鹿児島地方裁判所名瀬支部 平成22年(ワ)77号 判決 2011年8月18日
主文
1 被告は、原告に対し、22万円及びこれに対する平成22年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、455万4029円及びこれに対する平成22年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は、亡Xが、a群島のb公設事務所の弁護士であった被告に債務整理を委任したものの、被告が債務整理の方針等についての説明を怠り、過払金の回収事務以外の債務整理を放置したことにより、経過利息が増大する損害が生じたほか、精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償金455万4029円(内訳:経過利息相当額15万4029円、慰謝料400万円、弁護士費用40万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等(当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 亡Xは、鹿児島県大島郡<以下省略>に居住していた者で、原告の夫であった。
イ 被告は、弁護士過疎地であったa群島内に日本弁護士連合会の<省略>の支援を受けた公設事務所として設立されたb法律事務所(以下「b事務所」という。)の初代所長として、平成17年3月から平成20年4月まで弁護士業務を行っていた。
被告は、平成20年5月から静岡県c市内に法律事務所を開設し、現在まで同所で弁護士業務を行っている。
(2) 債務整理を目的とする委任契約の締結等
ア 亡Xは、平成17年6月30日、b事務所を訪問して、被告と面談し、被告との間で、亡Xの債務整理を目的とする委任契約を締結した。
イ その際、被告は、委任契約書を作成し、亡Xはそれに署名したが、印鑑を持参していなかったため、押印はできなかった。亡Xは、後日、委任契約書に実印を押し、委任状とともにb事務所に郵送した(甲3、58、59、乙21、35の1及び2)。当該委任契約書には、委任の範囲について「債務整理(破産、任意整理)」、弁護士費用について「30万円(ただし、過払金を取戻した場合は取戻した金員の3割を上記金額とは別に支払う)。」、預り金について「2万円」と記載されている。
ウ 被告は、平成20年4月25日、亡Xに対し、被告がa群島からc市に異動した後も引き続き委任を継続する場合には、同封した同意書に署名して返送するよう指示する連絡文書を送った。亡Xは、当該同意書に原告に代わり署名押印してもらい被告に返送した(乙19の1及び2)。
3 争点及び当事者の主張
(1) 被告の説明義務違反の有無
(原告の主張)
被告は、亡Xに対し、預り金を返還した平成18年7月31日の時点で、プロミスに対する未払金につき、時効待ちの方針を採用した場合、債権者から裁判を起こされ、遅延損害金が付いた敗訴判決を受け、その場合強制執行がなされるリスクがあること等について説明する義務を怠った。
(被告の主張)
被告は、預り金の返還時に、亡Xに対し、プロミスに対しては、利限残の8割での和解を提案し、それにプロミスが応じなければ時効待ちの方針を採るが、債権者から提訴される可能性があることを説明した。提訴され、敗訴判決を受けること自体にはリスクはない。亡Xには見るべき財産も給料もないから強制執行のリスクはなく、遅延損害金を付加した金額を支払わなくてはならないリスクも極めて限定的であるから、被告があえて説明する義務はない。
(2) 被告の事務処理懈怠の有無
(原告の主張)
被告は、亡Xから債務整理を受任した後、債権調査及び過払金の回収、楽天KCとの支払を伴う和解までは行ったが、プロミスに対しては被告が預かっていた過払金から支払が十分可能であったのにもかかわらず、平成21年6月に亡Xから解任されるまで、長期間にわたり時効待ちの方針を採り、亡Xの債務整理を漫然と放置した。
(被告の主張)
被告がプロミスと和解をしなかった理由は、プロミスとの間では利限残の8割での和解が可能であり、プロミスが被告の提案に応じなければ時効により債務が消滅すると考えていたからである。ところが、平成20年から21年にかけてサラ金の経営が悪化し、それまで提訴されなかったケースで提訴されるようになり、和解率の数字も依頼者に不利なケースが見受けられるようになった。そこで、被告はそれまでの方針を転換し、積極的に和解の成立に向けて働きかけるようにし、平成21年4月24日にはプロミスへの弁済原資を確認するため亡Xに電話で連絡したもので、漫然と放置したわけではない。
(3) 亡Xの損害額
(原告の主張)
被告の説明義務違反及び事務処理懈怠により、亡Xが被告に債務整理を依頼してから解任するまでの間、プロミスに対する債務につき年26.2パーセントの遅延損害金が発生した。亡Xは、被告解任後、原告代理人を通じてプロミスと交渉したが、プロミスが最終取引日以降の年18パーセントの経過利息について譲歩しなかったことから50万円を支払う内容の和解を余儀なくされた。被告は、遅くとも平成18年7月31日付けの「ご連絡」と題する書面を亡Xに送付した時点でプロミスとの和解を行うことが可能であったから、同日から亡Xが被告を解任した日の平成21年6月15日までの経過利息である15万4029円は、被告の債務不履行によって生じた損害である。
また、亡Xは、被告に頼んでいたはずの債務整理手続が全くなされていない不安定な状態のまま、債務整理の委任時から被告を解任するまでの約4年の期間を過ごさざるを得なかったもので、その精神的苦痛は400万円を下らない。
更に、亡Xの弁護士費用は、40万円を下らない。
(被告の主張)
原告の主張は否認ないし争う。亡Xは、原告代理人の不適切な事務処理によりプロミスとの間で高額な金額の和解を行ったもので、被告への委任を続けていれば減額和解に成功していた。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
前記争いのない事実等並びに証拠(甲31、47、乙36、証人A、亡X本人及び被告本人のほか、各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる的確な証拠はない。
(1) 被告の債務整理の手法
ア 被告による債務整理の基本的な手法は、①債務整理事件について受任制限をせず、依頼者に対しては、初回の面接時に破産を覚悟させるなどして被告の方針に従わせ、過払金が回収できたことや回収額等は債務整理が終了するまで依頼者に伝えない、②債権調査を行った後、過払金の発生する債権者からは過払金を全額回収し、当該過払金から回収額の3割に相当する過払金回収報酬に加えて債務整理報酬を差し引いて受領する、③利限残の存在する債権者に対しては、過払金の存在を明らかにしないまま利限残の7、8割での一括弁済による和解を提案し、分配提案のための支払原資が足りない又は被告の提案に応じない債権者がいる場合には、債務免除の通知を出して自らの呈示した和解案に応じない限り消滅時効が完成するのを待つというものである。被告は、受任時に債務整理の委任契約書を作成しないことがあった(甲33ないし35、36の1ないし3、37の1ないし3、41ないし44)。
イ このような被告の債務整理の手法は、被告が公設事務所の所長として着任した当初のa群島の多重債務者の深刻な状況に対しては資する面があり、多重債務者の救済に取り組むd市役所の担当者が多数の依頼者を紹介していたが、その後、被告から破産や自宅の売却を強要されたなど、被告の高圧的な対応に関する依頼者からの苦情がd市役所に数多く寄せられるようになったことから、d市役所の担当者は被告に依頼者を紹介するのを中止した。また、被告が債務免除の通知をして消滅時効が完成するのを待つ点や公設事務所であるのに法律扶助を使わないことについて、他の弁護士等から強い批判を受けるようになった(甲45の1及び2、46)。
ウ 被告は、依頼者と面談する際、基本的に依頼者の意見は聞かず自分の方針に従うように早口で事務的に話しており、b事務所の開設時からc市への異動までb事務所の事務員として勤務し、依頼者との打合せにも同席していたA(以下「A」という。)は、被告の態度は相談者から見れば高圧的に見えても不思議ではなく、a群島の依頼者に被告の話が十分伝わっていないと感じていた(甲34、乙26の1)。
(2) 平成17年6月30日の初回法律相談と委任契約の締結
ア 亡Xは、平成17年6月30日、消費者金融会社に対する借金の相談のために、b事務所を訪問し、Aと面談した。その際、亡Xの担当事務員となったAの助力も受けて亡Xが作成した法律相談受付カード及び債権者一覧表(乙1、2)には、当時、亡Xは44歳で妻と3人の子供を有していること、借金額は、武富士、アイフル及びプロミスの消費者金融会社3社計約250万円と国内信販に対する車の残ローン約35万円である一方、亡Xはさとうきび農業を自営で営み手取月収は約8万円、同居の妻は小学校の用務員で手取月収は12、3万円であること、毎月約5万円を借金の返済に充てていること、自宅は借家であることなどが記載されている。
イ 被告は、同日、Aの後に亡Xと直接面談した。被告は、亡Xに対し、消費者金融会社からの最初の借入れ時期や完済時期、借金の原因や返済状況、親からそれまでに500ないし600万円程度借りていることなどについて聴取した後、まず過払金を回収し、取り戻した過払金で債務整理を行うこと、債務整理費用は30万円であり、過払金回収報酬は回収額の3割であることなどを説明した。亡Xは、被告の説明が早口で難しく違和感を覚えたことから被告に依頼せずいったん帰ろうとしたが、Aに引き留められて被告に依頼することにし、被告との間で債務整理を目的とする委任契約を締結した。その後、Aは、亡Xに対し、車のローンを今後支払えるかは過払金の回収状況によること、弁護士費用の支払方法を妻である原告と話し合い、原告の借金の有無を確認して後日b事務所に連絡するとともに、家計簿を提出してもらう必要があることなどを伝えた(乙40の1)。
ウ 被告は、初回面談時に、被告の提案に債権者が応じない場合には消滅時効を待つ方法を採ることや法律扶助制度についての説明は行わなかった。また、被告は、初回面談後、亡Xとの直接面談は行っていない。
(3) 債権調査と過払金の回収
ア 被告は、亡Xの債権者(過払いの状態となっている可能性のある者を含む。)に対し、受任当日の平成17年6月30日から同年7月11日にかけて「債務整理開始通知」と題する書面(乙3の1ないし5)を送付し、取立行為の中止と、債権調査に要する書類等の送付を求めた。
イ 被告は、同年7月4日にアイフルから取引履歴の開示を受けた(甲18、乙4の1)。また、被告は、同月6日にプロミスから平成12年以降の取引履歴の開示を受け(甲17、乙6の1)、同月12日に武富士から平成15年以降の取引履歴の開示を受けた(甲16、乙7の1)が、それらを不十分として、同月13日、プロミス及び武富士に対し「取引経過開示請求書(2回目)」と題する書面(乙6の2、乙7の2)を送付した。被告は、同月15日に国内信販(楽天KC)から取引履歴の開示を受けた(甲19、乙4の2)。被告は、同月25日、アコムに対し「取引経過開示請求書(2回目)」と題する書面(乙8の1)を送付したほか、同月28日、武富士に対し「取引経過開示請求書(3回目)」と題する書面(乙7の3)を送付し、同年8月2日に武富士から平成4年以降の取引履歴の開示を受けた(乙7の4)。被告は、同月4日にアコムから平成12年以降の取引履歴の開示を受けた(甲20、乙8の2)が、それを不十分として、同月17日、アコムに対し「取引経過開示請求書(3回目)」と題する書面(乙8の3)を送付し、同月30日にアコムから昭和60年以降の取引履歴の開示を受けた(乙8の4)。被告は、同年10月7日にプロミスから昭和60年以降の取引履歴の開示を受けた(乙6の3)。
なお、被告は、レイク(GEコンシューマー・ファイナンス)から、平成17年6月30日に債権債務がない旨の連絡を受けた(甲15、乙5の1)後、同年7月11日に「取引経過開示請求書(2回目)」と題する書面(乙5の2)及び「取引経過開示請求書(3回目)」と題する書面(乙5の3。なお、当該書面のみお客様相談室宛て〔乙2〕)、同月29日に「取引経過開示請求書(4回目)」と題する書面(乙5の4)、同年8月22日に「取引経過開示請求書(5回目)」と題する書面(乙5の5)をレイクに送付したが、同社から取引履歴の開示は受けられなかった。
ウ 被告は、上記イの取引履歴等をもとに、利息制限法所定の利率により亡Xの債務を再計算したところ、楽天KC及びプロミスの2社については利限残が存在するが、アイフル、アコム及び武富士の3社からは過払金の回収が見込める事案であったことから、訴訟費用2万1218円を立て替えた上で、同年9月8日に武富士、同月27日にアイフル及びアコムに対する過払金請求訴訟を提起した。被告は、同年10月17日にアコムと25万7812円、平成18年2月23日にアイフルと25万1210円、同年5月11日に武富士と108万7771円で和解し、同年6月2日までに上記3社から合計159万6793円の過払金を回収した(甲21、22、24、乙9の1及び2、10の1ないし3)。
(4) 任意整理と弁護士費用の精算
ア 亡Xは、初回法律相談後の平成17年8月ころ、b事務所に家計簿を提出したほか、借金をするに至った経緯を記載した陳述書を提出したが、その後は家計簿を提出せず、弁護士費用の支払いも行っていなかった(甲1、2)。
イ Aは、アイフル及びアコムから計50万9022円の過払金を回収した後の時期に、被告の弁護士費用が債務整理報酬30万円と上記過払金の3割である過払金回収報酬15万2707円の計45万2707円であることを計算した(乙40の2)。
ウ 被告は、上記イの過払金に加え、武富士から過払金108万7771円を回収したことにより、利限残の存在する債権者に対する支払原資を確保できたことから、平成18年6月12日、楽天KC及びプロミスに対し、利限残の8割の金額(楽天KCは30万9000円、プロミスは被告の主張する一連計算に基づく9万4000円)を一括弁済することによる和解を、回収した過払金の額を秘匿して提案した。楽天KCは被告の提案に応じたことから、被告は、楽天KCに対し、同月26日に30万9000円を支払ったが、プロミスは被告の提案に応じなかった(甲14、23、乙11の1及び2)。そのため、被告は、プロミスに対しては放置して5年の時効を待つことにした(甲25、乙40の4)。
エ Aは、そのころ、回収した亡Xの過払金額が計159万6793円であり、被告の弁護士費用が債務整理費用30万円と上記過払金の3割である過払金回収報酬47万9038円であることを計算するとともに、b事務所内部で用いる経過一覧表を作成した。当該経過一覧表には、回収した過払金額の合計が159万6793円であること、プロミスに対する債務は被告の主張する一連計算に基づく11万7821円又はプロミスの主張する分断計算に基づく29万7840円であること、楽天KCに対する債務は38万7000円であり、楽天KCに30万9000円を支払って解決済みであることが記載されている(乙40の3)。
ウ 被告は、平成18年7月31日ころ、亡Xに電話をして、それまでの債務整理の経緯及びプロミスについて和解ができなかったので5年の消滅時効を待つことにしたことを一応説明した上で、プロミスから連絡があったらb事務所に連絡するように指示した。被告は、当時プロミスが裁判を起こす可能性は低いと判断しており、プロミスに対する支払原資を確保しておく必要があることや裁判を起こされた場合に遅延損害金の付いた敗訴判決を受けたり、財産を差し押さえられる危険があることは説明しなかった。
エ 被告は、同日、件名を「債務整理終了のお知らせ」とする連絡文書(甲4、乙12)を亡Xに送付した。上記書面には、「頭書の件ですが、すべて終了しましたので、ご報告いたします。こちらで再計算したところ、アコム25万4512円、アイフル24万4222円、武富士108万4571円の過払金があり、和解金として、アコム25万7812円、アイフル25万1210円、武富士108万7771円の合計159万6793円を回収しました。また、未払分として、楽天KC38万7000円、プロミス29万7840円残りましたが、楽天KCは30万9000円を既に支払いました。プロミスは和解に応じてもらえなかったため、5年の時効を待とうと考えています。プロミスや裁判所から連絡があった場合は、私のところに連絡をください。回収した金額から、裁判費用(2万1218円)、楽天KCへの和解金(30万9315円)及び私の報酬(77万9038円)を差し引いた48万7222円を返金しますので、振込先を教えてください。」と記載されている。
もっとも、同書面には、後日被告が作成するようになった経過一覧表は添付されておらず、被告の言う時効待ちの方法を採った場合、債権者から訴訟を提起され、遅延損害金のついた敗訴判決を受けるリスクがあることや亡Xがプロミスへの支払原資を残しておく必要があることについての説明は記載されていなかった。
オ 被告は、同年8月1日、亡Xにつき回収した過払金合計159万6793円から、その3割に当たる過払金回収報酬47万9038円及び債務整理費用30万円の計77万9038円と楽天KCへの和解金等30万9315円(振込手数料315円を含む。)及び裁判費用2万1218円を差し引いて受領する経理処理を行い、残金の48万7222円から振込費用を除いた金額を亡Xに送金した(甲5、6、乙13の1及び2)。
カ 被告は、その後プロミスとの和解交渉を全く行っていなかった。
キ 被告は、平成20年5月のb事務所からc市への事務所移転の前に、依頼者ごとの債務整理の方針等を記載した表を作成していたが、当該表には、亡Xの方針は分配の方針であること、費用は足りており、プロミスには利限残の8割で和解を提案し時効待ちの状況にあることが記載されている(甲25)。
(5) 被告の解任、辞任
ア 原告代理人は、平成20年12月22日、被告の他の元依頼者の代理人として、被告が債務整理を放置したことを理由とする損害賠償請求訴訟を提起し、その事実が同月23日及び24日に鹿児島県内のマスコミで大きく取り上げられた(乙24)。
イ 原告は、平成21年4月24日、b事務所の女性事務員から電話を受け、返還した過払金を残してあるかどうか聞かれたが、そのころまでには返還された過払金は亡Xの家族の生活費等のために費消されていた(甲30)。亡Xは、同日、静岡県c市に移転していた被告の事務所に電話し、その際応対した被告から、平成18年当時と異なり時効待ちをしている間に債権者から提訴される依頼者が出てきたので無断送金による任意整理を行うために12万円程度を用意するように指示された(乙41)。
ウ 被告は、亡Xに対し、日弁連が依頼者の意向確認をするための名簿を被告が出して良いかを尋ねるアンケート用紙を同月23日付の連絡文書等とともに送付した。原告は、アンケート用紙に5年経てば時効で支払う必要がなくなると理解していたもので、被告にしっかり仕事をしてもらいたい旨記載した(甲7、30、乙14の1)。被告は、同年5月18日、原告に電話し、無断送金の方法による任意整理を行うために12万円を用意するように指示した(甲30、乙41)。
エ 被告は、同年6月3日、亡Xに対し、経過一覧説明書等とともに、軍資金として12万円を積み立てるよう指示する連絡文書を送付した(甲9、乙14の2)。
オ 亡Xは、上記ア以降のマスコミ報道等もあったことから、被告の債務整理について原告代理人に相談した後、同年6月12日、被告に解任通知書を送付した。そして、亡Xは、原告代理人に被告との交渉と被告解任後の債務整理を依頼した(乙15の1及び3)。
カ 被告は、同月15日、亡Xの解任通知書を受け取り、同月22日付けの報告書を亡Xに送付し、プロミスの債務整理を残して辞任するため債務整理報酬30万円のうち10万円を返金すると通知した(甲10、乙15の2)。
キ 原告代理人は、同月22日、被告に対し、債務整理の経過説明や預かり書類、金銭等の返還を求める書面を送付した(甲11、乙15の3)。
ク 被告は、同月24日、亡Xの債権者であるプロミスに対し辞任通知を送付した(乙15の4)。
ケ 被告は、同月29日、原告代理人に対し回答書を本人に送付済みである旨回答した(甲13、乙15の5)。
コ 原告代理人は、同年7月9日、被告に対し改めて債務整理の経過説明を求めた(甲12、乙15の6)。これに対し、被告は同月17日に回答し、9万9265円を原告代理人の口座に送金した(甲14、乙15の7、8)。
(6) 原告代理人による債務整理
ア 原告代理人は、平成21年11月4日、プロミスに対して亡Xが13万0195円を一括弁済する内容の和解を提案した(甲26)。
イ プロミスは原告代理人の提案を拒否したが、原告代理人はプロミスとの和解交渉を継続して行い、同年12月17日、和解金の総額を50万円とし、亡Xが初回に2万円、その後は毎月1万5000円ずつを32回分割で支払う内容で訴訟外の和解をした(甲27)。
2 争点(1)(被告の説明義務違反の有無)について
(1) 弁護士は、事件を受任した場合には、依頼者に対し、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う(民法644条参照)。そして、弁護士には、その執務における裁量性が認められるものの、事件処理における依頼者の自律的な意思決定を保障するためには、弁護士が依頼者に必要かつ十分な情報を提供する必要があるから、弁護士は、依頼者に対する説明義務を負うと解されるのであって、弁護士職務基本規程においても、「弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない」(同規程29条1項)、「弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。」(同規程36条)と定められている。
そして、債務者の経済的更生を目的とする債務整理事件を弁護士が受任するに際しては、債務者の現状及び意向を十分に把握、考慮した上で、事件処理についての見通し、選択した処理方法及びその得失等の事項を十分説明するとともに、必要に応じて依頼者に事件の経過等を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進める義務があるものと解される。
なお、債務整理事件の処理については、一部の弁護士による不適切な事件処理が問題となったことから、日本弁護士連合会が、「債務整理事件処理に関する指針」を定め、平成21年7月17日から施行されている。同指針においては、「債務整理事件を受任するに際しては、『家を残したい』『民事法律扶助制度を利用したい』等の債務者の意向を十分に考慮するものとすること」、「債務者の意向に添う処理が困難な場合には、債務者の理解を得られるよう丁寧に説明を行うものとすること」、「任意整理事件(過払金請求事件を含む。)においては、取引履歴の開示、和解成立等の報告を行う等事件処理の進行状況に関し、受任弁護士自ら報告を適宜行うものとし、特に、過払金の返還を受けた場合は、債務者に速やかに報告し、清算方法を協議するものとすること」と規定されている(甲38)。
(2) この点の説明義務について、被告は、一部の債権者に対し、利限残により一定割合を減額した金額を提示しての一括払での和解(分配通知)や債務免除の通知を出して時効を待つという方法は、対応が困難な債権者に対する交渉術として多くの弁護士の間で採用されているものであって、時効待ちの方法を採った後に債権者から訴訟提起され、遅延損害金の付いた敗訴判決を受けるといったリスクは存在せず、債務整理に時間を要して依頼者に不利益が生じることもないから、依頼者の選択に影響するものではなく、説明責任を問われるものとはいえないなどと主張する。
確かに、証拠(乙17の4、乙17の10等)によれば、クレジット・サラ金処理について弁護士等が利用している文献の中には、債務整理の方法として、介入通知後に残債務の弁済を行わず、消滅時効を援用して債権者側が譲歩しなければ消滅時効の完成を待つといった方法が紹介されており、これに同調する弁護士がいることが認められることからすれば、このような方法を採用することが、そのことだけで債務整理を担当する弁護士の受任事務における裁量を明らかに逸脱しているとはいえない。
しかしながら、弁護士に債務整理を依頼する債務者は、経済的更生のためにできるだけ速やかに負債を終局的に処理したいと考えるのが通常であるが、分配通知や債務免除通知を出して消滅時効を援用する旨を告げただけで債権者側に連絡をしないとの方法を採用した場合、債務整理の終局的な処理は大きく遅延することになる。その結果、債務者は、債権者から訴訟を提起される可能性を残しながら日常生活を送ることを余儀なくされるほか、結果的に遅延損害金の付いた敗訴判決を受けることになれば、当該判決時から更に10年の時効期間となる危険性もある。また、債務者の中には、勤務先や近隣住民との人的関係、家庭の事情等により、債権者から訴訟を提起され、そのことが周囲に知られることによって日常生活に少なからず悪影響が生じかねない場合も考えられるのであって、被告のいう債務整理の方法が依頼者たる債務者にとって好ましくないことはあるというべきである。
そうすると、債務整理を依頼された弁護士としては、依頼者の債権者に対し、分配通知や債務免除通知を送付して消滅時効を援用する旨を告げるといった、終局的な処理の遅延が避けられないような方法を採用する場合には、当該依頼者に当該方法のメリットやデメリットを正確に説明したうえで、当該債務者の置かれた状況や支払原資の有無、個々の債権者の対応状況等の諸事情を踏まえて個別の事案に応じた適切な方法等を説明し、依頼者と協議した上で、その意向を踏まえて事件処理を進める義務があるというべきである。
(3) 以上を前提に、被告の説明義務違反の有無について検討する。
ア 上記1の認定事実によれば、被告は、平成17年6月30日に亡Xの債務整理を受任した後、消費者金融会社から提示を受けた取引履歴をもとに、楽天KC及びプロミスとの間で利限残が存することを把握し、平成18年6月2日までにアイフル、アコム及び武富士から合計159万6793円の過払金を回収した一方で、その間、債務整理の経過や過払金の回収状況について亡Xに直接面談して説明することなく、その意向を事前に確認しないまま、楽天KC及びプロミスについては利限残の8割の一括弁済による和解(プロミスについては被告の主張する分断計算を前提とするもの)を提案する分配通知を送付し、両社が被告の要求に応じない場合は時効待ちの方法を採ることにしたもので、楽天KCとは和解を成立させたが、被告の提案に応じなかったプロミスに対しては更なる和解提示等の積極的な働きかけを行わずに時効を待つこととしたものである。
そして、被告は、亡Xに対し、平成18年7月31日ころの電話の際に、プロミスが被告の提案した和解案に応じなかったので5年の時効を待つこと、プロミスから連絡があったらb事務所に連絡するように指示したが、プロミスに対する時効待ちの方法に伴って亡Xに生じ得るデメリットや返還金から支払原資を残しておく必要があることについて説明せず、その時点で亡Xが支払うべき残債務の額についてプロミスと被告間で争いがあり、それぞれいくらであるかとか、裁判を起こされた場合に遅延損害金の付いた敗訴判決を受ける危険があることや財産を差し押さえられる危険があること、利限残全額をプロミスに一括弁済することで債務整理を終局的に解決する選択肢があることについて説明しなかったものと認められる。
イ 以上のとおり、被告は、亡Xに対し、プロミスに対して時効待ちの方法を採ることで終局的な借金問題の解決が遅れ、プロミスから訴訟を提起された場合に遅延損害金の付いた敗訴判決を受ける危険性があることなど、時効待ちの方法を採ることにデメリットがあることや利限残全額の弁済を行い、債務整理を早期に終了させることが可能であることを亡Xにきちんと説明せず、亡Xの意向をきちんと確認することなしに時効待ちの方法を採用することとし、回収した過払金から自らの弁護士報酬等を控除した残金を一括返還し、「債務整理終了のお知らせ」を件名とする書面を送付した際にも、時効待ちの方法を採ることのリスク等をきちんと説明しなかったというべきである。
その結果、亡Xは、利限残の債務が存在する債権者として唯一残存していたプロミスに対して早期の弁済を行う機会を逃したものであり、被告からプロミスに利限残全額の弁済を行い、債務整理を終局的に処理する方法を勧められていればそれを断ったとは考え難いことに加え、平成18年7月31日付けで被告が亡Xに送付した書面(乙12)の中に返還した金銭を保管すべきことや具体的な保管金額が記載されておらず、件名が「債務整理終了のお知らせ」とされ、法的素養の乏しい亡Xにとって、あたかも債務整理が全て終了したかのような誤解を招きかねないものであったことを考慮すると(乙第14号証の1によれば、亡Xの妻である原告はそのように誤解していたことがうかがわれる。)、被告には、平成18年7月31日の時点において、債務整理を受任した弁護士としての説明義務違反が認められ、被告は、亡Xに対し、債務不履行の責任を負うというべきである。
ウ そして、上記のとおり亡Xの債務整理が遅滞したことは、上記説明義務違反のいわば必然的な結果というべきものであるから、被告の事務処理懈怠の有無(争点(2))について判断するまでもなく、被告は、上記債務整理の遅滞によって亡Xに生じた損害につき、賠償責任を負うというべきである。
3 争点(2)(被告の事務処理懈怠の有無)について
(1) 前記2(3)ウのとおり、被告は、説明義務違反による債務整理の遅滞によって亡Xに生じた損害につき、損害賠償責任を負うというべきであるが、なお、本争点についても念のために判断する。
(2) 前記2(1)のとおり、弁護士は、依頼者に対する善管注意義務を負うところ、その執務の裁量性を前提としても、弁護士は、依頼者のために的確かつ迅速に事務処理を行う義務があるというべきであり、弁護士職務基本規程においても、「弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。」と定められている(同規程35条)。
そして、弁護士は、個人の債務整理を受任したときは、自己破産、個人再生、分割弁済による任意整理等の処理方法のうち、個別の事案に応じた適切な処理方法を依頼者の意向を十分に考慮した上で選択し、破産や個人再生の申立て、債権者との和解交渉に速やかに着手し、遅滞なく処理すべきものと解される。
(3) ところで、債務者から依頼を受けた弁護士が、貸金業者に対し、受任の通知をするとともに、債務の内容についての回答及び資料の開示を求め、更に債権者に対する調査結果を踏まえてする弁済方法の提案についての協力依頼をしてきたときは、貸金業者は、その申出が誠意のない単なる時間稼ぎであるとか、財産の隠匿を目的としているなど不当なものである場合は別として、原則として、これに協力し、弁護士の提案を誠実に検討することにしており、たとえ、既に公正証書等の債務名義を保持している場合であっても、弁護士の協力依頼になんら対応することなしに、いきなり強制執行の挙に出ることは控えているのが一般であり、貸金業者は、債務者との関係においても、当該債務者の依頼した弁護士からの受任通知及び協力依頼に対しては、正当な理由のない限り、これに誠実に対応し、合理的な期間は強制執行等の行動に出ることを自制すべき注意義務を負担しているものであり、故意又は過失によりこの注意義務に違反し、債務者に損害を被らせたときは、不法行為責任を負うものと解するのが相当である(東京高等裁判所平成9年6月10日判決・高等裁判所民事判例集50巻2号231頁参照)。
このように弁護士が受任通知を出した後の債権者からの取立てが原則として禁じられている趣旨は、弁護士がその間に多重債務者の経済的更生を図るために債務を適切な形で整理することが期待されているためであると考えられる。
そのような見地から、弁護士が個人の債務整理を行う場合には、自己破産、個人再生、分割弁済による任意整理等の方法が基本的な方法として用いられており、被告が一般的と主張する分配通知又は債務免除通知を出して消滅時効が完成するのを待つ方法を採用した場合には、依頼者の早期の経済的更生に向けた借金(多重債務)問題の終局的な解決が遅延し、依頼者が債権者から訴訟を提起されて遅延損害金の付いた敗訴判決を受け、当該判決時から更に10年の時効期間となる危険性もあることから、依頼者に全く資力がないなどやむを得ない場合に例外的に用いる弁護士が存在する程度である(甲48ないし51、52の1及び2、53の1及び2、54の1及び2、乙17の1ないし4、同6ないし17、25の1ないし4)。
なお、被告は上記乙号証の文献の部分的な記載や被告の知己の弁護士の陳述書、弁護士間のメーリングリストへの投稿内容をもって自己の方針が一般的であることが裏付けられる旨主張する。しかしながら、上記文献の記載内容、記述の順序からすれば、弁護士による一般的な債務整理の方法は、自己破産、個人再生、分割弁済による任意整理等であり、被告のように債務整理の過程で回収した過払金による支払原資が存在する場合にも消滅時効を待つ方法を支持するものではないことは明らかである。また、被告の知己の弁護士の陳述書の内容も、債務額が僅少であり他方で責任財産がないケースなど限定的な場合の処理を述べているに過ぎないこと、上記メーリングリストへの投稿は一般への公開が予定されておらず責任を持った発言とはいえないこと(乙25の2)、日弁連多重債務対策本部事務局長を務めていたB弁護士は、被告の時効待ちの方針について、少なくとも日弁連や各単位会が行う研修等で広める債務整理の方法とは異なるもので、日弁連の「債務整理事件処理に関する指針」の中の「依頼の趣旨の尊重」や「リスクの告知」に反するものである旨報告していること(甲51)等の事情に鑑みれば、上記被告の主張は到底採用できないというほかない。
(4) 以上を前提に、被告の事務処理懈怠の有無について検討する。
前記1の認定事実によれば、被告は、亡Xの債務整理を受任した後、過払金の発生が見込まれる債権者である武富士、アコム及びアイフルに対する過払金請求訴訟により、平成18年6月2日までに合計159万6793円の過払金を回収し、当該過払金の3割に相当する過払金回収報酬47万9038円、受任時の契約に基づく債務整理費用30万円及び訴訟費用2万1218円の計80万0256円を上記過払金から差し引いて受領した後、その残額から同月26日には楽天KCに30万9000円を支払って同社との債務整理を終えたもので、被告が亡Xに電話した同年7月31日の時点で、楽天KCに対する支払い後の残額である48万7537円を用いれば、プロミスの主張する分断計算に基づく亡Xの利限残の債務額29万7840円(遅延損害金等を含まない金額)を支払うことが可能であり、被告の主張する一連計算に基づく債務額11万7821円であれば更に余裕をもって支払いを行うことが可能であったことが認められる。
しかるに、被告は、平成18年7月31日の時点で、そのような事務処理を行わずに分配通知の方針を採用し、その後は、亡Xの意向を十分踏まえることなく、被告が一方的に要求した利限残の8割の一括弁済による和解に応じなかったプロミスに対し、和解を再提案するなどの債務整理に向けた交渉を一切行わなかったものである。
そして、被告は、日本弁護士連合会の<省略>の支援を受け、弁護士過疎地であったa群島に初めて設けられた公設事務所の弁護士として、多重債務者の救済に取り組むd市役所の担当者から多数の依頼者を紹介されるなど、公設事務所であるがゆえの信用や利益を享受していたのであり、公設事務所では弁護士の交代に伴い債務整理の方針が変更となることも予想されるほか、依頼者の意向と弁護士の方針が合致しない場合に受け皿となり得る他の弁護士が少ないことに鑑みれば、借金(多重債務)問題の終局的な解決を望む依頼者に寄り添った形での債務整理を行うことが期待されていたものと考えられること、弁護士による受任通知後の消滅時効援用は信義則に反するのではないか等の問題も含まれること、被告の解任後に亡Xの債務整理を行った原告代理人は、プロミスとの間で和解交渉を行い、分割払による和解を成立させたこと等の事情を併せ考慮すると、被告の事務処理は、亡Xの債務整理を遅滞させたもので、受任者の善管注意義務に違背したものといわざるを得ない。
したがって、被告は、事務処理の懈怠による債務不履行責任を負う。
4 争点(3)(亡Xの損害額)について
(1) 前記説示のとおり、被告は、平成17年6月に亡Xの債務整理を受任し、平成18年7月31日までに回収した159万6793円の過払金を用いれば、同日の時点において終局的な債務整理が可能であったにもかかわらず、分配通知の方針を採用し、後日亡Xが債権者から訴訟を提起され、遅延損害金のついた敗訴判決を受けるリスクがあることやプロミスに対して利限残の金額を一括弁済する方法があること等を亡Xに十分説明しなかった上、プロミスに対し利限残の8割での和解を提示した後は何らの提案を行わなかったことにより、亡Xの債務整理を遅滞させた(Aも、その当時過払のときは利息までつけて取っておきながら払う方について割り引くのは受けられないという話が一番多かった旨述べている〔証人A242、243〕。)もので、その結果、亡Xは、早期に債務整理を終了させる機会を失い、被告がプロミスに対する残債務に相当する金員を継続預かりにするとか、プロミスへの返済原資として費消せずに手元に残しておくべき具体的な金額を亡Xに明示して注意喚起するといった措置を採らなかったために、亡Xが返還された過払金を平成21年6月までには費消してしまい、被告を解任して新たに原告代理人に債務整理を依頼せざるを得なくなるなど経済的、精神的に不安定な状況に置かれたこと、被告は亡Xの債務整理業務としては利限残の存在する債権者2社のうち楽天KCとの和解を成立させたのみで、プロミスの債務整理を終了させていないのに20万円もの高額な債務整理費用を亡Xの過払金から差し引いて受領していること、その一方で、亡Xは、債務整理の弁護士費用を自らの出捐では支払っていなかったこと等の事情を総合的に考慮すると、亡Xの慰謝料額は20万円とするのが相当である。
(2) また、本件事案の性質、認容額その他諸般の事情に照らし、被告の債務不履行による通常損害としての弁護士費用は2万円とするのが相当である。
(3) なお、原告は、被告解任後、亡Xがプロミスとの間で経過利息の付いた和解をせざるを得なくなり、現実に15万4029円の経過利息相当分の経済的な損害を被った旨主張するが、経過利息の発生自体は亡Xとプロミスとの間の消費貸借契約に基づくものであるから、被告の債務不履行との間の相当因果関係が認められない。
5 結論
以上によれば、原告の請求は、被告に対し、上記4の22万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成22年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。
(裁判官 中辻雄一朗)