れ金額)について検討する。

(1) イの事実(訴外会社から受領した前受金)は、乙五の1及び2、一三の1ないし4並びに一四によりこれを認めることができ、他に右認定を左右する証拠は存しない。

なお、訴外会社に対する調査嘱託の結果によれば、訴外会社が原告に交付した前渡金は、皇徳寺地区については一七億六二一五万四〇五七円、星ケ峯地区については二七億〇三六七万円の合計四四億六五八二万四〇五七円となっており、右認定額と異なるところ、これは、乙一四によれば、皇徳寺地区については昭和五〇年七月一四日支払分の五二一五万四〇五七円が五六七九万六五五四円の誤りであることが調査嘱託に対する回答後に判明したこと、星ケ峯地区については昭和五一年四月二〇日一〇〇〇万円、昭和五二年一一月三〇日一〇六七万円、昭和五三年三月一三日一五〇〇万円、同月一六日一三〇〇万円、同月二三日六五三万五〇〇〇円、同月二七日二〇〇〇万円及び同年四月八日二三四六万五〇〇〇円の各支払分合計九八六七万円がいずれも原告以外の地主に支払われていたものを訴外会社がそのまま原告に対する支払として計上していたことに起因するものであると認められるから、これらを計算し直すと、被告の主張するとおり四三億七一七九万六五五四円となる。

また原告は、甲二四の記載を根拠に前受金総額が三八億七四二四万二八〇三円である旨主張するけれども、乙一五に添付された原告の昭和五二年一二月二四日付けでの計算表(別紙三の(1)、(2))によれば、前受金は、皇徳寺地区が一七億一六七九万六五五四円、星ケ峯地区が二六億二七三三万円(いずれも日報ベース)の合計四三億四四一二万六五五四円となり、甲二四に記載された前渡金額を上回る。訴外会社作成の昭和五二年一二月三一日現在の計算表(別紙四の(1)、(2))によっても、前渡金総額は両地区合計で四三億四九六五万四〇一〇円となり、同じく甲二四に記載された金額を上回る。そして、右各別紙に記載された前受金額、前渡金額を比較すると、わずか五五二万七四五六円の差しかないことからすると、甲二四に記載された金額は、取引の途中の段階における金額を記載したものに過ぎないというべきである。以上によれば、原告の主張する金額は採用できない。

(2) 同ロ、<1>の事実(家屋補償金)は当事者間に争いがない。

同ロ、<2>の事実(道路用地代金)は、六七一九万四〇〇〇円の限度では当事者間に争いがなく、原告は、この金額が九一一四万七八五〇円であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない上、前示の別紙三の(2)によれば、原告自身が道路用地代金が六七一九万四〇〇〇円であることを記載しているのであるから、原告の主張は採用できない。

(3) 同ハの事実(原告の売上となる土地代金)は、右(1)及び(2)により、被告の主張するとおり四〇億九一〇六万五一五四円が原告の売上となる土地代金の総額と認められる。

(4) 同ニの事実(昭和四八年分ないし昭和五五年分の申告又は調査において売上として計算済みの土地代金)について検討する。

<1> (昭和四八年分)は、乙五の1及び2、九並びに一三の1ないし4によりこれを認めることができ、認定を左右する証拠は存しない。

<2> (昭和四九年分)は、乙五の1及び2並びに一三の1ないし4によれば手皇徳寺地区一億二六九九万九三一一円、星ケ峯地区一一億一六八二万八四三四円の合計一二億四三八二万七七四五円であると認められる。なお被告は、道路用地代金六二六万五一〇〇円が皇徳寺地区の売上に計上されていたことが調査により判明した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は存しない。

<3> (昭和五〇年分)は、乙五の1及び2、一一並びに一三の1ないし4によれば、皇徳寺地区四六九三万九一八二円、星ケ峯地区三億〇三六九万六一五五円の合計三億五〇六三万五三三七円であると認められる。なお被告は、道路用地代金八二九万五七八二円が皇徳寺地区の売上に計上されていたことが調査により判明した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は存しない。

<4> (昭和五一年分)は、乙五の1及び2、一二並びに一三の1ないし4によりこれを認めることができ、右認定を左右する証拠は存しない。

<5> (昭和五二年分)は、甲一九、乙一三の1ないし4により、星ケ峯地区九八万八九二一円であると認められる。なお、被告は、星ケ峯地区の売上計上漏れとして四〇三万九一五四円が調査により判明した旨主張し、乙五の1、一三の3及び4を根拠として挙げるが、右各証の記載のみでは被告の主張額を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

<6> (昭和五三年分)は、二一〇〇万円の限度では当事者間に争いはなく、右金額を超える金額を認めるに足りる証拠は存しない。なお、被告は、星ケ峯地区の売上計上漏れとして四〇〇万六五五六円が調査により判明した旨主張し、乙五の1、一三の3および4を根拠として挙げるが、右各証の記載のみでは被告の主張額を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

<7> (昭和五四、五五年分)は、当事者間に争いがない。

以上によれば、昭和四八年分ないし昭和五五年分の申告において売上として計上済みの土地代金は、両地区合計で二九億九七三七万八七八八円となる。

(5) 同ホ(原告が清算未了として前受金勘定に留保していた土地代金の額)については、前示(3)の皇徳寺地区一六億二四〇五万二六五四円と星ケ峯地区二四億六七〇一万二五〇〇円の合計四〇億九一〇六万五一五四円から、前示(4)で認定した二九億九七三七万八七八八円を差し引いた一〇億九三六八万六三六六円が原告の売上計上から漏れた金額である。

なお、原告は、新たに計上すべき売上金額は二億八五〇四万〇九九七円である旨主張するところ、原告の主張は甲二四を根拠としており、甲二四が採用できないことは既に説示したとおりであるから、その余を判断するまでもなく、右主張はとり得ない。

(四)  同(6)の事実(必要経費に計上すべき金額)について検討する。

原告の昭和五六年分の事業所得の青色申告決算書に計上した必要経費の額のうち、租税公課が一一一万七二二三円、接待交際費が九万六一一五円、利子割引料が一二九万八九三二円および支払手数料が四五万円の合計二九六万二二七〇円であることは当事者間に争いがなく、これに、甲二三、乙三及び四を総合すると、原告の分離の土地等の事業所得の金額の計算上必要経費に計上すべき金額は、右二九六万二二七〇円に事業全体の総収入金額一一億〇八六八万六三六六円(前示(5)の売上計上漏れ金額一〇億九三六八万六三六六円に一五〇〇万円を加えた金額)に占める前示の収入金額一〇億九三六八万六三六六円の割合を乗じて計算した二九二万二一九一円であると認められる。

(五)  同(7)(分離の土地等の事業所得の金額)について検討する。

以上の結果、分離の土地等の事業所得の金額は、前示の収入金額一〇億九三六八万六三六六円から前示の必要経費の額二九二万二一九一円を控除した一〇億九〇七六万四一七五円であり、この金額は本件更正処分における所得金額一〇億六九〇二万六四〇八円を超えているから、その範囲内でされた本件更正処分は適法である。

なお、右事業所得については、租税特別措置法二八条の四の規定の適用を受けるものであるから、総合課税の事業所得と区分し、分離の土地等の事業所得として計算すべきである。

3  原告の経費未確定の主張について

原告は、前受金を売上計上するに際しては、経費を売上計上額に対応して調整していた旨主張するが、当該調整の事実を認めるに足りる証拠はない上、甲一五ないし二二を検討してもそのような事情はうかがわれないほか、そもそも原告は地主との契約書、領収書等の資料全部の開示を拒否している状況にある(原告本人)から、青色申告決算書に記載された金額以外の経費を考慮することも困難というべきである。必要経費についても、原告が必要経費として主張する額(前示第二、五、2)自体、甲八及び甲一五ないし二三(青色申告決算書)に記載されているそれと符号しないものが多々ある。よって、原告の右主張は採用できない。原告は、未申告の経費として、代替地取得費三億三六六二万八八〇〇円並びに立木、工作物の補償費、測量費及び登記費用等の必要経費九一一四万七五八〇円が存在する旨主張する。まず、代替地取得費三億三六六二万八八〇〇円については、甲六、七、九及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、昭和四八年分ないし昭和五五年分の申告において仕入金額として計上済みであると推認され、再度仕入として計上することはできないというべきである。次に、立木、工作物の補償費、測量費及び登記費用等については、これを認める足りる証拠は存しない。

以上の次第で、原告の主張は、いずれも採用できない。

4  抗弁2、(二)(総合課税の総所得金額)について

(一)  同(1)(事業所得の金額)について

乙一、四及び弁論の全趣旨によれば、原告の事業所得の金額は、原告の昭和五六年分の青色申告決算書に計上した必要経費の額五九〇万二二七〇円のうち、二九二万二一九一円を分離の土地等の事業所得の必要経費に計上したため、原告の確定申告額五九万七七三〇円に右二九二万二一九一円を加算した三五一万九九二一円であると認められる。

(二)  同(2)(不動産所得の金額)、(3)(給与所得の金額)及び(4)(純損失の繰越控除額)について

いずれも当事者間に争いがない。

(三)  総合課税の総所得金額

以上によれば、総所得金額は五二九万二〇三一円となり、右金額の範囲内でされた本件更正処分は適法というべきである。

5  抗弁3(本件賦課決定処分)について

以上の次第で、本件更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法というべきである。

三  結論

以上の次第で、本件更正処分等はいずれも適法であって、被告の抗弁は理由がある。

よって、原告の本件各請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 下野恭裕 裁判官 鈴木正紀)

別紙一

<省略>

別紙二 売上金額計算表

<省略>

別紙三(1)

星ケ峯

<省略>

別紙三(2)

皇徳寺

<省略>

別紙四(1)

星ケ峯

<省略>

<省略>

別紙四(2)

<省略>

<省略>

<省略>

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