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鹿児島地方裁判所名瀬支部 平成20年(ワ)448号 判決 2009年10月30日

原告

訴訟代理人弁護士

大窪和久

被告

訴訟代理人弁護士

小川秀世

伊藤修一

主文

一  被告は、原告に対し、一五八万円及びこれに対する平成二〇年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二二〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成二〇年一二月三〇日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が弁護士である被告に債務整理を委任したものの、被告が説明義務等を怠ったまま委任事務を放置して一方的に辞任通知を債権者に送付したことにより、原告は、債権者から訴訟を提起されて給料の差押えを受けるなどして、精神的苦痛を被ったと主張して、被告に対して債務不履行に基づく損害賠償として慰謝料二〇〇万円及び弁護士費用二〇万円の合計二二〇万円の支払を求める事案である。

一  争いのない事実

(1)  当事者

ア 原告は、鹿児島県奄美市に居住する看護師である。

イ 原告代理人は、鹿児島県奄美市に居住する弁護士である。

なお、原告代理人は、鹿児島県奄美市<以下省略>aビル五階所在の奄美ひまわり基金法律事務所(以下「奄美ひまわり事務所」という。)において、被告に次ぐ二代目所長として、平成二〇年五月から法律事務を行っている。

ウ 被告は、静岡県掛川市に居住する弁護士である。

なお、被告は、平成一七年三月から平成二〇年四月まで、奄美ひまわり事務所において、初代所長として法律事務を行っていたものの、平成二〇年五月には静岡県掛川市<以下省略>bビル三階所在のc法律事務所を設けて、そこで法律事務を行っている。

(2)  被告との委任契約

ア 奄美市役所への相談

原告は、平成一三年四月に奄美市に所在する病院に勤務するようになったところ、この時期から子供の学費の支払等のために借金をするようになり、その後も、次第に借金を重ねて返済に窮するようになった。

そこで、原告は、平成一七年五月一六日、奄美市役所市民部市民課を訪問し、同月二三日にも債権者一覧表を持参して再び相談に訪問した際に、同課のA参事兼市民生活係長から、被告に相談するよう指示された。

イ 被告との委任契約の締結

原告は、奄美市役所からの指示を受けて、母親のBとともに、平成一七年五月二三日、奄美ひまわり事務所を訪問して、被告に債務整理について相談した。そして、原告は、委任状に署名した上、被告との間で委任契約を締結した。その際に、被告は、原告に対し、生命保険契約を解約して解約返戻金を持参するよう指示した。

なお、この際に、原告と被告は、委任契約書を作成していない。

ウ 第一回の打合せ

イの後に、原告は、被告から、原告の弟のC(以下「C」という。)を奄美ひまわり事務所に連れてくるよう指示された。そこで、原告は、平成一七年五月二三日夕方、Cを連れて奄美ひまわり事務所を再訪し、Cとともに、被告との間で第一回目の打合せを行った。

エ 連絡文書の作成

被告の担当事務職員のDは、原告と連絡が取れなくなったことから、原告に至急連絡するよう求めるため、平成一七年七月一五日付け及び同年九月六日付けの「ご連絡」と題する被告作成名義の各連絡文書を作成した。

なお、これらの連絡文書には、被告の記名の末尾に被告の職印が押されている。

オ その後の打合せ

原告は、平成一七年九月三〇日、奄美ひまわり事務所を訪問し、被告との間で打合せを行った。

カ その後の原告からの連絡

上記オの際に、原告は、被告から、平成一七年一〇月二一日に打合せの日を指定されたものの、後日、その日は体調不良のため訪問することができないと奄美ひまわり事務所に連絡をした。その際に、原告は、被告から改めて連絡するよう指示されたものの、その後、被告に連絡しなかった。

なお、原告は、被告に対し、生命保険契約の解約返戻金である二万円を渡し、被告は、同年一〇月五日、これを預り金口座に入金しているが、原告は、それ以外に、弁護士費用を支払っていない。

キ 連絡文書の作成

(ア) 被告の担当事務職員のDは、原告と連絡が取れないことから、原告に至急連絡するよう求めるため、平成一八年九月一九日付けの「ご連絡」と題する連絡文書を作成した。なお、この連絡文書には、被告の記名の末尾に被告の職印が押されている。

(イ) 被告は、原告と連絡が取れないことから、原告が平成一九年八月六日までに奄美ひまわり事務所に連絡をしない場合には辞任する旨の予告をするため、同年七月二三日付けの「ご連絡」と題する連絡文書を作成した。なお、この連絡文書には、被告の記名の末尾に被告の職印が押されている。

ク 被告による辞任通知の送付

被告は、上記イの受任後、債権調査を行ったものの、破産手続開始の申立てその他の委任事務を行わずに、平成二〇年一月二三日、各債権者に対し、辞任する旨の通知書をファクシミリで送信した。

ケ 連絡文書の作成

(ア) 被告は、債務整理を受任していた原告の長女と連絡が取れなくなったことから、同女に至急連絡するよう求めるため、平成二〇年三月一九日付けの「ご連絡」と題する連絡文書を作成した。なお、この連絡文書には、被告の記名の末尾に被告の職印が押されている。

(イ) 被告は、原告から預かっていた二万円を相談料として受領することを原告に通知するために、平成二〇年四月一七日付けの「ご連絡」と題する連絡文書を作成した。なお。この連絡文書には、被告の記名の末尾に被告の職印が押されている。

(3)  原告代理人と委任契約を締結した経緯

ア 給料の差押え等

(ア) ネットカード株式会社(以下「ネットカード」という。)は、平成二〇年二月五日、原告に対し、四九万八八五〇円及びうち二九万〇二八四円に対する遅延損害金を支払うよう東京簡易裁判所に訴訟を提起した。

その後、原告は、同年二月ころ、職場の医事課を通じて訴状等を受け取ったところ、訴状添付の辞任通知等によって、被告が辞任したことを初めて知った。

(イ) 東京簡易裁判所は、平成二〇年三月一二日、原告に対し、ネットカードの請求を認容する判決を言い渡した。

(ウ) 鹿児島県地方裁判所名瀬支部は、平成二〇年四月二一日、ネットカードの申立てにより、上記(イ)に係る債務名義に基づいて、原告の勤務先の給料を押し押さえた。

(エ) 名瀬簡易裁判所裁判所書記官は、平成二〇年五月一四日、社団法人日本労働者信用基金協会の申立てにより、原告に対し、五〇〇万六四六一円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める旨の支払督促を発した。

イ 原告の休職

上記ア記載の事実により、原告は、精神的に落ち込み、平成二〇年四月一日から同年六月二〇日まで職場を休職した。

ウ 奄美市役所への再度の相談

原告は、給料の差押えを受けていることを思い悩み、平成二〇年五月二九日、再度、奄美市役所市民部市民課に相談した。その際に、同課のA参事兼市民生活係長は、原告に対し、原告代理人に翌日相談するよう指示した。

(4)  原告代理人との委任契約の締結等

ア 原告は、奄美市役所の指示を受けて、平成二〇年五月三〇日、奄美ひまわり事務所を訪れて、原告代理人に改めて債務整理を委任した。

イ 原告代理人は、平成二〇年六月二〇日、鹿児島地方裁判所名瀬支部に破産手続開始の申立てをし(平成二〇年(フ)第九五号)、同支部は、同年七月一八日、破産手続開始の決定をした。

なお、同支部は、平成二一年六月一八日、破産手続終結の決定をするとともに、原告について免責許可の決定をした。

(5)  原告による特定の債権者に対する支払

原告は、株式会社プライメックスキャピタル(当時の商号は株式会キャスコといい、以下「キャスコ」という。)に対する債務について、平成一六年六月から月々約六万六〇〇〇円を直接支払っていたところ、原告は、被告に債務整理を委任した直後である平成一七年五月から平成二〇年三月まで、連帯保証人であるE(以下「E」という。)にいったん送金して、同人名義でキャスコに支払を継続した。なお、Eが、平成一八年一一月一七日、連帯保証債務を完済した後にあっても、原告は、Eの求償権に対する支払として、Eに支払を継続した。

その結果、原告は、被告に債務整理を委任した後に、Eに対し、少なくとも、合計二二六万六〇〇〇円を支払った。

二  争点

(1)  説明義務違反の有無について(争点一)

(2)  委任事務処理義務違反の有無について(争点二)

(3)  損害の額について(争点三)

第三争点に関する当事者の主張

一  争点一(説明義務違反の有無)について

(原告の主張)

(1) 弁護士の説明義務について

弁護士は、事件を受任した場合には、依頼者に対し、委任の本旨に従い、善管注意義務を負うところ(民法六四四条参照)、弁護士には、その執務における裁量性が認められるものの、依頼者には、必要十分な情報を付与した上で、自立的な意思決定を保障する必要があるから、弁護士は、依頼者に委任契約上の説明義務を負うものである。

(2) 事件の受任時における説明義務違反について

弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について説明する義務がある(弁護士職務基本規程二九条一項参照)。

しかしながら、被告は、受任の際に、原告の意向を十分考慮せずに、原告に破産するしかないと述べた上、処理の方法を一方的に決めつけて、その理由を具体的に説明しなかった。そして、その際に、被告は、家計簿の作成を指示したにとどまり、被告が受任後にすることや原告がなすべきことについても説明をしなかった。

その上、被告は、原告に対し、特定の債権者には支払を続けるよう指示したことから、原告は、被告に債務整理を委任した後にあっても、当該債権者に支払を続け、その合計額は、二二六万六〇〇〇円にもなる。

また、被告は、原告に対し、受任の際に、弁護士報酬の総額、破産手続開始の申立てに要する手数料その他の原告が支払うべき費用やその支払方法について、具体的な説明をしなかった。

仮に、被告が、原告に対し、十分に説明を尽くして、原告がなすべきことを明らかにしていれば、特定の債権者に支払っていた費用を弁護士費用として支払うなど、原告がなすべきことを行った上、早期に破産手続開始の申立てをすることができたはずである。

したがって、被告は、説明義務に違反したものといえる。

(3) 事件の辞任時における説明義務違反について

弁護士は、事件を辞任するに当たり、これによって依頼者が不利益を被らないように、委任事務の経過及び結果について説明すべき義務がある(弁護士職務基本規程四四条参照)。

しかも、本件では、被告が辞任した場合には、原告が訴訟を提起される等の不利益を被る可能性があるにもかかわらず、被告は、原告が辞任予告通知を受領したことを確認せずに、債権者に辞任通知をファクシミリで送信して一方的に辞任して、原告に対し、委任事務の経過及び結果はもとより、原告が被る不利益を説明しなかった。

したがって、被告は、説明義務に違反したものといえる。

もっとも、被告は、辞任予告通知を原告に送付する前に、担当事務職員において原告の携帯電話、自宅又は職場に連絡をするなど、様々な手を尽くしたにもかかわらず、原告と連絡を取ることができなかったものであるから、被告が説明をしなかったとしても、被告の責めに帰することができない事由によるものであると主張する。

しかしながら、担当事務職員は、辞任予告通知を原告に送付する前に、確実に連絡が取れる原告の職場に電話をしていない上、被告が債権者に辞任通知を送付した平成二〇年一月ころは、当該担当事務職員に係る債務整理の担当件数が二〇〇人以上を超えていたため、手が付けられなくなり、債権者に辞任通知を送付する前に依頼者に連絡を全くしていなった状態にあったから、被告の主張は、このような事実に反するものである。

(被告の主張)

(1) 弁護士の説明義務について

弁護士が、依頼者に委任契約上の説明義務を負うことについては、一般論としては争わないものの、被告は、本件において説明義務に違反していない。

(2) 事件の受任時における説明義務違反について

弁護士が事件を受任するに当たって、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、説明しなければならない。

そのため、被告は、事件の見通しや処理の方法として、具体的な理由を説明した上、破産を選択すべきであると説明するとともに、一か月後の来訪時に、家計簿や陳述書を持参するよう原告に指示している。

また、被告は、弁護士報酬及び費用について、破産手続開始の申立てには、申立ての手数料その他の費用として二万円、弁護士費用として三〇万円を要すると説明した上、原告にこれを分割して支払うよう求めている。

したがって、被告は、事件の受任時において、適切な説明をしているから、説明義務に違反していない。

なお、原告は、被告が特定の債権者に支払をするよう原告に指示したと主張するが、被告は、原告に対し、借金の返済を一切してはならないと話しているから、そのような指示をするはずはなく、もとより受任後に原告が特定の債権者に支払を継続していたことを知らなかった。

(3) 事件の辞任時における説明義務違反について

被告は、原告に対し、辞任するに当たり、説明を一切していないものの、これは、担当事務職員において原告の携帯電話、自宅又は職場に連絡をしたり、辞任予告通知を送付することによって至急連絡するよう求めたにもかかわらず、原告が連絡をしなかったことによるものである。そのため、被告は、やむなく辞任したものである。

したがって、被告が説明をしなかったとしても、被告の責めに帰することができない事由によるものであるから、被告は、説明義務違反による損害賠償責任を負うものではない。

二  争点二(委任事務処理義務違反の有無)について

(原告の主張)

弁護士は、債務整理を受任した場合には、債権調査や依頼者の財産内容の確認を行った上、適切な方針を定めて、破産その他の終局的な解決を行うべきである。

しかし、被告は、原告から債務整理を受任した後、債権調査までは行っているものの、その他には何もせずに長きにわたり債務整理を放置した挙げ句、一方的に辞任して、委任事務を処理する義務を怠った。

よって、被告は、委任事務処理義務に違反している。

なお、結局のところ、被告は、奄美ひまわり事務所の事務処理能力を超えて事件を大量受任した挙げ句、最後にはこれらを処理することができなくなったため、辞任を名目として委任事務を放棄したものといえる。

(被告の主張)

被告は、原告から債務整理を受任した後、債権調査までは行ったものの、その後は、委任事務を処理していない。

しかし、原告は、平成一七年九月三〇日に被告と打合せをした後には、被告が平成一八年九月一九日と平成一九年七月二三日に至急連絡するよう連絡文書を送ったにもかかわらず、原告は、被告に一切連絡をしなかった上、三〇万円の弁護士費用のうち二万円しか支払わなかった。

したがって、被告が委任事務を処理しなかったとしても、被告の責めに帰することができない事由によるものであるから、被告は、委任事務処理義務違反による損害賠償責任を負うものではない。

三  争点三(損害の額)について

(原告の主張)

被告は、説明義務等を怠った上、破産手経開始の申立てをしなかった。そのため、原告は、債権者に対し、債務整理の委任時からの遅延損害金の分だけ多い債務を負うことになり、委任したことによって、かえって金銭的な負担が増えた。また、原告は、被告が説明義務を怠ったため、支払う必要のない特定の債権者に対し、合計二二六万六〇〇〇円を支払うことになった。

そして、原告は、債権者から訴訟を提起されて給料の差押えを受けたこと等を原因として、その精神的苦痛により休職するに至った。

以上によれば、原告の精神的苦痛を金銭で換算すれば、少なくとも二〇〇万円を下るものではない。

また、原告は、本件訴訟を提起するために、弁護士に依頼せざるを得なくなり、その費用は、少なくとも二〇万円を下るものではない。

(被告の主張)

被告は、受任の際に説明義務に違反したことはなく、その後、委任事務を行うことができず、辞任の際に原告に委任事務の経過及び結果を説明することができなかったのは、結局のところ、原告が被告に一切連絡をせず、弁護士費用を支払わなかったためである。

したがって、被告は、債務不履行による損害賠償責任を負うものではない。

四  事実認定上の争点

事実認定上の主たる争点は、①キャスコへの支払の指示、生命保険契約の解約に関する指示その他の被告が原告に指示・説明した内容、②被告による職場への連絡の時期、回数及びその態様、③辞任予告通知の原告の受領の有無(辞任する際における職場又は親族への被告からの連絡の有無を含む。)である(第五回弁論準備手続調書添付の争点整理案第四参照)。

第四当裁判所の判断

一  認定事実

前記争いのない事実及び《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。なお、提出された書証の成立がいずれも真正であることにつき、当事者間に争いがない。

(1)  当事者

ア 原告は、鹿児島県奄美市に居住する看護師である。

イ 原告代理人は、鹿児島県奄美市に居住する弁護士である。なお、原告代理人は、鹿児島県奄美市<以下省略>aビル五階所在の奄美ひまわり基金法律事務所(以下「奄美ひまわり事務所」という。)において、被告の後任の所長として、平成二〇年五月から法律事務を行っている。

ウ 被告は、静岡県掛川市に居住する弁護士である。なお、被告は、平成一七年三月から平成二〇年四月まで、奄美ひまわり事務所において、初代所長として法律事務を行っていたものの、同年五月には静岡県掛川市<以下省略>bビル三階所在のc法律事務所を設けて、そこで法律事務を行っている。

エ 被告は、平成一七年三月から平成二〇年四月までの約三年間で八九七人もの奄美群島在住の依頼者から債務整理を受任して、静岡県に異動する際、これらの事件を後任の原告代理人に引き継がなかった。そして、被告は、これらの依頼者に対し、異動の際に事務所の移転通知を送付したものの、委任事務の経過を説明しなかった。

なお、被告は、平成一七年三月から事務職員として、D(以下「D」という。)、F(以下「F」という。)の外に、二名を正職員として雇用し、これらの四名の事務職員が、平成一七年三月から平成二〇年四月まで被告の債務整理事件を分担していた。

(2)  被告の債務整理の受任から辞任通知の送付まで

ア 奄美市役所への相談

原告は、平成一一年四月に離婚後、平成一三年四月に奄美市所在の病院に看護師として就職したところ、この時期に長男が中学校に、二男が小学校にそれぞれ入学したため、その学費や勤務先の社宅への引越費用の支払のため、借金をするようになった。そして、原告は、次第に借金を重ねて返済に窮するようになり、平成一六年五月には、借入れをしていた数社の債務を一本化するため、実弟のE(以下「E」という。)及びG(以下「G」という。)並びに長女のH(以下「H」という。)を連帯保証人にした上、株式会社プライメックスキャピタル(当時の商号は株式会社キャスコといい、以下「キャスコ」という。)から三〇〇万円を借り入れて、月々約六万六〇〇〇円を支払うようになった。

他方で、原告は、平成一四年三月にHの看護学校の入学費用と三年分の授業料として四二〇万円を九州労働金庫から借り入れていたところ、平成一七年四月からは利息に加えて元本の支払が始まったため、給料から毎月六万円を天引きされるようになった。

そのため、原告は、そのころから債務の支払ができなくなり、平成一七年五月一六日、奄美市役所市民部市民課(以下「市民課」という。)に相談したところ、債権者一覧表を作成して再来庁するよう指示されたことから、同月二三日、母親のB(以下「B」という。)と共に、債権者一覧表と子供の保育所の未納保育料二六万四〇〇〇円の支払催告書を市民課に持参して相談した。

これらの資料に基づいて、市民課が相談内容を検討した結果、弁護士に相談することが最善の解決策であると判断し、同課のA参事兼市民生活係長(以下「A参事」という。)は、奄美ひまわり事務所に電話連絡して、被告に原告の債務整理について相談を依頼した。

なお、A参事は、奄美ひまわり事務所が開設された平成一七年三月以降には奄美市役所の相談者を被告に紹介するなど、奄美を中心に広く多重債務者の救済に心血を注いできたものの、被告に紹介した相談者から度々苦情を受けるようになり、平成一九年三月末ころからは相談者を被告に紹介しないようになった。

市民課の消費生活相談カードの処理概要及び相談内容の各欄に、上記案件について、次のとおり記載されている。

(ア) 処理概要

「負債の状況(債権者の一覧)を作成してから、再来庁するよう話す。5/23に再来庁。ひまわり基金法律事務所を紹介した。」

(イ) 相談内容

「H13~H16年5月まで、サラ金七社に債務があり毎月一五万円ほど返済していたが、H16年5月にキャスコという福岡のサラ金から、二人の弟を連帯保証人にして、三〇〇万円を借り入れて一本化した。

それ以外にも、労金から教育資金として四〇〇万円を借り入れ、これまでは利息のみを返済していたが、来月からは毎月八万円の支払いとなる。

ほかにも、ワールドからの借り入れなどが残っており、全ての支払いを済ますと、手取りは平均して七万円~八万円ぐらいになる。

家族は、同居しているのが、母親と子供三人(高二男、小五男、小二男)。長女は自立している。

不動産なし。社宅に居住。車あり、保険あり(H14年5月~掛金は毎月一・五万円)

d病院勤務」

イ 初回の法律相談と委任契約の締結

(ア) 初回の法律相談

原告は、市民課からの紹介を受けて、平成一七年五月二三日、Bと共に、奄美ひまわり事務所を訪問して、債務整理について相談した。その際に、原告は、担当事務職員のDから、法律相談受付カード及び債権者一覧表を渡されて、これらに記載するよう指示されたことから、原告は、別室で、これらの書面に必要事項を記載した。その後、Dは、これらの書面の内容を確認して、記入内容が不十分な点を原告から聞き取りをしながら補充した。

ただし、この際に、原告は、奨学金として約三三〇万円、生活費のための借入れとして約一八〇万円の合計約五一〇万円を職場から借り入れていることをこれらの書面に記載しなかった。

なお、キャスコの連帯保証人であるEは、福岡在住の航空自衛隊(一尉)に勤務する原告の実弟であり、同じく連帯保証人のHは、大阪在住の病院に勤める原告の長女であり、C(以下「C」という。)は、奄美在住の建設会社に勤務(主任)する原告の実弟である。

a) 法律相談受付カードに記載された内容

① X

② 昭和○年○月○日生(○歳)・女

③ 住所 鹿児島県名瀬市<以下省略>(借家)

④ 電話 <省略>

⑤ 携帯 <省略>

⑥ 職業 看護師(勤続年数五年)

⑦ 勤務先電話 <省略>

⑧ 手取月収 七・五万円

⑨ 家族

別居 H(二一歳の長女)電話 <省略> 勤務先 <省略>

同居 高二の長男、小五の二男、小二の三男 B(七〇歳の母)

⑩ 保証人 有 キャスコ

⑪ 生活費 家賃三六、〇〇〇円、食費四〇、〇〇〇円、教育二一、〇〇〇〇円、保険代一五、〇〇〇円、返済二一〇、〇〇〇円等

⑫ 今後三年間の大きな支出予定 長男の進学費用(専門学校進学予定)

⑬ 資産 土地建物:無、車:平成九年式普通ワゴン車(残ローン七五万円)、生命保険:有、退職金:無

⑭ 借金額 サラ金:七五七万円計七社、銀行:四二〇万円計一社、キャッシング:二〇万円計一社、ショッピング:二〇万円計一社

⑮ 借金の原因(具体的に)主に教育資金及び生活費

b) 債権者一覧表のキャスコの欄に記載された内容

平成一三年~借り入れをしていた六社を一本化、借入額三〇〇万円、残額二九〇万円、平成一六年五月二九日、三〇日おきに六六、〇〇〇円を返済、保証人氏名:E、C、関係:実弟

c) その後に修正された内容

法律相談受付カードは、その後、次のとおり修正されている。

① 上記a)③記載の住所は横棒で削除された。

② 上記a)④⑤記載の電話番号は横棒で削除された。

③ 生命保険の欄外に、解約済(約二万円)と記載された。

④ 新住所について、「7/10から・名瀬市<以下省略>一軒家五万円(二五万)」と記載された。

(イ) 被告の原告への対応

その後、Dは、法律相談受付カード及び債権者一覧表を被告に渡した上、原告とBを相談室に案内し、原告とBは、Dの立会いの下で、被告と直接債権整理について相談した。

被告は、原告に対し、終始高圧的な態度で対応したほか、原告の記載内容に基づいて、借金をした経緯等を確認した上、原告が破産することを躊躇していたにもかかわらず、その意向を一切考慮せずに、債務の額が大きいから破産しかないと説明して、原告に破産を覚悟させた。

そして、被告は、原告に対し、携帯電話は贅沢であるからこれを解約し、また、生活が苦しい中で生命保険を掛ける余裕はないはずであるからこれを解約して、解約返戻金を持参するよう指示した。

その際に、被告は、原告に対し、生命保険契約を解約させるために、「あなたの命には何の値打ちもない」などと言ったところ、原告は、これを聞いて、全人格を否定されたと受け取って、その場で涙を流すなどした。

次に、被告は、原告に対し、弁護士報酬について、三〇万円から三五万円くらい必要となるから、可能な範囲で分割して支払うよう説明したものの、原告に対し、法律扶助制度の説明を一切しなかった。

その後、被告又はDは、原告に対し、借金をして、それが払えなくなった経緯その他の借金の歴史が分かるように整理して陳述書を作成し、これを次回の打合せまでに提出するよう求めるとともに、原告にA4サイズの大学ノートを渡して、家計簿の記載の仕分を指導した上、次回の打合せの際に家計簿をチェックするため、これを提出するよう求めた。

なお、原告は、Dに対し、被告が怖くてなかなか話をすることができない旨を伝えるとともに、できるだけ職場への連絡は控えてほしいと希望した。

(ウ) 委任契約の締結

その後、原告は、被告から委任状を渡されてこれに署名した上、被告との間で委任契約を締結したものの、被告は、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなかった。

最後に、被告は、原告に対し、これからは一円でも借りたり返したりしないよう念を押した。

ウ 第一回目の打合せ

被告は、原告が法律相談受付カードにキャスコの保証人としてCの名前を記載したことから、原告に対し、イの初回相談の後に、債務整理を委任するか否かをCに確認するため、Cを奄美ひまわり事務所に連れてくるよう指示した。

そこで、原告は、平成一七年五月二三日夕方六時ころに、Cを奄美ひまわり事務所に連れて行き、被告と第一回目の打合せを行った。そして、被告は、Cが保証人であることを前提として、Cにも債務整理を委任するよう勧めた。

なお、次回の打合せ期日は、原告の休暇が決まり次第、原告が奄美ひまわり事務所に連絡するものとされた。

その後、キャスコの債務に係る三人の連帯保証人のうち、Hにあっては、被告が平成一七年五月二五日付け連絡文書を送付して委任状の送付を依頼したところ、その後、Hは同年六月三日付けの印鑑登録証明書とともに、委任状を返送して、被告に債務整理を委任した。Eにあっては、被告は、原告が事前にEに連絡した後に同人に委任状を送付しようと考えていたものの、原告と連絡が取れなくなったこともあって、結局これを送付しなかった。

エ 特定の債権者に対する支払

原告は、キャスコに対する債務について、平成一六年六月から月々約六万六〇〇〇円を原告名義で直接キャスコに支払っていたものの、原告は、被告に債務整理を委任した直後である平成一七年五月から平成二〇年三月まで、連帯保証人であるEにいったん送金して、同人名義で月々約六万七〇〇〇円をキャスコに継続して支払っていた。

その結果、原告は、被告に債務整理を委任した後に、Eに対し、少なくとも、合計二二六万六〇〇〇円を支払った。

オ 被告の委任事務処理等の内容

(ア) 受任通知の送付

被告は、原告の債権者(キャスコ及びネットカード株式会社〔以下「ネットカード」という。〕を除く。)に対して平成一七年五月二五日、キャスコに対して同月二六日、ネットカードに対して同年六月一六日、それぞれ「債務整理開始通知」と題する書面をファクシミリで送信し、債権者に取立ての禁止を求めるとともに、契約書、取引経過表、引き直し計算書その他の債権調査に要する書類の送付等を求めた。

その後、被告は、キャスコに対しては、同年七月二二日及び同年八月五日、取引履歴の開示を求める文書をそれぞれファクシミリで送信した。

なお、被告は、Hの債権者に対しても、平成一七年六月七日ころ、同様に「債務整理開始通知」と題する書面をファクシミリで送信した。

(イ) その他の委任事務

被告は、上記(ア)のとおり、債権調査を行ったものの、その後、破産手続開始の申立てその他の委任事務を処理しなかった。

(ウ) 原告に対する連絡

a) 原告の住居の移転等

原告は、初回相談の際に、被告から携帯電話を解約するよう指示されたことから、平成一七年六月ころ、これを解約した。

その後、原告は、同年七月一〇日、奄美市名瀬大熊から同市名瀬仲勝町に転居した。そして、原告は、そのころ郵便局に転居届を提出し、その後、奄美ひまわり事務所に転居した旨報告した。

なお、原告は、転居の際に自宅の電話を解約して、同年一一月ころ、新たに自宅の電話を設置した。

b) 平成一七年七月一五日付け連絡文書の送付

Dは、原告の自宅の電話や携帯電話に連絡したものの、電話が不通となっていたため、原告と連絡が取れなかったことから、その旨被告に報告した。そして、Dは、被告の指示を受けて、原告に至急連絡するよう求めるため、件名を「次回来所日の打ち合せ」とする次の内容を記載した平成一七年七月一五日付け連絡文書を作成し、被告が記名の末尾に職印を押印した上、これを郵便で原告に送付した。

なお、奄美ひまわり事務所では、郵便で文書を送付するに当たって、内容証明郵便はもとより、配達証明や配達記録のサービスを利用しなかった。

その後、被告又はDは、法律相談受付カード記載の原告の自宅の電話及び携帯電話の番号を横棒で削除した。

なお、被告は、Dからの報告を受けて、原告の職場に「入舟町のY」と名乗って連絡したものの、原告は不在であり、その後、原告からの折り返しの連絡はなかった。

「お世話になっております。ご自宅の電話や携帯電話への連絡がつかないため、封書で失礼します。

頭書の件ですが、Xさんのお休みが決まり次第ご連絡いただくことになっていましたが、いかがでしょうか。受任から一ヶ月以上経っていますので、一度事務所へ来ていただき、家計簿のチェックや、書くようにお願いしていた陳述書(借金をし、それが払えなくなった経緯)の確認などをしたいと思っています。

それから、Xさんが国内信販でローンを組んで購入した車の件ですが、残りのローンが約七六万円あり、もし一括でお支払いができないと、車を返還することになるのですが、そちらのほうはいかがでしょうか。

そして、こちらへお支払いいただく弁護士費用の件ですが、分割で、無理のない程度で結構ですので、お願いいたします。

今後の手続きが滞ってしまいますので、このご連絡をご覧になりましたら、至急、当事務所までお電話ください、お願いいたします。」

c) 平成一七年九月六日付け連絡文書の送付

Dは、なお原告と連絡が取れないことから、原告に至急連絡するよう求めるため、件名を「至急連絡ください。」とする次の内容を記載した平成一七年九月六日付け連絡文書(以下「第一回辞任予告通知」という。)を作成し、被告が記名の末尾に職印を押印した上、これを郵便又はクロネコメール便で原告に送付した。

なお、被告は、Dからの報告を受けて、原告の職場に「入舟町のY」と名乗って再度連絡したものの、原告は不在であり、その後、原告からの折り返しの連絡はなかった。

「五月二三日の受任以来、当事務所では債務整理の手続きを進めてきました。しかし、Xさんと現在連絡が取れない状態になっております。

今後の手続きが遅れてしまいますので、この通知をご覧になりましたら、事務所まで至急連絡をください。

なお、九月一五日までにご連絡いただけない場合は、辞任いたします。」

d) 被告による原告の職場への連絡

被告は、原告がEに事前に連絡した後に被告が委任状をEに送付することになっていたものの、原告がこれを怠っていると考えて、平成一七年九月下旬ころ、「弁護士のY」と名乗って原告の職場に連絡をした。その際に、被告は、原告に対し、「保証人に対して私が言ったことを話していないではないか」と述べて、原告の対応を非難するとともに、生命保険契約の解約返戻金を奄美ひまわり事務所に持参するよう原告に指示した。

e) その他

原告は、第一回辞任予告通知を受領したとまで認められない。

カ 第二回目の打合せ

(ア) 打合せの内容

被告からの指示を受けて(上記オ(ウ)d)参照)、原告は、平成一七年九月三〇日、奄美ひまわり事務所を訪問して生命保険契約の解約返戻金である二万円を弁護士費用として支払った上、被告との間で第二回目の打合せを行った。

その中で、被告は、原告の給与明細を確認したところ、社宅の賃借料等が転居後も給料からいまだに天引きされていたことから、原告から職場の担当者の名前を確認した上、原告の職場の事務長に弁護士と名乗って連絡した。

もっとも、原告は、弁護士に債務整理を委任していることが職場に知られれば、職場で不利益な扱いを受けると思ったため、職場にはこの事実を知らせていなかった。しかし、被告の電話によって、弁護士に委任した事実が職場に知れるところとなり、その二、三か月後、原告は、職場の上司である看護部長から呼び出されて、「弁護士を雇って病院を訴えるつもりか。問題職員だ」などと言われるようになった。

そして、原告は、給料明細を持参したものの、家計簿と陳述書を提出しなかったことから、被告又はDは、原告に対し、次回の打合せには、家計簿と陳述書を必ず持参するよう指示した。なお、被告は、Hが被告に債務整理を委任することが既に決まっていたにもかかわらず、この際にも、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなかった。

その後、被告は、同年一〇月五日、上記二万円を被告の預り金口座に入金した。

(イ) その後の打合せの予定

被告は、原告に対し、平成一七年一〇月二一日に打合せ期日を指定したものの、原告は体調が悪くなり、奄美ひまわり事務所に連絡して打合せを取り消したため、原告が被告に改めて連絡することとされた。しかしながら、原告は、その後、被告に連絡をしなかった。

(ウ) 原告と連絡が取れるその他の連絡先

被告は、原告と連絡が取れなかったことから、原告にその外に連絡が取れる電話番号を確認したところ、原告は、Bの携帯電話の番号を被告に伝えたため、被告は、Bの携帯電話の番号を法律相談受付カードの上記イ(ア)a)④⑤記載の電話番号の隣に記載した。なお、被告は、被告が辞任した場合に原告が被る不利益について説明しなかった。

そして、被告は、平成一八年三月そろ、Bの携帯電話に連絡をして一度だけBと連絡を取ったものの、その後、Bの携帯電話が不通となっていたことから、被告は、法律相談受付カードのBの携帯電話の番号を横棒で削除した。なお、Dは、Bに一切連絡をしていない。

キ 原告への連絡

(ア) 連絡文書の送付

a) 平成一八年九月一九日付け連絡文書の送付

Dは、再び原告と連絡が取れなくなったことから、原告に至急連絡するよう求めるため、件名を「至急連絡ください」とする次の内容を記載した平成一八年九月一九日付け連絡文書(以下「第二回辞任予告通知」という。)を作成し、被告が記名の末尾に職印を押印した上、これをクロネコメール便で原告に送付した。

なお、被告及びDは、その際に、原告の職場、Hの連絡先その他の当時判明していた連絡先に電話連絡をしたとまで認められない。

「頭書の件ですが、Xさんのお休みが決まり次第ご連絡いただくことになっていましたが、未だいただいておりません。正式受任から、かなりの時間が経過しておりますが、何ら進展がありません。

今後の手続きが滞ってしまいますので、このご連絡をご覧になりましたら、至急、当事務所までお電話ください、このままご連絡いただけない場合は、辞任もやむを得ません。早急にご連絡ください。

なにかご不明な点、ご心配がありましたら、ご相談下さい。お電話、お待ちしております。」

b) 平成一九年七月二三日付け連絡文書の送付

被告は、なお原告と連絡が取れないことから、原告に至急連絡するよう求めるため、件名を「辞任の通知」とする次の内容を記載した連絡文書(以下「第三回辞任予告通知」という。)を作成し、被告の記名の末尾に職印を押印した上、被告又はDが、これをクロネコメール便で原告に送付した。

なお、被告及びDは、その際に、原告の職場、Hの連絡先その他の当時判明していた連絡先に電話連絡をしたとまで認められない。

「あなたが当事務所に来られてから相当の期間が経過しましたが、現在まで手続が一向に進んでいません。

そこで、平成一九年八月六日までにご連絡をいただけない場合は、残念ながら辞任しますので、そのことをお伝えします。私に依頼し続けたい場合は、必ず上記期限までにご連絡をください。

上記期限までに何らかのご連絡をいただけずに辞任する場合、既にお預かりしている金銭は、全て報酬に組み入れる形で清算しますので、あらかじめお断りしておきます。」

(イ) 連絡文書の受領

原告は、第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知をいずれも受領したとまで認められない。

ク 被告による辞任通知の送付

被告は、平成二〇年一月二三日、原告の債権者に対しては、辞任通知をファクシミリで送信したものの、原告に対しては、辞任通知を送付しなかった。なお、被告及びDは、その際に、原告に電話連絡を試みようとはしなかった。

ケ 原告等への連絡文書の送付

(ア) 平成二〇年三月一九日付け連絡文書

被告は、原告の連帯保証人であったため併せて債務整理を受任したHに対し、件名を「至急連絡をください」とする次の内容を記載した連絡文書を作成し、これをクロネコメール便で送付した。

「あなたのお母さんに何度も連絡をしていますが、一向に連絡がありません。あなたの携帯に電話しましたが、不通になっていました。

至急連絡をください。四月一一日までにご連絡がない場合、残念ですが辞任しますので、あらかじめお知らせしておきます。」

(イ) 平成二〇年四月一七日付け連絡文書

被告又はDは、件名を「事件終了のお知らせ」とする次の内容を記載した連絡文書を作成し、被告においてその記名の末尾に職印を押印した上、これをクロネコメール便で原告に送付した。

「何度もご連絡しても連絡がないので、やむを得ず辞任をすることにしました。

以前、おだしした手紙に記載したとおり、預っていた二万円は相談料としていただかせていただきました。

なお、お手数ですが、事務処理上必要ですので、同封した受領証に署名・押印し、当事務所まで返送してください。

このような結果となって大変残念ですが、今後のご多幸をお祈りしています。

今年の五月から、以下の住所に移転します。何かありましたら連絡をください。

c事務所

〒<省略> 静岡県掛川市<以下省略>

bビル三階

(3)  給料の差押え等

ア ネットカードは、平成二〇年二月五日、原告に対し、四九万八八五〇円及びうち二九万〇二八四円に対する遅延損害金を支払うよう東京簡易裁判所に訴訟を提起した。その後、原告は、平成二〇年二月ころ、職場の医事課を通じて、訴状等を受け取ったところ、訴状添付の辞任通知等によって、その時、被告が辞任したことを初めて知った。

イ 東京簡易裁判所は、平成二〇年三月一二日、原告が口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないので、請求原因事実を認めたものとみなして、ネットカードの請求をすべて認容する判決を言い渡した。

ウ 鹿児島地方裁判所名瀬支部は、平成二〇年四月二一日、ネットカードの申立てにより、上記イに係る債務名義の正本に基づいて、債権差押命令を発して、原告の勤務先の給料を差し押さえた。

エ 名瀬簡易裁判所裁判所書記官は、平成二〇年五月一四日、社団法人日本労働者信用基金協会の申立てにより、原告に対し、五〇〇万六四六一円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める支払督促を発した。

(4)  奄美市役所に再度相談するに至る経緯

ア 上記(3)記載のとおり、原告は、勤務先で訴状等を受け取った上、その後、勤務先の給料の差押えを受けたため、原告において債務整理を進めていることが職場で問題とされることになり、職場の看護部長から退職を勧められるに至った。

これらのことで、原告は、精神的に落ち込み、平成二〇年四月一日から同年六月二〇日まで職場を休職した。

イ 原告は、給料の差押えを受けていることを思い悩み、休職中、死ぬことばかりを考えて、自宅から一歩も出られない状態になっていたものの、Bが原告の容態に常に気を使う中で、生きる方法を考えようと思うに至った。

そこで、原告は、平成二〇年五月二九日、Bと共に、再度、市民課に相談したところ、A参事は、原告から、下記ウ(イ)記載の内容の相談を直接受けた。

その際に、A参事は、原告が時折体を震わせたり涙を流したりしていたことから原告が鬱状態に入っていると判断するとともに、事態を重く見て、その場で原告代理人に連絡するとともに、原告に対し、翌日午後一時に奄美ひまわり事務所を訪問して原告代理人に再度相談するよう指示した。

なお、A参事は、被告が静岡県に異動してから現在まで、市民課への相談者等から被告に関する苦情を六〇件以上受け付けている。

ウ 市民課の消費生活相談カードの処理概要及び相談内容の各欄に、上記イの案件について、次のとおり記載されている。

(ア) 処理概要

「本事案は当係で相談を受け、「奄美ひまわり基金法律事務所」のY弁護士を紹介したもので、「同時廃止」による「破産申立」で解決できるものと判断されたもので、とうに解決済と思っていた。

相談者は、当時お母さんと子供三人を抱え、一生懸命がんばっていた方なので、まさか弁護士さんからこのような仕打ちを受けていることは知らなかった。鹿児島県弁護士会のI弁護士・大窪弁護士に確認したところ、依頼人に事前通知なしに辞任することはありえないことで、ましてそのことが原因で依頼人を「給与差押」「休職」「辞職」に追い込むことは、弁護士としてあってはならないことである。大窪弁護士が引き受けてくれるということで、明日午後一時に相談するよう指示した。

Y弁護士に関しては、本事案以外にも一二件苦情が寄せられており、相談者も精神的ストレスで疲れている様子であったので、そのことも考慮して対応していただくよう大窪先生にお願いした。」

(イ) 相談内容

「H17・5・23市民生活係から「奄美ひまわり基金法律事務所」のY弁護士を紹介していただき、H17・6・16弁護士の下で債務整理を開始していただいた。整理方法は「自己破産」。

弁護士の指示に従い、毎月「家計簿」も持参し、呼び出しにも二回行った。私としては手続きは進んでいるものと思っていたが、今年二月、突然東京簡易裁判所から訴状が届き、Y弁護士が、私に何の連絡もなく「辞任」したことを知った。その後訴訟により、H20年4月から給与差し押さえになり、現在休職になっている。

Y弁護士に委任した翌月のH17年7月、いきなり職場に「弁護士のYです。Xさんお願いします」という電話があり、約一五分間説教された。意味がわからず「先生、どういうことですか?」と聞くと「あっ、間違えました」ということで終わったが、私が借金を持ち債務整理していることが職場じゅうに知れることになった。このことをY弁護士に言ったところ「ああ、もうばれちゃったんですね。それではこれから堂々と弁護士のYと言うことにします」ということで、その後五~六回電話があり、その度一〇~一五分間説教され、仕事に支障をきたすこともあった。あるときは「あなたは生きていく資格がない人間です。生命保険を解約し事務所に持ってきてください」と言われ、指示に従い二万円持って行った。その後私は、職場において「問題職員」というレッテルを貼られ、ストレスで精神的にも疲れました。辞職するよう言われているので、復職することはできない。

弁護士の指示に逆らったこともなく。どうしてこのような仕打ちを受けなければならないのか、私の何がいけなかったのか未だに判らない。

今後、私はどのようにしたらいいのか教えてください。」

(5)  奄美ひまわり事務所への再度の相談

ア 原告は、上記(4)イのとおり、市民課から改めて、奄美ひまわり事務所の被告の後任の所長である原告代理人を紹介されたことから、原告は、平成二〇年五月三〇日午後一時ころ、奄美ひまわり事務所を訪れて、原告代理人に債務整理を委任した。

そこで、原告代理人は、日本司法支援センターの裁判代理援助決定による立替金によって、平成二〇年六月二〇日、鹿児島地方裁判所名瀬支部に破産手続開始の申立てをした。

イ 鹿児島地方裁判所名瀬支部は、原告が支払不能の状態にあることを認めて、平成二〇年七月一八日、破産手続開始の決定をした。

なお、同支部は、平成二一年六月一八日、破産手続終結の決定をするとともに、原告について免責許可の決定をした。

二  認定事実の補足説明

(1)  初回相談における被告の説明内容

初回相談における被告の説明内容について、債務整理事件に関する被告の処理方針に関する認定事実等を踏まえた上、補足して説明する。

ア 前提となる事実

《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(ア) 被告が自認する債務整理事件に関する被告の処理方針

a) 被告自身が記述した被告の処理方針

被告は、奄美ひまわり事務所の開設後一年一〇か月で六〇〇件もの債務整理事件を受任して四億円もの過払金を回収した物語を出版するために、「南の島で鬼退治―三時間で分かるクレサラ・ヤミ金処理の手引き」という題名の原稿を作成し、この中で、債務整理事件に関する被告の処理指針を明らかにしている。

なお、被告は、この処理方針に従って、奄美で債務整理事件を処理したことを認めている。

この物語の抜粋は、次のとおりである。

① 私は、平成一七年三月三日、奄美ひまわり基金法律事務所を開設した。ひまわり基金とは、弁護士一人当たり一四〇〇円ずつの特別会費をプールし、弁護士過疎地に法律事務所を開設するに当たって、その開設資金(最大でも五〇〇万円)を援助するためのファンドをいう。ひまわり基金の援助を受けて開設された法律事務所は、地名を頭に冠し、「○○ひまわり基金法律事務所」と名乗る慣例となっている。

現在、全国で七六ヵ所の公設事務所(弁護士過疎地の地域住民のリーガルサービスを充実させるという公益目的から、「公設事務所」と呼称されている)が設置されており、二~三年の任期で交代するのが通常であるが、赴任弁護士の判断で、その地に定着してもいいし任期を延長してもいいことになっている(私も、当初は二年の任期だったが、平成二一年二月末日まで任期を延ばすことにした)。

公設事務所のスローガンは、「全国津々浦々にひまわりの花を」というものである。社会的に強い立場にある個人や組織は法律などなくてもやっていける。法律は、社会的に力が弱い者が社会的強者と対等に戦うための唯一最大の武器であるが、その武器を有効に活用するためには、依頼者のために戦う弁護士が依頼者のそばにいなければならない。太陽に向かって限りなく伸びるひまわりは弁護士の象徴であり、そのような弁護士が全国の津々浦々にまでいきまわり、すべての人に等しく法の救いの手が差し伸べられるような社会を作るため、日弁連は、自らの身を削って、どこからの資金援助も受けず、公設事務所制度を創設し、運用しているのである。

② 奄美は、鹿児島県に所属するが、地理的に言えば、鹿児島と沖縄のちょうど中間に位置する。人口は大島だけで七万人、周囲の群島を合わせると一二万五〇〇〇人である。

奄美大島には鹿児島地方裁判所名瀬支部及び名瀬簡易裁判所が設置されており、判事及び簡裁判事が各一名常駐している(隣の徳之島にも家裁出張所及び徳之島簡裁が設置されており、支部長判事と簡裁判事が兼務している)。合議も組める旧甲号支部である(支部長が裁判長となり、鹿児島から左右の陪席が填補される)。

③ 私は、平成一六年一一月、翌年の開設準備のため、初めて奄美入りした(弁護士登録をしてちょうど一年経った頃である)。

奄美市役所の市民生活係のA係長は、一五年ほど前から同係に配属され、それ以来ずっと市民相談を手がけているため(平成九年に係長に昇格。現在は課長補佐待遇)、当地の実情に非常に詳しい。そこで、当時の弁護士会長の示唆を受け、まずはAさんに会いに行くことにした。

Aさんから、市民生活係で受ける相談件数は年間一〇〇〇件であり、そのうちの半数が多重債務相談であるときいた。

その瞬間、目の前が真っ暗になった。通常、弁護士が一年に受ける多重債務事件は多くても三〇件程度であるが、その一五倍以上の相談が押し寄せる計算になる。

果たして私は、年間五〇〇件の受任に耐えられるだろうか。

答えは一つしかなかった。私がやらなければ、Aさんが鹿児島の弁護士に個別に電話し、頭を下げて受任を頼まなければならない。平成一一年に当地に法律相談センターができ、平成一七年に公設事務所ができたのは、一重にAさんの努力によるところが大きい。同係に配属された当初は黒かった髪が、現在では真っ白になるまで頑張っているAさんにこれ以上の苦労をかけるわけにはいかない。そもそも、Aさんが苦労しているのは、当地に弁護士が少ないからであり、それは我々弁護士の責任ではないか。そして、当地に十分な弁護士がいなかったことによって辛い思いをしているのは、弱い立場にある地域住民である。

何とかするしかない。あとはその方法を考えるだけである。

これほどの大量受任を続けるためには、徹底的に無駄を省いて事務を合理化し、時間を短縮しなければならない。他方で、そのために質を落としてはいけない。どうせやるなら、どこにも負けない日本一の事務所を作ろう。そう思った。その瞬間、桃太郎が頭に浮かんだ。日本一ののぼりを立てて鉢巻を締め、事務職員を引き連れてサラ金という鬼を退治する。

桃太郎はそれで一件落着となる。しかしながら、現実では、再び鬼が出てきたときのことを考えておかなければならない。桃太郎がいなくても鬼を寄せ付けないようにしておかなければ、また村人が鬼に苦しめられることになるからである。

つまり、多重債務相談にとって、借金をゼロにしたり、過払金を取戻してもそれ程意味はない。重要なのは、弁護士の手を離れる四~五ヵ月の期間を活用し、今後は二度と借金をしないようにしなければならない点というである〔ママ〕(もちろん、大量の事務職員を雇用し、どんどんベルトコンベアー処理をしていけば、弁護士にとっては手軽に金儲けができるという点で意味はあるだろう。でも、弁護士が金儲けの道具として事件処理をするようになったらおしまいではないか。その時点でバッヂを速やかに外すべきであろう)。

④ 二度と借金をしないようにするためには、多重債務者に対し、以下の二点を行わせなければならない。

⑤ まずは、自分のしてきたことを心から反省させなければならない。

私は、多重債務者は断じて被害者ではないと思っている。

たしかに、生活のために借金をし、ずっと返済していたがついに払いきれずに相談に来た人はかわいそうだと思う。

しかしながら、誰にも少しの迷惑すらかけずにきた人はほとんどいない。大半は家族を保証人にしたり、家族の土地を担保に入れたり、家族や友人から金を借りたりしている。家族等に頼る時点で、既にサラ金からの相当額の借金をしているのが通常である。少し考えれば、家族や友人に迷惑を掛ける結果になることは分かりきっていたのに、あえてそういうことをするのだから非常に悪質というべきではないか。家族や友人は、「必ず返すから」「迷惑は絶対にかけないから」と泣きつかれ、金を貸したり保証人になったり担保を提供しており、まさかその時間で既に破綻状態にあり、自分も取立てに合うのが時間の問題であるとは夢にも思っていない。また、親が多重債務者であるせいで、進学を諦めたり、せっかく進学した学校を辞めなければならなくなった子どもたちもいる。

人間、借金で首が回らなくなると、普段だったら申し訳なくてできないことでも平気でするようになる。人としての当然の気持ちを忘れ、自分さえよければいいという考えに取り付かれ、自分を心配し、何とかしようと手を差し伸べてくれた大切な人たちをあっさり裏切るようになる。

⑥ このような多重債務者を被害者として扱ってかわいそうだなど同情していたら、経済的に立ち直らせることなど到底できない。こういった人のせいで財産を失い、一緒に自己破産をしなければならなくなった人こそ被害者である。

つい先日も、四〇歳の男性の国選事件を受任した。二五歳からパチンコとスナックにはまり、毎月一〇万円以上も浪費し、三〇歳で公務員を辞め、その退職金一〇〇万円と父親が借金をして作った二〇〇万円の合計三〇〇万円で借金を完済したが、すぐにパチンコとスナックに通いだし、仕事も転々とし(その原因は、仕事が決まる、ヤミ金から借りる、ヤミ金から取立ての電話が職場にかかる、職場を首になる、仕事が決まる、ヤミ金からまた借りる…ということの繰り返しである)、この一〇年間、四人の子どもの生活費は妻がパートをして稼ぎ、本人はたまにもらう給料をみなパチンコとスナックにつぎ込み、またヤミ金に手を出して、その返済資金を工面するため車上荒しをしたというものである。

両親と妻が法廷に来た。妻は最初から泣いており、涙で宣誓書に署名ができない。父親も余りの情けなさに証言台で言葉に詰まり、涙を流す。母親も傍聴席で泣き通しである。高校生の娘がいるため、傍聴に来るように指示したが、前日は一晩中泣き続け、どうしても法廷に来ることができなかったそうである。

私は法廷で本人を厳しく叱った。

「お父さんと奥さんの証言をきいていましたね。二人は泣いていたでしょう。後ろでお母さんも泣いていますよね。お二人がどんな気持ちで証言してくれたと思いますか」

「あなたのお父さんは、あなたが今度借金をしたら親子の縁を切って、何としてでも孫たちが全員大人になるまで育てると言っていましたね。お父さうんがどんな気持ちでそう言ったか、あなたは分かっていますか。自分の息子のせいで、あなたの妻や子どもたちに取り返しのつかない迷惑をかけてしまった。毎日、そう考えて、考えて、考えて、でもどうすることもできない。そう考えて泣いたんですよ。本当にそれでいいんですか」

「今回、あなたがこのような犯罪を犯してしまったことは、新聞を見て近所の人もみんな知っていることですね。あなたの次女は、あなたの妻が離婚したいと相談したとき、あんな人でもお父さんだから、絶対に離婚しないでと頼んでくれたそうですね。あなたは、一六歳の娘がどんな気持ちでそう言ったのか、想像できますか。子どもは親を選べないんですよ。父親なら、子どもたちのために色々してあげなければいけないのに、あなたは迷惑を掛け続けているだけじゃないですか。本当にそれでいいんですか」

被告人は、接見時には、絶対に破産したくないと頑張っていたが、法廷では涙を流し、潔く破産すると述べていた。

子どもは親を選べない。こんな男が父親だったとしたら、こんな男が息子だったとしたら、こんな男がきょうだいだったとしたら、人生はどんなにつらく険しいものになるだろうか。彼の両親や妻や子どもたちは、これまで彼にどれほどの迷惑をかけ続けられてきたのだろうか。もし子どもたちが別の家庭に生まれ育っていたとしたら、どれほど楽しく幸せな人生を送ることができていただろう。

私は、多重債務者と接するとき、そのような想像をどうしてもしてしまう。そして、目の前にいる多重債務者が、これ以上、子どもたちを不幸にしないように、できるだけのことをしようと決意するのである。一人でも多くの子どもたちが笑って暮らせるように全力を尽くそう。私は、このように考えて、日々、大量の債務整理事件を受任し続けている。

⑦ 本題に戻る。

本人を心から反省させるためには、まず、①自分のしたことで誰にどんな迷惑をかけたかを自覚させることが必要である。自分がどんな嘘を言って友人から金を借りたかを思い出させなければならない。一番裏切ってはいけない人をどんな顔で裏切ってきたかという事実に直面させなければならない。進学を諦めなければならなくなった子どもがどんな気持ちで「お母さん、働くから」と言ったのかに思いを致させなければいけない。

つぎに、②これからどんなことをすれば、少しでも償っていくことができるかを考えさせなければならない。

最後に、③二度と同じ間違いを繰り返さないようにするためにはどうしたらよいかを考えさせなければならない。

⑧ ここまでお読みいただければ、やることは情状弁護と全く同じである。いくら口で抽象的に「反省しています」と言っても誰も信じてはくれないため、情状弁護では、上記の三点を具体的に考えさせ、自らの言葉で表現できるようにさせる必要があるが、このことは多重債務事件でも全く同様である。

具体的には、白紙の紙を用意させる。便箋でもルーズリーフでもなんでもいい。一番の上にサラ金の名前を書き、生まれて一番最初にその業者と取引した日から現在まで、その業者との間における借金の歴史が分かるように整理して記載する。分量はA4で二~三枚程度である。それをすべてのサラ金についてさせる(【書式一】借金に至る経緯)。

⑨ そのようにして過去を振り返ってみると、いかに自分が酷いことをしてきたのか、まざまざと思い出すことになる。一番最初にサラ金から借りた時は、こんなに高利で払えるのか心配で何度も考え、友人にも相談したのに、最近では、借りたり返したりを繰り返した結果、何の躊躇もなく借りてしまっていた自分に気付くかもしれない。返済をすることで頭が一杯になり、家族や友人といった一番迷惑をかけてはいけない人に大変な迷惑をかけてしまったことに気付くかもしれない。

本人が立ち直るためには、自分がしてきたこれまでをきちんと振り返り、見つめ直すことが絶対に必要である。自分がいかに酷いことをしてきたかに気付くと、大抵の人は泣く。やり直しのきかない過去を心の底から悔やませなければならない。大切な人を裏切り、取り返しのつかないことをしてしまったと自覚すれば、二度と借金をしないように、できる限りの節約をし、余った金で迷惑をかけた人たちにできる限りの償いをしていこうと決意するものである。

そして、そのための有効な手段が家計簿である。

⑩ 多重債務に陥った原因は、自分の収入で遣り繰りできなかったためである。とすれば、単に借金をゼロにしても、その原因を潰さない限り、必ず金に困って今度はヤミ金に手を出すようになる。

いうまでもないことだが、以前と同様に漫然と生活をしていたのでは、人は変わることなどできない。いつ、いくら、何に金を使ったのか、無駄遣いはなかったか、もつと節約するためにはどうしたらよいかについて、分析し改善していくためには、自分の金の使い途を逐一詳細に記録しておかなければならない。

また、借金の原因がパチンコや浪費の場合、通常は少額管財事件にして免責決定をもらうことになるが、少額管財人をつけたからといって依頼者のギャンブル癖や浪費癖が治るわけではない。私は、少額管財人をつけるより、半年ないし一年程度家計簿をつけさせた方がよいと考えている。その理由は、①パチンコ等で浪費したのは一年程度昔の出来事となること、②家計簿を見れば、その人がどの程度真剣に頑張って生きてきたかが如実に分かること(私は、破産申立事件全件について、毎日の家計簿をコピーして裁判所に提出することにしている)、③半年ないし一年間、できる限り節約して生活するため、破産申立てまでにある程度の貯金ができ、その貯金を持って破産することである程度の自信が持てるようになることからである。

しかしながら、これまで適当に金を使ってきた人たちに対し、単に「家計簿をつけろ」と言ってみても大抵やらない。そこで、私は、依頼者のやる気を出させるため、以下のように説明している。

「あなたは、もう借金をすることはできません。そもそも、自分の収入で遣り繰りできなかったからこんなことになったわけで、これからは自分の収入だけで生活していかねばなりません」

小さい子どもを抱えている人に対しては以下のように続ける。

「あなたには中学生と小学生の子どもがいますね。来年は高校生ですね。そのためのお金も用意しなければならない。高校卒ではろくな仕事に就けないし、特に奄美ではそもそも仕事がありません。専門学校や大学に行って、そこで仕事を見つけるしかないですね。でも、内地の学校に進学させるには、引越代を含めて初年度に一〇〇万円くらいの金が必要です。いまのままでは子どもを進学させることができません。金のために進学を諦めることほど辛いことはないですよ。どんな学校に行ってどんな会社に就職するかで、その子が付き合う人も違ってくるし、どんな人と付き合うことができるかでその子の将来も大きく違ってくるでしょう。いまならまだ間に合います。子どもが惨めな思いをすることがないように頑張ってみませんか」

五〇代の人に対しては以下のように続ける。「国民年金は免除申請をしていますね。そうすると、六五歳からもらえる年金はいくらになるか知っていますか?二万円ちょっとしかもらえないんですよ。一ヵ月生きていこうと思ったら、一〇万円は必要ですよね。このままだと毎月八万円の赤字です。一年で九六万円の赤字。一〇年生きようと思ったら九六〇万円、二〇年生きようと思ったら一九二〇万円の赤字。六〇歳になるまでに二〇〇〇万円を貯めておかなければ生きていけないでしょう。子どもに頼っていいんですか。あなたの子どもたちはまだ結婚もしていないですね。結婚するときは、普通、両家の親が結婚式の費用として一〇〇万円ずつくらい出してやりますね。でも、あなたにその余裕はない以上、娘さんは自分でその分貯金をし、相手のご両親にはあなたが出してくれたように説明しなければ肩身の狭い思いをしてしまいますね。結婚したら新しい家庭を持つわけですから、いままでどおりあなたにお金を送ることはできません。そんなことをしたら相手はよく思わないでしょうし、第一向こうのご両親が知ったらどう思うでしょうね。お子さんに孫ができれば一緒に連れて遊びに来るでしょう。年を取って一番の楽しみは孫に小遣いをやることですが、このままでは小遣いすらやることすらできないです。本当にこのままでいいんですか」

このように説明すると、大抵の人ははっとした顔をする。自分の人生を振り返り、その場その場でいかに適当に生きてきたかを後悔するのである。そして、自分の大切な人たちに迷惑をかけないように少しでも多くの金を貯めようと決意することになる。

⑪ 具体的は家計簿のつけ方の説明は以下のとおりである(なお、相談の当日から家計簿をつけることができるように、大学ノートも一緒に渡すことにしている)。

「(【書式二】の最初のページを見せ)ここに家計簿のつけ方が書いてありますから、家に帰ったらよく見てください。

簡単に説明すると、ここに大学ノートがあります。このノートの左ページにレシートを貼り、右のページに数字を書いていきます。半月とか一ヵ月経って切りのいいところで次のページに移って、レシートを貼って数字を書く。これを繰り返してください。

(次のページをめくり)まず、家に帰ったら、一番最初に財布の金を数えます。何万何千何十何円まで数え、右上の残高の欄に記入します。

そして、何か物を買ったら、内容の欄に簡単に記載し、できるだけレシートをもらってください。①②③、これはレシートの番号です。自分でレシートに番号を振り、左のページに整理して貼ってください。①②③④というように貼っていって、九枚くらいしか貼れないですから、一〇枚目は一枚目のレシートの上にのりを張って貼り付けるわけです。めくれば下が見えるでしょう。こういうようにして、⑩⑪⑫と整理して貼っていってください。

上から三番目にお菓子の欄があります。③のレシートを見ると、こういうお菓子を買って四六五円を払ったとある。そしたら、支出の欄に四六五円と書くわけです。すると、財布の残高が四六五円分だけ減りますから、ここに減った残金を書く。この残高の欄を見ると、いま財布にいくら金が入っているか、円単位で全て分かります。こういうようにして整理してください。

もう分かったと思いますが、この家計簿は常に財布の現在を中心に整理するわけです。したがって、収入は財布に入ったあらゆるお金、支出は財布から出て行ったあらゆるお金を書きます。給料は銀行振込ですね。だったら、もらった瞬間は通帳の数字が増えるだけなので収入には書かない。実際におろした金額だけお財布の現金が増えるので、その数字を書くわけです。支出も同じです。光熱費は引き落としかもしれませんが、その場合は通帳の数字が減るだけなので家計簿には書かない。そうではなく、振込書で払ったらお財布のお金がそれだけ減るので、支出の欄に書くわけです。

ただ、レシートをもらえない店がありますね。その場合、その場でメモするとか、家に帰ってすぐに家計簿をつけるとか、そういう風にしてください。でも、記憶で書くので、端数が合わない場合もありますね。右下を見ると、家計簿上は四四四四円現金がなければいけないのに、お財布には現金が四〇〇〇円しかない。この場合、どうしたらいいかですが、その差額を不明金として支出の欄に書くわけです。そうすると、家計簿の数字がお財布のお金に合うように減ります。このようにして帳尻を合わせてください。

そして、毎日寝る前にその日の家計簿をつけてください。一週間経ったら、日曜日の夜、三分から五分、時間を取ってください。一週間に一回、三分程度の時間を取って、一週間分の家計簿を見直すわけです。何にいくら使ったかよく分かりますね。一週間分といってもこんなものですから(ペンで一週間分の数行を示す)、三分あればレシートを含めて簡単に見直せるはずです。やることは二つです。良かった点と悪かった点を考える。良かった点は次の週も同じように頑張ればいいし、悪かった点は、無駄遣いの原因は何だったのかを考え、改善策を考えればいい。そのようにして、①良かった点と悪かった点を考え、②目標を立てて、③もう一週間頑張る。これを繰り返してください。きちんと家計簿をつければ、必ず無駄遣いがなくなるはずです。

(次のページに移り)最後に毎月の家計簿です。

これは毎日の家計簿と違い、お財布の現金ではなく、家計を基準にしてください。振込みでも引落しでも、あなたの家族が一ヵ月で得たお金、使ったお金を全て書き、書き終わったら、やっぱり三分程度時間を取って一ヵ月分の家計簿を見直し、次の月に活かしてください。

家計簿は毎日きちんとつけなければなりません。面倒になって一週間分まとめてつけても筆跡で簡単に分かります。その家計簿を見れば、あなたがどれだけ頑張ろうとしているかがすぐに分かります。頑張って家計簿をきちんとつければ必ず良くなります。頑張ってください」

なお、この家計簿のつけ方は、浜松のJ弁護士に教わったもので、書式もJ弁護士からいただいたものに多少手を加えただけのものである。この場をお借りして感謝する。

⑫ この文章は、どこにも負けない日本一の事務所を作ろうと心に決めた登録後一年半の弁護士が、どのようにして事務を合理化し、事務所開設後一年一〇ヵ月で六〇〇件もの多重債務事件を受任し、四億円もの過払金を回収したかの物語である。

多少お気に障る表現があるかもしれませんが、それは若手の特権ということでご寛恕いただければ幸いである。

クレサラ事件やヤミ金事件を扱ったことのない人にとって、どのような心構えで日々の事件処理をするかは実に非常に重要である。なぜなら、どのような点に心掛けて事件処理をするかは、人生を預けている依頼者が最も敏感に感じることであるし、きちんとした志を持っていなければ、案件を多数扱うにつれ、どうしても安きに流れてしまうおそれがあるからである。

ところが、この点について本音で書かれた本は少ない。

そこで、せっかく機会をいただいたことでもあり、身を切る覚悟で思い切り書いてみることにした。これまで書いたことやこれから書くことは、私が理想としているところであり、現在もその理想の実現に向けて奮闘努力している最中である。

この文章を読んで少しでも何か感じていただけるものがあれば、筆者としてそれに勝る喜びはない。

⑬ 私は、すべての相談者について、事前に電話で話した上で、来所してもらう日時を決めることにしている(相談中や外出中の場合は、電話メモに電話番号を記載させ、それを見てこちらから電話し、予定を入れている。その理由だが、当地では離島の特性から移動時間がほとんどないため、ほぼ一日中事務所にいられることから、このやり方を取ることで、私の予定と相談者の予定を調整し、できるだけ早急に相談日を入れることができるからである)。

具体的には、以下のように簡単にやり取りをする。

「お電話代わりました、弁護士のYです。サラ金にお金を返せなくなったということですが、サラ金との取引はかれこれ何年くらいになりますか。一番最初に借りてから現在まで、三年くらいですか、七~八年年〔ママ〕くらいですか、それとも一〇年以上経っていますか」「大体○年くらいです」「分かりました。それでは、○日の○時に事務所に来ていただきたいのですが、大丈夫ですか」「事務所の場所はお分かりですね。入舟町のaビルの五階です。その際、手元にあるだけで構いませんので、サラ金からもらったすべての書類、契約書とか、ATMの受領書とか、督促状とか、あるだけで構いませんから一切合財持ってきてください。なければないで構いません。それでは、○日の○時にお待ちしています。よろしくお願いします」

上記のやり取りの中で、取引期間をきくのは、破産をしなければならないか、過払金を回収して分配して終了できる事案かを簡単に見極めるためである。また、手元にある一切の資料を持参するように指示したのは、多重債務事件は相談者が望めば必ず受任することにしているので、二度手間を避けるためである。なお、相談日だが、多重債務事件はサラ金の督促を止めるためできるだけ早急に介入する必要が高い案件であるため、できるだけ当日か、遅くても翌日には相談を入れるように心掛けている。

⑭ 相談者には、私が面接するよりも一時間程度早く来てもらい、控え室で受付票(【書式三―一】)と債権者一覧表(【書式三―二】)を記載してもらう。相談者が来た時点で、事務職員の四人が相談し、担当者を誰にするかを彼女たち自身で決める。相談者を控え室に通し、書類を渡すのは担当事務である。

書きあがったら(書きあがるまで、大体一時間くらいかかる)、担当事務が漏れをチェックし、漏れがあればその場できき取って補充する。その際、本人が持参した契約書等の書面を参照し、一番最初の年月日を債権者一覧表に記載する(サラ金は、当初貸付日を誤魔化すため、何度も契約書を書換えさせているので、相談者が持参した契約書が一番最初のものである可能性は低い。そのため、本人の記憶=自分の年齢、結婚する前か後か、子どもの学年等から大体の目安をつけることになる)。

⑮ チェックが済んだ段階で、担当事務が書類(記入してもらった受付票・債権者一覧表と相談者が持参した書類)を私まで持参し、簡単に事案を報告する。過払金が出そうな案件か破産せざるを得ないか、本人は絶対に破産は嫌だと言っているのか、三〇秒程度で簡単に報告させ、相談者を部屋に通す。

担当事務は私の横に座り、黙って相談をきく。相談中は口を出さない。

多重債務事件の処理に当たってきくべきポイントは、既に受付票に記載されているため、必要事項の確認は一五分程度で終わる。この受付票を利用するメリットは、時間が大幅に短縮できる点ときき漏らしがなくなる点の二点にあるといっていい。

特に重要なポイントを列挙してみる。

・ 住所(持ち家だったら、オーバーローンか検討する。被相続人名義のままだったら、相続分に応じた持分しかないので、時価次第で破産ができる)

・ 勤務先(年金・生活保護・パートであれば、債務名義をとられても困ることはない。定職についていなかったり、収入が低ければ、借金をゼロにしても生活できない)

・ 借金額(身内や友人、町の金貸しからの借金を隠す人が結構いる)

・ 借金の原因(パチンコや浪費等のうしろめたい原因の場合、大抵嘘をつく。相談者に「この人に嘘を言ってもすぐばれて大変なことになるから、本当のことを素直に言おう」と思わせなければならない。ある先輩から「弁護士は、依頼者に信頼されることが仕事であって、依頼者の言うことを信じることが仕事ではない。依頼者の言うことに嘘がないか、誇張がないか常に疑っていなければならない」と教えてもらったが、多重債務事件を多く扱えば、いかに人が無邪気に嘘をつくかを実感するようになる。たとえば、パチンコなら、毎月いくら使ったのかを詳細にきかなければならない。何歳から何歳までは月○万円、ときいていき、「先月はいくら使いましたか。先々月はどうですか。最後にパチンコ店に入ったのはいつですか」と畳み掛けるようにきいていけば、どこかで必ずぼろが出るものである。パチンコや浪費なら、一年くらい家計簿をつけさせなければいけない。事業資金が原因だが現在は黒字なら、原則として税理士をつける。収支とんとんで生活費は何とか出るものの事業を辞めても再就職の見込みがなければ、民商で帳簿をつけさせ青色申告をさせる。その上で事業を続けたまま破産できるように裁判所に頼むことになる)

・ 家族(進学予定の子どもがいれば、その進学資金を考えてやらなければならない。身内に借金があれば、トータルで解決しないとまた借金をするようになるので事務所に呼ばなければならない。身内の電話番号をきいておかないと、本人と連絡がつかなくなった際に困ることになる)

・ 資産(車のローンが残っている場合、所有権留保に注意する。対人無制限の任意保険に加入しているか確認する。自賠責しか入っていない者に車を持つ資格はないからである。退職金は、職場の証明書を取る必要はなく、就業規則等の裏付資料をつけた本人の陳述書でよい)

・ 生活費(借金の返済さえなくなれば、自分の収入の中で生活してけるのか。無駄遣いはないか)

・ 今後三年間の大きな支出予定(アパートの更新料、自動車の車検・税金=自動車は毎月三~四万円の維持費がかかるのでどうしても必要かを確認する、出産費用=債務整理中は避任させる、治療費=子どもがいると病気にかかりやすい、冠婚葬祭費=若い女性は友人の結婚式が多い、帰省費用=親の死亡。こうした予想される費用を話していくと、任意整理が考えていたより大変なことが分かって方針を破産に変更することもある)

・ その他(口座引落しによる返済がある場合は受任通知後も引き落とされないように、取引銀行が債権者の場合は相殺をされないように、口座を空にしておくこと。給与天引きによる返済がある場合、受任通知をFAXすれば、銀行の側で勝手に天引きを止め、間違って引き落とされても返してくれるため、職場に言う必要はない=各金融機関に一回確認すれば、大体の傾向が分かるので、銀行で手続してくれないところだけ職場で手続をさせればよい)

・ 債権者一覧表(「あなたが生まれてから一番最初に借りたところはどこですか。それはいつですか。三〇歳になっていましたか、それとも二〇代?二〇代の後半でしたか、それとも前半?結婚する前ですか、後ですか。一番下の子は生まれていましたか。小学校には入っていましたか。一番上の子は成人していましたか、まだ高校生でしたか」というように、本人の年齢、結婚の前後、子どもの学年、親が生きていたか死んでいたかなど、思い出すいろいろなきっかけをこちらから振ってやり、できるだけ詳細に思い出させることが必要である。このようにして、一番最初のサラ金を特定したら、次に借りたサラ金はどこで、一番最初のサラ金よりどれくらい後に借りたかを順次きいていく。なお、「生まれてからいままで、ここに書いた以外のサラ金から借りたことは絶対にないですね」と確認しておくことも大切である)

⑯ このようして一五分程度で事情を把握したら、この借金をどうしたいと思っているか一応きいてみる。そうすると、三種類に分かれる。①破産を覚悟している人②破産は絶対にしたくないと思っている人③どうしたらいいか分からず途方にくれている人。

ここでのポイントは、弁護士が手続を選択し、依頼者を説得し、納得させるということであり、絶対に依頼者の希望に沿った解決をしてはならない。

⑰ 債務整理の目的は、本人を経済的に立ち直らせることにある。経済的に立ち直らせるとは、他人に頼らず自分の収入だけで生活することができ、毎月の支出をできるだけ削って、毎月少しずつでも貯金ができるようになることをいう。

そのためには、毎日欠かさず家計簿をつけ、毎週欠かさずその週の反省をし、目標を立てて次の週を頑張るという繰り返しをしなければならない。ただ、多重債務に陥る人は、本来そういうことが面倒でしなかった人たちなので、家計簿をつけさせるためには強い動機付けが必要となる。頑張れば毎月少しずつでも貯金ができることを発見すれば、将来に希望を持つことができる。将来に希望を持つことができれば、借金をして昔のような苦い生活に逆戻りをしようなどとは思わなくなるだろう。

ところが、借金が残っていれば、その返済をしなければならず、貯金をすることなどできない。人間、二年も三年もひたすら借金を返す生活を続けると疲弊し、どうでもよくなるものである。そして、途中で挫折すればそれまで払った金がすべて無駄になる。

その意味で、私は破産こそが原則だと思っているし、住宅がある場合等の特殊事情がある場合を除き、個人再生はしないと決めている(住宅があっても、多重債務の原因が住宅ローンの場合は、もちろん破産させることになる)。

本人が「どうしても返したい」と言っても、それは事態の深刻さをきちんと理解していないことの現れに過ぎない。いままで返せずにいておいて、どうしてこれから返せるのか。家族や友人から借りまくった金はどうするのか、踏み倒して知らん振りをするのか。保証人に迷惑をかけたくないと言っても、ここまで膨れた借金を完済するのは無理だから、近い将来必ず潰れることになる。そうすると、それまでに付いた利息ごと保証人に請求がいくことになるが、それで本当にいいのか。結局、責められるのが嫌なだけで、本当にその人のことを考えていないのではないか。本当にその人のことを考えるなら、破産をして一日も早く借金をゼロにして、必死になって貯金し、その金でお詫びをするしかないのではないか。あなたは既に五〇歳で、定年まで一〇年もない。年金は満額でも毎月六万六〇〇〇円しかもらえず、免除申請をしていると毎月二万二〇〇〇円しかもらえない。年金だけで生活はできないが、年を取って働けなくなったらどうするのか。身内に迷惑をかけるのか、生活保護の世話になるのか。借金を返す元気があるなら、その分老後のために貯金をし、身内や国に迷惑をかけないように頑張るのが筋ではないか。

こういうようにして現実を見つめさせると、相談者は、借金を払って生きたい〔ママ〕というのは実に身勝手で、現実性のない空論であることに気付く。そうすると、破産をし、できる限り貯金をして迷惑をかけた人たちに少しずつでもお詫びをしていこうという気持ちが生まれるのである。

⑱ 繰り返すが、私は、多重債務者事件において、単に借金をゼロにしたり、過払金を取戻しただけでは何の意味もないと思っている。借金をゼロにしても、自分の収入でやっていけないからサラ金から借りたわけで、そのままではまた金に困って借金をすることは明らかだし、過払金を取戻しても、一〇〇万円や二〇〇万円程度の金など使う気になればすぐ使ってしまうことができるからである。

重要なのは、私の手を離れる半年から一年程度の期間で、自分の収入の中でやりくりする習慣と、二度と借金はしないという強い意志を持つことができるかである。

そのためには、残った借金は何の役にも立たない。分割弁済をして三年かかって完済しても、サラ金をもうけさせるだけで誰も褒めてはくれない。サラ金にくれてやる金があるなら、さっさと破産をし、自分の将来や子どもの将来のために使った方がはるかにいい。

相談者の中には、絶対に破産はしたくないと頑張る人がいても、上記のような説明をし、破産をしても何らのデメリットはないこと、自分で言わなければ誰にもばれないこと、単に二度と借金ができなくなるだけであることを告げると、大抵は破産をすることに同意するものである。

⑲ 相談者に破産を覚悟させた上で、利限法の話をする。

「サラ金の利息は高いでしょう。二八%や二九%の利息を払っていますね。昔は、三〇数%とか四〇数%取られていたと思います。しかし、実は利息制限法という法律があって、一〇〇万円未満は一八%、一〇〇万円以上は一五%しか取ってはいけないと法律で決まっています。つまり、サラ金から五〇万円を借りて二八%の利息を払ったとします。ところが、法律で一八%の利息しか取ってはいけないと規定されているので、二八%の利息だけを払っていても、一八%との差額の一〇%は払いすぎになっていることになります。五〇万円の一〇%といったら五万円ですね。すなわち、二八%の利息だけをひたすら払っていても、毎年五万円ずつ借金が減っていることになるんです。普通は、利息だけでなく、元本分も上乗せして払っていますよね。ところが、利息だけ払っても払いすぎなので、払いすぎた利息分に元本分として払った分も上乗せされて払いすぎということになるわけです。大体六~七年、借りたり返したりを繰り返していると、借金は限りなくゼロに近づきます。そして、法律上元本が完済されてなくなっても、それを知らないで、約束の利息で計算すると借金が残っていると思って払ったら、その払ったお金はみな払い過ぎということになり、全額取戻すことができます。○○さんの件は、七~八年経っているものが二~三件ありますから、これは払いすぎの可能性が高いと思います。でも、約定残を見ると九〇万円になっていますから、おそらく最近借り増しをしたんでしょうね(相談者頷く)。そうすると、場合によっては借金が残る場合もあります。計算してみないと何ともいえませんが、かりに払いすぎになっていたら取戻して、まず私の費用に充て、取戻した分と残った分をガラガラポンして、借金が一〇〇万円以上残ったらやはり破産を決意しなければ駄目だと思います。破産してきれいになって、余ったお金を貯金して老後に備えたり、子どもの学費に使った方がいいですよね。他方で、借金が数十万円程度になったら破産しなくてもいいかもしれませんが、それはやってみないと分かりませんからね。よろしいですね。」

⑳ この後、家計簿と反省文の説明に入る。

「私が通知を出せば、もうサラ金から請求が来ることはありません。場合によっては、間違って一回くらい電話が来るかもしれませんが、その場合は、私の名前を出して、弁護士に頼んだので、詳しい話は弁護士にきいてくださいと言って電話を切ってしまってください。ただ、サラ金は、弁護士が入った以上、不公平なことをしないだろうと思っているから直接請求はしてこないのです。したがって、この瞬間から、一円たりとも返してもいけないし、借りても駄目です。身内だろうが友人だろうが保証人がついている業者だろうが、とにかくどこに対しても一円でも返してはいけない。あなたがどこかに返せば、後で必ずばれます。ばれたら、返してもらえなかった業者はむちゃくちゃ怒るでしょう。そして、裁判官が一番嫌うのは、不公平なことをした人ですから、場合によっては破産ができなくなります。他方で、弁護士に相談に来た時点で、自分ではもう返せないと分かっているわけですから、それを隠して借りると詐欺罪になります。犯罪ですから、絶対にやめてください。いいですね。この瞬間から一円でも借りてもいけないし、返してもいけない。しつこいようですが、必ず守ってください。そうすると、二度と借金はできなくなりますから、今後は自分の収入をやりくりして生活をしていかなければなりませんね。そのために、うちの事務所では必ず家計簿を付けてもらっています(以下、家計簿の説明)。」

file_4.jpg「(家計簿の説明に続き)もう一つ、大切なことがあります。それは、この機会を利用して、自分がどうして借金をしてしまったのか、その原因を分析し、どうしたらまた借金をしないですむか、その対策を考えておかなければいけません。いまここでそうしておないと〔ママ〕、将来、また同じようなことにぶつかった時に同じような間違いを繰り返すおそれがあるからです。借金をした記憶は嫌な記憶ですから、意識的に思い出すようにしなければ、思い出せないまま忘れてしまいます。一番最初に借金をしたときの気持ちは、最近の気持ちと全然違うはずです。こんなに高い利息を払えるのかと悩んだでしょう。ところが、最近では、少しの躊躇もなく返すために惰性のように借りてしまっていますね。それではおかしいわけです。最初の気持ちが普通の人が持っている気持ちなわけですから、その気持ちを思い出さなければいけない。そこで、この紙に従ってサラ金業者ごとに思い出していってください。その際、すべての貸し借りを思い出すことなどできませんから、ポイントは、条件が変わったときを中心に書くということです。最初に借りたとき、限度額が増えて借り増しをしたとき、一旦完済したとき、完済したけれどまた借りてしまったとき、利息がきつくて毎月の返済額を負けてもらったとき、こういった条件が変わったときを中心に、一つ一つの業者についての借金の歴史が分かるように、A4で二~三枚程度にまとめて、それをすべての業者についてやってください」

file_5.jpgその後、委任契約書(【書式四】)を作り、委任状に署名・押印してもらう。

委任契約書は、報酬欄を空欄にしておいたものを事前にコピーしておき、その場で金額を書き込み、依頼者と私で一通ずつ保管する(当初はいちいち読んで説明していたが、最近は時間を有効に利用するため、家でよく読み、分からない点があれば次回来所する際に質問するように指示することにしている)。

ここで、簡単に経理処理について説明する。

私は多重債務事件の処理に当たって、二種類の通帳しか利用していない。一つは、「弁護士Y」(以下「報酬口座」という)、もう一つは「弁護士Y 預り金口座」(以下「預り金口座」という)である。

依頼者の中で着手金を一括で払える人などいないし、大抵有り金みな使ってどうにもならなくなって相談に来る。そこで、通常は、相談日には一円ももらわず、翌月の給料日から、毎月一万円から五万円の範囲で分割してお金を持ってきてもらうことになる(その際、家計簿も一緒に持参してもらい、担当事務が簡単にチェックする)。そして、多重債務事件を処理する際は、意外と細かな経費がかかるものだが、そのような費用をその都度依頼者に持参させるわけにはいかない。そこで、依頼者には毎月決まった額のお金を持参してもらい、一括して預り金処理をし、その都度の経費に充て、最後に私の報酬も含めて清算することにした方が分かりやすいのではないかと考えた。

file_6.jpg具体的には、依頼者が持参した分割金は、すべて預り金で領収書を切り、預り金口座にその都度入金する(同じ日に複数の依頼者から分割金を受取っても、依頼者ごとに一行ずつ記帳する)。そして、「弁経」という経理ソフトに入力する(弁経が優れているのは、他の経理ソフトと異なり、経理の知識がなくても感覚で入力できる抜群の操作性に加え、依頼者ごとに預り金を管理でき、それをプリントアウトすればそのまま依頼者への報告書代りになる点である)。

そして、事件処理が終了した時点で(破産なら破産申立て直前、過払金を回収して終わりの事案なら依頼者に最終報告をする時点)、全額について出金し、その瞬間、報酬分については相殺して報酬口座に移し、残金を事務所に持ち帰り、依頼者に返す(依頼者には、全額についての預り金の受領書に署名してもらい、報酬分の領収書を渡すことになる)。そのようにしておけば、途中で辞任する際の経理処理も簡単である。課税関係がどうなるかだが、発生主義を潜脱するために分割金制度を導入しているわけではなく、受取った分割金は過払金請求訴訟をする際の各種費用や一括弁済の弁済資金に充てるなど実際に費用として費消しているため、分割金を受取った段階でそれが収入認定されることはないだろうと考えている(なぜなら、私自身、分割金のいくらが報酬相当分でいくらが経費相当分かを把握していないからである)。

分割金をすべて預り金処理するこの方法は、非常に分かりやすく簡単な処理方法だが、唯一の欠点は、報酬口座に金が行く時期が受任して半年以上後になるため、最初のうちは非常に苦しい事務所経営を強いられることであろうか(半年もするとどんどん報酬が入ってくるので、逆に事務所経営は非常に楽になる。最初苦労するか後で苦労するかの違いに過ぎないが、半年程度辛抱するだけで非常に使い勝手がいいシステムが完成するので、私はこちらを強くお勧めする)。

file_7.jpg依頼者に委任状と委任契約書を書いてもらったら、担当事務が依頼者に来てもらう日時を決める。大抵一ヵ月後を指定し、その際に家計簿と分割金を持参してもらう。

最後に、私は、以下のように依頼者に言うようにしている。

「これで一通りの説明が終わりました。何か分からないことや心配なこと、きいておきたいことはないですか。(間をおいて)分からないことがあったら、事務所まで電話をしてきいていただいてもいいし、次に事務所に来るときに質問してもらっても構いません。しつこいようですが、この瞬間から、どこに対しても一円でも借りたり返したりしてはいけません。よろしいですね。では、やっていきましょう」

b) 被告自身が講演した被告の処理方針

被告は、平成一九年五月二日、静岡県において、「事務局との役割分担」と題する講演をし、この中で、債務整理事件に関する被告の処理方針を明らかにしている。

この講演録の抜粋は、次のとおりである。

① 実際にどういうふうに相談をするのかということですけれども、まず電話がかかってくるんです。電話がかかってきたときに、まず私がとります。というのは、移動時間がないもんですから、私ほとんど事務所にいたりするんです。それで裁判に行くのも、過払いの裁判とかというのはほとんどまとめてもらってるものですから、週に一回行くか行かないかぐらいですので、ほとんど事務所にいます。そうすると電話がかかってきたときに、相談とかで私が手があいてない場合を除いて、まず必ず私がとってその場で日程を決めると。それでその必要な書類を持ってきてもらいます。というのは、これにも二パターン多分考え方があって、弁護士が日程を決めるのか、あるいはもうスケジュールを事務局に渡してしまって、あいてるところにどんどん入れるかということがあるんですが、余り一日に相談を入れるとなかなかしんどかったりするんです。実際問題として飛び込みで来たりする人とか、あるいはどうしてもきょう〔ママ〕じゃないとあれだとか、仕事の都合でとかいう人がいるもんですから、基本的には当日に相談を入れるようにはしてるんですが、それでも五件、六件入ってしまうと、翌日に回したりとかしたくなるものですから、それで私がとると。

② 受付なんですが、日程を決めてそれで事務所に来ていただきます。大体相談の一時間ぐらい前には事務所に来ていただくことにしているんです。そのときに渡すのが、まずそのお配りした資料のこの受付カードと債権者一覧表を相談者の方にお渡しをします。前日の段階でホワイトボードにあしただれ〔ママ〕が来るのかと。それは例えば親権〔ママ〕クレサラ……ということが書いてあるもんですから、相談者が来た時点で、もう具体的に四人いる事務職員の中で担当がもう決まっているんです。それは彼女たちが自分で決めます。それで、来ると案内するのが担当の事務職員で、その段階で受け付けカードと債権者一覧表を相談者の方に渡して、実際書いてもらいます。

これを書くのは、これを私が沼津にいる間にいろいろ工夫してつくってみたんですけれども、A4、一枚でこれで恐らくすべての必要な事項というのが書いてあると思うんです。クレサラ相談で一番困るのは、いろいろ聞いてると漏れが幾つか出てくる場合が結構あります。例えば判決、これをやっていても判決が取られちゃってるのに取られていないとか丸をつける人が結構いたりとかして、あと受任通知を出して、その時点で銀行の残高が残っていると全部相殺されてしまって後で取り戻すことが絶対できないもんですから、そういったようないろんな事項について、これをとにかく書いてもらえば、一応一通り漏れがなく、その人のすべてのことについて把握することができるという意味で、これを事前に書いてもらうというのが非常にスムーズに進むということの一つの工夫なのかなと思っています。

だた〔ママ〕、なかなかこれは本人では書けなくて、大体二、三十分ぐらい自分で書いてもらいます。それで一通り終わったら事務の方に言うように伝えておきますので、そうすると終わったら事務が呼ばれるんですね。それで、でも一〇分とか一五分とか二〇分ぐらい、これを見ながら足りない部分は事務職員が埋めていって、あと債権者一覧表とか、あと本人が持ってきたいろんな契約書だとか、……だとか、そういうのも話を聞きながら事務職員が整理をします。ですから、最初の三〇分ぐらいは本人の時間、残りの三〇分は事務職員が足りない部分を聞き取りをする時間と。それで大体一時間ぐらいにして。なかなかかかる人になると一時間とか一時間半かかってもなかなか書けなかったりとかする人が結構います。それで大体事務職員が受付カードと債権者一覧表に漏れがないというところでチェックが終わると、私のところに報告が来るんです。それでこの受付カードと債権者一覧表を持って簡単に、三〇秒ぐらいなんですけれども、この人というのはどんな事案なのかと。例えば二、三年ぐらいで、借金の原因がパチンコとかでどうしようもない人だとか、あるいはもう結構平成の頭ぐらいから借りていて、過払い権〔ママ〕を回収してその分返して終わりの可能性が高い人なのかということを大体確認して、ただ本人が絶対破産はしたくないと頑張ってますとか。余り破綻〔ママ〕したくないと言ってなかったけれどもきちんと説得すれば、まあ応じそうですとか、奥さんが絶対破産してはいけないんだと、本人はやりたいんだけど言ってますとか。不動産があるのでなかなか難しそうですとか、身内に財産を持ってる保証人がいますとか、大体そのポイントぐらいを三〇秒ぐらいで報告をさせて、それで私の部屋に通す。受付カードとかつけてもらうのは、その左上のその三つの相談室の中であいてるところに通してもらって、それをやって終わった段階で私の部屋まで相談者を連れてきて、そこで私の相談が始まると。大体そんなイメージです。

③ 三番の弁護士相談というところに入るんですけれども、最初は私の名刺だけを相談者の方に渡していました。ただ、二回目からの相談というのは、具体的に家計簿チェックとかその分割金の受取りだとかというのは事務職員がやるものですから、事務職員名前がわからないと、なかなか電話がかかってきてもだれかというの調べなきゃいけないものですから、私の名刺にもう事務職員に判こを押させて、その名刺を渡すことによって、もうあなたの担当は事務職員のだれだということがきちんとわかるようにはしてあります。事務職員は私の横に座ってメモを取りながら相談をずっと聞いてると。それでこのカードをつけると余り聞くことというのは、このカードに従って簡単に聞いていくだけで余り大した内容は聞くことはありません。ただ、一番最初に借りたのはいつかということは必ず毎回聞くようにはしています。

この資料としてお配りしたその借金をして、それが払えなくなった経緯みたいな一番から七番ぐらいのものがA4、一枚程度にあると思うんです。いつどこから幾ら借りたのかと。簡単に言うと、なかなか借用書を一番最初から持ってる人なんてほとんどいません。そうすると、奄美大島の場合は遠隔地だったりすることが多いもんですから、本人がお店で借りるのではなくて、銀行の通帳に振り込んでもらってお金を借りるというのが結構あったりします。それが例えば楽天KCだとか、ユニマットレディースだとか、そういうのが結構あったりするんです。

そうすると、とにかく最近私がやってるのは、最初に通帳を持ってこさせて、本人がその通帳に振り込みがないというふうに思っていてても〔ママ〕、振り込みがあることが結構あったりします。とにかく通帳を持ってこさせると。銀行は全部マイクロフィルムで基本的にはとってありますから、本人が行っても、その鹿児島銀行なんかだと一九九三年の一月一日以降のものについては電算化されているので全部出すんですけれども、一九九二年の一二月以前のものについてはマイクロフィルムなもんですから出してこないんです。マイクロフィルムというのは、御存じのとおりいろんな人のものが全部入ってますので、まず銀行でそれをコピーをして、必要な部分だけを短冊みたいにして抜き焼きをして、その紙に張りつけてそれをコピーして出すものですから、非常に手間だったりするわけです。

したがって、その鹿児島銀行の場合は、マイクロフィルムはとにかくないとかいって、普通の人が言っても出してきません。これは確実に個人情報の保護の法律に違反するんですけれども、ただ私との関係では、私から取るように言われたと言えば基本的にマイクロフィルムはみんな出すというような取り扱いにしてもらってますので、とにかく通帳を持ってる人はみんな通帳、なかったら銀行に行ってマイクロフィルム……とにかく全部そろえて持ってきてもらうというふうにはしています。

あと思い出すきっかけとしては、やっぱり最終的には記憶しかありません。例えば自分の年齢です。一番最初に借りたのは、どこでそれは二〇代なのか三〇代なのか、成人してたのか、成人してなかったのか、結婚する前なのか、結婚する後なのか、子供が産まれる前なのか、後なのか、子供が小学生に入るころだったのかどうかとか。そういうことを一つ一つ本人に思い出してもらうしかないんです。お金が必要なときには、お金が必要なイベントがあるはずですから、そういういろんな人生のそのイベントを思い出してもらって、どの時点でお金を借りたのかと。一番最初がはっきりすれば、二番目に借りたところが、その例えば同じ月に借りたのか、二、三カ月後なのか、半年後なのかということで大体、相当程度の角度で、平成何年の何月ごろにお金を借りたのかというのが割り出すことというのができると思っています。

ただ、それを最初からそれをやると、うちの事務がパンクしてしまいますから、私の相談では一番最初に簡単に一〇分程度聞くぐらいで、本人にこの紙を渡して次回までにA4の紙で大体二、三枚程度で、一番最初に例えばCFJだったらCFJで一番最初に借りたときから現在まで、A4で二、三程度で借金の歴史がわかるように全部書いてきてもらって、それを事務がチェックをして補充していくと。大体そんな感じです。

④ それで、私も本人の話を聞いていて、事情を聞くのは大体二、三十分ぐらいはかかります。その間にもう破産を覚悟している人というのは非常に簡単なんです。借金の整理をして、これから頑張っていきましょうという話をするぐらいで。ところが、中にはどうしても破産したくないというふうに頑張る人がいるんです。その場合はいろいろ話をするんですけれども、破産をしても結局自分で言わなきゃ何もわからないと、官報という新聞には載るけれども、そんなものを見てる人というのはほとんどいないので、自分で言わなければ子供にも全然影響しないし、書類にも全然残らないという話をするんですが、どうしても気持ちの問題で破産をしたくないという人がたまにいるんです。

そのときに、その私が話すようにしているのは、まだその学校に行かなきゃいけない子供がいる人、あるいはその五〇歳ぐらいで、あと五年とか一〇年ぐらいで仕事がなくなる人、それぞれに話すんですけど、子供がいる人については、その子供があと例えば一〇年で大学に行かなくちゃいけないと。そのときに大学に行かせるためには初年度一〇〇万円ぐらいどうしてもお金がかかると。借金をしてきれいにすれば、例えば専門の大学行きたいといっても、どんな大学でも行かせてあげることができるんだけれども、今のままじゃどうしようもないと。

それで破産をしても、潔く覚悟して破産すれば子供をどんな大学でも行かせてやることがきるん〔ママ〕だけど、あなたがそういうことをしなければ、大学へ行かせてやることができないと。子供のためにもここは決意をして、きちんと節約して頑張っていこうじゃないかという話をすると大体納得するんですけれども、ただ納得しない人というのがやっぱりいるんですね。その場合はぎりぎりまで詰めると、簡単に言うとあなたの自分のそのプライドだとか世間体と、あるいは破産をすれば子供が進学することができると。自分の世間体と子供の幸せをてんびんにかけて、あなたどっちを取るんだという話を最終的にはしなくてはいけないんですが、それでも自分の世間体を取りますという親が結構います。

それであと五〇歳ぐらいの人であれば、例えば国民年金というのは、あれ満額納めて六万六、〇〇〇円しかもらえないんです。免除申請してると三分の一ですから、二万円ちょと〔ママ〕しかもらえません。夫婦で免除してる人とか、あるいは未納の人とかいるもんですから、そうすると一五万円ぐらいしかもらえない。家賃が今市営住宅だと安いので二万円とか、三万円とかで市営住宅に住めるんですけど、それでもほとんど残らないか、あるいはその一万円とか二万円とかで生活ができるのかという話をするんですね。

でもあと一〇年あれば、毎月節約をしていけば四万円でも五万円でもためられるわけです。そうすると一年で五、六十万円ぐらいお金をためられて、一〇年あれば六〇〇万円ぐらいのお金がためられると。でもそのぐらいのお金があったとしても、年金がおりるまで六〇から六五ぐらいまでの間というのは全く無収入で生活していかなくてはいけないので足りないんだけど、でもそのぐらいのお金があれば、少なくとも子供に迷惑をかける割合というのは減らすことができるはずなんです。

⑤ そういうような話をすると大体の人は納得をするんですけれども、納得をしない人というのは少なからずいます。それでどのくらいの人が納得しないのかというと、記者会見資料という資料を事務所レイアウトの後におつけをしたんですけれども、これが私が平成一七年三月から平成一九年の二年間にやった仕事です。一番下に、四番の合計というので二年間まとめてみました。受理件数として一、三二一件。そのうちの受任したのが八三七件です。クレサラをいうと七八八件相談を受けて、受任をしたのが六七七件です。つまり全体の八五%しか私は受任をしていないということになります。残りの一五%は受任をしていない。ですから、一一一人の人が私に頼まずに去っていったということになるんです。基本的に私の場合はみんな分割で受けますし、生活保護の人も三、〇〇〇円とか五、〇〇〇円とか持ってくればいいよという話をしてますので、金が原因で私が断るというのは、一件だけあったんです。要するに会社をやっていて、事業資金からみんな使ってしまって一円もありませんと。それで会社で借金がいっぱいあるんだけどどうしたらいいのかって。その借金の原因も結構悪かったものですから、その場合は断って。それ一件ぐらいしかないんですが、ほとんどは金がなくても受任をすると。

⑥ この一五%の人が去っていった原因というのは、さっきも話したとおり、自分の世間体だとか、プライドだとか、そんなことのために子供犠牲にしてもいいですみたいなことを言った人だったりするんです。その場合は一時間ぐらいいろいろ話をします。今、言ったようなことを膨らませてたりとか、このままだとこういう大変なことになるというのをやって、三〇分から一時間ぐらいにわたっていろいろ説得はしてみるんですけれども、本人がどうしても頼みたくないというふうにいうと、どうしようもないかなというところで。

大体私に頼まない人というのは、小さな子供がいっぱいいたりするんです。小学生の子供、中学生の子供、高校生の子供がいます。中には自分の子供は高校を出て、今高校二年生だったりするんですが、来年進学せずに働いて一緒に借金返していきたいというふうに言ってますからいいですとか。自分は高校まで行かしてやれば十分で、大学に行きたいなんて言ったって大学に行かせてやる必要はないと思っていますとか。そういう親というのがやっぱりいるんです。それで、絶対破産したくありませんという人が一〇〇人ちょっとぐらいいて、それはもうどうしようもなくて、なかなか切ないんですけれどもどうしようもない。その対策については最近ちょっと考えて、それは後でお話をしようかなと思っています。

⑦ 私が思うに、はっきりやっぱり言ってあげた方が本人もあきらめがつくんだろうと思うんです。簡単に言うと、これまで住宅ローンをずっと払ってきたと。住宅は絶対手放したくありませんという人がたまにいます。でも、本人が自分でやっててだめなもの、だめだったから相談に来たわけです。どうしようもなかったから弁護士のところに相談に来たと。弁護士はプロなわけですからプロである弁護士に任せて、どうにもならないものが弁護士に頼まず本人がやったりとか、司法書士に頼んでどうにかなるのかといったらどうにもならないんです。

結果的に見れば、後で例えば私がその覚悟しろと言わないで、覚悟できなくて司法書士に頼んで、結果的に言って過払金が結構戻ってきて、住宅を手放さずに済んだぞというのがあるかもしれませんけれども、それはあくまで結果論であって、私に頼んで同じような結果は当然できたはずなんです。そうすると、プロである弁護士に頼んでどうにもならなければ、やっぱり覚悟はしておいてもらわないと。過払金が出るか出ないかというのは、やってみた結果にすぎませんから、もし出なかった場合に、借金があって住宅を手放したくないというと、非常に私としては処理に困るわけです。処理に困ると、なものですから〔ママ〕、そういう話をすると大体納得する人もいれば、納得しない人もいます。絶対に手放したくありませんとか言って、でも住宅なんていうのは単なるものじゃないかと。あなたはこんなものに執着して子供が進学できないことになると。単なるものである住宅と子供の将来とどちらが大切だとか言って、また元の話に戻るんですが、そういう話をすると納得する人もいれば納得しない人もいると。その段階で納得しない人が全部で一〇〇人ぐらいいるという大体そんな感じです。

⑧ でも大体は破産を覚悟します。平成の初めとか昭和の頭ぐらいから取引があるものもまざっていても、潔く覚悟をさせることにはしているんです。なぜかというと、簡単にいうと過払金を回収して本人に分配しても意味がないと思ってるからです。例えば、借金をするからにはそれなりの理由があるんです。自分の収入でそもそもやっていけないから借金をするわけですから、その借金をする原因をつぶしておかないと、過払金が例えば三〇〇万円、四〇〇万円戻ってきたところで、そんな金はすぐ使おうと思えば使えるんですよ。中にはパチンコで毎月一〇万円、二〇万円の自分の給料を突っ込んでも足りないもんですから、サラ金から借りてやってしまったという人も少なからずいます。全体の一割ぐらいなんですけれども、そういう人にそのままの利権を残しておいて、一〇〇万円、二〇〇万円渡してもすぐパチンコにすってしまうものですから、全く意味がないんです。

そうすると私が思うのは、まず潔く覚悟をさせて、自分のこれまでの生活のどこに問題があったのかを深く本人に自覚させると。その上で半年とか一年後ぐらいで過払金が戻ってきたら、その過払金を渡してやれば、本人はそのお金有効に使えると思うんです。私が一番最後に言うのは、本人がこのお金二〇〇万円とか三〇〇万円とか使ってもいいし使わなくてもいい、それは私にはもうコントロールできない、あなたが決めるしかないと。でも私は、このお金についてはきちんと定期預金か何かにしておいて、もう押し入れの奥にでもしまっておいて忘れてしまった方がいいと思うと。そのときに、老後でどうしてもお金が足りないとか、子供がどうしても進学がこのお金がないとできないとかいった場合はこのお金を使ってもいいけれども、基本的にはこのお金はなかったもんだと思って、自分の収入でやっていくようにという話をするようにはしていますけれども、御本人がそれを守るか守らないかというのは正直よくわかりません。

⑨ それで、そんなことをいろいろ話ながら、三〇分とかそのぐらいにわたって私がいろいろしゃべって、弁護士費用と大体幾らぐらいかかると。私の場合破産する場合は三〇万円なんですけれども、それをただ一括してお金を払うことは当然できないので、弁護士が介入をすればサラ金に払わずに済むんです。大体五万円とか六万円とか一〇万円とか払ってきた人ですから、二万円とか三万円ぐらいであれば、私のところに分割して毎月持ってこれるはずだと思っています。

五万円とか六万円とか払っていたのに五万円とか六万円を私に払えという話は私はしません。なぜかというと、それだと本人のやる気が余りなくなっちゃうんです。五万円ぐらい余る人であれば例えば三万円ぐらいと言って、残りの二万円については、節約をしてくださいと。私のところに三万円毎月持ってきても、あなたの場合はあと二万円とか三万円貯金ができるはずですから、自分できちんと貯金をしてくださいという話をするようにはしています。

⑩ それで私が退席をした後、事務職員が家計簿と例のいつどこで借りたのかというのを説明をして、委任契約書、委任状に署名、押印をしてもらって、次に来てもらう日を決めます。これ最初私が全部してました。ところが人間、三〇分とか四〇分とかしゃべってるとなかなかしんどいものですから、事務職員もずっと聞いてなきゃいけないものですから、なかなかその後二、三十分ずっと聞いてるというのはお互いしんどいもんですから、もう一年ぐらいたってから、もう事務職員にみんな説明をしてもらってると。

⑪ 私が思うに、多重債務者というのは自分の収入でやっていけないから借金をするんです。借金をして、それまでのお金が足りない状況そのまま引きずって、借金をするもんですから、今度はそれに加えて利息まで払わなくちゃいけないというので絶対払えなくなるわけです。払えなくなったら、また別のサラ金から借りるしかないということでまた借りて、借金をした原因そのままですから、もともと足りない利息分をふえた〔ママ〕。そういうとこで借りた。もともと足りない利息……また利息をあげたというのでどんどん多重に債務者になっていくというふうなことだと思っていますから、そもそもの借金の原因を本人に気づかせて、当時の状況に戻ったときに、自分だったらどうしてればよかったのかと。どこが自分の借金をしたことが問題で、それを繰り返さないためにはどうしたらいいのかということを本人にやっぱり考えてもらわないといけないと。

実際、そのためには家計簿をつけて、一週間に一回、日曜日の夜五分程度で構いませんから、一週間に一回きちんと見直しをさせるんです。そうすると、むだ遣いがあるか、ないのかよくわかります。例えば今週缶ジュースを何回も買ったぞと。缶ジュースなんてもの、あんなものはお茶でも水筒に……すれば買わずに済むんです。あるいはお昼で五〇〇円、六〇〇円のランチ代がかかってると。弁当をつくっていけば二、三百円ぐらいで済むわけです。そういうことを本人に自分で気づかせて、できるだけお金を節約するためにはどういう工夫をしていったらいいのかということを考えてもらうと。それを本気でやった人というのは必ず立ち直れますし、やらない人というのは立ち直れないです。

家計簿をつける人というのは残念ですけれども、非常に少ないです。非常に少ないです。なぜかというと、そういうことがもともとやれるような人であれば、サラ金からほとんどの人は多分借りなかったなと。そういうことやれない人だから、借りてしまったと。

⑫ うちの事務に連休前に聞いたんですけれども、大体半分ぐらいは何も言わなくてもお金を持ってくると。残りの二、三割ぐらいは、お金を持ってきたいんだけれども、生活が苦しくてどうしても持ってこれないと。三、〇〇〇円でも五、〇〇〇円でもいいと言ってるけれども、三、〇〇〇円でも五、〇〇〇円でも用意できない人というのがやっぱりいるんですね。というのは、年金で五万円とか六万円とかしかもらえない人というのがざらにいるからです。それはしようがないと思うんです。払いたくても払えないわけです。ところが最後の二、三割ぐらいが、家計簿をちゃんとつけていれば節約もできるんだけども、家計簿もつけてない。言っても電話も通じないし、手紙出してもなかなか持ってこないというのが、やっぱり二割ぐらいはそういう人がいるんです。そういう人に対して今後どうしたらのか〔ママ〕ということは今考えてるところなんですけれども。基本は毎月一回必ず事務所に来てもらって、そのときに五、〇〇〇円でも一万円でもお金を持ってきてもらうと。それで領収書をちゃんと切って、一〇分とか一五分ぐらい簡単に家計簿をチェックして、また頑張ってくださいねというふうにして、もう一カ月後に来てもらうと。それを二、三回繰り返しをして、この人はもう家計簿をチェックしなくても大丈夫だなというふうに思ったら、後は分割金を持ってきてもらうだけにしてみるとか。そういうふうにしてめり張りをつけていかなくてはいけないのかなというふうに思ってますけども、ちゃんと家計簿をこっちの方でチェックをしないと、人間なかなかつけられないもんだろうなというふうには思います。

⑬ それで、その家計簿とか委任契約書とか委任状を二、三日でもらった後に、私、全部終わると事務職員が呼びに来るものですから、それで一円もだれにも借りたりとか返したりしてはいけないと。これ何で言うのかというと、たまにですけれども、身内が保証人になっている銀行とかで隠す人がいるんです。それで身内が保証人になってるところだけ隠れて払うという人がたまにいます。それをやると偏頗返済になるもんですから、もうどうにもならないというんですけれども、たまにやる人がいるんですね。したがって、友達でも家族でも銀行でもサラ金でも、とにかくどこからも一円も借りてもいけないし、返してもいけないと。もしそういうことをやると、裁判官が一番嫌うのは、アンフェアなことをする人なので、破産という最後のカードが場合によっては使えなくなると。

そうすると破産をしてしまったら、そういう人たちに対しては、例えば破産をした後、あなたが自分のお金をどう使おうがあなたには自由なんですね。あなたには自由なので、今破産をする前に返してしまうというと、それはほかの債権者との関係で不公平になるので言ってはいけないけれども、弁護士から今返すということは破産ができなくなるので言ってはいけないと言われたけれども、自分としてはできる限り御迷惑をおかけしないようにしていきたいと思うというふうに言えば、保証人になってくれた人だとか、あなたにお金を貸した身内だとか、わかってくれるので、そういう話をするようにという話はします。

それであなたが破産をして借金がきれいにならなければ、その人たちにおわびをすることも到底できないと、ほかの借金がありますからね、ということを言うと大体納得はするんですが、それでも隠す人というのはたまにいます。そうすると、その人が出てきたときにじゃあどうするんだということで、裁判所にいっぱい報告書を書いて、何とか勘弁してもらうしかないんですけれども。最初は、辞任をしてました。ただ私が辞任をすると、もうその人というのはどうにもならないものですから、いろいろ理由を聞いて、本人がもう絶対同じことはしませんと、二度と繰り返しをしませんという人はもう一回チャンスを最近はあげています。最初の方は辞任をしてたんですけれども。

⑭ それでその次、全部相談が終わると大体一時間ぐらいで全部終わるんですけれども、その後は受任通知をその場で事務職員、最近はもうパートに渡してるんですけど、パートに受任通知をつくって、それでもうファクス〔ママ〕してもらって、ファイルを作成させています。

⑮ 基本的に私の事件は、七割か八割ぐらいは過払金を回収して分配して終わりという事案です。破産に移行する事案というのはほとんどないんです。ほとんどないというのは私の考えとしては、生活保護だとか年金を受けている人については破産をする必要がないと思っているからです。なぜかというと、取られる財産が何もないからです。あるいはパートの場合も同じだと思います。そうすると、ちゃんとしたところに勤めていて、サラ金……がばれていると。このまま放置しておくと給料押さえられてしまうとか、あるいはお母さんが八〇歳とか高齢で、このまま放置しておくと多分五年の消滅時効を待たずにお母さん亡くなって相続しちゃいそうだなとか、そういう理由がある人以外は基本的には破産の申し立てとかはせずに、もう過払金を回収したんだとしたら、利限残の例えば三割とか四割一括してお支払いできますと。これに対して納得、のんでいただけない場合は時効にかけたいと思いますので、裁判するなら勝手にどうぞみたいなA4で一枚程度の書面をもう定型でつくっておいて、それを流して時効にかけるというふうにはするようにしています。

というのは破産をするというのは書面をつくるだけでもなかなか大変なんです。年金で暮らしてたり生活保護で暮らしていても、例えば借金の原因がパチンコだとかいうことであれば、本人にけじめをつけさせるために破産の申し立てをするというのも一つの方法なのかなというふうに思っていますけれども、ただ本人に家計簿をつけさせて、例えば一年とか家計簿をきちんとつけていて、むだ遣いもしていない、パチンコやったのも一年とか一年半前の話であるといった場合には、取られる財産はほとんど何もなければ、破産の申し立てをする実益というのはどこにあるのかなと。結局破産の申し立てをする意味というのは、本人を経済的に立ち直らせるということにあることだとすれば、わざわざ私のところで時間をかけて申立書をつくって、裁判所に手間をかけて、有限の資源を使ってやることでもないのかなというふうには最近は思っています。

したがって、回収できた過払金については、過払金とは言わないんですけど、要するに関係者の努力によってある程度お金を用意できましたと。その結果利限残が何社で幾らで、大体八割ぐらいのお金については分配できますみたいな通知を出して、処理を終わらせることが最近はほとんどです。

⑯ これに対しても、多分このことを思いついたのは、私が多分一年ちょっとぐらい前に思いついて、いろんなメーリングリストでまねをしないかという話をして、最初みんなまねをしないという話だったんですが、最近ちょぼちょぼまねする人が出てきてはいます。これをやるに当たって、果たして懲戒事由にならないかどうかというのを考えました。ただ基本的にその自力救済は禁止されていると、民法の大原則なものですから、向こうは取り立てをしたければ、電話とか訪問とかではなくて裁判をしなければいけないというのが法治国家の大原則であるというふうに思います。

したがって、向こうがそれをやりたくないのは、最後の一つ……とれないのであって、例えば自宅に電話したりとか、職場に電話したりしたいわけです。でも、私が中に入ってるから、それは一切できないということだと、向こうとしては裁判をするかあきらめるのか、あるいは二割でも三割でももらって我慢するのかという三つの選択のどれかしかできないということにはなるんです。そうすると大体最終的には折れてくると。それは奄美大島ですから、こっちまで裁判を起こしてしまったら、だれかが来なくてはいけないと。そうすると交通費だけでも一〇万円ぐらいかかりますから、じゃあそれだけのコストをかけてわざわざ生活保護の人にやるのか年金の人にやるのかと、パートしかない、収入がない人をやるのかといったら恐らくやってこないだろうなというので、地の利が影響してるんだろうなと思っています。

⑰ それで、依頼者との応対ですけど、基本的には毎月一回基本的には家計簿を持参させて、分割金を受け取っています。どんなに貧しい人であったとしても、一、〇〇〇円でも二、〇〇〇円でも持ってきてはもらっております。とうのは〔ママ〕、やっぱりけじめなんです。最初のころは、どうしてもなければまあいいですという話をしてたんですけど、やっぱりある程度の一、〇〇〇円でも二、〇〇〇円でも三、〇〇〇円でも持ってこさせることによって、本人もけじめがついて、そういうことをなし崩しにしてしまうと家計簿をつけてこなかったりとか、連絡がとれなくなったりとか、そういうことにつながるものですから、別に持ってきてもらうようにはしています。

⑱ うちのポイントとして、大体七割ぐらいが回収した過払金の方が借金よりも多いというような事案だったりするんです。ですから、それの場合は例の最高裁の判決で弾みがついてますので、回収したものをある程度、私の場合は率直に言うと、例えば四〇〇万円過払金を回収して借金が一〇〇万円残っても、一〇〇万円全額返し……していません。大体八割ぐらい、二割ぐらい減額をさせて、それで一括して払ってるんですが、そういう場合だと過払金を回収した段階でもう処理が終わってますので、通帳を出して、それで応じてくるものについては払えばいいし、応じてこないものについてはそのまま、これに応じてもらえない場合は五年の時効を待ちますみたいなことが書いてありますから、それで終わりと。

残りの二、三割の、どうしても回収した過払金よりもその借金が残ってしまうといった場合の処理をどうしようかということを考えたときに、取られる財産がなければもう破産なんかしなくてもいいじゃないかと、そういう話でやってたんです。それは二つの理由があって、要するに破産をする意味がないということと、あと破産をするとうちの方が回らなくなるという二つの理由からでした。それをやってみてもなかなか履歴まだ出してこなかったりとかする業者も、結構はいないんですけれども、いたりとか。その本人がもっと前からあると言っていて、実際通帳を取り寄せたらもっと前からあってみたりとかいうので、処理が一つ、基本的にはみんな解決しないと何割払えるとかって提案できないものですから、一つが長引くとほかも引きずられて長引くというのがありますね。その結果として百五、六十件というので、そろそろなかなか大変になってきたものですから、どうしようかなと今考えてるところです。

⑲ (質問:事務局の方が四名いらっしゃいまして、……。……があるということなもんですから、継続事件今だれが何件抱えていて、それぞれの仕事がとまってないか、抜けてないかみたいな、そういうチェックをされてるのか、されてるとしたらどんな形でやっておられるのか。)

率直に言うと、最初の半年ぐらいは一カ月に一回、私がすべての手持ちをチェックをしてました。そうすると、ただそれも一〇〇件ぐらいが限度なんです。そのぐらいで大体、みんなある程度、一遍で一〇〇件とか二〇〇件ぼんと来ちゃうとそりゃ無理だと思いますけど、徐々に大体一件から始まって、五件、一〇件、一五件、二〇件とだんだんふえていったものですから。最初六カ月間ぐらい私がチェックをしたことによって、大体そのある程度の処理というのはできてるのかなというようには思っています。

それで、ほとんど私なんかだと相談を受けて受付票を見ないと、はっきり言うと、きのう受けた相談者の名前を言われてもわかりません。受付票を見れば大体わかるんですけれども、ただ事務職員というのが大体覚えてるんです。要するに私が言いたいのは、あなたの事件だからと。私はあなたの事件だから、あなたが担当だからという話をしています。そうすると、責任を与えるとみんな一生懸命頑張るもんですから。それで事務職員が私に言っても、私が覚えてないというのを知ってますから。ただ、受付票を見たりとか事務職員から話を聞けば方針は出てますので、それでしょうがないのかなというふうには思うんです。

私がその把握してたのは五〇件ぐらいまでです。五〇件ぐらいまでは、この人といったらああこういう人なのかというのがわかってましたけども、一〇〇件超えるとだめです。受付カードがないとだめです。

(質問:受付カードだけで……とか。)

ファイルの一番表にこれをやって、その後サラ金ごとに受任通知をまたやって、履歴をこうファイリングしていって。

(質問:じゃあ、ファイルベースでの管理……。)

そう、依頼者に一つと。ですから最初のころはそのファイルを一カ月に一回私がずっと見てたと。ただ、来なくなった人とかのいうのが〔ママ〕いるんです。一カ月に一回来てもらいますでしょ。そうすると、まず一番まずいのは、何も言わずに来ないやつというのがいるんです。それで後で聞くと、病気だったとかもじょもじょ言うんですけど。それで、急に病気になって来れませんと、連絡は事前に来る人もいます。ただその後に、じゃあ治ったら電話下さいねとか言っても電話くれないんです。くれないと簡単に一カ月、二カ月、三カ月たっちゃうんです。そうすると事務職員としてはそれぞれチェックはしてるみたいですけれども、ふっと気がつくと、三カ月前に何か子供が熱出したと言ってそのままだったなとかというのは結構ありますので、それはその都度電話して、電話とかでも通じなくなってたりとかしますから、職場に電話をして、最初は名乗らずに、事務所の住所、入舟町のYですけれども、だれだれさんが来たら電話下さいねみたいな話をしておいて、それでも連絡をくれないと、手紙を出して、それでも連絡が来ないと、私の名前を名乗って直接職場に連絡をして、最終的にはそこまでいくんですが。ただ、それが最初の話にも通じるように、五割ぐらいの人というのはお金は持ってくるんです、律儀に。残りの二、三割というのは申しわけない顔をして、今月もどうしても苦しいですと。最後の二、三割というのが、連絡がなければそのままみたいな。

ですから、最後の二、三割についてどうするのかというのを、最近そういう事態が二、三割ぐらいあるということが発覚をして、それについてどうするのかというのを事務職員と今検討中というところです。ほとんどは普通我々の感覚からいうと、弁護士が通知を出して取り立てがとまって払わずに済んだわけですから、言わなくても持ってくるかなと。言わないとほとんど持ってこないです。

⑳ (質問:件数がふえてくると、いい依頼者というか、きちんと守ってくれる人もいれば、逃げちゃうとかいろいろ来るんですけれども、その辞任の時期というのはすごく迷うんですけれども、Y先生のお考えというのは辞任の時期というのは大体どうやってお考えですか。)

基本的に連絡がつかなくなったら、もう辞任するしかないのかなと思っています。というのは、要するに方針を明らかにしないまま放置しておくと懲戒理由になるからです。ですから最初までは、要するにクレサラの世界のスタンダードは、とにかく受任通知を出しておいて辞任通知は出さないんだと。それでサラ金から照会があった時点で、ちょっとこの人はこれこれこういう事情で辞任しましたからみたいなことをその段階でいえばいいんだというのがスタンダードだったんですが、多分それ今やると懲戒理由になるんだと思うんですよ。あるいは事件がたくさんになってくると、この人辞任したのかまだ続いているのかわけがわからないわけです。それを一々調べる時間もないし、その段階で辞任を、本当はもうこの人連絡とれなくなってどうしようもなくなってるのに方針決まりませんみたいなこと言ってしまうと、それは多分懲戒理由になりますので、その段階で、もう連絡がつかなくなった時点で、もう辞任通知を出すようにはしようかなと思っています。

(質問:具体的には手紙を出して、そのまま返ってくるとか、書留で出したけど届かないとかいろいろあると思うんですけど。)

普通に手紙を出して、それで連絡がなければもう辞任。その前にはもちろん本人に連絡をしてみたりとか、着信したのに連絡をよこさないとか、基本的に私の場合は着信をした場合は、当日か翌日には必ず連絡をよこすようにと言ってるんです。弁護士事務所から携帯に着信があったら、二、三日放っておくなんてだめだと思うんです。当日か翌日には必ず連絡をよこせと。それでその連絡を、もし携帯がつながらなかったら職場に電話を残しておいて、入船町のYさんから連絡があったのに連絡しないやつって、それだめだと思うんです。それで手紙を出したのに全然連絡がないということだと、もうその段階で辞任をしてもやむを得ないのかなと思っております。

file_8.jpg(質問:さらに悩ましいのは、過払金が取れてるのに連絡がとれなくなったりとか、そういう場合もあるんですけど、そういうときどうしたらいいのかという。)

いやあ、そりゃ困りますよね。私まだ事案がないんであれなんですけど。その場合は、基本的には契約書のところに、半年間連絡がなければみんな私のものだとみたいなことは一応書いてはある。書いてはあるんです。それやっておかないと、本当に困ると思うんです。一応書いてはあるので、最終的にはそれでクリアできるのかなとは思ってますけれども、ただ本人とできるだけ連絡をとるようにしなくてはいけないのかなとは思います。

c) 被告自身がインターネットのメーリングリストに投稿した被告の処理方針

① 被告は、平成一九年四月一一日、次の内容のメールを投稿している。

「ちなみに、私は、個々の債務整理の方針について依頼者と具体的に打ち合わせることは一切しません。

多重債務事件において、借金に追われた相談者が方針を適切に決めることはできないと思っているからです。

したがって、私の立てた方針に全面的に従うという条件でしか受けません。私が破産しかないといったら、文句を言わず破産するという条件です。運がよければ過払金を回収できて一括して払っておしまいにできるかもしれないが、覚悟だけはしておくように伝えます(過払金の発生が相当程度見込まれる事案でも同じです。潔く覚悟を決めさせないと、事務職員のいうことをきかず、家計簿もつけてこないからです)。

そして、私は過払金を回収しても、処理が全て済むまでその金額を含め、原則として依頼者には教えません。あぶく銭を手にするとろくなことはないため、原則として事件が終了した時にまとめて返還し(依頼者はその時点でいくら回収し、いくら返済したかが分かるわけです)、全額定期預金にして絶対に手をつけないように指示します。

したがって、回収した過払金のうち何割を返済に当てるかについては、依頼者に逐一確認したりせず、全て私がその場のフィーリングで決めます(この依頼者は病気の子どもがいるし、仕事もないので三割とか、この依頼者はパチンコをしたし余り反省していた様子もないし、家計簿もつけてこないようだし、給差されると困るから八割とか、この依頼者は年金生活で押さえられるものもないし、夫が寝たきりでかわいそうなので六割とか、そういった感じです)。」

② 被告は、平成一九年五月二四日、次の内容のメールを投稿している。

「私は分割弁済は絶対にしません(①支払が滞るとサラ金から問い合わせが来て面倒②代替振込までする人的余裕はない③本人の立ち直りのためには破産が一番)。

どうしても破産したくなければ、一~二年、カツカツの生活をさせて、余った金は一円残らず取上げ、弁護士費用を抜いて九〇万円程度貯まったら個人再生の申立てをし、再生計画が許可されたら一括して払ってしまえばいいだけです。そうすれば、何分の一かに借金が減縮されます(ただし、破産することに比べ、気分が少しいいくらいの差しかありません)。

人間、そんな生活にはなかなか耐えられないものです。半年程度で根を上げるか、あるいは当初約束した金額(毎月五~一〇万円)を積立てられず、「駄目だったら覚悟すると、あの時、男と男の約束をしましたよね。覚悟を決めますね」と言えば破産させることができます。

あるいは、負債総額が数十万円程度なら、それこそ一年ちょっとで貯めることができるでしょう。

したがって、私は任意で長期分割させる方針を取ることは絶対にしません。

そのため、一括弁済しかしませんが、私の一括弁済を拒絶した場合、ひたすら五年の時効にかけられ、増額は一円たりともしないと決めているため、最近では、結構な業者が私の提示した金額を丸呑みしてくれるようになりました。」

③ 被告は、次の内容のメールを投稿している。

「私のところにも、まだ四〇代や五〇代なので、破産をして、これから一生懸命働けば、老後の資金もたまり、子どもを大学に行かせることができるのに、絶対に破産をしたくないという馬鹿なことをいう人が来ます(相談者の一割くらいはそういう人です。理由をきくと、結局は世間体とかつまらないプライドなんですね。子どもを幸せにできない人にそんな格好いいことを言う資格はないと思うのですが、どうしようもない人ほどどうしようもないことを言います)。そして、結局、私に頼まず私の元を去っていくのですが、そういういい加減な人でも、六〇、七〇になって年金もなく生活に困れば我々が納めている税金で面倒を見てやらなければならないわけです。

正直に言えば、非常に納得できません。姥捨て山を作って、チャンスを与えられたのにそのチャンスを生かそうとせず、周りに迷惑をかけ続けて平然としている人間は、みんなまとめてそこに捨ててしまえばいいのにと思っています。」

④ なお、被告は、平成一八年一〇月六日、次の内容のメールを投稿している。

「>和解条件は各依頼者や代理人の考え方があると思います。全額でなくとも過払金が早急に必要な依頼人もいることでしょう。全額の支払いを求めるには訴訟が必要な場合も多く存在します。したがって、ケースバイケースといえるのではないでしょうか?

私の考えは違います。

過払金が早急に必要になる人などは考えられないからです。多重債務に陥る人は、そもそも自分の収入でやりくりできないからそうなったわけで、自分の収入でやりくりする習慣をつけさせなければ、過払金を取戻したところですぐなくなるだけです。

そして、その習慣をつけさせるためには、家計簿をつけさせる必要があり、そのためには、弁護士に頼んでいる間に脅したりなだめたりしながら、とにかく家計簿をつけさせることが必要です。

過払金を回収する期間が多少長くなっても、家計簿をつけさせる期間が確保できるだけですから、何ら不利益はありません。」

(イ) 奄美ひまわり事務所の事務職員が供述する債務整理事件に関する被告の処理方針

a) 事務職員が作成した事務処理マニュアル

事務職員のFは、奄美ひまわり事務所の債務整理事件の処理方針につき、次の事務処理マニュアルを作成している。なお、事務職員のDも、被告の処理方針は、この事務処理マニュアルどおりであることを認めている。

① 予約連絡

(ⅰ) 流れ

相談者から電話

弁護士本人が対応(事務局は出てつなぐだけ)

相談日の予約をいれる

(ⅱ) Y弁護士の対応

予約はすべて弁護士対応。

スケジュールは弁護士の手帳のみで管理していました。

(ⅲ) 事務局

※新規相談の問い合わせ

債務整理の相談か、その他一般民事かだけ事務員で確認し、弁護士へ電話を回す。弁護士不在の場合は、時間を改めて掛け直してもらう(こちらから掛け直すことはしない)。

予約及びスケジュールの管理は弁護士がおこなう(手帳に記入して管理していた)。

② 相談当日

(ⅰ) 流れ

当日「法律相談アンケート」「債務一覧表」を渡し、本人に書いてもらう⇒三〇分

一時間程度⇒アンケート内容確認・不足箇所追加等(事務局対応)

三〇分から一時間程度に弁護士が相談をうける⇒方針決定

過払金が見込めそうでも基本「破産」させる(Y弁護士は、気分でそれ以外の説明をすることもあると言っていた)

報酬の決定

過払報酬の説明

事務局による家計簿のつけ方説明。

(ⅱ) Y弁護士の対応

一時間弁護士⇒方針決定

相談者への対応

基本的には相談者の意見には耳を貸さない。

弁護士の言うことは絶対。

『たとえばあなたが病気になったとして、医者に手術をすすめられたら医者の指示に従うでしょう。弁護士の言うことも同じなんです。プロが決めたことには従った方がいい。』

『自分の将来(or家族)と不動産とどっちが大事か。』

『大学に行かせないとろくな人間にならない。島が好きなら定年してから帰ってくればいい。ずっと島にいてもろくな人間にならない。』

『自分の将来(or家族)と世間体とどっちが大事か。』

『これからの借金の返済分を子どものために使ったほうがいいのではないか。』

このようなことを言って依頼者を破産にむけて説得

(ⅲ) 事務局

依頼者の書いた「法律相談アンケート」「債務一覧表」の内容確認(不足部分の補足等)⇒弁護士に概要説明

弁護士対応(事務局は同席する。決して口ははさまない)

方針決定

事務局による家計簿のつけ方説明。

陳述書作成の説明(かなり詳細なものを求める→書けなければ、何度でもやり直させる。月一回の家計簿チェックの時に同時にチェック)陳述書が必要ないと思われる依頼者も全て書かせる(自分の過去を振りかえり、反省させるため)。

借金の理由がパチンコなど浪費であったら、必ず一年以上は家計簿をつけさせてから申立する(裁判所に全て提出するため)→毎月持ってこさせる。事務局が全てチェックする。

受任通知の発送

③ 受任通知

(ⅰ) 流れ

原則として受任通知はすべてFAXで送付

業者から委任状の請求があっても、拒否する

(ⅱ) 事務局

受任通知はベースの書式があるため、日付(発送日の二週間後が期限日)と住所氏名を入力して、債権者に基本的にはファックスで送る。ファックス番号が分からない業者については、事前に電話をして確認。原本でないと処理できないという業者に対しても、しつこくファックスで処理するように言わなければならない(封筒代・切手代などのコストの問題+事務の簡素化のため)。

④ 方針決定の基準(報酬の請求)

(ⅰ) 流れ

初回相談時⇒破産の話をしたあと、過払い金が出た場合に破産でなくなる可能性もあると言っていた

債権調査後過払金が出て未払金の支払いが可能な場合は任意整理へ変更(依頼者には連絡はしない)

過払金回収後、未払金と比べてどのくらいの割合で分配をするかを決める

一括和解のみ、分割和解はしない(事務手続きが煩雑になるため)

何割で和解するかを決めることは弁護士が判断する。通知書については弁護士が作成する。

割合⇒生活保護:債務免除または五割ぐらい

低所得:七~八割

公務員等高所得:九割(現在の職場が業者に知られていない場合はこれに限らず)

方針が変わったとしても、本人が積立を必要とするとき以外は特に弁護士との打合せを設けたりはしない。

金額の交渉の電話のときは、業者に対してこちらから提示している金額での和解以外はしないと答える。

(ⅱ) Y弁護士の対応

・方針は基本破産(気分でそれ以外もあった→本人談)

⇒依頼者が拒否しても説得⇒応じなければ受任はしない

・破産しかない(過払いのみの場合でも)⇒理由:破産を覚悟していたら後はすべて良いことしかないから。ありがたみが増える。

拒否→説得→応じなければ受任はしない(過払いが見込めるのに破産に応じなかったためにそのままになった人もいる)。

・破産を覚悟したら過払金の説明

説得に応じなければ受任はしない過払金の説明は破産を決めた後に説明。

報酬の決定

基本方針を破産にした依頼者は三一万五〇〇〇円。任意整理にした場合は一社三万一五〇〇円~五万二五〇〇円。

過払報酬の説明(三割)

費用については、基本的に積立

法律扶助の説明は行わない(どうせ過払いでどうにかなるのだから他に迷惑を掛ける必要はない)

生活保護受給者も、毎月五〇〇〇円位を積立(貯金することを覚えさせるため)

(ⅲ) 事務局

報酬を決める時に関しての事務局の記憶

①基本破産

②すべて完済の場合は一社ごとに計算

③契約書を作らなくなってから、法律相談受付カードの下に報酬などを書いていた

※債権者数を数えてる姿は覚えているが、どの位の割合だったか詳しくは覚えていない

⑤ ファイリング

(ⅰ) 流れ

基本受任日に作成

(ⅱ) 事務局

クリアファイル→法律相談受付カード→債権者一覧→各業者からの開示

⑥ 依頼者への連絡方法

(ⅰ) 流れ

受任時に連絡先を確認⇒携帯・自宅・職場(連絡が取れなくなった時のため)

各担当事務局が依頼者に電話連絡(携帯及び自宅)

数回して連絡が取れない場合弁護士に報告

弁護士の指示により手紙で依頼者に連絡を乞う

(ある程度慣れてきたら事務局の判断で書面を出していたかも知れない)

弁護士が直接電話で連絡(分かっている情報先については全て連絡をする。本人に連絡が取れなくても職場の人に連絡などすることもあります)

(ⅱ) 事務局

初回相談時に聞いた連絡先(連絡が付かなくなったときのために職場の連絡先も初回に聞いておく)基本的に、電話連絡。電話履歴を残すなどは特にしていない。何度か電話しても連絡つかない場合は、書面を送る(速達郵便や、内容証明郵便、配達記録郵便は使わない。コストが高いため使用は全くしていない)。料金が安いという理由から基本的にヤマト運輸のメール便を使用。

⑦ 途中経過の報告(業者から)

(ⅰ) Y弁護士の対応

基本的に債権者に情報は伝えない。途中経過についての説明はこちらからすることはない。債権調査によって、当初の方針が変わったとしても、変更についてお知らせはしない。

(ⅱ) 事務局

債権者からの電話はIP電話を専用電話とし、固定電話にかかってきても受け答えしない。IP電話の電話番号だけ教えて切る。現在進行中のものについては「現在の段階では詳しい状況をお知らせすることが出来ません。お知らせできる段階になりましたら、こちらから連絡しますのでもうしばらくお待ちください。」とだけ伝える。先方がそれでもしつこく言って来てもそれ以上のことは答えず、「申し訳ございませんがこれ以上こちらからお話できることはありませんので、お電話を切らせていただきます。」と言って電話を切る。

⑧ 受任件数

(ⅰ) Y弁護士の対応

基本相談者を断ることはない。⇒受任しなければ他に行くところがない。

(ⅱ) 事務局

同上

⑨ 辞任時の対応

(ⅰ) 流れ

①依頼者と連絡が取れない

②違法行為(犯罪行為)をした(受任時に報告なし)

③訴訟を勝手に取り下げた(Kさんを提訴したときに訴訟を自分で裁判所に行って取り下げた)

辞任理由にあたるので辞任している。一方、債権者に対して借金を依頼者が勝手に払ってしまった場合でも、辞任したことはない。

(ⅱ) Y弁護士の対応

依頼者への辞任通知の作成→発送は担当事務局かパート職員が行っていた。

債権者への通知の作成(後半になってからは事務局作成することになった)→発送は担当事務局がFAXで行っていた

(ⅲ) 事務局

弁護士の指示により辞任予告通知の作成・送付

内容:期限を決めて『連絡もらえなければ、辞任します。』預り金がある場合に、『預り金は、すべて報酬に組み入れます』という内容の通知を出すこともあった。

ある程度期限が過ぎた時点で弁護士に報告

弁護士が依頼者へ辞任通知を出す

債権者への通知

⑩ 依頼者への応対

(ⅰ) Y弁護士の対応

依頼者には基本的に何もしない(情報は伝えない)

過払い金がある場合にも同様。過払い金があると分かると依頼者が返還を求めてくる可能性があるためと言っていた。

⑪ 契約書の作成

(ⅰ) 流れ

初回相談時、方針決定

契約書を作成したりしなかったりした(基準は不明)⇒次第にしなくなった。

⑫ 引直計算・家計簿

(ⅰ) 流れ

当初事務局で計算を行っていた

H19・3からY弁護士の妹に委託

(ⅱ) 事務局

月一回家計簿チェック(事務局)

⑬ 通帳の取引履歴取寄せ(依頼者にやってもらう)

(ⅰ) 流れ

取引の開始日の確認等に利用するため

(ⅱ) 事務局

初回取引日の確認

依頼者が報告していない債権者がいないか確認

⑭ データベースでの確認

(ⅰ) 流れ

取引開始日の確認

(ⅱ) 事務局

初回取引日の確認

依頼者が報告していない債権者がいないか確認

⑮ 過払の事前和解

(ⅰ) 流れ

過払い金について、依頼者に連絡をして方針を決めることは全くしない。最初の頃は事前和解もしていたが、後にすべて提訴するようになった⇒債権者からクレームがきた

①こちらの和解基準(支払日までの五%(以前六%)の利息付加)での支払い、一円もまけない

②個別案件ごとではなく、今後も全ての件について会社として和解を約束すること

①②の条件を守ることを約束した債権者にのみ事前和解の連絡をする業者にひとり担当を決め、その人のみと連絡(いちいち説明しなくても良いように)

いくつかの債権者が協定を結んだが、案件によっては債権者がのめないものもあり、しばらくして破綻に至った

(ⅱ) 事務局

条件をのんだ債権者のみ和解提案を行う。

支払日を聞き、利息をつけた金額を伝えるのみ。和解条件をのまない債権者とは和解はしない。

⑯ 過払の提訴

(ⅰ) Y弁護士の対応

訴状⇒裁判所に提出する形のものをチェック

進捗や和解についても依頼者に対しては報告をしない

(ⅱ) 事務局

訴状作成(定型のひな形に必要事項を入れる)

H19終わり頃から、パート職員が作成

正本・副本作成後、弁護士がチェック

・取引初回から開示がないものは、通帳の取引明細等から推定計算した。

・取引初回が本人の記憶と違い、証拠や詳細な記憶がない場合は、冒頭ゼロで計算した。

⑰ 訴訟

(ⅰ) 流れ

過払は、ほとんど訴訟になるため、件数がまたたくまに増える

業者ごとに表で管理

⑱ 過払金回収後

(ⅰ) 流れ

過払金⇒基本的にすべて回収しないと依頼者への返金はない

依頼者からの催促の電話があったとしても、よほどのことがない限り返還はしない

(最後の方になってから、誰かから指摘を受けたらしく、その指摘に従って未払金がない、もしくは未払金元金分を残して場合〔ママ〕返金するようになり、それで事件を終了させていた)

(ⅱ) Y弁護士の対応

預り金が減らないことを悩んでいたが、清算してもなかなか減らなかった

⑲ 過払報酬の精算

(ⅰ) 事務局

報酬等の清算については、事務局でやる時間がなかったため、Y弁護士に指示されたときにまとめてやっていた。

⑳ 残債務の処理

(ⅰ) 流れ

基本七割~八割で提案する⇒のまなければ時効を待つ(=そのままおいておく)

(ⅱ) Y弁護士の対応

同上

file_9.jpg終了報告

(ⅰ) 流れ

返金のみ

依頼者を呼び、小額の場合はその場で返金、高額の場合は口座へ振込

未払金あり(基本返金はしていなかったが、出て行く二~三ヶ月前から返金)

①保護受給者:裁判をされる可能性が少ないということで預り金全額返金

②低額所得者:同上

③高額所得者:未払金元金を残して返金⇒和解をして残りがでたら返金する

(ⅱ) Y弁護士の対応

過払金だけの方については、返金を行っていたが、最後の方になるまでは未払いがある場合には過払い金の返金を行わなかった。最後の方になると過払い金が全社から支払が無くても返金するようになった。

返金時依頼者に対して

・将来のために取っておくように

・未払金がある場合は、差押をされる可能性があるので、ひとつの口座にはまとめておかない方が良い。農協の口座を作って預けておくのも良い(差押えの対象になる率が低い)

・未払金を残したままの返金について、依頼者からお金があるのだから全額支払って欲しいと言われても「こちらから他の件で和解するにあたって、私の立場が弱くなるのでそれはしない」と拒否

b) 事務職員が供述する被告の処理方針

① Fが供述する被告の処理方針

Fは、債務整理事件に関する被告の処理方針について、次のとおり補足している。

(ⅰ) Y弁護士が初回の相談するとき、事務局は常に隣に座っていました。

Y弁護士は、基本的には依頼者の意見は聞かず、自分の方針を伝えてこれに応じるように説得を行っていました。

相談の雰囲気が和やかなことはほとんどありませんでした。Y弁護士は机に肘をつき、あごの下で手を組み、下から睨みつけるように相談をしたりしていました。相談者からすれば弁護士が高圧的に見えたとしても不思議ではありません。

Y弁護士は、相談者に対して破産を覚悟させるようにしていました。Y弁護士は、破産について拒否反応を示す相談者は説き伏せるような言い方をしていました。消費者金融業者との取引期間が長期間であり、実際には過払い金が多く見込めそうな場合でもそうでした。これに応じない相談者の依頼は受けていませんでした。

(ⅱ) Y弁護士は、仮に過払い金が見込める場合でも借金をしたことについて反省させるには、最初に破産を覚悟させたほうがいいし、最後にお金が返ってくることが分かった方がありがたみが増えると言っていました。

報酬の説明については、相談者が破産の方針について説得された場合、その後になって弁護士が話していたのではないかと思います。ただ、Y弁護士は相談の時常に非常に早口で話していたので、報酬のことにかかわらず相談者にはY弁護士の言っていることは伝わっていなかったのではないかと思います。私から見ても、Y弁護士は人に伝えようとするつもりで話をしているように見えませんでした。Y弁護士から説明を受けていないという方が多いのはそのためだと思います。Y弁護士が早口で話す理由についてY弁護士は、相談者に考える余裕を与えると迷いを生じさせるので、早口で話し考える余裕を与えないようにしていると事務局に話していたことがあります。

② Dが供述する被告の処理方針

Dは、債務整理事件に関する被告の処理方針について、次のとおり供述している。

(ⅰ) Y弁護士は、相談者に対して常に高圧的な態度をとっていました。これは、依頼者に甘くみられないため、自分の言うことを聞かせるため、自分の言うことをきけば受任後の処理がスムーズにいくという理由から、わざと高圧的な態度をとっているということでした。

高圧的な態度とは、早口でまくしたてるように話したり、相談者をにらみつけるといったような感じです。早口で話すのは、相談者に考える隙を与えないためだとも言っていました。そういった対応は、Xさんの相談の際も例外ではなかったと思います。

相談の際のY弁護士の話の具体的な内容についてまでは覚えていません。また、Y弁護士がXさんの相談のときに声を荒げたかどうかまでは覚えていません。

ただ、どの時点かは分かりませんが、XさんがY弁護士の話を聞いて涙を流していたことは今でも覚えており、印象に残っています。

(ⅱ) Y弁護士は、債務整理相談者に対しては「破産を覚悟させる」という方法をとっていました。Y弁護士によれば、破産が一番最悪な選択であり、覚悟できた人は、そのあとに弁護士や事務員の言うことをきくからというのがその理由でした。どうしても破産がいやだという人は、有無を言わさず受任不可でした。Xさんについても、例外ではなかったと思いますので、破産を覚悟させるよう説得したと思います。

(ⅲ) 一般論として、保証人の方がいる場合には、本人に対し、保証人についても債務整理をするつもりがあるのかどうか確認するよう指示しました。本人が破産するのが前提なので、保証人は支払う必要があるので、保証人が支払えるのか、あるいは支払えないので一緒に破産することになるのか確認が必要と言うことです。その後保証人がくることもあります。

(ウ) 静岡県弁護士会浜松支部に所属するJ弁護士が指摘する被告の処理方針

J弁護士は、上記(ア)b)の講演会を企画した者であるが、債務整理事件に関する被告の処理方針について、次のとおり供述している。

a) 当職は、日弁連の多重債務対策実現本部の委員であると共に、静岡県において多重債務対策実現静岡本部の本部長代行として、早急に二〇〇万人と言われる多重債務者の多重債務相談をどのようにさばいていくのか、具体的なプランを立てる必要に迫られました。

事務員を大量におく事務所ではない、通常の事務所において、多重債務相談を月に数十件行うことはほぼ不可能な状態で、なんとか合理化を行いたいと思っていたところ、Y先生から、「自分は年間五〇〇件の多重債務の処理をしている。そして、それが当時NHKでも報道されている」ということを知りました。

そして、自分が行っている多重債務の相談や、自分の意見を地元の新聞に掲載してもらっている、ということをメーリングリストで知りました。

これを見て当職は、その記事に非常にすばらしい内容が書かれており、またその大量の多重債務相談について、どのように行っているのか、是非方法を教えてほしいと思いその旨を連絡したところ、Y先生から、平成一九年五月二日に静岡に行く用事があるので、そのときにお話ししますと連絡がありました。

これを受け、当職は、静岡県のクレサラ委員にメーリングリストを通じて、Y先生の講演をしてもらうよう手配を取りました。

当日は、東弁の同じ多重債務者対策実現本部の方や、Y先生が呼ばれた中日新聞の記者も参加し、約三〇名程度の参加者が参加して、講演が行われました。

b) 講演の内容は、事務所のレイアウトや、いかに私は過払い金を回収しているかという自慢話を過払いの報酬のグラフなどを交えて話をされ、その後の核心部分としては、「破産相当案件でも、破産処理をしないで、受任通知を出して、消滅時効を待つ」という手法等を公開してもらいました。

c) また、講演後の懇親会においては、Y先生は、多数の懇親会参加者の前で、「自分の方針に従わせるのに一番有効な方法は、奄美で弁護士が神様のように尊敬されている点を利用して、自分から見放されたら大変なことになってしまうということを思わせることだ」と、それを『自分は神になる』という言い方で表現をしていました。

その、神様になるという言い方には、非常に違和感があり、自分のクレサラ処理の方法と大きく違和感がありました。

即ち、当職は、依頼者の希望について、どうしたいのかという点について、破産・個人再生・任意整理という三つの方法を提示して、もっとも良い方法を示した上で、本人に選択してもらうという方法をとっています。

ところが、Y先生のやり方は、自分が指導した方法について、従わない者にはダメだダメだと言い、聞き入れない人間には、相当にがんがんと怒るし、神様として、自分のやり方に従わない人は見捨てるというやり方でしたので、例えばどうしても家を残したい依頼人の場合でも、Y先生が処理方針を破産と決定すれば、家を手放さざるを得ないということになります。

何やら非常に違和感を覚えましたが、せっかく講演してもらったのに、そこで口論をしても仕方がないので、その日は何も言わないまま講演会はお開きになりました。

イ 初回相談における被告の説明内容

(ア) 被告の原告への対応

原告は、被告が原告の意向を一切考慮せずに高圧的な態度で破産を覚悟させた旨主張するため、この点について補足して説明するに、初回相談の際に同席したD及びBがいずれもその旨述べている上、これらの証言は、依頼者の意向を一切考慮せずに破産を覚悟させるものとする被告の処理方針自体(前記ア(ア)a)⑯⑰⑱、ア(ア)b)④⑧、ア(ア)c)①、ア(イ)a)②(ⅱ)及び④(ⅱ)、ア(イ)b)①(ⅰ)(ⅱ)、ア(イ)b)②(ⅰ)(ⅱ)、ア(ウ)c)参照)に沿うものであるから、この点についての原告の供述の信用性は、高いものと認められる。

したがって、原告主張の事実は、認められるというべきである。

(イ) キャスコへの支払に関する説明内容

原告は、被告からキャスコへの支払を指示されたと主張するため、この点について補足して説明する。

a) 前記争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

① 原告は、キャスコに対し、原告名義で直接支払を続けていたものの、被告に相談した後である平成一七年五月以降は、キャスコに対する直接の支払をやめて、連帯保証人であるEにいったん送金して、E名義で月々約六万七〇〇〇円の支払を続けていた。

② Dは、原告のキャスコに対する支払について、原告の兄弟三人が分担して支払うことになった旨の報告を受けて、平成一七年八月八日付けの「FAX送信のご案内」と題するキャスコ名義の文書に「二二、〇〇〇円ずつ(計六六〇〇〇支払)弟 Eさん(福岡)、弟 Cさん(名瀬)、弟 Gさん(名瀬)」と記載した。

b) 上記認定事実を前提として検討するに、原告が被告からキャスコへの支払を指示されていたら、原告は、従前と同様にそのままキャスコに直接支払を続けるはずであるが、実際には、原告は、初回相談日を区切りとして、キャスコに直接支払うのをやめて、連帯保証人にいったん送金して同人名義で支払を継続したものと認められ、しかも、Dには原告の兄弟三人が分担して支払うことになった旨の報告をしていたものと推認することができる。

そうすると、キャスコへの支払を指示されたという原告の供述は、連帯保証人名義でキャスコへの支払を継続するなどした原告自身の行動と矛盾する上、初回相談に同席したDがそのような指示について記憶はないと供述及び証言していることからすれば、この点に関する原告の供述は、採用することができない。

そして、原告本人尋問の結果によれば、原告本人も、その供述を変遷させて、初回相談では、被告がキャスコを含めて債権者には一切支払ってはならない旨の説明をしたことを認めるに至っており、このような被告の説明内容は、依頼者が偏頗行為をしないように一切の支払を禁止するよう必ず説明することにしている被告の処理方針(前記ア(ア)a)⑳file_10.jpg、ア(ア)b)⑬参照)に一致するものであって、もとより信用性が高いというべきである。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

(ウ) 原告が今後行うべきことに関する説明内容

原告は、被告が家計簿の作成・提出を指示したことにとどまり、弁護士報酬の支払その他の原告が今後行うべきことについて説明しなかったと主張するため、この点について補足して説明する。

Dが平成一七年七月一五日付けで記載した連絡文書には、書くようにお願いしていた陳述書(借金をし、それが払えなくなった経緯)の確認などをしたいと記載されている。

そして、Dは、はっきりと覚えていないものの、例外なく原告に陳述書の作成をお願いしていたと思う旨証言している。

そうすると、原告は、被告の処理方針(前記ア(ア)a)⑧⑨file_11.jpg、ア(ア)b)③⑩、ア(イ)a)②(ⅲ))に基づいて、被告又はDから、陳述書を提出するよう説明されていたものと推認することができる。

他方で、弁護士報酬については、本件のような依頼者とのトラブルを未然に防止するために、被告が弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなかったこと自体には問題が残るものの、Dが、初回相談の際に弁護士費用につき分割金を持参するように原告に指示した旨明確に証言している上(上記平成一七年七月一五日付け連絡文書中、原告に分割金の支払を求める旨の記載参照)、原告自身も、弁護士報酬について三〇万円から三五万円程度かかるという説明を受けたこと自体は認めており、弁護士費用の分割払いの指示については、「あったのかも分かりませんけれど、私の中で記憶にないんです」とあいまいな供述をしていることからすれば、被告は、陳述書の提出と同様に、被告の処理方針(前記ア(ア)a)file_12.jpgfile_13.jpg、ア(ア)b)③⑤⑨⑫⑰、ア(イ)a)②(ⅰ)及び④(ⅱ)、ア(イ)b)①(ⅱ)参照)に基づいて、弁護士費用を一応明らかにした上、支える範囲で分割払いをするよう原告に説明していたものと推認するのが相当である。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

(エ) 生命保険契約の解約をめぐる被告の発言内容

原告は、被告から「あなたの命には何の値打ちもない」と言われたと主張するのに対し、被告はこのような発言をしていないと主張するため、一応この点についても補足して説明する。

上記のとおり、原告の供述が度々変遷するなど、原告の記憶にはあいまいなところがあることは否定できないものの、初回相談から既に四年以上も経過している上、専門的事項に関する説明内容に関するものであるから、それ自体やむを得ないことである。

しかしながら、原告は、「あなたの命には何の値打ちもない」と言われたことについては、文言違わず一貫して述べており、初回相談に同席したBも、その発言を聞いたと明確に証言するとともに、その発言によって隣で原告が泣く様子をも見ていたと具体的に証言している。

そうすると、このような発言内容は、専門的事項に関する説明内容とは異なり、原告の人格を否定する内容であることをも踏まえると、この発言については、原告の心骨に刻まれて、原告が今でも鮮明に記憶していることも至って不自然なものではなく、この点に関する原告の供述の信用性は高いものというべきである。

したがって、原告主張の事実は認められるというべきであり、この点に関する被告の主張は理由がない。

(2)  第一回目の打合せにおける被告の説明内容

原告は、第一回目の打合せの際に、被告からキャスコへの支払を指示されるとともに、Hを連帯保証人から外す代わりに、当時連帯保証人ではなかったCに連帯保証人となるよう指示したと主張するため、この点について補足して説明する。

ア 第一回目の打合せをするに至る経緯

原告は、債権者一覧表のキャスコの保証人欄に、初回相談の時にEの名前を記載し、第一回目の打合せの時にCの名前を付け加えた旨供述するため、原告が保証人欄にCと記載した時期について、まずは検討する。

この点について、Dはいずれの名前も初回相談の際に書かれたものと思うと証言している上、法律相談受付カードの保証人欄には、EとCの氏名が枠に合うように並んで記載されており、外観上は同時に書かれたものと見るのが自然である。そして、Dは、初回相談の際にEを意味する航空自衛隊勤務の弟と、Cを意味する建設会社勤務の弟の二人が保証人である旨を聞き取ってこれをメモし、これと同時に、被告が債権者一覧表のキャスコの保証人欄の欄外に建設会社(主任)、Hと記載していることからすれば、Dと被告は、いずれも初回相談の聞き取りの際に建設会社勤務のCが保証人であると既に認識していたことが認められるから、原告は、初回相談の時に、キャスコの保証人欄にEとCの名前を並記したと認めるのが相当である。

したがって、このような客観的状況に反する原告の供述は、採用することができない。

そうすると、被告は、キャスコの保証人であるHに連絡を取り、かつ、同じく保証人であるEにも連絡を取ろうとしたのと同様に、初回相談当時、保証人欄のCの名前を確認して、Cがキャスコの保証人であると認識したことから、被告の処理方針(前記(1)ア(イ)b)②(ⅲ))どおり、被告は、Cが債務整理を被告に委任するか否かを確認するために、原告に対し、第一回目の打合せにCを連れてくるよう指示したものと認めるのが相当である。

イ キャスコへの支払に関する説明内容

原告は、被告からキャスコへの支払を指示されたと主張するため、補足して説明するに、初回相談における被告の説明内容に関する補足説明と同様に(上記(1)イ(イ)参照)、このような説明内容は、キャスコへの直接の支払をやめて連帯保証人名義で支払を継続するなどした原告自身の行動と矛盾するため、この点に関する原告の供述の信用性は低いといわざるを得ない。

そして、原告も、原告本人尋問において、初回相談ではキャスコを含めて債権者に支払ってはならない旨の説明を受けたことを認めるに至っており、この供述を前提とすると、被告の処理方針(前記(1)ア(ア)a)⑳file_14.jpg、(1)ア(ア)b)⑬参照)によれば、依頼者に偏頗行為を固く禁ずるよう説明することとされているにもかかわらず、被告が、初回相談における説明内容を修正して、同日夕方の第一回目の打合せの際にキャスコへの支払を突如指示するのは明らかに不自然であって、この点に関する原告の供述の信用性は低いといわざるを得ない。

この点について、原告自身も、「Y弁護士から、キャスコへの支払も、ちょっとしないようにという話がそのときありました。私は言われたとおりに、初め、しないつもりだったんですけれども、翌日に支払期日を過ぎたところ、キャスコのほうから、一番目の連帯保証人になってるEのほうに請求の電話がありました。私のほうからは、弁護士を通して自己破産の手続が始まっているので、これからは私ではなく、弟のEとのやりとりになるので、お金の振込みはあなたの名前でお願いしますと、キャスコのほうから言われたようです。それでEの名前で、あちらのほうには振り込んでました」と供述するに至っており、このような供述内容によっても、結局、被告がキャスコへの支払をしないように説明していたことが推認されるから、原告の供述は、あいまいなところが多く、首尾一貫しないため、被告がキャスコへの支払を指示したという原告の供述の信用性は、やはり低いというべきである。

結局のところ、原告は、職場からの借金、Eとのやり取りその他自己に不利益な内容をも法廷で正直に供述しており、原告には法廷で真実を述べようとする姿勢が認められるものの、原告は、四年以上も前のこともあって、被告やEからの専門的事項にわたる説明を後になって混同するなどして、善意の誤解をしているというほかなく、この意味で原告の供述を採用することはできない。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

ウ Cに対する説明内容

原告は、被告がキャスコへの支払を原告に指示したことを前提として、被告が、Hを連帯保証人から外す代わりに、原告の支払が困難になった場合には、連帯保証人であるEとGに加えて、Cが支払うことにすれば、一人当たりの負担が三分の一ずつで済むなどと説明して、被告がCに連帯保証人になるよう指示したと主張するため、この点について補足して説明する。

上記イのとおり、被告がキャスコへの支払を指示したことを認めるに足りる証拠はなく、そもそも被告が主債務者に支払を指示したとすれば、重ねて保証人の支払まで検討する必要がない上、Hを連帯保証人から外すことは、Hには債務整理を要しないことを意味するから、このような指示は、被告が、第一回目の打合せの後に、平成一七年五月二五日付け連絡文書をもってHに債務整理に関する委任状の送付を依頼しているという客観的事実に反することになる。

そして、上記アのとおり、原告は、初回相談ではCが連帯保証人であると被告に報告しており、それ故、被告は、Cにも債務整理の委任の意思を確認する必要があると考えて、Cを打合せに連れてくるよう原告に指示したものであって、連帯保証人でないCを連帯保証人にすることは、被告が打合せを設けた本来の趣旨にそもそも反するものである。

もっとも、原告及びCは、被告がCに連帯保証人となるよう指示した旨供述するため、検討するに、これらの供述は、上記の客観的状況に反する上、原告本人尋問の結果によれば、キャスコが初回相談後自衛隊員であるEの職場に連絡してEに支払を求めたところ、当時原告としても自衛隊員であるEには迷惑をかける訳にはいかないと考えていたことが認められ、他方で、証人Cの証言によれば、第一回目の打合せの数か月後に、Eが自衛隊員の仕事を失ったりすると困るから、Cは、キャスコの連帯保証人であるE及びGと電話で相談して兄弟三人で分担して支払う旨の話をしたと証言していることが認められ、こちらの事実を踏まえると、原告及びCは、キャスコからのEへの連絡を契機として兄弟間で助け合った話と、第一回の打合せにおける被告からの説明内容とを混同している可能性が残り、この点に関する原告の供述及び証人Cの証言はいずれも採用することができないというべきである。

そうすると、被告がCに連帯保証人となるよう説明したことまで認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

(3)  原告は、平成一七年七月又は八月に被告と打合せをしたか否か

原告は、平成一七年七月又は八月に被告と第二回目の打合せをしたと主張するため、この点について補足して説明する。

ア 《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(ア) Dは、原告の職場に一切連絡をしていないこと

(イ) Dは、平成一七年七月一五日付け連絡文書に、五月二三日に受任してから連絡が取れないと記載するとともに、同年九月六日付け連絡文書に、現在連絡が取れない状態であり、九月一五日までに連絡がない場合には辞任すると記載していること

(ウ) 原告は、平成一七年五月二三日、被告から生命保険契約を解約するよう指示されたこと

(エ) 被告は、原告から九月三〇日に弁護士費用として受領した二万円の生命保険契約の解約返戻金を、一〇月五日に預り金口座に入金していること

(オ) 原告は、平成一七年六月ころ携帯電話を解約し、また、同年七月一〇日に転居して自宅の電話を解約したため、原告の自宅の電話は、同年一一月まで使用できなかったこと

イ 以上の事実によれば、Dは、平成一七年七月一五日付け連絡文書に続いて、同年九月六日付け連絡文書を送付して、原告に連絡を求めており、同年九月六日付け連絡文書では、連絡がない場合には辞任するとまで記載していることからすれば、同年五月二三日の受任以降、少なくとも同年九月六日までは、原告と連絡が取れない状況にあったものと推認することができる。

そして、Dも、平成一七年七月一五日付け連絡文書を送付したにもかかわらず連絡がないため、同年九月六日付け連絡文書を送付した旨証言したところ、この点について再度確認しても、Dには、同年九月六日までの間に原告と連絡を取ったという明確な記憶がないものと認められ、このことも、上記推認を裏付けるものである。

もっとも、原告は、被告との間で第二回目の打合せをしたと供述するため、次のとおり具体的に検討する。

(ア) 陳述書

原告は、平成一七年七月又は八月にDから連絡を受けて第二回目の打合せをした際に、生命保険契約の解約返戻金である二万円を被告に持参し、その際に被告が原告の面前で職場に連絡したと供述しているものの、そもそも平成一七年七月ころから一一月ころまでは、原告の自宅の電話も携帯電話もいずれも解約している時期であるから、Dは原告に連絡をすることができない状態であった上、二万円を持参した時期は、同年九月三〇日であって(上記ア(エ)参照)、原告も、同年九月三〇日の打合せの際に二万円を持参し、その際に被告が原告の面前で職場に連絡したと供述を変遷させているから、この点に関する原告の供述は採用することができない。

(イ) 陳述書及び原告本人尋問の結果

原告は、被告に二万円を持参し、被告が原告の面前で職場に連絡したのは、九月であると供述を変遷させた上で、原告は、公衆電話からDに連絡して訪問する旨伝えて、平成一七年七月又は八月にも第二回目の打合せをしたところ、その際にDに家計簿を提出するとともに、これをDに示して、六万六〇〇〇円をキャスコへの支払のためにEに支払っていると説明したと供述している。

しかしながら、下記(4)のとおり、原告がDに家計簿を提出した事実は証拠上認められないから、これに反する原告の供述は採用することができない。

ウ 以上によれば、平成一七年七月又は八月に打合せをした旨の原告の供述は採用することができず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

(4)  原告による家計簿の提出の有無

原告は、平成一七年九月三〇日の打合せの際には家計簿を提出しなかったことを認めているものの、同年七月又は八月の打合せの際には家計簿を提出したと供述するため、この点について補足して説明する。

原告本人尋問の結果によれば、原告は、Dに対し、平成一七年七月又は八月の打合せの際に、家計簿を提出するとともに、家計簿の支出欄の六万六〇〇〇円の記載について、原告がE名義でキャスコに支払っているものである旨の説明をしたところ、Dは驚いていたが、この説明に納得した旨供述している。

しかしながら、家計簿は証拠上提出されていない上、むしろ、Dには、そもそも家計簿のチェックをしたという記憶自体がなく、キャスコへの支払は偏頗行為に当たることは明らかであるから、被告の処理方針(前記(1)ア(ア)a)⑳file_15.jpg、(1)ア(ア)b)⑬参照)に照らしても、Dが原告の説明に納得したというのは明らかに不自然である。

したがって、原告の供述は採用することができず、かえって、原告が家計簿を提出しなかったことが認められ、他にこの事実を覆すに足りる証拠はない。

(5)  被告が原告の職場に連絡した態様

原告は、第二回目の打合せの前に被告から原告の職場に三回電話があり、一回目と二回目は不在にしていたものの、三回目には電話を受けたところ、「保証人に対して私が言ったことを話していないではないか」などと被告から言われたと供述するため、この点について補足して説明する。

ア 第一回目及び第二回目の電話連絡

被告の処理方針(前記(1)ア(ア)b)⑲、(1)ア(イ)a)⑥file_16.jpg参照)によれば、担当事務職員が依頼者の自宅の電話と携帯電話に連絡をしても連絡が取れない場合には、弁護士にその旨報告して、担当事務職員が弁護士の指示によって手紙を依頼者に送付するとともに、弁護士が職場その他の判明しているすべての連絡先に電話をするものとされており、この点について、被告も同趣旨の供述をしている。

そして、Dが平成一七年七月一五日と同年九月六日にそれぞれ原告に対する連絡文書を作成していることからすると、これらの時点において、Dは、原告と連絡が取れないことを被告に報告し、被告は、このような報告を受けて、その後、原告の職場に第一回目と第二回目の連絡をしたものと推認することができる。

この点について、Dも、被告が原告の職場に連絡したのは、原告と電話で連絡が取れず、連絡文書を送付しても原告からの連絡がなく、その旨を被告に報告したからだと思うと供述しており、他方で、被告も、職場に電話したことは、本人の携帯電話や自宅の電話が通じている限りないと思いますと供述するにとどまり、自宅の電話や携帯電話で原告と連絡が取れない場合に被告が職場に連絡したことを積極的に否定するものではなく、被告本人尋問によっても、被告は、原告がその旨供述するなら、そうかもしれない旨供述していることからも、上記推認は裏付けられるといえる。

したがって、被告は、平成一七年七月中旬ころと同年九月上旬ころに原告の職場に連絡したものと推認することができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

イ 第三回目の電話連絡

原告は、第三回目の電話連絡を職場で受けて、被告から「保証人に対して私が言ったことを話していないではないか」と非難された旨一貫して述べているところ、原告自身も、一応保証人のEの件であろうと思って最後まで聞いていた旨供述している上、被告は、委任状をEに送付するために原告がEに連絡するよう原告に指示していたと当時考えていた事情を踏まえると、そのころに、被告が、Eに連絡していない原告に対し、約束を守らないと思って非難したことも、被告の行動として不自然なものではない。そして、その際に、原告は、被告から解約返戻金を持参するよう指示されたことから、公衆電話からDに連絡して日程を調整の上、原告が平成一七年九月三〇日に解約返戻金を持参しているという、その後の事実経過にも一応整合するものである。

そうすると、この点についての原告の供述は、当時の状況と一応整合し、信用性が高いというべきである。ただし、原告は、第三回目に職場に被告から電話連絡を受けた時期について、夏ごろと供述しているものの、上記アのとおり、第二回目の連絡が同年九月上旬ころと推認され、原告が第三回目の連絡を受けて同年九月三〇日に解約返戻金を奄美ひまわり事務所に持参していることからすれば、第三回目の電話連絡は、その間の同年九月下旬ころであったと推認するのが相当である。

したがって、被告は、同年九月下旬ころ、原告の職場に連絡をして「保証人に対して私が言ったことを話していないではないか」などと原告に述べたものと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

ウ その他

原告の陳述書及び原告本人尋問の結果によれば、被告は、第一回目及び第二回目の電話では、「入舟町のY」であると述べて弁護士であるとは名乗らなかったものの、第三回目の電話及び平成一七年九月三〇日の電話では、弁護士と名乗って連絡したことが認められ、被告も、この点に関する記憶があいまいではあるものの、職場に連絡しても本人からの連絡がない場合には弁護士と名乗ることがあることを認めており(前記(1)ア(ア)b)⑲参照)、被告の供述は、この認定を左右するものではない。

(6)  原告が辞任予告通知を受領していたか否か

ア 送付の事実

被告は、原告に第一回辞任予告通知、第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知(以下、併せて「辞任予告通知」という。)をいずれも送付したと主張するため、この点について補足して説明する。

(ア) 前記争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

a) 辞任予告通知は、担当事務職員が弁護士の指示により作成・送付することとされていたこと(前記(1)ア(イ)a)⑨(ⅲ)参照)

b) いずれの辞任予告通知も、担当事務職員又は被告が作成した上、被告の職印が被告の記名の末尾に押印されていること

c) 担当事務職員作成の文書は、被告が職印を押印して決裁した上、担当事務職員によって送付されていたこと

d) Dは、第三回辞任予告通知は送付した記憶がないと証言しているものの、少なくとも第一回辞任予告通知及び第二回辞任予告通知は送付したと思うと供述していること

e) 辞任通知には、原告の住所として転居前の住所が記載されていること

(イ) 上記のとおり、辞任予告通知は、いずれも被告の職印が被告の記名の末尾に押印されていることからすれば、通常の手順(上記(ア)a)b)c)参照)に従って、担当事務職員であるDが辞任予告通知を送付したものと推認することができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

したがって、被告主張の事実は、認められるというべきである。

ただし、辞任予告通知が送付されたことを裏付ける直接的な証拠はなく、原告の転居先の新住所に送付されたことまでは認めるに足りないものといえる。

イ 受領の事実

被告は、Dが辞任予告通知を送付したことを前提として、原告が辞任予告通知を受領していたと主張するため、この点について補足して説明する。

(ア) Dは、辞任予告通知を郵便又はクロネコメール便のいずれによって送付したか

被告の処理方針(前記(1)ア(イ)a)⑥(ⅱ)参照)によれば、基本的にクロネコメール便を使用していたことが認められるところ、この点について、Fは、初期の段階では普通郵便を使っていたものの、料金が安いことから基本的にクロネコメール便を使用したと供述し、また、Dは、平成一七年三月の奄美ひまわり事務所開設から一年後には確実にクロネコメール便を使っていたと供述していることからすると、平成一八年三月以降に送付された第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知は、少なくともクロネコメール便によって送付されたものと推認することができる。

この点について、被告は、平成一七年九月一日からクロネコメール便の使用を始めたことを認めた上で、辞任予告通知を郵便で送付したかクロネコメール便で送付したか分からないと供述するものの、被告は、重要なものは郵便で送付するように事務職員に指示していたため、郵便で送付した可能性の方が高いと供述している。

しかしながら、辞任予告通知を送付したDは、上記のとおり、平成一八年三月ころには確実にクロネコメール便を使用したと供述している上、Dは、辞任予告通知を送付する際に、被告から郵便で送付する旨の指示はなかったと証言していることからすると、被告の供述は、実際に送付を担当したDの供述に反するとともに、それ自体具体性に乏しいものであるから、これを採用することはできず、被告の供述は、上記推認を左右するものではない。

したがって、被告の主張は理由がない。

(イ) 原告は辞任予告通知を受領したか否か

a) 前提となる事実

前記争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

① 辞任予告通知は、担当事務職員が弁護士の指示により作成・送付することとされていたこと(前記(1)ア(イ)a)⑨(ⅲ)参照)

② 辞任予告通知は、いずれも奄美ひまわり事務所に返送されなかったこと

③ 原告は、平成一七年一〇月二一日の打合せをキャンセルする旨の連絡をした後は、奄美ひまわり事務所に連絡をしていないこと

④ 郵便による場合には、内容証明郵便はもとより、配達証明や配達記録のサービスを利用したことはなかったこと(前記(1)ア(イ)a)⑥(ⅱ)参照)

⑤ クロネコメール便は、カタログや雑誌等の郵便受け等への投函サービスで受領印不要のお届けサービス商品であって、信書の運送を対象とするものではないこと(〔クロネコメール便約款二条一項、一一条六号〕)

⑥ クロネコメール便による場合には、荷物の外装に表示された住所の荷物受け、新聞受け、郵便受け、メール室等(以下「荷物受箱」という。)への荷物の配達をもって配達を完了すること(〔クロネコメール便約款一四条〕)

⑦ クロネコメール便では、複数の個人情報が内容物に含まれる場合には、運送の引受けを拒絶することがあること(〔クロネコメール便約款一一条八項二号コ〕)

⑧ 辞任通知には、原告の住所として転居前の住所が記載されていること

b) 第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知

前提となる事実によれば、クロネコメール便は、カタログや雑誌等を対象とするものであって、辞任予告通知のような信書を対象とするものではなく、受領印不要であって、荷物受箱への荷物の配達をもって配達を完了するため、原告がこれらを受領したことを確認することができないものであるから、辞任予告通知という個人情報を含む重要文書をクロネコメール便によって送付すること自体、辞任に当たっての連絡方法として適切ではなかったといわざるを得ないことはもとより、そもそも原告が受領したことを裏付ける直接的な証拠はない。

そして、原告及び同居するBはいずれも辞任予告通知を受領していないと明確に述べている上、被告が辞任すれば、原告は、経済的再生の望みを絶たれてしまうことになるから、原告が、辞任予告通知を受領していたならば、経済則上、原告は、その辞任による不利益を避けるために被告に連絡するはずである。

それにもかかわらず、原告は、被告に連絡をしていない上、クロネコメール便によって転居前の住所等に誤配達された可能性も否定できないことからすれば、原告が第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知を受領した事実まで認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の主張は理由がない。

c) 第一回辞任予告通知

前提となる事実によれば、被告は、郵便による場合であっても内容証明郵便はもとより配達証明や配達記録のサービスを利用していなかったことから、クロネコメール便による場合と同様に、そもそも原告が受領したことを裏付ける直接的な証拠はない。

そして、上記b)と同様に、原告及びBはいずれも辞任予告通知を受領していないと明確に述べている上、原告が、第一回辞任予告通知を受領していたならば、経験則上、原告は、その辞任による不利益を避けるために、これが原告に届いたと推認される九月上旬ころに奄美ひまわり事務所に連絡しているはずである。

しかしながら、結局、第二回目の打合せが行われたのは九月末日であったことからすれば、原告が奄美ひまわり事務所に連絡したのは、九月上旬ころに第一回辞任予告通知を受領したからではなく、上記補足説明(上記(5)イ参照)のとおり、九月下旬ころに被告から職場に電話連絡を受けたことによるものであると推認するのが相当である。

そのため、原告が第一回辞任予告通知を受領した事実まで認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の主張は理由がない。

ウ まとめ

以上のとおり、原告が辞任予告通知を受領したとまで認めることはできず、この点に関する被告の主張は理由がない。

(7)  被告及びDは第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知を送付した前後に原告等に電話連絡を試みたか否か

ア はじめに

被告及びDは、法律相談受付カードによって依頼者の情報を管理しており、原告に電話連絡する場合には、同カードに記載されている電話番号に連絡していたものと認められる。

他方で、原告の法律相談受付カードには、原告の転居前の自宅の電話、携帯電話及び職場の電話の番号、Bの携帯電話の番号並びにHの自宅の電話及び勤務先の電話の番号がそれぞれ記載されている。ただし、原告の転居後の自宅の電話番号は記載されていない。

そして、被告の処理方針(前記(1)ア(イ)a)⑥(ⅰ)(ⅱ)参照)によれば、法律相談受付カードには、依頼者本人と連絡が取れなくなった場合のために、依頼者の職場の連絡先をも記載するものとしており、担当事務職員が依頼者の自宅の電話及び携帯電話に数回連絡しても連絡が取れないときは、弁護士の指示により手紙で連絡を求めるとともに、弁護士が依頼者の職場その他の分かっている情報先にすべて連絡するものとされていた。

このような被告の処理方針を前提として、被告は、第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知を送付する前に、いずれも被告又はDにおいて原告に連絡を取るように試みていたはずであると供述するため、この点について補足して説明する。

なお、被告及びDは、辞任通知を債権者に送付するに当たり、又はその後に原告に電話連絡を一切試みなかったことは認めている。

イ 原告の自宅の電話及び携帯電話への連絡

(ア) 転居前の自宅の電話及び携帯電話への連絡

証人Dの証言及び平成一七年七月一五日付け連絡文書によれば、Dは、この連絡文書を送付する前に、原告の転居前の自宅の電話と携帯電話に連絡したものの、連絡が取れなかったことが認められる。そして、被告又はDは、この連絡文書を送付した後に法律相談受付カードに記載されていた原告の転居前の自宅の電話と携帯電話の番号を横棒で消していることが認められる。

したがって、被告及びDが平成一七年七月中旬ころから原告の自宅の電話及び携帯電話に連絡したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(イ) 転居後の自宅の電話への連絡

原告本人尋問の結果及び原告の陳述書によれば、原告は、平成一七年七月に転居して同年一一月に自宅の電話を新たに設置したため、同年末ころ又は平成一八年初めころにDに新たな電話番号を伝えた旨供述している。

しかしながら、Dは、新たな電話番号を聞いた場合には法律相談受付カードの電話欄に記載するはずであると証言しているものの、同カードには、転居後の自宅の電話番号の記載がなく、また、被告本人も、同カードに記載がない以上、転居後の自宅の電話番号を把握していなかったと供述している。

そして、原告は、転居後の自宅の電話には被告やDからの連絡がなかったと供述していることを踏まえると、被告及びDは、転居後の自宅の電話番号を把握していなかったものと推認するのが相当である。

したがって、被告及びDは、かえって、転居後の自宅には一切電話連絡をしていないものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

ウ Bの携帯電話への連絡

Dの証言によれば、かえって、DはBに一切連絡していないことが認められる。

また、Bは、被告から平成一八年三月ころに一度連絡を受けたものの、それ以外には、Dはもとより、被告から連絡を受けていないと証言している。そして、法律相談受付カードに記載されているBの携帯電話の番号が横棒で削除されていることをも踏まえると、被告は、平成一八年三月に連絡したほかにはBの携帯電話に連絡したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

エ 原告の職場への電話連絡

被告は、第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知を送付する前にDが原告の職場に電話をしているはずであると供述するものの、証人Dの証言及び同人の陳述書によれば、かえって、Dは、初回相談における原告本人の希望を踏まえて原告の職場には一切連絡をしなかったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

また、被告は、通常の手順によれば被告自身が職場に連絡を試みているはずであると供述するにとどまり、被告には第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知を送付する前に職場に連絡をしたという明確な記憶がないものと認められ、原告も、被告が第二回目の打合せの際に原告の面前でその職場に連絡した後は職場に被告からの連絡を受けていないと明確に供述していることからすると、被告は、第二回の打合せの後に、原告の職場に連絡したとまで認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

オ Hへの電話連絡

被告は、被告自身又はDが連絡を試みているはずであると供述するものの、証人Dの証言によれば、かえって、DはHに一切電話連絡をしていないことが認められ、また、被告本人尋問の結果によれば、被告は、委任の意思確認の際の電話連絡と、Hと連絡が取れなくなったことによる平成二〇年以降の電話連絡以外にはHに電話連絡した記憶がないと供述しているから、被告がHに平成二〇年三月ころに一度連絡していることを踏まえると、被告が少なくとも平成一七年七月ころから辞任通知を債権者に送付した平成二〇年一月ころまでの間にHに連絡したことまで認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

カ まとめ

上記アのとおり、被告の処理方針によれば、担当事務職員が依頼者の自宅の電話及び携帯電話に連絡をしても連絡が取れない場合には、被告が依頼者の職場その他の分かっている情報先にすべて連絡をすることになっていたにもかかわらず、結局、被告及びDは、第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知の送付の際はもとより、第二回辞任予告通知を送付してから辞任通知を債権者に送付するまでの間、原告の職場その他の当時判明していた電話番号に連絡した事実を認めることはできず、原告に連絡を取るように試みているはずであるという被告の供述は、具体性に欠けるものであって憶測の域を超えないといわざるを得ないから、これを採用することはできない。

したがって、被告の主張は理由がない。

なお、被告及びDは、平成二〇年一月に辞任通知を債権者に送付する際にも、上記ア記載の電話番号に一切連絡していないところ、被告は、平成二〇年四月に静岡県に異動するに当たって、大量の債務整理事件を辞任を名目として減らすために、当時連絡が取れなくなっていた依頼者については一斉に辞任通知を債権者に送付したことが認められる。そして、被告は、被告自身が事件の内容を覚えていなくても、責任感ある担当事務職員が大体覚えている旨講演しているものの(前記二(1)ア(ア)b)⑲参照)、当時、Dは、担当する依頼者の数が二〇〇人以上を超えており、一つ一つの事件に対応しきれなくなったと供述するとともに、Dは、被告もDも個別の事件の内容について把握できていなかったと法廷で正直に告白している。

これらの事情を踏まえると、平成一七年三月の奄美ひまわり事務所開設から二年間で六七七人の債務整理を受任し、更に、平成二〇年三月までに八七五人の債務整理を受任して、当時なお六六三人もの債務整理が終了していなかった実情を踏まえると、少なくとも第三回辞任予告通知を送付した平成一九年七月ころにあっては、被告もDも、一人一人の依頼者に対して既に十分な対応ができなくなっていたというほかなく(前記(1)ア(ア)b)⑲参照)、このような奄美ひまわり事務所の内情も、上記認定を裏付けるものである。

三  争点一(説明義務違反の有無)について

(1)  弁護士の説明義務について

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う(民法六四四条参照)。そして、弁護士が委任事務を処理する場合には、委任事務の法的専門性を踏まえると、弁護士は、自由かつ独立の立場を保持して職務を行うことができるよう合理的な裁量を与えられるべきであるものの、他方で、弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重してその自己決定権を十分に保障するために、適切な説明をする必要があるというべきである。

したがって、弁護士が、委任の趣旨から依頼者の意思決定に当たって重要となる事項について、一般的に期待される弁護士として著しく不適切な説明しかしなかったと認められる場合には、弁護士は、委任契約の付随義務として、信義則上、説明義務に違反するものとして、債務不履行責任を負うと解するのが相当である。

(2)  事件の受任時における説明義務違反について

弁護士が事件を受任するに当たっては、委任の本旨を明確にする必要があるから、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用については、委任の趣旨から依頼者の意思決定にとって重要となる事項であるというべきである(弁護士職務基本規程二二条一項、二九条一項参照)。

そこで、被告が、一般的に期待される弁護士として著しく不適切な説明しかしなかったか否かを検討するに、前記認定事実(前記一(2)イ(イ)参照)によれば、被告は、原告が破産することを躊躇っていたにもかかわらず、原告の理解を得られるように丁寧な説明をするどころか、高圧的な態度で破産を覚悟させたものであって、この点において不適切であったといわざるを得ない。しかし他方で、原告の債務の内容、生活状況その他の原告から聴取した内容(前記一(2)イ(ア)参照)によれば、本件については、月に一度の家計簿の指導によって原告に生活の見直しをさせた上、債務整理の処理の方法として破産手続を選択して、原告の経済的再生を図ろうとしたことが、弁護士の裁量を超えた不適切なものであったとまでいうことはできない。

そうすると、高圧的な態度で原告の意向を一切考慮しなかったこと、困難な事由がないにもかかわらず弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成していないこと、法律扶助制度に関する説明を一切していないこと等、債務整理の事件処理としては不適切なところもあるといわざるを得ないものの、前記補足説明(前記二(1)イ(イ)、二(2)イ参照)のとおり、被告は、特定の債権者に対する支払を求めるような説明をしているとまでは認められないこと、生活改善を図るために家計簿や陳述書を記載させることに重きをおいて指導してその提出を求めるとともに、弁護士費用につき一応明らかにした上で支払える範囲で分割で支払を求めるなど、原告が今後行うべきことについて一応の説明をしていることを踏まえると、弁護士倫理上の問題はともかく、本件については、委任契約上、被告が一般的に期待される弁護士として著しく不適切な説明しかしなかったとまで認めることはできないというべきである。

したがって、原告の主張は理由がない。

(3)  事件の辞任時における説明義務違反について

弁護士が事件を辞任するに当たっては、依頼者が辞任によって委任の本旨に反する不利益を被る可能性があるから、事件処理の状況及びその結果については、委任の趣旨から依頼者の意思決定にとって重要となる事項であるというべきである(民法六四五条、弁護士職務基本規程二二条一項、四四条参照)。

そして、弁護士が、債務整理事件を受任している場合には、辞任通知を債権者に送付すれば、依頼者は、当該債権者から直接支払の請求を受けたり、又は訴訟を提起される等の不利益を被る可能性が極めて高くなるから、一般的に期待される弁護士としては、辞任通知を債権者に送付するに当たっては、事前に、事件処理の状況及びその結果はもとより、辞任による不利益を依頼者に十分に説明する必要があるというべきである。

これを本件についてみるに、被告は、原告に辞任予告通知を送付する際はもとより、辞任通知を債権者に送付するに当たっても、事前に事件処理の状況及びその結果並びに辞任による不利益を一切原告に説明していないから、一般的に期待される弁護士としては、著しく不適切なものであって、この点において説明義務に違反するものとして、債務不履行責任を負うものといわざるを得ない。

もっとも、被告は、原告に文書を送付するなどして連絡したにもかかわらず、原告が被告に連絡しなかったため、辞任するに当たって説明をすることができなかったものであるから、被告の責めに帰することができない事由によって説明義務を履行することができなくなったと主張している。

そこで、この点について検討するに、前記認定事実(前記一(2)キ及びク参照)によれば、被告は、第二回辞任予告通知、第三回辞任予告通知及び辞任通知を送付するに当たって、いずれも原告への連絡を試みたとまで認めることができない上、少なくとも第二回辞任予告通知を送付してから辞任通知を債権者に送付するまでに一年以上も原告に連絡する機会があったにもかかわらず、確実に連絡が取れる原告の職場その他の当時判明していた連絡先に電話連絡をしたことすら認められないものである。そして、被告は、第二回辞任予告通知及び第三回辞任予告通知という極めて重要な文書を送付するに当たっても、クロネコメール便を利用して原告の受領を確認する方法すら講じなかったものである。

これらの事情を踏まえると、被告は、適切な方法を講ずれば原告と連絡を取って説明することができたものといわざるを得ず、原告からの連絡がなかったことをもって、被告の責めに帰することができない事由によるものであるとまで認めることはできない。

したがって、被告の主張は理由がない。

四  争点二(委任事務処理義務違反の有無)について

被告が、債務整理を受任したにもかかわらず、債権調査までは行ったものの、破産手続開始の申立ての準備をしなかったことについては、当事者間に争いがなく(前記一(2)オ(イ)参照)、この点をもって、原告は、被告が委任事務を処理する義務に違反すると主張する。

そこで、この点について検討するに、原告は、被告に対し、平成一七年九月三〇日以降、同日の打合せを取り消すために連絡したほかは、奄美ひまわり事務所に一切連絡をしなかった上、結局は、被告から提出を求められていた陳述書と家計簿を提出したことすら認められないものである。

そうすると、被告は、そもそも破産手続開始の申立てに要する書面等を準備することができず、担当事務職員が指摘するように(連絡が取れずに家計簿のチェックもできないため、委任事務が先に進めないのはやむを得ないと思う旨のDの供述参照)、委任事務を処理することができなかったものと認められる。

これらの事情によれば、被告が破産手続開始の申立ての準備をしなかったとしても、被告の責めに帰することができない事由によるものであると認められるから、被告の責めに帰することができない事由によるものであると認められるから、原告は、債務不履行による損害の賠償を請求することができないというべきである。

したがって、原告の主張は理由がない。

五  争点三(損害の額)について

(1)  慰謝料について

前記認定事実(前記一(4)参照)によれば、被告が説明義務を怠って一方的に辞任通知を債権者に送付したことにより、原告は、突然債権者に訴訟を提起されて給料の差押えを受けたことから、精神的に落ち込み、職場を約三か月間休職するなどの精神的苦痛を被ったことが認められる。そして、被告にいわば見捨てられて経済的再生の望みを絶たれた原告の心境、給料の差押えを受けたことによって退職を勧められるに至った原告の職場上の立場、女手一つで四人の子供たちを育て、親の面倒を見て家庭生活を築いてきたものの、精神的ストレスによって休職せざるを得なくなり、独り悩む中で家族を残して死ぬことすら考えるに至った原告の精神状態、原告の休職期間その他の本件の諸般の事情を考慮すれば、原告が被った精神的損害に対しては、一八〇万円をもって慰謝するのが相当というべきである。

もっとも、原告が上記損害を被るに至ったのは、被告が説明義務を怠って一方的に辞任通知を債権者に送付したことによるものであるが、他方で、原告が、被告から人格を否定されるなどして再び心に傷を負うのを恐れて、被告に連絡しなかったことによることも明らかである。

したがって、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法四一八条の過失相殺の規定を適用して、本件の事情を総合的に斟酌すれば、上記損害の合計額一八〇万円の二割を減殺するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第六五〇号同年一二月二四日第三小法廷判決・民集二二巻一三号三四五四頁参照)。

以上によれば、損害の額は、合計一四四万円とするのが相当である。

(2)  弁護士費用について

原告は、訴訟代理人弁護士に委任して訴えを提起して、訴訟を追行したところ、債務整理を委任したにもかかわらず、説明義務を怠って一方的に辞任通知を債権者に送付した弁護士に対して、慰謝料の支払を求めて自己の権利を擁護するためには、同弁護士において任意の支払を期待できない以上、他の弁護士に委任する外はなかったものと認められる。このような場合には、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内の弁護士費用に限り、債務不履行によって通常生ずべき損害であるとして、その賠償を認めるべきである。

そして、本件訴訟について、事案の難易その他諸般の事情を斟酌すると、弁護士費用は、上記認容額の約一割である一四万円とするのが相当である。

第五結論

以上によれば、原告の請求は、被告に対する主文掲記の損害賠償金及びこれに対する平成二〇年一二月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法六四条本文及び六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

なお、上記のとおり、被告は、平成一七年三月から平成二〇年四月までの約三年間で八九七人もの奄美群島在住の依頼者(ただし、依頼者の人数については、被告の申告に係る平成二一年八月一八日時点における人数をいう。以下同じ。)から債務整理を受任した上、これらの大量の事件を処理する中で、原告に対し、訴訟を提起される等の不利益を一切説明せずに辞任通知を債権者に送付して、結果として原告を更に精神的に追い込んだものと認められる。

原告を含めて、すべての依頼者は、それぞれの人生に救いを求めて、弁護士に債務整理を委任しているものである。

被告は、このような依頼者の思いと弁護士の使命を改めて自覚した上、鹿児島県奄美市から静岡県掛川市に異動して、もはや約一年六か月が経過しているものの、債権者に債務免除その他の提案を通知したまま委任を実質的に終了させていないため、訴訟を提起される等の不利益を受ける可能性がある一三四人の依頼者、処理の方法をいまだに定めていない四九人の依頼者、破産手続開始の申立てを怠っている六七人の依頼者その他の被告がなお委任事務を完全に終了させていない奄美群島在住の合計三五一人の依頼者に対しては、一人一人と直接面談するなどして最優先で依頼者の現状を十分に把握した上で、委任事務の経過及びその遅滞による不利益につき丁寧な説明(ただし、上記三五一人の依頼者のほかに、既に辞任によって委任を終了させていると考えている一三五人の依頼者のうち、原告と同様に、説明義務を怠って一方的に辞任通知を債権者に送付している者がいる場合には、これらの者に対する委任事務の経過及び結果並びに辞任による不利益に関する説明を含む。)をして依頼者の意向に添う解決に改めて努めるなど、依頼者と誠実に向き合って、弁護士としての基本的な職務を遂行し、すべての依頼者の経済的再生を図るとともに、公設事務所の弁護士としての公益的責務を果たし、もって奄美群島の地域住民の公設事務所に対する信頼回復に真摯に取り組むよう、ここに付言するものである。

(裁判官 中島基至)

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