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鹿児島地方裁判所名瀬支部 平成18年(モ)4号 決定 2006年3月15日

京都市下京区烏丸通五条上る高砂町381-1

申立人(被告)

株式会社シティズ

同代表者代表取締役

●●●

鹿児島県大島郡瀬戸内町●●●

相手方(原告)

●●●

同代理人弁護士

髙橋広篤

主文

本件移送申立てを却下する。

理由

第1申立ての趣旨及び理由

本件申立ての趣旨及び理由は,別紙「答弁書」写しのとおりであり,基本事件につき,民事訴訟法(以下「法」という。)16条1項に基づき,鹿児島簡易裁判所への移送を求めるというものである。

第2当裁判所の判断

1  基本事件は,原告が,申立人外3名の被告(以下まとめて「申立人ら」ともいう。)に対して,申立人らからの借入金に関して利息制限法を超える利息の支払を行ったとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,一部の被告に対して,違法な取立てがあったとして,不法行為に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払を求めて訴えを提起した事案である。基本事件における相手方から申立人らに対する各請求は,法38条後段の共同訴訟の要件を満たすものであって,その訴額の合計は,訴え提起の時点では,220万3224円である。したがって,基本事件は,訴え提起の時点では,地方裁判所の事物管轄を有する。

そして,相手方の各請求についての義務履行地は,いずれも相手方の住所地となるところ(民法484条),その住所地は,鹿児島県大島郡瀬戸内町であるから,基本事件については,法5条1号により,当裁判所に土地管轄がある。

2  この点,申立人は,相手方との間で,鹿児島簡易裁判所を管轄裁判所とする専属的合意管轄を定めたので,申立人と相手方との訴訟については,基本事件から分離して,同裁判所へ移送すべきであるとする。

そこで検討すると,一件記録によると,相手方が申立人から借入れを行う際に署名した「貸付及び保証契約説明書」(以下「本件説明書」という。)の中には,「20. 訴訟行為については,鹿児島簡易裁判所を以て専属的合意管轄裁判所とします。」との記載がある。

しかし,本件説明書は,申立人が消費貸借契約を締結するに当たって一般的に利用している定型の書式が用いられたものであること,本件説明書上では,合意管轄の対象について,「訴訟行為」との漠然とした記載がされるに止まっていることなどに照らすと,相手方が,本件説明書への署名を行うに当たって,申立人が相手方に対して貸金の返還を求める場合のみならず,基本事件のように相手方が申立人に対して過払金の返還等を求める場合についてまで,鹿児島簡易裁判所以外の管轄を全部排除するという訴訟上の重大な結果を招くことになるとの認識を十分有していたと考えることはできない。加えて,申立人が貸金業者である一方,相手方は一般消費者であって,双方に相当の経済力の格差があるところ,基本事件に関しては,期日間における書面の提出や電話会議の活用等により審理を進めることができるものの,証人尋問の実施などで仮に鹿児島簡易裁判所に出頭せざるを得ない場合には,同裁判所の所在する鹿児島市から約300キロメートル離れた離島である奄美大島に居住する相手方に対して相当額の支出を強いる結果となる(相手方代理人の法律事務所も同島に所在する。)。

以上の各事情を前提に,法17条の法意に照らして当事者間の衡平の観点をも考慮すると,本件説明書の存在をもって,申立人・相手方間の消費貸借契約に関連・附随する訴訟等全般について,鹿児島簡易裁判所以外の管轄が全部排除され,同裁判所のみに管轄が限定されたということはできない。

なお,相手方の申立人に対する基本事件における訴額は,2万2549円であるところ,前記1のとおり,申立人らに対する各請求が法38条後段の共同訴訟の要件を満たし,その訴額の合計が140万円を超えることから,基本事件は,訴え提起の時点では,地方裁判所の事物管轄を有すると解されたが,その後,申立人らのうち2名に対する訴えが取り下げられたため,訴額の合計は,現時点では,35万8533円となっている。そのため,申立人から,基本事件が簡易裁判所の事物管轄に属するとの移送の申立てがされた場合(法16条1項)には,基本事件については,複雑困難であるなど簡易裁判所での審理に適さない特段の事情がない限り簡易裁判所へ移送されることになると解されるが,その場合でも,基本的には,名瀬簡易裁判所へ移送されることになると考えられる。

3  よって,主文のとおり決定する。

(裁判官 三輪方大)

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